カバー部材、レンズユニット、および製造方法
【課題】
通過する光の乱れを抑えたカバー部材、カバー部材を備えたレンズユニット、およびカバー部材の製造方法を提供する。
【解決手段】
レンズ前面に配置されるカバー部材30において、中央部311と、中央部との間に段差を持って中央部を取り巻く周縁部312とを有し、中央部の、周縁部との境界側の一部が傾斜面313に形成され、傾斜面313の始点および終点が曲面に形成され、表面がコーティングされていることを特徴とする。
通過する光の乱れを抑えたカバー部材、カバー部材を備えたレンズユニット、およびカバー部材の製造方法を提供する。
【解決手段】
レンズ前面に配置されるカバー部材30において、中央部311と、中央部との間に段差を持って中央部を取り巻く周縁部312とを有し、中央部の、周縁部との境界側の一部が傾斜面313に形成され、傾斜面313の始点および終点が曲面に形成され、表面がコーティングされていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバー部材、カバー部材を備えたレンズユニット、およびカバー部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズユニットの例として、レンズおよび撮像素子を内蔵したカメラモジュールが知られている(例えば、特許文献1参照。)。カメラモジュールは、画像を撮影する撮像素子の前面に設けられたレンズを有し、さらに、例えば車載用のレンズモジュールなど、そのレンズモジュールの用途によっては、レンズのさらに前面に透明のカバーが設けられている。このようなカメラモジュールに代表されるレンズユニットにおけるレンズおよびカバーには、製造の容易さから、ガラス製に代えて樹脂製のものが広く用いられてきている。
【0003】
図1は、レンズユニットの一例を示す斜視図である。図1には、レンズユニットの内部構造を分かりやすくするため一部が切除された状態が示されている。
【0004】
図1に示すレンズユニット10は、回路基板11に装着された撮像素子12と、撮像素子12に被写体光を結像する3枚のレンズ13と、レンズ13を支持するレンズ支持部材14と、回路基板11に固定され撮像素子12およびレンズ支持部材14を取り囲むベース部材15と、レンズを保護する円板状のカバー部材20と、ユニットケース17とを備えている。
【0005】
3枚のレンズ13は、撮像素子12の前方すなわち被写体側に配置されており、カバー部材20はレンズ13のさらに前方に配置されている。レンズ13およびカバー部材20は透明の樹脂材料で形成されている。ユニットケース17は、概略6面体の形状を有しており、ユニットケース17には、回路基板11、撮像素子12、レンズ13、レンズ支持部材14、ベース部材15、および、カバー部材20が内蔵されている。ただし、カバー部材20は、ユニットケース17の前面に設けられた開口17aを内側から塞ぐように取り付けられており、カバー部材20の中央部分は外部に露出している。また、カバー部材20とユニットケース17の間には、Oリング18が挟み込まれており、レンズユニット10の防水および防塵が施されている。
【0006】
カバー部材20は、レンズ13に代わって外部に露出する部品であるため、外部の異物による摩擦や衝突に対し耐キズ性能や耐割れ性能の向上が求められている。ここで、レンズを液状のコート剤の中に浸漬してコート剤から引き上げてレンズ表面にハードコートを施すことが知られている(例えば、引用文献2および3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−79931号公報
【特許文献2】特開2000−189884号公報
【特許文献3】特開2000−210614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図2は、図1に示すレンズユニットに備えられる従来技術のカバー部材を示す図である。図2のパート(A)はカバー部材20の正面図であり、パート(B)はカバー部材20の中央における縦断面図である。
【0009】
図2に示すカバー部材20は、撮像素子12に結像される光が透過する中央部211と、中央部211を取り巻く周縁部212とを有する。中央部211および周縁部212は、透明な樹脂材料で一体成型されている。中央部211と周縁部212の間には、段差212aが形成されている。カバー部材20の段差212aがユニットケース17(図1参照)の開口17aの縁に当たることによって、ユニットケース17に対する位置決めがなされ、カバー部材20のずれが抑えられる。
【0010】
ここで、図2に示すような段差のある形状のカバー部材にコーティングを施すと、図2の符号22aで示すような液溜りを生じるおそれがある。なお、図2パート(B)の断面図では、中央部211の前面におけるコート剤22の形状を分かりやすくするため、コート剤22の厚みを拡大して示している。
【0011】
つまり、仮に、カバー部材基体21が液状のコート剤の中に浸漬され、コート剤から引き上げられると、カバー部材基体21表面を伝って下方に流れるコート剤は、段差212aの角の上部に溜って液溜り22aを生じ、中央部211におけるコート剤の厚みが、液溜り22aの部分が残りの部分よりも厚くなるおそれがある。この場合、撮像素子12に結像することとなる光が液溜り22aの部分を透過するとき、光の向きが乱れ、結像された画像に歪みが生じてしまう。
【0012】
本発明は上記問題点を解決し、通過する光の乱れを抑えたカバー部材、カバー部材を備えたレンズユニット、およびカバー部材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明のカバー部材は、光学部品前面に配置されるカバー部材であって、
中央部と、この中央部との間に段差を持ってこの中央部を取り巻く周縁部とを有し、
上記中央部の、上記周縁部との境界側の一部が傾斜面に形成され、この傾斜面の始点および終点が曲面に形成され、
表面がコーティングされていることを特徴とする。
【0014】
本発明のカバー部材には、中央部の、周縁部との境界側の一部が傾斜面に形成され、この傾斜面の始点および終点が曲面に形成されているため、カバー部材を形成する際に、傾斜面が中央部の下となる姿勢でコート剤に浸漬し、引き上げると、中央部を伝って流れるコート剤が傾斜面を伝ってさらに下方に流れる。このため、中央部に液溜りが形成されないので、カバー部材の中央部におけるコート剤の厚みが均一化する。したがって、中央部を通過する光の乱れが抑えられる。
【0015】
ここで、上記本発明のカバー部材において、上記傾斜面の位置を認識させるマーキングをさらに有することが好ましい。
【0016】
カバー部材をレンズユニット等に取り付ける際にマーキングを目標とすることによって、カバー部材の傾斜面およびその近傍を、撮像素子等に結像される光が透過する領域から確実に外すことができる。
【0017】
