説明

カメラ用シャッタ装置

【課題】流し撮りに際して設定される露光時間の長さに比して、より高い流し撮り撮影の効果が得られるようにする。
【解決手段】フォーカルプレンシャッタ200は、エレクトロクロミック素子で構成される。矩形状の複数セグメント206が二次元配列されていて、それらの遮光・透光状態を独立して制御可能に構成される。これらのセグメント206の遮光・透光状態を制御することにより、フォーカルプレンシャッタの露光用開口としてのスリットを形成する。撮影者による流し撮り操作の方向に応じてスリットの走行方向を決定し、シャッタの開閉動作を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカメラ用シャッタ装置に関し、さらに詳しくは、撮影レンズと、この撮影レンズの結像面との間における結像面近傍に配設されるフォーカルプレンシャッタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スチルカメラには、レンズシャッタまたはフォーカルプレンシャッタが一般的に用いられる。フォーカルプレンシャッタは一眼レフレックスカメラやレンズ交換式レンジファインダカメラなどに用いられる。このフォーカルプレンシャッタでは、先幕および後幕からなる二つの遮光幕を撮像素子やフィルムの直前を横切るように走行させている。そして、その際に先幕と後幕とで走行開始タイミングをずらすことにより、撮像素子やフィルムを露光することが可能となる。すなわち、先幕の走行開始に伴って撮像素子やフィルムへの露光が始まり、後幕の走行開始に伴って上記露光が終わる。このとき、先幕および後幕の走行開始タイミングのずれ量を制御することにより、所望の露光時間を得ることができる。露光時間が比較的長め(これは一般的に「シャッタ速度が遅い」と称される)の場合、先幕の走行が完了してシャッタが全開し、所定時間が経過すると後幕の走行が始まり、露光が終わる。一方、露光時間が比較的短め(これは一般的に「シャッタ速度が速い」と称される)の場合、先幕の走行が完了する前に後幕の走行が始まる。よって、あたかも所定の幅を有するスリット状の開口が撮像素子やフィルムの面にそって動いたかのように露光動作が行われる。そのような機能を実現するフォーカルプレンシャッタとして、例えば特許文献1に示されるようなものが知られている。
【0003】
ところで、動体をスチル撮影する際の写真表現技法として、いわゆる流し撮りの技法が知られている。流し撮りは、撮影動作中に撮影者が主要被写体の移動方向に沿ってカメラを振り、移動中の主要被写体が常に撮影画面内の所定位置に位置するようにしながらシャッタを開閉させて露光する技術である。流し撮りによって得られた画像は、主要被写体の像が明瞭に写る一方で背景がブレによって流れるように写る。その結果、主要被写体の動きが強調された動感あふれる画像を得ることができる。
【特許文献1】特開2004−325553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した流し撮りを行う際に、露光時間を長めに設定することが、より動感にあふれる画像を得る上で望ましい。露光時間が短いと、主要被写体のみならず、背景も流れずに写ってしまい、結果として主題を強調した写真が得られないからである。
【0005】
ところが、露光時間を長めに設定すると、肝心の主要被写体の像もぶれて写ることがあり、結果として望ましい画像を得られないことがあった。本発明は上述した課題に鑑み、流し撮り撮影時に設定される露光時間の長さに比して、背景がより流れて写るようにすることが可能なシャッタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、撮影レンズと当該撮影レンズの結像面との間における前記結像面近傍に配設されるフォーカルプレン式のシャッタ装置に適用され、
露光用の開口として形成されるスリット部を、前記結像面に略平行な平面内において複数の方向に移動可能に構成されることにより、上述した課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、撮影者による流し撮り操作方向、すなわち流し撮りに際してカメラを振る方向に対応した方向に応じてスリットの移動方向を設定することができるので、設定された露光時間に比してより大きな流し撮りの効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、流し撮り撮影によって得られる画像の一例である画像Iを示す図である。図1に示す例では、向かって左から右に移動中の自動車の像Cがとらえられている。この画像Iを得るために、撮影者はカメラを向かって左から右に振って、主要被写体としての自動車が撮影画面内の所定位置(図1の例では画面内のほぼ中央)に固定されるようにして撮影する。従って、背景は画面内の向かって右側から左側に向かって流れる。
