説明

オフセット印刷機の給水装置

【課題】消耗部品を使用することなく、端面近傍での過剰給水を確実に防止する。
【解決手段】外周面22aに湿し水が付着する第1ローラ(水元ローラ19)と、第1ローラ19に対して軸方向に沿って所定のニップ圧で略線接触するように配設され、その外周面25aに、第1ローラ19の外周面22aに付着した湿し水が転移される第2ローラ(調量ローラ23)と、少なくとも第2ローラ23のローラ端面23aまたはローラ端面23a近傍の外周面25aにおいて、第1ローラ19とのニップ部に向けて所定圧力で流体を供給する流体供給手段(給気具30)と、を備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過剰な水上がりの防止機構を搭載したオフセット印刷機の給水装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷機は、図6(A)に示すように、大型のローラ(版胴)1と、大口径のローラ(ブランケット胴)3と、複数の小径インキローラ群4と、給水ローラ群6とで構成されている。ローラ1は、インキによって図柄などの画線を形成するために、表面にフォトレジスト処理を施したアルミニウム製の板などからなる刷版2が配設されている。大口径のローラ3は、表面にゴム製のブランケットが配設され、前記刷版2からインキを受け取り、紙に転写するゴム板を巻回したものである。小径インキローラ群4は、前記刷版2に対してインキ壺5からのインキを供給するインキ供給手段の役割をなすものである。給水ローラ群6は、刷版2の非画線部に湿し水を供給することにより、反発により非画線部にインキが付着しないようにする給水装置である。
【0003】
この給水装置は、水舟9上に表面が金属(Cr)製の水元ローラ7aが駆動モータによって回転可能に配設され、この水元ローラ7aによって水舟9内に定水位で貯留された湿し水を水上げする。また、水元ローラ7aには、表面がゴム製の調量ローラ8aが軸方向に沿って線接触するように配設され、この調量ローラ8aを水元ローラ7aに一定圧力で従動させることにより、水元ローラ7aの外周面に付着した一定量の湿し水を受け取り、刷版2の側に供給する。さらに、調量ローラ8aには、更に表面が金属(Cr)製の移しローラ7bが線接触するように配設され、この移しローラ7bに、表面がゴム製の水着ローラ8bが線接触するように更に配設されている。そして、この水着ローラ8bから刷版2に対して均一に湿し水を給水するものである。
【0004】
しかしながら、この給水装置は、調量ローラ8aの両端面近傍の両側外周面で湿し水が過剰に水上げされるという問題がある。具体的には、図6(B)に示すように、水元ローラ7aには、調量ローラ8aを所定のニップ圧で圧接することにより、水元ローラ7aの外周面に付着した湿し水Aを掻き切るようにして調量している。しかし、水元ローラ7aの中央部分では、十分な調量を図ることができるが、両端面では、表面張力と回転力が伴い、端面を伝って(回り込んで)湿し水Bが外周面に付着する。そのため、両端面近傍の両側外周面では過剰な湿し水が付着する。その結果、刷版2の両端面近傍にも過剰な湿し水が供給されるため、過乳化が生じることにより印刷画像品質が低下するという問題がある。
【0005】
この湿し水の過剰供給領域は、調量ローラ8aの両端面近傍の外周面において所定幅(約30mm)のみに限られている。そのため、水元ローラ7aおよび調量ローラ8aの全長を、ローラ7b,8bに対して所定寸法だけ長く形成すれば、画像品質の低下は防止できる。しかし、この場合には、オフセット印刷機自体が大型化するという問題がある。
【0006】
このような湿し水の過剰な水上げを防止するようにしたオフセット印刷機の給水装置に関連する先行技術文献情報としては次のものがある。
【0007】
【特許文献1】特許第2977072号公報
【0008】
この特許文献には、水舟内の湿し水に一部が浸漬するように配設した水元ローラ、および、該水元ローラに線接触するように配設した調量ローラの両端面に、接触部材としてワイパーを配設した給水装置が記載されている。これにより、端面から回り込むようにしてローラの両側外周面に湿し水が付着することを防止し、両側部での過剰な水上げを防止している。
【0009】
