説明

オフセット印刷装置

【課題】印刷精度の低下を防止することができ、しかも生産性が低下することなく、製造コストも安価にできる、高精度の微細印刷が可能なオフセット印刷装置を提供する。
【解決手段】ドクターブレード5と、ブランケットロール15と、版取付定盤25と、前記版取付定盤25上に配置される印刷版60と、印刷定盤35とを備えるオフセット印刷装置100において、前記印刷版60及び前記印刷定盤35は、印刷進行方向に対し所定の傾斜角で配置され、前記ドクターブレード5は、前記印刷版60に対して平行にならないように配置され、絵柄がフィルム40へ平行に印刷されるように、フィルム40が前記印刷定盤35に対して平行又は直交方向に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路配線パターン等や半導体関連の各種デバイス等における微細パターンの印刷を、高精度で行うことが可能なオフセット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路配線パターン等や半導体関連の各種デバイス等の電極パターンには極めて高い精度が要求される。従来、このような高精度な電極パターン等の形成は、フォトリソグラフィー法により行われていた。しかしながら、フォトリソグラフィー法は工程が複雑であり、パターン形成のための露光装置が必要であることや材料ロスが多いことなどから、生産性が悪く、製造コストが高くなる問題があった。
【0003】
また、別の方法としてはスクリーン印刷法が知られている。スクリーン印刷法によれば、フォトリソグラフィー法に比べて工程を簡略化することができるが、微細パターン(例えば30μm以下のラインパターン)を安定して繰返し形成することは困難である。
【0004】
このような問題に鑑みて、近年、オフセット印刷法が電極等の微細パターンの形成に用いられるようになっている。オフセット印刷法による印刷装置は、印刷パターンが形成された版ステージとこの版の画線部分にインキを供給するドクターブレード及び版に接触しながら回転し、インキを受理するブランケットロールとを備えている。このブランケットロールに受理されたインキを印刷ステージで、ガラス基板等の表面に所定の微細パターンを形成することができる。(例えば、下記特許文献1、2参照)
【0005】
しかしながら近年は超微細なパターン形成精度が要求されており、このオフセット印刷法でも微細パターンの絵柄、特に直線の組み合わせで構成される絵柄の場合、印刷品質低下の影響が出るケースが発生し、無視できない重大な問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−289731号公報
【特許文献2】特開2010−42553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
微細パターンの絵柄によって生じる印刷品質低下としては、凹版オフセット印刷の場合は、版ステージでインキを版にドクターブレードで掻く際に、ドクターブレードが絵柄の横方向の直線に一致すると、ドクターブレードが版の絵柄横方向直線部に食い込み、その結果として、ガラス基板等に被印刷物表面への微細パターン形成精度が低下するケースが多い。また平版や凸版オフセット印刷全般に見られる印刷品質低下としては、版からブランケットへ絵柄を転写する時に、横方向の線が糸曳き現象の影響でブランケットへ綺麗に転写されないことに起因する印刷品質低下のケースが多い。
【0008】
このドクターブレードが絵柄に食い込むのを防止する方法として、ドクターブレードを版(絵柄)に対し斜めにセットし、絵柄の横方向直線部とドクターブレードが平行にならないようにして、食い込みを防止する方法がある。またドクターブレードは平行にセットし、代わりに版(絵柄)を斜めにセットして絵柄への食い込みを防止する方法もある。また、版からブランケットへ絵柄を転写する時に、糸曳き現象で横方向の線がきれいに転写されない対策として、版を斜めにセットし、インキの糸曳きを防止する方法もある。
【0009】
以上説明した対策法を考慮したオフセット印刷法による印刷装置の代表的な構成例を図3に示す。(a)は平面図、(b)は側面図、(c)はフィルムへの印刷状況を示す。ここで印刷工程の概略を説明する。オフセット印刷装置1は、ドクターブレード5とブランケットロール15を備えた台車10と版ステージ20と印刷ステージ30と、それに被印刷物(ここではフィルム40)から構成されている。ここでドクターブレード5と印刷版(版)60、印刷絵柄(絵柄)65は、図3(a)に示すように、矢印で示す印刷方向に対し斜めにセットされている。
【0010】
