説明

オーディオ信号処理回路およびそれを用いたオーディオシステム、電子機器

【課題】オーディオシステムあるいは機器から再生される音質の改善にある。
【解決手段】加算器10は、メインオーディオ信号S1とサブオーディオ信号S2を加算する。セレクタ20は、加算器10から出力されるミックスドオーディオ信号S3とメインオーディオ信号S1を受け、一方を選択して出力する。制御部30は、サブオーディオ信号S2のレベルが所定のしきい値より大きいときに、セレクタ20に加算器10の出力信号を選択させ、小さいときにセレクタ20にメインオーディオ信号S1を選択させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオ信号に対して信号処理を行う信号処理回路に関する。
【背景技術】
【0002】
車載オーディオ、ホームオーディオ、TV会議システム、ハンズフリーホンやテレビをはじめとするオーディオシステムやオーディオ再生機能を備える電子機器において、複数のオーディオ信号を混合するミキシング処理が行われる。たとえば車載オーディオシステムでは、CDプレイヤやシリコンオーディオプレイヤ、ラジオからのメインオーディオ信号をスピーカから再生する。そしてカーナビゲーションシステムが音声案内用のサブオーディオ信号を発生すると、メインオーディオ信号にサブオーディオ信号をミキシングして、スピーカから出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−169567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、かかるオーディオシステムにおいて検討した結果、以下の課題を認識するに至った。
オーディオシステムにおいて、サブオーディオ信号は常に発生するわけではなく、無音状態が存在する。サブオーディオ信号の無音状態においてもミキシング機能を動作させていると、サブオーディオ信号に混入するノイズがミキサーによって増幅され、あるいはミキサー自体が発生するノイズによって、スピーカやヘッドホンから出力される音質が劣化するという問題がある。
【0005】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的は、オーディオシステムあるいは電子機器から再生される音質の改善にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、オーディオ信号処理回路に関する。オーディオ信号処理回路は、メインオーディオ信号が入力されるメイン入力端子と、メインオーディオ信号と混合すべきサブオーディオ信号が入力されるミックス入力端子と、メインオーディオ信号とサブオーディオ信号を加算する加算器と、加算器の出力信号とメインオーディオ信号を受け、一方を選択して出力するセレクタと、セレクタにより選択された信号を出力するための出力端子と、サブオーディオ信号のレベルを所定のしきい値と比較することにより、サブオーディオ信号の入力の有無を判定し、サブオーディオ信号の入力状態においてセレクタに加算器の出力信号を選択させ、サブオーディオ信号の非入力状態においてセレクタにメインオーディオ信号を選択させる制御部と、を備えて、ひとつの半導体基板上に一体集積化される。
【0007】
この態様によると、オーディオ信号処理回路は、外部からの制御を受けることなく、自律的にサブオーディオ信号の入力の有無を判定し、サブオーディオ信号が入力されていないときには、セレクタによってメインオーディオ信号を選択させることにより、ミキシング機能を停止することができる。そして、ミキシング機能が停止するときに出力されるメインオーディオ信号は加算器を経由しないため、ノイズの影響が低減されており、音質を改善することができる。
なお、「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。
【0008】
ある態様のオーディオ信号処理回路は、加算器の前段に設けられ、メインオーディオ信号を可変の利得で増幅する第1増幅器をさらに備えてもよい。制御部は、サブオーディオ信号の入力状態において、第1増幅器の利得を所定レベルに低下させてもよい。
この態様によると、外部からの制御を受けることなく、自律的に、ミキシング状態と非ミキシング状態における、メインオーディオ信号のレベルを変化させることができる。
【0009】
制御部は、サブオーディオ信号が上側しきい値より高いときに所定レベルとなる第1比較信号を生成する上側コンパレータと、サブオーディオ信号が下側しきい値より低いときに所定レベルとなる第2比較信号を生成する下側コンパレータと、第1比較信号と第2比較信号の論理和に応じた検出信号を生成する論理ゲートと、検出信号が、所定の判定期間、連続して所定レベルと異なるレベルを持続するとき、サブオーディオ信号の非入力状態と判定する判定部と、を含んでもよい。
