説明

オープンショーケース

【課題】コの字状の断熱筐体によるショーケース本体の内側に、冷気循環ダクトとこれと区画形成された貯蔵室を形成し、この冷気循環ダクトに連ねて貯蔵室の開口端部にハニカム整流体を取り付けた吹出口とこれに対向する吸込口を設け、吹出口から吸込口へ向かって吹き出す冷気エアーカーテンを形成するオープンショーケースにおいて、ハニカム整流体に汚れや露・霜がなるべく付着しないようにして、冷気循環を妨げることがないように配慮したオープンショーケースを提供する。
【解決手段】ハニカム整流体は、抗菌性または/および撥水性の塗膜で表面を被覆した。抗菌性または/および撥水性の塗膜は、防汚性能を発揮するとともに、初期の親水性と長期の親水持続性のコーティング膜103である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどに設置されるものとして、前面または上面の開口から内側の商品収納庫に商品の出し入れを行い、その開口に冷気流によるエアーカーテンを形成して商品を冷温に貯蔵する冷凍冷蔵オープンショーケースに関する。
【背景技術】
【0002】
食品の販売及び陳列を目的とする冷凍・冷蔵ショーケースの内、圧縮式冷凍装置と陳列室を構成する箱体とを一体とした内蔵形の冷凍・冷蔵ショーケースには、商品を取り出す扉付きのクローズドタイプと商品を取り出す扉の無いオープンタイプがあり、また、オープンタイプには主として惣菜、ドリンク類、アルコール飲料等を保冷するための陳列室が一つ以上あり、棚板に阻害されること無く前面にエアーカーテンを形成した多段式ショーケース(天井吹出型)と、主として惣菜、ドリンク類、アルコール飲料等を保冷するための陳列室が一つ以上あり、上面にエアーカーテンを形成した平形ショーケースがある。
【0003】
このようなオープンタイプのショーケースのうち多段式ショーケースについて説明すると、下記特許文献にもあるが、図1に示すように、断熱筐体になるオープンショーケースのケース本体1の内部を仕切板で前面開放形の外箱1aと内箱1bとに区画し、外箱1aと内箱1bとの間には、内箱1bの外周に内外二重の冷気循環ダクト2,3を画成し、その内側を貯蔵室として形成したものである。
【特許文献1】特開2006−110125号公報
【0004】
この冷気循環ダクト2,3に連ねてケース本体1のフロント上部側にはエアーカーテン吹出口2a,3aが、下部側にはエアーカーテン吸込口2b,3bを開口させた。
【0005】
また、内層の冷気循環ダクト(インナーダクト)2には冷却器(冷凍機のエバポレータ)4およびファン5を、外層の冷気循環ダクト(アウターダクト)3にはファン6が配備している。
【0006】
さらに、前記エアーカーテン吹出口2a,3aにハニカム整流体7を配備し、ショーケースの保冷運転時にはハニカム整流体7を通じて貯蔵室前面に内外二層の冷気エアーカーテンA,Bを吹き出し形成して庫内に保冷する。なお、8は貯蔵室内の商品陳列棚、9はケース本体1の上部前面に設けたキャノピー部である。
【0007】
ハニカム整流体7は図2に示すようにハニカム構造体12によるもので、このハニカム構造体12は下記特許文献にもあるが、プラスチックフィルムのロールより定形に裁断したフィルムの面上に所定間隔で接着剤を塗布し、次にこれら多数枚を積層接着し、更に所望の巾寸法に裁断して積層体を得ると共に、この積層体を加熱しながら展張することにより、その間口の形がはちの巣形状となるものである。
【特許文献2】特開平9−313309号公報
【0008】
ハニカム整流体7をショーケース本体1に取り付ける場合、図3に示すように、ハニカム構造体12の後端に沿ってハニカム支持部材21を設けた状態で吹出口2a,3aに挿入し、ハニカム支持部材21に形成されたシャフト23入りのストッパー22をハニカム後押さえ部材24に形成された孔25に挿入し固定することにより、ショーケース本体1に取り付けることができる。図中11はハニカム前押さえ部材である。
【0009】
展張されたはちの巣形状であるハニカム構造体12は、両側面である前後面に補強部材13A,13Bを貼設して変形を確実に防止する。
【0010】
