説明

オーディオ装置

【課題】 様々なソースからのオーディオ信号を無理なく再生処理し且つ符号化の過程で欠損した周波数帯域の信号を補完して再生する。
【解決手段】 クライアント制御IC12は、符号化オーディオデータをデコードすると共に該オーディオデータのファイル名等のテキストデータを取得する。オーディオDSP14は、デコードされたオーディオデータを処理してオーディオ信号を再生する。システムマイコン11は、テキストデータを受信して表示用に出力すると共に入力指示に基づいてオーディオDSP14のリスニングモードを制御する。クライアント制御IC12は、ファイル名の拡張子を取得し、システムマイコン11を介してオーディオDSP14に供給する。オーディオDSP14は、拡張子から、符号化方式を特定し、その符号化方式で欠落する周波数帯域の信号を補完する音場補完処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
音楽等の音声を表す音声データを、インターネット等のネットワークを介して配信したり、MD(Mini Disk)等の記録媒体に記録して利用することが、近年盛んになっている。ネットワークで配信されたり記録媒体に記録されたりする音声データは、帯域が過度に広くなることによるデータ量の増大や占有帯域幅の広がりを避けるため、一般に、供給する対象の音楽等のうち一定の周波数以上の成分を除去されている。
【0003】
例えば、MP3(MPEG1 audio layer 3)形式の音声データでは、約16キロヘルツ以上の周波数成分が除去されている。また、ATRAC3(Adaptive TRansform Acoustic Coding 3)形式の音声データでは、約14キロヘルツ以上の周波数成分が除去されている。その他、WMAやOGG Vorbis等が一般的に知られているが、これらの圧縮方式によっても、モードやビットレートに応じて欠落する周波数帯域が発生してしまう場合がある。
【0004】
このように、一定値以上の周波数成分が除去された音楽等は通常、オリジナルの音楽等に比べて音質が劣化している。そこで、除去された周波数成分に代わる信号を加算することが考えられる。このための手法としては、特許文献1に開示されている手法がある。
【0005】
特許文献1に開示されている手法は、PCM(Pulse Code Modulation)ディジタルオーディオ信号をローパスフィルタに通して得られる出力オーディオ信号を、当該出力信号の絶対値成分を含む信号を乗算することにより歪みを生じさせる、という手法である。
【特許文献1】特開平7−93900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、音楽を表す音声信号は一般に、電子楽器や人間の声(ヴォーカル)の高調波によって、10キロヘルツ以上の成分が、周波数が高くなるにつれて減衰しつつ数百ヘルツ程度(100ヘルツ以上1キロヘルツ未満)の間隔で並ぶピークを多数含んだスペクトル分布をもつようになる。また、電話回線を介して伝送される音声を表す音声信号の場合は一般に、4キロヘルツ以上の成分が、同様の特徴を有するスペクトル分布を示すようになる。
【0007】
このため、出力オーディオ信号の低域成分の波形を絶対値回路等を用いて歪ませることにより高調波を発生させるに過ぎない特許文献1のオーディオ信号再生装置では、原音に近いスペクトルを有する信号を得ることができない。
【0008】
また、このような除去された周波数成分に代わる信号を再生対象の信号に加算する手法は、様々なソースを利用できるオーディオシステムには適用できないという問題がある。
【0009】
この点を図7を参照して説明する。
図7は、従来のオーディオシステムの構成を示す。図7において、コンテンツ記憶部33は、様々な規格で符号化・圧縮されたオーディオデータを記憶し、任意のオーディオデータをデコーダ32に提供する。デコーダ32は、符号化されたオーディオデータをデコードして、アンプ部31に供給する。
【0010】
このような構成において、デコーダ32で高周波成分を付加することは、機能的には可能であるが、デコード処理と高周波成分を付加する処理とが全てデコーダ32の負荷となり、多大な処理能力が必要となる。
【0011】
