カム装置
【課題】 上型又は下型とカムドライバとが一体鋳造品からなる場合でも、強制戻し機構を簡単に形成できるカム装置を提供すること。
【解決手段】 カム装置１は、カムドライバ基台２と、カムドライバ基台２と共に鋳造等により一体形成されていると共に滑り面３を上面に有したカムドライバ４と、カムドライバ４の滑り面３に移動自在に接触するように、当該滑り面３と相補的な形状の滑り面５を有しており、Ｙ方向に長く伸びているカムスライド６と、カムスライド６の滑り面５とカムドライバ４の滑り面３との当接により、カムドライバ４の滑り面３に案内されてカムスライド６がＸ方向に移動し得るように、当該カムスライド６をＸ方向に移動自在に支持する支持機構７と、カムスライド６を初期位置に復帰させる復帰機構８と、カムスライド６の初期位置への戻し動作を強制的に行わせる強制戻し機構９とを備えている。
【解決手段】 カム装置１は、カムドライバ基台２と、カムドライバ基台２と共に鋳造等により一体形成されていると共に滑り面３を上面に有したカムドライバ４と、カムドライバ４の滑り面３に移動自在に接触するように、当該滑り面３と相補的な形状の滑り面５を有しており、Ｙ方向に長く伸びているカムスライド６と、カムスライド６の滑り面５とカムドライバ４の滑り面３との当接により、カムドライバ４の滑り面３に案内されてカムスライド６がＸ方向に移動し得るように、当該カムスライド６をＸ方向に移動自在に支持する支持機構７と、カムスライド６を初期位置に復帰させる復帰機構８と、カムスライド６の初期位置への戻し動作を強制的に行わせる強制戻し機構９とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、カムドライバによりカムスライドを摺動させて、カムスライドに装着された工具により薄板等のワーク（被加工物）に孔あけ、折り曲げ等の加工を施すカム装置に関する。
【背景技術】
【０００２】
カム装置は、通常、上型又は下型に固定的に支持されるようになっているカムドライバと、カムドライバの滑り面に移動自在に接触するように当該滑り面と相補的な形状の滑り面を有していると共に下型又は上型に移動自在に支持されたカムスライドとを具備しており、カムスライドの滑り面とカムドライバの滑り面との当接により、カムドライバの滑り面に案内されてカムスライドが移動するようになっている。
【０００３】
斯かるカム装置においては、ワークへの加工後にカムスライドを初期位置に復帰させる復帰機構と、カムスライドの初期位置への戻し動作を強制的に行わせる強制戻し機構とが設けられるが、この強制戻し機構は、一般に、カムドライバに一体的に形成された係合部と、カムドライバの滑り面に沿うカムスライドの移動で係合部の一方の面に摺動係合するようにカムスライドに設けられた係合部材とを具備している。
【０００４】
ところで、上型又は下型に対して別体であってボルト等により上型又は下型に取り付けられるようになっているカムドライバでは、カムスライドの係合部材が摺動係合するカムドライバの係合部の一方の面に対する研削、研磨等の加工は、カムドライバの上型又は下型への取り付け前に行うことができる結果、それ程困難でなく比較的容易であるが、上型又は下型と共に一体形成されたカムドライバでは、換言すれば、上型又は下型とカムドライバとが一体鋳造品からなる場合には、斯かる係合部の一方の面に対する研削、研磨等の加工は極めて困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００５】
【特許文献１】特開２０００−２１８３２０号公報
【特許文献２】特開２００１−１１３３２６号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、上型又は下型とカムドライバとが一体鋳造品からなる場合でも、強制戻し機構を簡単に形成できるカム装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【０００７】
本発明の第一の態様のカム装置は、カムドライバ基台と、このカムドライバ基台と共に一体形成されていると共に滑り面を有するカムドライバと、このカムドライバの滑り面に移動自在に接触するように当該滑り面と相補的な形状の滑り面を有しているカムスライドと、カムスライドを初期位置に復帰させる復帰機構と、カムスライドの初期位置への戻し動作を強制的に行わせる強制戻し機構とを具備しており、ここで、強制戻し機構は、カムドライバに設けられた凹所と、この凹所に装着されていると共にカムドライバの側面から突出した部位を有する係合板と、この係合板のカムドライバの側面から突出した部位の一方の面に摺動係合する鉤部を有してカムスライドの側面に取り付けられた鉤部材とを具備しており、鉤部材の鉤部が係合する係合板の一方の面は、カムドライバの滑り面に沿うカムスライドの移動の方向と実質的に平行な方向に伸びている。
【０００８】
