説明

エレベーターの振動抑制装置

【目的】本発明はエレベーター制御に関し、特に、エレベーター乗りかごの機械系振動の抑制方法を提供することにある。
【構成】エレベーターモデルをエレベーターの速度制御装置内に持ち、このモデルの出力などに基づいて決定される振動抑制信号によって電動機を制御するよう構成にした。
【効果】エレベーター乗りかごの振動成分を抽出し、この脈動信号を用いて振動抑制制御ができるので、縦ゆれの少ない良好な乗心地を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はエレベーターの制御装置に係り、特に、良好な乗心地を提供しうるエレベーター振動抑制制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】特公平3−30161号(特願昭59−110264号)には、操作量指令値に応じて制御対象を操作する操作機構と、制御対象の制御量を検出する検出器と、検出器の出力である制御量検出値と制御量指令値とを入力して操作量指令値を出力する制御演算部とを備えた制御装置において、制御演算部が、制御量検出値を任意の伝達関数Gx(s)を介して得られる値Aと、制御量検出値と制御量指令値とを入力とする制御増幅器の出力に操作量指令値から制御量検出量までの伝達関数GL(s)を模擬した伝達関数GLH(s)と伝達関数Gx(s)の積の伝達関数Gx(s)・GLH(s)に1を加えた伝達関数(Gx(s)・GLH(s)+1)を介して得られる値Bとの差(B−A)を操作量指令値として出力することにより、指令値応答を変化させることなく外乱応答を改善する提案がなされている。
【0003】また、特開昭52−43246 号,特開昭61−203081号,特開昭62−211277号などではエレベーター乗りかごの振動成分を直接検出し、これを速度制御装置に帰還し、乗りかごの振動を抑制しようとする提案がなされている。
【0004】さらに、乗りかごと釣合い錘とを連結しているコンペンロープをピット方向にひっぱるコンペンプーリを設け、このコンペンプーリの支持部とピットとの間に摺動部やダッシュポットを設け、乗りかごと釣合い錘が同相振動する際にコンペンプーリも上下動する現象(主に、乗りかごが中間階付近に存在するとき発生する)を抑制することにより機械的に乗りかご振動を抑制する手法が高速エレベーター以上の機種を中心にとられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】前記第一の従来技術は、制御量指令値と制御量検出値との偏差信号を入力とし、操作量指令から検出値までのモデルを通した演算結果として得られる制御量の推定値と制御量検出値との偏差を操作量指令値部に加算することにより外乱への性能を改善しようとしたものである。
【0006】しかし、この方式では、すでにそのモデルに対する入力信号である操作量指令値に振動外乱成分も混入している為、モデルを通した演算結果として得られる制御量の推定値は、制御量指令に対する推定値成分と外乱成分に対する推定値成分が入っていることになり、制御量検出値との差信号を求めても、その値は、制御量検出部において外乱をゼロにする指令とは直接ならない。つまり、仮に、制御量の推定値と制御量検出値との位相関係が理想的に一致している場合を考えても、外乱抑制信号のもととなる成分は(制御量の推定値ー制御検出値)となり、本来抑制信号に使用するべきものよりもその値は小さくなってしまい、ゲイン補正等が必要となる。さらに、制御量の推定値と制御量検出値との位相関係が一致していない場合には、外乱成分に関する基本信号以外の信号成分(位相,大きさが位相差に応じて変化するような成分等)が外乱抑制信号に混入することになり、強力に振動抑制を効かせることは、他の悪影響の発生と相まって困難ではないかと思われる。
【0007】また、前記第二の従来技術は、エレベーター乗りかごの振動成分を直接検出し、これを振動抑制制御の信号に使うための種々の工夫が提案されているが、加速度センサ自体の信頼性,センサから数百m離れた最上階の機械室にある制御装置まで配線する信号線に重畳するノイズの除去など実用化には本質的な課題があると思われる。
