説明

カテーテルの製造方法

【課題】カテーテルの細径化によらず、サブルーメンに操作線を好適に挿通することのできるカテーテルの製造方法を提供する。
【解決手段】メインルーメンと、メインルーメンよりも小径のサブルーメンと、サブルーメンに摺動可能に挿通された操作線40と、備えるとともに樹脂材料12からなるカテーテル10の製造方法であって、樹脂材料12およびメインルーメンを形成するための芯線22と、操作線40との間に、操作線40の径方向にクリアランス42を形成した状態で、芯線22および樹脂材料12と共に操作線40を押し出してカテーテル10を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遠位端部を屈曲させることにより体腔への進入方向が操作可能なカテーテルが提供されている。カテーテルの遠位端を屈曲させる態様の一つとして、遠位端に固定された押し/引きワイヤを近位端側で操作するものが知られている(下記特許文献1を参照)。
押し/引きワイヤは、ガイドワイヤを挿通する主管腔よりも小径のワイヤ管腔に貫通されており、これを押し込んだ場合にカテーテルの遠位端を屈曲させることができるよう、所定の剛性を有している。なお、同文献には、押し/引きワイヤをワイヤ管腔に挿通する具体的な方法に関しては記載がない。
【0003】
また、下記特許文献2には、中央内腔(メインルーメン)の周囲に、これよりも細径の2つのワイヤ内腔(サブルーメン)を180度対向して設け、サブルーメンの内部に変向ワイヤを挿通してなるカテーテルの製造方法が記載されている。
かかる製造方法では、サブルーメンの内部に加圧流体を充填してこれを拡径した状態で変向ワイヤを一端側から押し込んで挿通している。
【0004】
【特許文献1】特表2007−507305号公報
【特許文献2】特開2006−192269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年のカテーテルは、血管内への挿通性などの観点から細径化が進められ、外直径が1mm以下のものが提供されるに至っている。この場合、薬剤等の供給や光学系の挿通などに供されるメインルーメンの内径を確保する観点から、サブルーメンの内径は10〜数十μm以下ときわめて小径に抑えることが望まれている。
これに伴い、カテーテルの遠位端を屈曲操作するための操作線をサブルーメンに挿通する方法として、上記特許文献2のようにサブルーメンの一端側からこれを押し込んでいくことがきわめて困難となっている。これは、小径化されたサブルーメンを均一かつ滑らかに形成することが困難であることに加え、操作線の座屈強度に関しても、たとえば自由端を柱端とする長円柱のオイラー座屈の場合、線径の二乗に比例してこれが低下するためである。
そして、サブルーメンに対する操作線の挿通性が低下すると、挿通時間の長大化のみならず、サブルーメンの内径や操作線を損耗することによるカテーテルの品質や歩留まりの低下が問題となる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、カテーテルの細径化によらず、サブルーメンに操作線を好適に挿通することのできるカテーテルの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のカテーテルの製造方法は、メインルーメンと、前記メインルーメンよりも小径のサブルーメンと、前記サブルーメンに摺動可能に挿通された操作線と、を備えるとともに樹脂材料からなるカテーテルの製造方法であって、
前記樹脂材料と前記操作線、および前記メインルーメンを形成するための芯線と前記操作線との間に、それぞれ前記操作線の径方向にクリアランスを形成した状態で、前記芯線および前記樹脂材料と共に前記操作線を押し出して成形することを特徴とする。
【0008】
また本発明のカテーテルの製造方法においては、より具体的な実施の態様として、前記操作線の径方向の周囲に設けられた液体または固体の充填材料とともに、前記芯線、前記樹脂材料および前記操作線を押し出して成形することにより前記クリアランスを形成してもよい。
【0009】
また本発明のカテーテルの製造方法においては、より具体的な実施の態様として、前記操作線の径方向の周囲に気体を介在させた状態で、前記芯線、前記樹脂材料および前記操作線を押し出して成形することにより前記クリアランスを形成してもよい。
【0010】
なお、本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でもよい。
【0011】
また、本発明の製造方法は、複数の工程を順番に記載してあるが、その記載の順番は複数の工程を実行する順番を限定するものではない。このため、本発明の製造方法を実施するときには、その複数の工程の順番は内容的に支障しない範囲で変更することができる。
