説明

オープンエンドレンチ

【課題】オープンエンドレンチの先端部の形状を小さくすることができるとともに、耐久性及び締付精度を向上することができるオープンエンドレンチを提供すること。
【解決手段】出力側歯車41及び回転体2の外周面に備えた歯車23にそれぞれ外接する環状の溝7を形成するとともに、この環状の溝7に複数個のローラ6を配設し、このローラ6を、出力側歯車41の回転に合わせて、出力側歯車41及び回転体2の外周面に備えた歯車23にそれぞれ嵌合させながら環状の溝7に沿って循環移動させることによって、回転体2を回転させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のステアリング機構に組み込むタイロッド等の軸状ワークやチューブ、コード等の線状部材に外挿されたナットを回転させるために用いられるオープンエンドレンチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のステアリング機構に組み込むタイロッド等の軸状ワークやチューブ、コード等の線状部材に外挿されたナットを回転させるために、オープンエンドレンチが汎用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このオープンエンドレンチは、図3〜図4に示すように、オープンエンドレンチ1Xの先端部に、軸状ワークや線状部材を径方向に挿入、離脱可能な溝状の欠如部21を形成した回転体2を軸支し、この回転体2の内周面にナットを軸方向に挿入可能なソケット部22を、外周面に歯車23を、それぞれ備えるようにしている。
そして、軸状ワークや線状部材を回転体2の溝状の欠如部21に挿入し、軸状ワークや線状部材に外挿されたナットにソケット部22を軸方向から係合させ、この状態で、回転体2を回転させることによって、軸状ワークや線状部材に外挿されたナットを回転させ、締付作業や弛め作業を行うことができるようにしている。
【0004】
ところで、上記従来のオープンエンドレンチ1Xは、エアーモータや電気モータ等の回転駆動源3(図示のものは、電気モータ)によって回転駆動される減速機構42を含む動力伝達機構4の2個の出力側歯車41X1、41X2と、回転体2の外周面に備えた歯車23とが噛合することにより、回転体2を回転させるように構成されているが、このような構造上の理由から、以下のような問題点があった。
(1)2個の出力側歯車41X1、41X2の幅方向の寸法D4Xを小さくすること、ひいては、オープンエンドレンチ1Xの先端部の形状を小さくすることが困難で、狭小な場所の締付作業や弛め作業に適用できない。
(2)寸法上の制約から、回転体2の外周面に備えた歯車23や出力側歯車41X1、41X2の強度を高めることが困難で、耐久性が低い。
(3)回転体2が溝状の欠如部21を有する関係上、図4(a)に示すように、回転体2の外周面に備えた歯車23と2個の出力側歯車41X1、41X2との噛合状態が不均等な位置が生じ、動力伝達機構4の出力側歯車41X1、41X2から回転体2の外周面に備えた歯車23への動力伝達が円滑に行われない。このため、図4(b)に示す回転体2の外周面に備えた歯車23と出力側歯車41X1、41X2との噛合状態が均等な位置と、図4(a)に示す噛合状態が不均等な位置とで、回転体2及び動力伝達機構4の回転抵抗に大きな差が生じ、例えば、動力伝達機構4等に生じるトルクを歪ゲージや磁歪式センサ等のトルクセンサ5(図示のものは、歪ゲージ)によって検知することによって締付力を制御する場合に、実際の締付力の変動が大きくなり、締付精度が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−280180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来のオープンエンドレンチの有する問題点に鑑み、オープンエンドレンチの先端部の形状を小さくすることができるとともに、耐久性及び締付精度を向上することができるオープンエンドレンチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のオープンエンドレンチは、先端部に、溝状の欠如部を形成した回転体を軸支し、該回転体の内周面にナットを軸方向に挿入可能なソケット部を、外周面に歯車を、それぞれ備え、回転駆動源によって回転駆動される動力伝達機構の出力側歯車によって、前記回転体を回転させるようにしたオープンエンドレンチにおいて、出力側歯車及び回転体の外周面に備えた歯車にそれぞれ外接する環状の溝を形成するとともに、該環状の溝に複数個のローラを配設し、該ローラを、出力側歯車の回転に合わせて、出力側歯車及び回転体の外周面に備えた歯車にそれぞれ嵌合させながら環状の溝に沿って循環移動させることによって、前記回転体を回転させるようにしたことを特徴とする。
【0008】
この場合において、出力側歯車及び回転体の外周面に備えた歯車の外径の寸法と環状の溝の幅方向の寸法を同一に形成することができる。
【0009】
また、環状の溝を、出力側歯車及び回転体の外周面に備えた歯車にそれぞれ外接する位置で、出力側歯車及び回転体の外周面に備えた歯車に沿った円弧状に形成することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のオープンエンドレンチによれば、出力側歯車及び回転体の外周面に備えた歯車にそれぞれ外接する環状の溝を形成するとともに、該環状の溝に複数個のローラを配設し、該ローラを、出力側歯車の回転に合わせて、出力側歯車及び回転体の外周面に備えた歯車にそれぞれ嵌合させながら環状の溝に沿って循環移動させることによって、前記回転体を回転させるようにすることにより、オープンエンドレンチの先端部の形状を小さくすることができるとともに、耐久性及び締付精度を向上することができる。
