説明

カラー受像管

【課題】シャドウマスクを保持するフレームの4つのコーナー部にそれぞれ固定された4つのスプリングのバネ圧のアンバランスによって生じる局所的な色ずれを防止する。
【解決手段】4つのスプリングのうちの少なくとも1つは、フレームに溶接されたベースプレートと、パネルピンと嵌合する嵌合孔が形成されたセンタリングプレートと、センタリングプレートの嵌合孔よりも大きな貫通孔が形成されたバネ部品とを備えたセンタリングスプリング12であり、残りは、フレームに溶接されたベースプレートと、パネルピンと嵌合する嵌合孔が形成されたバネ部品とを備えた花孔スプリング11である。花孔スプリングのベースプレート及びバネ部品の高さをA、C、センタリングスプリングのベースプレート及びバネ部品の高さをB、Dとしたとき、|A−B|>|C−D|である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカラー受像管に関する。特に、シャドウマスクを保持する略矩形枠状のフレームが、その4つのコーナー部にそれぞれ設けられた4つのスプリングを介してパネルに保持されたカラー受像管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の典型的なカラー受像管について説明する。図1は、カラー受像管の一例の模式的な断面図である。カラー受像管は、略矩形状のパネル1とファンネル3とが接合された外囲器を備え、その内部空間は真空状態に保たれている。パネル1は、フェース部1aと、フェース部1aの周縁に形成された側壁部1bとを有する。フェース部1aの外面は略矩形状である。ファンネル3は、その大口径部側でパネル1の側壁部1bと接続されている。
【0003】
フェース部1aの内面には蛍光体スクリーン7が形成されている。蛍光体スクリーン7は黒色光吸収層と3色の蛍光体層とを有する。黒色光吸収層はパネル1の短軸方向に延びた複数のストライプ形状であり、黒色光吸収層の複数のストライプは長軸方向に所定の隙間を隔てて並列に配置されている。3色の蛍光体層を構成する各蛍光体層は、パネル1の短軸方向に延びたストライプ形状であり、黒色光吸収層の複数のストライプ間の隙間に1つずつ順次に配置されている。
【0004】
ファンネル3における円筒状のネック6の内部空間には、電子銃5が設けられている。電子銃5としては、通常、センタービームとその両側の一対のサイドビームとが水平軸方向(長軸方向)に一列に配列された3電子ビームを管軸方向に蛍光体スクリーン7に向かって射出するインライン型電子銃が用いられる。
【0005】
ファンネル3の外周面上には偏向ヨーク(偏向器)4が装着されている。偏向ヨーク4は、偏向磁界を形成するための水平偏向コイル及び垂直偏向コイルを有し、電子銃5から射出された3電子ビームを磁気的な作用によって偏向させる。
【0006】
外囲器の内部空間には、蛍光体スクリーン7と所定の間隔を隔てて対向するシャドウマスク2が設けられている。シャドウマスク2には、画像表示を行う3電子ビームが通過する多数の開孔(電子ビーム通過孔)が所定の配列で形成されている。一般に、シャドウマスクは、プレス加工によって形成されたドーム状のプレス形成マスクと、フレームに架張固定された平面形状のテンションマスクとに大別される。以下、プレス形成マスクの場合を例にとって説明する。
【0007】
シャドウマスク2は略矩形枠状のフレーム9に保持されている。フレーム9は、フレーム9の外壁面に固定された4つのスプリング(弾性支持体)11(又は12)とパネル1の側壁部1bの内壁面に突出して植設された4つのパネルピン24とを係合することによって、パネル1に対して着脱自在に係止されている。
【0008】
電子銃5から射出された3電子ビームは、偏向ヨーク4が発生した偏向磁界によって長軸方向及び短軸方向に偏向され、シャドウマスク2の開孔を通過したのち、蛍光体スクリーン7を長軸方向及び短軸方向に走査する。これにより、蛍光体スクリーン7上にカラー画像が表示される。
【0009】
