説明

オーバーストローク吸収装置

【課題】スライド移動体のオーバーストロークによるケーブルの損傷を防止するオーバーストローク吸収装置を提供する。
【解決手段】オーバーストローク吸収装置100は、ケーブルを折り返すための所定の曲率半径の屈曲面112を有するケーブル折り返し部110と、ケーブル折り返し部110を回動可能に係止する係止基部120と、ケーブル折り返し部110を所定の回転位置に維持するための弾性部130とを備えている。屈曲面112に配索されたフラットケーブルが右側に強く引っ張られると、ケーブル折り返し部110が左回転することで、フラットケーブルに過大な引っ張り力が加えられるのを防止している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本体にスライド移動可能に係止されたスライド移動体のオーバーストロークによって、本体とスライド移動体とを接続するケーブルが損傷するのを防止するためのオーバーストローク吸収装置である。
【背景技術】
【0002】
本体にスライド移動可能に係止されたスライド移動体として、たとえばワンボックスカーやワゴン車等の車体(本体)に用いられているスライドドア(スライド移動体)が知られている。スライドドアには、パワーウィンドモーター、スイッチ、スピーカー等の機器が内部に組み込まれており、これらの機器に車体側から給電したり制御信号等を伝送するために、車体とスライドドアとの間にワイヤハーネスが配索されている。
【0003】
スライド移動体と本体との間を電気的に接続するためのケーブルは、スライド移動体の移動に追従して移動できるように配索されており、スライド移動体の移動中に本体やスライド移動体に接触するのを防止するため、その長さをできるだけ短くしている。
【0004】
車体とスライドドアを電気的に接続しているワイヤハーネスとして、たとえば特許文献1ではフラットケーブルが用いられている。フラットケーブルは、スライドドアの開閉に伴って、車体とスライドドアの間で柔軟に移動できるように配索されているが、フラットケーブルがスライドドアの移動中に車体やスライドドアに接触するのを防止するために、その長さをできるだけ短くしている。
【0005】
従来のスライドドアの配線構造は、例えば特許文献1に開示されている。ワイヤハーネスを車体に接続している車体側接続部とスライドドアに接続しているドア側接続部との距離は、スライドドアが全閉または全開のときに最も長くなることから、ワイヤーハーネスの長さもこれに合わせて設定されている。
【0006】
スライドドアを開けた状態から全閉にする際、あるいは、反対にスライドドアを全開にする際、手動でスライドドアを移動できる構造となっている。そのため、スライドドアを手動で勢いよくスライドさせて全開あるいは全閉にすると、スライドドアが所定の停止位置で停止せずにスライドし過ぎてしまうといったオーバーストロークが発生する。これは、坂道において車体が傾いている状態でも生じやすい。但し、スライドし過ぎたスライドドアはすぐに所定の停止位置まで戻るため、このオーバーストロークは短時間で解消される。スライドドアのように、全開または全閉にするときにオーバーストロークが生じるスライド移動体は、これまで広く知られている。
【0007】
【特許文献1】特開2007−83854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、スライド移動体の移動時にオーバーストロークが発生すると、本体とスライド移動体との間に配索されたケーブルがオーバーストロークによって強く引っ張られ、これによりケーブルが損傷したり断線してしまうおそれがあった。車両のスライドドアにおいても、その開閉時にオーバーストロークが発生すると、ワイヤハーネスが損傷したり断線してしまうおそれがあった。
【0009】
そこで、本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、スライド移動体のオーバーストロークによるケーブルの損傷を防止するオーバーストローク吸収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のオーバーストローク吸収装置の第1の態様は、本体と該本体にスライド可能に係止されたスライド移動体との間に配索されたケーブルが、前記スライド移動体のオーバーストロークによって受ける引張り力を吸収するためのオーバーストローク吸収装置であって、前記ケーブルを折り返すための所定の曲率半径の屈曲面を有するケーブル折り返し部と、前記ケーブル折り返し部を移動可能に係止する係止基部と、前記ケーブル折り返し部を前記係止基部の所定の係止位置まで復帰させるように付勢する弾性部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明のオーバーストローク吸収装置の他の態様は、前記係止基部は、前記ケーブル折り返し部を回動可能に係止し、前記弾性部は、前記ケーブル折り返し部を所定の回転位置まで復帰させるための回転力を前記ケーブル折り返し部に付加することを特徴とする。