【0009】
図2は、本発明の実施の形態に係るフォーカルプレンシャッタ200の概略的構成を示す図であり、図2(a)はフォーカルプレンシャッタ200の外観斜視図を、図2(b)は正面図を示す。本発明の実施の形態に係るフォーカルプレンシャッタ200は、遮光幕として、EC素子(エレクトロクロミック素子)を用いており、機械的な可動部分を有していない。ここで、EC素子は、遮光状態および透光状態を電気的に制御可能な素子である。フォーカルプレンシャッタ200は、透明基板202、204と、透明電極層と、エレクトロクロミック特性を有する物質の層とを有する。透明基板202と204は、対向しあうように配置されている。また、透明電極層は、透明基板202、204の対向しあう面上にそれぞれ形成されている。エレクトロクロミック特性を有する物質の層は、対向しあう透明電極間に形成されている。なお、透明電極、エレクトロクロミック特性を有する物質の層は図示を省略している。
【0010】
フォーカルプレンシャッタ200の遮光幕は、複数の細かな矩形状のセグメント206で構成されている。この矩形状のセグメント206は二次元状に配列されている。このような構成において、セグメント206の遮光状態および透光状態を個々に制御することにより、所望の幕速や、スリット幅を設定することが可能となる。そして、それにより所望の露光時間(シャッタ速度)を設定することが可能になっている。その結果、図2に示されるフォーカルプレンシャッタ200においても、撮影レンズの結像面に略平行な面内であたかも遮光幕が移動したかのような作用を得ることができる。なお、フォーカルプレンシャッタ200では、機械的動作部分は無いので、遮光幕そのものが動く訳ではない。しかしながら、フォーカルプレンシャッタ200では、セグメント206の遮光状態および透光状態を個々に制御することで、遮光幕が移動したかのように動作する。よって、以下 の説明では便宜的に「遮光幕が走行する」、「シャッタが開閉する」あるいは「スリットが走行する」といった表現を用いる。
【0011】
図2(b)において、フォーカルプレンシャッタ200は、その遮光幕(スリット)の走行方向を、複数の方向に設定することが可能に構成されている。複数の方向とは、例えば、図2(b)において右から左の方向、左から右、上から下、下から上、斜め左下から右上、あるいは斜め右上から左下の方向等である。枠部208は常に遮光状態にある。枠部208は、すべてのセグメント206が透光状態となったとき、すなわちフォーカルプレンシャッタ200が開放状態となったときの画郭を形成する。
【0012】
図3は、フォーカルプレンシャッタ200が開閉動作する様子の一例を示しており、図3(a)から図3(e)にはフォーカルプレンシャッタ200のスリットが図3に向かって左から右に走行する様子を示している。これらの図は、カメラ背面側から見たものとして以下の説明をする。つまり、図3(a)から図3(e)には、フォーカルプレンシャッタ200の作動する様子がカメラ背面側から見た状態で示されている。図3(f)は、撮影シーンの例を示している。図3(f)において、主要被写体としての自動車は矢印D1で向かう方向に走行している。すなわち、自動車は、撮影者から見て向かって左から右に向かって移動している。また、撮影者はこの矢印D1に沿う方向にカメラを振って流し撮りの操作をしている。このような状態で撮影が行なわれるものとして説明をする。図3(g)は、上述した状況において、撮影レンズの結像面上に形成される像をカメラ背面側から見た様子を示している。
【0013】
図3(f)を参照して説明をしたように、撮影者は、移動している主要被写体を狙って流し撮り操作をしている。この場合、撮影レンズの結像面上に形成される像をカメラ背面側から見ると、背景の像は図3(g)の向かって左から右に向かって流れている。このような撮影状況のときに、フォーカルプレンシャッタ200の遮光幕(スリット)の走行方向を上記背景の像の流れる方向と一致させて、カメラ背面側から見て向かって左から右に向かうようにする。このようにすると、撮像素子、あるいはフィルム上で背景の像の流れる(ブレる)。その結果、背景の像がより流れて写り、主題が強調された動感にあふれる画像を得ることが可能となる。
