説明

オゾン発生用電極

【課題】気泡が大きく成長する前に電極近傍から気泡を脱離させて高濃度オゾン水を得ることのできるオゾン発生用電極の提供。
【解決手段】チタン等の電極基板材料をアルカリ脱脂、弗硝酸洗浄、水洗後、酸化鉛飽和NaOH液中で陽分極してα−二酸化鉛を電析、水洗した後、引き続きシリカゲル微粒子を含む二価の硝酸鉛水溶液(30%)中で陽分極電解して、β−二酸化鉛とシリカゲル微粒子とからなる複合膜を電析形成させオゾン発生用電極とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水・汚水処理産業、製紙業、半導体産業、食品産業、医療・薬品産業介護産業、酪農を主とする農業、家電業界などにおいて用いられるオゾンを発生するための、オゾン発生用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
オゾン水は、環境負荷、製造コスト等の観点から、最も期待されている酸化処理水である。しかし、オゾンは不安定であるため保存ができず、使用時に調製される。オゾン水製造方法には気相法と電解法が知られており、高濃度の水溶液を製造するためには、後者が優位であるとされている。
【0003】
電解法では二酸化鉛や酸化タンタルなどの金属酸化物、ボロンドープダイヤモンドなどが陽極材料として利用されるが、原料の安定供給やコストを考慮すると二酸化鉛電極が好適とされている。これに関し、最近では、特許文献1などに開示されているように、二酸化鉛の電極触媒能を向上させることにより高効率にオゾンを生成させる試みがなされている。これらの電極触媒の開発により気体オゾン生成に対して一定の効果が発現することは確認されている。しかし、発生するオゾン分子が電極表面で大きな気泡を形成して直ちに浮上、放散してしまうため、高濃度のオゾン水を直接製造することは不可能であった。
【0004】
高濃度の過飽和オゾン水を製造するためには、放散した気体のオゾンと電解液を長時間、オゾン溶解槽中に保持させる必要があり、装置工学の観点からオゾン溶解に対して、種々の検討がなされている。例えば、特許文献2では、別途生成させたオゾンと原水を気液接触部分に通じてオゾンを水に溶解させ、これをオゾン水貯留部に導入した後、貯留部内のオゾン水を再び気液接触部分に循環させてさらにオゾンを溶解させ、より短時間で高濃度にオゾンを溶解させる検討がなされている。また、非特許文献1では、別途電解により発生させて放散したオゾンの気体を、撹拌機能付の気泡微小化治具を具備したオゾン溶解槽に導入し、より短時間でオゾンを溶解させる検討がなされている。しかし、オゾンの濃度が定常状態となるのに10数〜20時間を要しており、オゾン溶解工程の時間短縮が課題となっている。
【特許文献1】特開2002−317290号公報
【特許文献2】特開2005−21798号公報
【非特許文献1】恩田ら、電学論B、112巻11号(2003)1−7頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既存概念の範疇内では、高濃度オゾン水を高効率に得るには、高い触媒能を有する電極、並びにオゾン溶解を促進する電解槽の開発が必要とされている。現行の電極では、発生するオゾンは電極近傍で過飽和となったところで気泡核が生成する。さらに、溶存オゾンを吸収して大きい気泡を形成した場合、電極から脱離して系外に放散し、バルク中での溶解が進行しない。このため、高濃度のオゾン水製造には、オゾン溶解槽などの導入が余儀なくされている。仮に、オゾン溶解を促進する機能を電極に付与することができれば、さらに効率的なオゾンの生成が可能となるはずである。すなわち、気泡が大きく成長する前に電極近傍から気泡を脱離させることができれば、バルク中に移動した微小気泡からオゾンの溶解が可能となり、効果的に電解液全体にオゾンを溶解させることができ、結果的に高濃度のオゾン水が得られるはずである。
【0006】
そこで、本発明は、気泡が大きく成長する前に電極近傍から気泡を脱離させて高濃度のオゾン水を得ることのできる、新規のオゾン発生用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、機能性微粒子を表面に固定して表面の親/疎水性を制御した電極を電析法により作製し、水中での電解反応に対して親/疎水性がおよぼす影響について検討した。この結果、水中に含まれる反応物が疎水性である場合、疎水性電極に反応物が濃縮されて高効率に電解が進行することが明らかとなった。これは、表面が親水性である場合には、疎水性物質の電極表面濃度が低下することを示唆するものである。すなわち、オゾン気泡は水に対する親和性が低いため、電極表面を親水性とした場合、気泡核形成の直後に電極表面から脱離し、ブラウン運動によりオゾンを低濃度に含有するバルク中に移動し、そこで溶解すると着想した。そして、この着想に基づき鋭意検討した結果、本発明に想到した。
【0008】