第一の態様のカム装置では、強制戻し機構の係合板がカムドライバと別体であってカムドライバに設けられた凹所に装着されているために、凹所への装着前に係合板の一方の面に対する研削、研磨等の加工作業を行うことができ、而して、上型又は下型とカムドライバとが一体鋳造品からなる場合でも、強制戻し機構を簡単に形成できる。
【０００９】
本発明において係合板は、板体自体のみからなるものに加えて、板体に摺動板（滑り板）を取り付けたものをも包摂し、板体に摺動板を取り付けてなる係合板の場合には、一方の面は摺動板の面からなる。
【００１０】
本発明の第二の態様のカム装置では、第一の態様のカム装置において、係合板は、カムドライバの滑り面から突出しないようにして凹所に装着されている。
【００１１】
第二の態様のカム装置によれば、カムドライバの滑り面を有効に利用できる結果、小型化が可能となる。
【００１２】
凹所は、好ましくは本発明の第三の態様のカム装置のように、カムドライバの滑り面において開口しているが、本発明はこれに限定されずカムドライバの滑り面において閉塞していてもよく、この場合には係合板をカムドライバの側面から凹所に挿入して装着するとよい。
【００１３】
係合板は、摺動面となるその一方の面の加工後に、カムドライバに溶接等により固着されてもよいが、好ましくは、本発明の第四の態様のカム装置のように、カムドライバの滑り面側から挿入されたボルトにより凹所においてカムドライバに固着されている。
【００１４】
第四の態様のカム装置によれば、係合板の凹所におけるカムドライバへの固着は勿論のこと、係合板の凹所からの取り外しも簡単にでき、而して、係合板の一方の面の再研削、再研磨等の再調整加工を容易に行うことができる。
【００１５】
本発明の第五の態様のカム装置のように、カムドライバ基台は下型であっても、これに代えて上型であってもよいが、カムドライバ基台が下型である場合には、カムスライドは上型から吊り下げられていてもよく、カムドライバ基台が上型である場合には、カムスライドは下型に載置されていてもよい。前者の場合には、吊りカムタイプのカム装置となり、後者の場合には、下置きタイプのカム装置となる。
【００１６】
本発明では、その第六の態様のカム装置のように、カムスライドは、カムドライバの滑り面に沿う移動方向に対して直交する方向に長く伸びていると共にカムドライバの滑り面に沿う移動方向の前方に工具取付面を具備しており、工具取付面は、加工すべきワークの部位の形状に対応してカムスライドの移動方向に関して前後に配された複数の面を有していてもよい。
【００１７】
第六の態様のカム装置によれば、工具取付面が加工すべきワークの部位の形状に対応してカムスライドの移動方向に関して前後に配された複数の面を有しているために、工具の刃先と工具取付面との距離を離れさせないようにでき、而して、加工すべきワークの部位の形状に対応して工具を支持できて、加工中における工具の撓み、工具の早期の破損を惹起させないで、予め決めた加工を長期に亘って正確に施すことができる。
【発明の効果】
【００１８】
本発明によれば、上型又は下型とカムドライバとが一体鋳造品からなる場合でも、強制戻し機構を簡単に形成できるカム装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【００１９】
【図１】図１は本発明の好ましい一実施例の断面図である。
【図２】図２は図１に示す例の一部の正面断面図である。
【図３】図３は本発明の好ましい一実施例の側面図である。
【図４】図４は本発明の好ましい一実施例の分解斜視図である。
【図５】図５は本発明の好ましい一実施例の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【００２０】
次に図を参照して本発明及びその実施例を更に詳細に説明する。なお、本発明はこの例に何等限定されないのである。
【実施例】
【００２１】
図１から図４において、本例の吊りカムタイプのカム装置１は、下型であるカムドライバ基台２と、カムドライバ基台２と共に鋳造等により一体形成されていると共に滑り面３を上面に有したカムドライバ４と、カムドライバ４の滑り面３に移動自在に接触するように、当該滑り面３と相補的な形状の滑り面５を有しており、移動方向、すなわちＸ方向に対して直交する方向、すなわちＹ方向に長く伸びているカムスライド６と、カムスライド６の滑り面５とカムドライバ４の滑り面３との当接により、カムドライバ４の滑り面３に案内されてカムスライド６がＸ方向に移動し得るように、当該カムスライド６をＸ方向に移動自在に支持する支持機構７と、カムスライド６を初期位置に復帰させる複数の復帰機構８と、カムスライド６の初期位置への戻し動作を強制的に行わせる強制戻し機構９とを備えている。
【００２２】
カムドライバ４は、カムスライド６と同様にＹ方向に長く伸びており、その上面には傾斜した滑り面３を有している。
【００２３】
