説明

エンジン制御装置の搭載構造

【課題】ECUの温度上昇を抑えて、その機能維持を可能にすると共に、ECUとエンジン間に接続されるハーネス類の長さを短縮し、その取付工数を低減しコストを節減する。
【解決手段】車両10のフロア下方でかつバンパ12の車幅方向側部の後方であって、前輪タイヤハウス58の前側壁62と、該前輪タイヤハウスの前側壁の車幅方向外側部から車両10の前端部までを覆うフロントサイドパネル56とで囲繞された空間s1に、エンジン38の運転制御を行なうエンジン制御装置30を配設し、該エンジン制御装置の周囲に車両10の走行により空気流れbを形成させる。好ましくは、バンパ12の車幅方向側部にランプ類14,16が装着され、車両走行時該ランプ類の周辺に設けられた開口18から空気流bを車体内に導入し、エンジン制御装置30の周辺に空気流bを形成するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御装置の搭載位置を車両のフロア下方であってバンパの車幅方向側部の後方の車両内部にすることにより、エンジン制御装置の加熱を防止し、ハーネス類の所要長さを短縮可能にしたエンジン制御装置の搭載構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されるエンジン制御装置(以下「ECU」と言う)は、例えば大型バスなどの場合、ECUの発熱が少なく取付部周囲の温度に影響されなかったため、ECUの防水性を考慮して、図7及び図8に示すように、運転室内の運転席の足元周囲に配設されていた。図7及び図8において、ハンドル100の下方に、クラッチペダル101、ブレーキペダル102及びアクセルペダル103が設けられ、クラッチペダル101の近傍にECU104が配設されていた。
【0003】
特許文献1(実開昭62−71347号公報)には、ECUをエンジンルーム内のボンネット内面に接合した構成が開示されている。
また、特許文献2(実開平7−24663号公報)には、バスのコンピュータボックス収納装置をバゲッジルームの垂直バゲッジパネル背後に存在するデッドスペースを有効利用して、ここにコンピュータボックスを収納するようにした構成が開示されている。
【0004】
【特許文献1】実開昭62−71347号公報
【特許文献2】実開平7−24663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、排出ガス規制対応のため、あるいはエンジンの出力・制御性向上等により、ECU自体の発熱量が多くなってきた。そのため、周囲温度の影響を大きく蒙るようになり、周囲温度が約45℃を超えると、ECUの機能を維持するため、冷却する必要が生じてきた。しかし、車室内は夏の炎天下では60℃にも達するため、ECUを車室内に設置するのは不都合になってきた。
【0006】
また、ECUを運転席内に配設すると、図9に示すように、ECU104とエンジン105との距離が離れ過ぎ、また両者が床部106を挟んで床部106の上下に配置されているため、中間ハーネス108aを必要とするなど、ジョイント107の数が多くなると共に、ハーネス108の長さも長くなっていた。そのため、ハーネス108の電気抵抗が増えると共に、ECUの信頼性が低下する虞がある。
【0007】
特許文献1に開示されているように、ECUをエンジンルーム内のボンネット内面に接合した場合、エンジン稼動時にエンジンルーム内は高温となるため、ECUの機能を低下
させる虞がある、また、エンジン停止時でも、ボンネットの外表面が日光に照らされて高温となり、ボンネット内の空気は滞留しているので、ECU自体の発熱により、ECUの周囲が高温となる。従って、ECUの設置場所として不都合である。
【0008】
また、特許文献2に開示されているように、コンピュータボックス収納装置の代わりに、ECUをバゲッジルームの垂直バゲッジパネル背後に存在するデッドスペースに配置した場合、特許文献1の場合と同様に、バゲッジルーム内の空気は滞留しているので、ECU自体の発熱により、ECUの周囲が高温となる。
【0009】
本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、ECUの温度上昇を抑えて、その機能維持を可能にすると共に、ECUとエンジン間に接続されるハーネス類の長さを短縮し、その取付工数を低減しコスト節減を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のエンジン制御装置の搭載構造は、
車両のフロア下方でかつバンパの車幅方向側部の後方であって、前輪タイヤハウスの前側壁と、該前輪タイヤハウスの前側壁の車幅方向外側部から車両の前端部までを覆うフロントサイドパネルとで囲繞された空間に、エンジンの運転制御を行なうエンジン制御装置を配設し、該エンジン制御装置の周囲に車両の走行により空気流れを形成させるようにしたものである。
