説明

エレベータ行先階登録装置

【課題】タッチパネル式のエレベータ行先階登録装置において、画面の目視が困難な利用者による行先階登録に係る利便性を向上させる。
【解決手段】実施形態によれば、行先階登録装置のタッチパネル上で利用者が触れた箇所の位置情報を座標情報として検出する座標検出部と、行先階登録のための入力方式が階床釦入力方式である場合で、座標情報がタッチパネル上の所定の範囲を示す場合に、入力方式を階床釦入力方式からタッチパネルへの同時の触数に基づいて行先階を登録する触数入力方式に切り替える入力方式切替部とをもつ。また、この実施形態によれば、入力方式が触数入力方式に切り替えられた状態で、触数に応じて所定の階床を初期値とした目的階を現在の目的階より上方または下方の階床に設定する処理、または、現在設定されている目的階を行先階登録する階床として確定する処理のいずれかを行なう行先階設定部とをもつ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、タッチパネル式のエレベータ行先階登録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本をはじめとするアジア諸国は未曾有の超高齢化社会を迎え、高齢者や身体障がい者が増加している。日本の高齢化率は平成22年7月の厚生労働省の発表によれば23.1%となり、前年比0.6ポイント上昇している。
【0003】
また、日本の身体障がい者数の調査は、5年おきに厚生労働省が実施しており、平成18年発表の調査報告によれば身体障がい者数は3,483,000人であり、前回調査した平成13年に比べ7.3ポイント上昇(238,000人増加)となり、その内、視覚障がい者数は310,000人であり、前回調査した平成13年に比べ3.0ポイント上昇(9,000人増加)している。
【0004】
そうした中、高齢者や身体障がい者のノーマライゼーション(normalization)への関心が高まる一方、高齢者や身体障がい者に対する、エレベータ、信号機、鉄道などのインフラの配慮が強く求められている。また、近年iPad(登録商標)や携帯電話などに液晶タッチパネルが採用されたことから、高齢者や身体障がい者が扱う機器に対するタッチパネルの普及が今後進むことが予想される。
【0005】
駅の券売機などでは既にタッチパネル式を採用しており、飲料水の自動販売機でも一部タッチパネル式が採用され始めている。タッチパネルを採用した機器の場合、視覚障がい者にとっては画面を目視して機器を使うことが出来ず、手で画面を触れて釦の位置や意味を確認することも出来ないため操作が困難となり、必要なサービスを受けることが出来ない。また、視力の低下している高齢者などについても同様の問題が生ずる。
【0006】
また、タッチパネル式を採用したエレベータ機器の例として、視覚障がい者の利便性を向上させるために、指紋認証を用いて個人を認識し、この認識した個人が視覚障がい者であればタッチパネルの操作モードを切り替え、当該タッチパネル上に並べて表示された釦に指で触れることで目的階を選択した際、この選択中の目的階を音声により読み上げ、この選択した階床に対応する釦をもう一度触れることで目的階を確定するエレベータ行先階登録装置がある。
【0007】
また、タッチパネル式を採用したエレベータ機器の別の例として、利用者が行先階登録装置のタッチパネル上で文字を描き、タッチパネル上で利用者が触れた位置や接触時間を判断するとともに、利用者がタッチパネルに最初に触れてから連続して軌道を描くか否かを判断することで行先階の入力方式を階床釦入力方式と手書入力方式との間で切り替え、入力方式が手書入力方式に切り替わった状態でタッチパネル上に描かれた文字を認識して行先階登録を行なうエレベータ行先階登録装置がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−7074号公報
【特許文献2】特開2009−249072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した、指紋認証により利用者を特定して当該利用者が視覚障がい者か否かを判断する方式を実現するには利用者の指紋と個人情報をあらかじめ登録しておく必要があり、利用者が限られてしまう。特に、駅や商用ビルなど公共性の高い建物に設置されたエレベータについては、利用者の指紋と個人情報をあらかじめ登録する事ができない。
【0010】