また、上記目的を達成する本発明のレンズユニットは、被写体光を結像する結像レンズと、上記結像レンズ前面に配置されたカバー部材とを有するレンズユニットであって、
上記カバー部材は、
中央部と、この中央部との間に段差を持ってこの中央部を取り巻く周縁部とを有し、
上記中央部の、上記周縁部との境界側の一部が傾斜面に形成され、この傾斜面の始点および終点が曲面に形成され、
当該カバー部材の表面がコーティングされているものであることを特徴とする。
【0018】
本発明のレンズユニットによれば、カバー部材を通過する光の乱れが抑えられ、画像の歪みが抑えられる。
【0019】
また、上記目的を達成する本発明の製造方法は、光学部品前面に配置されるカバー部材の製造方法であって、
中央部と、この中央部との間に段差を持ってこの中央部を取り巻く周縁部とを有し、この中央部の、この周縁部との境界側の一部が傾斜面に形成され、この傾斜面の始点および終点が曲面に形成されたカバー部基体を形成するカバー部材基体形成工程と、
上記カバー部材基体を、上記傾斜面が下に位置する姿勢で、液状のコート剤中に浸漬し、コート剤から引き上げて、このカバー部材基体に付着しているコート剤を固化させることによってカバー部材基体を固化されたコート剤で膜状に覆うコーティング工程とを有することを特徴とする。
【0020】
中央部を通過する光の乱れが抑えられたカバー部材を製造することができる。
【0021】
また、上記本発明の製造方法において、
上記カバー部材基体形成工程が、上記中央部、上記周縁部および上記傾斜面に加え、さらに、この傾斜面を下にしたときの、この傾斜面よりも上記周縁部を挟んでさらに下の位置に、コート剤を上記傾斜面およびこの周縁部を通ってさらに下に導いてこのコート剤を溜めるコート剤溜り部を有するカバー部材基体を形成する工程であり、
さらに、上記コーティング工程の後に、上記コート剤溜り部を切除する切除工程を有することが好ましい。
【0022】
コーティング工程では、カバー部材基体をコート剤に浸漬し、引き上げると、傾斜面を伝ってさらに下方に流れるコート剤が、さらにコート剤溜り部に導かれ、液溜りが中央部からさらに遠ざかる。中央部におけるコート剤を含んだ厚みがより均一化する。したがって、中央部を通過する光の乱れがより抑えられる。また、完成したカバー部材にコート剤溜り部が残らない。
【0023】
また、上記本発明の製造方法において、
上記切除工程が、上記コート剤溜り部を、コート剤溜り部の断片を上記カバー部材基体に残して切除することによって、この断片からなる、上記傾斜面の位置を認識させるマーキングを形成する工程であることを特徴とする。
【0024】
切除する際に残した断片をマーキングとすることで、カバー部材の傾斜面およびその近傍を、撮像素子等に結像される光が透過する領域から確実に外すためのマーキング形成が、コート剤溜り部の切除だけで行えるので、製造工程が簡略化される。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、通過する光の乱れを抑えたカバー部材、カバー部材を備えたレンズユニット、およびカバー部材の製造方法が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】レンズユニットの一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示すレンズユニットに備えられる従来技術のカバー部材を示す図である。
【図3】本発明のカバー部材の第1実施形態を示す外観図である。
【図4】図3に示すカバー部材の下部を拡大して示す縦断面図である。
【図5】図3に示すカバー部材の製造方法を説明する図である。
【図6】コート剤から引き上げられた状態のカバー部材を示す図である。
【図7】ユニットケースに取り付けられた状態のカバー部材とOリングとの位置関係を示す図である。
【図8】カバー部材基体の前後両面がコーティングされた変形例を示す図である。
【図9】本発明のカバー部材の第2実施形態を示す外観図である。
【図10】図9に示すカバー部材を製造する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0028】
図3は、本発明のカバー部材の第1実施形態を示す外観図である。図3のパート(A)はカバー部材30の正面図であり、パート(B)はカバー部材30の中央における縦断面図である。また、図4は、図3に示すカバー部材の下部を拡大して示す縦断面図である。
【0029】
図3に示すカバー部材30は、図1に示すレンズユニット10のカバー部材20に代えて取り付けられる部材である。カバー部材20の代わりに、本実施形態のカバー部材30を備えたレンズユニット10は、本発明のレンズユニットの一実施形態である。本発明の実施形態であるレンズユニット10の構成については、カバー部材30を除いて、すでに図1を参照して説明した構成と同じであるため、図1をそのまま流用するとともに、重複する説明を省略する。
【0030】
図3に示すカバー部材30は、円板状のカバー部材基体31の表面がコート剤32によってコーティングされた部材である。カバー部材基体31は、レンズ13(図1参照)を通して撮像素子に結像される光を透過させる中央部311と、中央部311を取り巻く周縁部312とを有する。中央部311は、通過する光による画像を劣化させないよう均一な厚さを有している。中央部311および周縁部312は、透明な樹脂材料で一体成型されている。中央部311の、周縁部312との境界の一部には、段差312aが形成されているが、中央部311の、周縁部312との境界の残りの一部は、傾斜面313に形成されている。また、カバー部材基体31には、周縁部312の縁の一部から突出したマーキング突起314が設けられている。マーキング突起314は、カバー部材30における傾斜面313の位置を認識させるものであり、中央部311を挟んで傾斜面313の反対側に配置されている。このマーキング突起314が、本発明にいうマーキングの一例に相当する。
【0031】
傾斜面313は、中央部311との間および周縁部312との間の双方について傾斜を成して形成されている。より詳細には、図4によりよく示すように、傾斜面313は、中央部311の平板部分から鋭角に曲がって延び、周縁部312からも鋭角に曲がって延びている。つまり、傾斜面313と、中央部311の平板部分の表面とは鈍角を成し、かつ、傾斜面313と周縁部312の表面とは鈍角を成している。また、傾斜面313の始点および終点である、中央部311の平板部分と傾斜面313との境部分、および、周縁部312と傾斜面313との境部分は曲面で繋がれている。
【0032】
ここで、図3に示すカバー部材30の製造方法を説明する。
【0033】
図5は、図3に示すカバー部材の製造方法を説明する図である。
【0034】