一方、アンプ部31で高周波成分を付加することも論理的には可能である。しかし、アンプ部31には、デコード済みのPCMデータが供給されるため、オリジナルの信号がどの方式で圧縮された信号であるのか、或いは、欠落している周波数成分がどの周波数範囲であるのか、といったことがわからないため、適切な機能制御ができない。特に、圧縮形式によって音声信号が欠落している周波数帯域は異なり、また、同じ圧縮形式で圧縮符号化された音声信号であっても、圧縮時のビットレートによって、欠落している周波数成分の帯域が変化してしまう。従って、単に圧縮符号化された音声信号に補間処理を施すとしてしまうと、かえって音質の劣化を招いてしまう場合がある。つまり、被補間帯域に補間用信号を付加しようとした場合、圧縮形式若しくはビットレートによっては、被補間帯域とした周波数帯域に音声信号が存在する可能性があり、ここに補間信号を付加してしまうと音質が劣化してしまう。例えば、MP3形式で音声信号を圧縮符号化する場合、128kbpsで符号化すると音声信号が存在する周波数帯域の上限は16kHz程度になるが、256kbpsで符号化した場合には22kHz程度まで音声信号が存在する。従って、256kHzで符号化されているMP3形式の音声信号に対して上述したような補間信号を付加してしまうと、かえって音質が劣化してしまうという問題があった。
【0012】
本発明は、上記実状に鑑みて為されたものであり、符号化或いは圧縮の過程で一部の周波数帯域の信号が欠損したオーディオ信号を自然な音場で再生することが可能なオーディオ装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、様々なソースからのオーディオ信号を無理なく再生処理し且つ圧縮の過程で欠損した周波数帯域の信号を補完して再生することが可能なオーディオ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るオーディオ装置は、
符号化されたオーディオデータをデコードして出力すると共に該オーディオデータに関する情報を取得するデコード手段と、デコードされたオーディオデータを処理してオーディオ信号を再生する再生手段と、前記デコード手段からオーディオデータに関する情報を受信して表示用に出力すると共に入力指示に基づいて前記再生手段の動作を制御する制御手段と、を備えるオーディオシステムにおいて、
前記デコード手段は、前記オーディオデータの符号化方式に対応する情報を前記制御手段に供給し、
前記制御手段は前記デコード手段からの符号化方式に対応する情報に対応する情報を前記再生手段に供給し、
前記再生手段は、前記制御手段からの情報に基づいて、前記符号化方式において欠落する周波数帯域の信号を補完する音場補完処理を実行する補完手段を備える、
ことを特徴とする。
【0014】
前記デコード手段と前記制御手段と前記再生手段とのいずれかは、前記符号化方式に対応する音場補完処理の制御パラメータを求める手段を備え、
前記再生手段は、制御パラメータに従って、前記符号化方式に対応して周波数帯域の信号を補完する音場補完処理を実行する補完手段を備える。
【0015】
信号の伝達形式自体は任意である、例えば、デコード手段が符号化方式に対応する制御パラメータを求め、これを制御手段を介して再生装置に送信してもよい。また、デコード手段が符号化方式を特定する情報を制御部に伝え、制御部が制御パラメータを求めてこれを再生装置に通知してもよい。
また、デコード手段が符号化方式を特定する情報(例えば、ファイル形式や拡張子及び/又はビットレート)を制御部に伝え、制御部がそれをそのまま或いは他の信号形態で再生装置に通知してもよい。
さらに、デコード手段が符号化方式を特定する情報(例えば、ファイル形式や拡張子及び/又はビットレート)を制御部に伝え、制御部が欠落している周波数を特定する情報に変換し、再生部がそれを動作パラメータに変化してもよい。
【0016】
前記補間手段は、
スペクトルを補間される対象である音声を表す被補間信号を周波数変換することにより補間用信号を生成する周波数変換部と、
前記補間用信号のうち、前記被補間信号が占める第1の帯域より高周波側の第2の帯域内の成分を抽出するフィルタと、
前記被補間用信号と前記フィルタが抽出した成分との和を表す出力信号を生成する加算部と、
を備えることが好ましい。
【0017】
前記符号化方式に対応する情報は、ファイル形式及び/又はビットレートを含んでいることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