【0012】
本発明のオーバーストローク吸収装置の他の態様は、前記係止基部は、前記ケーブル折り返し部を直線移動可能に係止し、前記弾性部は、前記ケーブル折り返し部を所定の係止位置まで復帰させるための反発力を前記ケーブル折り返し部に付加することを特徴とする。
【0013】
本発明のオーバーストローク吸収装置の他の態様は、前記スライド移動体のオーバーストロークによって前記ケーブルが引っ張られる長さ以上に前記屈曲面が回転移動可能となるように、前記ケーブル折り返し部の回転中心から前記屈曲面までの長さ及び回転角度が設定されていることを特徴とする。
【0014】
本発明のオーバーストローク吸収装置の他の態様は、前記スライド移動体のオーバーストロークによって前記ケーブルが引っ張られる長さの略半分以上前記屈曲面が直線移動可能となるように、前記ケーブル折り返し部の直線移動範囲が設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、スライド移動体のオーバーストロークによってケーブルに加えられる引張り力を、ケーブル折り返し部を移動可能にすることで吸収するオーバーストローク吸収装置を提供することができ、これによりケーブルの損傷を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図面を参照して本発明の好ましい実施の形態におけるオーバーストローク吸収装置の構成について詳細に説明する。なお、同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0017】
本発明のオーバーストローク吸収装置は、本体とこれにスライド移動可能に係止されたスライド移動体との間に所定のケーブルが配索されている装置等に用いられるものであり、一例としてワンボックスカーやワゴン車等のスライドドアを備えた車両に用いることができる。以下では、スライドドアを備えた車両を例に、本発明のオーバーストローク吸収装置の実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るオーバーストローク吸収装置の概略の構成を示す斜視図であり、(a)はオーバーストローク吸収装置100を斜め前方から見た斜視図、(b)は斜め側方から見た斜視図をそれぞれ示している。本実施形態のオーバーストローク吸収装置100は、ケーブルを折り返すための所定の曲率半径の屈曲面112を有するケーブル折り返し部110と、ケーブル折り返し部110を回動可能に係止する係止基部120とを備えている。
【0019】
ケーブル折り返し部110を係止基部120に回動可能に連結するために、ケーブル折り返し部110に回転軸111が設けられ、係止基部120には回転軸係止部121が設けられている。回転軸111が、回転軸係止部121に係止されて回転可能となっている。
【0020】
ケーブル折り返し部110は、屈曲面112に沿って配索されたケーブルで強く引っ張られている場合を除いて、図1に示す回転位置に維持されている(ケーブル折り返し部110の回転位置を例えば図中の1点鎖線とする)。オーバーストローク吸収装置100にケーブルが配索された状態の一例を図2に示す。図2(a)、(b)は、それぞれ図1(a)、(b)と同じ角度から見た斜視図である。ここでは、ケーブルとしてフラットケーブル10が用いられている一例を示している。フラットケーブル10は、例えば一端が図示しない車体に接続され、係止基部120の内部を通過してケーブル折り返し部110の屈曲面112で折り返され、他端が図示しないスライドドアに接続されている。
【0021】
図2において、フラットケーブル10が図面上右側に強く引っ張られない限り、ケーブル折り返し部110は、図1に示した回転位置に維持されている。このように、ケーブル折り返し部110を所定の回転位置に維持するために、回転軸111と回転軸係止部121との間に弾性部としてバネ部130が設けられている。バネ部130は、例えばゼンマイ状に形成されたものを用いることで、回転軸111に回転力を与えることができる。なお、弾性部は、例えばコイルバネ、場合によってはゴム材、エアバネ、電磁バネ、油圧バネ等であっても良い。
