説明

オルガノ変性シリコーン及びそれを含有する金型鋳造用離型剤。

【課題】優れた離型性を金型鋳造用離型剤に付与することができるオルガノ変性シリコーン、及びそれを含有する金型鋳造用離型剤を提供する。
【解決手段】特定の鎖状シリコーンに特定のモノオレフィン及び/又はアルケニル基を有する芳香族炭化水素と特定のジ(メタ)アクリル酸エステルとを、特定のモル比条件を満たすようにヒドロシリル化触媒存在下において付加反応せしめることにより水系溶媒中においても油性溶媒中においても高温条件においても優れた潤滑性すなわち離型性を金型鋳造用離型剤に付与することができるオルガノ変性シリコーン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛等の非鉄金属の金型鋳造に用いる金型鋳造用離型剤に適したオルガノ変性シリコーン、及びそれを含有する金型鋳造用離型剤に関する。
【背景技術】
【0002】
金型鋳造用離型剤の代表的な成分としては、ジメチルシリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル共変性シリコーン及びアルキルエステル共変性シリコーン等のシリコーンが従来から使用されている。
【0003】
前記アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル共変性シリコーン及びアルキルエステル共変性シリコーンは、アルキル基、アラルキル基、エステル基等の側鎖基を有するために潤滑性があり、さらに、金型上で加熱されることによりゲル化されて強固な離型皮膜を形成するため、これらを用いた離型剤の離型性がより高まることが知られている。しかしながら、このような離型剤は、低温条件では離型性を発揮することができるものの、金型を高温にするとシリコーン成分が分解揮発してしまうため十分な離型性が得られないという問題を有していた。また、前記ジメチルシリコーンは高温条件でも非常に安定な化合物であり、耐熱性が高く金型上で加熱されても上記のような離型皮膜を作らないため、得られる離型剤の離型性が不十分であるという問題を有していた。
【0004】
また、高温条件での離型性を高めることを目的として、オルガノ変性シリコーンの粘度を上げて離型剤の金型への付着性を向上させる開発がなされている。例えば、特許文献1では側鎖に加水分解性基を有するジオルガノポリシロキサンの縮合反応生成物を用いた離型剤が開示されており、特許文献2では炭化水素基又は両末端に二重結合をもつ共役ジエンによりオルガノ変性シリコーン同士を架橋せしめた分岐状オルガノ変性シリコーンを用いた離型剤が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載のジオルガノポリシロキサンは加水分解性基を有しているために金型鋳造用離型剤に用いると不安定となり、離型性が十分に得られないという問題を有しており、特許文献2に記載の分岐状オルガノ変性シリコーンは粘度が高いために得られる離型剤の金型への付着性は向上されているものの、その離型性は未だ不十分であり、特に油性の金型鋳造用離型剤に用いると離型性がより低下するという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−12886号公報
【特許文献2】特開2008−69215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、優れた離型性を金型鋳造用離型剤に付与することができるオルガノ変性シリコーン、及びそれを含有する金型鋳造用離型剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の鎖状シリコーンに特定のモノオレフィン及び/又はアルケニル基を有する芳香族炭化水素と特定のジ(メタ)アクリル酸エステルとを、特定のモル比条件を満たすようにヒドロシリル化触媒存在下において付加反応せしめることにより得られたオルガノ変性シリコーンは、水系溶媒中においても油性溶媒中においても高温条件においても優れた潤滑性すなわち離型性を金型鋳造用離型剤に付与することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のオルガノ変性シリコーンは、(I)下記一般式(1):
【0009】
【化1】

【0010】
[式(1)中、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜3の炭化水素基を示し、a及びbは、下記式(i)〜(iii):
0≦a≦195・・・(i)、
5≦b・・・(ii)、
10≦a+b≦200・・・(iii)
で表わされる条件を満たす数である。]
で表わされる鎖状シリコーンに、
(II)炭素数4〜18のモノオレフィン及び/又はアルケニル基を有する炭素数8〜12の芳香族炭化水素と、
(III)下記一般式(2):
【0011】
【化2】

【0012】
[式(2)中、Rは炭素数2〜16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基又は炭素数2〜4のオキシアルキレンの繰り返し数が1〜6であるオキシアルキレン基を示し、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又はメチル基を示す。]
で表わされるジ(メタ)アクリル酸エステルとを、
下記式(iv)で表わされるモル比(I:II:III):
I:II:III=A:B:C・・・(iv)
[式(iv)中、Aは前記(I)鎖状シリコーンの数平均分子量から求めたモル数を示し、B及びCは、下記式(v)〜(vi):
0.05A≦C≦A・・・(v)、
A×b−2C=B・・・(vi)
[式(vi)中、bは式(1)中のbと同義である。]
で表わされる条件を満たす数である。]
の条件を満たすようにヒドロシリル化触媒存在下において付加反応せしめることにより得られるものであることを特徴とするものである。
【0013】
前記本発明のオルガノ変性シリコーンは、下記一般式(3):
【0014】
【化3】

【0015】
[式(3)中、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜3の炭化水素基を示し、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数4〜18の炭化水素基を示し、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数8〜12のアラルキル基を示し、Xは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ下記一般式(4):
【0016】
【化4】

【0017】
[式(4)中、Rは炭素数2〜16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基又は炭素数2〜4のオキシアルキレンの繰り返し数が1〜6であるオキシアルキレン基を示し、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又はメチル基を示す。]
で表わされるジエステル構造を示し、a、c、dは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、a、c、d、eは、下記式(i)、(vii)〜(xi):
0≦a≦195・・・(i)、
0≦c≦199.9・・・(vii)、
0≦d≦199.9・・・(viii)、
0.1≦e≦2・・・(ix)、
5≦c+d+e・・・(x)、
10≦a+c+d+e≦200・・・(xi)
で表わされる条件を満たす数である。]
で表わされることが好ましい。
【0018】
また、本発明の金型鋳造用離型剤は、前記本発明のオルガノ変性シリコーンを含有していることを特徴とするものであり、前記本発明の金型鋳造用離型剤は、界面活性剤と水とをさらに含有している水系金型鋳造用離型剤であるか、又は、液状有機化合物をさらに含有している油性金型鋳造用離型剤であることが好ましい。
【0019】
なお、本発明のオルガノ変性シリコーン及びそれを含有する金型鋳造用離型剤によって前記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明によると、アルキル変性シリコーン及び/又はアラルキル変性シリコーン同士が特定のジエステル構造で架橋されたオルガノ変性シリコーンを得ることができる。このようなオルガノ変性シリコーンを用いた金型鋳造用離型剤においては、金型から成型品を取り出す際に前記架橋構造部分のエステル結合が切れるため、金型から成型品を取り出す際の摩擦が少なくなり、優れた潤滑性すなわち離型性が達成されるものと本発明者らは推察する。
【0020】
また、このような本発明のオルガノ変性シリコーンは水系溶媒においても油性溶媒においても安定であるため、水系金型鋳造用離型剤として用いても油性金型鋳造用離型剤として用いても優れた離型性を発揮することができ、さらに、本発明のオルガノ変性シリコーンは粘度が高いため、これを含有する本発明の金型鋳造用離型剤は金型に対する付着性が高く、高温条件においても優れた離型性を維持することができると本発明者らは推察する。また、本発明の金型鋳造用離型剤は金型鋳造用離型剤の主要な塗布方法であるスプレー塗布において従来よりも広範囲に塗布することができるため、金型鋳造用離型剤の使用量を低減化することが可能となると本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、優れた離型性を金型鋳造用離型剤に付与することができるオルガノ変性シリコーン、及びそれを含有する金型鋳造用離型剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0023】
先ず、本発明のオルガノ変性シリコーンについて説明する。本発明のオルガノ変性シリコーンは、(I)鎖状シリコーンに(II)炭素数4〜18のモノオレフィン及び/又はアルケニル基を有する炭素数8〜12の芳香族炭化水素と(III)ジ(メタ)アクリル酸エステルとを、特定のモル比条件を満たすように、ヒドロシリル化触媒存在下において付加反応せしめることにより得られるものであることを特徴とするものである。
【0024】
本発明において用いられる(I)鎖状シリコーンは、下記一般式(1):
【0025】
【化5】