カバー部材30を製造するには、まずカバー部材基体形成工程で、図3を参照して説明した形状を有するカバー部材基体31を形成する。図5には、カバー部材基体31に、ランナー37が繋がった状態が示されている。カバー部材基体31とランナー37とは、透明の樹脂で一体成型される。
【0035】
次に、カバー部材基体31の後面、すなわちレンズユニット10に装着された状態でレンズユニット10の内面側にフィルム状のマスキング部材39(図6参照)を貼る。これによって、カバー部材基体31の後面にコート剤が付かないようにする。
【0036】
次に、コーティング工程で、カバー部材基体31を液状のコート剤320中に浸漬する。コーティング工程では、カバー部材基体31は、ランナー37が繋がった状態で取り扱われる。より詳細には、作業員または装置がランナー37をつかみ、カバー部材基体31を傾斜面313が下に位置する姿勢でコート剤320中に浸漬する。この後、カバー部材基体31を液状のコート剤320から引き上げ、カバー部材基体31に付着しているコート剤を固化させる。
【0037】
図6は、コート剤から引き上げられた状態のカバー部材を示す図である。
【0038】
コート剤320から引き上げられた時のカバー部材基体31は、前面が液状のコート剤によって覆われている。カバー部材基体31の後面にはマスキング部材39が貼り付けられている。マスキング部材39は、一面に粘着剤が塗られた部材であり、カバー部材基体31がコート剤320(図5)中に浸漬されてもカバー部材基体31から剥がれない。したがって、カバー部材基体31の後面にはコート剤320が付かない。マスキング部材39は、より詳細には、中央部311よりも後向きに突出した周縁部312に張り付いており、中央部311には接触していない。
【0039】
マスキング部材39は、液状のコート剤をはじく素材であるか、あるいはコート剤をはじくためのコーティングが施されていることがより好ましい。液状のコート剤がマスキング部材39に付着せず、コート剤の無駄がないからである。
【0040】
カバー部材基体31は、液状のコート剤320から引き上げられた後も、図5に示すように、傾斜面313が下に位置する姿勢が維持される。カバー部材基体31が液状のコート剤320から引き上げられた後、カバー部材基体31の前面を覆うコート剤が固化するまでの間、コート剤は重力によって下方に緩やかに流れる。仮に、カバー部材基体が水平に広がる姿勢に置かれたとすると、コート剤がカバー部材基体の一部分から垂れ下がった状態で固化するおそれがある。カバー部材基体31が鉛直方向に広がる姿勢で置かれることで、コート剤がカバー部材基体の一部分から垂れ下がった状態となることが回避される。
【0041】
また、カバー部材基体31が、傾斜面313が下に位置する姿勢では、カバー部材基体31の中央部211表面を下方に流れるコート剤が、傾斜面313に向かって集まる。ここで、傾斜面313は、図4に示すように、中央部311の平板部分との間、および周縁部312との間の双方について傾斜を成して形成されており、中央部311の平板部分と傾斜面313との間、および、周縁部312と傾斜面313との間は曲面で繋がれており、液状のコート剤を留める角がない。このため、傾斜面313に向かって集まる液状のコート剤は、傾斜面313を伝ってさらに下方の周縁部312へと流れていく。したがって、カバー部材基体31の中央部311上には液溜りが生じない。
【0042】
カバー部材基体31が液状のコート剤320から引き上げられ、カバー部材基体31に付着しているコート剤が固化することによって、カバー部材基体31が固化したコート剤で膜状に覆われる。この後、カバー部材基体31からマスキング部材39が剥がされ、ランナー37が切り離されると、図3に示したカバー部材30が完成する。
【0043】
再び、図3を参照して説明すると、コート剤32は、製造過程における液状の時、中央部311から傾斜面313を伝って周縁部312に流れていくため、中央部311上には液溜りが生じない状態で固化する。このため、中央部311上にはコート剤32が、画像の歪みを生じさせない程度に均一な膜厚で形成される。
【0044】
図3に示す、完成したカバー部材30は、図1に示すユニットケース17の開口17aを塞ぐように取り付けられる。
【0045】
図7は、ユニットケースに取り付けられた状態のカバー部材とOリングとの位置関係を示す図である。
【0046】
図7に示すように、カバー部材30の中央部311と周縁部312の間の段差312aの部分にOリング18が配置される。
【0047】
図3に戻って説明を続ける。図3には、カバー部材30のうち、レンズ13(図1参照)を通して撮像素子12に結像される光が通過する有効画像範囲Eが示されている。有効画像範囲Eは撮像素子12の形状に応じた略矩形であり、中央部311と周縁部312との境界までいっぱいに配置されている。傾斜面313は、中央部311と周縁部312との境界の円より内側に配置されているため、ユニットケース17に取り付けられるカバー部材30の姿勢によっては、有効画像範囲Eの角が傾斜面313に重なるおそれがある。本実施形態のカバー部材30には、カバー部材30における傾斜面313の位置を認識させるマーキング突起314が設けられているので、カバー部材30をユニットケース17に取り付ける場合には、マーキング突起314を目印として、傾斜面313が図3に示すような中央部311の下に位置する向きか、あるいはこの逆に、傾斜面313が中央部311の上に位置する向きに取り付けられる。これによって、有効画像範囲Eの角が傾斜面313に重なる事態が回避される。
【0048】
本実施形態のカバー部材30を備えた本実施形態のレンズユニット10によれば、有効画像範囲Eは、コート剤が均一な厚さの部分に配置されており、カバー部材30を通過する光の乱れが抑えられ、レンズ13によって撮像素子12に結像される画像の歪みが抑えられる。
【0049】
上記の実施形態では、マスキング部材39によって、カバー部材基体31の後面がコーティングされていないカバー部材30の例を説明したが、ここで、カバー部材の構造としては、カバー部材基体の前後両面がコーティングされた構造も採用可能である。
【0050】
図8は、カバー部材基体の前後両面がコーティングされた変形例を示す図である。
【0051】
図8に示すカバー部材30Aは、カバー部材基体31にマスキング部材を貼り付けることなく、コーティング工程で液状のコート剤320中に浸漬することで製造されている。したがって、カバー部材基体31の前後両面がコート剤32によってコーティングされている。この他の点は、図3に示すカバー部材30と同じであり、図中の対応する部分には同一の符号が付されている。
【0052】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。以下の第2実施形態の説明にあたっては、第1実施形態における各要素と同一の要素には同一の符号を付けて示し、前述の実施形態との相違点について説明する。
【0053】