さらに、本発明の製造方法は、複数の工程が個々に相違するタイミングで実行されることに限定されない。このため、ある工程の実行中に他の工程が発生すること、ある工程の実行タイミングと他の工程の実行タイミングとの一部ないし全部が重複していること、等でもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のカテーテルの製造方法によれば、サブルーメンを形成する押し出し成形時に、カテーテルの樹脂材料とともに操作線を押し出す。このとき、樹脂材料と操作線との間にクリアランスを設けることで両者が非接触に押し出されるため、成形後のカテーテルにおいてサブルーメンの内壁面となる樹脂材料と操作線が互いに接触したり、操作線が樹脂材料に埋め込まれたりすることがない。このため、サブルーメンに対してその一端側から操作線を押し込む工程が不要になるため、カテーテルの細径化の程度によらず、簡易な製造方法により、成形後のカテーテルにおいて操作線をサブルーメンに対して摺動可能とすることができる。
また、樹脂材料の押し出し時に操作線と芯線とを非接触としておくことにより、メインルーメンとサブルーメンとが互いに連通してしまうことがない。このため、成形後のカテーテルにおいて、メインルーメンを通じて薬剤等を供給したり光学系を挿通したりする際に、これらがサブルーメンに脱漏することもない。
以上により、本発明のカテーテルの製造方法によれば、高いスループットおよび歩留まりにより高品質のカテーテルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
はじめに、本発明にかかる製造方法(以下、本方法という場合がある。)により得られるカテーテルの概要を説明し、その後に本方法を詳細に説明する。
【0014】
<カテーテル>
図1は、本方法により得られるカテーテル10の一例(以下、本実施形態のカテーテル10という)を示す縦断面模式図である。同図は、カテーテル10を長手方向に切った断面を示している。同図の左方がカテーテル10の遠位端(先端)側にあたり、右方が近位端(基端)側にあたる。ただし、同図においては、カテーテル10の近位端側は図示を省略している。
図2は、図1のII-II断面図(横断面図)である。
【0015】
本実施形態のカテーテル10は、樹脂材料12からなり、メインルーメン20と、メインルーメン20よりも小径の複数のサブルーメン30と、を備えている。メインルーメン20とサブルーメン30とは互いに離間して個別に設けられている。
図2に示すように、本実施形態のカテーテル10は、複数個のサブルーメン30がメインルーメン20の周方向に分散して配置されている。具体的には、本実施形態のカテーテル10の場合、3個のサブルーメン30がメインルーメン20の周囲に120度間隔で配置されている。
そして、カテーテル10の遠位端部15に固定された操作線40が、3個のサブルーメン30にそれぞれ摺動可能に挿通されている。
ここで、カテーテル10の遠位端部15とは、カテーテル10の遠位端DEを含む所定の長さ領域をいう。同様に、カテーテル10の近位端部17(図3を参照)とは、カテーテル10の近位端PEを含む所定の長さ領域をいう。
【0016】
カテーテル10は、樹脂材料からなりメインルーメン20が内部に形成された管状の内層21と、内層21の周囲にワイヤ52を編成してなるブレード層50と、内層21と同種または異種の樹脂材料からなり内層21の周囲に形成されてブレード層50を内包する外層60と、を有している。
本実施形態のカテーテル10においては、操作線40がそれぞれ挿通されたサブルーメン30が、外層60の内部であってブレード層50の外側に形成されている。
なお、メインルーメン20およびサブルーメン30が形成された、樹脂材料からなるカテーテル10の本体を、シース16とよぶ。
【0017】
外層60の周囲には、カテーテル10の最外層として、潤滑処理が外表面に施された親水性のコート層64が任意で設けられている。
カテーテル10の遠位端部15には、X線等の放射線が不透過な材料からなるリング状のマーカー66が設けられている。具体的には、マーカー66には白金などの金属材料を用いることができる。本実施形態のマーカー66は、メインルーメン20の周囲であって外層60の内部に設けられている。
【0018】
サブルーメン30はカテーテル10の長手方向(図1における左右方向)に沿って設けられ、少なくともカテーテル10の近位端部17が開口している。
操作線40の先端(遠位端)は、カテーテル10の遠位端部15に固定されている。操作線40の先端を遠位端部15に固定する態様は特に限定されない。たとえば、操作線40の先端をマーカー66に締結してもよく、シース16の遠位端部15に溶着してもよく、または接着剤によりマーカー66またはシース16の遠位端部15に接着固定してもよい。
【0019】