また、タッチパネル上に複数並べて表示された釦に触れることで目的階を選択し、この目的階を音声で読み上げる方式については、そもそも画面が見えていない視覚障がい者や視力の低下している高齢者などがタッチパネル上に表示された釦の中から目的階に対応する釦を探すのは困難である。
【0011】
また、タッチパネル上に文字を描くことで行先階登録を行なう方式については、先天性の視覚障がい者のほとんどが点字利用者で文字を知らないため、あらゆる視覚障がい者にとって利便性の高いタッチパネル式の行先階登録装置がないのが現状である。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、タッチパネル式において、画面の目視が困難な利用者による行先階登録に係る利便性を向上させることが可能になるエレベータ行先階登録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
実施形態によれば、各階床の乗場または乗りかご内に設置されたタッチパネル上の1つまたは複数の箇所に利用者が触れた場合に、この触れた箇所の位置情報を座標情報として検出する座標検出部と、行先階登録のための入力方式がタッチパネルの表示面に階床釦を表示して、利用者が触れた階床釦に対応する階床の行先階登録を行なう階床釦入力方式である場合で、座標検出部により検出した座標情報が、タッチパネル上の所定の範囲を示す場合に、行先階登録のための入力方式を、階床釦入力方式からタッチパネルへの同時の触数に基づいて行先階を登録する触数入力方式に切り替える入力方式切替部とをもつ。また、この実施形態によれば、入力方式が触数入力方式に切り替えられた状態で、タッチパネルへの同時の触数に応じて、所定の階床を初期値とした目的階を現在の目的階より上方の階床または下方の階床に設定する処理、または、現在設定されている目的階を行先階登録する階床として確定する処理のいずれかを行なう行先階設定部とをもつ。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態におけるタッチパネル式のエレベータ行先階登録装置を有するエレベータの構成例を示すブロック図。
【図2】実施形態における行先階選択部3の機能構成例を示すブロック図。
【図3】実施形態におけるタッチパネル式のエレベータ行先階登録装置を有するエレベータの行先階選択部3による、行先階登録のための入力方式を階床釦入力方式と触数入力方式の間で切り替える処理手順の一例を示すフローチャート。
【図4】実施形態におけるエレベータ行先階登録装置のタッチパネルディスプレイの画面の一例を示す図。
【図5】実施形態におけるタッチパネル式のエレベータ行先階登録装置を有するエレベータの行先階選択部による、行先階登録のための入力方式が触数入力方式である場合における呼び登録の処理手順の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態では、タッチパネルによる行先階の入力方式を、利用者がタッチパネル上に表示させる各階に対応する釦に触れることで行先階を登録する健常者向けの階床釦入力方式、および、各階に対応する釦をタッチパネル上に表示させる代わりに、当該タッチパネルの画面上に触れた指などの触数の大小により行先階を判断して登録する、視覚障がい者や視力が低下している高齢者といった、タッチパネルの画面の目視が困難な利用者向けの触数入力方式との間で切り替えて、画面の目視が困難な利用者が触数入力方式によりスムーズに行先階登録を行なえるようにして、タッチパネルの画面の目視が困難な利用者による行先階登録の利便性を大幅に向上させることを特徴としている。
【0016】
図1は、実施形態におけるタッチパネル式のエレベータ行先階登録装置を有するエレベータの構成例を示すブロック図である。
本実施形態におけるエレベータ行先階登録装置は、各階床の乗場や乗りかご内に設置されるものであり、表示装置1、座標検出部2、行先階選択部3、人感センサ4、スピーカー5、エレベータ運行制御部6、SSD(ソリッドステートドライブ:solid state drive)などの記憶媒体である記憶装置30を備える、一体のユニットで構成された行先階登録装置7である。記憶装置30は行先階選択部3に内蔵する形態であってもよい。
【0017】
行先階登録装置7は、図示しないテールコードや図示しない昇降路内配線でエレベータ運行制御部6と接続され、利用者が入力した情報に基づき行先階情報すなわち呼び登録信号をエレベータ運行制御部6に出力する。