【0008】さらに、前記第三の従来技術は、コンペンロープの代りにコンペンチェーンが使われる低速エレベーターなどでは、摺動部やダッシュポットのような機械的な振動抑制手段を講じることがハード的に困難なためにこれらの機種ではやや乗りかごは振動的になるのが実情であった。
【0009】本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決し、エレベーター乗りかごの縦振動、つまりロープ系と乗りかご,釣合いおもり,モータなどから決まる機械系の固有振動周波数帯に発生する不快な乗りかご振動を抑制しうるエレベーターの振動抑制装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明によれば前記目的は、エレベーターモデルをエレベーターの速度制御装置内に持ち、このモデルの出力等に基づいて決定される振動抑制信号によって電動機を制御することにより達成される。
【0011】
【作用】振動抑制信号はエレベーターモデル等を用いて作成され、速度制御に使用されるので、外部からのノイズ混入などの悪影響が少なく、特別なコストアップなく、縦振動の少ないエレベーターの速度制御を実現できる。
【0012】
【実施例】以下、本発明によるエレベーターの振動抑制制御装置の実施例を図面により詳細に説明する。
【0013】図1は本発明が適用されるエレベーター装置の全体構成をブロック図的に示した図である。
【0014】図1において、1はエレベーターの速度指令、2はエレベーターシステムの実速度を検出するための速度検出器で、ここでは電動機の回転軸に直結ないしはシーブ6やブレーキドラム(図示していない)でフリクション駆動され電動機の速度を検出するパルス発生器、3は実速度検出器の出力を加工した検出実速度信号、4は速度指令と検出実速度信号との偏差を求める比較器、5は速度制御系を構築するための比例積分器などの制御演算部、7は制御演算部5の出力であるトルク指令8と振動抑制指令9との加算器、10はインバータやコンバータなどの電力変換器、11は誘導電動機や直流電動機などのエレベーター駆動用電動機、12はメインロープ、13は乗りかご、14は釣合い錘、15は乗りかごやロープなどの機械系を完全剛体と見なした慣性系と駆動系や制御系などの電気系を含むエレベーター剛体モデル、16は速度指令1と乗りかごやロープなどの機械系を完全剛体と見なした慣性系を含むエレベーター剛体モデルから得られる電動機の推定速度17との偏差を求める比較器モデル、18は制御演算部5を模擬した制御演算部モデル、19は電力変換器10を模擬した電力変換器モデル、20は電動機11を模擬した電動機モデル、21は乗りかごやロープなどの機械系を完全剛体と見なした慣性系モデル、22はエレベーター剛体モデル15から得られる推定速度17と、検出実速度信号3又は後述する乗りかご推定速度26とのいずれかを切り換えるスイッチ36を介した信号との偏差である乗りかご速度の脈動信号23を求める比較器、24はこの速度脈動信号23を入力し、脈動抑制信号9を作成する信号変換器、25は機械系を乗りかごモデル32と釣合い錘モデル33とシーブモデル34の3マスで構成し、電気系と組み合わせた第二のモデルである。この第二のモデル25内の他の要素である制御演算部モデル29,電力変換器モデル30,電動機モデル31,推定速度27,比較器28は第一のモデル15と同様の構成としている。このモデル25では、実機エレベーターの機械系のうち、コンペンチェーン35を簡略した構成であり、実際の機械系に存在するすべての機械系共振周波数の振動現象を観測することは出来ないが、少なくともロープ系の1次,2次の共振について推定する程度のことは可能であるといえる。さらに、この第二のモデルの内部には電力変換器モデル30で通常発生するトルク脈動を簡便に等価的に発生させる要素として脈動発生模擬要素37を入れこみ、加算点38で信号加算し、シーブ34を加振して乗りかご32を加振する。