【0014】
一般に、十分な流し撮りの効果を得るためには露光時間を長めに設定することが望ましい。しかし、露光時間を長めに設定すると、主要被写体の像もブレてしまう場合がある。この点、本実施形態のフォーカルプレンシャッタ200では、背景の像の流れる方向とフォーカルプレンシャッタ200の遮光幕の走行方向を略一致させている。よって、短めの露光時間であっても流し撮りの効果を高めることができる。その結果、主要被写体のブレが少なく、流し撮りの効果が十分に発揮された画像を得ることが可能となる。
【0015】
なお、従来の機械式フォーカルプレンシャッタにおいても、遮光幕(スリット)の走行方向が左右方向(あるいは上下方向)のものがある。よって、図3の例に限れば、その効果は、機械式フォーカルプレンシャッタとかわらない。しかしながら、従来の機械式フォーカルプレンシャッタでは、遮光幕(スリット)の走行方向は1つに固定されている。一方、本実施形態のフォーカルプレンシャッタ200では、遮光幕(スリット)の走行方向を斜めにすることができる。よって、例えば、主要被写体の移動方向が斜めの場合、本実施形態のフォーカルプレンシャッタ200では、図3の場合と同様に、主要被写体の移動方向に遮光幕(スリット)の走行方向を一致させることができる。その結果、主要被写体の移動方向が斜めの場合であっても、主要被写体のブレが少なく、流し撮りの効果が十分に発揮された画像を得ることが可能となる。このような効果は、主要被写体の移動方向に関係なく、常に得ることができる。
【0016】
図4は、本発明の実施の形態に係るフォーカルプレンシャッタ200が組み込まれるカメラ400の例を示しており、背面から見た様子を示している。以下ではカメラ400がディジタルの一眼レフレックスカメラであるものとして説明をする。ただし、カメラ400は、レンジファインダ式カメラやいわゆるコンパクトカメラ等、どのような形式のカメラであってもよい。また、銀塩フィルムを用いるカメラにも、本発明の実施の形態に係るフォーカルプレンシャッタ200は適用可能である。
【0017】
カメラ400は、メニュー釦450、カーソル釦430、決定釦470、コントロールダイヤル460及びディスプレイ440を有する。ここで、メニュー釦450、カーソル釦430、決定釦470、コントロールダイヤル460は操作部材である。また、カーソル釦430は、カーソル釦430a、430b、430c、および430で構成されている。また、以下の説明で、カーソル釦430a、430b、430c、および430dを個々に区別せずに包括的に参照する場合には、単に「カーソル釦430」と称する。ディスプレイ440には、操作ガイダンスの表示やメニュー表示等をすることが可能になっている。操作ガイダンスの表示やメニュー表示例としては、撮影して得られた画像データに基づく画像の表示(再生表示)、シャッタ速度、絞り値、撮影モード、設定ISO感度等の表示等がある。操作ガイダンスの表示やメニュー表示は、上述した操作部材を撮影者が操作するのに応じて行なわれる。
【0018】
本発明の実施の形態のカメラ400では、フォーカルプレンシャッタ200の遮光幕の走行方向を設定可能となっている。この設定は、撮影者がメニュー釦450、コントロールダイヤル460、カーソル釦430を操作することによりおこなわれる。その際の操作は、一例として以下のようなものとすることが可能である。すなわち、撮影者はメニュー釦450を押しながらコントロールダイヤル460を回転させる。この操作により「シャッタ走行方向設定メニュー」を呼び出すことができる。「シャッタ走行方向設定メニュー」になると、シャッタ走行方向インジケータがディスプレイ440に表示される。そこで、撮影者は、シャッタ走行方向インジケータを見ながら所望のシャッタ走行方向を選択する。シャッタ走行方向の選択は、カーソル釦430またはコントロールダイヤル460を操作して行なう。そして、最後に決定釦470を押す。
【0019】
図3(f)に示す例の場合、撮影者から見て向かって左から右に向かって、主要被写体は移動する。この主要被写体を狙って流し撮りをしようとする場合、これに合わせてフォーカルプレンシャッタ200の遮光幕の移動方向を設定する。即ち、撮影者は、カメラ背面から見て向かって左から右に向かう水平方向となるように、遮光幕の移動方向の設定をする。その結果、図3の(a)から(e)に示されるように、フォーカルプレンシャッタ200が作動したとき、遮光幕によって形成されるスリットが、カメラ背面側から見て向かって左から右に向かう水平方向に移動する。
