説明

エレクトロデポジション型調光素子

【課題】電極面(表示面)内における均一な電極反応を実現して、電極面内における透過率むらを低減することを可能にするエレクトロデポジション型の調光素子を提供する。
【解決手段】第一基板11上に設けられる第一の透明電極12と、第二基板13上に設けられ、第一の透明電極12に対向して配置される第二の透明電極14と、を有し、第一の透明電極12上に金属が析出あるいは溶出し、第二の透明電極14の端部に絶縁層17が配置され、絶縁層17上に補助電極18が配置され、第二の透明電極14と補助電極18との間に印加する電圧によって、第一の透明電極12と第二の透明電極14との間の電界を制御することを特徴とする、エレクトロデポジション型調光素子1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧の印加に伴う金属の析出・溶出によって可逆的に透過率が変化するエレクトロデポジション型調光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、固体撮像素子を用いた撮像装置では、シャッター、アイリス絞り、ゲイン制御、NDフィルター等の光量調節手段によって露出が適正化されて画像が取得される。特にデジタルビデオカメラのように動画を取得する撮像装置においては、以下に述べる理由によりNDフィルターによって光量調節(調光)を行うことが好ましい。
【0003】
先ず、シャッター速度やゲイン制御による調光方法では、フレームレートの要請から光量調節範囲を大きくとることができない。またアイリス絞りによる調光方法では、光量調節と同時に被写界深度が変化するため、意図的に被写界深度を制御したい場合には用いることができない。またアイリス絞りによる調光方法の場合、F値を大きくとると分解能が低下するという原理的な問題がある。
【0004】
従って、動画を取得する撮像装置においては、NDフィルターによって調光することが最も好適である。
【0005】
さらに、NDフィルターを用いた調光方法の中でも、従来のように所定の光学濃度を有する複数のフィルターを光路上に進退自在に配置するよりも、光学濃度を任意に変化できるフィルターを一枚配置する方が機構上有利である。
【0006】
このようなNDフィルターとしては、従来より液晶やエレクトロクロミック材料を用いた調光素子が提案されているが、信頼性や耐久性等の理由によって撮像装置の調光手段としては未だ製品化されるには至っていない。また、金属の析出・溶出に伴う透過率の変化を利用したエレクトロデポジション型の調光素子については、特に、光透過型の調光素子に関してほとんど検討例がない。
【0007】
また一般に、エレクトロデポジション型の調光素子は、エレクトロクロミック型の調光素子と比較して電界に対して敏感である。また電界が集中する部位では、電極反応の進行が早いため、電極面全域にわたって電極反応を均一に進行させることは難しい。
【0008】
ここでエレクトロデポジション型の調光素子においては、電界の集中、即ち、局所的な反応の進行を抑制する技術として、以下に説明するものが提案されている。
【0009】
特許文献1では、エレクトロデポジション型表示装置において、電極端部において反応が集中するのを避けるために当該電極端部を絶縁層で被覆する構成が提案されている。一方、特許文献2では、エレクトロデポジションを利用した光学装置において、電極角の尖った部分で電界が集中して局所的に進行する電極反応を避けるために、電極角の形状(電極端部の断面形状)を制御して電界集中を緩和する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−31649号公報
【特許文献2】特開平10−274790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで金属の析出及び溶出によって透過率が変化するエレクトロデポジション型の調光素子においては、対向配置される一対の透明電極間に析出・溶出する金属の塩を含む層又は当該金属の塩の電解質溶液を含む部材が設けられている。そして当該一対の電極間に電圧を印加することによって、少なくとも一方の電極に金属が析出・溶出することで調光素子の透過率が変化する。また金属の対イオンが常温で固体となる元素に由来するものである場合は、金属が析出・溶出する電極とは反対側(対抗する側)の電極において、金属の対イオンから形成される物質が析出・溶解することで調光素子の透過率が変化する。