カムスライド６は、Ｙ方向において長尺のカムスライド本体２１と、カムスライド本体２１の傾斜した下面２２にボルト２３により取り付けられていると共に下面に滑り面５を有した摺動板２４と、ボルト２５によりカムスライド本体２１の長手方向の両端面における凸部面２６の夫々に固着された摺動板２７と、カムスライド本体２１の傾斜した上面２８にボルト２９により取り付けられていると共に上面に滑り面３０を有した摺動板３１と、Ｘ方向の前方に工具取付面３２とを具備しており、カムスライド本体２１は、その上部にＹ方向に並んで配された複数の貫通孔５０を有している。
【００２４】
工具３３及び３４を取り付ける工具取付面３２は、一対の前方面３５と、前方面３５よりもＸ方向に関して後方に位置していると共にＸ方向に対して直交するＹ方向に前方面３５に並んで配された後方面３６とを有しており、平坦面である前方面３５は、工具取付面３２においてＸ方向に対して直交するＹ方向の両端に配されており、後方面３６よりも高い高さｈ１、即ち、後方面３６の高さをｈ２とすると、ｈ２より高い高さｈ１を有しており、平坦面である後方面３６は、工具取付面３２において両端の一対の前方面３５の間に配されており、こうして、工具取付面３２は、ワークＷの加工すべき部位である円弧状の凸に湾曲した縁部３７の形状に対応してカムスライド６の移動方向であるＸ方向に関して前後に配された複数の面、即ち一対の前方面３５と後方面３６とを有している。
【００２５】
支持機構７は、Ｙ方向において長尺の上型である上型本体４１と、カムスライド６の長手方向の両端部をＸ方向に移動自在に支持するカムスライド支持部材４２とを具備している。
【００２６】
油圧ラムに連結されていると共に油圧ラムの作動により上下動される上型である上型本体４１は、その下面に凹所４５を有しており、凹所４５にカムスライド本体２１の上部が配されており、凹所４５において、上型本体４１は、各摺動板２７の側面が摺動自在に接触する摺動側面４６と、摺動板３１の滑り面３０が摺動自在に接触する摺動底面４７と、カムスライド本体２１の上部前面に対面する前面４８と、カムスライド本体２１の上部後面に対面する後面４９とを有している。
【００２７】
各カムスライド支持部材４２は、ボルト５５により上型本体４１に固着されており、その上面にカムスライド本体２１の長手方向の両端部（突出部）の下面５６が摺動自在に接触しており、こうして、カムスライド本体２１は、各カムスライド支持部材４２を介して上型本体４１から吊り下げられている。
【００２８】
カムスライド６を初期位置に復帰させる各復帰機構８は、貫通孔５０においてカムスライド本体２１に並置されて嵌着された一対のブッシュ７１を貫通して配されたロッド７２と、弾性手段としてのコイルばね７３とを具備しており、ロッド７２は、円柱状のロッド本体７４と、ロッド本体７４の一端にボルト７５により固着された鍔部材７６と、ロッド本体７４の他端に一体的に形成された鍔部７７とを具備して、前面４８と後面４９との間に配されており、コイルばね７３は、一端では鍔部材７６に、他端ではカムスライド本体２１の凹所７８においてカムスライド本体２１に当接して配されている。
【００２９】
復帰機構８は、油圧ラムの作動による上型本体４１の下降で、図１及び図３に示すように、カムドライバ４によりカムスライド６がＸ方向に移動された後に、油圧ラムの逆作動により上型本体４１が上昇される際に、カムスライド６をコイルばね７３の弾性力によりＸ方向に移動させて、図５に示す初期位置にカムスライド６を復帰させるようになっている。
【００３０】
強制戻し機構９は、カムドライバ４のＹ方向の両端部に設けられていると共に滑り面３において開口している略矩形の凹所８０と、各凹所８０に装着されていると共にカムドライバ４の各側面８５から突出した部位８７を有する係合板８６と、部位８７の一方の面である下面８８に摺動係合する鉤部８３を有してカムスライド本体２１の各側面８１にボルト８２により固着されて取り付けられた断面Ｌ形の鉤部材８９とを具備している。凹所８０のＹ方向の角部９５は円弧形状となっており、これに対応して係合板８６の部位８７と反対側の部位の角部９６はＣ面取り形状となっている。
【００３１】
鉤部材８９の鉤部８３が係合する係合板８６の下面８８は、カムドライバ４の滑り面３に沿うカムスライド６の移動の方向、即ちＸ方向と実質的に平行な方向に伸びており、係合板８６は、カムドライバ４の滑り面３から突出しないようにして凹所８０に装着されていると共にカムドライバ４の滑り面３側から挿入されたボルト８４により凹所８０においてカムドライバ４に固着されている。
【００３２】
強制戻し機構９は、油圧ラムの作動による上型本体４１の下降で、図１及び図３に示すように、カムドライバ４によりカムスライド６がＸ方向に移動された際に、鉤部材８９の鉤部８３が係合板８６の下面８８に係合するようになっており、油圧ラムの逆作動により上型本体４１が上昇される際に、鉤部８３の下面８８への摺動係合とカムスライド６の上昇とにより、鉤部８３の下面８８への摺動係合を解除させるようにカムスライド６をＸ方向に移動させ、而して、カムスライド６の初期位置への戻し動作を強制的に行わせるようになっている。
【００３３】