【0020】
なお、フォーカルプレンシャッタ200の遮光幕の移動方向を設定するにあたり、上述の例では、遮光幕の移動方向を直接的に設定した。これに代えて、設定する方向を、撮影者が流し撮り撮影をする際にカメラを振る方向、あるいは主要被写体の移動方向としてもよい。すなわち、ディスプレイ440に表示されるインジケータが、カメラを振る方向あるいは主要被写体の移動方向を示すようにしてもよい。このようにすると、遮光幕の移動方向が、カメラを振る方向あるいは主要被写体の移動方向に対応する方向に、カメラ400側で自動的に設定される。よって、撮影者が、遮光幕の移動方向を誤った方向に設定をしてしまうのを防止することができる。
【0021】
図5は、フォーカルプレンシャッタ200を制御するための構成を概略的に示すブロック図である。構成500は、シャッタ走行方向設定部520と、シャッタ速度設定部540と、シャッタ制御部510と、ドライバ530とを有する。撮影者が上述したように操作部材430、450、460、470を操作するのに応じ、シャッタ走行方向設定部520で遮光幕の移動方向が設定される。一方、シャッタ速度設定部540では、スリット部の移動速度であるシャッタ速度が設定される。そして、設定された遮光幕の移動方向と、設定されたシャッタ速度(露光時間)とに基づき、フォーカルプレンシャッタ200の開閉動作が行われる。この開閉動作は、シャッタ制御部510で制御される。シャッタ制御部510はドライバ530を介して、フォーカルプレンシャッタ200のセグメント206の遮光状態から透光状態、そして透光状態から遮光状態への切り替えを個々に制御する。
【0022】
例えば、シャッタ走行方向設定部で設定されたシャッタ走行方向が、水平線に沿う方向であった場合、図3(a)から図3(e)に示されるように、遮光幕は画面の横方向に走行するように設定される。このとき、遮光幕によって形成されるスリットの形状は縦長の形状となる。また、シャッタ走行方向設定部で設定されたシャッタ走行方向が、鉛直方向であった場合、遮光幕は画面の縦方向に走行するように設定される。このときに遮光幕によって形成されるスリットの形状は横長の形状となる。すなわち、水平線に沿う方向にスリット部の長辺が延在するように、スリット部の開口が形成される。なお、水平線に沿う方向とは、カメラを横位置に構えた状態における水平方向のことである。また、鉛直方向とは、水平線に沿う方向と直交する方向のことである。
【0023】
図5を参照して以上に説明した構成では、フォーカルプレンシャッタ200の遮光幕の移動方向を、撮影者が撮影に先立って設定するものであった。これに対し、図6および図7を参照して以下に説明する例においては、撮影者による流し撮り操作の方向(流し撮り撮影に際してカメラを振る方向)を、露光動作を開始する直前の段階で検出することが行なわれる。そして、検出された流し撮り操作の方向に基づいて、遮光幕の移動方向およびスリット部の開口形状が自動的に設定される。図6、図7に示される構成において、図5に示される構成が有するものと同様の要素には同じ符号を付してその説明を省略する。また、図5、図6、および図7に示される構成要素中、互いに類似した機能を有する要素には同じ符号を付し、その符号にアルファベットを付してある。以下、図6、図7を参照して、図5の構成との差異を中心に説明をする。
【0024】
図6は、撮影者による流し撮り操作の方向(以下、流し撮り方向とする)を手振れ検知センサ621、623で検出する場合の構成例を示すブロック図である。構成600は、レリーズスイッチ610と、シャッタ走行方向設定部520Aと、流し撮り方向検出部630と、手振れ検知センサ621、623と、シャッタ制御部510と、シャッタ速度設定部540と、ドライバ530とを有する。
【0025】
手振れ検知センサ621は手ぶれのX方向成分、すなわち撮影者がカメラを水平位置(横位置)で構えた状態で水平方向の手振れを検知するセンサである。手振れ検知センサ623は手振れのY方向成分、すなわちカメラを水平位置で構えた状態で鉛直方向の手振れを検知するセンサである。これらの手振れ検知センサ621、623としては加速度センサが利用可能である。これらの手振れ検知センサ621、623はまた、カメラ400の本体内か、カメラ400に装着される撮影レンズ内に配設される。
【0026】