上記構成によれば、デコード手段でデコード処理を再生手段で音場付加処理を実行させることができ、処理負担を分散できる。また、デコード手段と制御手段、制御手段と再生手段、という本来必要な情報伝達のルートで音場補完に必要な情報を伝達できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係るオーディオ装置を備えたAV装置について説明する。
【0020】
本発明の実施の形態に係るコンテンツ再生システムは、図1に示すように、システムマイコン11と、クライアント制御IC(Integrated Circuit)12と、DIR(Digital Interface Receiver)13と、オーディオDSP(Digital Signal Processor)14と、アンプ部15と、スピーカ部16と、キー制御部17と、PC(Personal Computer)18と、ルータ19と、メモリカード20と、スロット21と、LAN(Local Area Network)22と、LANコントローラ23と、表示部24と、表示制御マイコン25と、LANケーブル接続端子26と、から構成される。
【0021】
上記構成のうち、システムマイコン11と、クライアント制御IC12と、DIR13と、オーディオDSP14と、アンプ部15と、キー制御部17と、スロット21と、LANコントローラ23と、表示部24と、表示制御マイコン25と、LANケーブル接続端子26と、は、AV装置1に配置されている。
【0022】
システムマイコン11は、AVシステム全体及びAV機器1の全体の動作を制御するものであり、CPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備える。
【0023】
クライアント制御IC12は、PC18やメモリカード20から供給されたデジタルのオーディオデータのファイル名を判別し、例えば、その拡張子及びビットレートを判別することにより、そのディジタルデータの符号化方法を判別し、判別した符号化方法に対応するデコード方式でこれをPCMデータにデコードして、DIR13に供給する。
【0024】
クライアント制御IC12は、図2に示すように、LANを介したPC18とメモリカード20との一方をコンテンツのソースとして選択すると共に選択したソースとの通信処理を行うセレクタ部51と、セレクタ部51から供給される符号化データをデコードしてPCM信号化するデコード部52と、システム制御部53とを備える。
【0025】
また、システム制御部53は、セレクタ部51を介してソースから供給されるオーディオデータの符号化方式をファイル名の拡張子などから判別し、デコード部52にデコード方式を指定する。
【0026】
システム制御部53は、システムマイコン11との間で通信を行って、システムマイコン11からの指示に従って、セレクタ部51を切り換える。また、システム制御部53は、オーディオデータに付随する属性情報(ファイル形式、サンプリング周波数など)やテキスト情報(ファイル名、演奏時間、演奏者、等)を、システムマイコン11に送信する。
【0027】
DIR13は、クライアント制御IC12から供給されたPCMデータをオーディオDSP14に供給する。
【0028】
オーディオDSP14は、図2に示すように、機能的に、高域信号付加部61とリスニングモード処理部62とを備える。
【0029】
高域信号付加部61は、PC18又はメモリカード20に格納されている楽曲データが高帯域周波数部分が除去された形式である場合、元の信号に高帯域周波数成分を付加して出力する。
高域信号付加部61の、機能構成は、PC18又はメモリカード20に格納されている楽曲データが高帯域周波数部分が除去された形式である場合、元の信号に広帯域周波数成分を付加して出力する。
高域信号付加部61は、機能的に、遅延部71と、制御部72と、局部発振部73と、混合部74と、HPF(ハイパスフィルタ)75と、利得調整部76と、加算部77とより構成されている。高域信号付加部61の動作については後述する。
【0030】
リスニングモード処理部62は、高域信号付加部61の出力する信号を処理して、モノラル、ステレオ、サラウンドなどのリスニングモードに対応する信号処理を行い、アンプ部15に出力する。
【0031】
アンプ部15は、図示せぬD/Aコンバータやアナログ増幅器を備え、オーディオDSP14から入力されたデータをD/A変換によりアナログ信号に変換して増幅し、増幅した信号をスピーカ部16に供給する。
【0032】
スピーカ部16は、アンプ部15から供給された音声信号を空気振動に変換して、音声を出力する。
【0033】