この際、加振源となる脈動発生模擬要素37の発生する信号の周期および位相は電力変換器10で発生するであろう脈動波形と同期のとれたものであることが必要である。具体的な実現手段としては、電力変換器10が例えばインバータ装置の場合には、インバータの3相出力の各相ゼロクロスに相当するポイントで、つまりインバータ出力に同期してその周波数の6倍周波数で加振するように電力変換器10内部のPWM信号発生装置(図示していない)から同期信号を受けるなどして加振信号を作成し、重畳する。
【0015】この加振信号により、第二のモデル内の乗りかご32は実際の乗りかご13とほぼ同じ揺れを生じ、信号26は揺れが重畳した乗りかごの移動速度信号となる。ここで、スイッチ36が信号26側に倒れていれば、加算点22で脈動のない第一の推定速度17との減算が行われ、信号23には乗りかごの推定脈動成分が流れ込むことになる。一方、スイッチ36が3の側に倒れていれば、信号23にはモータ軸に生じている脈動成分を含むモータ速度と脈動成分のない推定速度との差がとられるので、結果としてモータ軸の脈動成分が流れ込む。これらの成分は信号変換器24を通過して逆極性で加算点7に加えられるので、発生脈動成分はメインループである速度帰還ループよりも内側に帰還されることになり、脈動成分は効果的に打ち消すことが出来る。
【0016】この構成において、システムの動作原理を図2を用いて説明する。なお、スイッチ36は図1のように倒れていることを前提として説明する。図2において、S1は速度指令1の例、S3は検出実速度信号3の例、S17はエレベーター剛体モデル15から得られる推定速度17の例、S23は検出実速度信号3と推定速度17との偏差信号の例、S9は信号変換器24の出力である脈動抑制信号9の例である。ここで、検出実速度S3には加減速中に機械系振動に伴う速度脈動が重畳しているが、推定速度S17にはモデルが剛体ゆえ、機械系振動に起因する振動成分は重畳していない。従って、S3とS17の偏差信号であるS23は機械系振動成分をそのままの形で忠実に抽出可能である。次に、この信号S23を信号変換器24を介して、電力変換器10や電動機11の遅れ要素を補償し、S9のように位相調整φやゲイン調整を行って加算点7にマイナループとして入力し、この指令成分によって速度検出器2のポイントで振動発生を打ち消すような制御系を構築するのである。
【0017】又、乗りかご13と釣合い錘14が同時に同じ方向に揺れるモードのように、シーブ6や電動機軸端では振動を検出出来ないモード(検出実速度信号3とエレベーター剛体モデル15から得られる推定速度17の組合せでは振動抑制制御出来ない振動モード)、あるいは、検出できてもその値が非常に微小なモードでは、スイッチ36を下側に倒せば、偏差信号S23は推定電動機軸速度S17と推定乗りかご速度26との差信号となり、この信号を用いて振動抑制制御が行われれば、乗りかごに生じている振動成分に応じた振動抑制制御が実行され、抑制制御が可能である。そのような状況の一例を図3に示す。図からわかるように、乗りかご位置や乗客量(図示していない)に応じて各部における振動の検出し易さ、つまり検出ゲインが変化する。ここでは、ある一つの固有振動数に着目したシミュレーション結果を示しているが、乗りかご位置が220m付近で電動機部ではほとんど振動現象を検出できないが乗りかご部では振動を検出可能であることがわかる。
【0018】ここでは、高速エレベーター以上の機種に一般的に用いられているコンペンロープとコンペンプーリとこのコンペンプーリとピット床面との間に取り付けられるダンパとの組合せによる機械的制振機構がないシステムを例にして説明した。つまり、乗りかご13と釣合い錘14とをつなぐものはコンペンチェーン35であり、これは乗りかご位置による主ロープのアンバランスロードの変化分を補償する機能しか有していない。コンペンロープを備えたシステムではコンペンプーリが上下に振動するモード(乗りかごと釣合い錘が同相で上下動するモード)はダンパによって減衰が期待できるが、コンペンチェーンしか有していないシステムでは従来この種の振動の抑制はあきらめられていたが、本提案で振動抑制が可能となった。