しかしながら、この特許文献の給水装置では、水元ローラおよび調量ローラに対して接触部材を圧接する必要があるため、これらが常に摩擦により損傷を受ける。そのため、ある程度の使用期間が経過すると安定した水切りができなくなるため、接触部材を定期的に交換する必要があり、コスト高になるという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来の問題に鑑みてなされたもので、消耗部品を使用することなく、端面近傍での過剰給水を確実に防止できるオフセット印刷機の給水装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明のオフセット印刷機の給水装置は、外周面に湿し水が付着する第1ローラと、前記第1ローラに対して軸方向に沿って所定のニップ圧で略線接触するように配設され、その外周面に、前記第1ローラの外周面に付着した湿し水が転移される第2ローラと、少なくとも前記第2ローラのローラ端面またはローラ端面近傍の外周面において、前記第1ローラとのニップ部に向けて所定圧力で流体を供給する流体供給手段と、を備えた構成としている。
【0012】
この給水装置によれば、第2ローラのローラ端面またはローラ端面近傍の外周面において、第1ローラとのニップ部に向けて所定圧力の流体を噴射するため、湿し水がローラ端面を伝って流動し、端面近傍の両側外周面に付着することを抑制できる。そのため、湿し水が両側部の所定領域のみ過剰に水上げされることを防止できるため、その両側部での過乳化を防止し、印刷画像の品質が低下することを防止できる。
【0013】
また、ローラの端面には、固体同士が擦れることはないため、摩擦による損傷が生じることはない。その結果、使用期間が経過しても水切り精度が低下することはない。よって、常に安定した湿し水量を全幅にかけて行うことができるうえ、定期的な交換作業は不要であるため、コスト高になることはない。
【0014】
このオフセット印刷機の給水装置では、前記第1ローラは、水舟に定水位で貯留された湿し水に外周面の一部を浸漬させる水元ローラであることが好ましい。このようにすれば、前記流体供給手段による湿し水の過剰な水上げを確実に防止できる。
【0015】
また、前記流体供給手段による流体の供給圧力を変更可能とすることが好ましい。このようにすれば、端面近傍での湿し水の給水量を加減できる。
【0016】
さらに、前記流体供給手段の供給方向を、湿し水を定水位で貯留する水舟に向かうようすることが好ましい。ここで、流体としては、気体、液体、および、気体と液体の気液混合体がある。そして、液体または気液混合体を使用する場合には、液体は湿し水とすることが好ましい。このようにすれば、流体の供給により吹き飛ばされた湿し水を水舟に戻すことができる。その結果、湿し水の無駄を防止できるとともに、湿し水がオフセット印刷機の構成部品に付着することにより影響を及ぼすことを防止できる。
【0017】
さらにまた、前記第2ローラは、芯材と、該芯材の外周面を被覆する表層部材とを備え、前記流体供給手段からの流体が、少なくとも前記表層部材の端面または端面近傍の外周面に供給されることが好ましい。このようにすれば、流体供給手段による湿し水の過剰な水上げを確実に防止できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のオフセット印刷機の給水装置では、所定圧力の流体を噴射するため、湿し水がローラの端面を伝って外周面に付着することを抑制できる。そのため、湿し水が過剰に水上げされることによる過乳化を防止し、印刷画像の品質が低下することを防止できる。また、摩擦による損傷が生じることはないため、常に安定した湿し水量を全幅にかけて行うことができるうえ、定期的な交換作業は不要であるため、コスト高になることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0020】
図1および図2(A),(B)は、本発明の第1実施形態に係るオフセット印刷機の給水装置を示す。まず、この給水装置は、従来と同様に、インキ供給手段によってインキが供給される刷版において、印刷する画像の非画線部に湿し水を供給するものである。
【0021】
そして、本発明の給水装置は、図示しない循環供給装置から湿し水が供給される水舟10に、湿し水を水上げして刷版に給水する給水ローラ群18と、該給水ローラ群18による過剰な給水を防止するための給気具30とを配設したものである。
【0022】