【0026】
で表わされる。
【0027】
前記式(1)中、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜3の炭化水素基を示し、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。このような炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が挙げられ、これらの中でも工業的に入手し易いという観点からメチル基が好ましい。
【0028】
前記式(1)中、a及びbは、下記式(i)〜(iii):
0≦a≦195・・・(i)、
5≦b・・・(ii)、
10≦a+b≦200・・・(iii)
で表わされる条件を満たす数であり、aが0のときには式:−SiOR−で表わされる基は単結合を示す。aの値が前記上限を超えたり、bの値が前記下限未満であると得られるオルガノ変性シリコーンを離型剤に用いた際の離型性が低下する。また、aとbとの合計(a+b)が前記下限未満であると得られる本発明のオルガノ変性シリコーンの粘度が低下するため離型剤に用いた際の付着性が低下し、他方、前記上限を超えると得られる本発明のオルガノ変性シリコーンの粘度が高くなり取り扱いが困難となる。また、工業的に入手し易いという観点から、(a+b)は40〜60であることが好ましく、50であることがより好ましい。なお、本発明において、a及びbの値は、以下の方法により得ることができる。先ず、鎖状シリコーンと水酸化ナトリウム水溶液とアルコールとの反応により発生する水素ガスが前記式(1)中のヒドロシリル基由来の水素に相当するため、これを測定することにより、前記式(1)中のaとbとの割合が得られる。さらに、ヒドロシリル化触媒存在下で鎖状シリコーンが有するヒドロシリル基にモノオレフィンを付加せしめて得られる付加反応物であるアルキル変性シリコーンの数平均分子量をゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法(ポリエチレングリコール(PEG)換算法)により測定することにより、ヒドロシリル基の数であるbの値が得られ、前記aとbとの割合より、aの値が得られる。
【0029】
このような鎖状シリコーンとしては、例えば、重合度が3〜200であるメチルハイドロジェンポリシロキサン及びジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体等が挙げられる。これらの中でも工業的に入手し易いという観点から重合度が50であるメチルハイドロジェンポリシロキサンを用いることが好ましい。
【0030】
このような鎖状シリコーンにおいては、5個以上のヒドロシリル基(−SiH)を有するため、ヒドロシリル化触媒存在下において、後述する(II)モノオレフィン及び/又はアルケニル基を有する芳香族炭化水素、及び(III)ジ(メタ)アクリル酸エステルにおける炭素−炭素二重結合と反応して本発明のオルガノ変性シリコーンを得ることができる。
【0031】
本発明において用いられる(II)炭素数4〜18のモノオレフィンは、直鎖状であっても分岐鎖状であっても環状構造を有していてもよい。環状構造を有する場合は、炭素−炭素二重結合を有する炭素数2以上の直鎖状構造を1つ有する。前記モノオレフィンの炭素数が前記下限未満であると得られるオルガノ変性シリコーンを離型剤に用いた際の離型性が低下し、他方、前記上限を超えると得られるオルガノ変性シリコーンの融点が高くなるため、工業的に本発明のオルガノ変性シリコーンを製造する際に取り扱いが困難となる。このようなモノオレフィンとしては、得られるオルガノ変性シリコーンを用いた離型剤の潤滑性がより優れる傾向にあるという観点から、直鎖状であり炭素数6〜12であるα−オレフィンが好ましい。前記α−オレフィンとしては、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセンが挙げられる。また、これらのモノオレフィンは1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明において用いられる(II)アルケニル基を有する炭素数8〜12の芳香族炭化水素は、芳香族環に1つの炭素数2〜6のアルケニル基を有している。前記芳香族炭化水素の炭素数が前記上限を超えると得られるオルガノ変性シリコーンを離型剤に用いた際の離型性が低下する。前記アルケニル基としては、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、工業的に本発明のオルガノ変性シリコーンを製造し易いという観点から炭素−炭素二重結合が末端にあることが好ましい。このようなアルケニル基を有する芳香族炭化水素としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。また、これらのアルケニル基を有する芳香族炭化水素は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
前記モノオレフィン及び前記アルケニル基を有する芳香族炭化水素はどちらか1種を単独で用いても両者を組み合わせて用いてもよい。両者を組み合わせて用いる場合には、そのモル比は特に制限されないが、、潤滑性がより優れる離型剤を得ることができるという観点から、前記アルケニル基を有する芳香族炭化水素1モルに対して前記モノオレフィンが0.5〜5モルであることが好ましい。
【0034】
本発明に用いられる(III)ジ(メタ)アクリル酸エステルは、下記一般式(2):
【0035】
【化6】