【0019】図4に本発明の効果を示すシミュレーション結果の一例を示す。シミュレーション条件として、ビル高さが230m,乗客数がゼロ,乗りかご位置が最上階付近で上昇運転を行っているとき駆動電動機が駆動力のほかトルクリプルを発生している状況を模擬し、乗りかごに発生する縦振動加速度を計算している。本発明の補償処理を行わない場合には、乗りかごの縦振動加速度は約±0.025m/s2 であり、補償処理を行った場合には、乗りかごの縦振動加速度は約±0.007m/s2 と約1/3に改善されていることがわかる。この方式では、機械系の振動成分をエレベーター駆動用電動機部で検出できさえすればモデルに対する他からの混入信号源や要素がないため、速度の脈動信号23は振動成分そのままの形で得ることができ、さらに、信号変換器24で加算器7から電動機11までの遅れ特性を適切に補償することによって電動機部における脈動発生が抑制されるため、その先にぶら下がっている乗りかごの不快な縦振動も抑制出来るのである。また、このエレベーターモデル25を用いる方法でも効果も同様の制振効果がある。
【0020】図5に信号変換器24の具体的構築例を示す。図5は加算器7から電動機11までの要素の遅れ特性を考慮し、電動機部において脈動発生を適切に抑制するための位相の進み遅れ調整要素とゲイン調整要素を組み込んだものである。図6に加算器7から電動機11までの周波数特性の一例を示すが、入力振動周波数の変化にリンクしてエレベーターシステムの特性(ゲインも位相)も変化する。本願の技術を例えばロープ系1次振動の例として1.2Hz 前後の周波数帯に効かせる場合には、加算点7から速度発生までの遅れは−35°前後であるので、信号変換器24ではこの35°分の位相遅れを補償すべく約35°の位相進めを設定すれば、速度の脈動成分の注入による振動抑制は十分な効果が得られる。さらに、乗りかご位置などが変化して条件が変わり、ロープ系の2次振動の例としてたとえば7Hz付近の振動が出やすい条件では、位相進め量を約100°程度に可変するなど運転条件で位相とゲインの補正量を可変あるいは、切り換えるようにすれば、運転条件によって変化・発生する複数の共振振動現象を効果的に抑制することができる。
【0021】また、図7は図5の機能のほかさらに制御系の定常ゲインの低下により発生する低周波脈動を抑制するためハイパスフィルタを組み込んだものであり、これにより偏差信号をマイナループで帰還することにより生じる悪影響を排除できるので、通常の振動抑制効果効果は確保しつつ、良好な過渡応答が得られる他の効果がある。
【0022】また、エレベーター剛体モデル内の慣性系モデル21のイナーシャを現在のエレベーターかご内の乗客数にリンクさせて可変させたり、総合モデル25内の機械系で、ロープ長さに対応して変化するバネ定数や減衰係数、乗りかご内の乗客数にリンクして変化する乗りかご重量を実機の状況(乗りかご位置や乗客数)に対応してきめこまかく変化させれば、エレベーター剛体モデル15から得られる推定速度17や乗りかご速度の推定値26の精度を高くすることができ、その結果として的確な脈動抑制信号9を作成できるので、乗りかごの振動抑制効果を高めることが出来る。
【0023】さらに、他の実施例として、図8に示すように、信号変換器24内に振動抑制の目標とする周波数帯域f0 以外の成分を遮断するバンドパスフィルタを設ければ、振動抑制の目標とする周波数以外の周波数帯に対する本脈動信号注入ルートの作用を無効にすることができるので、本ルートの他の周波数帯への悪影響をほとんどなくすことが出来る。
【0024】また、信号変換器24の内部で、出力である振動抑制指令9に相当する信号が通常のエレベーターシステムとして事前に予測される大きさや周波数から逸脱しているどうかをチェックし、そのような場合には、出力にリミットを設けることや出力すること自体を阻止したり、警報を発するようにすれば、乗心地向上という本来の目的達成のほか、安全性を損なわないというエレベーターシステムにとっては重要な項目の両立が可能となる効果がある。