【0018】
行先階登録装置7の表示装置1は、タッチパネル式の例えば15インチの液晶ディスプレイであり、HDMI信号などの映像信号を外部から入力して、表示面に画像を表示する。
座標検出部2は、透明なフィルム状の膜で表示装置1の表示画面に貼り付けられる静電容量方式の入力装置であり、利用者により触れられた単一または複数の位置情報を座標情報として行先階選択部3に出力するインタフェースを備え、表示装置1と組み合わせて、いわゆるタッチパネルディスプレイとしてユニット化されている。
【0019】
行先階選択部3は、RTC(リアルタイムクロック)を搭載したマイコンなどの制御装置で構成された組み込み用のモジュールである。この行先階選択部3は、座標検出部2からの座標情報に基づいた行先階入力方式の切り替えや、行先階の候補の選択処理や確定処理、行先階の登録処理、および表示装置1への映像信号出力などを行う。行先階選択部3の具体的な処理内容については後述する。
【0020】
人感センサ4は、当該人感センサ4近傍の赤外線を受光することで熱源の存在を検知し、熱源の存在を検知した場合にレベルが一定時間HIとなり、それ以外の場合はレベルがLOWとなる接点信号すなわち人感信号を行先階選択部3へ出力する。
スピーカー5は、記憶装置30に予め記憶された音声情報に基づく音信号を行先階選択部3から入力して、音声に変換して出力する。
【0021】
エレベータ運行制御部6は、マイコンなどを搭載したユニットで、図示しないエレベータ機械室や昇降路内に設置される。このエレベータ運行制御部6は、行先階選択部3から呼び登録信号を入力して、乗りかごが目的階へ応答するように図示しない巻上げ機を制御して図示しない乗りかごを昇降させて着床や戸開を行う装置である。
【0022】
なお、本実施形態では、表示装置1、座標検出部2、行先階選択部3、人感センサ4、スピーカー5、記憶装置30を組み合わせて一つのユニットである行先階登録装置7とする構成としたが、各部は個別のユニットまたは複数の組み合わせでの複数のユニットとしてもよい。この場合、人感センサ4やスピーカー5などは、行先階登録装置7の表示装置1の設置箇所の近傍であれば、乗りかご内の側板や各階床の乗場の壁面に分離して設置することもできる。
【0023】
図2は、実施形態における行先階選択部3の機能構成例を示すブロック図である。
図2に示すように、行先階選択部3は、人感信号入力部31、時間情報設定部32、座標情報入力部33、時間経過判断部34、入力方式切替部35、階床情報設定部36、音声信号出力部37、入力座標数認識部38、行先階設定部39を有する。
【0024】
人感信号入力部31は、人感センサ4からのHIレベルまたはLOWレベルの人感信号を入力する。
時間情報設定部32は、行先階入力方式の切り替えや音信号出力などの判断基準である内部変数Timeの値を設定する。
座標情報入力部33は、タッチパネルへの接触があった場合の座標検出部2からの座標信号を入力する。
【0025】
時間経過判断部34は、時間情報設定部32により内部変数Timeの値を設定した所定のタイミングからの経過時間を判断する。
入力方式切替部35は、所定の条件で座標検出部2からの座標信号を入力した場合に、行先階登録のための入力方式を、タッチパネル上に表示させる各階に対応する釦に触れることで行先階を登録する階床釦入力方式、および、各階に対応する釦をタッチパネル上に表示させずに、当該タッチパネルに触れた指などの触数の大小により行先階を判断して登録する触数入力方式との間で切り替える。
階床情報設定部36は、行先階登録のための入力方式が触数入力方式に切り替えられている場合における、登録する行先階の候補である選択階床を示す内部変数Floorの初期値を設定する。
【0026】
音声信号出力部37は、行先階登録のための入力方式の切り替え方法の案内や、当該入力方式が触数入力方式に切り替えられている場合における選択階床や登録済みの行先階の通知のための音信号をスピーカー5を介して出力する。
入力座標数認識部38は、行先階登録のための入力方式が触数入力方式に切り替えられている場合における、タッチパネルへの入力座標数である触数を認識する。
行先階設定部39は、行先階登録のための入力方式が触数入力方式に切り替えられている場合における、入力座標数認識部38により認識した触数の大小に応じて、選択階床を設定したり、この選択階床を行先階として確定したりする。
【0027】