【0036】
で表わされるアルカンジオールジ(メタ)アクリレート又はアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートである。なお、本発明において、(メタ)アクリル酸とは、メタアクリル酸又はアクリル酸を示し、(メタ)アクリレートとは、メタアクリレート又はアクリレートを示す。
【0037】
前記式(2)中、Rはアルキレン基又はオキシアルキレン基を示す。前記アルキレン基は、直鎖状又は分岐鎖状であり、得られるオルガノ変性シリコーンを離型剤に用いた際の離型性が優れるという観点から、炭素数は2〜16である。また、工業的に入手し易いという観点から、前記炭素数は2〜12であることが好ましい。このようなアルキレン基としては、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、エチルエチレン基、2−メチルトリメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノニルメチレン基等が挙げられる。前記オキシアルキレン基において、オキシアルキレン基を構成するオキシアルキレンの炭素数は2〜4である。炭素数が前記上限を超えると得られるオルガノ変性シリコーンを離型剤に用いた際の離型性が低下する。このようなオキシアルキレンとしては、オキシエチレン、オキシプロピレン、オキシテトラメチレン、オキシブチレンが挙げられ、これらの中でも、得られるオルガノ変性シリコーンを離型剤に用いた際の離型性がより優れるという観点から、オキシエチレン、オキシプロピレンが好ましい。また、前記オキシアルキレンの繰り返し数は1〜6であり、繰り返し数が前記上限を超えると得られるオルガノ変性シリコーンを離型剤に用いた際の離型性が低下する。さらに、前記繰り返し数としては、工業的に入手し易いという観点から、1〜4であることが好ましい。このようなオキシアルキレン基としては、オキシアルキレンが1種であっても2種以上であってもよいが、工業的に入手し易いという観点から、オキシエチレン又はオキシプロピレンが単独で繰り返されていることがより好ましい。前記式(2)中、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又はメチル基を示し、工業的に入手し易いという観点から、水素原子であることが好ましい。
【0038】
このようなジ(メタ)アクリル酸エステルとしては、エタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールジ(メタ)アクリレート;テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中でも、工業的に入手し易いという観点から、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。また、これらのジ(メタ)アクリル酸エステルは1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0039】
このようなジ(メタ)アクリル酸エステルにおいては、炭素−炭素二重結合を両末端に有し、ジエステル構造を有しているため、アルキル変性シリコーン、アラルキル変性シリコーン及びアルキルアラルキル共変性シリコーンからなる群より選択される1種同士又は2種以上のもの同士をジエステル構造で架橋することができ、このような架橋構造を有する本発明のオルガノ変性シリコーンを用いた離型剤に優れた潤滑性すなわち離型性を付与することができる。
【0040】
本発明において、前記(I)鎖状シリコーンと前記(II)モノオレフィン及び/又はアルケニル基を有する芳香族炭化水素と前記(III)ジ(メタ)アクリル酸エステルとのモル比は、下記式(iv)で表わされるモル比(I:II:III):
I:II:III=A:B:C・・・(iv)
の条件を満たす必要がある。
【0041】
前記式(iv)中、Aは前記(I)鎖状シリコーンの数平均分子量から求めたモル数を示す。本発明において、数平均分子量から求めたモル数とは、前記(I)鎖状シリコーンの質量を数平均分子量で除した数である。本発明において、前記(I)鎖状シリコーンの数平均分子量は、前記式(1)中のa及びbから算出した分子量であり、a及びbの値は、前述の方法により得られる。
【0042】
前記式(iv)中、B及びCは、下記式(v)〜(vi):
0.05A≦C≦A・・・(v)、
A×b−2C=B・・・(vi)
で表わされる条件を満たす数である。
【0043】
前記式(vi)中、bは前記一般式(1)中のbと同義である。前記式(v)で表わされる条件において、Cの値が前記下限未満であると得られるオルガノ変性シリコーンの粘度が低下するために離型剤に用いた際の付着性が低下し、他方、前記上限を超えると得られるオルガノ変性シリコーンの粘度が高くなって取り扱いが困難となる。また、より優れた離型性を金型鋳造用離型剤に付与することができるという観点から、Cの値は0.15A〜0.5Aの範囲にあることが好ましい。前記式(vi)で表わされる条件において、Bの値は前記(I)鎖状シリコーンにおけるヒドロシリル基が前記(III)ジ(メタ)アクリル酸エステルにより架橋された残りのヒドロシリル基の数を示す。
【0044】
本発明においては、前記(I)鎖状シリコーンに前記(II)モノオレフィン及び/又はアルケニル基を有する芳香族炭化水素と前記(III)ジ(メタ)アクリル酸エステルとを、前記モル比条件を満たすように、ヒドロシリル化触媒存在下において付加反応せしめる。
【0045】
前記ヒドロシリル化触媒は、前記(I)鎖状シリコーンのヒドロシリル基と前記(II)モノオレフィン及び/又はアルケニル基を有する芳香族炭化水素、及び前記(III)ジ(メタ)アクリル酸エステルにおける炭素−炭素二重結合とを反応せしめる触媒である。このようなヒドロシリル化触媒としては、公知のものを制限なく用いることができ、例えば、VIII族遷移金属又はその化合物等が挙げられる。前記VIII族遷移金属としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム等が挙げられ、前記VIII族遷移金属化合物としては、PtCl、HPtCl・6HO、Pt−エーテル錯体、Pt−オレフィン錯体、Pt−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、PdCl(PPh、PdCl(PhCN)、RhCl(PPh等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよく、必要に応じて、アルコール類、芳香族化合物、炭化水素類、ケトン類、塩基性溶媒、及びそれらの混合物で希釈して用いてもよい。前記ヒドロシリル化触媒のヒドロシリル化触媒の使用量は、系内の反応物(溶媒等を除く)の全質量に対して、触媒中の金属元素が1〜50質量ppmとなる使用量であることが好ましく、経済的な観点から1〜5質量ppmであることが好ましい。
【0046】
本発明に係る付加反応としては、公知の反応方法を適宜採用することができる。また、前記(I)鎖状シリコーンに前記(II)モノオレフィン及び/又はアルケニル基を有する芳香族炭化水素と前記(III)ジ(メタ)アクリル酸エステルとを付加せしめる順序に特に制限はなく、(I)に(II)と(III)とを同時に付加せしめてもよいし、(II)と(III)とを順に(I)に反応せしめてもよいし、適宜交互に反応せしめてもよい。
【0047】
前記付加反応の条件としては、採用する反応方法に応じて適宜調整することができ、例えば、温度50〜150℃において6〜12時間反応させることができる。前記温度が前記下限未満となると反応が進みにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると反応を制御しにくくなる傾向にある。なお、前記付加反応が完結したことの確認は、得られたオルガノ変性シリコーンのFT−IR分析を行い、原料である(I)鎖状シリコーンのヒドロシリル基由来の吸収スペクトルが消失したことにより確認することができる。
【0048】
本発明のオルガノ変性シリコーンは、前述の製造方法により得ることができる。このような本発明のオルガノ変性シリコーンとしては、下記一般式(3):
【0049】
【化7】

【0050】
で表わされることが好ましい。
【0051】
前記式(3)中、Rは、前記式(1)中のRと同義である。前記式(3)中、Rは、前記(II)炭素数4〜18のモノオレフィンに由来する基であり、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数4〜18の炭化水素基を示し、直鎖状であっても分岐鎖状であっても環状構造を有していてもよく、鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。前記Rの炭素数が前記下限未満であると得られるオルガノ変性シリコーンを離型剤に用いた際の離型性が低下する。このような炭化水素基としては、得られるオルガノ変性シリコーンを用いた離型剤の潤滑性がより優れるという観点から、直鎖状であり炭素数6〜12であることが好ましく、例えば、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が好ましい。また、前記式(3)中、Rは、前記(II)アルケニル基を有する炭素数8〜12の芳香族炭化水素に由来する基であり、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数8〜12のアラルキル基を示す。前記Rの炭素数が前記上限を超えると得られるオルガノ変性シリコーンを離型剤に用いた際の離型性が低下する。このようなアラルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、2−フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、2−(1−ナフチル)エチル基等が挙げられる。これらの中でも、材料を工業的に入手し易いという観点から、フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基が好ましい。
【0052】
前記式(3)中、Xは、前記(III)ジ(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造であり、同一でも異なっていてもよく、それぞれ下記一般式(4)
【0053】
【化8】