【0011】
本発明では、ECUを床部下方の外部に連通した空間に配置するので、日光に照らされて周囲温度が上昇することもなく、また、車両走行時には空気流が発生してECUを冷却するので、ECUの信頼性を維持することができる。
【0012】
また、ECUをフロア下方の前記空間に設置したので、エンジンとECUとを連結するエンジンハーネスが床部を貫通する部分を無くすことができる。そのため、該貫通部分から車室内への水浸入対策が不要になると共に、車室外から車室内へのハーネス配索作業を廃止できるので、取付工数を節減できる。また、ハーネス長さを低減できると共に、連結コネクタを削減できるなど、大幅なコスト削減が可能になる。
【0013】
また、ECUを周囲が囲繞された空間に配置するので、雨水や前輪タイヤによる飛沫等からECUの水害を防止できる。さらに、ハーネスの長さ減少により、電気抵抗を低減できると共に、他の電気機器からの電磁波によるノイズが減り、かつ連結コネクタの削減等で連結コネクタの接触不良等も減少し、総合的にECUの信頼性が向上する。
【0014】
本発明において、バンパの車幅方向側部にランプ類が装着され、車両走行時該ランプ類の周辺に設けられた開口から空気流を車体内に導入し、エンジン制御装置の周辺に空気流を形成するように構成するとよい。
バンパの車幅方向側部は、ヘッドランプ等が装着され、複雑となっている。また、ヘッドランプのエイミング調整や電球交換、あるいは牽引フックに牽引索を掛けるため等の開口が設けられている。車両走行時には、この開口からECUが配置された空間に空気が導入され、ECUの周囲に空気流が形成されるので、この空気流によってECUを効果的に冷却できる。
【0015】
雨天走行時には、雨水はランプ類等で受け止められ、下方へ落下するが、走行風は該空間に流入して、ECUの冷却を効果的に行なうことができる。
【0016】
本発明において、ECUをステーを介してシャシフレームに取り付けると共に、該エンジン制御装置を該シャシフレームより上方にかつ頂部が前記フロアの近傍に配置されるようにするとよい。
これによって、ECUを前記空間内の走行路面から離れた高所に設置できるので、浅瀬を走行する際に、ECUの水害を防止できる。
【0017】
また、本発明において、車体前方から流入した空気流がECUの周囲を通過した後、シャシフレームと前輪タイヤハウスの側壁との間に形成された空間を通って後方に流れるように構成するとよい。このように、ECUの後方に該空間を形成することにより、バンパに設けられた前記開口から流入した空気流が後方に流れやすくなり、ECUを通過する空気流を形成し易くなる。従って、車両停止時においても、ECUの周囲に空気流を形成できるため、ECUを一層効果的に冷却できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のECUの搭載構造によれば、車両のフロア下方でかつバンパの車幅方向側部の後方であって、前輪タイヤハウスの前側壁と、該前輪タイヤハウスの前側壁の車幅方向外側部から車両の前端部までを覆うフロントサイドパネルとで囲繞された空間に、エンジンの運転制御を行なうエンジン制御装置を配設し、該エンジン制御装置の周囲に車両の走行により空気流れを形成させるようにしたことにより、ECUを床部下方の空間に配置するので、ECUの周囲温度が日光に照らされて昇温することもなく、かつ走行風によりECUが冷却されるので、ECUの機能を維持することができる。
【0019】
また、ECUとエンジン間に接続されるハーネスのうち、床部を貫通するハーネスを低減でき、連結コネクタを低減できると共に、ハーネス長さを短縮できる。
そのため、コネクタの接触不良が減り、ハーネスの電気抵抗を低減できると共に、エンジンとECU間のノイズが減るので、ECUの信頼性が向上する。
また、床部を貫通するハーネスを減少できるので、車室内への水浸入のリスクを低減できると共に、ハーネス取付工数を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但しこの実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではない。
【0021】
本発明をバス等の大型車両に適用した一実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。図1〜図5は、バス等の車体前部であって、床部より下方の車幅方向(図中矢印d方向)左側部を示す。このうち、図1は、前輪タイヤハウスを取り払い、斜め後方から視た斜視図である。図4は、バンパ12に装着されるラジエータグリル42、ヘッドランプ、フォッグランプ等の機器類を取り外した状態を示す。図5は、前輪タイヤ、マッドガード等の前輪タイヤハウスを取り払った状態を車両後方視(図中矢印e方向)で示す。