図3は、実施形態におけるタッチパネル式のエレベータ行先階登録装置を有するエレベータの行先階選択部3による、行先階登録のための入力方式を階床釦入力方式と触数入力方式の間で切り替える処理手順の一例を示すフローチャートである。
まず、初期状態では、行先階登録のための入力方式が階床釦入力方式に切り替えられているとする。そして、前の行先階登録が終了したタイミングで、行先階選択部3は、記憶装置30に記憶される内部変数Timeに0を代入することで内部変数Timeを初期化する(ステップA−1)。
【0028】
内部変数Timeの初期化後、行先階選択部3の人感信号入力部31は、行先階登録装置7の設置箇所付近に利用者がいるか否かを判断するために、人感センサ4から入力した人感信号のレベルがHIであるか否かを判断し(ステップA−2)、レベルがHIの場合は(ステップA−2のYES)、時間情報設定部32は、行先階選択部3内部のRTCから取得した現在時刻を記憶装置30に記憶される内部変数Timeに代入して(ステップA−3)、ステップA−4へ進み、レベルがLOWの場合はステップA−2の処理を再び行なう。
【0029】
ステップA−3による内部変数Timeへの現在時刻の代入後、行先階選択部3の人感信号入力部31は、人感信号のレベルがHIか否かを再度判断し(ステップA−4)、人感信号のレベルがHIの場合は(ステップA−4のYES)、ステップA−5に進み、人感信号のレベルがLOWの場合は(ステップA−4のNO)、ステップA−2へ戻る。
【0030】
ステップA−4において人感信号のレベルがHIの場合は、座標情報入力部33は、座標情報を座標検出部2から入力したか否かを判断し(ステップA−5)、座標情報を入力している場合は(ステップA−5のYES)、その座標情報で示される位置情報が予め定められた範囲内であるか否かを判断し(ステップA−6)、座標情報で示される位置情報が予め定められた範囲内である場合(ステップA−6のYES)、ステップA−7およびA−8の処理へ進む。
【0031】
図4は、実施形態におけるエレベータ行先階登録装置のタッチパネルディスプレイの画面の一例を示す図である。
ここで、予め定められた範囲内とは、例えば、タッチパネルの入力検出範囲を、図4に示すような階床釦入力方式における各階床に対応する釦の表示箇所から離れた範囲であって、画面左下を原点として、タッチパネル全体の領域を原点から(X,Y)=(680,480)の範囲とした場合における、10<X<110かつ10<Y<110の条件を満たす特定の範囲の検出領域である。
【0032】
前述のように、ステップA−6において座標情報が予め定められた範囲内である場合、音声信号出力部37は、行先階登録のための入力方式が触数入力方式に切り替わることを利用者に説明するためのアナウンス(例えば、「触数入力方式に切り替わります」)の音声情報を記憶装置30から読み出して、この音声情報に対応する音信号をスピーカー5から出力する(ステップA−7)。これにより、タッチパネルの目視が困難な利用者は、行先階登録のための入力方式が触数入力方式に切り替わる事を容易に把握できる。
【0033】
そして、入力方式切替部35は、行先階登録のための入力方式を階床釦入力方式から触数入力方式に切り替え、この触数入力方式による呼び登録処理に移行する(ステップA−8)。これにより、タッチパネルの目視が困難な利用者自身による操作により、行先階登録のための入力方式を触数入力方式に円滑に切り替える事ができる。
【0034】
また、ステップA−5において、座標情報入力部33が座標情報を座標検出部2から入力していない場合は(ステップA−5のNO)、時間経過判断部34は、RTCから現在時刻を再度取得し、この取得した現在時刻と記憶装置30に記憶される内部変数Timeの値との差分が予め定められた時間(例えば5秒)より長いか否かを判断する(ステップA−9)。
【0035】
ステップA−9において、現在時刻と内部変数Timeの値との差分が予め定められた時間より短い場合は(ステップA−9のNO)、ステップA−4へ戻る。
また、ステップA−9において、前述した差分が予め定められた時間より長い場合は(ステップA−9のYES)、行先階登録装置7に利用者が接近してから、タッチパネルの操作がなされておらず、画面の目視が行なえていない可能性があり、行先階登録のための入力方式を触数入力方式に切り替える方法を利用者に説明する必要があるとして、音声信号出力部37は、行先階登録のための入力方式の切り替え方法を利用者に説明するためのアナウンス(例えば、「触数入力方式に切り替えるには画面左下に触れてください」)の音声情報を記憶装置30から読み出して、この音声情報に対応する音信号をスピーカー5から出力し(ステップA−10)、ステップA−4へ戻る。これにより、タッチパネルの目視が困難な利用者は、行先階登録のための入力方式を触数入力方式に切り替える方法を容易に把握できる。