キー制御部17は、リモートコントローラ等の操作入力キーを用いたユーザの操作入力を受け付け、入力された信号に対応するデータをシステムマイコン11に供給する。
【0034】
PC18は、ハードディスク装置等の記憶装置を備え、クライアント制御IC12からの要求に応じて、記憶装置内に記憶されたコンテンツデータを、ルータ19およびLAN22を介してクライアント制御IC12に供給する。
【0035】
ルータ19は、PC18とクライアント制御IC12との間のLAN22を介したデータの授受を中継するための装置である。
【0036】
メモリカード20は、フラッシュメモリ等の不揮発性半導体メモリを内蔵する記録媒体である。メモリカード20は、クライアント制御IC12に接続されたスロット21に挿入され、メモリカード20自身内部に記録されたコンテンツデータをスロット21を介してクライアント制御IC12に供給する。
【0037】
スロット21は、メモリカード20の挿入口であり、クライアント制御IC12に接続されている。スロット21は、メモリカード20に記録されたコンテンツデータを読み取って、クライアント制御IC12に供給する。
【0038】
LAN22は、Ethernet(登録商標)等から構成され、クライアント制御IC12とPC18との間のデータの授受を媒介する。
【0039】
LANコントローラ23は、クライアント制御IC12とPC18との間のLAN22を介したデータの授受を制御するためのネットワーク制御装置であり、クライアント制御IC12に接続されている。
【0040】
表示部24は、例えば、このコンテンツ再生装置の正面パネルなどに配置され、液晶表示パネルや蛍光表示管などから構成され、表示制御マイコン25から供給される表示用データに従って、AV機器1の動作状況等を示すメッセージ等を表示する。
【0041】
表示制御マイコン25は、CPUやROM、RAM等を備えており、システムマイコン11の制御下に、表示部24に表示される表示内容を制御する。
【0042】
LANケーブル接続端子26は、LAN22とLANコントローラ23とを接続する。
【0043】
次に、上記構成のオーディオシステムの動作を説明する。
システムマイコン11は、キー制御部17からの指示に応じて、クライアント制御IC12に、LAN22とLANコントローラ23とを介してPC18から供給されるオーディオデータと、スロット21とを介してメモリカード20から供給されるオーディオデータのいずれを選択するかを指示する。
【0044】
クライアント制御IC12のシステム制御部53は、指示に従って、セレクタ部51に、LAN22とLANコントローラ23とを介してPC18から供給されるオーディオデータと、スロット21とを介してメモリカード20から供給されるオーディオデータの一方を選択させる。
【0045】
クライアント制御IC12のシステム制御部53は、選択したソースから供給されるファイル名等の属性情報をシステムマイコン11に送信する。システムマイコン11は、表示制御マイコン25にこれらの情報を提供する。表示制御マイコン25は、表示部24にこれらの情報を適宜表示する。
【0046】
続いて、キー制御部17より再生(PLAY)が指示されると、システムマイコン11は、システム制御部53に再生を指示する。
【0047】
システム制御部53は、指示に従って、選択されているソースの選択されているファイルからデータを読み出す。
このファイルのデータは、所定の符号化方式で符号化或いは圧縮符号化されたオーディオデータと、ファイル形式、サンプリング周波数、ビットレートなどを特定する制御情報と、ファイル名、アルバム名、プレーヤ名、演奏時間、等のテキスト情報とを有する。
【0048】
システム制御部53は、制御情報、例えば、ファイル名の拡張子及びビットレートから、ファイルの符号化方式或いは圧縮形式を判別し、デコード用DSP52にデコード方式を指定する。
デコード部52は、セレクタ51から供給されるオーディオデータをデコードして、PCM信号に変換し、DIR13を介して、オーディオDSP14に供給する。
【0049】
また、システム制御部53は、再生中のオーディオデータの制御情報とテキスト情報と、をシステムマイコン11に提供する。システムマイコン11は、テキスト情報を表示制御マイコン25に提供し、表示部24に曲名、等を表示させる。
【0050】
システムマイコン11は、オーディオDSP14の高域信号付加部61に制御情報を通知する。
高域信号付加部61は、その制御情報に従って、ソースに格納されている符号化・圧縮されているオーディオデータに欠落している高音域の信号を生成して、ソースから再生されたオーディオ信号に付加し、より自然な音場を生成する。