図9は、本発明のカバー部材の第2実施形態を示す外観図である。図9のパート(A)はカバー部材40の正面図であり、パート(B)はカバー部材40の中央における縦断面図である。
【0054】
図9に示すカバー部材40は、図3に示す第1実施形態のカバー部材30に比べ、カバー部材基体41が、マーキング突起314を有しない点と、このマーキング突起314とは反対の位置、すなわち、傾斜面313を下にしたときの、傾斜面313よりも周縁部312を挟んでさらに下の位置に、周縁部312の縁の一部から突出したマーキング突起414を有している点とが異なる。マーキング突起414は、カバー部材基体41に形成された液溜り部416を途中の切除線C1で切除した残りの断片によって形成されている。液溜り部416は、カバー部材40の製造工程で最終的に切除されるが、図9には、液溜り部416が切除される前、つまりカバー部材40の完成直前の形状が示されている。ここで、マーキング突起414が、本発明にいうマーキングの一例に相当する。
【0055】
液溜り部416は、傾斜面313を下にしたときの、傾斜面313よりも周縁部312を挟んでさらに下の位置に、周縁部312の縁の一部から突出して設けられており、周縁部312と同じ厚みを有している。
【0056】
図9に示すカバー部材40を製造するには、まず、まずカバー部材基体形成工程で、カバー部材基体41を形成する。
【0057】
図10は、図9に示すカバー部材を製造する方法を説明する図である。
【0058】
図10には、3つのカバー部材基体41が、ランナー47に繋がった状態が示されている。複数のカバー部材基体41とランナー47とは、透明の樹脂で一体成型される。これによって、複数のカバー部材40がまとめて製造可能となる。
【0059】
次に、コーティング工程で、カバー部材基体41を液状のコート剤中に浸漬する。コーティング工程では、カバー部材基体41は、ランナー47が繋がった状態で取り扱われる。より詳細には、作業員または装置がランナー47をつかみ、カバー部材基体41を、傾斜面313が下に位置する姿勢でコート剤中に浸漬する。この後、カバー部材基体41を液状のコート剤から引き上げ、コート剤を固化させる。
【0060】
カバー部材基体41が液状のコート剤から引き上げられた後、コート剤が固化するまでの間、コート剤は重力によって下方に緩やかに流れる。中央部311の平板部分から傾斜面313に向かって集まる液状のコート剤は、傾斜面313を伝って周縁部312に流れ、さらに下方の液溜り部416へと導かれていく。したがって、図9のパート(B)に示すように、液溜り42aは液溜り部416上に形成され、カバー部材基体31の中央部311からさらに遠ざかる。したがって、中央部311におけるコート剤の厚みがより均一化する。
【0061】
次に、切除工程で、液溜り部416を途中の切除線C1で切断し、カバー部材基体41から液溜り部416を切除する。また、切除線C2(図10参照)に沿った切断により、カバー部材基体41をランナー47から切り離す。これにより、第2実施形態のカバー部材40が完成する。液溜り部416を切除することによって、コート剤の液溜り42aがカバー部材40に残らない状態となる。また、液溜り部416を切除する際に断片をカバー部材基体41に残すことによって、マーキング突起414(図9参照)を形成するので、マーキング突起414の形成が液溜り部416の切除だけで行え、製造工程が簡略化される。
【0062】
なお、上述した実施形態では、本発明にいうレンズユニットの例として、撮像素子を備えたレンズユニットを示したが、本発明にいうレンズユニットはこれに限られるものではなく、例えば、撮像素子を内蔵しておらず、後から取り付けるタイプのものであってもよい。
【0063】
また、上述した実施形態では、本発明にいうレンズユニットの例として、3枚のレンズ13を備えたレンズユニットを示したが、本発明にいうレンズユニットはこれに限られるものではなく、1枚や2枚のレンズを備えたものであってもよく、また4枚以上のレンズを備えたものであってもよい。
【0064】
また、上述した実施形態では、本発明にいうカバー部材基体形成工程の例として、1つまたは3つのカバー部材基体がランナーに繋がった部材を形成することを示したが、本発明はこれに限られるものではなく、例えば、ランナーに繋がるカバー部材基体は2つや4つ以上の複数であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 レンズユニット
13 レンズ
30,40 カバー部材
31,41 カバー部材基体
32,42 コート剤
311 中央部
312 周縁部
312a 段差
313 傾斜面
314 マーキング突起
320 液状のコート剤
414 マーキング突起
416 液溜り部
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバー部材、カバー部材を備えたレンズユニット、およびカバー部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズユニットの例として、レンズおよび撮像素子を内蔵したカメラモジュールが知られている(例えば、特許文献1参照。)。カメラモジュールは、画像を撮影する撮像素子の前面に設けられたレンズを有し、さらに、例えば車載用のレンズモジュールなど、そのレンズモジュールの用途によっては、レンズのさらに前面に透明のカバーが設けられている。このようなカメラモジュールに代表されるレンズユニットにおけるレンズおよびカバーには、製造の容易さから、ガラス製に代えて樹脂製のものが広く用いられてきている。
【0003】
図1は、レンズユニットの一例を示す斜視図である。図1には、レンズユニットの内部構造を分かりやすくするため一部が切除された状態が示されている。
【0004】
図1に示すレンズユニット10は、回路基板11に装着された撮像素子12と、撮像素子12に被写体光を結像する3枚のレンズ13と、レンズ13を支持するレンズ支持部材14と、回路基板11に固定され撮像素子12およびレンズ支持部材14を取り囲むベース部材15と、レンズを保護する円板状のカバー部材20と、ユニットケース17とを備えている。
【0005】
3枚のレンズ13は、撮像素子12の前方すなわち被写体側に配置されており、カバー部材20はレンズ13のさらに前方に配置されている。レンズ13およびカバー部材20は透明の樹脂材料で形成されている。ユニットケース17は、概略6面体の形状を有しており、ユニットケース17には、回路基板11、撮像素子12、レンズ13、レンズ支持部材14、ベース部材15、および、カバー部材20が内蔵されている。ただし、カバー部材20は、ユニットケース17の前面に設けられた開口17aを内側から塞ぐように取り付けられており、カバー部材20の中央部分は外部に露出している。また、カバー部材20とユニットケース17の間には、Oリング18が挟み込まれており、レンズユニット10の防水および防塵が施されている。
【0006】