まず、水舟10は、給水ローラ群18における下端の水元ローラ19の第1表層部材22より長尺な上端開口の皿状をなすものである。この水舟10には、上向きに傾斜した底壁11の上端近傍に、横方向に延びる給水管12が配設されている。この給水管12には、上端面に循環供給装置に接続する接続口13が設けられるとともに、水舟10の反対側に位置する側壁10aに対向する面には、長手方向に沿って複数の給水口14が設けられている。また、水舟10の底壁11には、給水管12に対して側壁10aから所定間隔をもって仕切壁15が設けられている。この仕切壁15の上端縁には、所定間隔をもって複数の切欠部16が設けられている。また、水舟10の側壁10aには、循環供給装置に接続する排水口17が設けられている。これにより、仕切壁15との間には湿し水が常に定量貯留され、給水管12からの給水に伴う余剰の湿し水だけが切欠部16を通ってオーバーフローし、循環供給装置に排出される。
【0023】
前記給水ローラ群18は、水舟10から刷版にかけて順次配設した水元ローラ19と、調量ローラ23と、移しローラ26と、水着ローラ(図示せず)とからなる4ローラ型のものである。
【0024】
前記水元ローラ19は、金属(Fe)製の第1芯材20の外周部に金属(Cr)製の第1表層部材22を配設したものである。第1芯材20は円柱状をなし、その両端面(以下「芯材端面」と称する。)20aには、円柱状をなすように同一軸心で突出する軸部20bが設けられている。各軸部20bは、水舟10の長手方向両端の側壁10b,10cから外向きに突出する寸法で形成されている。そして、一方の軸部20bには、水元ローラ19を回転駆動させるための駆動モータ21が接続されている。第1表層部材22は、その軸方向に沿った寸法が第1芯材20と同一であり、水舟10の長手方向両端の側壁10b,10c間より短いものである。そして、この水元ローラ19は、第1表層部材22の下部に位置する外周面22aの一部が、水舟10に貯留された湿し水に浸漬するように配設される。また、本実施形態では、第1表層部材22の円環状をなす端面(以下「表層端面」と称する。)22bと前記芯材端面20aとで、面一の第1ローラ端面19aを構成する。
【0025】
前記調量ローラ23は、金属(Fe)製の第2芯材24の外周部にゴム製の第2表層部材25を配設したものである。第2芯材24は、第1芯材20と軸方向の寸法が同一の円柱状をなし、その芯材端面24aに軸部24bを突設したものである。そして、軸部24bには、いずれにも駆動モータは接続されず、水元ローラ19の回転に従動して回転される。第2表層部材25は、その軸方向に沿った寸法が、第1表層部材22と同一に形成されている。そして、この調量ローラ23は、水元ローラ19に対して略線接触するように所定圧力(以下「ニップ圧」と称する。)で圧接され、この圧力を調節することにより、水元ローラ19の外周面22aから調量ローラ23の外周面25aに転移する湿し水の量を調節するように構成している。また、調量ローラ23は、水元ローラ19と同様に、第2表層部材25の円環状をなす表層端面25bと、第2芯材24の芯材端面24aとで、面一の第2ローラ端面23aを構成する。
【0026】
前記移しローラ26は、水元ローラ19と同様に、金属(Fe)製の第3芯材27の外周部に金属(Cr)製の第3表層部材29を配設したものである。第3芯材27は、第2芯材24と軸方向の寸法が同一の円柱状をなし、その芯材端面27aに軸部27bを突設したものである。そして、一方の軸部27bには、該移しローラ26を調量ローラ23に対して逆向きに回転駆動させるための駆動モータ28が接続されている。また、この移しローラ26は、第3表層部材29の軸方向の寸法が第2表層部材25と同一に形成され、調量ローラ23に対して略線接触されるとともに所定のニップ圧で圧接されるように配設される。そして、この移しローラ26は、駆動モータ28により、調量ローラ23とは異なる回転速度に調節して回転できる。具体的には、調量ローラ23に対する移しローラ26の回転数を調節することにより、これらの間で生じる摩擦係数を調節できる。その結果、調量ローラ23の外周面25aから移しローラ26の外周面29aに転移する湿し水の量を調節できるように構成している。また、移しローラ26は、第3表層部材29の円環状をなす表層端面29bと、第3芯材27の芯材端面27aとで、面一の第3ローラ端面26aを構成する。
【0027】