【0010】
制御部は、検出信号が所定レベルとなる度にリセットされるとともに、検出信号が所定レベルと異なるレベルをとる間、カウント動作を行うカウンタを含んでもよい。判定部は、カウンタのカウント値が所定値に達すると、サブオーディオ信号の入力状態と判定してもよい。
【0011】
本発明の別の態様は、オーディオシステムあるいは電子機器に関する。このオーディオシステムまたは電子機器は、メインオーディオ信号を生成する第1音源と、サブオーディオ信号を生成する第2音源と、メインオーディオ信号と、サブオーディオ信号を受けるオーディオ信号処理回路と、オーディオ信号処理回路から出力されるオーディオ信号によって駆動される電気音響変換素子と、を備えてもよい。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る信号増幅回路によれば、音質を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態に係る信号処理回路の構成を示すブロック図である。
【図2】制御部によるサブオーディオ信号の入力判定を示す波形図である。
【図3】図1の信号処理回路の動作を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0016】
本明細書において、「部材Aと部材Bが接続」された状態とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合や、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0017】
図1は、実施の形態に係る信号処理回路100の構成を示すブロック図である。信号処理回路100は、オーディオ信号の音量を調節し、増幅し、帯域補正を行って、後段のスピーカやヘッドホンをはじめとする電気音響変換素子(以下、スピーカSPという)へと出力する。信号処理回路100は、第1音源4a、第2音源4b、アンプ6およびスピーカSPとともに、オーディオシステム2を構成する。
【0018】
オーディオシステム2は、たとえば車載用オーディオシステムである。第1音源4aは、車載CDプレイヤや車載DVDプレイヤ、携帯電話や携帯オーディオプレイヤであり、メインオーディオ信号S1を生成する。本実施の形態では、理解の容易と説明の簡易化を目的として、オーディオ信号がモノラルであるものとするが、実際にはステレオオーディオ信号であってもよい。ステレオの場合、LチャンネルとRチャンネルそれぞれについて、図1と同様の構成が設けられることは当業者に理解される。
【0019】
第2音源4bは、カーナビゲーションシステムなどであり、サブオーディオ信号S2を生成する。たとえばサブオーディオ信号S2は、音声案内のための信号である。
【0020】
信号処理回路100は、メイン入力端子P1にメインオーディオ信号S1を受け、ミックス入力端子P2にサブオーディオ信号S2を受ける。信号処理回路100は、メインオーディオ信号S1とサブオーディオ信号S2それぞれに対して、所定の信号処理を施し、それらをミキシングして出力端子P3から出力する。信号処理回路100は、ひとつの半導体基板上に一体集積化された機能IC(Integrated Circuit)であり、ASP(Audio Signal ProcessorあるいはAudio Sound Processor、Analog Sound Processor)とも称される。
【0021】
アンプ6は、信号処理回路100から出力されたオーディオ信号S4を増幅し、スピーカSPを駆動する。アンプ6は、信号処理回路100の一部として構成されてもよい。
【0022】
信号処理回路100は、加算器10、セレクタ20、制御部30、第1増幅器40、第2増幅器42を備える。
【0023】
第1増幅器40は、可変利得増幅器であり、メイン入力端子P1に入力されたメインオーディオ信号S1を、設定された利得g1で増幅する。本明細書において、「増幅」とは利得が1より大きい場合の他、利得が1の場合、さらには1より小さい減衰も含む概念である。第2増幅器42も、可変利得増幅器であり、ミックス入力端子P2に入力されたサブオーディオ信号S2を、設定された利得g2で増幅する。メインオーディオ信号S1とサブオーディオ信号S2のミキシングの比率は、利得g1および利得g2に応じて定められる。
【0024】