図中、10は吹出口2a,3aよりハニカム整流体7を引き出すための引出部で、後補強部材13Bの外面である後面の上部及び下部に間隔を存して設けられ、内部に中空部16を形成するように取り付けられた変形可能な弾性部15とを備えていて、この引出片10が後補強部材13Bの下面に取り付けられているため、この引出片19によって取り付け方向が一義的に決まり、確実に取り付けることができる。
【0011】
また、ハニカム前押さえ部材11と、ハニカム後押さえ部材24との間隔は、ハニカム構造体12の巾より大きく、ハニカム構造体12に前後の補強部材13A,13Bを加えたハニカム整流体7の巾より小さくなっており、吹出口2a,3aにハニカム整流体7を取り付ける際に、弾性部15がそのままの状態ではハニカム後押さえ部材11にあたってしまうために中空部16がつぶれるように弾性部15が変形して吹出口2a,3aに挿入されるようになる。この挿入された状態において、弾性部15の変形に伴う復元力によりハニカム整流体7は、吹出口2a,3aに強固に固定されることになる。また、ハニカム部材14を取り外す際には、把手部19を下方に引くことにより簡単に取り外すことができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記ハニカム整流体による冷気の吹出口は低温に保持されるため、湿度の高い外気がエアーカーテン内に進入すると露や霜が冷気の吹出口のハニカム整流体上に付着して冷気循環を妨げ、貯蔵室の温度維持を害することがあり、また、ハニカム整流体に霜が残ると塵や埃の付着や黴や細菌の繁殖があり、不衛生な状態となる。
【0013】
結露は、そのまま長時間運転を続行すると凝縮水が大きな水滴に成長し、滴下しないまでも、水滴が保持されることによって長時間乾かないために、風の衝突により付着した汚れを栄養分として黒カビや青カビが生えてしまい、臭気を発すると共にカビ胞子が飛散することもある。
【0014】
特に、ハニカム整流体は、断面六角形に代表される多角形筒や円筒状のトンネル体の集合であり、多孔かつ細長孔なので、目詰まりを起こし易い。
【0015】
本発明は前記不都合を解消し、コの字状の断熱筐体によるショーケース本体の内側に、冷気循環ダクトとこれと区画形成された貯蔵室を形成し、この冷気循環ダクトに連ねて貯蔵室の開口端部にハニカム整流体を取り付けた吹出口とこれに対向する吸込口を設け、吹出口から吸込口へ向かって吹き出す冷気エアーカーテンを形成するオープンショーケースにおいて、ハニカム整流体に汚れや露・霜がなるべく付着しないようにして、冷気循環を妨げることがないように配慮したオープンショーケースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するため請求項1記載の本発明は、コの字状の断熱筐体によるショーケース本体の内側に、冷気循環ダクトとこれと区画形成された貯蔵室を形成し、この冷気循環ダクトに連ねて貯蔵室の開口端部にハニカム整流体を取り付けた吹出口とこれに対向する吸込口を設け、吹出口から吸込口へ向かって吹き出す冷気エアーカーテンを形成するオープンショーケースにおいて、前記ハニカム整流体は、抗菌性または/および撥水性の塗膜で表面を被覆したことを要旨とするものである。
【0017】
請求項1記載の本発明によれば、ハニカム整流体は、抗菌性または/および撥水性のコーティング膜を形成するコーティング組成物で表面を被覆したことにより、露や霜が付着して冷気循環を妨げ、貯蔵室の温度維持を害することを防止でき、また、塵や埃の付着や黴や細菌の繁殖を防いで衛生的な状態を維持することができる。
【0018】
請求項2記載の本発明は、抗菌性または/および撥水性の塗膜は、防汚性能を発揮するとともに、初期の親水性と長期の親水持続性のコーティング膜であることを要旨とするものである。
【0019】
請求項2記載の本発明によれば、前記作用に加えて、コーティング膜は、ハニカム整流体が結露水等に曝される場合でも、防汚性能、初期の親水性、および長期の親水持続性を発揮して、結露が凝縮水として大きな水滴に成長し、滴下しないまでも、水滴が保持されることによって長時間乾かないために、風の衝突により付着した汚れを栄養分として黒カビや青カビが生えてしまい、臭気を発すると共にカビ胞子が飛散することを防止できる。
【0020】