次に、フレーム9にシャドウマスク2が保持されたシャドウマスク構体8を詳細に説明する。図2は、シャドウマスク構体8の一例を示す模式的な斜視図である。図示したように、フレーム9の長辺と平行な軸を長軸、短辺と平行な軸を短軸と呼ぶ。長軸と短軸とはカラー受像管の管軸上で直交する。更に、フレーム9の長辺と短辺とが交差する4つの交点のうち互いに対向する2つの交点を通り、且つ、管軸と直交する軸を対角軸と呼ぶ。
【0010】
シャドウマスク2は、3電子ビームが通過する多数の開孔(電子ビーム通過孔)が形成された有孔部(有効部)2aと、有孔部2aの外縁に形成された無孔部(無効部)2bと、管軸に対してほぼ平行になるように無孔部2bに対して屈曲して無孔部2bの外縁に連設されたスカート部とを有する。スカート部は、溶接等によってフレーム9の側壁に固定される。通常は、スカート部の短軸端(短軸が交差する点)又はその近傍、長軸端(長軸が交差する点)又はその近傍、及び対角軸端(対角軸が交差する点)又はその近傍が、フレーム9の側壁に溶接される。
【0011】
マスク構体8をスプリングを介してパネル1の側壁部1bに係止する方式は、2つに大別される。1つは、フレーム9の4辺の各中央、即ち、短軸及び長軸上の点又はその近傍に、4つのスプリングがそれぞれ固定される軸上支持方式であり、もう一つは、図2に示すように、フレーム9の対角軸端(対角軸が交差する点)、すなわち4つのコーナー部に4つのスプリングがそれぞれ固定されるコーナー支持方式である。スプリングの形状は、軸上支持方式とコーナー支持方式とで大きく異なる。
【0012】
旧来からのカラー受像管では軸上支持方式が多く採用されていたが、近年ではコーナー支持方式を採用しているカラー受像管が多く見られるようになってきている。これは、カラー受像管が大型化したことが大きな理由として挙げられる。
【0013】
軸上支持方式でマスク構体8を支持した場合、マスク構体8をパネル1に対して着脱を行うと、スプリングが配置されている短軸及び長軸の近傍では、シャドウマスク2をパネル1に対して着脱前と同じ位置関係に取り付けることが可能である。ところが、一般的に、4つのコーナー部では、シャドウマスク2のパネル1に対する位置関係は、着脱の前後で変化してしまう。
【0014】
軸上支持方式では、コーナー部にマスク構体8を支持する機構(スプリング)が無いため、コーナー部においてパネル1とシャドウマスク2との位置関係が安定せずバラツキが発生することが多い。そして、画面が大きくなるとバラツキ量が大きくなる。従って、大型管では軸上支持方式よりもコーナー支持方式がより多く採用されている。
【0015】
コーナー支持方式では、4つのコーナー部のそれぞれにマスク構体8を支持する機構(スプリング)が設けられるので、コーナー部においてパネル1とシャドウマスク2との位置関係が安定する。短軸及び長軸の近傍にはマスク構体8を支持する機構は存在しないが、フレーム9の剛性を確保すれば、短軸及び長軸の近傍におけるパネル1とシャドウマスク2との位置関係のバラツキを問題のない程度に抑えることができる。
【0016】
本発明は、このコーナー支持方式が採用されたカラー受像管に関する。
【0017】
コーナー支持方式で用いられるスプリングに関して説明する。図3に示すように、スプリング11は、2つの部材、即ちベースプレート13及びバネ部品17からなる。ベースプレート13は、フレーム9に溶接固定される固定部14、バネ部品17と接続される第1接続部16、及び、固定部14と第1接続部16とを繋ぐ連結部15を備える。バネ部品17は、パネルピン24と嵌合する嵌合孔22が形成された嵌合部18、ベースプレート13の第1接続部16と接続される第2接続部20、及び、第2接続部20と嵌合部18とを繋ぐ斜辺部19とを備える。スプリング11は、ベースプレート13の一端の第1接続部16とバネ部品17の一端の第2接続部20とを重ね合わせて接合することにより、全体として略V字状を有している。略V字状のスプリング11は、その解放側(固定部14及び嵌合部18側)が電子銃5側に、接合部側(第1接続部16及び第2接続部20側)が蛍光体スクリーン7側になるようにして、フレーム9のコーナー部に溶接される(例えば特許文献1,特許文献2参照)。
【0018】