加算器10は、第1増幅器40により増幅されたメインオーディオ信号S1’と第2増幅器42により増幅されたサブオーディオ信号S2’を加算する。加算器10は、抵抗R1〜R4、演算増幅器12を含むアナログ加算器で構成される。なお加算器10の構成は特に限定されず、その他の形式の加算器を用いてもよい。
【0025】
加算器10から出力されるミックスドオーディオ信号S3は、メインオーディオ信号S1’とサブオーディオ信号S2’をミキシングした信号となる。セレクタ20は、加算器10の出力信号S3と、メインオーディオ信号S1’を受け、一方を選択して出力する。セレクタ20により選択されたオーディオ信号S4は、出力端子P3から出力される。信号処理回路100は、各オーディオ信号S1、S2、S1’、S2’、S3、S4の経路上に、フィルタやその他の回路を備えてもよいが、図1では省略されている。
【0026】
制御部30は、サブオーディオ信号S2のレベルが所定のしきい値より大きいときに、すなわちサブオーディオ信号S2が有意なレベルを有しているときに、セレクタ20に加算器10の出力信号S3を選択させる。反対にサブオーディオ信号S2のレベルが所定のしきい値より小さいときには、すなわちサブオーディオ信号S2が非有意なレベルを有する場合、言い換えれば無音状態である場合に、セレクタ20にメインオーディオ信号S1’を選択させる。
【0027】
制御部30は、アナログ部30aとデジタル部30bで構成される。アナログ部30aは、可変電圧源32U、32L、上側コンパレータCP1、下側コンパレータCP2、論理ゲートOR1を備える。
【0028】
可変電圧源32U、32Lはそれぞれ、上側しきい値電圧VTH_U、下側しきい値電圧VTH_Lを生成する。上側コンパレータCP1は、サブオーディオ信号S2の電圧レベルVS2を上側しきい値電圧VTH_Uと比較し、VS2>VTH_Uのときに所定レベル(本実施の形態においてハイレベルとする)となる第1比較信号SD_Uを生成する。
下側コンパレータCP2は、サブオーディオ信号S2の電圧レベルを下側しきい値電圧VTH_Lと比較し、VS2<VTH_Lのときに所定レベル(ハイレベル)となる第2比較信号SD_Lを生成する。論理ゲートOR1は、第1比較信号SD_Hと第2比較信号SD_Lを受け、それらの論理和に応じた検出信号SD_ORを生成する。検出信号SD_ORは、第1比較信号SD_Hと第2比較信号SD_Lの少なくとも一方がハイレベルのとき、すなわち、VS2>VTH_UまたはVS2<VTH_Lのときに所定レベル(本実施の形態においてハイレベル)となる。
【0029】
デジタル部30bは、フリップフロップ34、カウンタ36、判定部38、しきい値レジスタ39を含む。ラッチ(フリップフロップ)34は、検出信号SD_ORを、デジタル部30bの内部のクロック信号と同期するために設けられる。
判定部38は、検出信号SD_ORが、所定の判定期間、連続して所定レベル(ハイレベル)と異なるレベル、つまりローレベルを持続するとき、サブオーディオ信号S2が非入力状態(無音状態)と判定する。それ以外の場合、有意なサブオーディオ信号S2が入力されていると判定する。
【0030】
カウンタ36は、検出信号SD_ORが所定レベル(ハイレベル)となる度にリセットされるとともに、検出信号SD_ORが所定レベル(ハイレベル)と異なるレベル(ローレベル)をとる間、カウント動作を行う。検出信号SD_ORがローレベルを持続すると、カウンタ36はリセットされることなくカウント値が変化する。判定部38は、カウンタ36のカウント値が所定値に達すると、サブオーディオ信号S2の非入力状態と判定する。この所定値は、判定期間τに応じて定められ、カウンタ36はタイマーとして機能する。
【0031】
判定部38は、サブオーディオ信号S2の無音状態か否かを示す制御信号S5を生成する。たとえば制御信号S5は、サブオーディオ信号S2の非入力状態(無音状態)においてネゲートされ、サブオーディオ信号S2の入力状態においてアサートされる。以下、アサートはハイレベルであり、ネゲートはローレベルであるとする。制御信号S5がネゲート(ローレベル)されるとき、セレクタ20は、第1増幅器40からのメインオーディオ信号S1’を選択し、アサート(ハイレベル)のとき、加算器10からのミックスドオーディオ信号S3を選択する。
【0032】
なお、セレクタ20による切りかえ動作が急峻であると、ノイズが発生する。そこでセレクタ20は、2つの入力間をシームレスに緩やかに切りかえ可能なソフト切りかえ機能付きのスイッチを用いることが望ましい。こうしたスイッチ(セレクタ)としては、たとえば特開2007−325057号公報に記載の回路を用いることができる。なおセレクタ20の構成は特に限定されず、その他の回路を用いてもよい。セレクタ20の、入力切りかえの遷移時間は、レジスタ(不図示)の設定値により切りかえ可能に構成される。信号処理回路100のユーザ、すなわちオーディオシステム2の設計者は、レジスタの設定値を書き換えることで、メインオーディオ信号S1’とミックスドオーディオ信号S3の間の遷移時間を、オーディオシステム2の用途に最適な値に設定できる。