【0025】他の一実施例を図9に示す。この実施例では第三のモデルとして第二のモデルの変形を使用する。つまり、第二のモデル25において、速度指令は実エレベーター装置に供給される速度指令1ではなく、ゼロ速度指令を入力する。一方、脈動発生要素37は実際に電力変換器および電動機に発生するであろうを脈動成分と同期して、加算点38を通じて脈動を発生させ、乗りかごモデル32を加振する。この同期脈動成分は電力変換器に与える制御信号、とりわけ、電力変換器がインバータ装置などではインバータ周波数の6倍周波数に代表されるモード変化時に同期させて生成する。又、モデル25内での速度指令はゼロであるため、乗りかごの推定速度信号はゼロであり、乗りかごの速度脈動成分だけが推定信号として検出され、その信号はそのままの形で脈動信号23となり、信号変換器24を介して、振動抑制信号9に変換され、加算器7から制御系に注入される構成である。この実施例では脈動成分は第三のモデルだけで推定可能であり、第一のモデル計算が不要などマイコンの計算処理が短くてよく、安価なマイコンの使用が可能などシステム構築上の他のメリットがある。
【0026】さらに、他の一実施例を図10に示す。ここでは、第三のモデルとして第二のモデルを図8よりもさらに簡略化している。具体的には、乗りかご32が固定端から主ロープでつり下げられ、その上端部を加振する脈動発生要素37の二つの要素から構成されている。ここでは、図1の第一のモデルと検出速度3との組合せで抽出不可能な振動モード(釣合い錘と乗りかごが同方向に揺れ、揺れに伴って綱車6が左右には回転しないモード)では釣合い錘と乗りかごが同方向に揺れ、綱車6が固定端になることに着目し、機械系を主ロープと乗りかごのみの構成とした。この実施例でも脈動成分は第三のモデルだけで推定可能であり、第一のモデル計算が不要であり、さらにマイコンの計算処理も一層が短くてよく、安価なマイコンの使用が可能などシステム構築上の他のメリットがある。
【0027】また、図1では、エレベーター剛体モデル15や信号変換器24を通常の速度制御装置とは別置装置のように示したが、比較器22,4,制御演算部5などと同様にエレベーター制御用のマイコン内にソフトウェアで構築すればノイズなどに強い制御系を組むことができる。勿論、速度制御系を構築するための比例積分器などの制御演算部とは独立にアナログ回路などで構築しても本願の振動抑制効果は損われないし、この場合には、ソフトウェアで問題となる処理速度上の制約が無いため、制振対象とする振動の周波数は高周波領域まで拡大することができという他の効果がある。
【0028】さらに、図1ではモデルと実速度との偏差信号を検出するため、エレベーターシステムの実速度を電動機の軸端、あるいは綱車の周上にフリクション駆動する速度検出器により検出しているので、本来の速度制御に用いる実速度信号と共通化が図れ、制御回路への信号取り込みや、信号線が短いことからノイズ混入の可能性が少なくなり、信頼性などの点でエレベーターに格好な高信頼度なシステムを構築できる効果がある。
【0029】さらに、ゲイン変化という観点では、図6に示した加算器7から電動機11までの周波数特性以外に図3からわかるように、乗りかご位置や乗客量(図示していない)に応じて振動の検出し易さ、つまり検出ゲインが変化するので、振動抑制制御系を安定に動作させるために乗りかご位置や乗客量に応じて図5,図7のゲインKを可変とするようにする。このようにすればエレベーターの運転条件のいかんにかかわらず安定した制振制御がかけられるので良好な乗心地が得られる。具体的にはKの値を乗りかご位置や乗客量に対してテーブル化しておき、これを乗りかご位置や乗客量で検索するようにすれば処理が短時間に完了できるので、振動抑制制御の領域を広くとることができる。また、その都度Kの値を計算するようにすればやや計算時間はかかるもののテーブル化のためのメモリを省略できる他の効果がある。