図3は、本実施形態のカテーテル10の動作を説明する側面図であり、同図(a)は自然状態のカテーテル10を示す縦断面模式図であり、同図(b)は操作線40を牽引した状態のカテーテル10を示す縦断面模式図である。同図では、本実施形態のカテーテル10における3本の操作線40のうち、1本のみを図示している。
【0020】
操作線40の基端(近位端)はサブルーメン30から突出している。また、操作線40の基端には、複数の操作線40を個別に牽引してカテーテル10の遠位端部15を屈曲させる操作部70が設けられている。
本実施形態のカテーテル10において、操作線40の近位端41を基端側(同図における右方)に牽引した場合には、マーカー66を介してカテーテル10の遠位端部15に引張力が与えられて、当該操作線40が挿通されたサブルーメン30の側に遠位端部15が屈曲する。
そして、3本の操作線40の牽引長さを個別に制御することにより、カテーテル10の遠位端部15を360度に亘り任意の向きに屈曲させることができる。これにより、カテーテル10の全体に対してトルクを負荷して遠位端部15を所定方向に向けるトルク操作をおこなうことなく、操作部70による操作線40の牽引操作のみによってカテーテル10の進入方向を操作することが可能となる。このため、本実施形態のカテーテル10に関しては、たとえば分岐する血管内を所望の方向に進入させることも可能である。
【0021】
一方、操作線40の近位端41をカテーテル10に対して押し込んだ場合には、当該操作線40は座屈してカテーテル10の遠位端部15には押込力が実質的に与えられることはない。
このため、操作者が操作線40をカテーテル10に対して押し込んだとしても、操作線40がカテーテル10の遠位端部15から外れて遠位端DEより突出することがない。このため、体腔内に挿入されたカテーテル10を操作するに際して、被験者の安全が図られている。
【0022】
<製造方法>
以下、本方法について説明する。
図4は、本方法に用いられるカテーテル10の製造装置80の概要構成図である。
製造装置80は、押出機82と、サイジング装置84と、引取機86とを直列に配置してなる。
押出機82は、樹脂材料12を投入する材料供給部90と、芯線22および操作線40とともに樹脂材料12を押し出して細線化するダイ92とを含む。
【0023】
(第一実施形態)
図5は、本実施形態にかかる製造方法にて用いられるダイ92と、ダイ92より押し出される樹脂材料12、芯線22および操作線40を示す縦断面模式図であり、図4の円Vの拡大断面図である。なお、芯線22の外周には、後述のように内層21およびブレード層50(図1を参照)が形成されている。
【0024】
本方法は、メインルーメン20(図1を参照)と、メインルーメン20よりも小径のサブルーメン30と、サブルーメン30に摺動可能に挿通された操作線40と、を備えるとともに樹脂材料12からなるカテーテル10の製造方法に関する。
そして、本方法では、樹脂材料12と操作線40、およびメインルーメン20を形成するための芯線22と操作線40との間に、それぞれ操作線40の径方向にクリアランス42を形成した状態で、芯線22および樹脂材料12と共に操作線40を押し出してカテーテル10を成形する。
【0025】
次に、本方法について詳細に説明する。
サイジング装置84は、押出機82より押し出されたカテーテル10を冷却して所定の径に調整する装置であり、一例として水槽を用いることができる。
引取機86は、対向して走行するローラー88からなり、押出機82より押し出されてサイジング装置84で冷却されたカテーテル10の先端を所定の引取速度で引き取る装置である。
【0026】
引取機86による引取速度と、サイジング装置84における冷却温度、およびダイ92とサイジング装置84との距離が調整可能である。そして、これらを調整することにより、図5に示すように、ダイ92より押し出されたカテーテル10を遠位端側(同図における左方)に引っ張って、これを所定径に細線化することができる。
【0027】
図5に示すダイ92は、アウトダイ921とインダイ922とを組み合わせてなる。
インダイ922には、メインルーメン20を形成するための主孔93と、サブルーメン30を形成するための副孔94とが形成されている。主孔93および副孔94はダイ92の押出方向に、所定の長さに亘って延在している。また、副孔94は、主孔93の周囲に120度間隔で3個形成されている(同図では1個のみ図示)。
そして、主孔93に芯線22を挿通し、副孔94に操作線40を挿通した状態で、供給孔95から樹脂材料12を押し出すことにより、カテーテル10にはメインルーメン20とサブルーメン30が形成される。
アウトダイ921は、インダイ922より供給された樹脂材料12の外周側面を保持しつつ、これをノズル96から押し出す部材である。
【0028】