【0012】
前述の通り、エレクトロデポジション型の調光素子は電界に対して非常に敏感であり、電極面全域にわたって均一な電極反応を行うことは容易ではない。特に、金属の対イオンから形成される物質が電気的に略絶縁体である場合は、電極面全域にわたって均一な電極反応を行うことがより難しくなる。
【0013】
ここで、電極面内の電界が集中する部位に金属の対イオンから形成される物質が析出すると、当該物質が析出した領域は略絶縁体で被覆される状態になるため、この部位に対応する逆側の電極反応、即ち、金属の析出反応が制限されることになる。これにより結果として当該物質が析出した領域は透過率変化が小さい領域になる。また当該物質が厚く形成された場合には、当該物質が金属と比較して電子伝導性が劣るために逆電圧を印加したときに溶解反応が遅くなる傾向にある。これらの現象(局所的な透過率変化の減少、局所的な溶解反応速度の減少)は表示面でもある電極面内における透過率むらを起こす一因となる。
【0014】
ところで一対の透明電極をそれぞれ対向配置させた調光素子の場合、透明電極の端部は中央部と比較して電界が集中する傾向にある。このため、透明電極間に電圧を印加すると電極反応が透明電極の端部において優先的に進むことになる。その結果、電極端部の透過率変化は電極中央部と比較してはじめは大きくはなるが、着消色サイクルを重ねていくと略絶縁物が電極端部に偏析する。そうすると電極端部に偏析されている略絶縁物の影響で透過率変化が逆転することになる。さらに略絶縁物の偏析が進むと所望の範囲で透過率が変化する領域が次第に狭まり、しまいには電極全面において透過率変化を示さなくなってしまう。
【0015】
このように、電極上に略絶縁物が析出する場合においては、素子の表示面における透過率のばらつきを抑制するためにより厳密な電界制御を行うことが要求される。しかし特許文献1のように金属が析出・溶出が発生する電極の端部にこの電極と接するように補助電極を設け、この補助電極を絶縁層で被覆したとしても上記の略絶縁物の問題は解決できるものではない。また特許文献2のように金属が析出・溶出が発生する電極の角部を加工したとしても不十分である。
【0016】
本発明は、以上に説明した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電極面(表示面)内における均一な電極反応を実現して、電極面内における透過率むらを低減することを可能にするエレクトロデポジション型の調光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のエレクトロデポジション型調光素子は、第一基板上に設けられる第一の透明電極と、
第二基板上に設けられ、前記第一の透明電極に対向して配置される第二の透明電極と、を有し、
前記第一の透明電極上に金属が析出あるいは溶出し、
前記第二の透明電極の端部に絶縁層が配置され、
前記絶縁層上に補助電極が配置され、
前記第二の透明電極と前記補助電極との間に印加する電圧によって、前記第一の透明電極と前記第二の透明電極との間の電界を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電極面(表示面)内における均一な電極反応を実現して、電極面内における透過率むらを低減することを可能にするエレクトロデポジション型の調光素子を提供することができる。即ち、エレクトロデポジションを利用した透過型調光素子において、対向して配置した一対の透明電極の中央部と端部とにおいて電界の制御が可能となる。このため、電極面(表示面)内における均一な電極反応を実現すると共に、電極面(表示面)内における透過率むらを大幅に低減することができる。
【0019】
また、本発明のエレクトロデポジション型調光素子を撮像装置に搭載した場合、高品位で信頼性に優れた画像を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のエレクトロデポジション型調光素子における実施形態の例を示す断面模式図である。
【図2】図1のエレクトロデポジション型調光素子において着色操作を行った際の等電位面の断面形状を例示した図である。
【図3】図1のエレクトロデポジション型調光素子において消色操作を行った際の等電位面の断面形状を例示した図である。