【0011】
また、出力側歯車及び回転体の外周面に備えた歯車の外径の寸法と環状の溝の幅方向の寸法を同一に形成することにより、オープンエンドレンチの先端部の形状を小さくすることができるとともに、ローラを環状の溝に沿って円滑に循環移動させることができる。
【0012】
また、環状の溝を、出力側歯車及び回転体の外周面に備えた歯車にそれぞれ外接する位置で、出力側歯車及び回転体の外周面に備えた歯車に沿った円弧状に形成することにより、出力側歯車及び回転体の外周面に備えた歯車と嵌合するローラの個数を多くすることができるとともに、出力側歯車からローラに対して、また、ローラから回転体の外周面に備えた歯車に対して、出力側歯車及び回転体の外周面に備えた歯車の回転抵抗にならない接線方向に動力を伝達することができ、オープンエンドレンチの耐久性及び締付精度を一層向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のオープンエンドレンチの一実施例の要部を示し、(a)は平面断面図、(b)は正面断面図である。
【図2】同オープンエンドレンチの動作状態を示す説明図である。
【図3】従来のオープンエンドレンチを示し、(a)は正面断面図、(b)は要部の平面図、(c)は要部の底面部分断面図である。
【図4】同オープンエンドレンチの動作状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のオープンエンドレンチの実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0015】
図1〜図2に、本発明のオープンエンドレンチの一実施例を示す。
このオープンエンドレンチ1は、手持ち式のもので、従来のオープンエンドレンチ1Xと同様、先端部に、軸状ワークや線状部材を径方向に挿入、離脱可能な溝状の欠如部21を形成した回転体2を軸支し、この回転体2の内周面にナットを軸方向に挿入可能なソケット部22を、外周面に歯車23を、それぞれ備えるようにしている。
【0016】
そして、このオープンエンドレンチ1は、エアーモータや電気モータ等の回転駆動源3によって回転駆動される減速機構42を含む動力伝達機構4の1個の出力側歯車41及び回転体2の外周面に備えた歯車23にそれぞれ外接する環状の溝7を形成するとともに、この環状の溝7に複数個のローラ6を配設し、このローラ6を、出力側歯車41の回転に合わせて、出力側歯車41及び回転体2の外周面に備えた歯車23にそれぞれ嵌合させながら環状の溝7に沿って循環移動させることによって、回転体2を回転させるようにしている。
【0017】
この場合において、出力側歯車41及び回転体2の外周面に備えた歯車23は、円柱状のローラ6の周面形状(ローラ6の径)に合わせた円弧状歯車で構成するようにする。
これにより、出力側歯車41及び回転体2の外周面に備えた歯車23とローラ6の嵌合形態を面接触とし、大きな動力を伝達できるようにするとともに、オープンエンドレンチ1の耐久性及び締付精度を向上することができる。
なお、ローラ6の周面形状(ローラ6の径)及びローラ6の長さ(特に、嵌合部の長さ)は、伝達する動力の大きさに応じて適宜設定することができるが、図4に示すように、回転体2の位置にかかわらず、常に2個以上のローラ6が、出力側歯車41及び回転体2の外周面に備えた歯車23のそれぞれに嵌合するように構成することが望ましい。
また、ローラ6と回転体2の外周面に備えた歯車23の嵌合角度θ1(本実施例の場合、約80°)は、回転体2の溝状の欠如部21(歯車23が形成されていない部位)の角度θ2(本実施例の場合、約40°)より大きくなるように構成する必要があるが、当該角度θ2の2倍程度又はそれ以上に構成することがより望ましい。
【0018】
また、出力側歯車41及び回転体2の外周面に備えた歯車23の外径の寸法D2、D4と環状の溝7の幅方向の寸法W7を同一に形成することができる。
これにより、オープンエンドレンチ1の先端部の形状を小さくすることができるとともに、ローラ6を環状の溝7に沿って円滑に循環移動させることができる。
【0019】
また、環状の溝7を、出力側歯車41及び回転体2の外周面に備えた歯車23にそれぞれ外接する位置で、出力側歯車41及び回転体2の外周面に備えた歯車23に沿った円弧状に形成することができる。
これにより、出力側歯車41及び回転体2の外周面に備えた歯車23と嵌合するローラ6の個数を多くすることができるとともに、出力側歯車41からローラ6に対して、また、ローラ6から回転体2の外周面に備えた歯車23に対して、出力側歯車41及び回転体2の外周面に備えた歯車23の回転抵抗にならない接線方向に動力を伝達することができ、オープンエンドレンチ1の耐久性及び締付精度を一層向上することができる。
【0020】
次に、このオープンエンドレンチ1の使用方法について説明する。
自動車のステアリング機構に組み込むタイロッド等の軸状ワークやチューブ、コード等の線状部材に外挿されたナットを回転させる場合、まず、軸状ワークや線状部材を回転体2の溝状の欠如部21に挿入し、軸状ワークや線状部材に外挿されたナットにソケット部22を軸方向から係合させる。