カバー部材20は、レンズ13に代わって外部に露出する部品であるため、外部の異物による摩擦や衝突に対し耐キズ性能や耐割れ性能の向上が求められている。ここで、レンズを液状のコート剤の中に浸漬してコート剤から引き上げてレンズ表面にハードコートを施すことが知られている(例えば、引用文献2および3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−79931号公報
【特許文献2】特開2000−189884号公報
【特許文献3】特開2000−210614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図2は、図1に示すレンズユニットに備えられる従来技術のカバー部材を示す図である。図2のパート(A)はカバー部材20の正面図であり、パート(B)はカバー部材20の中央における縦断面図である。
【0009】
図2に示すカバー部材20は、撮像素子12に結像される光が透過する中央部211と、中央部211を取り巻く周縁部212とを有する。中央部211および周縁部212は、透明な樹脂材料で一体成型されている。中央部211と周縁部212の間には、段差212aが形成されている。カバー部材20の段差212aがユニットケース17(図1参照)の開口17aの縁に当たることによって、ユニットケース17に対する位置決めがなされ、カバー部材20のずれが抑えられる。
【0010】
ここで、図2に示すような段差のある形状のカバー部材にコーティングを施すと、図2の符号22aで示すような液溜りを生じるおそれがある。なお、図2パート(B)の断面図では、中央部211の前面におけるコート剤22の形状を分かりやすくするため、コート剤22の厚みを拡大して示している。
【0011】
つまり、仮に、カバー部材基体21が液状のコート剤の中に浸漬され、コート剤から引き上げられると、カバー部材基体21表面を伝って下方に流れるコート剤は、段差212aの角の上部に溜って液溜り22aを生じ、中央部211におけるコート剤の厚みが、液溜り22aの部分が残りの部分よりも厚くなるおそれがある。この場合、撮像素子12に結像することとなる光が液溜り22aの部分を透過するとき、光の向きが乱れ、結像された画像に歪みが生じてしまう。
【0012】
本発明は上記問題点を解決し、通過する光の乱れを抑えたカバー部材、カバー部材を備えたレンズユニット、およびカバー部材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する本発明のカバー部材は、光学部品前面に配置されるカバー部材であって、
中央部と、この中央部との間に段差を持ってこの中央部を取り巻く周縁部とを有し、
上記中央部の、上記周縁部との境界側の一部が傾斜面に形成され、この傾斜面の始点および終点が曲面に形成され、
表面がコーティングされていることを特徴とする。
【0014】
本発明のカバー部材には、中央部の、周縁部との境界側の一部が傾斜面に形成され、この傾斜面の始点および終点が曲面に形成されているため、カバー部材を形成する際に、傾斜面が中央部の下となる姿勢でコート剤に浸漬し、引き上げると、中央部を伝って流れるコート剤が傾斜面を伝ってさらに下方に流れる。このため、中央部に液溜りが形成されないので、カバー部材の中央部におけるコート剤の厚みが均一化する。したがって、中央部を通過する光の乱れが抑えられる。
【0015】
ここで、上記本発明のカバー部材において、上記傾斜面の位置を認識させるマーキングをさらに有することが好ましい。
【0016】
カバー部材をレンズユニット等に取り付ける際にマーキングを目標とすることによって、カバー部材の傾斜面およびその近傍を、撮像素子等に結像される光が透過する領域から確実に外すことができる。
【0017】
また、上記目的を達成する本発明のレンズユニットは、被写体光を結像する結像レンズと、上記結像レンズ前面に配置されたカバー部材とを有するレンズユニットであって、
上記カバー部材は、
中央部と、この中央部との間に段差を持ってこの中央部を取り巻く周縁部とを有し、
上記中央部の、上記周縁部との境界側の一部が傾斜面に形成され、この傾斜面の始点および終点が曲面に形成され、
当該カバー部材の表面がコーティングされているものであることを特徴とする。
【0018】
本発明のレンズユニットによれば、カバー部材を通過する光の乱れが抑えられ、画像の歪みが抑えられる。
【0019】
また、上記目的を達成する本発明の製造方法は、光学部品前面に配置されるカバー部材の製造方法であって、
中央部と、この中央部との間に段差を持ってこの中央部を取り巻く周縁部とを有し、この中央部の、この周縁部との境界側の一部が傾斜面に形成され、この傾斜面の始点および終点が曲面に形成されたカバー部基体を形成するカバー部材基体形成工程と、
上記カバー部材基体を、上記傾斜面が下に位置する姿勢で、液状のコート剤中に浸漬し、コート剤から引き上げて、このカバー部材基体に付着しているコート剤を固化させることによってカバー部材基体を固化されたコート剤で膜状に覆うコーティング工程とを有することを特徴とする。
【0020】
中央部を通過する光の乱れが抑えられたカバー部材を製造することができる。
【0021】
また、上記本発明の製造方法において、
上記カバー部材基体形成工程が、上記中央部、上記周縁部および上記傾斜面に加え、さらに、この傾斜面を下にしたときの、この傾斜面よりも上記周縁部を挟んでさらに下の位置に、コート剤を上記傾斜面およびこの周縁部を通ってさらに下に導いてこのコート剤を溜めるコート剤溜り部を有するカバー部材基体を形成する工程であり、
さらに、上記コーティング工程の後に、上記コート剤溜り部を切除する切除工程を有することが好ましい。
【0022】
コーティング工程では、カバー部材基体をコート剤に浸漬し、引き上げると、傾斜面を伝ってさらに下方に流れるコート剤が、さらにコート剤溜り部に導かれ、液溜りが中央部からさらに遠ざかる。中央部におけるコート剤を含んだ厚みがより均一化する。したがって、中央部を通過する光の乱れがより抑えられる。また、完成したカバー部材にコート剤溜り部が残らない。
【0023】
また、上記本発明の製造方法において、
上記切除工程が、上記コート剤溜り部を、コート剤溜り部の断片を上記カバー部材基体に残して切除することによって、この断片からなる、上記傾斜面の位置を認識させるマーキングを形成する工程であることを特徴とする。
【0024】
切除する際に残した断片をマーキングとすることで、カバー部材の傾斜面およびその近傍を、撮像素子等に結像される光が透過する領域から確実に外すためのマーキング形成が、コート剤溜り部の切除だけで行えるので、製造工程が簡略化される。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、通過する光の乱れを抑えたカバー部材、カバー部材を備えたレンズユニット、およびカバー部材の製造方法が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】レンズユニットの一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示すレンズユニットに備えられる従来技術のカバー部材を示す図である。