具体的には、予備工程の第一工程として、押出成形(第一押出成形)により芯線22の周囲に内層21を被覆形成する。
芯線22には、ステンレス鋼(SUS)などの、高い引張強度と耐食性を備える金属材料を用いることができる。
【0029】
内層21には、一例として、フッ素系の熱可塑性ポリマー材料を用いることができる。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)などを用いることができる。
内層21にフッ素系樹脂を用いることにより、カテーテル10のメインルーメン20を通じて造影剤や薬液などを患部に供給する際のデリバリー性が良好となる。
【0030】
また、本方法では、ブレード層50が周囲に編成された芯線22を、樹脂材料12および操作線40と共に押し出す。
すなわち、予備工程の第二押出工程として、内層21が被着された芯線22の周囲にワイヤ52を巻回する。
ワイヤ52には、ステンレス鋼やニッケルチタン合金など金属細線のほか、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)またはポリエチレンテレフタレート(PET)などの高分子ファイバーの細線を用いることができる。
ワイヤ52の断面形状は特に限定されず、丸線でも平線でもよい。
【0031】
上記の予備工程の後に、カテーテル10の主材料となる樹脂材料12の押出成形(第二押出成形)により、ブレード層50の周囲に外層60(図1を参照)を形成する。
外層60を構成する樹脂材料12は熱可塑性ポリマーが広く用いられる。一例として、PI、PAI、PETのほか、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ナイロンエラストマー、ポリウレタン(PU)、エチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)またはポリプロピレン(PP)などを用いることができる。
本方法においては、樹脂材料12および芯線22と操作線40との間にクリアランス42を設けて操作線40を押し出すことにより、クリアランス42によって樹脂材料12が押しのけられてサブルーメン30が形成される。
樹脂材料12と操作線40とのクリアランス42と、芯線22と操作線40とのクリアランス42は、互いに等しくても相違してもよい。
【0032】
本方法の操作線40は樹脂材料12とともにダイ92より押し出されるため、樹脂材料12の溶融温度以上の耐熱性が求められる。具体的な材料としては、たとえば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、PIもしくはPTFEなどの高分子ファイバー、または、SUS、耐腐食性被覆した鋼鉄線、チタンもしくはチタン合金などの金属線を用いることができる。
【0033】
さらに本方法では、外層60の形成後の後工程として、その先端部外周にマーカー66を圧締するとともに操作線40の先端をマーカー66に固定するマーカー被着工程と、押出成形(第三押出成形)により、外層60の外周に親水性のコート層64を形成する親水化工程とをおこなう。
コート層64には、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドンなどの親水性材料を用いることができる。
【0034】
そして、押出成形後のカテーテル10より、芯線22を引き抜くことにより、メインルーメン20が貫通形成される。芯線22を引き抜く際には、芯線22の両端を引っ張って芯線22を細径化した状態でおこなうとよい。
【0035】
本方法では、操作線40の径方向の周囲に設けられた液体または固体の充填材料44とともに、芯線22、樹脂材料12および操作線40を押し出してカテーテル10を成形することによりクリアランス42を形成する。
【0036】
すなわち、本方法では、充填材料44が操作線40の周囲に存在することにより、操作線40が押出成形時に樹脂材料12および芯線22と非接触となる。
そして、充填材料44が液体または固体であることにより、押し出されたカテーテル10が引取機86によって延伸されて細線化された場合でも、操作線40が樹脂材料12や芯線22と接触することが防止される。
【0037】
本方法では、より具体的には、充填材料44は水溶性または溶剤可溶性の固体材料であって、充填材料44が予め被覆形成された操作線40を、芯線22および樹脂材料12と共に押し出してカテーテル10を成形する。
これにより、第二押出成形時に副孔94に対して液体材料を連続供給する必要がなく、製造装置80のハンドリング性が良好となる。
【0038】
そして、本方法は、押し出して成形されたカテーテル10より充填材料44を除去する除去工程を含む。