この状態で、回転駆動源3を駆動し、減速機構42を含む動力伝達機構4を回転駆動することによって、動力伝達機構4の出力側歯車41の回転に合わせて、ローラ6を、出力側歯車41及び回転体2の外周面に備えた歯車23にそれぞれ嵌合させながら環状の溝7に沿って循環移動させ、回転体2を回転させる。
これによって、回転体2のソケット部22に係合している軸状ワークや線状部材に外挿されたナットを回転させ、締付作業や弛め作業を行うことができる。
なお、締付作業や弛め作業を完了すると、ナットからソケット部22を軸方向に抜いて、係合を解除し、回転体2を開口位置に回転させて、軸状ワークや線状部材を回転体2の溝状の欠如部21から抜いて作業を完了する。
【0021】
このオープンエンドレンチ1は、出力側歯車41及び回転体2の外周面に備えた歯車23にそれぞれ外接する環状の溝7を形成するとともに、この環状の溝7に複数個のローラ6を配設し、このローラ6を、出力側歯車41の回転に合わせて、出力側歯車41及び回転体2の外周面に備えた歯車23にそれぞれ嵌合させながら環状の溝7に沿って循環移動させることによって、回転体2を回転させるように構成されているため、以下のような利点を有する。
(1)出力側歯車41の外径の寸法D4及び環状の溝7の幅方向の寸法W7を、回転体2の外周面に備えた歯車23の外径の寸法D2と同程度に形成することによって、オープンエンドレンチ1の先端部の形状を小さくすることができ、狭小な場所の締付作業や弛め作業に適用可能なオープンエンドレンチ1を提供することができる。
(2)寸法上の制約がなくなるとともに、出力側歯車41及び回転体2の外周面に備えた歯車23とローラ6の嵌合形態が面接触となるため、大きな動力を伝達することができ、オープンエンドレンチ1の耐久性及び締付精度を向上することができる。
(3)出力側歯車41及び回転体2の外周面に備えた歯車23とローラ6の嵌合形態が面接触となるため、回転体2が溝状の欠如部21を有していても、回転体2及び動力伝達機構4の回転抵抗に変動が生じにくく、例えば、動力伝達機構4等に生じるトルクを歪ゲージや磁歪式センサ等のトルクセンサ5によって検知することによって締付力を制御する場合の実際の締付力の変動を低減でき、オープンエンドレンチ1の締付精度を向上することができる。
【0022】
以上、本発明のオープンエンドレンチについて、手持ち式のオープンエンドレンチの実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、例えば、複数個のナットを回転させることができる複数個の回転体を備えた定置式のオープンエンドレンチにも適用できる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のオープンエンドレンチは、オープンエンドレンチの先端部の形状を小さくすることができるとともに、耐久性及び締付精度を向上することができるという特性を有していることから、高い締付精度を要求される締付時に生じるトルクを歪ゲージや磁歪式センサ等のトルクセンサによって検知することによって締付力を制御するようにしたオープンエンドレンチを始めとして、狭小な場所の締付作業や弛め作業に用いられるオープンエンドレンチや大きな締付力と耐久性を要求されるオープンエンドレンチの用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0024】
1 オープンエンドレンチ
2 回転体
21 欠如部
22 ソケット部
23 歯車
3 回転駆動源
4 動力伝達機構
41 出力側歯車
42 減速機構
5 トルクセンサ
6 ローラ
7 環状の溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に、溝状の欠如部を形成した回転体を軸支し、該回転体の内周面にナットを軸方向に挿入可能なソケット部を、外周面に歯車を、それぞれ備え、回転駆動源によって回転駆動される動力伝達機構の出力側歯車によって、前記回転体を回転させるようにしたオープンエンドレンチにおいて、出力側歯車及び回転体の外周面に備えた歯車にそれぞれ外接する環状の溝を形成するとともに、該環状の溝に複数個のローラを配設し、該ローラを、出力側歯車の回転に合わせて、出力側歯車及び回転体の外周面に備えた歯車にそれぞれ嵌合させながら環状の溝に沿って循環移動させることによって、前記回転体を回転させるようにしたことを特徴とするオープンエンドレンチ。
【請求項2】
出力側歯車及び回転体の外周面に備えた歯車の外径の寸法と環状の溝の幅方向の寸法を同一に形成したことを特徴とする請求項1記載のオープンエンドレンチ。
【請求項3】
環状の溝を、出力側歯車及び回転体の外周面に備えた歯車にそれぞれ外接する位置で、出力側歯車及び回転体の外周面に備えた歯車に沿った円弧状に形成したことを特徴とする請求項1又は2記載のオープンエンドレンチ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−140086(P2011−140086A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1483(P2010−1483)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(591045323)瓜生製作株式会社 (26)