【0033】
また、判定部38におけるサブオーディオ信号S2の検出結果に応じて、制御部30は、第1増幅器40の利得g1を指示する制御信号S6を発生する。具体的には制御部30は、サブオーディオ信号S2のレベルが所定のしきい値より大きいとき、つまり有意なレベルのサブオーディオ信号S2が入力される際には、第1増幅器40の利得g1を、所定レベルに低下させる。これにより、ミキシングの比率が変化し、メインオーディオ信号S1の再生中であっても、サブオーディオ信号S2が相対的に強調され、オーディオシステム2のユーザは、サブオーディオ信号S2を聞き取り易くなる。
【0034】
制御部30は、サブオーディオ信号S2の非入力状態において、第2増幅器42の利得g2をゼロとし、加算器10をシャットダウンしてもよい。これにより、サブオーディオ信号S2由来、あるいは加算器10由来のノイズを、セレクタ20よりもさらにノイズ源に近い箇所で遮断でき、ノイズが意図せぬ経路を伝搬してメインオーディオ信号S1’やオーディオ信号S4に混入するのを防止できる。
【0035】
しきい値レジスタ39は、可変電圧源32U、32Lが生成すべきしきい値電圧VTH_U、VTH_Lの設定値を格納する。可変電圧源32U、32Lそれぞれのしきい値電圧VTH_U、VTH_Lは、ユーザがしきい値レジスタ39の値を書き換えることにより変更可能となっている。
【0036】
以上が信号処理回路100の構成である。続いてその動作を説明する。図2は、制御部30によるサブオーディオ信号S2の入力判定を示す波形図である。本明細書における波形図やタイムチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化されている。
【0037】
時刻t0以前、有意なレベルのサブオーディオ信号S2が入力される。サブオーディオ信号S2の電圧レベルVS2は、ある基準レベルVREFを中心としてスイングする。上側しきい値電圧VTH_Uは、基準レベルVREFよりも電圧幅ΔVだけ高く設定され、下側しきい値電圧VTH_Lは、基準レベルVREFよりも電圧幅ΔVだけ低く設定される。上述のように、しきい値レジスタ39の設定値に応じて、電圧幅ΔVは変更可能であり、電圧幅ΔVを小さくすれば、サブオーディオ信号S2の検出感度は高くなるが、ノイズ等による誤検出の確率も高くなり、ΔVを大きくすれば、サブオーディオ信号S2の検出感度は低下するが、ノイズの影響を低減できる。ユーザは、信号処理回路100が利用されるシステムに最適な電圧幅ΔVを選択できる。
【0038】
時刻t0以前、サブオーディオ信号S2が入力される期間は、検出信号SD_ORが頻繁にハイレベルとなり、検出信号SD_ORのローレベルの時間は短いため、判定期間τを超えない。したがって、サブオーディオ信号S2の入力状態と判定され、制御信号S5はアサート(ハイレベル)されている。
【0039】
時刻t0にサブオーディオ信号S2の入力がなくなると、検出信号SD_ORがローレベルに遷移し、その後ローレベルを持続し、時刻t1に判定期間τに達すると制御信号S5がネゲートされる。このようにして、制御部30は、サブオーディオ信号S2の非入力状態を検出する。
【0040】
制御信号S5がネゲートされた状態で、サブオーディオ信号S2が入力されると、検出信号SD_ORがアサートされる。判定部38は、検出信号SD_ORがアサートされると判定期間τを待たずに直ちに制御信号S5をアサートする。このようにして制御部30は、サブオーディオ信号S2の入力状態を検出する。判定期間を待たないことにより、サブオーディオ信号S2の先頭部分をスピーカSPから出力することができる。
【0041】
以上が制御部30によるサブオーディオ信号S2の入力の有無の判定動作である。続いて、信号処理回路100全体の動作を説明する。図3は、図1の信号処理回路100の動作を示す波形図である。理解の容易のため、メインオーディオ信号S1とサブオーディオ信号S2の周波数の異なる正弦波として示す。
【0042】
時刻t0〜t1の間、サブオーディオ信号S2は非入力状態であり、制御信号S5はネゲートされており、セレクタ20はメインオーディオ信号S1’を選択している。したがって、メインオーディオ信号S1’と同じ波形を有するオーディオ信号S4が、スピーカSPから再生される。
【0043】