【0036】
ステップA−6において、座標情報が予め定められた範囲内でない場合(ステップA−6のNO)、行先階登録のための入力方式は階床釦入力方式のままとなる。この場合、行先階選択部3は、表示装置1の画面上に複数並べて表示された釦の操作により行先階を選択する階床釦入力方式による呼び登録処理を行う。ここで、階床釦入力方式については、従来技術に比した本実施形態の特徴とは関わりが無いため、詳細な説明を省く。
【0037】
図5は、実施形態におけるタッチパネル式のエレベータ行先階登録装置を有するエレベータの行先階選択部3による、行先階登録のための入力方式が触数入力方式である場合における呼び登録の処理手順の一例を示すフローチャートである。
以後の説明は、前述したステップA−8の処理である、触数入力方式による呼び登録処理を詳細に説明するものである。
【0038】
まず、行先階登録のための入力方式が触数入力方式に切り替わった際、行先階選択部3の階床情報設定部36は、現在選択中の階床を示す、記憶装置30に記憶される内部変数Floorに予め定められた初期値を代入することで内部変数Floorを初期化する(ステップB−1)。この内部変数Floorの値は、触数入力方式において登録する行先階の候補である選択階床となる。つまり、内部変数Floorの値の初期値は選択階床の初期値である。この選択階床は、触数入力方式による行先階の確定の操作がなされるまでは、行先階として登録されない。
【0039】
そして、時間情報設定部32は、RTCから現在時刻を取得し、この現在時刻を記憶装置30に記憶される内部変数Timeに代入する(ステップB−2)。
すると、音声信号出力部37は、現在の選択階床を利用者に伝えるためのアナウンス(例えば「現在○○階を選択中です。選択中の階床より上方の階床を選択する場合は、画面上の2点を同時に、選択中の階床より下方の階床を選択する場合は3点を同時に、選択中の階床を行先階として確定するときは1点に触れてください」、○○は内部変数Floorの値が代入される)の音声情報を記憶装置30から読み出して、この音声情報に対応する音信号をスピーカー5に出力して(ステップB−3)、ステップB−4へ進む。これにより、タッチパネルの目視が困難な利用者は、触数入力方式における現在の選択階床を容易に把握できる。
【0040】
ここで、ステップB−1で変数Floorに代入される予め定められた初期値とは、行先階登録装置7が乗場に設置されているか、または乗りかご内に設置されているかによって異なる。
【0041】
例えば、行先階登録装置7が乗場に設置されている場合、この設置されている階床から最も遠いサービス階、例えばサービス階が1階から6階までの6階床で、1階に設置された行先階登録装置7による行先階登録のための入力方式が触数入力方式に切り替わった場合は、記憶装置30に記憶される変数Floorに代入される初期値は6階を示す「6」となる。
【0042】
また、当該行先階登録装置7が乗りかご内に設置されている場合、階床情報設定部36は、変数Floorに代入される初期値を、エレベータ運行制御部6から入力された乗りかごの現在の走行方向などの運行情報から決定する。例えば、乗りかごの走行方向が下方向の場合は、階床情報設定部36は、最下階に該当する階床の値を変数Floorに初期値として代入し、乗りかごの走行方向が上方向の場合は最上階に該当する階床の値を変数Floorに初期値として代入する。
【0043】
このように、変数Floorに選択階床の初期値を代入して、ステップB−3のように、この選択階床のアナウンスを行なうのは、利用者が行先階として選択する可能性の高い階床を予め選択階床として設定した上で、当該選択階床をアナウンスして、このアナウンスされた選択階床が利用者の希望する行先階と一致する場合には、後述するような行先階としての確定の操作を行なうのみで、アナウンスされた選択階床を行先階としてそのまま登録できるため、行先階の選択のための操作の省力化および当該省力化に伴う運行効率の向上を図る事ができるからである。
【0044】