すなわち、本方法では、カテーテル10の主材料である樹脂材料12の押出成形(第二押出成形)の際には樹脂材料12と操作線40との接触を充填材料44で防止するとともにサブルーメン30を形成する。そして、押出後のカテーテル10を水または溶剤に浸漬して充填材料44を除去することで、操作線40をサブルーメン30に対して摺動可能としている。
【0039】
水溶性または溶剤可溶性の固体材料である充填材料44の例としては、種々のものを使用することができるが、一例として、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル部分けん化物、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシドまたは澱粉等の生分解性樹脂を用いることができる。
【0040】
ここで、本方法により得られるカテーテル10の代表的な寸法について説明する。
メインルーメン20の半径は200〜300μm程度、内層21の厚さは10〜30μm程度、外層60の厚さは100〜150μm程度、ブレード層50の厚さは20〜30μmとすることができる。そして、カテーテル10の軸心からサブルーメン30の中心までの半径は300〜350μm程度、サブルーメン30の内径は40〜100μmとし、操作線40の太さを30〜60μmとすることができる。そして、カテーテル10の最外径を350〜450μm程度とすることができる。
すなわち、本実施形態のカテーテル10の外径は直径1mm未満であり、腹腔動脈などの血管に挿通可能である。
【0041】
上記寸法のカテーテル10を得る具体的な成形条件の一例を以下に示す。
樹脂材料12としてナイロンエラストマー、充填材料44としてPVAをそれぞれ用い、円形のノズル96の内径を2.5mm、操作線40を直径40μmの丸線とし、操作線40の周囲に厚さ20μmにて充填材料44を被覆する。
そして、ノズル96とサイジング装置84との距離を200〜500mm、サイジング装置84による冷却温度を常温として、引取速度を10〜20m/秒として引き取りながらカテーテル10を押し出して成形することにより、最外径800μm、サブルーメン30の内径80μmのカテーテル10を得ることができる。
さらに、成形されたカテーテル10を温水に浸漬し、操作線40をサブルーメン30に対して進退摺動させながら充填材料44を洗浄除去することにより、操作線40をサブルーメン30に対して滑らかに摺動可能に挿通したシース16を得ることができる。
かかるシース16に対して、コート層64やマーカー66、操作部70を適宜設けることにより、カテーテル10を作製ことができる。
【0042】
なお本実施形態については種々の変形を許容する。
たとえば、充填材料44を予め操作線40に被覆形成することに代えて、充填材料44を液体材料または溶融樹脂材料とし、操作線40を充填材料44の内部に押し出してもよい。
すなわち、本方法では、操作線40を含む充填材料44と、樹脂材料12と、を共押出してカテーテル10を成形してもよい。
ここで、液体材料および溶融樹脂材料とは、樹脂材料12よりもの融点が低く、樹脂材料12の押出成形(第二押出成形)温度において流動性を有する材料をいい、常温における液体または固体の別を問わない。
【0043】
充填材料44に用いる液体材料または溶融樹脂材料の融点は、樹脂材料12の融点よりも低く、かつサイジング装置84による冷却温度よりも高いことが好ましい。
かかる充填材料44を、操作線40とともにダイ92の副孔94より樹脂材料12の内部に押し出す。そして、サイジング装置84にて充填材料44を冷却してこれを硬化させ、カテーテル10を所定の線径に調整後に充填材料44を除去する。
充填材料44の除去にあたっては、一旦冷却されたカテーテル10を、充填材料44の融点以上、かつ樹脂材料12の融点未満に加熱することによりサブルーメン30内で充填材料44を液化させて、これを除去する。
かかる変形例の場合、液体材料の例としてはシリコーンオイル、溶融樹脂材料の例としては炭素数が20から40のパラフィンを用いることができる。
【0044】
(第二実施形態)
図6は、本実施形態にかかる製造方法にて用いられるダイ92と、ダイ92より押し出される樹脂材料12、芯線22および操作線40を示す縦断面模式図である。
【0045】
本方法は、操作線40の径方向の周囲に気体46を介在させた状態で、芯線22、樹脂材料12および操作線40を押し出してカテーテル10を成形することによりクリアランス42を形成する。
本方法は、液体または固体の充填材料44に代えて気体46を用いて操作線40の径方向の周囲にクリアランス42を形成する点で第一実施形態と相違する。
【0046】
気体46によってクリアランス42を形成する具体的な方法は特に限定されないが、本方法では、操作線40を遊挿したチューブ48を用いる方法を例示する。
すなわち本方法では、操作線40が遊挿された、樹脂材料12よりも高融点のチューブ48を芯線22および樹脂材料12とともに押し出す。