【0022】
図1〜図5において、車両10のフロント部下部にはバンパー12が設けられており、バンパー12には、ヘッドランプ14及びヘッドランプ14の下方にフォッグランプ16が装着されている。車体後方側から視てフォッグランプ16の右隣りには、多目的用の開口18が設けられている。車両10は前方(矢印a方向)に向けて走行する。
【0023】
車両10には、車両前後方向に互いに間隔を開けて一対のシャシフレーム20が配設されている。左側シャシフレーム20の車両前後方向外側面20aに支持部材22を介して牽引フック24が固設されている。牽引フック24は、開口18の車体内奥側で車両前方から視て丁度開口18に面する位置に配置されている。
開口18は、ヘッドランプ14のエイミング調整や、ヘッドランプ14及びフォッグランプ16の電球交換、又は牽引フック24に連結する牽引索を挿入するため等の目的で設けられている。
【0024】
車両10には、運転室と運転室下方のシャシ部とを上下に仕切る床部26が車両前後方向に配設されている。床部26は、四角形断面を有し車両前後方向に配設されたフロアフレーム28で支持されている。
シャシフレーム20の外側面20aには、ボルト36により一対のブラケット34a及び34bが上方(図中矢印c方向)に向けて並列に固設されている。ブラケット34a〜bには、長方形の取付板32が上下方向からやや斜めに向けて取り付けられ、取付板32にECU30が載置固定されている。ECU32の高さはシャシフレーム20より上方に配置され、ECU32の頂部は、床部26の下面近傍に位置している。
【0025】
図3に示すように、ECU30の後方でかつ床部26の下方に、エンジン38が配置されており、ECU30にはエンジン38や、フロントサイドパネル56に取り付けられたサイドウィンカーランパ39等他の機器類に連結されたハーネス類40が接続されている。
バンパ12の車幅方向中央部にはラジエータグリル42が配設され、ラジエータグリル42の後方には、ラジエータ44が配設されている。ラジエータ44の後方には、冷却用の風をラジエータ44に導くためのシュラウド46が配設され、シュラウド46の出口内部にファン48が配設されている。
エンジン38とラジエータ44間には、冷却水を循環させる冷却水ダクト50及び52が接続され、エンジン38に排気ダクト54が接続されている。
【0026】
図3に示すように、バンパ12の車両前後方向外側端から車両後方に向けてフロントサイドパネル56が連なり、フロントサイドパネル56に前輪タイヤハウス58が設けられている。前輪タイヤハウス58は、前輪タイヤ60を挟むように配置された前側マッドガード62及び後ろ側マッドガード64と、ゴム製又は樹脂製で構成され、前輪タイヤ60の内側に車両前後方向に配置されたスプラッシュシールド66とからなる。スプラッシュシールド66は、シャシフレーム20と床部26間の高さに配置されている(図2参照)。
【0027】
かかる構成の本実施形態において、車両10が前方(矢印a方向)に走行すると、開口18から空気が車両内の空間s1に流れ込み、空気流bが形成される。図2に示すように、開口18から車両内に流入した空気流bは、前側マッドガード62の存在により、前側マッドガード62に遮られて、前側マッドガード62の上方を迂回する流れを形成する。
そして、開口18の後ろ側に配置されたECU30の周囲を通過し、図3に示すように、シャシフレーム20とスプラッシュシールド66間に形成された空間s2に流れ、その後下方に下降して車外に出る。
【0028】
本実施形態によれば、床部26の下方でかつバンパ12の車幅方向側部の後方であって、前輪タイヤハウス58の前側マッドガード62と、フロントサイドパネル56とで囲繞された空間s1にECU30を配置したことにより、該空間s1は運転室のように日光に照らされて加熱されず、さらに車両10の走行時には、開口18から導入される走行風によりECU30の周囲に空気流bが形成される。
従って、空気流bによってECU30を効果的に冷却できるため、ECU30の機能を維持することができる。
【0029】
車両停止時においても、該空間s1は運転室のように日光に照らされて加熱されず、かつ車体の外部と連通しているので、ECUから出た熱量を発散することが可能である。従って、ECUの温度上昇を抑え、その機能を維持できる。
また、ECU30の後方で、シャシフレーム20とスプラッシュシールド66間に空間s2を形成しているので、開口18から流入した空気流bが後方に流れやすくなる。従って、車両停止時においても、ECU30の周囲に空気流bを形成でき、ECU30を冷却することができる。
【0030】