ステップB−3による変数Floorの初期値のアナウンス後、行先階選択部3の座標情報入力部33は、座標検出部2からの座標情報の入力があるか否かを判断し(ステップB−4)、座標情報の入力がある場合は(ステップB−4のYES)、時間情報設定部32は、RTCから現在時刻を取得し、この取得した現在時刻を記憶装置30に記憶される内部変数Timeに代入して(ステップB−5)、座標検出部2からの座標情報が引き続き入力されているか判断すると共に、同時に入力されている座標情報の数を記憶装置30に記憶し(ステップB−6)、座標情報の入力が無くなるまでの期間中、ステップB−6を繰り返す。
【0045】
ステップB−6において、座標検出部2からの座標情報がステップB−4の後で新たに入力されていない場合(ステップB−6のNO)、時間経過判断部34は、RTCから現在時刻を取得し、この現在時刻と内部変数Timeとの差分が予め定められた時間(例えば5秒)より長いか否かを判断する(ステップB−7)。
【0046】
差分が、この予め定められた時間より長い場合は(ステップB−7のYES)、音声信号出力部37は、視覚障がい者や視力の低下した高齢者などがタッチパネルをステップB−4での座標情報入力時から長押ししており、選択階床の変更や確定の操作がなされておらず、行先階として現在登録されている階床の情報を利用者に通知する必要があるとして、行先階として現在登録されている階床の情報を、エレベータ運行制御部6からの運行情報として受信する。音声信号出力部37は、これら、行先階として現在登録されている全ての階床を読み上げるアナウンス(例えば、「現在登録されている行先階は、○○階と、□□階と、…▽▽階です。」。ここで○○と□□および▽▽はそれぞれ異なる値で、登録されている行先階の数によって異なる。)の音声情報を記憶装置30から読み出して音信号をスピーカー5に出力し(ステップB−8)、ステップB−2へ戻る。なお、ここでアナウンスされる、現在行先階として登録されている階床には、ステップB−3でアナウンスされた内部変数Floorに設定されているのみで行先階として登録されていない階床は含まれない。利用者は、このアナウンスを確認することで、登録済みの行先階に自身の目的階が含まれているか否かを確認することができる。
【0047】
ステップB−7において、現在時刻と変数Timeとの差分が予め定められた時間より短い場合は、タッチパネルへの触数に応じた行先階の選択および確定のための処理を行なう。本実施形態では、ステップB−3でアナウンスされる、選択階床より高い階床を利用者が行先階として選択したい場合、指などによりタッチパネル上の2箇所に同時に接触するものとする。また、ステップB−3でアナウンスされる選択階床より低い階床を利用者が行先階として選択したい場合、タッチパネル上の3箇所に同時に接触するものとする。ステップB−3でアナウンスされる選択階床が利用者の目的階と一致し、この選択階床を最終的な行先階として確定したい場合、タッチパネル上の1箇所に接触するものとする。
【0048】
入力座標数認識部38は、座標情報入力部33が同時に入力した座標情報の数が1つか否かを判断し(ステップB−9)、同時に入力された座標情報が1つの場合、行先階設定部39は、記憶装置30に記憶される内部変数Floorで示される階床を行先階として確定して、この階床の呼び登録信号をエレベータ運行制御部6へ出力することで行先階登録を行い(ステップB−10)、ステップB−1へ戻る。これにより、タッチパネルの目視が困難な利用者自身による操作により、触数入力方式による行先階を円滑に確定する事ができる。
【0049】
この後で利用者が、録済みの行先階に自身の目的階が含まれているか否かを確認するには、一度タッチパネルに触れて長押しすることで、ステップB−4、B−5を経てステップB−8へ進むことで、現在行先階として登録されている階床をアナウンスさせればよい。
【0050】
ステップB−9において、入力座標数認識部38は、座標情報入力部33が同時に入力した座標情報が1つを超える場合(ステップB−9のNO)、座標情報入力部33により同時に入力した座標情報が2つか否かを判断し(ステップB−11)、座標情報入力部33により同時に入力した座標情報が2つの場合(ステップB−11のYES)、行先階設定部39は、記憶装置30に記憶される内部変数Floorに1を加算して(ステップB−12)、ステップB−2へ戻る。これにより、タッチパネルの目視が困難な利用者自身による操作により、触数入力方式による選択階床の上方階床への変更を円滑に行なう事ができる。