【0030】さらに、図1のエレベーター剛体モデル15のうち、慣性系モデル21は乗りかご位置や乗客量によって慣性分が変化する可能性がある。この変化分は推定速度17と検出実速度3との間に速度の非振動成分誤差を発生させ、速度の脈動信号23にバイアス成分的な余分な成分を混入させる。そこで、本願ではエレベーター剛体モデル15内の慣性系モデル21の慣性分を乗りかご位置や乗客量に応じて変化させるようにした。このようにすればエレベーターの運転状態とは無関係に安定した振動抑制を実現できる他の効果がある。
【0031】また、図1の実施例ではエレベーター剛体モデル15は速度指令に対する発生速度のうち振動成分などを含まない、いわゆる基本波成分に相当するもののみを推定すれば良いので、モデルについては厳密な模擬性というものが必ずしも要求されない。そこで、電力変換器モデル19,電動機モデル20を詳細なモデルではなく、一次遅れ程度に近似した。その効果として、モデルの記憶に必要なメモリ空間を節約できるばかりではなく演算を簡単化することができ、安価なマイコンを使用することが可能となる工業上の効果がある。
【0032】さらに、推定速度17との偏差演算に用いる検出実測度検出のインターバルを比較器4で用いる値の検出インターバルよりも短くすれば、振動抑制指令9を短い間隔で制御系に供給でき、振動抑制に関する周波数帯域を高周波側に拡大することが可能となり、より一層高周波の振動に対しても制振効果を発揮することが可能となる効果がある。
【0033】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、外部からのノイズ混入などの悪影響を受けず、特別な付加装置によるコストアップをも避けつつ乗りかごの振動現象を抑制することができるので、ロープ系に伴う乗りかごの不快な縦ゆれ等を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用されるエレベーター装置の全体構成を示す図。
【図2】本発明の動作原理を説明するための図。
【図3】発明の動作原理を説明するための図。
【図4】本発明の効果を示すシミュレーション結果図。
【図5】信号変換器24の具体的実施例を示す図。
【図6】発明の動作原理を説明するための図。
【図7】信号変換器24の具体的実施例を示す図。
【図8】信号変換器24の具体的実施例を示す図。
【図9】他の実施例を示すための図。
【図10】他の実施例を示すための図。
【符号の説明】
1…速度指令、2…速度検出器、3…検出実速度信号、7…加算器、9…振動抑制指令、10…電力変換器、11…エレベーター駆動用電動機、13…乗りかご、15…エレベーター剛体モデル、17…電動機推定速度、19,30…電力変換器モデル、20,31…電動機モデル、21…慣性系モデル、22…比較器、23,37,38…速度脈動信号、24,24−1,24−2…信号変換器、25…エレベーター総合モデル、26…エレベーター乗りかご推定速度、32〜34…エレベーター機械系モデル、39…スイッチ、K…信号変換器のゲイン、T1,T2,T3…信号変換器内の伝達要素の時定数、f0…バンドパスフィルタの中心周波数。

【特許請求の範囲】
【請求項1】乗りかごと釣合い錘、および両者を結合した主ロープと補償チェーンよりなるエレベーター機械系を駆動するエレベーター駆動装置とこの駆動装置の速度制御を行うエレベーター制御装置を備えたエレベーター制御システムにおいて、上記エレベーター制御装置内に上記駆動装置の速度指令を入力とし、上記駆動装置の推定速度を出力とする上記乗りかごなど機械系を完全剛体と見なした慣性系を含む第一のエレベーターモデルと、上記駆動装置の速度指令を入力とし、上記乗りかごの推定速度を出力とするエレベーター機械系を含む第二のエレベーターモデルを設け、この第一のモデルの出力である駆動装置の推定速度と第二のモデルの出力である乗りかごの推定速度との偏差信号を求め、これを上記エレベーター制御装置内の速度制御ループよりも内側に入力することを特徴とするエレベーターの振動抑制制御装置。