請求項3記載の本発明は、コーティング膜は、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子とを含有し、シリカ微粒子から成るシリカ膜中に前記フッ素樹脂粒子が前記シリカ膜の表面から部分的に露出するように点在して成り、前記シリカ膜の露出面積が前記フッ素樹脂粒子の露出面積よりも大きいものであることを要旨とするものである。
【0021】
請求項3記載の本発明によれば、樹脂製部品の表面にコーティング膜を形成し、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子とを含有し、コーティング膜が、シリカ微粒子から成るシリカ膜中にフッ素樹脂粒子がシリカ膜の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜の露出面積がフッ素樹脂粒子の露出面積よりも大きいものであるコーティング組成物を備えたことのより、長期間における樹脂製部品の露付き防止と汚れ付着防止を同時に実現する。
【発明の効果】
【0022】
以上述べたように本発明のオープンショーケースは、コの字状の断熱筐体によるショーケース本体の内側に、冷気循環ダクトとこれと区画形成された貯蔵室を形成し、この冷気循環ダクトに連ねて貯蔵室の開口端部にハニカム整流体を取り付けた吹出口とこれに対向する吸込口を設け、吹出口から吸込口へ向かって吹き出す冷気エアーカーテンを形成するオープンショーケースにおいて、前記ハニカム整流体は、抗菌性または/および撥水性の塗膜で表面を被覆したことにより、露や霜が付着して冷気循環を妨げ、貯蔵室の温度維持を害することを防止でき、また、塵や埃の付着や黴や細菌の繁殖を防いで衛生的な状態を維持することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面について発明の実施の形態を詳細に説明する。図4は、本発明のオープンショーケースでハニカム整流体7のハニカム構造体12の部分拡大断面図で、ハニカム整流体7は図1で説明したように、コの字状の断熱筐体によるショーケース本体1内側に、冷気循環ダクト2,3とこれと区画形成された貯蔵室を形成し、この冷気循環ダクト2,3に連ねて貯蔵室の開口端部に吹出口2a,3aとこれに対向する吸込口2b,3bを設け、吹出口2a,3aから吸込口2b,3bへ向かって吹き出す冷気エアーカーテンを形成するオープンショーケースの吹出口2a,3aに取り付ける。
【0024】
本発明は、ハニカム整流体7を構成するハニカム構造体12の表面を抗菌性または/および撥水性のコーティング膜103で表面を被覆した。
【0025】
コーティング膜103は、多様性汚れに対する防汚性能を発揮するが故に抗菌性のものであり、水滴成長の抑制として疎水性のものであり、および長期の優れた耐久性(密着性・剥がれ性)を有するものである。
【0026】
コーティング膜103は、樹脂製部品であるハニカム構造体12にコーティングされたコーティング組成物200により形成され、コーティング組成物200は、シリカ微粒子101が分散された水(分散液)と、フッ素樹脂粒子102が分散された水(分散液)とを混合することによって得られる。
【0027】
コーティング膜103が形成される前は水分中にシリカ微粒子101やフッ素樹脂粒子102が分散された液の状態であり、ハニカム構造体12をその分散液中に浸漬させたりした後で、乾燥させ水分を除去することにより、コーティング膜103がハニカム構造体12の表面に形成される。
【0028】
コーティング膜103は、シリカ微粒子101から成るシリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102が点在するとともに、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から全部でなく部分的に露出されている状態となっている
【0029】
このコーティング組成物200に用いるシリカ微粒子101の平均粒径(平均粒子径)は、光散乱法により測定した場合、15nm以下、好ましくは4〜12nmのものとする。粒径は光散乱法により測定できる。このように極めて小さい平均粒径を有するシリカ微粒子101は、水に分散したコーティング溶液の状態では、水と接している全表面部分が平衡して水に半ば溶解した状態になっており(接する表面部分が水とシリカの中間的性質の物質となっており)、コーティング組成物200が乾燥されると、この半ば溶解した状態のシリカ成分が、シリカ微粒子101同士をつなぐバインダー(粒子を固める結合剤)として働くため、特別なバインダーを添加しなくとも、乾燥後にはシリカ微粒子101同士が凝集し固化し易くなる。そのため、クラックが入りにくいなど強度的に優れたシリカ膜104、ひいてはコーティング膜103を得ることができる。
