説明

カビ毒吸着剤

【課題】廉価な天然ベントナイトを原料として、アフラトキシンに対してのみならず、ゼアラレノンに対しても優れた吸着性を示すカビ毒吸着剤を提供することにある。
【解決手段】赤外分光光度測定でSi−O伸縮振動が1041乃至1090cm−1の範囲にある、Ca型ベントナイトの焼成物からなるカビ毒吸着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モンモリロナイト系粘土に属するベントナイトから得られるカビ毒吸着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ベントナイトは、モンモリロナイトを主成分とするモンモリロナイト系粘土に属する代表的な粘土であり、水に対する親和性が高く、カチオン交換能などのイオン交換性を有しており、しかも国内で産出する廉価な物質であることから吸着剤をはじめ種々の用途に使用されている。
特に最近では、ベントナイト等の粘土をカビ毒の吸着剤として家畜の飼料に配合して使用することが提案されている(特許文献1〜3参照)。ベントナイトは、日本国内でも産出する廉価な天然鉱石であることから、このような天然鉱石からなるカビ毒吸着剤は、工業的に極めて有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平6−501388号公報
【特許文献2】特開2001−299237号公報
【特許文献3】特開平8−228693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、カビ毒とは、カビが産生する二次代謝物の中で、人や家畜の健康を損なう有毒物質であり、マイコトキシンとも呼ばれている。家畜が汚染された穀物などを摂取することで、また人がその畜産物を摂取することで、その健康を損なうケースが多く、また、汚染された穀物などからカビ毒を除去することは極めて難しい。このため、このようなカビ毒を吸着する吸着剤を家畜の飼料に配合し、家畜の消化管内でカビ毒を吸着し排泄させることにより、生体等への影響を回避しようというものである。
【0005】
カビ毒には、多くの種類があり、その数は300を超えているが、その主なものに、アフラトキシンやゼアラレノンがある。これらは毒性が強く、トウモロコシなどの穀物汚染を生じ易いことが報告されている。
【0006】
前述したベントナイト等の天然鉱石系のカビ毒吸着剤は、特に毒性の強いアフラトキシンB1(以下、AfB1と略すことがある)に対して優れた吸着特性を示すものの、ゼアラレノン(以下、ZENと略すことがある)に対する吸着性はあまり報告されていない。
僅かに、上記特許文献3中の表1には、酸活性化モンモリロナイトがゼアラレノンに対する吸着性を示す実験結果が示されているが、その場合においてもアフラトキシンに対する吸着性に比べればかなり劣っている。
また、この酸活性化モンモリロナイトは、原料粘土(ベントナイト)を酸処理することにより得られるものであるため、排液処理に要する負担が大きく、廉価という天然鉱石を用いることによる利点がかなり失われている。
【0007】
従って、本発明の目的は、アフラトキシンに対してのみならず、ゼアラレノンに対しても優れた吸着性を示すカビ毒吸着剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、酸処理などの排液処理を伴う薬剤処理が不要な、廉価な天然ベントナイトから得られるカビ毒吸着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、天然に産出したベントナイトのカビ毒に対する吸着性に多くの実験をおこなって検討した結果、Ca型ベントナイトを原料として所定の焼成処理を行うことにより、酸処理を行うことなく、アフラトキシンに対する吸着性を維持したまま、ゼアラレノンに対する吸着性が著しく向上するという新規な知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明によれば、Si−O伸縮振動が1041乃至1090cm−1の範囲にある、Ca型ベントナイト焼成物からなるカビ毒吸着剤が提供される。
【0010】
本発明のカビ毒吸着剤は、一般に、
(1)メチレンブルー吸着量が10乃至45mmol/100gの範囲にあること、
(2)X線回折測定では、面間隔0.148乃至0.153nmに観測されるモンモリロナイトの(06)面に由来するX線回折ピークの相対面積強度比が40%以上残存していること、