【請求項2】乗りかごと釣合い錘、および両者を結合した主ロープと補償チェーンよりなるエレベーター機械系を駆動するエレベーター駆動装置とこの駆動装置の速度制御を行うエレベーター制御装置を備えたエレベーター制御システムにおいて、上記エレベータ制御装置内に上記駆動装置の速度指令を入力とし、上記駆動装置の推定速度を出力とする上記乗りかごなど機械系を完全剛体と見なした慣性系を含む第一のエレベーターモデルと、上記駆動装置の速度指令を入力とし、上記乗りかごの推定速度を出力とする第二のエレベーターモデルを設け、この第一のモデルの出力である駆動装置の推定速度と第二のモデルの出力である乗りかごの推定速度との間の第一の偏差信号と、上記第一のモデルの出力である駆動装置の推定速度と上記駆動装置の検出実速度との間の第二の偏差信号とを求め、上記乗りかごが中間階付近に存在する場合には上記第一の偏差信号を、上記乗りかごが中間階付近以外に存在する場合には上記第二の偏差信号を上記エレベーター制御装置内の速度制御ループよりも内側に入力することを特徴とするエレベーターの振動抑制制御装置。
【請求項3】乗りかごと釣合い錘、および両者を結合した主ロープよりなるエレベーター機械系を駆動するエレベーター駆動装置とこの駆動装置の速度制御を行うエレベーター制御装置を備えたエレベーター制御システムにおいて、エレベーター機械系モデルとこの機械系モデルを加振する脈動発生要素を含む第三のモデルを設け、この第三のモデルの出力である乗りかごの推定脈動速度成分を振動抑制信号として上記エレベーター制御装置内の速度制御ループよりも内側に入力することを特徴とするエレベーターの振動抑制制御装置。
【請求項4】上記第二又は第三のエレベーターモデルは乗りかご,駆動装置,釣合いおもりの3マスと主ロープのバネ系からなる機械系モデルを含むことを特徴とする1項,2項又は3項記載のエレベーターの振動抑制制御装置。
【請求項5】上記第二又は第三のエレベーターモデルは乗りかごの1マスと乗りかごと駆動装置間の主ロープのバネ系からなる機械系モデルを含むことを特徴とする1項,2項又は3項記載のエレベーターの振動抑制制御装置。
【請求項6】上記第二のエレベーターモデル内の駆動装置はトルク脈動の発生を模擬する要素を含み、この出力信号は上記エレベーターモデル内の機械系の加振源となることを特徴とする1項又は2項記載のエレベーターの振動抑制制御装置。
【請求項7】上記トルク脈動の発生模擬要素は、上記実エレベーター駆動装置に生じるトルク脈動発生と同期した出力信号を出力することを特徴とする3項または6項記載のエレベーターの振動抑制制御装置。
【請求項8】上記偏差信号の利得を上記エレベーターの運転条件で可変制御とすることを特徴とする1項又は2項記載のエレベーターの振動抑制制御装置。
【請求項9】上記エレベーターの運転条件とは上記乗りかごの位置または乗客量であることを特徴とする6項記載のエレベーターの振動抑制制御装置。
【請求項10】上記利得の可変制御とは上記乗りかごの位置が中間階付近にあるとき偏差信号のゲインを高く制御し、それ以外のとき低く制御することを特徴とする7項記載のエレベーターの振動抑制制御装置。
【請求項11】上記トルク脈動の発生模擬要素は、上記実エレベーター駆動装置内電力変換器への制御信号と同期した出力信号を出力することを特徴とする7項記載のエレベーターの振動抑制制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開平6−278955
【公開日】平成6年(1994)10月4日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−67869
【出願日】平成5年(1993)3月26日
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステムサービス (895)