【0030】
平均粒径が4〜15nmの範囲内にあるシリカ微粒子101では、1つのシリカ微粒子101について、シリカ微粒子101重量のおおよそ15〜30%の重量に相当する表面部分が、コーティング溶液において、半ば水に溶解した状態となっている。
【0031】
また、シリカ微粒子101として、平均粒径が15nm以下のシリカ微粒子101を使用することで、得られるコーティング膜103中のシリカ膜104が、緻密ではありながらシリカ微粒子101間に微細な空隙を有するものとなる。
【0032】
コーティング組成物200におけるシリカ微粒子101の含有量は、コーティング組成物200に対して0.1〜5重量%としており、好ましくは0.3〜2.5重量%とする。この範囲の含有量(濃度)のコーティング組成物200を用い、浸漬でハニカム構造体12の表面に液膜を形成し、余剰のコーティング溶液を流し去ったり、強制的に排除したりして乾燥させる方法でコーティングを行うと、形成されるコーティング膜103の厚さは50〜500nm程度となり、シリカ膜104が凹凸のない均一な厚さとすることができ、被コーティング物表面の色調や風合いを損なうことがないコーティング膜103を形成することができる。
【0033】
コーティング膜103において、シリカ膜104中に点在し、シリカ膜104から全部でなく部分的に露出しているフッ素樹脂粒子102の平均粒径(平均粒子径)は、50〜500nm、好ましくは100〜250nmであるものを用いる。粒径の測定は、光散乱法により可能である。このような範囲の粒径のものを使用することで、シリカ膜104の厚さよりも大きい粒径となり、形成されるコーティング膜103において、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104中に適度に分散し易く、コーティング膜103の表面に(シリカ膜104表面から)フッ素樹脂粒子102の部分的な露出がされ易くなり、所望するコーティング膜103の状態が得られるようになる。
【0034】
コーティング組成物200が乾燥して被コーティング物の表面に形成されるコーティング膜103において、シリカ膜104の厚さは、フッ素樹脂粒子102の平均粒径よりも小さいものである。シリカ膜104の厚さをフッ素樹脂粒子102の平均粒径よりも薄く管理することで、形成されるコーティング膜103において、フッ素樹脂粒子102がシリカ膜104中に適度に分散して点在し、シリカ膜104の表面から全部でなく部分的に露出し易くなり、所望するコーティング膜103の状態が得られる。
【0035】
コーティング組成物200におけるシリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比(シリカ微粒子101の重量:フッ素樹脂粒子102の重量)は、50:50〜95:5としており、好ましくは75:25とする。このような範囲の重量比であれば、シリカ微粒子101(シリカ膜104)による親水性領域と、フッ素樹脂粒子102による疎水性領域とがバランスよく混在するコーティング膜103が常温での乾燥により得られる。この親水性領域と疎水性領域のバランスがよいことが、防汚性能に影響する。
【0036】
次に、コーティング膜103の防汚性能について説明すると、汚れを生じさせる汚損物質には、親水性汚損物質105と疎水性汚損物質106がある。
【0037】
親水性汚損物質105は、親水性を示す部分に付着し易く、疎水性を示す部分には付着し難い。そして、疎水性汚損物質106はその逆となる。親水性汚損物質105は、砂塵やホコリ等であり、親水性汚損物質105と物品表面の親水性部分にそれぞれ存在する親水基(OH基)同士による静電的な結合により、もしくは、親水性汚損物質105と物品表面の親水性部分が近接することによる分子間力により、または、水等の液が介在して液架橋により、物品表面(コーティング膜103表面も含む)の親水性部分に付着する。