【0054】
で表わされるジエステル構造を示す。前記式(4)中、R及びRはそれぞれ前記式(2)中のR及びRと同義である。
【0055】
前記式(3)中、a、c、d、eは、下記式(i)、(vii)〜(xi):
0≦a≦195・・・(i)、
0≦c≦199.9・・・(vii)、
0≦d≦199.9・・・(viii)、
0.1≦e≦2・・・(ix)、
5≦c+d+e・・・(x)、
10≦a+c+d+e≦200・・・(xi)
で表わされる条件を満たす数である。aが0のときには式:−SiOR−で表わされる基、cが0のときには式:−SiOR−で表わされる基、dが0のときには式:−SiOR−で表わされる基はそれぞれ単結合を示す。aの値が前記上限を超えると得られるオルガノ変性シリコーンを離型剤に用いた際の離型性が低下する。
【0056】
前記式(3)中のeは、前記式(3)で表わされる本発明のオルガノ変性シリコーンにおけるジエステル構造の含有量を示す。すなわち、例えば、eが1のとき、前記(I)鎖状シリコーン2モルから得られる本発明のオルガノ変性シリコーンに前記式(4)で表わされるジエステル構造が平均1モル含有されていることを示し、eが0.5のとき、前記(I)鎖状シリコーン4モルから得られる本発明のオルガノ変性シリコーンに前記ジエステル構造が平均1モル含有されていることを示し、eが0.1のとき、前記(I)鎖状シリコーン20モルから得られる本発明のオルガノ変性シリコーンに前記ジエステル構造が平均1モル含有されていることを示し、eが2のとき、前記(I)鎖状シリコーン2モルから得られる本発明のオルガノ変性シリコーンに前記ジエステル構造が平均2モル含有されていることを示す。このようなeの値が前記下限未満であると得られる本発明のオルガノ変性シリコーンの粘度が低下するため離型剤に用いた際の付着性が低下し、他方、前記上限を超えると得られる本発明のオルガノ変性シリコーンの粘度が高くなり取り扱いが困難となる。また、より優れた離型性を金型鋳造用離型剤に付与することができるという観点から、eの値は0.2〜1の範囲にあることが好ましい。
【0057】
前記式(3)中、c〜eの合計(c+d+e)が前記下限未満であると得られるオルガノ変性シリコーンを離型剤に用いた際の離型性が低下し、a、c〜eの合計(a+c+d+e)が前記下限未満であると得られる本発明のオルガノ変性シリコーンの粘度が低下するため離型剤に用いた際の付着性が低下し、他方、前記上限を超えると得られる本発明のオルガノ変性シリコーンの粘度が高くなり取り扱いが困難となる。また、原料が工業的に入手し易いという観点から、(a+c+d+e)は40〜60であることが好ましく、50であることがより好ましい。さらに、より潤滑性に優れる金型鋳造用離型剤が得られるという観点から、cとdとの比(c:d)は、1:2〜5:1の条件を満たすことが好ましい。
【0058】
前記式(3)中、a、c、dはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、繰り返し数がaである式:−SiOR−で表わされる基、繰り返し数がcである式:−SiOR−で表わされる基、繰り返し数がdである式:−SiOR−で表わされる基、繰り返し数がeであるジエステル構造を有する基の配列はこの順に制限されず、それぞれランダムであってもよく、ブロックであってもよい。
【0059】
このようなオルガノ変性シリコーンは、アルキル変性シリコーン及び/又はアラルキル変性シリコーン同士が特定のジエステル構造で架橋された構造を有しているため、金型鋳造用離型剤に用いた際に、金型への良好な付着性が得られる粘度を有し、且つ、ジエステル構造によりさらに優れた潤滑性すなわち離型性が達成されるものと本発明者らは推察する。なお、本発明において、オルガノ変性シリコーンの25℃における粘度は、単一円筒型回転粘度計(B型粘度計)を用いてJIS K7117−1(1999)に従った方法で測定することができる。本発明のオルガノ変性シリコーンの25℃における粘度としては、1000mPa・s以上であることが好ましく、金型鋳造用離型剤に用いる際に取り扱いがより容易になるという観点から、1000〜40000mPa・sであることがより好ましい。
【0060】
次いで、本発明の金型鋳造用離型剤について説明する。本発明の金型鋳造用離型剤は、前記本発明のオルガノ変性シリコーンを含有していることを特徴とするものである。本発明において、金型鋳造用離型剤とは、金型鋳造に用いられる離型剤及び金型鋳造に用いられる潤滑剤を意味する。
【0061】
本発明の金型鋳造用離型剤において、オルガノ変性シリコーンの含有量は、離型剤の形態や用いるオルガノ変性シリコーンに応じて適宜調整することができるが、0.05〜40質量%であることが好ましい。また、本発明の金型鋳造用離型剤としては、本発明の目的を阻害しない範囲内において、界面活性剤、水、有機溶媒、添加剤等をさらに含有していてもよい。このような金型鋳造用離型剤としては、溶媒が水系である水系金型鋳造用離型剤、溶媒が油性である油性金型鋳造用離型剤を挙げることができる。本発明のオルガノ変性シリコーンは、水系金型鋳造用離型剤に含有せしめても油性金型鋳造用離型剤に含有せしめても優れた離型性及び付着性を金型鋳造用離型剤に付与することができる。
【0062】
本発明において、前記水系金型鋳造用離型剤(以下場合により水系離型剤という)としては、本発明のオルガノ変性シリコーンと界面活性剤と水とを含有しており、前記水を分散媒とする乳濁液であることが好ましい。本発明のオルガノ変性シリコーンは、界面活性剤により水に安定に乳化せしめることができる。このような水系離型剤において、前記オルガノ変性シリコーンの含有量は0.05〜40質量%であることが好ましい。含有量が前記下限未満であると十分な離型性が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると水系離型剤の流動性が低下して取り扱い難くなる傾向にある。
【0063】
前記界面活性剤としては、用いるオルガノ変性シリコーンを安定に乳化せしめることができればよく、特に制限されず、例えば、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アルキレンオキサイド付加物、高級アミンアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドアルキレンオキサイド付加物等の非イオン界面活性剤等が挙げられる。このような界面活性剤の含有量としては、用いる本発明のオルガノ変性シリコーンにより適宜調整することができるが、優れた離型性を得るために安定な乳化に必要な最小量とするという観点からは、水系離型剤におけるオルガノ変性シリコーンの含有量に対して5〜25質量%とすることが好ましい。
【0064】
前記水としては、水道水、純水、イオン交換水等を用いることができる。水の含有量は、オルガノ変性シリコーンの含有量が前述の範囲内となるように適宜調整することができる。
【0065】
また、前記水系離型剤としては、必要に応じて、付着性や離型性を損なわない範囲で、金型鋳造用離型剤に従来から使用されている添加剤をさらに含有することができる。このような添加剤としては、例えば、アルキルサルフェート、タモール型等の陰イオン性界面活性剤、テトラアルキルアンモニウム塩等の陽イオン性界面活性剤、アルキルベタイン等の両性界面活性剤;上記以外の非イオン界面活性剤;椰子油、大豆油、菜種油等の植物油;鉱物油;シリコーン、ジメチルシリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン等のシリコーン化合物;油脂;合成エステル油;油性剤;合成ワックス;消泡剤;増粘剤;防錆剤;防腐剤;水性高分子;pH調整剤;防かび剤等が挙げられる。また、防煙及び防炎性を高めるために、重炭酸塩、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩、及びホウ酸等の無機物をさらに含有していてもよい。これらの添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記添加剤の含有量は、水系離型剤において10質量%以下であることが好ましい。
【0066】
前記水系離型剤を製造する方法としては、特に制限されず、前記本発明のオルガノ変性シリコーン、前記界面活性剤、前記水及び必要に応じて前記添加剤を混合し、必要に応じてホモジナイザー、コロイドミル、プラネタリーミキサー等の乳化装置を用いて乳化し、水中油滴型のエマルジョンを生成する方法等が挙げられる。
【0067】
前記水系離型剤を使用する際は、得られた水系離型剤そのもの、又は、さらに水を加えて乳化させたものを金型の成形周面に塗布する。塗布する方法としては従来公知の方法を採用することができ、例えば、スプレーガンを用いて吹き付ける方法(スプレー塗布)等が挙げられる。塗布量は、用いる水系離型剤におけるオルガノ変性シリコーンの含有量、金型内へ射出する金属溶湯の種類、射出圧、金型の温度等の鋳造条件等によって適宜調整することができ、例えば、水系離型剤にさらにその質量が50〜200倍となるように水を加えて乳化させたものをスプレー塗布する場合、表面積が0.2m程度の成形型に対して0.2〜5L程度となるような塗布量が挙げられる。本発明の金型鋳造用離型剤は、このようなスプレー塗布において、従来よりも広範囲に塗布することができるため、使用量を低減化することができる。
【0068】
本発明において、油性金型鋳造用離型剤(以下場合により油性離型剤という)としては、本発明のオルガノ変性シリコーンと液状有機化合物とを含有しており、前記液状有機化合物を分散媒又は溶媒とするものであることが好ましい。このような油性離型剤において、前記オルガノ変性シリコーンの含有量は0.05〜40質量%であることが好ましい。含有量が前記下限未満であると十分な離型性が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると油性離型剤の流動性が低下して取り扱い難くなる傾向にある。
【0069】