【図4】閾値電圧測定で使用したエレクトロデポジション型調光素子を示す断面模式図である。
【図5】閾値電圧測定の結果を示すCD(サイクリックボルタンメトリー)図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のエレクトロデポジション型調光素子は、第一基板上に設けられる第一の透明電極と、第二基板上に設けられ、前記第一の透明電極に対向して配置される第二の透明電極と、を有している。
【0022】
本発明においては、第一の透明電極上に、金属が析出あるいは溶出する。
【0023】
一方、第二の透明電極の端部には絶縁層が配置されており、この絶縁層上に補助電極が配置されている。
【0024】
また本発明のエレクトロデポジション型調光素子は、第二の透明電極と補助電極との間に所定の電圧を印加することによって、第一の透明電極と第二の透明電極との間の電界を制御することを特徴とするものである。
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明のエレクトロデポジション型調光素子の構成について詳しく説明する。但し、以下の説明に示されている構成、相対配置等は特に記載がない限り、本発明の範囲を限定するものではない。
【0026】
図1は、本発明のエレクトロデポジション型調光素子における実施形態の例を示す断面模式図である。
【0027】
図1のエレクトロデポジション型調光素子(以下、調光素子1という。)は、第一基板11上に設けられる第一の透明電極12と、第二基板13上に設けられる第二の透明電極14と、を有している。ここで第二の透明電極14は、図1に示されるように、第一の透明電極12に対向して配置される電極である。
【0028】
図1の調光素子1において、第一の透明電極12及び第二の透明電極14は、電源15に電気接続されている。尚、この電源15から第一の透明電極12及び第二の透明電極14へ向けて電圧(電極間電位)を印加することで発現する電極反応については、後述する。
【0029】
図1の調光素子1において、第一の透明電極12及び第二の透明電極14の端部には、それぞれ絶縁層16、17で被覆されている。尚、図1の調光素子1において、絶縁層16、17が設けられていない領域は開口部となり、この開口部は、図1の調光素子の透過率が変化する領域(可変透過率領域)となる。即ち、絶縁層16、17は、可変透過率領域を規定するために形成される部材である。ここで絶縁層16、17は、可変透過率領域を広げる観点からすると、2つの透明電極(第一の透明電極12及び第二の透明電極14)の端部をなるべく被覆しないように形成するのが好ましい。ただし、後述する補助電極18によってもたらされる電界制御効果を発揮させるために、少なくとも絶縁層17の内縁は第二の透明電極14から外れないように設計する必要がある。
【0030】
ここで絶縁層17上には、補助電極18が設けられている。即ち、第二の透明電極14の端部上には、絶縁層17を介して補助電極18が設けられている。尚、この補助電極18は、単なる電位規定電極であるので、少なくともその上面を絶縁層19で被覆するのが好ましい。またこの補助電極18は、電源20を介して第二の透明電極14に電気接続されている。そしてこの電源20から第二の透明電極14及び補助電極18に向けて電圧を印加することで第一の透明電極12及び第二の透明電極14との電位を可変透過率領域内において均一にすることができる。
【0031】
図1の調光素子1において、絶縁層16及び絶縁層19は、それぞれ一定の間隔を持って離隔して設けられている。この場合、絶縁層16と絶縁層19との間を封止する目的で、絶縁層16と絶縁層19との間にスペーサー等の封止部材21が設けられている。
【0032】
図1の調光素子1において、第一の透明電極12と第二の透明電極14との間には、金属塩と当該金属塩を溶解してなる電解質溶液22が充填されている。
【0033】
図1の調光素子1の全体の形状は、図1の調光素子1を有する光学機器の形状に依存するものである。具体的な形状として、一対の基板をそれぞれ上面、底面とする円柱状、四角柱状等が挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
次に、図1の調光素子の構成部材について説明する。
【0035】