【0051】
一般に、圧縮符号化された音声信号に基づく入力PCMデータが表すオーディオ信号は、例えば図4(a)にスペクトル分布の概略を示すように、元の音声のうち、周波数が一定値以上である成分が除去されたものに相当するスペクトル分布を有している。
【0052】
DIR13から入力するPCMデータが表すオーディオ信号の占有帯域の上限を示すこの一定値(図4(a)で「fIN」として示す値)は、例えば、入力音声データがMP3形式でビットレートが128kbpsのデータからなっている場合は約16キロヘルツであり、また、ATRAC3形式のデータからなっている場合は、約14キロヘルツである。
【0053】
DIR13からのPCMデータは、遅延部71及び混合部74に供給され、システムマイコン11からの制御用データは制御部72に供給される。
【0054】
遅延部71は、PCMデータが供給されると、これを遅延させて加算部77に供給する。
【0055】
遅延部71の遅延時間は、混合部74に供給された信号が混合部74、HPF75及び利得調整部76での処理を経て加算部77に供給されるまでに経過する時間の長さに等しい。また、遅延部71から加算部77に供給される遅延された信号(PCMデータが表現するアナログ信号)の位相と、利得調整部76から加算部77に供給される信号(PCMデータが表現するアナログ信号)の位相とは、加算部77に同時に供給されるもの同士の間では、実質的に同相であるものとする。
【0056】
制御部72は、ファイル形式及び/又はビットレート情報からなる制御情報に基づいて、局部発振部73が発生する局部発振信号の周波数を決定し、決定した周波数を示す情報を局部発振部73に供給する。また、制御部72は、制御情報に基づき、HPF75の通過帯域特性を決定し、決定した通過帯域特性を示す情報を、HPF75に供給する。
【0057】
制御部72は、具体的には、例えば、EEPROM(Electrically Erasable/Programmable Read Only Memory)等の不揮発性メモリを更に備え、この不揮発性メモリが、帯域幅テーブルと、Q値テーブルとを予め記憶する。
【0058】
帯域幅テーブルは、入力音声信号の占有帯域の上限の値を、符号化方式或いは圧縮方式のそれぞれについて示しているデータを格納するテーブルである。Q値テーブルは、HPF75のQの値を、入力音声データが表す音楽のジャンル毎に指定するデータを格納するテーブルである。Qの値は、1程度から7程度までの範囲とする。
【0059】
そして、制御部72は、具体的には、以下(1)〜(4)として述べる処理を行う。
【0060】
(1) まず、制御部72は、制御情報が示す形式のオーディオデータの占有帯域の上限の値を、帯域幅テーブルを検索することにより特定する。
【0061】
(2) 次に、制御部72は、以下(a)及び(b)として示す条件に合致するように、HPF75の通過帯域と、局部発振信号の周波数とを決定する。すなわち、図4(b)及び(c)に示すように、
(a) 局部発振信号の周波数fOSCが、入力音声信号の占有帯域の上限の周波数fINより低く、
(b) HPF75の利得のピークの周波数fPが、上述の周波数fINより低く、且つ、周波数(fIN−fOSC)より高い、
という関係が成り立つように、HPF75の通過帯域と、局部発振信号の周波数とを決定する。すなわち、fIN、fOSC及びfPの各値の間には、次式の関係がある。
fOSC <fIN
(fIN −fOSC)<fP <fIN
【0062】
ただし、音楽を表す信号は一般に、10キロヘルツ以上の成分が、周波数が高くなるにつれて減衰しつつ数百ヘルツ程度の間隔で並ぶピークを多数含んだスペクトル分布を有する、という特徴を持つ。
【0063】
このため、後述の処理によりこのような特徴のある成分を入力音声信号に追加して出力音声信号を生成するためには、図4(b)に示すように、オーディオ信号のうち周波数が約10キロヘルツ以上の成分(あるいは、10キロヘルツ以上でなくとも、当該特徴のある成分)が、混合部74の処理によって、周波数fIN以上の帯域を占めるよう周波数変換されることが望ましい。このような周波数変換の結果を得るため、例えば、入力信号のうち当該特徴を有する部分が約10キロヘルツ以上の周波数成分であれば、局部発振信号の周波数fOSCは、(fIN−10kHz)程度とされる。
【0064】