前記液状有機化合物としては、椰子油、大豆油、菜種油、パーム油等の植物油;牛油、豚脂等の動物油;マシン油、タービン油、スピンドル油、シリンダー油、灯油等の鉱物油;オレイン酸、ステアリン酸、ラウリル酸、牛脂脂肪酸等の高級脂肪酸の一価アルコールエステルや多価アルコールエステル;有機モリブテン、イソプロパノール等のアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;塩素化炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;及びこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも相溶性がより優れるという観点から鉱物油、芳香族炭化水素が好ましい。このような液状有機化合物の含有量は、オルガノ変性シリコーンの含有量が前述の範囲内となるように適宜調整することができる。
【0070】
また、前記油性離型剤としては、必要に応じて、付着性や離型性を損なわない範囲で、金型鋳造用離型剤に従来から使用されている添加剤をさらに含有することができる。このような添加剤としては前記水系離型剤において挙げたものと同様のものを挙げることができ、その含有量は、油性離型剤において10質量%以下であることが好ましい。
【0071】
前記油性離型剤を製造する方法としては、特に制限されず、前記本発明のオルガノ変性シリコーンと前記液状有機化合物と必要に応じて前記添加剤とを、ミキサー等の機器を必要に応じて用いて混合する方法が挙げられる。
【0072】
前記油性離型剤を使用する際は、得られた油性離型剤そのもの、又は、前記液状有機化合物でさらに希釈又は分散したものを金型の成形周面に塗布する。塗布する方法及び塗布量としては前述のとおりである。
【実施例】
【0073】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
1.オルガノ変性シリコーンの製造
オルガノ変性シリコーンの製造において用いたメチルハイドロジェンシロキサン(鎖状シリコーンI−1及び鎖状シリコンI−2)はそれぞれ以下のとおりであった。
【0075】
(鎖状シリコーンI−1)
先ず、鎖状シリコーンI−1、過剰量の水酸化ナトリウム水溶液及びエタノールを反応せしめ、水素ガス発生量を測定した。水素ガス発生量は365ml/gであった。得られた水素ガス発生量から鎖状シリコーンI−1中のヒドロシリル基由来の水素量を求めると1.6質量%であり、ヒドロシリル基当量は63g/molとなり、前記一般式(1)中のaは0であった。
【0076】
次いで、撹拌機、温度計、還流冷却機、窒素ガス導入管及び滴下ロートを備えた反応容器に鎖状シリコーンI−1(63g)、1−オクタデセン(25g、0.15モル)を入れ、65℃まで加熱しながら均一となるまで混合した。次いで、ヒドロシリル化触媒として、塩化白金(IV)のエチレングリコールモノブチルエーテル・トルエン混合溶液を、系内の反応物に対し白金濃度が5ppmとなるように添加したところ、発熱したため冷却しながら反応させた。反応物の温度が90℃となったところで、1−オクタデセン(151g、0.90モル)を反応物の温度が80〜110℃となるよう、反応物を冷却しながら滴下した。滴下後反応物を加熱して温度を120℃とし、4時間攪拌し反応させ、付加反応を完結させた。その後、160℃で減圧、吸引して反応物から過剰の1−オクタデセンを除去し、付加反応物を225g得た。付加反応が完結したことの確認は、得られた付加反応物のFT−IR分析を行い、原料であるメチルハイドロジェンシロキサンのSiH基由来の吸収スペクトルが消失したことを確認することで行った。
【0077】
得られた付加反応物の数平均分子量をGPC法(PEG換算法)により測定したところ、11500であり、前記一般式(1)中のbは51であった。a、b及び付加反応物の数平均分子量から、鎖状シリコーンI−1の数平均分子量は3200であった。
【0078】
(鎖状シリコーンI−2)
先ず、鎖状シリコーンI−1と同様にして水素ガス発生量を測定したところ、365ml/gであった。得られた水素ガス発生量から鎖状シリコーンI−2中のヒドロシリル基由来の水素量は0.7質量%であり、ヒドロシリル基当量は142g/molとなり、前記一般式(1)中のa:bは1:1であった。
【0079】
次いで、鎖状シリコーンI−1(63g)を鎖状シリコーンI−2(142g)に代えたこと以外は鎖状シリコーンI−1と同様にして付加反応物を得た。得られた付加反応物の数平均分子量は6200であり、前記一般式(1)中のaは22であり、bは22であり、鎖状シリコーンI−2の数平均分子量は3100であった。
【0080】
(実施例1)
先ず、撹拌機、温度計、還流冷却機、窒素ガス導入管及び滴下ロートを備えた反応容器に鎖状シリコーンI−1(63g、数平均分子量から求めたモル数:0.02モル)、0.13モルのα―メチルスチレン(15g)、0.03モルの1−ドデセン(5.0g)を入れ、65℃まで加熱しながら均一となるまで混合した。次いで、ヒドロシリル化触媒として、塩化白金(IV)のエチレングリコールモノブチルエーテル・トルエン混合溶液を、系内の反応物に対し白金濃度が5ppmとなるように添加したところ、発熱したため冷却しながら反応させた。反応物の温度が90℃となったところで、0.37モルのα―メチルスチレン(44g)を反応物の温度が80〜110℃となるよう、反応物を冷却しながら滴下した。滴下後反応物を加熱して温度を120℃とし、1時間攪拌し反応させた。その後冷却し反応物の温度が90℃となったところで0.25モルの1−ドデセン(42g)を、反応物の温度が80〜110℃となるよう反応物を冷却しながら滴下した後、0.01モルの1,4−ブタンジオールジアクリレート(2.0g)を添加した。
【0081】
次いで、0.25モルの1−ドデセン(42g)を反応物の温度が80〜110℃となるように反応物を冷却しながら滴下し、その後100℃で1時間、さらに120℃で4時間反応物を攪拌し付加反応を完結させた。その後、120℃で反応物を曝気して過剰の1−ドデセンを除去し、オルガノ変性シリコーンを得た。付加反応が完結したことの確認は、得られたオルガノ変性シリコーンのFT−IR分析を行い、原料であるメチルハイドロジェンシロキサンのSiH基由来の吸収スペクトルが消失したことを確認することで行った。また、得られたオルガノ変性シリコーンの25℃における粘度を単一円筒型回転粘度計(B型粘度計)を用いてJIS K7117−1(1999)に従った方法で測定した。得られたオルガノ変性シリコーンの原料組成、収量及び粘度を表1に示し、得られたオルガノ変性シリコーンの組成を表3に示す。表3中、R、R、R、X、a、c、d、eはそれぞれ前記一般式(3)中のR、R、R、X、a、c、d、eを示す。
【0082】
(実施例2)
0.01モルの1,4−ブタンジオールジアクリレート(2.0g)を0.01モルの1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(2.3g)に代えたこと以外は実施例1と同様にしてオルガノ変性シリコーンを得た。得られたオルガノ変性シリコーンの原料組成、収量及び粘度を表1に示し、得られたオルガノ変性シリコーンの組成を表3に示す。
【0083】
(実施例3)
0.01モルの1,4−ブタンジオールジアクリレート(2.0g)を0.005モルの1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(1.1g)に代えたこと以外は実施例1と同様にしてオルガノ変性シリコーンを得た。得られたオルガノ変性シリコーンの原料組成、収量及び粘度を表1に示し、得られたオルガノ変性シリコーンの組成を表3に示す。
【0084】
(実施例4)
0.01モルの1,4−ブタンジオールジアクリレート(2.0g)を0.0027モルの1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(0.6g)に代えたこと以外は実施例1と同様にしてオルガノ変性シリコーンを得た。得られたオルガノ変性シリコーンの原料組成、収量及び粘度を表1に示し、得られたオルガノ変性シリコーンの組成を表3に示す。
【0085】
(実施例5)
0.01モルの1,4−ブタンジオールジアクリレート(2.0g)を0.005モルの1,9−ノナンジオールジアクリレート(1.3g)に代えたこと以外は実施例1と同様にしてオルガノ変性シリコーンを得た。得られたオルガノ変性シリコーンの原料組成、収量及び粘度を表1に示し、得られたオルガノ変性シリコーンの組成を表3に示す。
【0086】
(実施例6)
0.01モルの1,4−ブタンジオールジアクリレート(2.0g)を0.005モルのテトラエチレングリコールジアクリレート(1.5g)に代えたこと以外は実施例1と同様にしてオルガノ変性シリコーンを得た。得られたオルガノ変性シリコーンの原料組成、収量及び粘度を表1に示し、得られたオルガノ変性シリコーンの組成を表3に示す。
【0087】
(実施例7)
鎖状シリコーンI−1を鎖状シリコーンI−2(142g、数平均分子量から求めたモル数:0.046モル)に代え、0.01モルの1,4−ブタンジオールジアクリレート(2.0g)を0.005モルの1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(1.1g)に代えたこと以外は実施例1と同様にしてオルガノ変性シリコーンを得た。得られたオルガノ変性シリコーンの原料組成、収量及び粘度を表1に示し、得られたオルガノ変性シリコーンの組成を表3に示す。
【0088】
(比較例1)
0.01モルの1,4−ブタンジオールジアクリレートを用いなかったこと以外は実施例1と同様にしてオルガノ変性シリコーンを得た。得られたオルガノ変性シリコーンの原料組成、収量及び粘度を表2に示す。
【0089】
(比較例2)
0.01モルの1,4−ブタンジオールジアクリレート(2.0g)を0.01モルの1,5−ヘキサジエン(0.8g)に代えたこと以外は実施例1と同様にしてオルガノ変性シリコーンを得た。得られたオルガノ変性シリコーンの原料組成、収量及び粘度を表2に示す。
【0090】
(比較例3)
0.01モルの1,4−ブタンジオールジアクリレート(2.0g)を0.01モルの1,7−オクタジエン(1.1g)に代えたこと以外は実施例1と同様にしてオルガノ変性シリコーンを得た。得られたオルガノ変性シリコーンの原料組成、収量及び粘度を表2に示す。なお、比較例3の粘度については、実施例1と同様の方法で粘度を測定したところ、この測定方法で測定できる最大粘度(100000mPa・s)を超えており、正確な粘度が測定できなかったため、表2においては「高粘度」と表記した。