(3)比表面積が80m/g以上200m/g以下であること、
(4)強熱減量が2乃至10質量%の範囲にあること、
が好適である。
【0011】
本発明のカビ毒吸着剤は飼料配合物として使用され、家畜の消化管内でアフラトキシンやゼアラレノンを吸着除去し、その後の汚染を防止し、生体に対する健康被害を防止する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のカビ毒吸着剤は、後述する実験例に示されているように、アフラトキシンの中でも特に毒性の強いアフラトキシンB1に対して高い吸着性を示すばかりか、ゼアラレノンに対しても優れた吸着性を示す。
【0013】
本発明のカビ毒吸着剤は、Ca型ベントナイトを焼成することにより得られるものであるが、赤外分光光度測定においてそのSi−O伸縮振動が1041乃至1090cm−1の範囲にあることが必要である。
【0014】
即ち、モンモリロナイトにおけるSi−O伸縮振動は1020乃至1040cm−1の範囲にあるが、本発明のベントナイト焼成物においては、基本骨格のSi−O伸縮振動が1041乃至1090cm−1の範囲にあるため、モンモリロナイトのSi−O結合の振動エネルギーより高い。このことは、Si−O結合の強さが通常より高まっていることを示唆しており、結果として有機親和性が増加し疎水性のゼアラレノンに対する吸着性を高めていると考える。
【0015】
また、本発明のカビ毒吸着剤は、そのメチレンブルー吸着量が10乃至45mmol/100gの範囲にあることが好適である。
【0016】
即ち、メチレンブルー吸着量は、メチレンブルーの吸着量によりモンモリロナイト系粘土の基本構造を定量する一つの指標であり、この吸着量が多いほど、ベントナイト焼成物中にモンモリロナイト基本構造が多く残存し、この吸着量が少ないほど、モンモリロナイト基本構造が焼成により多く消失していることを示す。
【0017】
また、本発明のカビ毒吸着剤は、そのX線回折像において面間隔0.148乃至0.153nmに観測されるモンモリロナイトの(06)面に由来する回折ピークが40%以上の相対面積強度比を持つことが好適である。
【0018】
即ち、このような回折ピークの相対面積強度比は、ベントナイト焼成物中のモンモリロナイト基本構造を定量する一つの指標であり、この強度比が大きいほど、ベントナイト焼成物中にモンモリロナイト基本構造が多く残存し、この強度比が小さいほど、モンモリロナイト基本構造が焼成により多く消失していることを示す。
【0019】
また、本発明のカビ毒吸着剤は、比表面積が80m/g以上200m/g以下であることが好適である。
【0020】
即ち、比表面積は、カビ毒に対する吸着性において、その吸着量に影響を与える指標である。この値が小さい場合は、吸着量が少なくなる結果、親水性若しくは疎水性等の親和性にかかわらず、吸着性は不満足となってしまう。この値が上記のような範囲にあることによって、カビ毒を充分に吸着することができる吸着剤となり得るのである。
【0021】
また、本発明のカビ毒吸着剤は、その強熱減量が2乃至10質量%の範囲にあることが好適である。
【0022】
即ち、強熱減量は、ベントナイト焼成物中の水酸基量(SiOH量)を示すものであり、この強熱減量が大きいほどベントナイト焼成物中にSiOH基が残存しており、強熱減量が小さいほど、SiOH基が多量に消失していることを意味する。
【0023】
上記の説明から理解されるように、ベントナイト焼成物が上記のような範囲のSi−O伸縮振動、メチレンブルー吸着量、(06)面相対面積強度比及び強熱減量を有しているということは、ベントナイトの主成分であるモンモリロナイト基本構造が適度に残存し、疎水性を示すと同時に、焼結に至らない程度までの焼成が行われたことを意味している。即ち、本発明者等は、このように適度な焼成の結果、アフラトキシンB1に対する吸着性が損なわれずに、ゼアラレノンに対する吸着性が大幅に向上したものと推定している。
【0024】
この点について説明すると、このベントナイト焼成物は、モンモリロナイト基本構造が適度に残存しているため、アフラトキシンB1に対する吸着性の要因となる(後述する)積層層間が保持され、しかも、焼結するまでには至っていないため、ある程度の比表面積や細孔も維持されている。従って、焼成によるアフラトキシンに対する吸着性の低下は有効に抑制されている。