次に、構成600の動作について説明する。撮影時、レリーズスイッチ610が撮影者によって押し下げられる。シャッタ走行方向設定部520Aは、レリーズスイッチ610が半押し状態(S1オン)となったことを検出する。続いて、シャッタ走行方向設定部520Aは、流し撮り方向検出部630に対して、流し撮り方向の検出を開始する指令を発する。流し撮り方向検出部630は、手振れ検知センサ621、623から出力される信号を受信する。そして、受信した信号に基づいて流し撮り方向を検出し、その検出結果をシャッタ走行方向設定部520Aとシャッタ速度設定部540に逐次出力する。
【0027】
この状態で、撮影者によってレリーズスイッチ610がさらに押し下げられると、全押し状態(S2オン)となる。全押し状態は、シャッタ走行方向設定部520Aによって検出される。全押し状態が検出されると、シャッタ走行方向設定部520Aは、流し撮り方向検出部630から得た最新の結果に基づいて、遮光幕の移動方向を自動的に設定する。シャッタ走行方向設定部520Aは、設定した遮光幕の移動方向に関する情報をシャッタ制御部510に出力する。シャッタ制御部510は入力された情報に基づいて、フォーカルプレンシャッタ200の制御を行なう。具体的には、シャッタ制御部510は、セグメント206の遮光状態から透光状態、そして透光状態から遮光状態への切り替えを個々に制御する。
【0028】
このように、構成600においては、撮影直前に検出された流し撮り方向に基づいて、遮光幕の移動方向が自動的に設定される。そのため、撮影者は、事前に遮光幕の移動方向を設定する必要がない。しかも、撮影した画像において、流し撮りの効果を最大限に高めることが可能となる。また、S字状に曲がりくねった道路上を移動する自動車を撮影する場合、流し撮りの方向がそのときどきで変化する。この場合であっても、カメラ側で遮光幕の移動方向を自動で設定するので、連続して流し撮りが行なえる。しかも、連続撮影した各画像において、流し撮りの効果を最大限に高めることが可能となる。また、撮影者が縦位置にカメラを構えて水平方向に流し撮りをするような場合においても、Y方向成分用の手振れ検知センサ623から出力される信号に基づいて流し撮り方向を検出することが可能となる。この場合、遮光幕は、画面の縦方向(画面の短辺に沿う方向)に走行し、遮光幕によって形成されるスリットの形状は図3に示す縦長状態から横長状態へと変化する。すなわち、スリット部の移動方向に略直交する方向に沿ってスリット部の長辺が延在するようにスリット部の開口が形成される。
【0029】
以上、図6を参照しての説明では手振れ検知センサ621、623を流し撮り方向検出用として兼用する構成について説明したが、流し撮り方向検出専用のセンサを別に設けるようにしてもよい。
【0030】
図7は、撮影者による流し撮り方向を、撮像素子710から出力される画像信号に画像処理を施して検出する場合の構成例を示すブロック図である。構成700は、レリーズスイッチ610と、シャッタ走行方向設定部520Bと、流し撮り方向検出部630Aと、撮像素子710と、撮像制御部720と、シャッタ制御部510と、シャッタ速度設定部540と、ドライバ530とを有する。
【0031】
撮像素子710は、カメラ400の撮影用素子を用いるものであっても、撮影用の撮像素子とは別に設けられる撮像素子を用いるものであってもよい。カメラ400がディジタルの一眼レフレックスカメラである場合、撮影用の撮像素子を流し撮り方向検出用に用いることができる。このような場合には、レフレックスミラーを上昇させた状態に維持し、フォーカルプレンシャッタ200を開放状態に維持する。すなわち、ライブビューモードでの動作が行われる。
【0032】
次に、構成700の動作について説明する。撮影時、レリーズスイッチ610が撮影者によって押し下げられる。シャッタ走行方向設定部520Bは、レリーズスイッチ610が半押し状態(S1オン)となったことを検出する。続いて、シャッタ走行方向設定部520Bは、流し撮り方向検出部630Aに対して、流し撮り方向の検出を開始する指令を発する。流し撮り方向検出部630Aは、撮像制御部720に対して画像信号を要求する。撮像制御部720は、流し撮り方向検出部630Aからの要求に基づいて、撮像素子710から出力される画像信号を流し撮り方向検出部630Aに出力する。流し撮り方向検出部630Aは、入力された画像信号から、流し撮り方向を検出する画像処理を行い、検出された流し撮り方向をシャッタ走行方向設定部520Bに出力する。また、入力された画像信号から、主要被写体の移動速度を決定する画像処理を行い、検出された主要被写体の移動速度をシャッタ速度設定部540に出力する。