【0091】
(比較例4)
0.01モルの1,4−ブタンジオールジアクリレート(2.0g)を0.0055モルの1,7−オクタジエン(0.6g)に代えたこと以外は実施例1と同様にしてオルガノ変性シリコーンを得た。得られたオルガノ変性シリコーンの原料組成、収量及び粘度を表2に示す。
【0092】
(比較例5)
0.01モルの1,4−ブタンジオールジアクリレート(2.0g)を0.005モルの1,9−デカジエン(0.7g)に代えたこと以外は実施例1と同様にしてオルガノ変性シリコーンを得た。得られたオルガノ変性シリコーンの原料組成、収量及び粘度を表2に示す。
【0093】
(比較例6)
0.01モルの1,4−ブタンジオールジアクリレート(2.0g)を0.01モルの5−ビニルビシクロ[2,2,1]ヘプラ−2−エン(1.2g)に代えたこと以外は実施例1と同様にしてオルガノ変性シリコーンを得た。得られたオルガノ変性シリコーンの原料組成、収量及び粘度を表2に示す。
【0094】
(比較例7)
ジメチルシリコーン(東レ・ダウコーニング(株)製、製品名:DOW CORNING TORAY SH 200 FLUID 10000cs)(100g)をそのまま用いた。前記ジメチルシリコーンの粘度を表2に示す。
【0095】
(比較例8)
メチル基、ドデシル基等が導入されているアルキルアラルキル変性シリコーン(WACKER製、商品名:WACKER TN)(100g)をそのまま用いた。前記アルキルアラルキル変性シリコーンの粘度を表2に示す。
【0096】
(比較例9)
50gのジメチルシリコーン(東レ・ダウコーニング(株)製、製品名:DOW CORNING TORAY SH 200 FLUID 10000cs)と50gのメチル基、ドデシル基等が導入されているアルキルアラルキル変性シリコーン(WACKER製、商品名:WACKER TN)とを混合し、この混合物を用いた。この混合物の粘度を表2に示す。
【0097】
2.金型鋳造用離型剤の製造
(実施例8)
先ず、実施例1のオルガノ変性シリコーン20質量部と炭素数12〜14の分岐高級アルコールのエチレンオキサイド9モル付加物3質量部とを混合した。次いで、得られた混合物に水77質量部を少量ずつ混合しながら添加し、オルガノ変性シリコーンを水に乳化せしめて水系乳化物を得た。この水系乳化物に水を混合しながら加え、オルガノ変性シリコーン濃度が1質量%である水系離型剤を得た。
【0098】
(実施例9)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを実施例2のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例8と同様にして水系離型剤を得た。
【0099】
(実施例10)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを実施例3のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例8と同様にして水系離型剤を得た。
【0100】
(実施例11)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを実施例4のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例8と同様にして水系離型剤を得た。
【0101】
(実施例12)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを実施例5のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例8と同様にして水系離型剤を得た。
【0102】
(実施例13)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを実施例6のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例8と同様にして水系離型剤を得た。
【0103】
(実施例14)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを実施例7のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例8と同様にして水系離型剤を得た。
【0104】
(比較例10)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例1のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例8と同様にして水系離型剤を得た。
【0105】
(比較例11)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例2のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例8と同様にして水系離型剤を得た。
【0106】
(比較例12)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例3のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例8と同様にして水系離型剤を得た。
【0107】
(比較例13)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例4のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例8と同様にして水系離型剤を得た。
【0108】
(比較例14)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例5のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例8と同様にして水系離型剤を得た。
【0109】
(比較例15)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例6のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例8と同様にして水系離型剤を得た。
【0110】
(比較例16)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例7のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例8と同様にして水系離型剤を得た。
【0111】
(比較例17)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例8のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例8と同様にして水系離型剤を得た。
【0112】
(比較例18)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例9のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例8と同様にして水系離型剤を得た。
【0113】
(実施例15)
実施例1のオルガノ変性シリコーンの濃度が0.5質量%となるようにトルエンと混合し、油性離型剤を得た。
【0114】
(実施例16)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを実施例2のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例15と同様にして油性離型剤を得た。
【0115】
(実施例17)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを実施例3のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例15と同様にして油性離型剤を得た。
【0116】
(実施例18)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを実施例4のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例15と同様にして油性離型剤を得た。
【0117】
(実施例19)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを実施例5のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例15と同様にして油性離型剤を得た。
【0118】
(実施例20)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを実施例6のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例15と同様にして油性離型剤を得た。
【0119】
(実施例21)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを実施例7のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例15と同様にして油性離型剤を得た。
【0120】
(比較例19)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例1のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例15と同様にして油性離型剤を得た。
【0121】
(比較例20)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例2のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例15と同様にして油性離型剤を得た。
【0122】
(比較例21)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例3のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例15と同様にして油性離型剤を得た。