【0038】
空気中に浮遊している親水性汚損物質105である砂塵は、大きさが数μm〜数十μmの微小な粒子である。また、同じく親水性汚損物質105であるホコリは、砂塵よりはるかに大きなもので、0.1mm〜5mmの大きさがある。このような親水性汚損物質105が、上記のような作用で物品表面の親水性部分に固着するためには、親水性汚損物質105と物品表面の親水性部分とが十分に密着できる(接触できる)だけの親水性部分の面積が存在しなければならない。
【0039】
しかし、コーティング組成物200により形成されるコーティング膜103は、親水性を示すシリカ膜104に疎水性を示すフッ素樹脂粒子102が適度に分散して点在しているため、砂塵をはじめとして親水性汚損物質105が安定して密着できるだけの連続した面積を有するシリカ膜104表面がほとんど存在しない。コーティング膜103の上に付着した親水性汚損物質105は、シリカ膜104から突出(露出)しているフッ素樹脂粒子102の表面の疎水性により、もしくは、突出しているフッ素樹脂粒子102の物理的な阻害により、シリカ膜104の表面とは十分に密着できない。このため、親水性汚損物質105は、容易に離脱してコーティング膜103に固着しない。
【0040】
また、シリカ膜104は、シリカ微粒子101から成るもの(バインダーの役目もシリカ微粒子101のシリカ成分が担っている)でシリカ微粒子101間に微細な空隙を有する多孔性の膜であるため密度が小さく、仮に親水性汚損物質105が近接しても、分子間力が小さく親水性汚損物質105を固着させ難い。
【0041】
さらに、シリカ微粒子101間に微細な空隙を有する多孔性のシリカ膜104であるため、仮に水等による液架橋が生じた場合にも、親水性汚損物質105とシリカ膜104表面間の水が、シリカ膜104の微細な空隙を通して除去され、液架橋が消失されるので、液架橋により親水性汚損物質105が固着することもない。
【0042】
このように、このコーティング組成物200により形成されるコーティング膜103は、親水性汚損物質105に対して、優れた防汚性能を発揮する。
【0043】
コーティング組成物200では、シリカ微粒子101とフッ素樹脂粒子102との重量比を50:50〜95:5としているので、この範囲のコーティング組成物200で形成されるコーティング膜103のシリカ膜104においては、帯電を抑制できる連続性を有し、すなわちシリカ膜104が電荷を漏洩できる程度の連続する面積を有するような適度な間隔でフッ素樹脂粒子102が点在し、帯電による浮遊粒子(汚損物質)の付着を防ぐ効果がある。コーティング組成物200で物品表面をコーティングし、表面にコーティング膜103を形成することで、静電気に由来する汚れも防止することができる。
【0044】
疎水性汚損物質106は、油煙やカーボン、煙草のヤニ等であり、汚れの原因となるものはこれらの中で微粒子として空気中に浮遊しているものである。その粒子径が5μm以下、多くは0.1〜0.3μmと親水性汚損物質105に比べて小さいものである。
【0045】
疎水性汚損物質106は、親水性を示す表面部分に対しては、表面に親水基や吸着した水分が存在するため、固着し難く、疎水性を示す表面部分には、固着し易い。このような疎水性汚損物質106が、物品表面に固着するのは、疎水性汚損物質106が疎水性を示す表面部分と密着することで生じる分子間力によるためである。
【0046】
コーティング組成物200において疎水性を示すものは、前記の通り平均粒径が50〜500nmのフッ素樹脂粒子102である。フッ素樹脂粒子102は、物品表面で形成されるコーティング膜103においては、変形や合一により、単体の粒径よりも大きくなることも起こり得るが、汚れの原因となる疎水性汚損物質106の大きさと比べて同等か小さく、疎水性を示す表面部分を有するフッ素樹脂粒子102には、疎水性汚損物質106が、十分に密着できる面積が存在しない場合が多い。
【0047】
このような場合、互いに固着させるような分子間力が作用せず、疎水性汚損物質106は疎水性を示すフッ素樹脂粒子102に対して固着し難くなる。当然、疎水性汚損物質106は親水性を示すシリカ膜104には固着しないので、コーティング膜103は疎水性汚損物質106に対しても高い防汚性能を発揮する。