【0022】
フラットケーブル10が図面上右側に強く引っ張られると、ケーブル折り返し部110は左回転することから、バネ部130は回転軸111に対し右回りの回転力を与えるようにすればよい。これにより、フラットケーブル10に加えられた強い引っ張り力がなくなると、ケーブル折り返し部110はバネ部130から加えられている右回りの回転力で元の回転位置に復帰することができる。
【0023】
フラットケーブル10が右側に強く引っ張られてケーブル折り返し部110が左回転した状態を、図3、4に示す。図3はケーブル折り返し部110が左回転した状態のオーバーストローク吸収装置100を示す斜視図であり、(a)、(b)はそれぞれ図1(a)、(b)と同じ角度から見た斜視図を示している。また、図4はオーバーストローク吸収装置100にフラットケーブル10が配索されている状態の斜視図であり、(a)、(b)はそれぞれ図1(a)、(b)と同じ角度から見た斜視図を示している。
【0024】
図3、4において、ケーブル折り返し部110は、フラットケーブル10が図面右側(図4の矢印Bの方向)に強く引っ張られることで、図3の矢印Aで示すように、回転軸111を中心に左回転している。このとき、バネ部130も左回転の方向に捲回されることから、バネ部130には右回転の方向に強い回転力が生じている。その結果、フラットケーブル10に加えられていた強い引張り力がなくなると、バネ部130の強い回転力でケーブル折り返し部110が右回転して元の回転位置に復帰する。
【0025】
フラットケーブル10が強い力で引っ張られてケーブル折り返し部110が図3、4のように回転したとき、フラットケーブル10が引っ張られた長さは屈曲面112が移動した長さにほぼ等しくなる。屈曲面112が移動する長さは、回転軸111から屈曲面112までの長さ(図3に示す長さR)と矢印Aで示す回転角によって決まる。これから、屈曲面112が移動する長さが、フラットケーブル10がオーバーストロークで引っ張られる長さ以上となるよう、長さRと矢印Aの回転角を設定するのがよい。
【0026】
本実施形態のオーバーストローク吸収装置100を車両に設置した一例を図5に示す。本実施例では、オーバーストローク吸収装置100の係止基部120が、車体20側に固定されている。同図では、車体20とスライドドア30との間にケーブル10が配索されており、車体20側に固定された係止基部120とスライドドア30側に設けられたドア側固定部31とでケーブル10が固定されている。本実施例では、ケーブル10を車体20に固定する車体側固定部を、オーバーストローク吸収装置100の係止基部120が兼ねるように構成されているが、オーバーストローク吸収装置100に近接して車体側固定部を別に設けてもよい。
【0027】
図5では、スライドドア30が全開された状態を示している。スライドドア30を全開させるとき、勢いよく開けるとスライドドア30が所定の全開位置(図5に示すスライドドア30の位置)で停止せず、これを一時的に通過して破線で示したスライドドア30aの位置までスライドしてしまうオーバーストロークが発生する。
【0028】
スライドドア30が所定の全開位置のときにケーブル10が係止基部120とドア側固定部31との間で余長がなくなるように構成されている場合には、スライドドア30がオーバーストロークするとケーブル10が強く引っ張られてしまう。このとき、ケーブル折り返し部110が左方向に回転することで、ケーブル10に過大な引っ張り力が加えられるのを防止することができる。同様に、ドア側固定部31にも、本発明のオーバーストローク吸収装置を配置することで、スライドドア全閉時にも、ケーブル10に過大な引っ張り力が加えられるのを防止することができる。
【0029】
本発明の第2の実施の形態に係るオーバーストローク吸収装置を、図6を用いて説明する。本実施形態のオーバーストローク吸収装置200は、ケーブル折り返し部210が係止基部220に対し直線方向に移動するように構成されている。バネ部230には、ケーブル折り返し部210を図面左方向に押す押しバネが用いられている。
【0030】
このように構成されたオーバーストローク吸収装置200を、スライドドアを備えた車両に設置した実施例を以下に説明する。車体とスライドドアとの間で配索されたケーブルが、屈曲部212で折り返されるようにしておくと、スライドドアのオーバーストロークによりケーブルが引っ張られたとき、ケーブル折り返し部210が図面上右方向に直線状に移動することで、ケーブルに過大な引っ張り力が加えられないようにすることができる。このとき、バネ部230は圧縮され、ケーブル折り返し部210を左方向に押し戻そうとする反発力がバネ部230に生じる。