図示しない水着ローラは、調量ローラ23と同様に、金属(Fe)製の第4芯材の外周部にゴム製の第4表層部材を配設したものである。第4芯材は円筒状をなし、その芯材端面に軸部が突設されている。この軸部にはいずれにも駆動モータは接続されず、移しローラ26の回転に従動して回転される。また、この水着ローラは、第4表層部材の軸方向の寸法が第3表層部材29と同一に形成される。そして、移しローラ26に対して所定のニップ圧で圧接されるとともに、刷版に対して所定のニップ圧で圧接され、移しローラ26の外周面29aから転移された湿し水を刷版に転移させるように構成している。
【0028】
このように構成した給水ローラ群18では、従来と同様に、水元ローラ19の第1表層部材22の外周面22aに水舟10内の湿し水が多量に付着する。そして、調量ローラ23とのニップ圧により湿し水の転移量が調節されて、第2表層部材25の外周面25aに付着される。この際、調量ローラ23の第2ローラ端面23a近傍の外周面25aに付着した湿し水は、表面張力と回転力により第2ローラ端面23a、特に表層部材25の表層端面25bを伝って回り込み、ニップ部に対して回転方向前側の外周面25aの所定領域(従来の過剰付着領域)に再付着する。
【0029】
そこで、本実施形態では、第1ローラである水元ローラ19と第2ローラである調量ローラ23のローラ端面19a,23aにおいて、これらのニップ部に位置するように給気具30を配設し、回り込みによる湿し水の再付着を防止および調整可能に構成している。具体的には、この給気具30は、コンプレッサ31により送られる流体である空気の吐出風量(圧力)を変更することのできる調整弁を備えた流体供給手段である。この給気具30は、ローラ19,23において表層部材22,25の表層端面22b,25bに対して軸方向に沿った外側に位置するように、水舟10に対してブラケット(図示せず)を介して固定されている。そして、この給気具30の吐出ノズル部32による給気方向は、その中心が水元ローラ19と調量ローラ23とのニップ部に位置し、かつ、上方から下向きに傾斜して噴射することにより、下流側が水舟10に向かうように構成している。なお、給気具30の固定は水舟10に限られず、図示しないオフセット印刷機の枠体に固定してもよい。また、本実施形態では、給気具30による給気方向は、調量ローラ23に対して軸方向から見て直交方向に噴射する構成としているが、調量ローラ23の回転方向に対して逆向きに、即ち、表層端面25bを伝って再付着する際の水流に対して逆向きに噴射させてもよい。
【0030】
このように構成した給水装置は、給気具30では、表層部材22,25の表層端面22b,25bにおいてニップ部に向けて所定圧力の空気を噴射するため、堰き止めた湿し水の一部が表層端面25bを伝って外周面25aに付着することを抑制できる。そのため、調量ローラ23の下流側では、第2ローラ端面23a近傍の外周面25aの両側部で湿し水が過剰に水上げされることを防止できる。その結果、過乳化を防止し、印刷画像の品質が低下することを防止できる。
【0031】
また、表層部材22,25の表層端面22b,25bでは、固体同士が擦れることはないため、摩擦による損傷が生じることはない。その結果、使用期間が経過しても水切り精度が低下することはない。よって、常に安定した湿し水量を全幅にかけて行うことができるうえ、定期的な交換作業は不要であるため、コスト高になることはない。
【0032】
さらに、給気具30は、水舟10に向けて空気を噴射する構成としているため、吹き飛ばされた湿し水は水舟10に戻される。その結果、湿し水の無駄を防止できるとともに、湿し水がオフセット印刷機の構成部品に付着することにより影響を及ぼすことを防止できる。
【0033】
図3(A),(B)は、第2実施形態の給水装置を示す。この給水装置は、給気具30による給気位置を、第1実施形態では水元ローラ19と調量ローラ23のニップ部としたのに対し、第2実施形態では、下流側(第2ローラ)である調量ローラ23において、第2芯材24の芯材端面24aと第2表層部材25の表層端面25bとで構成される面一な第2ローラ端面23aとした点でのみ、第1実施形態と相違している。
【0034】
この第2実施形態の給水装置では、第1実施形態と同様に、調量ローラ23の表層部材25の表層端面25bを伝って、湿し水がニップ部に対して回転方向前側の外周面25a両側部に過剰に付着することを防止できるため、印刷品質の低下を防止できる。しかも、定期的な交換作業が不要であるため、コスト高になることを防止できる。
【0035】
図4(A),(B)は、第3実施形態の給水装置を示す。この給水装置は、給気具30による給気位置を、調量ローラ23において、第2ローラ端面23a近傍の外周面25aとした点でのみ、第1実施形態と相違している。そして、この第3実施形態では、吐出ノズル部32による給気方向は、上方から下向きに傾斜して噴射することにより、水舟10に向かうように構成している。