【0025】
アフラトキシンは親水性であるのに対して、ゼアラレノンは疎水性である。通常、ベントナイト等のモンモリロナイト系粘土は親水性であり、このような性質がゼアラレノンに対する吸着性を低める要因になっているものと考えられる。しかるに、本発明においては、積層層間や多孔質の表面構造が適度に維持されていながら、強熱減量に由来するSiOH量の低減によって親水性から疎水性に変質しており、この結果、ゼアラレノンに対する吸着性が大幅に向上したものと考えられる。
【0026】
また、本発明のカビ毒吸着剤は、Ca型ベントナイトを焼成して得られるものであって、酸処理などの薬剤処理は特に必要とされず、製造に際して格別の排液処理は生じないため、廉価であるという天然産の利点を最大限に活かすことができる。
【0027】
本発明のカビ毒吸着剤は、家畜用の飼料配合物として使用され、家畜の消化管内(例えば腸内)で毒性の強いアフラトキシンやゼアラレノンを吸着除去し、生体の健康被害を効果的に抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実験例1で得られた原料ベントナイトおよび本発明のベントナイト焼成物の赤外分光スペクトル図を示す。
【図2】実施例1で得られた本発明のベントナイト焼成物のX線回折像(実線)、および実験例H−2で得られたベントナイト焼成物のX線回折像(点線)を示す。
【発明が実施しようとする形態】
【0029】
<原料ベントナイト>
本発明のカビ毒吸着剤はベントナイトを焼成して得られるものであるが、この焼成に供されるベントナイトは、モンモリロナイト系粘土に属するものであり、ジオクタヘドラル型スメクタイトの一種であるモンモリロナイトを主成分とする。モンモリロナイトに次いでオパールを多く含有するものは、特に酸性白土と呼ばれることもある。
かかるモンモリロナイトは、SiO四面体層−AlO八面体層−SiO四面体層からなる層状構造を有し、これらの八面体層のAlの一部がMgやFe(II)に、四面体層のSiの一部がAlにと、より低原子価の異種金属元素で同形置換された基本骨格を有しており、結晶格子はその同形置換部分に陰電荷を生じるが、これらの積層層間にはそれにつり合う量のカチオンと水が存在し、電荷的には中和されている。すなわち、基本骨格と積層層間から成るモンモリロナイト基本構造はこのような同形置換元素や層間イオンの種類や量に応じたカチオン交換能を示す。このようなモンモリロナイト基本構造において、Si−O−Si結合の連なる層面の有機親和性と、同形置換部位の極性に由来して親水性を示すという特性を有している。なお、モンモリロナイトにおけるSi−O伸縮振動は1020乃至1040cm−1の範囲にあり、オパールのそれは1100cm−1付近にある。
【0030】
即ち、基本骨格中のSiやAlに対する同形置換などにより発現したカチオン交換能及び親水性は、アフラトキシンに対する吸着性を示す要因となっており、また、親水性は、ゼアラレノンに対する吸着性を阻害する要因となっている。
【0031】
原料ベントナイトとしては、例えば積層層間のNa含量が多く、水に分散させたときの分散液のpHが例えば5質量%懸濁液で9.5以上と高く、水に対する膨潤力も例えば15ml/2g以上と高く、さらには多くの水が供給されるとゲル化して固結するNa型ベントナイトや、積層層間のCa含量やプロトン量が多く、水に分散させたときの分散液のpHが例えば5質量%懸濁液で4.5〜9.5と低く、水に対する膨潤力が3〜10ml/2g程度と低く、さらには多くの水を供給した場合においてもゲル化を生じないCa型ベントナイト(一般に酸性白土と称される粘土も含まれる)が知られている。
この内でNa型ベントナイトは結晶子が大きく、焼成を行っただけでは比表面積の大きな粒子が得られないため、カビ毒に対しての吸着性はCa型ベントナイトに及ばない(実験例H−2参照)。また、予め酸処理を行って比表面積を増大させた後で焼成を行うことによってカビ毒に対して良好な吸着性を示し得ると考えられるが、その場合でも排液処理によるコストの増大をもたらす。一方、Ca型ベントナイトは、結晶子が小さく、酸処理を行わなくとも大きな比表面積の粒子が得られ、予め酸処理を行った場合と同様に、カビ毒に対して吸着性の高い粒子からなる焼成物を得ることができる。従って、本発明においてはCa型ベントナイトを原料として用いる。
【0032】