【0033】
この状態で、撮影者によってレリーズスイッチ610がさらに押し下げられると、全押し状態(S2オン)となる。全押し状態は、シャッタ走行方向設定部520Aによって検出される。全押し状態が検出されると、シャッタ走行方向設定部520Bは、流し撮り方向検出部630Aから得た最新の結果に基づいて、遮光幕の移動方向および遮光幕の移動速度を自動的に設定する。シャッタ走行方向設定部520Bは、設定した遮光幕の移動方向に関する情報をシャッタ制御部510に出力する。シャッタ制御部510は入力された情報に基づいて、フォーカルプレンシャッタ200の制御を行なう。具体的には、シャッタ制御部510は、セグメント206の遮光状態から透光状態、そして透光状態から遮光状態への切り替えを個々に制御する。
【0034】
このように、構成700においては、撮影直前に検出された流し撮り方向に基づいて、遮光幕の移動方向が自動的に設定される。そのため、撮影者は事前に遮光幕の移動方向を設定する必要がない。しかも、撮影した画像において、流し撮りの効果を最大限に高めることが可能となる。このとき、流し撮りの方向やスリット移動速度が逐次変化する状況に対応可能である点や、撮影者が縦位置および横位置のうち、いずれの位置で構えていても、どのような方向に流し撮り操作をしても、これらの状況に適した方向に遮光幕を移動可能である点は図6に示される構成のものと同様である。なお、ライブビューモードでは、撮影動作開始前の段階でフォーカルプレンシャッタ200は開放状態になっている。よって、撮影動作開始寸前のタイミングでフォーカルプレンシャッタ200を一旦閉じ(全セグメント206を透光状態から遮光状態に切り替え)、その後に改めて露光動作を行う。
【0035】
以上の図7を参照しての説明は、カメラ400がディジタル一眼レフレックスカメラで、撮影用の撮像素子から出力される画像信号を用いる場合の説明であった。これは、いわばライブビューを利用した実施形態についての説明である。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、一眼レフレックスカメラではないタイプのディジタルカメラにおいても、構成600は利用可能である。この場合、シャッタを開放状態に維持して、撮影用の撮像素子から出力される画像信号を処理することで画像が得られる。この画像、いわゆるスルー画像を流し撮り方向の検出用に利用することが可能である。また、一眼レフレックスカメラのファインダ光学系内に、撮影用の撮像素子とは別の撮像素子を設けることができる。この場合、ファインダスクリーン上に形成される像を別の撮像素子で撮像し、得られた画像から流し撮り方向を検出するようにしてもよい。この場合にはレフレックスミラーを撮影前に上昇させておく必要がないので、撮影者はファインダを覗いた状態で流し撮り撮影を行うことが可能となる。
【0036】
以上の説明では、遮光幕で形成されるスリットが、画面の水平方向あるいは垂直方向に沿って移動する例について説明した。しかしながら、スリット、遮光幕の移動方向はこれらの例に限られるものではなく、撮影レンズの結像面に略平行な平面内において任意の方向に移動可能に構成することができる。図8を参照してその一例について説明する。図8(a)から図8(g)は、遮光幕によって形成されるスリットが、画面の向かって右下から左上に向かって移動するように構成される例を説明する図である。例えばアクロバット飛行中の航空機を撮影するような状況においては、流し撮りの方向は撮影画面の横方向、縦方向のみならず、斜めの方向に流し撮りをすることもある。このような場合に、遮光幕の移動方向が図8に示すように設定可能であることにより、撮影者の作画意図を最大限に活かした画像を得ることが可能となる。
【0037】
なお、上述のように、フォーカルプレンシャッタ200の遮光幕は、矩形状のセグメント206で構成されている。そのため、図8に示すように、画面の斜め方向に沿うように遮光幕を移動させる場合、セグメント206が矩形であることにより、スリットの前縁および後縁が直線状ではなく階段状となる。すると、スリットの幅(スリットの前縁と後縁との間の距離)が不均一となる状況を生じる場合がある。スリットの幅が不均一な状態でフォーカルプレンシャッタを走行させると筋状の露光ムラを生じることがある。そこで、各セグメント206の大きさを微小化して露光ムラが目立たなくなるようにすることが望ましい。あるいは、スリットの前縁、後縁を形成するセグメント206に関して、遮光状態から透光状態へ、そして透光状態から遮光状態への切り替えタイミングをセグメント206ごとに異なるようにするのが好ましい。あるいは、これらのセグメント206に関して、透光状態と遮光状態との間で状態を切り替える際に、一時的に透光状態と遮光状態との間の中間の透過率となるような状態を維持するのが好ましい。このようにすると、結果として露光ムラが生じないようにすることができる。また、カメラ400がディジタルカメラである場合には、得られた画像データに処理をして露光ムラの影響を低減ないしは除去するようにしてもよい。