【0047】
チューブ48には、熱収縮性の樹脂材料を好適に用いることができる。かかる材料の例としてはPTFEを挙げることができる。
チューブ48を熱収縮性とすることにより、チューブ48に操作線40を挿通した後にこれを加熱して、チューブ48の内径を所望に調整することができる。加熱調整後のチューブ48の内径は、操作線40の線径よりも大きくする。
そして、操作線40が挿通されて加熱調整されたチューブ48を、ダイ92の副孔94より樹脂材料12の内部に押し出すことにより、樹脂材料12と操作線40との間に気体46が介在したままカテーテル10が押出成形されることとなる。
【0048】
なお、カテーテル10が引き取られて細線化されるにしたがい、チューブ48は樹脂材料12に押圧されて縮径する。これは気体46の流動性および圧縮性に起因する。また、チューブ48の熱収縮温度が樹脂材料12の押出温度以下の場合には、チューブ48の熱収縮が進行して、チューブ48がさらに縮径する。
このため、サイジング装置84にて線径が調整されたカテーテル10におけるチューブ48の内径は、ダイ92の副孔94にこれが供給された時点よりも小さくなる。そして、成形後のカテーテル10におけるチューブ48の内径が、サブルーメン30の内径に相当する。
したがって、成形後のカテーテル10における所望の内径のサブルーメン30よりも大きな内径のチューブ48に操作線40を挿通して、これをダイ92に供給するとよい。
【0049】
本実施形態によれば、チューブ48が外層60の一部を構成し、チューブ48と操作線40との間の気体46がサブルーメン30を構成する。このため、第一実施形態のように成形後のカテーテル10より充填材料44を除去する必要がない。
また、チューブ48で操作線40を覆った状態でこれらを樹脂材料12とともに押し出すことにより、操作線40と樹脂材料12とが直接接触することが物理的に回避されるため、成形後のカテーテル10におけるサブルーメン30と操作線40との摺動性が良行となる。
【0050】
本実施形態についても種々の変形を許容する。
たとえば、チューブ48の使用に代えて、雰囲気圧よりも高圧の気体材料を気体46として操作線40の径方向の周囲に吹き込んでもよい。
【0051】
すなわち、インダイ922の副孔94に高圧気体を吹き込むことにより、引取機86に引き取られて細線化されるカテーテル10においてサブルーメン30が完全に潰れてしまうことがなく、操作線40の周囲に気体46を保持することができる。
気体材料には、空気のほか、窒素などの不活性ガスを用いてもよい。
【0052】
なお、操作線40を遊挿するチューブ48を用いる本実施形態において、樹脂材料12とともに押し出されるチューブ48の内部に高圧気体を吹き込んで、サブルーメン30の圧潰を防止してもよい。
【0053】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
たとえば上記第一または第二実施形態においては、サブルーメン30をブレード層50の外部に形成する態様を例示したが、本発明はこれに限られない。すなわち、サブルーメン30を内層21の内部に形成し、その周囲にブレード層50を設けてもよい。
【0054】
上記変形例にかかるカテーテル10は、押出工程、編成工程および外層形成工程を経て作製することができる。
押出工程では、芯線22、樹脂材料12および操作線40を共に押し出す。
編成工程では、押し出されたカテーテル10の周囲にブレード層50を編成する。
そして、外層形成工程では、ブレード層50が編成されたカテーテル10の周囲に、樹脂材料12と同種または異種の樹脂材料からなる外層60を形成する。
【0055】
押出工程にて、樹脂材料12と共に操作線40を押し出すことにより、内層21の内部にサブルーメン30が形成される。
本変形例のようにサブルーメン30の外周をブレード層50で保護することにより、操作時に操作線40に過剰な引張力が付与されたとしても操作線40がカテーテル10を突き破って外部に露出してしまうことがない。
なお、サブルーメン30が形成された内層21の先端部には任意でマーカー66を装着し、操作線40の先端を固定する。そして、外層60のさらに周囲には、親水性のコート層64を形成してもよい。
【0056】
また、上記第一または第二実施形態においては、引取機86による引取速度を調整することにより、カテーテル10の可撓性を近位端PE側から遠位端DE側にかけて複数段階に、または連続的に、増大させることができる。
これにより、カテーテル10の遠位端部15における屈曲性を十分に確保しつつ、操作時に曲げモーメントがもっとも負荷される近位端部17におけるカテーテル10の曲げ強度を十分に得ることができる。
【0057】