【0051】
ステップB−11において、入力座標数認識部38は、座標情報入力部33により同時に入力した座標情報が2つでない場合(ステップB−11のNO)、座標情報入力部33により同時に入力した座標情報が3つか否かを判断し(ステップB−13)、座標情報入力部33により同時に入力した座標情報が3つの場合(ステップB−13のYES)、行先階設定部39は、記憶装置30に記憶される内部変数Floorから1を減算して(B−14)、ステップB−2へ戻る。これにより、タッチパネルの目視が困難な利用者自身による操作により、触数入力方式による選択階床の下方階床への変更を円滑に行なう事ができる。なお、行先階設定部39は、内部変数Floorに1を加減算する事でサービス階床の範囲を超える場合は、記憶装置30に記憶される内部変数Floorの加減算を行なわない。
【0052】
また、ステップB−4において、座標情報入力部33による座標情報の新たな入力がない場合で(ステップB−4のNO)、時間経過判断部34は、RTCから現在時刻を取得し、この取得した現在時刻と内部変数Timeとの差分が予め定められた時間(例えば60秒)より大きいか否かを判断し(ステップB−15)、この差分が予め定められた時間より大きくない場合は(ステップB−15のNO)、ステップB−3へ戻る。また、差分が予め定められた時間より大きいと時間経過判断部34が判断した場合は、誤った操作により入力方式が触数入力方式に切り替わってしまい、利用者が触数入力方式による行先階の選択を望まないとして、触数入力方式における呼び登録処理を終了する。この際、入力方式切替部35は、行先階登録のための入力方式を触数入力方式から階床釦入力方式に戻す。
【0053】
以上のように、実施形態におけるエレベータ行先階登録装置では、視覚障がい者や視力の低下した高齢者などの、タッチパネル上の目視が困難な利用者でも当該タッチパネル上で比較的把握しやすい場所(例えば画面左下)などを触れることで行先階登録のための入力方式を階床釦入力方式から触数入力方式に切り替える機能を持つことで、タッチパネル上の目視が困難な利用者でも行先階登録のための操作を容易にすることができ、指紋や個人情報を予め登録する必要もなくなる。
【0054】
さらに、実施形態におけるエレベータ行先階登録装置では、行先階登録のための入力方式を階床釦入力方式から触数入力方式に切り替えた状態で、タッチパネルの2点を同時に触れることで選択中の階床より上方の階床を選択し、また、タッチパネルの3点を同時に触れることで、選択中の階床より下方の階床を選択し、また、タッチパネルの1点に触れることで選択中の階床を行先階として確定するので、文字を知らない先天性の視覚障がい者を含む、タッチパネル上の目視が困難なあらゆる利用者が行先階登録のための操作を容易に行なうことができる。
【0055】
さらに、実施形態におけるエレベータ行先階登録装置では、前述したように、行先階登録のための入力方式を触数入力方式に切り替えた状態で、現在選択中で登録前の行先階のアナウンス後に、所定時間以上にわたってタッチパネルの操作が無い場合に、行先階登録された階床をすべて読み上げる機能を有するので、登録された行先階を利用者が容易に確認できる。
【0056】
上記のようにすることで、文字を知らない先天性の視覚障がい者を含む、タッチパネル上の目視が困難なあらゆる視覚障がい者の利用者が、自身の操作により行先階を容易に登録することができる。また、視覚障がい者だけでなく、視力の低下した高齢者なども、自身の操作により行先階を容易に登録することができる。
【0057】
実施形態では、触数入力方式において、同時に入力した座標情報が2つの場合に選択階床の上方階床への変更を行い、同時に入力した座標情報が3つの場合に選択階床の下方階床への変更を行うと説明したが、これに限らず、同時に入力した座標情報が2つの場合に選択階床の下方階床への変更を行い、同時に入力した座標情報が3つの場合に選択階床の上方階床への変更を行うようにしてもよく、同時に入力した座標情報に応じて選択階床の上方階床または下方階床への変更を行う構成であれば、同時に入力した座標情報の数は特に限定されない。
【0058】
これらの各実施形態によれば、タッチパネル式において、画面の目視が困難な利用者による行先階登録に係る利便性を向上させることが可能になるエレベータ行先階登録装置を提供することができる。