図1の調光素子1を構成する2種類の基板(第一基板11、第二基板13)は、透明ガラス基板である。透明ガラス基板として、例えば、石英ガラス、白板ガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス等を使用することができる。特に耐久性の観点から、好ましくは、無アルカリガラス基板である。
【0036】
図1の調光素子1を構成する2種類の透明電極(第一の透明電極12、第二の透明電極14)は、透明導電酸化物(TCO:Transparent Conductive Oxide)からなる電極である。透明導電酸化物として、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、酸化スズ(TO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)等を使用することが可能である。特に、膜厚を200nm程度に形成して導電性と高透過率とを両立させることができることからFTOを好適に使用することができる。また導電性と高透明性・化学的安定性とを両立させるために、透明電極を、TO、ATO又はFTOとITOとからなる積層電極とすることも可能である。
【0037】
図1の調光素子を構成する電源(15、20)は、可逆的な電極反応を実現するために、電流の方向及び電圧の大きさを自由に変更が可能な直流型の電源装置であることが望ましい。
【0038】
図1の調光素子を構成する3種類の絶縁層(16、17、19)は、それぞれ無機系絶縁性材料からなる層である。無機系絶縁性材料として、例えば、酸化ケイ素(SiO2)、窒化ケイ素(SiN)、酸窒化ケイ素(SiON)、リンケイ酸ガラス(PSG)、ホウケイ酸ガラス(BSG)、リン化ホウケイ酸ガラス(BPSG)等を用いることができる。
【0039】
図1の調光素子1を構成する補助電極18は、調光領域(可変透過率領域)に重なる様に設けられていないが、迷光抑制の点でTCO材料を好適に使用することが可能である。ここでTCO材料としては、第一の透明電極12及び第二の透明電極14の構成材料として使用される材料と同様の材料を使用することができる。
【0040】
図1の調光素子1を構成する封止部材21は、電解質溶液22に対して化学的に安定である必要がある。封止部材21の具体例としては、エポキシ樹脂、ガラスフリット、金属等が挙げられる。尚、封止部材21を設ける際には、一対の基板の間隔を規定するスペーサー(不図示)を挟んでから封止材料によって接合する態様であってもよい。この態様として具体的には、先ず一部貫通口を残して第一基板11と第2基板13とを一部に貫通口(不図示)を有する状態で接合した後、この貫通口から金属塩を含む電解質溶液を真空注入してこの貫通口を封止する方法によって行われる。
【0041】
図1の調光素子1内に充填される電解質溶液22は、金属塩を含む電解質溶液からなる層である。金属塩としては銀、金、銅等の塩を用いることができる。銀塩を例にすれば、ハロゲン化銀、硝酸銀、ホウフッ化銀、過塩素酸銀、シアン化銀等を挙げることができる。また上記金属塩を溶解させる溶媒としては、DMSO等の非プロトン性極性溶媒が好ましい。
【0042】
次に、図面を参照しながら本発明のエレクトロデポジション型調光素子の動作原理について詳細に説明する。図2は、図1のエレクトロデポジション型調光素子において着色操作を行った際の等電位面の断面形状を例示した図である。一方、図3は、図1のエレクトロデポジション型調光素子において消色操作を行った際の等電位面の断面形状を例示した図である。以下、電解質溶液層22に含まれる金属塩がヨウ化銀である場合を具体例として説明する。
【0043】
まず着色操作(図2)を行う場合、第一の透明電極12には第二の透明電極14に対して負電圧を印加する。そうすると、各電極において下記に示す電極反応が起こり、第一の透明電極12上には銀が、第二の透明電極14上にはヨウ素がそれぞれ析出する。
[第一の透明電極(陰極)]:Ag++e-→Ag
[第二の透明電極(陽極)]:2I-→I2+2e-
【0044】
ここで着色操作を行う場合、第一の透明電極と第二の透明電極との間に印加する電圧と、第二の透明電極と補助電極との間に印加する電圧と、の間に下記式[1]に示される関係が成立するのが好ましい。
【0045】
【数1】

【0046】
式[1]において、dは、第一基板11と第二基板13との間の間隔を表す。
【0047】
式[1]において、hは、第二の透明電極14と補助電極18との間の間隔を表す。