ベースプレート13及びバネ部品17はいずれも金属板材を折り曲げ成形して製造される。通常、ベースプレート13はバネ部品17よりも厚い板材が用いられる。
【0019】
スプリング11は、マスク構体8をパネル1内に支持する機能のほか、カラー受像管の動作時にシャドウマスク2が電子ビームの衝突により加熱され膨張(即ちドーミング)した場合に、シャドウマスク2の位置を補正する機能をも有する。後者の機能をドーミング補正機能と呼ぶ。
【0020】
カラー受像管のマスク構体8のパネル1への組み付けは、以下の様に行われる。
【0021】
フレーム9は金属板材をプレス成形することにより形成される。その後、フレーム9の4つのコーナー部にスプリング11を溶接固定する。これとは別に、エッチングにより多数の開孔が形成された金属平板をプレス成形してシャドウマスク2を得る。そして、フレーム9にシャドウマスク2を溶接固定してマスク構体8を得る。
【0022】
一方、溶融した硝子をプレスで成形してパネル1を得る。その後、パネル1の側壁部1bのコーナー部の内壁にパネルピン24を埋め込む。
【0023】
上記の様に、パネル1とマスク構体8とは別個に作成される。従って、パネルピン24及びスプリング11の各位置のバラツキが問題になる。パネルピン24及びスプリング11の位置バラツキが大きければ、パネル1にマスク構体8を取り付けることはできない。また、仮に取り付けることができたとしても、パネルピン24及びスプリング11の位置バラツキがあると、パネル1に対するマスク構体8の位置が安定せず、着脱毎にマスク構体8がパネル1に異なる位置で支持されることになる。この場合には、カラー受像管として動作した場合に色ずれなどの現象が発生してしまう。
【0024】
このバラツキに対処するため、フレーム9の各コーナー部に取り付けられる4つのスプリング11のうちの少なくとも1つを、上記バラツキを吸収する機構を備えたスプリングに置き換えることが行われている。このスプリングを図4及び図5を用いて説明する。図3に示したスプリング11の構成要素と対応する構成要素には同じ符号を付して、それらについての詳細な説明を省略する。図4及び図5に示したスプリング12では、バネ部品17の嵌合部18には、パネルピン24よりも大きな開孔21が形成されている。そして、この嵌合部18に、パネルピン24と嵌合する嵌合孔22が形成されたセンタリングプレート(「コイン」と称されることもある)23が溶接固定される。嵌合部18とセンタリングプレート23との溶接は、パネル1にマスク構体8を装着する際に行われる。即ち、パネルピン24をセンタリングプレート23の嵌合孔22及び嵌合部18の開孔21に挿入した状態で、パネルピン24を開孔21内で移動させてマスク構体8のパネル1に対する位置調整をした後、嵌合部18とセンタリングプレート23とを溶接する。これにより、パネルピン24及びスプリング11の位置バラツキに起因する上記の問題の発生を防止できる。本発明では、図4及び図5に示したスプリング12を「センタリングスプリング」と呼び、図3に示したスプリング11をその嵌合孔22の形状から「花孔スプリング」と呼んで、両者を区別する。また、両者を特に区別する必要がない場合には、これらを総称して単に「スプリング」と呼ぶ。
【0025】
カラー受像管においてスプリングに要求される基本的機能としては、パネル1に対してマスク構体8の着脱を可能にする着脱可能機能、カラー受像管動作時に熱膨張するシャドウマスク2の位置補正をするドーミング補正機能、カラー受像管に落下等により衝撃が加えられた場合にパネル1に対してシャドウマスク2を位置ズレなく安定して保持する支持機能、複数回の着脱を行ってもマスク構体8のパネル1に対する位置が安定し常に同じ位置とする位置安定機能などがある。
【特許文献1】米国特許第6211609号明細書
【特許文献2】特開2003−100229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
コーナー支持方式では、4つのスプリング11,12のバネ圧がバランスすることでマスク構体8が支持されて上記の各種機能が発揮される。4つのスプリング11,12のバネ圧がアンバランスであると、例えば以下のような問題が生じる。