図面右端の台車10のドクターブレード5が図面左の版ステージ端5aまで移動し、インキを版取付定盤25にセットされている版60に供給する。その後、ブランケットロール15が版60上を回転し、版60の絵柄をブランケットロール15の表面に転写する。その後、このブランケットロール15は印刷ステージ30に移動し、被印刷物(ここではフィルム40)の表面を回転しながら15bの位置まで移動し、絵柄をフィルム40に印刷する。10bは印刷装置1の左端から右端に移動した台車を示す。
【0011】
印刷ステージ30でフィルム40への印刷が完了したら、フィルム40を1ピッチ分送り出し、印刷ステージ30の印刷定盤35にて所定の位置で固定し次の印刷に備える。以下、同様な工程を繰り返してフィルム40への印刷を行っていく。ここで、2、3は印刷装置の架台フレーム、41は印刷されたフィルム、55、56はフィルム40の供給ライン保持ロールを示す。また台車10、ドクターブレード5及びブランケットロール15は図示しないが、水平方向への移動手段と垂直方向への昇降手段を備えている。
【0012】
このようにドクターブレード5と版60を斜めにセットし、フィルム40等へ印刷すると、従来発生していた印刷品質低下の問題は解決できる。しかしながら図(c)に示すように、フィルム40に対し絵柄65を斜めに印刷するため、印刷されたフィルム41をカットするときのフィルム41の長さLが長くなる。このためフィルム40の歩留まりが悪くなり、製造コストが高くなる問題が発生した。また前工程で一次印刷されたフィルム41へ複数印刷をする場合には、斜めに印刷されている一次絵柄との位置合わせの問題も発生し、生産性が悪くなる要因となった。
【0013】
本発明は、上述した従来のオフセット印刷法の問題を解決すべくなされるものであって、印刷精度の低下を防止することができ、しかも生産性が低下することなく、製造コストも安価にできる、高精度の微細印刷が可能なオフセット印刷装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ドクターブレードと、ブランケットロールと、版取付定盤と、前記版取付定盤上に配置される印刷版と、印刷定盤とを備えるオフセット印刷装置において、前記印刷版及び前記印刷定盤は、印刷進行方向に対し所定の傾斜角で配置され、前記ドクターブレードは、前記印刷版に対して平行にならないように配置され、絵柄が被印刷部へ平行に印刷されるように、被印刷体が印刷進行方向に対し所定の傾斜角で供給されることを特徴とするオフセット印刷装置である。
【0015】
また本発明のオフセット印刷装置において、前記印刷版と前記印刷定盤とは、印刷進行方向に対し同じ傾斜角で配置されていることを特徴とする。
【0016】
また本発明のオフセット印刷装置において、前記ドクターブレードが、印刷進行方向に対し所定の傾斜角で配置されていることを特徴とする。
【0017】
また本発明のオフセット印刷装置において、前記被印刷体の供給方向が、印刷進行方向と略直交方向であることを特徴とする。
【0018】
また本発明のオフセット印刷装置において、前記ドクターブレード、前記版取付定盤、前記印刷定盤及び前記被印刷体の供給方向を、任意の角度に調整可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のオフセット印刷装置は、印刷版、印刷定盤が印刷進行方向に対し所定の傾斜角で、またドクターブレードが印刷版に対して平行にならないように配置されているので、印刷精度の低下を防止することができる。さらに本発明によれば、絵柄は被印刷部へ平行に印刷されているため、フィルムに印刷された絵柄を一枚づつ切断する時のフィルムの長さが短くなり、フィルムの歩留まりが向上し、製造コストを低減できる。
【0020】
また本発明によれば、フィルムを印刷進行方向に対してほぼ直交する方向に供給可能なため、多種多様な絵柄パターンに対応できるとともに、前後の印刷工程や機械配置に応じて自由な装置構成が可能となる。
【0021】
また本発明によれば、多種多様な絵柄パターンに最適となるようにドクターブレード、印刷版、絵柄、フィルム供給の傾斜角度を可変調整できるため、常に印刷品質の良好な印刷条件を選定できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の微細パターン印刷に関する第1実施例の説明図であり、印刷方向に対し、フィルムを斜めに供給する装置構成である。
【図2】本発明の微細パターン印刷に関する第2実施例の説明図であり、印刷方向に対し、フィルムをほぼ直交する方向に供給する装置構成である。