【0036】
このように構成した第3実施形態では、各実施形態と同様に、調量ローラ23の表層部材25の表層端面25bを伝って、湿し水がニップ部に対して回転方向前側の外周面25a両側部に過剰に付着することを妨げることができるため、印刷品質の低下を防止できる。しかも、定期的な交換作業が不要であるため、コスト高になることを防止できる。
【0037】
本願の発明者らは、本発明の実施形態の効果を確認するために、小森コーポレーション製の印刷機(リスロン426)を使用し、湿し水の給水量を測定する実験を行った。この印刷機の給水装置は、前記実施形態と同様に、水元ローラ19、調量ローラ23、移しローラ26および水着ローラの4本を使用したものである。そして、この装置に対して給気具30を装着し、図6(A)における刷版2の表面で、湿し水の付着量を測定した。
【0038】
まず、第1の実験では、給気具30による空気の供給の有無に影響が及ばない中央部を基準値として測定した。そして、給気具30を使用しない従来例、ローラ端面19a,23aのニップ部に給気を行う第1実施形態、第2ローラ端面23aに給気を行う第2実施形態、ローラ端面23a近傍の外周面25aに給気を行う第3実施形態、4種で版面端部上の水膜測定を行い、基準値と比較した。また、給気具30による給気は、3.8m/sの風量で行った。
【0039】
その結果は、図5(A)に示すように、十分に給水量を調整できる基準値である中央部では、刷版2の表面に0.93μmの水膜が形成されていた。これに対して、給気具30を使用しない従来の形態では、刷版2の表面端部に1.35μmの水膜が形成されていた。一方、ローラ端面19a,23aのニップ部に向けて空気の噴射を行う第1実施形態では、刷版2の表面端部に0.93μmの水膜が形成されていた。また、第2ローラ端面23aに向けて空気の噴射を行う第2実施形態では、刷版2の表面端部に1.11μmの水膜が形成されていた。さらに、第2ローラ端面23a近傍の両側外周面25aに向けて空気の噴射を行う第3実施形態では、刷版2の表面端部に1.27μmの水膜が形成されていた。
【0040】
この結果から、本発明のように空気を供給することにより、第2ローラ端面23a近傍での過剰な水上げを確実に減少できるという効果を確認できた。
【0041】
次に、発明者等は、風量と水膜量との関係を確認するための第2の実験を行った。この第2の実験は、第2実施形態の構成で、給気具30による風量としては、最も小さい小風量(3.8m/s)と、中間である中風量(7.5m/s)と、最も大きい大風量(25.0m/s)とで行った。
【0042】
その結果は、図5(B)に示すように、小風量で動作させた際には、刷版2の表面端部に1.11μmの水膜が形成されていた。また、中風量で動作させた際には、刷版2の表面端部に1.00μmの水膜が形成されていた。さらに、大風量で動作させた際には、刷版2の表面端部に0.96μmの水膜が形成されていた。
【0043】
この結果から、給水装置による刷版2への給水量は、給気具30の風量を調節することにより調節が可能であることを確認できた。
【0044】
これら第1および第2の実験結果からすると、水元ローラ19と調量ローラ23のローラ端面19a,23aのニップ部に空気を供給する形態が、最も効率的に湿し水の過剰供給を防止できると言える。そして、その給水量は、給気量を調節することにより調節が可能である。勿論、給気量は、小さい方が消費電力や異音の発生を抑制できるため、最も効果的である。但し、これらを考慮することなく、印刷画像の品質のみを考慮すれば、第2および第3実施形態の構成でも十分に効果を得ることができる。
【0045】
なお、本発明のオフセット印刷機の給水装置は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0046】
例えば、前記実施形態では、給水装置を構成する給水ローラ群18を4ローラ型により構成したが、3ローラ型で構成してもよい。この場合、水元ローラ19は表面がゴム製、調量ローラ23は表面が金属製であり、この調量ローラ23にゴム製の水着ローラが線接触するように配設される。
【0047】