(3) (2)の処理を行う一方、制御部72は、制御情報が示す音楽のジャンルを検索キーとしてQ値テーブルを検索することにより、HPF75がとるべきQの値を決定する。
【0065】
(4) そして、制御部72は、上述の(a)の条件を満たすfOSCの値を示す情報を局部発振部73に供給する。また、上述の(b)の条件を満たすfPの値をHPF75の通過帯域特性のピークの周波数として指定する情報、及び、上述の(3)の処理で決定したQの値を指定する情報を、HPF75に供給する。
【0066】
局部発振部73は、制御部72より局部発振信号の周波数を示す情報を供給されると、この情報が示す通りの周波数を有する局部発振信号を発生して混合部74へと供給する。局部発振部73は、例えば、IIR(Infinite Impulse Response)型のローパスフィルタより構成されている。ただし、このローパスフィルタのQの値は実質上無限大に設定されているものとする。
【0067】
局部発振部73は、ほぼ正弦波である局部発振信号を生成する。
【0068】
混合部74は、遅延部71に供給されたものと同一の信号を、遅延部71と同時に供給される。そして、この信号と局部発振部73が発生する局部発振信号とを混合することにより、入力音声信号と局部発振信号との積を表す信号を生成し、生成した信号をHPF75に供給する。
【0069】
混合部74がHPF75に供給する信号は、入力オーディオ信号の周波数と局部発振信号の周波数の和にあたる周波数を有する成分(和成分)、及び、入力音声信号と局部発振信号の周波数の差にあたる周波数を有する成分(差成分)を含んでいる。和成分のスペクトルは、図4(b)に示すように、周波数fOSCを下限とし周波数(fIN+fOSC)を上限とする帯域を占める。また、差成分のスペクトルは、図4(b)に示すように、周波数(fIN−fOSC)を上限とする帯域を占める。
【0070】
HPF75は、混合部74より供給された成分をフィルタリングして利得調整部76に供給する。HPF75は、通過帯域特性の一例のグラフを図5に示すように、IIR型のハイパスフィルタに相当する通過帯域特性を有しており、ピークを持ち、このピークより高周波側では、周波数が増大するにつれてHPF75の減衰率は大きくなっている。そして、HPF75は、このピークの周波数及びQの値を、制御部72から供給される情報が示す値に調整する。Qの値が大きいほど、HPF75の通過帯域特性のピークは急峻となる。
【0071】
混合部74がHPF75に供給する信号の和成分及び差成分は、上述の通り、図4(b)に示すような帯域を占める。一方、HPF75の通過帯域特性のピークの周波数fPは、(fIN−fOSC)を超えfIN未満である。従って、HPF75は、図4(c)に示すように、混合部74が供給する信号のうち、周波数がfP以上でfIN+fOSC以下である和成分を通過させ、その他の成分を実質的に遮断する。ただし、上述の通り、HPF75は、通過帯域特性のピークより高周波側では周波数が増大するにつれ減衰率が大きくなっているので、HPF75を通過する和成分も、周波数が高い成分ほど減衰が大きくなる。
【0072】
利得調整部76は、HPF75から供給される信号を増幅して加算部77に供給する。利得調整部76の利得は、加算部77が生成する後述の出力信号のスペクトルの包絡線が、周波数fINの近傍で滑らかになるような値に設定される。この値は、例えば、実験などに基づいて設定される。
【0073】
加算部77は、遅延部71から供給される遅延された信号と利得調整部76から供給される信号との和を表す信号を生成して出力する。
【0074】
出力信号は、図4(d)に示すように、入力信号に相当する成分と、追加された成分とからなっている。そして、追加された成分は、入力信号のうち周波数が所定値以上である成分を、当該所定値と入力音声信号の占有帯域の上限の周波数の差に相当する量だけ高周波側に周波数変換することで得られている。
【0075】
入力音声信号が帯域を制限された信号である場合、元の音声信号から除去された成分は、元の音声信号のうち10キロヘルツ以上の成分の高調波成分より構成されている可能性が高い。従って、入力音声信号が帯域を制限された信号である場合、出力音声信号は、帯域が制限される前の元の音声信号に近いものとなる。
【0076】
また、出力音声信号のうち入力音声信号に追加された成分は、HPF75の通過帯域特性のピークより高周波側の成分であり、周波数が高い成分ほど大きな減衰を受けている。このため、出力音声信号のスペクトルは、周波数が高い成分ほど強度が小さくなるような、音声の典型的なスペクトルに近い自然な分布を示す。