本発明において、原料ベントナイトとして使用されるCa型ベントナイトの酸化物換算での化学組成は、一般に次の通りである。尚、カッコ内はNa型ベントナイトの組成例である。
SiO: 50乃至75質量% (Na型:61.7)
Al: 12乃至25質量% (Na型:22.2)
MgO: 1乃至8質量% (Na型:3.3 )
Fe: 0.5乃至10質量% (Na型:2.2 )
CaO: 0乃至5質量% (Na型:0.6 )
NaO: 0乃至3質量% (Na型:3.6 )
K2O: 0乃至1.5質量% (Na型:0.1 )
その他の金属酸化物:2.5質量%以下 (Na型:0.3 )
強熱減量: 5乃至15質量% (Na型:6.3 )
また、Ca型ベントナイトの膨潤力はNa型ベントナイトのそれより低い。たとえば、実験例H−1の膨潤力は60ml/2gであるのに対して、実験例1−1の膨潤力は6ml/2gである。
【0033】
<焼成>
本発明においては、原料ベントナイトを、粗粉砕し、水簸や風簸に供して夾雑物を除去した後、焼成を行い、これにより、本発明のカビ毒吸着剤であるベントナイト焼成物を得ることができる。
【0034】
かかる焼成は、完全に焼結を生じる程度までは行われず、モンモリロナイト基本構造がある程度維持される温度で行われ、具体的には、200乃至800℃、好ましくは400乃至600℃で行われ、焼成時間は0.5時間以上、好ましくは0.5乃至4時間程度である。
【0035】
即ち、上記の焼成において、その温度が高いほど、SiOH基の脱水縮合が進行して、モンモリロナイト基本骨格のSi−O伸縮振動エネルギーが高まり、積層層間が消失に向かうため、モンモリロナイト基本構造が減少し、この結果、Si−O伸縮振動が高波数側に移動し、メチレンブルー吸着量が少なく、強熱減量が小さくなる。また、その温度が低く処理時間が短いほど、メチレンブルー吸着量が多く、且つ強熱減量は大きく維持される。従って、目的とするSi−O伸縮振動、メチレンブルー吸着量や強熱減量が得られるように、焼成温度及び時間を設定すればよい。
【0036】
<カビ毒吸着剤>
かくして得られるベントナイト焼成物を、カビ毒吸着剤として使用するわけであるが、かかる焼成物は、モンモリロナイト基本骨格がある程度維持される温度で焼成が行われているため、例えばそのX線回折像では、面間隔0.148乃至0.153nmにモンモリロナイトの(06)面に由来する回折ピークが必ず観察される。本発明のベントナイト焼成物におけるこの回折ピークの面積強度から、標準物質としてのクニピアFの回折ピークの面積強度を100として算出した相対面積強度比(%)は、モンモリロナイト基本骨格の含有量を表す指標とすることができ、40%以上であることが好適である。但し、ICDD:13−135では(0010)と(300)に指数付けされているが、ここでは便宜上まとめて(06)と表示する。
モンモリロナイトの(001)面に由来する回折ピークは、観察されないことがある。これは、焼成により、積層層間が収縮してしまうためである。
【0037】
本発明のベントナイト焼成物においては、基本骨格のSi−O伸縮振動が1041乃至1090cm−1の範囲にあるため、未焼成のモンモリロナイト基本骨格のSi−O結合の振動エネルギーより高い。このことは、モンモリロナイト基本骨格のSi−O結合の強さが通常より高まっていることを示唆しており、結果としてSi−O−Si結合の連なる層面の有機親和性が増加し疎水性のゼアラレノンに対する吸着性を高めていると考える。
【0038】
また、モンモリロナイト基本構造がある程度維持される結果として、かかるベントナイト焼成物のメチレンブルー吸着量は、10乃至45mmol/100g、特に10乃至40mmol/100gの範囲にあることが好ましい。メチレンブルー吸着量がこの程度の値となるようにモンモリロナイト構造の残存していることが、焼成が行われていながらもAfB1に対する吸着性が維持されている大きな要因である。
このメチレンブルー吸着量が上記範囲よりも多いときは、焼成が不十分であり、以下に述べる強熱減量も大きな値となり、SiOH量を多く含む結果、AfB1に対する吸着性は満足し得るとしても、疎水性のZENに対する吸着性が不満足となってしまう。また、メチレンブルー吸着量が上記範囲よりも少ないときは、焼成が過度に行われ、焼結もしくはそれに近い状態となり、モンモリロナイト基本構造が殆ど消失し、比表面積も大きく低下し、AfB1及びZENの何れに対する吸着性も不満足となってしまう。
【0039】