【0123】
(比較例22)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例4のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例15と同様にして油性離型剤を得た。
【0124】
(比較例23)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例5のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例15と同様にして油性離型剤を得た。
【0125】
(比較例24)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例6のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例15と同様にして油性離型剤を得た。
【0126】
(比較例25)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例7のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例15と同様にして油性離型剤を得た。
【0127】
(比較例26)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例8のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例15と同様にして油性離型剤を得た。
【0128】
(比較例27)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例9のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例15と同様にして油性離型剤を得た。
【0129】
(実施例22)
得られる水系離型剤におけるオルガノ変性シリコーン濃度が0.2質量%となるようにしたこと以外は実施例8と同様にして水系離型剤を得た。
【0130】
(実施例23)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを実施例2のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例22と同様にして水系離型剤を得た。
【0131】
(実施例24)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを実施例3のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例22と同様にして水系離型剤を得た。
【0132】
(実施例25)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを実施例4のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例22と同様にして水系離型剤を得た。
【0133】
(実施例26)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを実施例5のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例22と同様にして水系離型剤を得た。
【0134】
(実施例27)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを実施例6のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例22と同様にして水系離型剤を得た。
【0135】
(実施例28)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを実施例7のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例22と同様にして水系離型剤を得た。
【0136】
(比較例28)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例1のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例22と同様にして水系離型剤を得た。
【0137】
(比較例29)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例2のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例22と同様にして水系離型剤を得た。
【0138】
(比較例30)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例3のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例22と同様にして水系離型剤を得た。
【0139】
(比較例31)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例4のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例22と同様にして水系離型剤を得た。
【0140】
(比較例32)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例5のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例22と同様にして水系離型剤を得た。
【0141】
(比較例33)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例6のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例22と同様にして水系離型剤を得た。
【0142】
(比較例34)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例7のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例22と同様にして水系離型剤を得た。
【0143】
(比較例35)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例8のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例22と同様にして水系離型剤を得た。
【0144】
(比較例36)
実施例1のオルガノ変性シリコーンを比較例9のオルガノ変性シリコーンに代えたこと以外は実施例22と同様にして水系離型剤を得た。
【0145】
3.金型鋳造用離型剤の性能評価
(1)摩擦係数による潤滑性(離型性)評価
実施例8〜21及び比較例10〜27の金型鋳造用離型剤を用いて以下の方法によりリング圧縮試験を行い、得られた摩擦係数により金型鋳造用離型剤の潤滑性を評価した。摩擦係数が小さいほど潤滑性は良好であり、摩擦係数が0.20以上であると金型鋳造の際にアルミ等の溶着やカジリ等の不具合が発生するようになる。
<リング圧縮試験>
先ず、200℃に加熱した2枚の円形鋼板(直径:120mm、厚さ:60mm、材質:SKD61(焼入れ・焼戻し))の各片面に金型鋳造用離型剤10mLをスプレー塗布(圧力0.4MPa)した後、その鋼板を400℃のホットプレートで2分間加熱した。次いで、電気炉で500℃に加熱したアルミリング試験片(外径:54mm、内径:27mm、厚さ:18mm、材質:A5052)を、前記2枚の円形鋼板の間に離型剤塗布面がアルミリング試験片と接触する側となるように挟み、100t油圧プレス機(コマツ産機(株)、HAF100)を用い、圧縮率50%で圧縮した。圧縮後のアルミリング試験片の内径を測定し、次式:
内径変化率=圧縮後の内径/圧縮前の内径
より内径変化率を算出し、摩擦係数を求めるグラフ(「工藤によるエネルギー法」、Proc.5th Japan Nat. Congr. Appl. Mech.、75頁、1955年)に基づいて内径変化率より摩擦係数を求めた。得られた摩擦係数の値を表4に示す。
【0146】
(2)付着状態の評価
実施例22〜28及び比較例28〜36の金型鋳造用離型剤を用いて以下の方法により付着範囲の測定を行い、付着状態を評価した。付着範囲の外径が大きいほど広範囲に塗布できることを示す。
<付着範囲の測定>
先ず、200℃に熱した鉄板(縦:120mm、横:120mm、厚さ:1.6mm、材質:SPCC−SB)を寝かせ、高さ15cmの距離から金型鋳造用離型剤4gをスプレー塗布(圧力0.4MPa)した。次いで、鉄板に付着した離型剤の外径(mm)をノギスにより測定した。得られた結果を表5に示す。
【0147】
(3)摩擦力(引っ張り抵抗)による潤滑性(離型性)評価
実施例23、24、比較例28、30、32の金型鋳造用離型剤を用いて以下の方法により摩擦力(引っ張り抵抗)の測定を行い、金型鋳造用離型剤の潤滑性を評価した。摩擦力(引っ張り抵抗)が小さいほど潤滑性が良好であり、摩擦力(引っ張り抵抗)が10kgfより大きいと金型鋳造の際にアルミ等の溶着やカジリ等の不具合が発生するようになる。
<摩擦力(引っ張り抵抗)の測定>
先ず、自動引張試験機(メックインターナショナル製、商品名:LubテスターU)に付属の摩擦試験台(縦:200mm、横:200mm、暑さ:30mm、材質:SKD−61、熱電対内蔵)を自動引張試験機から取り外し、市販のヒーターで300℃まで加熱した。次いで、摩擦試験台を垂直に立て、エアー圧0.4MPa、液圧メーター0.3MPa、5秒間で100ccという条件で、金型鋳造用離型剤をスプレー塗布した。その後、直ちに、摩擦試験台を自動引張試験機に水平に設置し、その中央に筒(メックインターナショナル製、内径:75mm、外径:100mm、高さ:50mm、材質:S45C)を乗せ、筒の中にアルミ溶湯(ADC−12、温度650℃)を90cc(約240g)注ぎ、45秒間放冷して固化させた。固化後直ちに鉄製のおもし(9kg)を筒の上に静かに乗せ、自動引張試験機のギヤーで筒を引っ張り、摩擦力(引っ張り抵抗)(kgf)を計測した。得られた結果を表6に示す。
【0148】
【表1】