以上のカム装置１では、図５に示す初期位置にカムスライド６が復帰された状態で油圧ラムが作動されて上型本体４１が下降されると、カムスライド６は、その滑り面５のカムドライバ４の滑り面３への当接により、図１及び図３に示すようにＸ方向に移動され、而して、カムスライド本体２１の工具取付面３２の前方面３５と後方面３６とにボルト９１により取り付けられた工具３３及び３４で、例えばワークＷの縁部３７に折り曲げの加工を施すようになっている。折り曲げの加工後、油圧ラムが逆作動されて、上型本体４１が上昇されると、カムスライド６は、強制戻し機構９及び各復帰機構８によりＸ方向に移動されつつ上昇される結果、その滑り面５のカムドライバ４の滑り面３への当接が解除され、図５に示すように初期位置に復帰される。
【００３４】
ところで、カム装置１では、強制戻し機構９の係合板８６がカムドライバ４と別体であってカムドライバ４に設けられた凹所８０に装着されているために、係合板８６の凹所８０への装着前に係合板８６の下面８８に対する研削、研磨等の加工作業を行うことができ、而して、カムドライバ基台２とカムドライバ４とが一体鋳造品からなる場合でも、強制戻し機構９を簡単に形成でき、また係合板８６がカムドライバ４の滑り面３から突出しないようにして凹所８０に装着されているために、カムドライバ４の滑り面３を有効に利用できる結果、小型化が可能となり、更に、係合板８６がカムドライバ４の滑り面３側から挿入されたボルト８４により凹所８０においてカムドライバ４に固着されているために、係合板８６の凹所８０におけるカムドライバ４への固着は勿論のこと、係合板８６の凹所８０からの取り外しも簡単にでき、而して、係合板８６の下面８８の再研削、再研磨等の再調整加工を容易に行うことができる。
【００３５】
その上、カム装置１では、工具取付面３２がワークＷの加工すべき縁部３７の形状に対応してカムスライド６の移動方向であるＸ方向に関して前後に配された前方面３５と後方面３６とを有しているために、工具３３の刃先９２と工具取付面３２の前方面３５との距離を離れさせないようにでき、換言すれば、工具３３の基部９３と刃先９２までの長さＬを長くする必要がなく、而して、ワークＷの加工すべき縁部３７の形状に対応して工具３３を支持できて、加工中における工具３３の撓み、工具３３の早期の破損を惹起させないで、予め決めた加工を長期に亘って正確に施すことができる。
【００３６】
また、カム装置１によれば、工具３３の刃先９２と工具取付面３２の前方面３５との距離と、工具３４の刃先９２と工具取付面３２の後方面３６との距離とを同じようにでき、工具３３の刃先９２と工具取付面３２との距離が極端に大きくなるようなことをなくし得、加工中における工具３３の撓み、工具３３の早期の破損を惹起させないようにできる。
【００３７】
ところで、ワークＷにおいて円弧状の凹に湾曲した縁部３７を加工する場合には、上記の例に代えて、後方面３６を工具取付面３２においてＹ方向の両端に配し、前方面３５を工具取付面３２において両端の後方面３６の間に配してもよく、また、カムスライド６をカムドライバ基台２に移動自在に載置し、カムドライバ４を上型本体４１に固定して下置きタイプのカム装置としてもよい。
【符号の説明】
【００３８】
１ カム装置
３、５ 滑り面
４ カムドライバ
６ カムスライド
【技術分野】
【０００１】
本発明は、カムドライバによりカムスライドを摺動させて、カムスライドに装着された工具により薄板等のワーク（被加工物）に孔あけ、折り曲げ等の加工を施すカム装置に関する。
【背景技術】
【０００２】
カム装置は、通常、上型又は下型に固定的に支持されるようになっているカムドライバと、カムドライバの滑り面に移動自在に接触するように当該滑り面と相補的な形状の滑り面を有していると共に下型又は上型に移動自在に支持されたカムスライドとを具備しており、カムスライドの滑り面とカムドライバの滑り面との当接により、カムドライバの滑り面に案内されてカムスライドが移動するようになっている。
【０００３】
斯かるカム装置においては、ワークへの加工後にカムスライドを初期位置に復帰させる復帰機構と、カムスライドの初期位置への戻し動作を強制的に行わせる強制戻し機構とが設けられるが、この強制戻し機構は、一般に、カムドライバに一体的に形成された係合部と、カムドライバの滑り面に沿うカムスライドの移動で係合部の一方の面に摺動係合するようにカムスライドに設けられた係合部材とを具備している。
【０００４】
ところで、上型又は下型に対して別体であってボルト等により上型又は下型に取り付けられるようになっているカムドライバでは、カムスライドの係合部材が摺動係合するカムドライバの係合部の一方の面に対する研削、研磨等の加工は、カムドライバの上型又は下型への取り付け前に行うことができる結果、それ程困難でなく比較的容易であるが、上型又は下型と共に一体形成されたカムドライバでは、換言すれば、上型又は下型とカムドライバとが一体鋳造品からなる場合には、斯かる係合部の一方の面に対する研削、研磨等の加工は極めて困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００５】