【図3】本発明の対象とする微細パターン印刷法に関する従来装置構成とその課題の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る微細パターン印刷装置の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は本発明に係る微細パターン印刷装置の第1実施例を示す。(a)図は平面図、(b)図は側面図であり装置の概略構成を示す。なお、図3に示す従来のオフセット印刷装置1と同一の部材には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0024】
第1実施例に示す本発明に係る微細パターン印刷装置100は、オフセット印刷装置であり、図示のようにドクターブレード5は、平面視において矢印で示す印刷方向に対し、斜めにセットされている。ドクターブレード5の取付角度−αは、印刷方向に直交する線を基準としたとき時計回りに傾斜している。また版取付定盤25上の版60も、平面視において印刷方向に対し斜めの状態でセットされている。より具体的には、図示のように印刷方向に直交する線を基準としたとき時計回りに傾斜角+β(以下βと記す)でセットされている。ここでドクターブレード5の傾斜角−αと版60等の傾斜角βとが一致し、版60とドクターブレード5とが平行にならないことが重要である。ドクターブレード5は、最適なインキ供給ができる傾斜角−α、傾斜方向でよい。
【0025】
この傾斜角βの状態でブランケットロール15に版60を転写させる。ブランケットロール15は、印刷方向に直交する線に平行に配置され、ブランケットロール15の移動方向は、矢印で示す印刷方向と平行である。その後、ブランケットロール15は、印刷ステージ30に移動し、印刷定盤35に固定されたフィルム40に印刷する。ここで印刷定盤35は、平面視において矢印で示す印刷方向に対し、版60と同じ角度で配置されており、版60と平行になっている。また供給されるフィルム40も図示のように、短手方向が印刷方向に直交する線を基準としたとき傾斜角βの角度を有し、印刷定盤35に平行に供給、固定されている。よって、印刷絵柄65は、図示のようにフィルム40に平行に印刷される。これによって印刷後のフィルム41を、一枚づつにカッター70で切断する時、フィルム41を絵柄端面に対して平行に切断、又は、フィルム端面に対して直角に切断できる。印刷絵柄65は、図示のようにフィルム40に平行に印刷されるので、図3(c)に示す印刷絵柄65がフィルム40に斜めに印刷された場合に比較して、印刷されたフィルム41をカットするときのフィルム41の長さLが短くなる。これによりフィルム41の歩留まりが向上する。ここで55は、フィルム供給ライン保持ロールである。また45は、枚葉に切断された被印刷物である。
【0026】
図2は本発明に係る微細パターン印刷装置の第2実施例を示す。(a)図は平面図、(b)図は側面図、(c)は正面図であり装置の概略構成を示す。図1に示す第1実施例の微細パターン印刷装置100及び図3に示す従来のオフセット印刷装置1と同一の部材には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0027】
第2実施例に示す微細パターン印刷装置200は、第1実施例に示す微細パターン印刷装置100と同様に、オフセット印刷装置である。第1実施例に示す微細パターン印刷装置100では、版取付定盤25は、短手方向が平面視において矢印で示す印刷方向に対し直交するように配置されていたが、第2実施例に示す微細パターン印刷装置200においては、版取付定盤25、印刷定盤35も平面視において矢印で示す印刷方向に対し、傾斜し、図示のように印刷方向に直交する線を基準としたとき時計回りに傾斜角βでセットされている。また版取付定盤25上の版60は、平面視において印刷方向に対し版取付定盤25と同じ角度でセットされ、版60と版取付定盤25とは平行となっている。またドクターブレード5の取付角度+γ(以下γと記す)は、印刷方向に直交する線を基準としたとき反時計回りに傾斜している。ここでもドクターブレード5の取付角度γと版60の傾斜角βとは異なり、版60とドクターブレード5とは平行になっていない。
【0028】
ブランケットロール15に対し、版取付定盤25上に同一の傾斜角βでセットされている版60のインキが転写される。ブランケットロール15は、印刷方向に直交する線に平行に配置され、ブランケットロール15の移動方向は、矢印で示す印刷方向と平行である。その後、ブランケットロール15は、印刷ステージ30に移動し、印刷定盤35に固定されたフィルム40に印刷するが、この印刷定盤35に供給されるフィルム40は、(a)図示のように、印刷方向とほぼ直交する装置構成となっている。ここで印刷定盤35は、版60と平行に傾斜角βに配置されている。また供給されるフィルム40も図示のように、長手方向が印刷方向に直交する線を基準としたとき傾斜角βの角度を有し、印刷定盤35に平行に供給、固定されている。