【0149】
【表2】

【0150】
【表3】

【0151】
【表4】

【0152】
【表5】

【0153】
【表6】

【0154】
表1に示した結果から明らかなように、実施例1〜7で得られた本発明のオルガノ変性シリコーンは十分に粘度が高いことが確認された。また、表4に示した結果から明らかなように、実施例1〜7で得られた本発明のオルガノ変性シリコーンを含有する、本発明の金型鋳造用離型剤(実施例8〜21)は、水系離型剤であっても油性離型剤であっても摩擦係数が0.20未満という優れた潤滑性(離型性)を示すことが確認された。他方、比較例1〜9で得られたオルガノ変性シリコーンについては、比較例2、4、5、9で得られたオルガノ変性シリコーンを含有する金型鋳造用離型剤(比較例11、13、14、18、20、22、23、27)の摩擦係数は、水系離型剤又は油性離型剤のどちらか1つの離型剤において0.20以上であり、水系離型剤及び油性離型剤の両方では潤滑性(離型性)が得られないことが確認された。さらに、比較例1、3、6〜8で得られたオルガノ変性シリコーンを含有する金型鋳造用離型剤(比較例10、12、15〜17、19、21、24〜26)の摩擦係数はいずれも0.20以上であり、水系離型剤であっても油性離型剤であっても潤滑性(離型性)が劣ることが確認された。
【0155】
また、表6に示した結果から明らかなように、本発明の金型鋳造用離型剤(実施例23〜24)においては、摩擦力(引っ張り抵抗)が10kgf以下であり、摩擦係数以外の観点からも潤滑性(離型性)が優れていることが確認された。
【0156】
さらに、表5に示した結果から明らかなように、試験に用いた水系離型剤におけるオルガノ変性シリコーン濃度が同じであるにもかかわらず、実施例22〜28で得られた水系離型剤においては、鉄板に付着した離型剤の外径が比較例28〜36で得られた水系離型剤よりも大きく、本発明の金型鋳造用離型剤はより広範囲にスプレー塗布できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0157】
以上説明したように、本発明によれば、優れた離型性を金型鋳造用離型剤に付与することができるオルガノ変性シリコーン、及びそれを含有する金型鋳造用離型剤を提供することが可能となる。
【0158】
また、このような本発明のオルガノ変性シリコーンは水系溶媒においても油性溶媒においても安定であるため、水系金型鋳造用離型剤として用いても油性金型鋳造用離型剤として用いても優れた離型性を発揮することができる。さらに、本発明のオルガノ変性シリコーンは粘度が高いため、これを含有する本発明の金型鋳造用離型剤は金型に対する付着性が高く、高温条件においても優れた離型性を維持することができる。また、本発明の金型鋳造用離型剤は金型鋳造用離型剤の主要な塗布方法であるスプレー塗布において従来よりも広範囲に塗布することができるため、金型鋳造用離型剤の使用量を低減化することが可能となる。従って、本発明は、金型鋳造の作業効率の向上と成形品の品質向上に貢献することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)下記一般式(1):
【化1】

[式(1)中、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜3の炭化水素基を示し、a及びbは、下記式(i)〜(iii):
0≦a≦195・・・(i)、
5≦b・・・(ii)、
10≦a+b≦200・・・(iii)
で表わされる条件を満たす数である。]
で表わされる鎖状シリコーンに、
(II)炭素数4〜18のモノオレフィン及び/又はアルケニル基を有する炭素数8〜12の芳香族炭化水素と、
(III)下記一般式(2):
【化2】

[式(2)中、Rは炭素数2〜16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基又は炭素数2〜4のオキシアルキレンの繰り返し数が1〜6であるオキシアルキレン基を示し、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又はメチル基を示す。]
で表わされるジ(メタ)アクリル酸エステルとを、
下記式(iv)で表わされるモル比(I:II:III):
I:II:III=A:B:C・・・(iv)
[式(iv)中、Aは前記(I)鎖状シリコーンの数平均分子量から求めたモル数を示し、B及びCは、下記式(v)〜(vi):
0.05A≦C≦A・・・(v)、
A×b−2C=B・・・(vi)
[式(vi)中、bは式(1)中のbと同義である。]
で表わされる条件を満たす数である。]
の条件を満たすようにヒドロシリル化触媒存在下において付加反応せしめることにより得られるものであることを特徴とするオルガノ変性シリコーン。
【請求項2】
下記一般式(3):
【化3】

[式(3)中、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜3の炭化水素基を示し、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数4〜18の炭化水素基を示し、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数8〜12のアラルキル基を示し、Xは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ下記一般式(4):
【化4】

[式(4)中、Rは炭素数2〜16の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基又は炭素数2〜4のオキシアルキレンの繰り返し数が1〜6であるオキシアルキレン基を示し、Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又はメチル基を示す。]
で表わされるジエステル構造を示し、a、c、dは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、a、c、d、eは、下記式(i)、(vii)〜(xi):
0≦a≦195・・・(i)、
0≦c≦199.9・・・(vii)、
0≦d≦199.9・・・(viii)、
0.1≦e≦2・・・(ix)、
5≦c+d+e・・・(x)、
10≦a+c+d+e≦200・・・(xi)
で表わされる条件を満たす数である。]
で表わされることを特徴とする請求項1に記載のオルガノ変性シリコーン。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のオルガノ変性シリコーンを含有していることを特徴とする金型鋳造用離型剤。
【請求項4】
界面活性剤と水とをさらに含有している水系金型鋳造用離型剤であることを特徴とする請求項3に記載の金型鋳造用離型剤。
【請求項5】
液状有機化合物をさらに含有している油性金型鋳造用離型剤であることを特徴とする請求項3に記載の金型鋳造用離型剤。

【公開番号】特開2012−130922(P2012−130922A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282428(P2010−282428)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】