また、ECU30を床部下方の空間s1に設置したので、エンジン38とECU30とを連結するエンジンハーネス40が床部26を貫通する部分を無くすことができる。そのため、該貫通部分から車室内への水浸入対策が不要になると共に、車室外から車室内へのハーネス配索作業を廃止できるので、取付工数を節減できる。また、ハーネス長さを低減できると共に、連結コネクタを削減できるなど、大幅なコスト削減が可能になる。
【0031】
また、ECU30を周囲が囲繞された空間s1に配置するので、雨水や前輪タイヤによる飛沫等からECUの水害を防止できる。さらに、ハーネスの長さ減少により、電気抵抗を低減できると共に、他の電気機器からの電磁波によるノイズが減り、かつ連結コネクタの削減等で連結コネクタの接触不良等も減少し、総合的にECUの信頼性が向上する。
【0032】
図6は、本実施形態でのハーネスの配設状況を示す。図6に示すように、ECU30とエンジン38とを接続するハーネス類40を短縮でき、床部26の貫通部をなくすことができる。従って、図9に示す従来のハーネス配設状況と比べて、ジョイント部68の数を節減できる。
【0033】
また、本実施形態によれば、雨天走行時には、雨水はランプ類等で受け止められ、下方へ落下するが、走行風bは該空間s1に流入して、ECU30の冷却を効果的に行なうことができる。
さらに、ECU30をブラケット34a〜bを介してシャシフレーム20に取り付けると共に、ECU30をシャシフレーム20より上方にかつその頂部が床部26の下面近傍に配置しているので、浅瀬を走行する際に、ECU30の水害を防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、バス等の車両に搭載されるECUの温度上昇を効果的に抑えて、その機能と維持し、かつECUとエンジンとに接続されるハーネス類の長さを短縮してコスト節減を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両前部の下方側部の斜視図である。
【図2】前記実施形態に係る車両前部の下方側部の側面図である。
【図3】前記実施形態に係る車両前部の下方側部の平面図である。
【図4】前記実施形態に係る車両前部の下方側部の正面図である
【図5】前記実施形態に係る車両前部の下方側部の背面図である。
【図6】前記実施形態に係るハーネス類の配置図である。
【図7】バス前部の斜視図である。
【図8】図7中のA方向から視たバス車室内の模式図である。
【図9】従来のバス車体のハーネス類の配置図である。
【符号の説明】
【0036】
10 車両
12 バンパ
14 ヘッドランプ
16 フォッグランプ
18 開口
20 シャシフレーム
26 床部
30 ECU(エンジン制御装置)
32 取付板
34a〜b ブラケット(ステー)
38 エンジン
40 ハーネス類
56 フロントサイドパネル
58 前輪タイヤハウス
60 前輪タイヤ
62 前側マッドガード
66 スプラッシュシールド
b 空気流
s1 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロア下方でかつバンパの車幅方向側部の後方であって、前輪タイヤハウスの前側壁と、該前輪タイヤハウスの前側壁の車幅方向外側部から車両の前端部までを覆うフロントサイドパネルとで囲繞された空間に、エンジンの運転制御を行なうエンジン制御装置を配設し、該エンジン制御装置の周囲に車両の走行により空気流れを形成させるようにしたことを特徴とするエンジン制御装置の搭載構造。
【請求項2】
前記バンパの車幅方向側部にランプ類が装着され、車両走行時該ランプ類の周辺に設けられた開口から空気流を車体内に導入し、前記エンジン制御装置の周辺に空気流を形成するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置の搭載構造。
【請求項3】
前記エンジン制御装置をステーを介してシャシフレームに取り付けると共に、該エンジン制御装置を該シャシフレームより上方にかつ頂部が前記フロアの近傍に配置されるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジン制御装置の搭載構造。
【請求項4】
車体前方から流入した空気流が前記エンジン制御装置の周囲を通過した後、シャシフレームと前記前輪タイヤハウスの側壁との間に形成された空間を通って後方に流れるように構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジン制御装置の搭載構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−90879(P2010−90879A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264605(P2008−264605)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】