【0048】
式[1]において、V1は、第一の透明電極12と第二の透明電極14との間に印加する電圧を表す。ただし、V1<0Vである。
【0049】
式[1]において、V2は、第二の透明電極14と補助電極18との間に印加する電圧を表す。ただし、V2<0Vである。
【0050】
上記着色操作を行った後で、消色操作(図3)を行う場合、第一の透明電極12には第二の透明電極14に対して正電圧を印加する。そうすると、各電極において下記に示す電極反応が起こり、第一の透明電極12上に析出していた銀が溶出し、第二の透明電極14上に析出していたヨウ素が溶出する。
[第一の透明電極(陽極)]:Ag→Ag++e-
[第二の透明電極(陰極)]:I2+2e-→2I-
【0051】
ここで消色操作を行う場合、第一の透明電極と第二の透明電極との間に印加する電圧と、第二の透明電極と補助電極との間に印加する電圧と、の間に下記式[2]に示される関係が成立するのが好ましい。
【0052】
【数2】

【0053】
式[2]において、dは、第一基板11と第二基板13との間の間隔を表す。
【0054】
式[2]において、hは、第二の透明電極14と補助電極18との間の間隔を表す。
【0055】
式[2]において、V1は、第一の透明電極12と第二の透明電極14との間に印加する電圧を表す。ただし、V1>0Vである。
【0056】
式[2]において、V2は、第二の透明電極14と補助電極18との間に印加する電圧を表す。ただし、V2>0Vである。
【0057】
尚、上述した着色操作及び消色操作を行う際には、さらにV1の絶対値を閾値電圧の絶対値よりも大きくし、かつV2の絶対値を閾値電圧の絶対値よりも小さくすることがより好ましい。
【0058】
ここで閾値電圧とは、金属が析出するのに電極間に印加する必要最低限の電圧をいい、サイクリックボルタンメトリー(CV)を利用して測定することができる。ここで閾値電圧の測定方法の一例を以下に説明する。図4は、閾値電圧測定で使用するエレクトロデポジション型調光素子を示す断面模式図である。尚、図4のエレクトロデポジション型調光素子(調光素子100)は、補助電極18と絶縁層19とを省いていることを除いては図1の調光素子1と同じ構成となっている。
【0059】
図4の調光素子100を用いて閾値電圧を測定する際には、第一の透明電極12と第二の透明電極14との間に印加される電圧を電源15で適宜調節しながら行う。
【0060】
図5は、閾値電圧測定の結果を示すCV(サイクリックボルタンメトリー)図である。尚、図5は、電解質溶液層22にヨウ化銀が含まれている系での測定結果である。
【0061】
まず図4の調光素子100において第一の透明電極12には第二の透明電極14に対して電極電圧を負方向に掃引させる。そうすると、電圧が−1.0Vとなる時点で金属が析出し始める。このように、金属が析出し始めた電圧(−1.0V)が金属析出の閾値電圧(V0a)である。
【実施例1】
【0062】
次に、実施例により本発明のエレクトロデポジション型調光素子について説明する。本実施例では、図1の調光素子1を作製している。尚、調光素子1の作製の際にdを10μm、hを2μmと設定している。ただしd及びhはもちろんこれらの値に限定されるものではなく、素子作製プロセス対効果を考慮して適宜設計されるものである。
【0063】
以下、電解質溶液層22にヨウ化銀を含ませた系について説明する。
【0064】
まず着色動作を行う場合、金属析出の閾値電圧(約−1.0V)を考慮して、V1を−2.0Vと設定し、V2を−0.2Vに設定する。このように設定すると、V2は、(h/d)V1(=−0.4V)よりも高いので、第一の透明電極12と対向電極である第二の透明電極14との間における等電位面は、図2に示されるように第二の透明電極14に向かって染み出すことになる。このとき第二の透明電極14の電極端部における等電位面の間隔は電極の中央部よりも大きくなるので、電極端部における電界の集中を緩和することができる。これにより第二の透明電極14における電極反応、即ち、金属の対イオンからなる物質(ヨウ素)の析出反応を電極面内において均一に行うことが可能となると共に、ヨウ素の偏析を抑制することが可能となる。その結果、透過率むらを大きく低減することができる。ここで第一の透明電極12と補助電極18との間の電圧(電極間電位)はV1−V2=−1.8Vとなり、金属析出の閾値電圧より低い値ではある。ただし、補助電極18の表面は図1に示されるように絶縁材料(絶縁層19)で被覆されているため、補助電極18上においてヨウ素の析出は起こらない。