時刻t1に、第2音源4bがサブオーディオ信号S2を発生する。ミックスドオーディオ信号S3は、メインオーディオ信号S1とメインオーディオ信号S1’を重畳した信号となる。制御信号S5がアサートされると、第1増幅器40の利得g1が低下し、メインオーディオ信号S1’のレベルが低下する。そしてセレクタ20は、その出力信号S4を、メインオーディオ信号S1’からミックスドオーディオ信号S3に徐々に切りかえる。
【0044】
時刻t2にサブオーディオ信号S2が無音状態となると、制御信号S5が再びネゲートされる。そして、第1増幅器40の利得g1がもとのレベルに戻され、メインオーディオ信号S1’の振幅が大きくなる。セレクタ20は、その出力信号S4を、ミックスドオーディオ信号S3からメインオーディオ信号S1’に切りかえる。その結果、再びメインオーディオ信号S1のみが、スピーカSPから出力される。なお、図3においてソフト切りかえの動作および判定期間τは省略される。
以上が信号処理回路100の動作である。
【0045】
続いて、信号処理回路100の利点を説明する。信号処理回路100の利点は、比較技術との対比によって明確となる。
比較技術では、セレクタ20が設けられず、サブオーディオ信号S2の有無にかかわらずに、ミックスドオーディオ信号S3がスピーカSPへと出力される。
【0046】
いま、サブオーディオ信号S2にノイズN1が混入している状況を考える。ノイズN1は図3に示すように、サブオーディオ信号S2の無音状態においてもミックス入力端子P2に混入する。
【0047】
このノイズは、加算器10から出力されるミックスドオーディオ信号S3にもそのまま重畳される。したがって、サブオーディオ信号S2の非入力状態において、ミックスドオーディオ信号S3にはノイズが重畳される。したがって比較技術では、サブオーディオ信号S2の無音状態において、ミックス入力端子P2に入力されるノイズがスピーカSPから再生され、音質が劣化する。
【0048】
また、サブオーディオ信号S2にノイズが重畳されない場合であっても、加算器10自体が発生するノイズ(不図示)が、ミックスドオーディオ信号S3に混入する。したがって比較技術では、サブオーディオ信号S2の無音状態において加算器10が発生するノイズもスピーカSPから再生されることになり、音質が劣化する。
【0049】
セレクタ20を有さない比較技術においても、第2増幅器42の利得g2をゼロとすることでミキシング機能をオフすることは可能である。この場合、ミックス入力端子P2に混入するノイズは低減できるが、加算器10が発生するノイズは、スピーカSPから出力されてしまうため、やはり音質は劣化する。
【0050】
これに対して、図1の信号処理回路100によれば、サブオーディオ信号S2の非入力状態において、加算器10がバイパスされ、メインオーディオ信号S1がストレートに出力される。したがって、オーディオ信号S4には、ミックス入力端子P2に混入するノイズや、加算器10が発生するノイズが重畳されず、音質を改善することができる。
【0051】
さらに、信号処理回路100は以下の利点を有する。
信号処理回路100は、外部のマイコンからの制御信号に頼らずに、自律的にサブオーディオ信号S2を検出し、セレクタ20を切りかえるため、音切れを防止することができる。また、外部のマイコン等の負荷を低減し、制御信号の通信にともなう消費電力を低減できる。この利点は以下の比較技術との対比により明確となる。
【0052】
比較技術において、第2音源4bは、サブオーディオ信号S2が無音状態か否かを示す信号を、マイコンに出力する。マイコンは、サブオーディオ信号S2の無音状態を検出すると、ミキシング機能をオフする信号を信号処理回路に出力する。この場合、マイコンを介在するため、大きな制御遅延が発生し、音切れが発生してしまう。これに対して、図1の信号処理回路100は、音切れの問題を解決することができる。また、マイコンの負荷は低減され、消費電力も低減できる。
【0053】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0054】
実施の形態では、信号処理回路100のアプリケーションとして車載オーディオシステムに利用する場合を説明したが、信号処理回路100の用途はそれに限定されず、さまざまなオーディオシステムに利用できる。
また、信号処理回路100は、スピーカやヘッドホンをはじめとする電気音響変換素子を有するさまざまな電子機器に搭載することもできる。たとえば、携帯電話端末では、音楽データの再生と、通話音声のミキシングなどに適用できる。
【0055】
実施の形態にもとづき、具体的な用語を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0056】