【特許文献１】特開２０００−２１８３２０号公報
【特許文献２】特開２００１−１１３３２６号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００６】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、上型又は下型とカムドライバとが一体鋳造品からなる場合でも、強制戻し機構を簡単に形成できるカム装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【０００７】
本発明の第一の態様のカム装置は、カムドライバ基台と、このカムドライバ基台と共に一体形成されていると共に滑り面を有するカムドライバと、このカムドライバの滑り面に移動自在に接触するように当該滑り面と相補的な形状の滑り面を有しているカムスライドと、カムスライドを初期位置に復帰させる復帰機構と、カムスライドの初期位置への戻し動作を強制的に行わせる強制戻し機構とを具備しており、ここで、強制戻し機構は、カムドライバに設けられた凹所と、この凹所に装着されていると共にカムドライバの側面から突出した部位を有する係合板と、この係合板のカムドライバの側面から突出した部位の一方の面に摺動係合する鉤部を有してカムスライドの側面に取り付けられた鉤部材とを具備しており、鉤部材の鉤部が係合する係合板の一方の面は、カムドライバの滑り面に沿うカムスライドの移動の方向と実質的に平行な方向に伸びている。
【０００８】
第一の態様のカム装置では、強制戻し機構の係合板がカムドライバと別体であってカムドライバに設けられた凹所に装着されているために、凹所への装着前に係合板の一方の面に対する研削、研磨等の加工作業を行うことができ、而して、上型又は下型とカムドライバとが一体鋳造品からなる場合でも、強制戻し機構を簡単に形成できる。
【０００９】
本発明において係合板は、板体自体のみからなるものに加えて、板体に摺動板（滑り板）を取り付けたものをも包摂し、板体に摺動板を取り付けてなる係合板の場合には、一方の面は摺動板の面からなる。
【００１０】
本発明の第二の態様のカム装置では、第一の態様のカム装置において、係合板は、カムドライバの滑り面から突出しないようにして凹所に装着されている。
【００１１】
第二の態様のカム装置によれば、カムドライバの滑り面を有効に利用できる結果、小型化が可能となる。
【００１２】
凹所は、好ましくは本発明の第三の態様のカム装置のように、カムドライバの滑り面において開口しているが、本発明はこれに限定されずカムドライバの滑り面において閉塞していてもよく、この場合には係合板をカムドライバの側面から凹所に挿入して装着するとよい。
【００１３】
係合板は、摺動面となるその一方の面の加工後に、カムドライバに溶接等により固着されてもよいが、好ましくは、本発明の第四の態様のカム装置のように、カムドライバの滑り面側から挿入されたボルトにより凹所においてカムドライバに固着されている。
【００１４】
第四の態様のカム装置によれば、係合板の凹所におけるカムドライバへの固着は勿論のこと、係合板の凹所からの取り外しも簡単にでき、而して、係合板の一方の面の再研削、再研磨等の再調整加工を容易に行うことができる。
【００１５】
本発明の第五の態様のカム装置のように、カムドライバ基台は下型であっても、これに代えて上型であってもよいが、カムドライバ基台が下型である場合には、カムスライドは上型から吊り下げられていてもよく、カムドライバ基台が上型である場合には、カムスライドは下型に載置されていてもよい。前者の場合には、吊りカムタイプのカム装置となり、後者の場合には、下置きタイプのカム装置となる。
【００１６】
本発明では、その第六の態様のカム装置のように、カムスライドは、カムドライバの滑り面に沿う移動方向に対して直交する方向に長く伸びていると共にカムドライバの滑り面に沿う移動方向の前方に工具取付面を具備しており、工具取付面は、加工すべきワークの部位の形状に対応してカムスライドの移動方向に関して前後に配された複数の面を有していてもよい。
【００１７】
第六の態様のカム装置によれば、工具取付面が加工すべきワークの部位の形状に対応してカムスライドの移動方向に関して前後に配された複数の面を有しているために、工具の刃先と工具取付面との距離を離れさせないようにでき、而して、加工すべきワークの部位の形状に対応して工具を支持できて、加工中における工具の撓み、工具の早期の破損を惹起させないで、予め決めた加工を長期に亘って正確に施すことができる。
【発明の効果】
【００１８】
本発明によれば、上型又は下型とカムドライバとが一体鋳造品からなる場合でも、強制戻し機構を簡単に形成できるカム装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【００１９】
【図１】図１は本発明の好ましい一実施例の断面図である。