また、上記第一または第二実施形態では、図5および6に示したように、ダイ92の基端面(図中、右端面)に副孔94が設けられて操作線40が供給されているが、本発明はこれに限られない。たとえば、アウトダイ921の側方に副孔94を設けて、充填材料44やチューブ48、または気体46などとともに操作線40を樹脂材料12と共に押し出してカテーテル10を成形してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本方法により得られるカテーテルの一例を示す縦断面模式図である。
【図2】図1のII-II断面図である。
【図3】カテーテルの動作を説明する側面図であり、(a)は自然状態のカテーテルを示す縦断面模式図であり、(b)は操作線を牽引した状態のカテーテルを示す縦断面模式図である。
【図4】カテーテルの製造装置の概要構成図である。
【図5】第一実施形態にかかる製造方法にて用いられるダイと、ダイより押し出される樹脂材料、芯線および操作線を示す縦断面模式図である。
【図6】第二実施形態にかかる製造方法にて用いられるダイと、ダイより押し出される樹脂材料、芯線および操作線を示す縦断面模式図である。
【符号の説明】
【0059】
10 カテーテル
12 樹脂材料
15 遠位端部
17 近位端部
20 メインルーメン
21 内層
22 芯線
30 サブルーメン
40 操作線
42 クリアランス
44 充填材料
46 気体
48 チューブ
50 ブレード層
60 外層
64 コート層
66 マーカー
70 操作部
80 製造装置
82 押出機
84 サイジング装置
86 引取機
90 材料供給部
92 ダイ
921 アウトダイ
922 インダイ
93 主孔
94 副孔
95 供給孔
96 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインルーメンと、前記メインルーメンよりも小径のサブルーメンと、前記サブルーメンに摺動可能に挿通された操作線と、を備えるとともに樹脂材料からなるカテーテルの製造方法であって、
前記樹脂材料と前記操作線、および前記メインルーメンを形成するための芯線と前記操作線との間に、それぞれ前記操作線の径方向にクリアランスを形成した状態で、前記芯線および前記樹脂材料と共に前記操作線を押し出して成形することを特徴とするカテーテルの製造方法。
【請求項2】
前記操作線の径方向の周囲に設けられた液体または固体の充填材料とともに、前記芯線、前記樹脂材料および前記操作線を押し出して成形することにより前記クリアランスを形成することを特徴とする請求項1に記載のカテーテルの製造方法。
【請求項3】
前記充填材料が液体材料または溶融樹脂材料であって、前記操作線を前記充填材料の内部に押し出すことを特徴とする請求項2に記載のカテーテルの製造方法。
【請求項4】
前記充填材料が水溶性または溶剤可溶性の固体材料であって、前記充填材料が予め被覆形成された前記操作線を前記芯線および前記樹脂材料と共に押し出して成形することを特徴とする請求項2に記載のカテーテルの製造方法。
【請求項5】
押し出して成形された前記カテーテルより前記充填材料を除去する除去工程を含む請求項2から4のいずれかに記載のカテーテルの製造方法。
【請求項6】
前記操作線の径方向の周囲に気体を介在させた状態で、前記芯線、前記樹脂材料および前記操作線を押し出して成形することにより前記クリアランスを形成することを特徴とする請求項1に記載のカテーテルの製造方法。
【請求項7】
雰囲気圧よりも高圧の気体材料を前記気体として前記操作線の径方向の周囲に吹き込むことを特徴とする請求項6に記載のカテーテルの製造方法。
【請求項8】
前記操作線が遊挿された、前記樹脂材料よりも高融点のチューブを前記芯線および前記樹脂材料とともに押し出すことを特徴とする請求項6に記載のカテーテルの製造方法。
【請求項9】
ブレード層が周囲に編成された前記芯線を、前記樹脂材料および前記操作線と共に押し出すことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載のカテーテルの製造方法。
【請求項10】
前記芯線、前記樹脂材料および前記操作線を共に押し出す押出工程と、
押し出されたカテーテルの周囲にブレード層を編成する編成工程と、
ブレード層が編成されたカテーテルの周囲に、前記樹脂材料と同種または異種の樹脂材料からなる外層を形成する外層形成工程と、
を含む請求項1から8のいずれかに記載のカテーテルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−148791(P2010−148791A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332202(P2008−332202)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】