2…オーディオシステム、4a…第1音源、4b…第2音源、6…アンプ、100…信号処理回路、SP…スピーカ、10…加算器、20…セレクタ、30…制御部、30a…アナログ部、30b…デジタル部、32…可変電圧源、CP1…上側コンパレータ、CP2…下側コンパレータ、OR1…論理ゲート、34…フリップフロップ、36…カウンタ、38…判定部、39…しきい値レジスタ、40…第1増幅器、42…第2増幅器、SD_U…第1比較信号、SD_L…第2比較信号、SD_OR…検出信号、P1…メイン入力端子、P2…ミックス入力端子、P3…出力端子、S1…メインオーディオ信号、S2…サブオーディオ信号、S3…ミックスドオーディオ信号、S4…オーディオ信号、S5…制御信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインオーディオ信号が入力されるメイン入力端子と、
前記メインオーディオ信号と混合すべきサブオーディオ信号が入力されるミックス入力端子と、
前記メインオーディオ信号と前記サブオーディオ信号を加算する加算器と、
前記加算器の出力信号と前記メインオーディオ信号を受け、一方を選択して出力するセレクタと、
前記セレクタにより選択された信号を出力するための出力端子と、
前記サブオーディオ信号のレベルを所定のしきい値と比較することにより、前記サブオーディオ信号の入力の有無を判定し、前記サブオーディオ信号の入力状態において前記セレクタに前記加算器の出力信号を選択させ、前記サブオーディオ信号の非入力状態において前記セレクタに前記メインオーディオ信号を選択させる制御部と、
を備えて、ひとつの半導体基板上に一体集積化されることを特徴とするオーディオ信号処理回路。
【請求項2】
前記加算器の前段に設けられ、前記メインオーディオ信号を可変の利得で増幅する第1増幅器をさらに備え、
前記制御部は、前記サブオーディオ信号の入力状態において、前記第1増幅器の利得を所定レベルに低下させることを特徴とする請求項1に記載のオーディオ信号処理回路。
【請求項3】
前記制御部は、
前記サブオーディオ信号が上側しきい値より高いときに所定レベルとなる第1比較信号を生成する上側コンパレータと、
前記サブオーディオ信号が下側しきい値より低いときに所定レベルとなる第2比較信号を生成する下側コンパレータと、
前記第1比較信号と前記第2比較信号の論理和に応じた検出信号を生成する論理ゲートと、
前記検出信号が、所定の判定期間、連続して前記所定レベルと異なるレベルを持続するとき、前記サブオーディオ信号の非入力状態と判定する判定部と、
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のオーディオ信号処理回路。
【請求項4】
前記制御部は、
前記検出信号が前記所定レベルとなる度にリセットされるとともに、前記検出信号が前記所定レベルと異なるレベルをとる間カウント動作を行うカウンタを含み、
前記判定部は、前記カウンタのカウント値が所定値に達すると、前記サブオーディオ信号の入力状態と判定することを特徴とする請求項3に記載のオーディオ信号処理回路。
【請求項5】
前記加算器の前段に設けられ、前記サブオーディオ信号を増幅する第2増幅器をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のオーディオ信号処理回路。
【請求項6】
前記制御部は、前記サブオーディオ信号の非入力状態において、前記第2増幅器の利得をゼロに低下させることを特徴とする請求項5に記載のオーディオ信号処理回路。
【請求項7】
メインオーディオ信号を生成する第1音源と、
サブオーディオ信号を生成する第2音源と、
前記メインオーディオ信号と、前記サブオーディオ信号を受ける請求項1から6のいずれかに記載のオーディオ信号処理回路と、
前記オーディオ信号処理回路から出力されるオーディオ信号によって駆動される電気音響変換素子と、
を備えることを特徴とするオーディオシステム。
【請求項8】
メインオーディオ信号を生成する第1音源と、
サブオーディオ信号を生成する第2音源と、
前記メインオーディオ信号と、前記サブオーディオ信号を受ける請求項1から6のいずれかに記載のオーディオ信号処理回路と、
前記オーディオ信号処理回路から出力されるオーディオ信号によって駆動される電気音響変換素子と、
を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−51600(P2013−51600A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189332(P2011−189332)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】