【図3】本発明のカバー部材の第1実施形態を示す外観図である。
【図4】図3に示すカバー部材の下部を拡大して示す縦断面図である。
【図5】図3に示すカバー部材の製造方法を説明する図である。
【図6】コート剤から引き上げられた状態のカバー部材を示す図である。
【図7】ユニットケースに取り付けられた状態のカバー部材とOリングとの位置関係を示す図である。
【図8】カバー部材基体の前後両面がコーティングされた変形例を示す図である。
【図9】本発明のカバー部材の第2実施形態を示す外観図である。
【図10】図9に示すカバー部材を製造する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0028】
図3は、本発明のカバー部材の第1実施形態を示す外観図である。図3のパート(A)はカバー部材30の正面図であり、パート(B)はカバー部材30の中央における縦断面図である。また、図4は、図3に示すカバー部材の下部を拡大して示す縦断面図である。
【0029】
図3に示すカバー部材30は、図1に示すレンズユニット10のカバー部材20に代えて取り付けられる部材である。カバー部材20の代わりに、本実施形態のカバー部材30を備えたレンズユニット10は、本発明のレンズユニットの一実施形態である。本発明の実施形態であるレンズユニット10の構成については、カバー部材30を除いて、すでに図1を参照して説明した構成と同じであるため、図1をそのまま流用するとともに、重複する説明を省略する。
【0030】
図3に示すカバー部材30は、円板状のカバー部材基体31の表面がコート剤32によってコーティングされた部材である。カバー部材基体31は、レンズ13(図1参照)を通して撮像素子に結像される光を透過させる中央部311と、中央部311を取り巻く周縁部312とを有する。中央部311は、通過する光による画像を劣化させないよう均一な厚さを有している。中央部311および周縁部312は、透明な樹脂材料で一体成型されている。中央部311の、周縁部312との境界の一部には、段差312aが形成されているが、中央部311の、周縁部312との境界の残りの一部は、傾斜面313に形成されている。また、カバー部材基体31には、周縁部312の縁の一部から突出したマーキング突起314が設けられている。マーキング突起314は、カバー部材30における傾斜面313の位置を認識させるものであり、中央部311を挟んで傾斜面313の反対側に配置されている。このマーキング突起314が、本発明にいうマーキングの一例に相当する。
【0031】
傾斜面313は、中央部311との間および周縁部312との間の双方について傾斜を成して形成されている。より詳細には、図4によりよく示すように、傾斜面313は、中央部311の平板部分から鋭角に曲がって延び、周縁部312からも鋭角に曲がって延びている。つまり、傾斜面313と、中央部311の平板部分の表面とは鈍角を成し、かつ、傾斜面313と周縁部312の表面とは鈍角を成している。また、傾斜面313の始点および終点である、中央部311の平板部分と傾斜面313との境部分、および、周縁部312と傾斜面313との境部分は曲面で繋がれている。
【0032】
ここで、図3に示すカバー部材30の製造方法を説明する。
【0033】
図5は、図3に示すカバー部材の製造方法を説明する図である。
【0034】
カバー部材30を製造するには、まずカバー部材基体形成工程で、図3を参照して説明した形状を有するカバー部材基体31を形成する。図5には、カバー部材基体31に、ランナー37が繋がった状態が示されている。カバー部材基体31とランナー37とは、透明の樹脂で一体成型される。
【0035】
次に、カバー部材基体31の後面、すなわちレンズユニット10に装着された状態でレンズユニット10の内面側にフィルム状のマスキング部材39(図6参照)を貼る。これによって、カバー部材基体31の後面にコート剤が付かないようにする。
【0036】
次に、コーティング工程で、カバー部材基体31を液状のコート剤320中に浸漬する。コーティング工程では、カバー部材基体31は、ランナー37が繋がった状態で取り扱われる。より詳細には、作業員または装置がランナー37をつかみ、カバー部材基体31を傾斜面313が下に位置する姿勢でコート剤320中に浸漬する。この後、カバー部材基体31を液状のコート剤320から引き上げ、カバー部材基体31に付着しているコート剤を固化させる。
【0037】
図6は、コート剤から引き上げられた状態のカバー部材を示す図である。
【0038】
コート剤320から引き上げられた時のカバー部材基体31は、前面が液状のコート剤によって覆われている。カバー部材基体31の後面にはマスキング部材39が貼り付けられている。マスキング部材39は、一面に粘着剤が塗られた部材であり、カバー部材基体31がコート剤320(図5)中に浸漬されてもカバー部材基体31から剥がれない。したがって、カバー部材基体31の後面にはコート剤320が付かない。マスキング部材39は、より詳細には、中央部311よりも後向きに突出した周縁部312に張り付いており、中央部311には接触していない。
【0039】
マスキング部材39は、液状のコート剤をはじく素材であるか、あるいはコート剤をはじくためのコーティングが施されていることがより好ましい。液状のコート剤がマスキング部材39に付着せず、コート剤の無駄がないからである。
【0040】
カバー部材基体31は、液状のコート剤320から引き上げられた後も、図5に示すように、傾斜面313が下に位置する姿勢が維持される。カバー部材基体31が液状のコート剤320から引き上げられた後、カバー部材基体31の前面を覆うコート剤が固化するまでの間、コート剤は重力によって下方に緩やかに流れる。仮に、カバー部材基体が水平に広がる姿勢に置かれたとすると、コート剤がカバー部材基体の一部分から垂れ下がった状態で固化するおそれがある。カバー部材基体31が鉛直方向に広がる姿勢で置かれることで、コート剤がカバー部材基体の一部分から垂れ下がった状態となることが回避される。
【0041】
また、カバー部材基体31が、傾斜面313が下に位置する姿勢では、カバー部材基体31の中央部211表面を下方に流れるコート剤が、傾斜面313に向かって集まる。ここで、傾斜面313は、図4に示すように、中央部311の平板部分との間、および周縁部312との間の双方について傾斜を成して形成されており、中央部311の平板部分と傾斜面313との間、および、周縁部312と傾斜面313との間は曲面で繋がれており、液状のコート剤を留める角がない。このため、傾斜面313に向かって集まる液状のコート剤は、傾斜面313を伝ってさらに下方の周縁部312へと流れていく。したがって、カバー部材基体31の中央部311上には液溜りが生じない。