【0077】
また、局部発振信号の周波数やHPF75の通過帯域特性は、制御情報が直接又は間接的に表している入力信号の占有帯域幅に従って変化するので、さまざまな占有帯域幅を有する入力信号に適切な音場の補間を行うことができる。
【0078】
また、制御情報に含まれるジャンル情報に従って、HPF75のQの値を変化させることにより、出力信号のうち入力音声信号に追加される高域成分の包絡線の形状が変化する。これを利用して、音楽のジャンルに適したスペクトル分布が与えられる。具体的には、制御部72は、シンバル等、高音を発する音源が多用されるロックの場合はQの値を低くして高域成分が減衰せず多く残るようにし、そのような音源が多用されないクラシックの場合はQの値を高くして高域成分を大きく減衰させる。尚、上述の処理によって特定された占有帯域の上限の周波数の値が22kHzを示している場合など、補間信号を付加する必要のない符号化信号が入力された場合には、上述の補間処理は実行されないように制御される。当該制御は、制御部72が、受信した制御情報に基づいて行う。尚、補間処理を行わない場合には、DIR13から入力されるPCM信号のうち、遅延部71を経由する信号経路のみを有効とし、混合部74を経由する経路を実質的に遮断するなどすればよい。補間を行わない信号としては、例えばMP3形式の符号化形式を採用し、ビットレート256kbpsで符号化されている信号が相当する。もちろん、これ以外にも種々の符号化形式とビットレートの組み合わせが存在するので、それぞれに対応して補間処理を行うか否かが決定される。補間処理を行うか否かの判断基準は適宜選択されれば良いが、目安として、20kHz以上の周波数帯域に音声信号が存在する場合には補間処理を行わないなどとすればよい。
【0079】
なお、制御情報は、再生中のオーディオデータの符号化方式に応じて、占有帯域の上限の周波数の値を直接示すものであってもよい。
【0080】
以上では、理解を容易にするため、信号処理の内容を、DSPが実現する機能に基づいて説明したが、実際には、以下に説明する所定のプログラムに従って、ディジタルデータを順次処理することにより実現される。
【0081】
まず、DIR13から入された信号は、順次バッファに格納される。そして、システムマイコン11からロードした制御情報に基づき、局部発振信号の周波数と、後述するステップS5でのフィルタリングで得るべき通過帯域特性とを決定する(ステップS1)。この時点で、制御情報から音声信号に含まれる上限周波数が特定できるので、以後の補間処理を行うか否かが決定される。高域まで音声信号が存在する補間を行う必要のない音声信号の場合には、以下の補間処理は行わない。
【0082】
入力データのうちから1サンプル分を取得する(ステップS2)。また、ステップS1で決定した周波数を有する局部発振信号の1サンプル分のデータを生成する(ステップS3)。なお、ステップS2では、まだステップS2で取得していないもののうち先頭の1サンプル分を取得し、また、ステップS3では、ステップS3で最後に生成したデータより1サンプル分位相が遅れたデータ(ただし、初回のステップS3の処理では任意の初期位相を有するデータ)を生成する。
【0083】
次に、ステップS2で取得したデータの値とステップS3で生成した局部発振信号のサンプルの値との積を計算し(ステップS4)、得られた積をフィルタリングする(ステップS5)。
【0084】
そして、ステップS2で取得したデータの値とステップS5でのフィルタリングの結果得られた値とを加算し(ステップS6)、加算結果を示すデータを出力し(ステップS7)、処理をステップS2に戻す。
【0085】
このような処理により、高域信号付加部61からは、PC18或いはメモリカード20に格納されている符号化オーディオデータには欠落している高帯域成分が補完された信号が出力される。
【0086】
オーディオDSP14のリスニングモード処理部62は、システムマイコン11によって指定されたリスニングモード(モノラル、ステレオ、サラウンド等)に応じて、入力オーディオ信号を処理し、アンプ部15を介してスピーカ部16から放音する。
【0087】
このような構成とすれば、クライアント制御IC12で取得した再生対象のオーディオ信号の符号化・圧縮方法を特定可能な制御情報を表示用のテキスト情報等と共にシステムマイコン11に伝達し、システムマイコン11から他の制御情報(リスニングモードを指定する情報)等を指定するためのルートを介してオーディオDSP14に伝達し、オーディオDSP14で高音域の補完処理を行うことができる。これにより、処理負担を分散させつつ、必要な制御情報を伝達することが可能となる。