また、前記実施形態では、流体供給手段である給気具30は、水元ローラ19と調量ローラ23とのローラ端面19a,23aにおけるニップ部または端面近傍の外周面に流体を供給するように構成したが、第1ローラとしての調量ローラ23と、第2ローラとしての移しローラ26または水着ローラとのローラ端面におけるニップ部または端面近傍の外周面に供給するように構成してもよい。
【0048】
さらに、前記実施形態では、流体供給手段は空気を供給する給気具30により構成したが、液体または気体と液体とを混合した気液混合体を供給する構成としてもよい。この場合には、液体は湿し水とし、水舟10内に混入しても不都合が生じないようにすることが好ましい。
【0049】
さらにまた、前記各実施形態では、各ローラ19,23,26において、芯材端面20a,24a,26aと表層端面22b,25b,29bとからなるローラ端面19a,23a,26aを面一に構成したが、ローラ端面19a,23a,26aは、芯材端面20a,24a,26aが表層端面22b,25b,29bより外側に突出する構成であってもよい。この場合でも、湿し水は、表層端面22b,25b,29bを伝って外周面22a,25a,29aに再付着するため、給気具30による給気は、表層端面22b,25b,29bに行う構成とすれば、前記と同様の作用および効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態に係るオフセット印刷機の給水装置を示す斜視図である。
【図2】図1の給水装置を示し、(A)は側方断面図、(B)は正面断面図である。
【図3】第2実施形態の給水装置を示し、(A)は側方断面図、(B)は正面断面図である。
【図4】第3実施形態の給水装置を示し、(A)は側方断面図、(B)は正面断面図である。
【図5】(A)は第1の実験結果を示すグラフ、(B)は第2の実験結果を示すグラフである。
【図6】(A)はオフセット印刷機の構成を示す概略図、(B)は従来の給水装置の問題点を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0051】
10…水舟
18…給水ローラ群
19…水元ローラ(第1ローラ)
19a…第1ローラ端面
20…芯材
20a…芯材端面
22…第1表層部材
22a…外周面
22b…表層端面
23…調量ローラ(第2ローラ)
23a…第2ローラ端面
24…芯材
24a…芯材端面
25…第2表層部材
25a…外周面
25b…表層端面
26…移しローラ
30…給気具(給気手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に湿し水が付着する第1ローラと、
前記第1ローラに対して軸方向に沿って所定のニップ圧で略線接触するように配設され、その外周面に、前記第1ローラの外周面に付着した湿し水が転移される第2ローラと、
少なくとも前記第2ローラのローラ端面またはローラ端面近傍の外周面において、前記第1ローラとのニップ部に向けて所定圧力で流体を供給する流体供給手段と、
を備えたことを特徴とするオフセット印刷機の給水装置。
【請求項2】
前記第1ローラは、水舟に定水位で貯留された湿し水に外周面の一部を浸漬させる水元ローラであることを特徴とする請求項1に記載のオフセット印刷機の給水装置。
【請求項3】
前記流体供給手段による流体の供給圧力を変更可能としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のオフセット印刷機の給水装置。
【請求項4】
前記流体供給手段の供給方向を、湿し水を定水位で貯留する水舟に向かうようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のオフセット印刷機の給水装置。
【請求項5】
前記第2ローラは、芯材と、該芯材の外周面を被覆する表層部材とを備え、前記流体供給手段からの流体が、少なくとも前記表層部材の端面または端面近傍の外周面に供給されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のオフセット印刷機の給水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−56663(P2009−56663A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225069(P2007−225069)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(390003344)株式会社加貫ローラ製作所 (9)
【Fターム(参考)】