【0042】
カバー部材基体31が液状のコート剤320から引き上げられ、カバー部材基体31に付着しているコート剤が固化することによって、カバー部材基体31が固化したコート剤で膜状に覆われる。この後、カバー部材基体31からマスキング部材39が剥がされ、ランナー37が切り離されると、図3に示したカバー部材30が完成する。
【0043】
再び、図3を参照して説明すると、コート剤32は、製造過程における液状の時、中央部311から傾斜面313を伝って周縁部312に流れていくため、中央部311上には液溜りが生じない状態で固化する。このため、中央部311上にはコート剤32が、画像の歪みを生じさせない程度に均一な膜厚で形成される。
【0044】
図3に示す、完成したカバー部材30は、図1に示すユニットケース17の開口17aを塞ぐように取り付けられる。
【0045】
図7は、ユニットケースに取り付けられた状態のカバー部材とOリングとの位置関係を示す図である。
【0046】
図7に示すように、カバー部材30の中央部311と周縁部312の間の段差312aの部分にOリング18が配置される。
【0047】
図3に戻って説明を続ける。図3には、カバー部材30のうち、レンズ13(図1参照)を通して撮像素子12に結像される光が通過する有効画像範囲Eが示されている。有効画像範囲Eは撮像素子12の形状に応じた略矩形であり、中央部311と周縁部312との境界までいっぱいに配置されている。傾斜面313は、中央部311と周縁部312との境界の円より内側に配置されているため、ユニットケース17に取り付けられるカバー部材30の姿勢によっては、有効画像範囲Eの角が傾斜面313に重なるおそれがある。本実施形態のカバー部材30には、カバー部材30における傾斜面313の位置を認識させるマーキング突起314が設けられているので、カバー部材30をユニットケース17に取り付ける場合には、マーキング突起314を目印として、傾斜面313が図3に示すような中央部311の下に位置する向きか、あるいはこの逆に、傾斜面313が中央部311の上に位置する向きに取り付けられる。これによって、有効画像範囲Eの角が傾斜面313に重なる事態が回避される。
【0048】
本実施形態のカバー部材30を備えた本実施形態のレンズユニット10によれば、有効画像範囲Eは、コート剤が均一な厚さの部分に配置されており、カバー部材30を通過する光の乱れが抑えられ、レンズ13によって撮像素子12に結像される画像の歪みが抑えられる。
【0049】
上記の実施形態では、マスキング部材39によって、カバー部材基体31の後面がコーティングされていないカバー部材30の例を説明したが、ここで、カバー部材の構造としては、カバー部材基体の前後両面がコーティングされた構造も採用可能である。
【0050】
図8は、カバー部材基体の前後両面がコーティングされた変形例を示す図である。
【0051】
図8に示すカバー部材30Aは、カバー部材基体31にマスキング部材を貼り付けることなく、コーティング工程で液状のコート剤320中に浸漬することで製造されている。したがって、カバー部材基体31の前後両面がコート剤32によってコーティングされている。この他の点は、図3に示すカバー部材30と同じであり、図中の対応する部分には同一の符号が付されている。
【0052】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。以下の第2実施形態の説明にあたっては、第1実施形態における各要素と同一の要素には同一の符号を付けて示し、前述の実施形態との相違点について説明する。
【0053】
図9は、本発明のカバー部材の第2実施形態を示す外観図である。図9のパート(A)はカバー部材40の正面図であり、パート(B)はカバー部材40の中央における縦断面図である。
【0054】
図9に示すカバー部材40は、図3に示す第1実施形態のカバー部材30に比べ、カバー部材基体41が、マーキング突起314を有しない点と、このマーキング突起314とは反対の位置、すなわち、傾斜面313を下にしたときの、傾斜面313よりも周縁部312を挟んでさらに下の位置に、周縁部312の縁の一部から突出したマーキング突起414を有している点とが異なる。マーキング突起414は、カバー部材基体41に形成された液溜り部416を途中の切除線C1で切除した残りの断片によって形成されている。液溜り部416は、カバー部材40の製造工程で最終的に切除されるが、図9には、液溜り部416が切除される前、つまりカバー部材40の完成直前の形状が示されている。ここで、マーキング突起414が、本発明にいうマーキングの一例に相当する。
【0055】
液溜り部416は、傾斜面313を下にしたときの、傾斜面313よりも周縁部312を挟んでさらに下の位置に、周縁部312の縁の一部から突出して設けられており、周縁部312と同じ厚みを有している。
【0056】
図9に示すカバー部材40を製造するには、まず、まずカバー部材基体形成工程で、カバー部材基体41を形成する。
【0057】
図10は、図9に示すカバー部材を製造する方法を説明する図である。
【0058】
図10には、3つのカバー部材基体41が、ランナー47に繋がった状態が示されている。複数のカバー部材基体41とランナー47とは、透明の樹脂で一体成型される。これによって、複数のカバー部材40がまとめて製造可能となる。
【0059】
次に、コーティング工程で、カバー部材基体41を液状のコート剤中に浸漬する。コーティング工程では、カバー部材基体41は、ランナー47が繋がった状態で取り扱われる。より詳細には、作業員または装置がランナー47をつかみ、カバー部材基体41を、傾斜面313が下に位置する姿勢でコート剤中に浸漬する。この後、カバー部材基体41を液状のコート剤から引き上げ、コート剤を固化させる。
【0060】
カバー部材基体41が液状のコート剤から引き上げられた後、コート剤が固化するまでの間、コート剤は重力によって下方に緩やかに流れる。中央部311の平板部分から傾斜面313に向かって集まる液状のコート剤は、傾斜面313を伝って周縁部312に流れ、さらに下方の液溜り部416へと導かれていく。したがって、図9のパート(B)に示すように、液溜り42aは液溜り部416上に形成され、カバー部材基体31の中央部311からさらに遠ざかる。したがって、中央部311におけるコート剤の厚みがより均一化する。
【0061】
次に、切除工程で、液溜り部416を途中の切除線C1で切断し、カバー部材基体41から液溜り部416を切除する。また、切除線C2(図10参照)に沿った切断により、カバー部材基体41をランナー47から切り離す。これにより、第2実施形態のカバー部材40が完成する。液溜り部416を切除することによって、コート剤の液溜り42aがカバー部材40に残らない状態となる。また、液溜り部416を切除する際に断片をカバー部材基体41に残すことによって、マーキング突起414(図9参照)を形成するので、マーキング突起414の形成が液溜り部416の切除だけで行え、製造工程が簡略化される。