【0027】
カラー受像管の製造工程中に行われる複数回のマスク構体8のパネル1に対する着脱の際に、常に安定してマスク構体8をパネル1に対して一定の位置に支持することが難しくなる。即ち、上記の位置安定機能が損なわれる。こうなると、例えばパネル1の内面の蛍光体スクリーン7の蛍光体の位置ズレが発生する。蛍光体の位置ズレが発生すると、カラー受像管として良好な画像を得ることはできない。
【0028】
また、カラー受像管の動作中に熱膨張したシャドウマスク2の位置を的確に補正することが困難となり、局部的な色ずれなどが発生する。即ち、上記のドーミング補正機能が損なわれる。
【0029】
更に、カラー受像管の輸送中に加えられる衝撃などで、シャドウマスク2のパネル1に対する位置が容易にずれてしまう。即ち、上記の支持機能が損なわれる。
【0030】
また、スプリング11,12が上記の各種機能を発揮するためには、スプリング11,12がパネル1内でマスク構体8を支持している状態において、スプリング11,12のベースプレート13の固定部14とバネ部品17の嵌合部18とは平行であることが望ましい。
【0031】
もし、固定部14及び嵌合部18の連結部15及び斜辺部19側端での間隔がその反対側(電子銃側)端での間隔よりも小さいと、衝撃が加えられたときに、マスク構体8がパネル1に対して容易に移動してしまう。これは画面の色ずれを発生させる。即ち、上記の支持機能が損なわれる。
【0032】
逆に、固定部14及び嵌合部18の連結部15及び斜辺部19側端での間隔がその反対側(電子銃側)端での間隔よりも大きいと、マスク構体8をパネル1に装着する際に、スプリング11,12の一部がパネルピン24に干渉しやすく、マスク構体8をパネル1に取り付けることが困難になる。即ち、上記の着脱可能機能が損なわれる。
【0033】
上記したように、スプリング11,12が上記の各種機能を発揮するためには、4つのスプリング11,12のバネ圧がバランスし、且つ、スプリング11,12がパネル1内でマスク構体8を支持している状態において、ベースプレート13の固定部14とバネ部品17の嵌合部18とが平行であることが望ましい。
【0034】
しかし、デザインが互いに異なる花孔スプリング11とセンタリングスプリング12とを使用する必要があるので、両スプリング11,12の特性(特にバネ圧)を如何に一致させるかが問題となる。
【0035】
単に花孔スプリング11の嵌合部18の嵌合孔22の開口径を大きくし、この嵌合部18にセンタリングプレート23を積層してセンタリングスプリング12を構成すると、固定部14と嵌合部18とが平行である時のセンタリングスプリング12の高さは、センタリングプレート23の厚さ分だけ花孔スプリング11の高さより高くなる。従って、マスク構体8をパネル1に装着することが不可能になったり、仮に装着できたとしても固定部14と嵌合部18とが平行にならない。
【0036】
そこで、従来のセンターリングスプリング12では、センターリングプレート23の厚さを考慮して、バネ部品17のデザイン、具体的にはバネ部品17の斜辺部19の長さと無負荷時の斜辺部19及び嵌合部18の傾斜角度とを、花孔スプリング11と異ならせていた。これに起因して発生する問題を以下に説明する。
【0037】
図6は、マスク構体8がパネル1に装着された状態の花孔スプリング11周辺を示した断面図である。
【0038】
花孔スプリング11は、固定部14がフレーム9の外壁面に溶接固定され、嵌合部18に設けられた嵌合孔22にパネルピン24が嵌入されることで、マスク構体8を支持している。図示を省略するが、センタリングスプリング12も、バネ部品17とパネルピン24との間にセンタリングプレート23が介在している点を除いて、図6と基本的に同様にしてマスク構体8を支持している。この際、スプリング11,12はそのバネ圧によりパネルピン24と嵌合している。このバネ圧はスプリング11,12を無負荷時の状態から圧縮することにより得られる力である。
【0039】