【図２】図２は図１に示す例の一部の正面断面図である。
【図３】図３は本発明の好ましい一実施例の側面図である。
【図４】図４は本発明の好ましい一実施例の分解斜視図である。
【図５】図５は本発明の好ましい一実施例の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【００２０】
次に図を参照して本発明及びその実施例を更に詳細に説明する。なお、本発明はこの例に何等限定されないのである。
【実施例】
【００２１】
図１から図４において、本例の吊りカムタイプのカム装置１は、下型であるカムドライバ基台２と、カムドライバ基台２と共に鋳造等により一体形成されていると共に滑り面３を上面に有したカムドライバ４と、カムドライバ４の滑り面３に移動自在に接触するように、当該滑り面３と相補的な形状の滑り面５を有しており、移動方向、すなわちＸ方向に対して直交する方向、すなわちＹ方向に長く伸びているカムスライド６と、カムスライド６の滑り面５とカムドライバ４の滑り面３との当接により、カムドライバ４の滑り面３に案内されてカムスライド６がＸ方向に移動し得るように、当該カムスライド６をＸ方向に移動自在に支持する支持機構７と、カムスライド６を初期位置に復帰させる複数の復帰機構８と、カムスライド６の初期位置への戻し動作を強制的に行わせる強制戻し機構９とを備えている。
【００２２】
カムドライバ４は、カムスライド６と同様にＹ方向に長く伸びており、その上面には傾斜した滑り面３を有している。
【００２３】
カムスライド６は、Ｙ方向において長尺のカムスライド本体２１と、カムスライド本体２１の傾斜した下面２２にボルト２３により取り付けられていると共に下面に滑り面５を有した摺動板２４と、ボルト２５によりカムスライド本体２１の長手方向の両端面における凸部面２６の夫々に固着された摺動板２７と、カムスライド本体２１の傾斜した上面２８にボルト２９により取り付けられていると共に上面に滑り面３０を有した摺動板３１と、Ｘ方向の前方に工具取付面３２とを具備しており、カムスライド本体２１は、その上部にＹ方向に並んで配された複数の貫通孔５０を有している。
【００２４】
工具３３及び３４を取り付ける工具取付面３２は、一対の前方面３５と、前方面３５よりもＸ方向に関して後方に位置していると共にＸ方向に対して直交するＹ方向に前方面３５に並んで配された後方面３６とを有しており、平坦面である前方面３５は、工具取付面３２においてＸ方向に対して直交するＹ方向の両端に配されており、後方面３６よりも高い高さｈ１、即ち、後方面３６の高さをｈ２とすると、ｈ２より高い高さｈ１を有しており、平坦面である後方面３６は、工具取付面３２において両端の一対の前方面３５の間に配されており、こうして、工具取付面３２は、ワークＷの加工すべき部位である円弧状の凸に湾曲した縁部３７の形状に対応してカムスライド６の移動方向であるＸ方向に関して前後に配された複数の面、即ち一対の前方面３５と後方面３６とを有している。
【００２５】
支持機構７は、Ｙ方向において長尺の上型である上型本体４１と、カムスライド６の長手方向の両端部をＸ方向に移動自在に支持するカムスライド支持部材４２とを具備している。
【００２６】
油圧ラムに連結されていると共に油圧ラムの作動により上下動される上型である上型本体４１は、その下面に凹所４５を有しており、凹所４５にカムスライド本体２１の上部が配されており、凹所４５において、上型本体４１は、各摺動板２７の側面が摺動自在に接触する摺動側面４６と、摺動板３１の滑り面３０が摺動自在に接触する摺動底面４７と、カムスライド本体２１の上部前面に対面する前面４８と、カムスライド本体２１の上部後面に対面する後面４９とを有している。
【００２７】
各カムスライド支持部材４２は、ボルト５５により上型本体４１に固着されており、その上面にカムスライド本体２１の長手方向の両端部（突出部）の下面５６が摺動自在に接触しており、こうして、カムスライド本体２１は、各カムスライド支持部材４２を介して上型本体４１から吊り下げられている。
【００２８】
カムスライド６を初期位置に復帰させる各復帰機構８は、貫通孔５０においてカムスライド本体２１に並置されて嵌着された一対のブッシュ７１を貫通して配されたロッド７２と、弾性手段としてのコイルばね７３とを具備しており、ロッド７２は、円柱状のロッド本体７４と、ロッド本体７４の一端にボルト７５により固着された鍔部材７６と、ロッド本体７４の他端に一体的に形成された鍔部７７とを具備して、前面４８と後面４９との間に配されており、コイルばね７３は、一端では鍔部材７６に、他端ではカムスライド本体２１の凹所７８においてカムスライド本体２１に当接して配されている。
【００２９】
復帰機構８は、油圧ラムの作動による上型本体４１の下降で、図１及び図３に示すように、カムドライバ４によりカムスライド６がＸ方向に移動された後に、油圧ラムの逆作動により上型本体４１が上昇される際に、カムスライド６をコイルばね７３の弾性力によりＸ方向に移動させて、図５に示す初期位置にカムスライド６を復帰させるようになっている。