【0088】
尚、本発明は上記実施の形態で示したものに限定されず、様々な変形及び応用が可能である。例えば、高音域の補完の手法自体は任意である。また、制御情報の種類や内容も任意である。
【0089】
また、コンテンツを供給するソースの種類も、PC18(HDD)やメモリカード20に限定されず、例えば、DVD(Digital Versatile Disc)や、CD(Compact Disc) 等でもよい。この場合、例えば、ソースから出力信号は、デコードが必要な場合にはクライアント制御IC12に供給され、デコード済みの場合には、DIR13に供給され、DIR13で任意の入力が選択される。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の実施の形態に係るAVシステムの構成図である。
【図2】図1に示すAVシステムのうち音場補完の処理に関連する部分の構成を詳細に示すブロック図である。
【図3】オーディオDSPの音場補完部分の機能を示すブロック図である。
【図4】音場補完処理を説明するためのスペクトル図である。
【図5】図3に示すハイパスフィルタの通過帯域特性の一例のグラフである。
【図6】図3に示す音場補完処理のフローチャートである。
【図7】従来のAVシステムの構成図である。
【符号の説明】
【0091】
1 AV装置
11 システムマイコン
12 クライアント制御IC
13 DIR
14 オーディオDSP
15 アンプ部
16 スピーカ部
17 キー制御部
18 PC
19 ルータ
20 メモリカード
21 スロット
22 LAN
23 LANコントローラ
24 表示部
25 表示制御マイコン
26 LANケーブル接続端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
符号化されたオーディオデータをデコードして出力すると共に該オーディオデータに関する情報を取得するデコード手段と、デコードされたオーディオデータを処理してオーディオ信号を再生する再生手段と、前記デコード手段からオーディオデータに関する情報を受信して前記再生手段の動作を制御する制御手段と、を備えるオーディオ装置であって、
前記デコード手段は、前記オーディオデータの符号化方式に対応する情報を前記制御手段に供給し、
前記制御手段は前記デコード手段からの符号化方式に対応する情報に対応する情報を前記再生手段に供給し、
前記再生手段は、前記制御手段からの情報に基づいて、前記符号化方式において欠落する周波数帯域の信号を補完する音場補完処理を実行する補完手段を備える、
ことを特徴とするオーディオ装置。
【請求項2】
前記デコード手段と前記制御手段と前記再生手段とのいずれかは、前記符号化方式に対応する音場補完処理の制御パラメータを求める手段を備え、
前記再生手段は、制御パラメータに従って、前記符号化方式に対応して周波数帯域の信号を補完する音場補完処理を実行する補完手段を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載のオーディオ装置。
【請求項3】
前記補間手段は、
スペクトルを補間される対象である音声を表す被補間信号を周波数変換することにより補間用信号を生成する周波数変換部と、
前記補間用信号のうち、前記被補間信号が占める第1の帯域より高周波側の第2の帯域内の成分を抽出するフィルタと、
前記被補間用信号と前記フィルタが抽出した成分との和を表す出力信号を生成する加算部と、
を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のオーディオ装置。
【請求項4】
前記符号化方式に対応する情報は、ファイル形式及び/又はビットレートを含んでいる、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のオーディオ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−64884(P2006−64884A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245934(P2004−245934)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【Fターム(参考)】