発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1…表示装置、2…座標検出部、3…行先階選択部、4…人感センサ、5…スピーカー、6…エレベータ運行制御部、7…行先階登録装置、30…記憶装置、31…人感信号入力部、32…時間情報設定部、33…座標情報入力部、34…時間経過判断部、35…入力方式切替部、36…階床情報設定部、37…音声信号出力部、38…入力座標数認識部、39…行先階設定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各階床の乗場または乗りかご内に設置されたタッチパネル上の1つまたは複数の箇所に利用者が触れた場合に、この触れた箇所の位置情報を座標情報として検出する座標検出部と、
行先階登録のための入力方式が、タッチパネルの表示面に階床釦を表示して、利用者が触れた階床釦に対応する階床の行先階登録を行なう階床釦入力方式である場合で、前記座標検出部により検出した座標情報が、前記タッチパネル上の所定の範囲を示す場合に、行先階登録のための入力方式を、前記階床釦入力方式から前記タッチパネルへの同時の触数に基づいて行先階を登録する触数入力方式に切り替える入力方式切替部と、
前記入力方式が前記触数入力方式に切り替えられた状態で、前記タッチパネルへの同時の触数に応じて、所定の階床を初期値とした目的階を現在の目的階より上方の階床または下方の階床に設定する処理、または、現在設定されている目的階を行先階登録する階床として確定する処理のいずれかを行なう行先階設定部と
を備えたことを特徴とするエレベータ行先階登録装置。
【請求項2】
前記行先階設定部は、
前記入力方式が前記触数入力方式に切り替えられた状態で、前記タッチパネルへの同時の触数が2以上の所定の第1の数である場合に、前記目的階を現在の目的階より上方の階床に設定する処理を行ない、
前記タッチパネルへの同時の触数が2以上で前記第1の数と異なる所定の第2の数である場合に、前記目的階を現在の目的階より下方の階床に設定する処理を行ない、
前記タッチパネルへの同時の触数が1である場合に、現在設定されている目的階を行先階登録する階床として確定する処理を行なう
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ行先階登録装置。
【請求項3】
行先階登録のための操作を行なう利用者を検知する人感センサをさらに備え、
前記入力方式切替部は、
前記入力方式が前記階床釦入力方式である場合で、前記人感センサが利用者を検知してから所定の時間が経過する前に前記座標検出部が座標情報を検出し、かつ当該座標情報が所定の座標範囲内であった場合に前記入力方式を前記階床釦入力方式から前記触数入力方式に切り替える
ことを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータ行先階登録装置。
【請求項4】
前記入力方式が前記階床釦入力方式である場合で、前記人感センサが利用者を検知してから所定の時間が経過しても前記座標検出部が座標情報を検出しない場合に、入力方式の切り替え方法を示す音声を利用者に向けて出力する音声出力手段をさらに備えた
ことを特徴とする請求項3に記載のエレベータ行先階登録装置。
【請求項5】
前記入力方式が前記触数入力方式である場合で、
前記行先階設定部により現在設定されている目的階を示す音声を利用者に向けて出力する音声出力手段をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータ行先階登録装置。
【請求項6】
前記入力方式が前記触数入力方式である場合で、
前記座標検出部が座標情報を検出した後で、所定時間が経過しても前記座標検出部がさらなる座標情報を検出しない場合に、既登録の行先階を示す音声を前記利用者に向けて出力する音声出力手段をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1または2に記載のエレベータの行先階登録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−28450(P2013−28450A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166671(P2011−166671)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】