【００３０】
強制戻し機構９は、カムドライバ４のＹ方向の両端部に設けられていると共に滑り面３において開口している略矩形の凹所８０と、各凹所８０に装着されていると共にカムドライバ４の各側面８５から突出した部位８７を有する係合板８６と、部位８７の一方の面である下面８８に摺動係合する鉤部８３を有してカムスライド本体２１の各側面８１にボルト８２により固着されて取り付けられた断面Ｌ形の鉤部材８９とを具備している。凹所８０のＹ方向の角部９５は円弧形状となっており、これに対応して係合板８６の部位８７と反対側の部位の角部９６はＣ面取り形状となっている。
【００３１】
鉤部材８９の鉤部８３が係合する係合板８６の下面８８は、カムドライバ４の滑り面３に沿うカムスライド６の移動の方向、即ちＸ方向と実質的に平行な方向に伸びており、係合板８６は、カムドライバ４の滑り面３から突出しないようにして凹所８０に装着されていると共にカムドライバ４の滑り面３側から挿入されたボルト８４により凹所８０においてカムドライバ４に固着されている。
【００３２】
強制戻し機構９は、油圧ラムの作動による上型本体４１の下降で、図１及び図３に示すように、カムドライバ４によりカムスライド６がＸ方向に移動された際に、鉤部材８９の鉤部８３が係合板８６の下面８８に係合するようになっており、油圧ラムの逆作動により上型本体４１が上昇される際に、鉤部８３の下面８８への摺動係合とカムスライド６の上昇とにより、鉤部８３の下面８８への摺動係合を解除させるようにカムスライド６をＸ方向に移動させ、而して、カムスライド６の初期位置への戻し動作を強制的に行わせるようになっている。
【００３３】
以上のカム装置１では、図５に示す初期位置にカムスライド６が復帰された状態で油圧ラムが作動されて上型本体４１が下降されると、カムスライド６は、その滑り面５のカムドライバ４の滑り面３への当接により、図１及び図３に示すようにＸ方向に移動され、而して、カムスライド本体２１の工具取付面３２の前方面３５と後方面３６とにボルト９１により取り付けられた工具３３及び３４で、例えばワークＷの縁部３７に折り曲げの加工を施すようになっている。折り曲げの加工後、油圧ラムが逆作動されて、上型本体４１が上昇されると、カムスライド６は、強制戻し機構９及び各復帰機構８によりＸ方向に移動されつつ上昇される結果、その滑り面５のカムドライバ４の滑り面３への当接が解除され、図５に示すように初期位置に復帰される。
【００３４】
ところで、カム装置１では、強制戻し機構９の係合板８６がカムドライバ４と別体であってカムドライバ４に設けられた凹所８０に装着されているために、係合板８６の凹所８０への装着前に係合板８６の下面８８に対する研削、研磨等の加工作業を行うことができ、而して、カムドライバ基台２とカムドライバ４とが一体鋳造品からなる場合でも、強制戻し機構９を簡単に形成でき、また係合板８６がカムドライバ４の滑り面３から突出しないようにして凹所８０に装着されているために、カムドライバ４の滑り面３を有効に利用できる結果、小型化が可能となり、更に、係合板８６がカムドライバ４の滑り面３側から挿入されたボルト８４により凹所８０においてカムドライバ４に固着されているために、係合板８６の凹所８０におけるカムドライバ４への固着は勿論のこと、係合板８６の凹所８０からの取り外しも簡単にでき、而して、係合板８６の下面８８の再研削、再研磨等の再調整加工を容易に行うことができる。
【００３５】
その上、カム装置１では、工具取付面３２がワークＷの加工すべき縁部３７の形状に対応してカムスライド６の移動方向であるＸ方向に関して前後に配された前方面３５と後方面３６とを有しているために、工具３３の刃先９２と工具取付面３２の前方面３５との距離を離れさせないようにでき、換言すれば、工具３３の基部９３と刃先９２までの長さＬを長くする必要がなく、而して、ワークＷの加工すべき縁部３７の形状に対応して工具３３を支持できて、加工中における工具３３の撓み、工具３３の早期の破損を惹起させないで、予め決めた加工を長期に亘って正確に施すことができる。
【００３６】
また、カム装置１によれば、工具３３の刃先９２と工具取付面３２の前方面３５との距離と、工具３４の刃先９２と工具取付面３２の後方面３６との距離とを同じようにでき、工具３３の刃先９２と工具取付面３２との距離が極端に大きくなるようなことをなくし得、加工中における工具３３の撓み、工具３３の早期の破損を惹起させないようにできる。
【００３７】
ところで、ワークＷにおいて円弧状の凹に湾曲した縁部３７を加工する場合には、上記の例に代えて、後方面３６を工具取付面３２においてＹ方向の両端に配し、前方面３５を工具取付面３２において両端の後方面３６の間に配してもよく、また、カムスライド６をカムドライバ基台２に移動自在に載置し、カムドライバ４を上型本体４１に固定して下置きタイプのカム装置としてもよい。
【符号の説明】
【００３８】
１ カム装置
３、５ 滑り面