【0038】
以上では、セグメント206の形状を矩形とし、それらをグリッド状に二次元配列する例について説明した。しかしながら、セグメントの形状は六角形や多の任意の多角形とすることも可能である。あるいは正八角形と正方形との組み合わせ等、複数種類の形状のセグメントを稠密配列するものであってもよい。
【0039】
また、遮光幕の移動方向が二方向に限られてしまうが、図9に示すような構成で有っても良い。図9に示す構成では、セグメント206Aの形状を短冊状とし、その短冊状のセグメントの長辺の長さを、撮影画面の長辺または短辺の長さと一致させて一次元配列している。図9(a)から図9(j)に示す例では、短冊状のセグメント206Aの長辺の長さが撮影画面の短辺(縦の辺)と一致させてある。これらのセグメント206Aが撮影画面の長辺に沿って一次元配列されている。そして一部のセグメント206Aを遮光状態から透光状態、そして透光状態から遮光状態へと切り替えるようにする。例えば、図9の向かって右に位置するセグメント206Aから左に位置するセグメント206Aへと順に行うことにより、図9(a)から図9(e)に示されるようにスリットを図9の向かって右から左へと移動させることが可能となる。また、上述したのと逆のことを行うことにより、図(f)から図(j)に示されるようにスリットを図9の向かって左から右へと移動させることが可能となる。
【0040】
以上では、EC素子を用いて各セグメントを遮光状態から透光状態へ、そして透光状態から遮光状態へと切り替える例について説明したが、液晶等、他の素子を用いるものであってもよい。
【0041】
また、機械式のフォーカルプレンシャッタとして縦走り式および横走り式のものが知られている。これらの機械式シャッタは一般的に、予め蓄勢されたバネ力を駆動源として遮光幕(先幕および後幕)を作動させている。本発明において、例えばコイルと磁石とからなる電磁アクチュエータを用いて遮光幕を駆動する構成の縦走り式フォーカルプレンシャッタを用いることにより、遮光幕の走行方向を、撮影画面の上から下へ向かう一の走行方向から、下から上へ向かう他の走行方向へと変更することが可能である。また、同様の構成を有する横走り式のフォーカルプレンシャッタを用いることにより、撮影画面の右から左へ向かう一の走行方向から、左から右へ向かう他の走行方向へと変更することが可能である。また、円盤状の形状の一部が切り欠かれたセクタ状の遮光幕を用いたロータリー式のシャッタの場合、遮光幕の回動方向を切り替えることにより遮光幕の走行方向を一の方向から他の方向に切り替えることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係るシャッタ装置は、銀塩フィルムを用いて画像を記録するカメラや、撮像素子の受光面上に形成される被写体像を光電変換して得られる信号をもとに画像データを生成して記録するディジタルカメラに適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】流し撮り撮影をして得られる画像の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るフォーカルプレンシャッタの構成を概略的に示す図であり、(a)にはその外観が斜視図で示され、(b)には平面図が示されている。
【図3】流し撮り操作の方向と、像面での背景像の流れる方向、および遮光幕の走行方向の関係を説明する図であり、(a)から(e)は遮光幕の走行方向を、(f)は流し撮り操作の方向を、そして(g)は像面で背景像が流れる方向を、それぞれ説明する図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るフォーカルプレンシャッタが内蔵されるカメラの背面を示す図である。
【図5】フォーカルプレンシャッタの走行方向を撮影者が撮影動作に先立って設定する構成を説明するブロック図である。