【0048】
コーティング組成物200のフッ素樹脂粒子102は、フッ素樹脂の重合時や水への分散液の状態、およびシリカ微粒子101の分散液と混合されたコーティング溶液の状態において、添加される界面活性剤により表面が親水性を示す状態になっている。乾燥されコーティング膜103となった場合には、界面活性剤は剥離して、フッ素樹脂粒子102の表面は疎水性を示すようになるが、コーティング溶液中には、シリカ微粒子101が共存しているため、乾燥後に形成されるコーティング膜103のフッ素樹脂粒子102表面には、フッ素樹脂粒子102より粒径の小さいシリカ微粒子101がまばらに付着した状態になる。
【0049】
このように、フッ素樹脂粒子102の表面に親水基を有する(親水性を示す)シリカ微粒子101が散らばって付着しているために、フッ素樹脂粒子102の表面には疎水性汚損物質106の部分的な固着も、またフッ素樹脂粒子102よりも小さい疎水性汚損物質106の固着も起こり難いのである。フッ素樹脂粒子102の表面に部分的に親水基が導入されることで、フッ素樹脂粒子102と疎水性汚損物質106との密着を抑制する効果が得られるのである。そして、フッ素樹脂粒子102の表面に疎水性汚損物質106が付着しても、シリカ微粒子101が散らばって付着しているので、その付着は不安定で、容易に離脱できる。
【0050】
一方で、そのようにシリカ微粒子101がまばらに付着しているフッ素樹脂粒子102の表面であっても、シリカ微粒子101の大きさに比べるとはるかに大きい親水性汚損物質105に対しては、十分な疎水性としての効果を発揮し、親水性汚損物質105がフッ素樹脂粒子102の表面に固着することはない。また、フッ素樹脂粒子102は、柔軟な表面を有しているのだが、このようにシリカ微粒子101がまばらに付着することで、フッ素樹脂粒子102の表面が硬くなり、疎水性汚損物質106が密着し難くなる効果も得られる。
【0051】
また、フッ素樹脂自体が、従来からフッ素樹脂コーティングで知られているように、非常に表面エネルギーが小さく摩擦係数が低いため、疎水性を示すばかりでなく、撥油性も有しており、他の疎水性を示す樹脂に比べて、疎水性汚損物質106の固着が起こり難い性質を備えている。その点も、疎水性汚損物質106がフッ素樹脂粒子102に固着しない作用効果の一つである。
【0052】
このコーティング組成物200におけるフッ素樹脂粒子102としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、ETFE(エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体)、ECTFE(エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVF(ポリフッ化ビニル)等や、これらの共重合体もしくは混合物、またはこれらに他の樹脂を混合したものが使用できる。
【0053】
以上のように、このコーティング組成物200によりハニカム構造体12の表面に形成されるコーティング膜103は、親水性汚損物質105と疎水性汚損物質106の両方とも固着させず、また付着しても容易に離脱させることができるので、優れた防汚性能と剥離性を発揮して、コーティングされたハニカム構造体12の表面の汚れを防止することができる。
【0054】
なお、コーティング膜103は、撥水性を発揮するものでもある。図5は水滴50の接触角θについて説明するための模式図である。
【0055】
ここで接触角θとは、樹脂表面に付着した水滴50の樹脂表面と接する部分における接線TLが、樹脂表面となす角度のことである。接触角θが小さいほど、すなわち0度に近づくほど、付着する水滴50が樹脂表面に平たく広がるようになり、水滴が成長しにくく、乾燥しやすい。そして、親水性が高いとは、付着する水滴50が広がり易いことを意味し、すなわち、接触角θが小さい(0度に近づく)ほど、親水性が高い、もしくは親水性に優れることになる。
【0056】
図5において、(a)に示す水滴50よりも(b)に示す水滴50の方が、接触角θが小さい。
【0057】