本発明のオゾン発生用電極は、二酸化鉛とシリカゲル微粒子とからなる複合膜を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、前記複合膜は、シリカゲル微粒子を含む硝酸鉛(II)の水溶液中における電析により形成されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のオゾン発生用電極によれば、高濃度のオゾン水を、高効率に生成させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のオゾン発生用電極は、二酸化鉛(PbO)とシリカゲル(SiO)微粒子とからなる複合膜を備えたものである。そして、その表面は、複合膜中のシリカゲル微粒子の作用により、親水性を有している。
【0012】
この複合膜は、シリカゲル微粒子を含む硝酸鉛(II)(Pb(NO)の水溶液中における電析により形成することができる。すなわち、シリカゲル微粒子を含む硝酸鉛(II)(Pb(NO)の水溶液中に電極基板材料と対極を浸漬し、電極基板材料と対極との間に電流を流して電極基板材料を陽分極させることによって、電極基板材料の表面に二酸化鉛とシリカゲル微粒子とからなる複合膜が形成される。
【0013】
なお、シリカゲル微粒子は、親水性を有することが必要であり、疎水性などを付与するための表面処理が施されていないものが用いられる。また、シリカゲル微粒子は、電析の際に硝酸鉛(II)の水溶液中に均一に分散させるために、粒径が小さいものが好ましく、平均粒径が10μm以下のものが好適に用いられる。
【0014】
本発明のオゾン発生用電極を水の電解酸化反応用の陽極に供することにより、高濃度のオゾン水を、高効率に生成させることが可能になる。すなわち、オゾンは水に対する親和性が低いため、親水性の本発明のオゾン発生用電極に付着しにくく、気泡核形成直後に電極表面から脱離する。そして、ブラウン運動により、オゾンを低濃度に含有するバルク中に移動し、そこで溶解する。その結果、高濃度のオゾン水が高効率に得られる。
【0015】
このように、本発明のオゾン発生用電極は、オゾン発生用電極とオゾンの物理的相互作用を利用することにより、物質移動を制御してオゾン溶解を促進し、結果として高効率にオゾンを発生させて高濃度のオゾン水を得ることを可能にするものである。
【0016】
以下の実施例において、本発明のオゾン発生用電極について、より具体例に説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。
【実施例1】
【0017】
チタン基板(ニラコ製、1×1cm)をアルカリ脱脂後、弗硝酸水溶液(蒸留水50ml、硝酸(1.38)40ml、弗酸(46〜48%)10ml)に浸漬し、水洗後、乾燥させずに酸化鉛を飽和させた3.5mol・dm−3NaOH水溶液に浸漬した。チタン平板(ニラコ製、1×1cm、2枚)を対極として基板の両側に設置し、40℃にて1A・dm−2の電流密度で2時間陽分極して、α−二酸化鉛を電析させた。水洗後、引き続いて、60g・dm−3シリカゲル(日本アエロジル製、粒径:40×10−3μm)を含む30wt%Pb(NO水溶液に浸漬し、チタン平板(2枚)を対極として基板の両側に設置し、65℃にて2A・dm−2の電流密度で2時間陽分極して、β−二酸化鉛/シリカゲル微粒子複合被膜を電析させた。比較のために、シリカゲルを含まないPb(NO水溶液中で同様の条件でβ−二酸化鉛を電析させた電極を作製した。
【0018】
得られた2種類のβ−二酸化鉛電極を0.1mol・dm−3SO水溶液に浸漬し、10A・dm−2の電流密度で30分間、25℃、静置条件下にて陽分極させた。電解後の溶液中のオゾン濃度をKI法にて測定し、電流効率を求めた。また、マグネティックスタラーを用いて撹拌条件下にて同様の電解反応を行った。電解後のオゾン濃度(ppm表示)測定結果を以下の表に示す(カッコ内は電流効率(%表示))。
【0019】
表から明らかなように、静置条件下において、本実施例のオゾン発生用電極を用いることにより、大幅なオゾン濃度の上昇と電流効率の向上が達成された。さらに、撹拌条件下において、大きなオゾン濃度の向上が確認された。
【0020】
【表1】

【0021】
本実施例では、親水性であるシリカゲル微粒子を、複合電析法と称される簡便な手法にてβ−二酸化鉛電極表面に固定して、オゾン発生用電極を作製した。得られたオゾン発生用電極では、気泡が大きく成長する前の気泡核形成時に、オゾンの微小気泡が表面から脱離した。そして、ブラウン運動によりバルク中に移動したオゾンの微小気泡からオゾンが溶解した。さらに、撹拌により、効果的にオゾンの微小気泡が電解液全体に分散してオゾン溶解が進行し、効率よく高濃度オゾン水が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化鉛とシリカゲル微粒子とからなる複合膜を備えたことを特徴とするオゾン発生用電極。
【請求項2】
前記複合膜は、シリカゲル微粒子を含む硝酸鉛(II)の水溶液中における電析により形成されたものであることを特徴とする請求項1記載のオゾン発生用電極。

【公開番号】特開2009−235521(P2009−235521A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84628(P2008−84628)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】