【0031】
スライドドアが所定の停止位置に戻ってケーブルに強い引っ張り力が働かなくなると、バネ部230に生じた反発力によりケーブル折り返し部210が左方向に直線移動して元の位置に復帰する。本実施形態のオーバーストローク吸収装置200では、ケーブル折り返し部210が左右に移動するとき、ケーブルが屈曲部212上をスリップするが、ケーブル折り返し部210の移動距離はケーブルが引っ張られる長さの半分程度になるといった効果がある。
【0032】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係るオーバーストローク吸収装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態におけるオーバーストローク吸収装置の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るオーバーストローク吸収装置の概略の構成を示す斜視図である。
【図2】第1の実施形態のオーバーストローク吸収装置にケーブルを配索した状態を示す斜視図である。
【図3】ケーブル折り返し部が左回転したときの第1の実施形態のオーバーストローク吸収装置を示す斜視図である。
【図4】第1の実施形態のオーバーストローク吸収装置にケーブルを配索してケーブル折り返し部が左回転した状態を示す斜視図である。
【図5】第1の実施形態のオーバーストローク吸収装置を車両に設置した一例を示す平面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係るオーバーストローク吸収装置の概略の構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
10 フラットケーブル
20 車体
30、30a スライドドア
100、200 オーバーストローク吸収装置
110、210 ケーブル折り返し部
111 回転軸
112、212 屈曲面
120、220 係止基部
121 回転軸係止部
130、230 バネ部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と該本体にスライド可能に係止されたスライド移動体との間に配索されたケーブルが、前記スライド移動体のオーバーストロークによって受ける引張り力を吸収するためのオーバーストローク吸収装置であって、
前記ケーブルを折り返すための所定の曲率半径の屈曲面を有するケーブル折り返し部と、
前記ケーブル折り返し部を移動可能に係止する係止基部と、
前記ケーブル折り返し部を前記係止基部の所定の係止位置まで復帰させるように付勢する弾性部と、を備える
ことを特徴とするオーバーストローク吸収装置。
【請求項2】
前記係止基部は、前記ケーブル折り返し部を回動可能に係止し、
前記弾性部は、前記ケーブル折り返し部を所定の回転位置まで復帰させるための回転力を前記ケーブル折り返し部に付加する
ことを特徴とする請求項1に記載のオーバーストローク吸収装置。
【請求項3】
前記係止基部は、前記ケーブル折り返し部を直線移動可能に係止し、
前記弾性部は、前記ケーブル折り返し部を所定の係止位置まで復帰させるための反発力を前記ケーブル折り返し部に付加する
ことを特徴とする請求項1に記載のオーバーストローク吸収装置。
【請求項4】
前記スライド移動体のオーバーストロークによって前記ケーブルが引っ張られる長さ以上に前記屈曲面が回転移動可能となるように、前記ケーブル折り返し部の回転中心から前記屈曲面までの長さ及び回転角度が設定されている
ことを特徴とする請求項2に記載のオーバーストローク吸収装置。
【請求項5】
前記スライド移動体のオーバーストロークによって前記ケーブルが引っ張られる長さの略半分以上前記屈曲面が直線移動可能となるように、前記ケーブル折り返し部の直線移動範囲が設定されている
ことを特徴とする請求項3に記載のオーバーストローク吸収装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−33897(P2009−33897A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196623(P2007−196623)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)