ハニカム構造体12の材質として、PS(ポリスチレン)、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PP(ポリプロピレン)といった汎用の有機樹脂が用いられることが多い。これらの樹脂の接触角は少なくとも50度以上、一般には80度前後であり、撥水面である。従って接触角θが大きいために、その水滴50は水滴として存在する時間が長くなり、更に水分が付着した場合に、水滴が大きく成長することになり、やがては落下してしまう。
【0058】
水滴の保持時間が長いとカビの成長速度が上がり、周辺の汚れや空気を媒体として黒カビや青カビが樹脂部を覆うこととなる。
【0059】
本実施の形態のコーティング組成物200を塗布したハニカム構造体12は、微視的には親水性と疎水性の両方の性質を備えるが、親水性のシリカ微粒子101から成る高い親水性のシリカ膜104をベースとして、シリカ膜104中にフッ素樹脂粒子102がシリカ膜104の表面から部分的に露出するように点在して成り、シリカ膜104の露出面積がフッ素樹脂粒子102の露出面積よりも大きいため、連続して繋がったシリカの効果によって、全体としては高い親水性を示す。具体的な静的接触角を測定したところ、約10〜20度を示し、高い親水性を有している。従って、接触角が80度前後である、従来のコーティング組成物200を施さない樹脂に比べて、水を押し広げて水滴成長を抑制できて水滴の飛散を防止できることはもちろん、押し広げることで空気に触れる表面積が広がり乾燥する速度も向上する。
【0060】
従って、樹脂表面に水分が存在する時間が短くなり、カビの繁殖も抑制できる。
【0061】
以上の実施形態は、多段式ショーケース(天井吹出型)について説明したが、本発明はオープンショーケースとして陳列室が一つ以上あり、上面にエアーカーテンを形成した平形ショーケースの吹出口のハニカム整流体にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】多段式オープンショーケースの縦断側面図である。
【図2】ショーケースの吹出口のハニカム整流体の斜視図である。
【図3】ショーケースの吹出口の部品構成図である。
【図4】コーティング組成物でコーティングされたハニカム整流体の模式図である。
【図5】フィンの表面に付着した水滴の接触角θを説明する模式図である。
【符号の説明】
【0063】
1 ケース本体
1a 外箱
1b 内箱
2,3 冷気循環ダクト
2a,3a エアーカーテン吹出口
2b,3b エアーカーテン吸込口
7 ハニカム整流体
12 ハニカム構造体
50 水滴
101 シリカ微粒子
102 フッ素樹脂粒子
103 コーティング膜
104 シリカ膜
105 親水性汚損物質
106 疎水性汚損物質、
200 コーティング組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コの字状の断熱筐体によるショーケース本体の内側に、冷気循環ダクトとこれと区画形成された貯蔵室を形成し、この冷気循環ダクトに連ねて貯蔵室の開口端部にハニカム整流体を取り付けた吹出口とこれに対向する吸込口を設け、吹出口から吸込口へ向かって吹き出す冷気エアーカーテンを形成するオープンショーケースにおいて、
前記ハニカム整流体は、抗菌性または/および撥水性の塗膜で表面を被覆したことを特徴とするオープンショーケース。
【請求項2】
抗菌性または/および撥水性の塗膜は、防汚性能を発揮するとともに、初期の親水性と長期の親水持続性のコーティング膜である請求項1記載のオープンショーケース。
【請求項3】
コーティング膜は、シリカ微粒子と、フッ素樹脂粒子とを含有し、シリカ微粒子から成るシリカ膜中に前記フッ素樹脂粒子が前記シリカ膜の表面から部分的に露出するように点在して成り、前記シリカ膜の露出面積が前記フッ素樹脂粒子の露出面積よりも大きいものである請求項2記載のオープンショーケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−161409(P2012−161409A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22727(P2011−22727)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(510146137)三菱電機冷熱応用システム株式会社 (33)
【Fターム(参考)】