さらに、モンモリロナイト基本構造がある程度維持される結果として、このベントナイト焼成物の強熱減量は2乃至10質量%、特に2乃至8質量%の範囲にある。先にも述べたように、モンモリロナイト基本構造を残しながら、強熱減量がこの程度となるようにSiOH量が低減され、疎水性が増大していることが、疎水性のZENに対する吸着性が向上することの大きな要因と考える。
即ち、この強熱減量が上記範囲よりも大きいときには、焼成が不十分であり、メチレンブルー吸着量が過度に多い場合と同様、SiOH量を多く含む結果、AfB1に対する吸着性は良好であるが、ZENに対する吸着性が不満足となってしまう。また、強熱減量が上記範囲よりも小さいときは、焼成が過度に行われているため、メチレンブルー吸着量が少ない場合と同様、モンモリロナイト基本構造の消失及び比表面積の大きな低下を生じ、AfB1及びZENの何れに対する吸着性も不満足となる。
【0040】
また、このベントナイト焼成物は、焼成が適度に行われている結果、80m/g以上200m/g以下、特に90m/g以上200m/g以下の比表面積を示し、これにより、AfB1及びZENの何れに対しても優れた吸着性能が発揮される。
【0041】
尚、本発明のカビ毒吸着剤として使用されるCa型ベントナイト焼成物は、焼成されているため、水中に分散させたときも、その中位径はエタノール中に分散させたときの値が維持され、未焼成のCa型ベントナイトに見られるような中位径の減少は殆ど生じない。
【0042】
このようなベントナイト焼成物からなるカビ毒吸着剤は、所望のカビ毒が吸着除去される限り、その使用形態は何ら制限されないが、一般的には、家畜の飼料の配合物として使用され、例えば飼料100質量部当り0.1乃至1.0質量部というように適宜の量を飼料に配合して使用されるのが好適である。これにより、トウモロコシ等の飼料を汚染しており、且つ生体に極めて有害なAfB1やZENを家畜の消化管内で効果的に吸着除去でき、これらカビ毒による健康被害を有効に防止することができる。
【実施例】
【0043】
本発明の優れた効果を、次の実験例で説明する。
尚、実験例における各種試験は下記の方法で行った。
【0044】
(1)赤外分光光度測定
試料はKBr粉末で錠剤に成形し、試料を含まないKBrを比較とし、日本分光(株)製FT/IR−6100を用いて測定した。分解能は4.0cm−1でアパーチャーはAutoであった。実験例の表中ではIRとして示した。
【0045】
(2)メチレンブルー吸着量
日本ベントナイト工業会標準試験方法JBAS−107−77に準拠し、0.5N硫酸を無添加で測定後、水分を補正してメチレンブルー吸着量(mmol/100g)を算出した。実験例の表中ではMB吸着量として示した。
【0046】
(3)強熱減量(Ig−Loss)
試料を磁製るつぼに入れ質量(a)を測定した後、1000℃で1時間焼成後デシケータ中で放冷して質量(b)を測定した。別に、試料を秤量びんに入れ質量(c)を測定した後、110℃で2時間乾燥後デシケータ中で放冷し質量(d)を測定した。次式:(ad−bc)/(ad)×100により強熱減量を算出した。
【0047】
(4)比表面積
Micromeritics社製Tri Star 3000を用いて測定を行った。比表面積は比圧が0.05から0.25の吸着枝側窒素吸着等温線からBET法で解析した。
【0048】
(5)X線回折(定量測定)
試料1gに10vol%エチレングリコール/エタノール溶液を加え、50℃で一晩乾燥させる。乾燥した試料を乳鉢で粉砕してエチレングリコール処理した試料を得る。試料に含まれるモンモリロナイトの(06)面の含有量は、X線回折によるマトリックスフラッシング法により、flushing剤としてα―Alを用い被検試料に対して一定量の割合で添加し不定配向法(”StandardX−ray diffraction powder patterns”, NBS Monograph, 25(1971))で試料をセルに充填し下記の条件で測定した。
X線回折装置:(株)リガク製RINT−UltimaIV
測定条件:X線=Cu−Kα線、
走査範囲:回折角(2θ)=42.0〜44.5および60.5〜63.0°
標準物質として、エチレングリコール処理したクニピアFを用い、X線回折図のピーク面積を100%として各試料のそれの相対面積強度比(%)で示した。また、実験例の表中では(06)として示した。
【0049】
(6)化学組成
二酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ナトリウム(NaO)の分析はJIS M 8853:1998に準拠して測定した。また、Fe、CaO、MgO、KOは原子吸光法を用いた。なお、測定試料は110℃乾燥物を基準とした。
【0050】
(7)膨潤力(容積法)
日本ベントナイト工業会標準試験方法JBAS−104−77に準拠して測定した。
【0051】
(8)中位径(D50
Beckman Coulter社製LS 13 320を使用し、溶媒としてエタノールおよび水を用いてレーザ回折散乱法で体積基準での中位径(D50)を測定した。実験例の表中ではそれぞれD50EtOH、D50Oとして示した。
【0052】
(9)pH
JIS K 5101−17−1:2004に準拠して調製した5質量%水性懸濁液の
pH値を測定した。
【0053】
(10)ZEN吸着率測定
1ppmZEN水溶液5mLに吸着剤25mgを入れ1時間振とう後、遠心分離し上澄液を(株)島津製作所製HPLC Prominenceと蛍光検出器RF−20Aを使用し残留濃度を測定した。吸着率は100×(初濃度−残留濃度)/初濃度より算出した。
【0054】
(11)AfB1吸着率測定
5ppmAfB1水溶液10mLに吸着剤25mgを入れ、25℃2時間振とう後、ろ紙およびPTFE製0.20μmメンブレンフィルターでろ過し、得られた液を日本分光(株)製紫外可視分光光度計JASCO V−570を使用し残留濃度を測定した。吸着率は100×(初濃度−残留濃度)/初濃度より算出した。
【0055】
(実験例1)
山形県鶴岡市産の酸性白土(1−1)は、pHが6.0であった。この物を用い、種々の温度で2時間焼成した。物性測定を行い、結果を表1に示す。
【0056】
(実験例2)
山形県鶴岡市の別の地区に産する酸性白土(2−1)を用い、種々の温度で2時間焼成した。物性測定を行い、結果を表2に示す。
【0057】
(実験例3)
山形県鶴岡市のさらに別の地区に産する酸性白土(3−1)は、比表面積が133m/gで中位径が16μmでpHが5.9であった。この物を用い、500℃で2時間焼成(3−2)した。物性測定を行い、結果を表3に示す。
【0058】
(実験例S)
参考例として、実験例2で用いた酸性白土を酸処理して、比表面積が318m/gで中位径が22μmでpHが3.6の酸活性化モンモリロナイト(S−1)とし、500℃で2時間焼成(S−2)した。物性測定を行い、結果を表3に示す。
【0059】
(実験例H)
Na型ベントナイトであるクニミネ工業(株)製クニピアF(H−1)は、比表面積が5m/gで膨潤力が60mL/2gでpHが10.0であった。この物を500℃で2時間焼成(H−2)した。この焼成物について物性測定および性能評価を行い、結果を表3に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外分光光度測定でSi−O伸縮振動が1041乃至1090cm−1の範囲にある、Ca型ベントナイト焼成物からなるカビ毒吸着剤。
【請求項2】
メチレンブルー吸着量が10乃至45mmol/100gの範囲にある請求項1に記載のカビ毒吸着剤。
【請求項3】
X線回折測定において、面間隔0.148乃至0.153nmに観測されるモンモリロナイトの(06)面に由来するX線回折ピークの相対面積強度比が40%以上である請求項1又は2に記載のカビ毒吸着剤。
【請求項4】
比表面積が80乃至200m/gの範囲にある請求項1乃至3の何れかに記載のカビ毒吸着剤。
【請求項5】
強熱減量が2乃至10質量%の範囲にある請求項1乃至4の何れかに記載のカビ毒吸着剤。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載のカビ毒吸着剤からなる飼料配合物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−94072(P2013−94072A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237352(P2011−237352)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000193601)水澤化学工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】