よって、印刷絵柄65は、図示のようにフィルム41に平行に印刷される。なお、第1実施例と比較すると印刷絵柄65の配置は、90度異なる。これによって印刷後のフィルム41を、一枚づつにフィルムを絵柄端面に対して平行に切断、又は、フィルム端面に対して直角に切断できる。印刷絵柄65は、図示のようにフィルム40に平行に印刷されるので、図3(c)に示す印刷絵柄65がフィルム40に斜めに印刷された場合に比較して、印刷されたフィルム41をカットするときのフィルム41の長さLが短くなる。これによりフィルム41の歩留まりが向上する。また印刷方向に対してほぼ直交するフィルム供給方向であるため、前後の印刷工程や機械配置に応じて自由な装置構成が可能となる。
【0029】
第3実施例として、図1、図2に示したドクターブレード5、版取付定盤25、印刷版60、印刷定盤35及びフィルム供給等の傾斜角度−α、β、γを可変調整できる装置構成とする。これは多種多様な絵柄パターンに対し、常に印刷品質の良好な最適印刷条件を選定できるように考慮したものである。なお、この傾斜角−α、β、γは絵柄に応じて5度から20度の範囲で可変調整できる構成とするのが最適である。使用に際しては、ドクターブレード5と印刷版60とが平行とならない、ブランケットロール15と印刷版60とが平行とならない、印刷版60と印刷定盤35とが平行になり、フィルム40の供給角度を印刷版60の傾斜角度と同一又は直交させることにより、印刷精度の低下を防止し、しかも生産性を低下させることなく、安価に高精度の微細印刷が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は電子回路配線パターン等や半導体関連の各種デバイス等における微細パターンの印刷を高精度で行うことが可能なオフセット印刷装置に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0031】
1・・・オフセット印刷装置
2・・・印刷装置の架台フレーム
3・・・印刷装置の架台フレーム
5・・・ドクターブレード
10・・・台車
15・・・ブランケットロール
20・・・版ステージ
25・・・版取付定盤
30・・・印刷ステージ
35・・・印刷定盤
40・・・印刷前のフィルム
41・・・印刷されたフィルム
45・・・枚葉にカットされた印刷物
55・・・フィルム搬送ライン保持ロール
56・・・フィルム搬送ライン保持ロール
60・・・版(印刷版)
65・・・印刷絵柄
70・・・フィルムカッター
100・・・オフセット印刷装置
200・・・オフセット印刷装置
α、β、γ・・・傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドクターブレードと、ブランケットロールと、版取付定盤と、前記版取付定盤上に配置される印刷版と、印刷定盤とを備えるオフセット印刷装置において、
前記印刷版及び前記印刷定盤は、印刷進行方向に対し所定の傾斜角で配置され、前記ドクターブレードは、前記印刷版に対して平行にならないように配置され、絵柄が被印刷部へ平行に印刷されるように、被印刷体が印刷進行方向に対し所定の傾斜角で供給されることを特徴とするオフセット印刷装置。
【請求項2】
前記印刷版と前記印刷定盤とは、印刷進行方向に対し同じ傾斜角で配置されていることを特徴とする請求項1に記載のオフセット印刷装置。
【請求項3】
前記ドクターブレードが、印刷進行方向に対し所定の傾斜角で配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のオフセット印刷装置。
【請求項4】
前記被印刷体の供給方向が、印刷進行方向と略直交方向であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載のオフセット印刷装置。
【請求項5】
前記ドクターブレード、前記版取付定盤、前記印刷定盤及び前記被印刷体の供給方向を、任意の角度に調整可能としたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1に記載のオフセット印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−171202(P2012−171202A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35290(P2011−35290)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000236104)MHIソリューションテクノロジーズ株式会社 (33)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)