４ カムドライバ
６ カムスライド
【特許請求の範囲】
【請求項１】
カムドライバ基台と、このカムドライバ基台と共に一体形成されていると共に滑り面を有するカムドライバと、このカムドライバの滑り面に移動自在に接触するように当該滑り面と相補的な形状の滑り面を有しているカムスライドと、カムスライドを初期位置に復帰させる復帰機構と、カムスライドの初期位置への戻し動作を強制的に行わせる強制戻し機構とを具備しており、強制戻し機構は、カムドライバに設けられた凹所と、この凹所に装着されていると共にカムドライバの側面から突出した部位を有する係合板と、この係合板のカムドライバの側面から突出した部位の一方の面に摺動係合する鉤部を有してカムスライドの側面に取り付けられた鉤部材とを具備しており、鉤部材の鉤部が係合する係合板の一方の面は、カムドライバの滑り面に沿うカムスライドの移動の方向と実質的に平行な方向に伸びているカム装置。
【請求項２】
係合板は、カムドライバの滑り面から突出しないようにして凹所に装着されている請求項１に記載のカム装置。
【請求項３】
凹所は、カムドライバの滑り面において開口している請求項１又は２に記載のカム装置。
【請求項４】
係合板は、カムドライバの滑り面側から挿入されたボルトにより凹所においてカムドライバに固着されている請求項１から３のいずれか一項に記載のカム装置。
【請求項５】
カムドライバ基台は下型又は上型である請求項１から４のいずれか一項に記載のカム装置。
【請求項６】
カムスライドは、カムドライバの滑り面に沿う移動方向に対して直交する方向に長く伸びていると共にカムドライバの滑り面に沿う移動方向の前方に工具取付面を具備しており、工具取付面は、加工すべきワークの部位の形状に対応してカムスライドの移動方向に関して前後に配された複数の面を有している請求項１から５のいずれか一項に記載のカム装置。
【請求項１】
カムドライバ基台と、このカムドライバ基台と共に一体形成されていると共に滑り面を有するカムドライバと、このカムドライバの滑り面に移動自在に接触するように当該滑り面と相補的な形状の滑り面を有しているカムスライドと、カムスライドを初期位置に復帰させる復帰機構と、カムスライドの初期位置への戻し動作を強制的に行わせる強制戻し機構とを具備しており、強制戻し機構は、カムドライバに設けられた凹所と、この凹所に装着されていると共にカムドライバの側面から突出した部位を有する係合板と、この係合板のカムドライバの側面から突出した部位の一方の面に摺動係合する鉤部を有してカムスライドの側面に取り付けられた鉤部材とを具備しており、鉤部材の鉤部が係合する係合板の一方の面は、カムドライバの滑り面に沿うカムスライドの移動の方向と実質的に平行な方向に伸びているカム装置。
【請求項２】
係合板は、カムドライバの滑り面から突出しないようにして凹所に装着されている請求項１に記載のカム装置。
【請求項３】
凹所は、カムドライバの滑り面において開口している請求項１又は２に記載のカム装置。
【請求項４】
係合板は、カムドライバの滑り面側から挿入されたボルトにより凹所においてカムドライバに固着されている請求項１から３のいずれか一項に記載のカム装置。
【請求項５】
カムドライバ基台は下型又は上型である請求項１から４のいずれか一項に記載のカム装置。
【請求項６】
カムスライドは、カムドライバの滑り面に沿う移動方向に対して直交する方向に長く伸びていると共にカムドライバの滑り面に沿う移動方向の前方に工具取付面を具備しており、工具取付面は、加工すべきワークの部位の形状に対応してカムスライドの移動方向に関して前後に配された複数の面を有している請求項１から５のいずれか一項に記載のカム装置。
【図１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【公開番号】特開２０１０−９４７４２（Ｐ２０１０−９４７４２Ａ）
【公開日】平成２２年４月３０日（２０１０．４．３０）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２０１０−２０７５６（Ｐ２０１０−２０７５６）
【出願日】平成２２年２月１日（２０１０．２．１）
【分割の表示】特願２００３−２８２４９２（Ｐ２００３−２８２４９２）の分割
【原出願日】平成１５年７月３０日（２００３．７．３０）
【出願人】（０００１０３６４４）オイレス工業株式会社 (384)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２２年４月３０日（２０１０．４．３０）
【国際特許分類】
【出願日】平成２２年２月１日（２０１０．２．１）
【分割の表示】特願２００３−２８２４９２（Ｐ２００３−２８２４９２）の分割
【原出願日】平成１５年７月３０日（２００３．７．３０）
【出願人】（０００１０３６４４）オイレス工業株式会社 (384)
【Ｆターム（参考）】
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