【0065】
次に、消色動作を行う場合、金属溶解の閾値電圧は析出電圧により異なるが、通常着色時の逆電圧が印加される。本実施例では、V1を+0.5Vと設定し、V2を+0.3Vに設定する。このように設定すると、V2は、(h/d)V1(=+0.1V)よりも高いので、第一の透明電極12と対向電極である第二の透明電極14との間における等電位面は、図3に示されるように第一の透明電極12に向かって染み出すことになる。このとき第二の透明電極14の電極端部における等電位面の間隔は電極の中央部よりも小さくなるので、電極端部における電界の集中を増強することができる。
【0066】
これにより第二の透明電極14における電極反応、即ち、金属の対イオンからなる物質(ヨウ素)の溶解反応を電極面内において均一に行うことが可能となると共に、ヨウ素の偏析を抑制することが可能となる。その結果、透過率むらを大きく低減することができる。
【0067】
従って、本実施例においては、着消色サイクルを重ねても調光領域面内にわたって透過率むらが起きない素子を実現することが可能になる。
【0068】
[比較例1]
一方で、比較例1で使用される図4の調光素子100では、電極の端部は絶縁層(16、17)で被覆されているが、補助電極18が所定の位置に設けられていないため、図4の構成では電極の端部における電界の集中を防ぐことができない。このため僅か数十回の着消色サイクルを行うと、第二の透明電極14の端部において金属の対イオンから形成される析出物(ヨウ素)の偏析が顕在化する。このため結果として着色動作を妨げるとともに透過率むらが大きくなり、調光素子としての機能を損ねてしまう。
【符号の説明】
【0069】
1:調光素子(エレクトロデポジション型調光素子)、11:第一基板、12:第一の透明電極、13:第二基板、14:第二の透明電極、15(20):電源、16(17,19):絶縁層、18:補助電極、21:封止部材、22:電解質溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一基板上に設けられる第一の透明電極と、
第二基板上に設けられ、前記第一の透明電極に対向して配置される第二の透明電極と、を有し、
前記第一の透明電極上に金属が析出あるいは溶出し、
前記第二の透明電極の端部に絶縁層が配置され、
前記絶縁層上に補助電極が配置され、
前記第二の透明電極と前記補助電極との間に印加する電圧によって、前記第一の透明電極と前記第二の透明電極との間の電界を制御することを特徴とする、エレクトロデポジション型調光素子。
【請求項2】
前記第一の透明電極と前記第二の透明電極との間に印加する電圧と、前記第二の透明電極と前記補助電極との間に印加する電圧と、の間に下記式[1]に示される関係が成立することを特徴とする、請求項1に記載のエレクトロデポジション型調光素子。
【数1】

(式[1]において、dは、第一基板と第二基板との間の間隔を表す。hは、第二の透明電極と補助電極との間の間隔を表す。V1は、第一の透明電極と第二の透明電極との間に印加する電圧を表す。ただし、V1<0Vである。V2は、第二の透明電極と補助電極との間に印加する電圧を表す。ただし、V2<0Vである。
【請求項3】
前記第一の透明電極と前記第二の透明電極との間に印加する電圧と、前記第二の透明電極と前記補助電極との間に印加する電圧と、の間に下記式[2]に示される関係が成立することを特徴とする、請求項1又は2に記載のエレクトロデポジション型調光素子。
【数2】

(式[2]において、dは、第一基板と第二基板との間の間隔を表す。hは、第二の透明電極と補助電極との間の間隔を表す。V1は、第一の透明電極と第二の透明電極との間に印加する電圧を表す。ただし、V1>0Vである。V2は、第二の透明電極と補助電極との間に印加する電圧を表す。ただし、V2>0Vである。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−203188(P2012−203188A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67546(P2011−67546)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】