【図6】カメラ内または撮影レンズ内に内蔵される手振れセンサを用いて流し撮り操作の方向を検知し、フォーカルプレンシャッタの走行方向が自動的に設定される構成を説明するブロック図である。
【図7】撮像素子から出力される信号をもとに生成される画像データから流し撮り操作の方向を検知し、フォーカルプレンシャッタの走行方向が自動的に設定される構成を説明するブロック図である。
【図8】フォーカルプレンシャッタ内におけるスリットの移動方向を撮影画面に対して斜めの方向とする例を説明する図であり、(a)に示す状態から(g)に示す状態へと変化する様子を示す図である。
【図9】フォーカルプレンシャッタの遮光幕を短冊状のセグメントを一次元配列したもので構成する例を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
200 … フォーカルプレンシャッタ
202、204 … 透明基板
206、206A … セグメント
208 … 枠部
400 … カメラ
430 … カーソル釦
450 … メニュー釦
460 … コントロールダイヤル
470 … 決定釦
510 … シャッタ制御部
520、520A、520B … シャッタ走行方向決定部
530 … ドライバ
540 … シャッタ速度設定部
610 … レリーズスイッチ
621、623 … 手振れ検知センサ
630、630A … 流し撮り操作方向検出部
710 … 撮像素子
720 … 撮像制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影レンズと当該撮影レンズの結像面との間における前記結像面近傍に配設されるフォーカルプレン式のシャッタ装置であって、
露光用の開口として形成されるスリット部を、前記結像面に略平行な平面内において複数の方向に移動可能に構成されることを特徴とするシャッタ装置。
【請求項2】
前記シャッタ装置は、前記スリット部を形成するための遮光部材が、EC素子によって構成されることを特徴とする請求項1に記載のシャッタ装置。
【請求項3】
前記スリット部の移動方向に略直交する方向に沿って前記スリット部の長辺が延在するように前記スリット部の開口が形成されることを特徴とする請求項2に記載のシャッタ装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかひとつに記載のシャッタ装置を備えるカメラ。
【請求項5】
前記スリット部の移動方向を設定するためのスリット移動方向設定部をさらに有することを特徴とする請求項4に記載のカメラ。
【請求項6】
前記スリット移動方向設定部は、撮影者によるスリット移動方向設定操作に基づいて前記スリットの移動方向を設定可能であることを特徴とする請求項5に記載のカメラ。
【請求項7】
前記スリット部の移動速度を設定するためのスリット移動速度設定部をさらに有することを特徴とする請求項4〜6に記載のカメラ
【請求項8】
露光動作開始前におけるカメラの流し撮り操作方向を検出可能な流し撮り操作方向検出部をさらに有し、
前記スリット移動方向設定部は、前記流し撮り操作方向検出部で検出された流し撮り操作方向に基づいて前記スリットの移動方向を設定可能であることを特徴とする請求項5に記載のカメラ。
【請求項9】
前記流し撮り操作方向検出部は、加速度センサと、前記加速度センサからの出力信号に基づいて前記流し撮り操作方向を判定するための信号処理部とを有することを特徴とする請求項8に記載のカメラ。
【請求項10】
前記スリット移動速度設定部は、前記加速度センサと、前記加速度センサからの出力信号に基づいて前記スリット部の移動速度を判定するための信号処理部とを有することを特徴とする請求項7に記載のカメラ。
【請求項11】
前記流し撮り操作方向検出部は、前記撮影レンズによって形成される像に基づく画像信号を生成可能な撮像素子と、前記画像信号を処理して前記流し撮り操作方向を判定するための画像処理部とを有することを特徴とする請求項8に記載のカメラ。
【請求項12】
前記画像信号を処理して前記スリット部の移動速度を設定するための画像処理部をさらに有することを特徴とする請求項7に記載のカメラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−186761(P2009−186761A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26609(P2008−26609)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】