【0062】
なお、上述した実施形態では、本発明にいうレンズユニットの例として、撮像素子を備えたレンズユニットを示したが、本発明にいうレンズユニットはこれに限られるものではなく、例えば、撮像素子を内蔵しておらず、後から取り付けるタイプのものであってもよい。
【0063】
また、上述した実施形態では、本発明にいうレンズユニットの例として、3枚のレンズ13を備えたレンズユニットを示したが、本発明にいうレンズユニットはこれに限られるものではなく、1枚や2枚のレンズを備えたものであってもよく、また4枚以上のレンズを備えたものであってもよい。
【0064】
また、上述した実施形態では、本発明にいうカバー部材基体形成工程の例として、1つまたは3つのカバー部材基体がランナーに繋がった部材を形成することを示したが、本発明はこれに限られるものではなく、例えば、ランナーに繋がるカバー部材基体は2つや4つ以上の複数であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 レンズユニット
13 レンズ
30,40 カバー部材
31,41 カバー部材基体
32,42 コート剤
311 中央部
312 周縁部
312a 段差
313 傾斜面
314 マーキング突起
320 液状のコート剤
414 マーキング突起
416 液溜り部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部品前面に配置されるカバー部材であって、
中央部と、該中央部との間に段差を持って該中央部を取り巻く周縁部とを有し、
前記中央部の、前記周縁部との境界側の一部が傾斜面に形成され、該傾斜面の始点および終点が曲面に形成され、
表面がコーティングされていることを特徴とするカバー部材。
【請求項2】
前記傾斜面の位置を認識させるマーキングをさらに有することを特徴とする請求項1記載のカバー部材。
【請求項3】
被写体光を結像する結像レンズと、前記結像レンズ前面に配置されたカバー部材とを有するレンズユニットであって、
前記カバー部材は、
中央部と、該中央部との間に段差を持って該中央部を取り巻く周縁部とを有し、
前記中央部の、前記周縁部との境界側の一部が傾斜面に形成され、該傾斜面の始点および終点が曲面に形成され、
当該カバー部材の表面がコーティングされているものであることを特徴とするレンズユニット。
【請求項4】
光学部品前面に配置されるカバー部材の製造方法であって、
中央部と、該中央部との間に段差を持って該中央部を取り巻く周縁部とを有し、該中央部の、該周縁部との境界側の一部が傾斜面に形成され、該傾斜面の始点および終点が曲面に形成されたカバー部基体を形成するカバー部材基体形成工程と、
前記カバー部材基体を、前記傾斜面が下に位置する姿勢で、液状のコート剤中に浸漬し、該コート剤から引き上げて、該カバー部材基体に付着しているコート剤を固化させることによってカバー部材基体を固化されたコート剤で膜状に覆うコーティング工程とを有することを特徴とする製造方法。
【請求項5】
前記カバー部材基体形成工程が、前記中央部、前記周縁部および前記傾斜面に加え、さらに、該傾斜面を下にしたときの、該傾斜面よりも前記周縁部を挟んでさらに下の位置に、コート剤を前記傾斜面および該周縁部を通ってさらに下に導いて該コート剤を溜めるコート剤溜り部を有するカバー部材基体を形成する工程であり、
さらに、前記コーティング工程の後に、前記コート剤溜り部を切除する切除工程を有することを特徴とする請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記切除工程が、前記コート剤溜り部を、該コート剤溜り部の断片を前記カバー部材基体に残して切除することによって、該断片からなる、前記傾斜面の位置を認識させるマーキングを形成する工程であることを特徴とする請求項5記載の製造方法。
【請求項1】
光学部品前面に配置されるカバー部材であって、
中央部と、該中央部との間に段差を持って該中央部を取り巻く周縁部とを有し、
前記中央部の、前記周縁部との境界側の一部が傾斜面に形成され、該傾斜面の始点および終点が曲面に形成され、
表面がコーティングされていることを特徴とするカバー部材。
【請求項2】
前記傾斜面の位置を認識させるマーキングをさらに有することを特徴とする請求項1記載のカバー部材。
【請求項3】
被写体光を結像する結像レンズと、前記結像レンズ前面に配置されたカバー部材とを有するレンズユニットであって、
前記カバー部材は、
中央部と、該中央部との間に段差を持って該中央部を取り巻く周縁部とを有し、
前記中央部の、前記周縁部との境界側の一部が傾斜面に形成され、該傾斜面の始点および終点が曲面に形成され、
当該カバー部材の表面がコーティングされているものであることを特徴とするレンズユニット。
【請求項4】
光学部品前面に配置されるカバー部材の製造方法であって、
中央部と、該中央部との間に段差を持って該中央部を取り巻く周縁部とを有し、該中央部の、該周縁部との境界側の一部が傾斜面に形成され、該傾斜面の始点および終点が曲面に形成されたカバー部基体を形成するカバー部材基体形成工程と、
前記カバー部材基体を、前記傾斜面が下に位置する姿勢で、液状のコート剤中に浸漬し、該コート剤から引き上げて、該カバー部材基体に付着しているコート剤を固化させることによってカバー部材基体を固化されたコート剤で膜状に覆うコーティング工程とを有することを特徴とする製造方法。
【請求項5】
前記カバー部材基体形成工程が、前記中央部、前記周縁部および前記傾斜面に加え、さらに、該傾斜面を下にしたときの、該傾斜面よりも前記周縁部を挟んでさらに下の位置に、コート剤を前記傾斜面および該周縁部を通ってさらに下に導いて該コート剤を溜めるコート剤溜り部を有するカバー部材基体を形成する工程であり、
さらに、前記コーティング工程の後に、前記コート剤溜り部を切除する切除工程を有することを特徴とする請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記切除工程が、前記コート剤溜り部を、該コート剤溜り部の断片を前記カバー部材基体に残して切除することによって、該断片からなる、前記傾斜面の位置を認識させるマーキングを形成する工程であることを特徴とする請求項5記載の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−137975(P2011−137975A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297586(P2009−297586)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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