花孔スプリング11は、無負荷時には通常図7の二点鎖線のように解放側(図7の下側)が広がっている。パネル1にフレーム9を取り付けた場合には、花孔スプリング11が圧縮され、ベースプレート13に比べて相対的に低剛性のバネ部品17が図7の実線のように変形する。バネ部品17のこの変形が花孔スプリング11のバネ圧を発生させている。このバネ圧により、マスク構体8はパネル1に支持される。
【0040】
従来のセンタリングスプリング12では、上述のように、センターリングプレート23の厚さを考慮して、バネ部品17の斜辺部19の長さ短くしていた。バネ部品17の斜辺部19が短くなると、斜辺部19の剛性が増大する。従って、マスク構体8をパネル1に着脱する際、センタリングスプリング12を圧縮すると、図8の実線のように、バネ部品17のみならずベースプレート13の連結部15も変形する。このため、第1、第2接続部16,20が、二点鎖線で示した無負荷時の状態から、矢印Rの方向に回転し、フレーム9(図示せず)から遠ざかる。この結果、センタリングスプリング12のうち第1、第2接続部16,20がパネル1側に最も接近し、第1、第2接続部16,20がパネル1又はパネルピン24と干渉し、マスク構体8をパネル1に取り付けることが不可能になる場合がある。
【0041】
また、仮にマスク構体8をパネル1に取り付けることができたとしても、センタリングスプリング12では花孔スプリング11に比べてバネ部品17の斜辺部19の長さが短いので、センタリングスプリング12の方が花孔スプリング11に比べて発生するバネ圧が大きい。このため、落下等によりカラー受像管に衝撃が加えられるとスプリング11,12の嵌合孔22とパネルピン24との局所的な位置ズレが生じやすくなる。この位置ズレは、パネル1に対するシャドウマスク2の局所的な位置ズレを生じさせ、これが電子ビームの蛍光体スクリーン7に対するランディング位置ズレを局所的に発生させるという問題があった。
【0042】
図9はマスク構体8を正面から見た模式図である。フレーム9の4つのコーナー部C1〜C4のうち、コーナー部C1〜C3には花孔スプリング11が取り付けられ、コーナー部C4にはバネ部品17の斜辺部19の長さ短くした従来のセンタリングスプリング12が取り付けられている。各コーナー部C1〜C4には、それぞれに取り付けられたスプリング11(又は12)が発生するバネ圧F1〜F4が印加される。上述のように、従来のセンタリングスプリング12では花孔スプリング11に比べてバネ部品17の斜辺部19の長さが短いので、センタリングスプリング12によるバネ圧F4は花孔スプリング11によるバネ圧F1〜F3(F1=F2=F3)より大きい。このような4つのコーナー部C1〜C4に加えられるバネ圧F1〜F4間のアンバランスにより、マスク構体8は、二点鎖線で示した正規の位置に対して、実線で示した位置にパネル1内(図示せず)で移動する。また、バネ圧F4がバネ圧F1より大きいことにより、コーナー部C2,C3に配置されたスプリング11には、その圧縮方向に対して交差する方向の力が加えられ、このスプリング11に捩れ変形が生じる。以上のようなバネ圧F1〜F4間のアンバランスによって、電子ビームの蛍光体スクリーン7に対するランディング位置ズレや、落下等によりカラー受像管に衝撃が加えられたときにパネル1に対するシャドウマスク2の位置ズレなどを局所的に発生させるという問題があった。
【0043】
以上のように、花孔スプリング11とセンタリングスプリング12とでバネ部品17のデザインを異ならせると、花孔スプリング11とセンタリングスプリング12とで発生するバネ圧が異なってしまう。このような花孔スプリング11とセンタリングスプリング12との特性上のわずかな差異が、電子ビームのランディング位置ズレ、衝撃が加えられたときのパネル1に対するシャドウマスク2の位置ズレ、シャドウマスク2が熱膨張したときの位置補正特性などを、花孔スプリング11が取り付けられたコーナー部近傍とセンタリングスプリング12が取り付けられたコーナー部近傍とで異ならせていた。
【0044】
マスク構体8の全体に一様に生じる変化であれば、パネル1に対するマスク構体8の位置を調整することにより補正することができるが、上記のような局所的な変化を補正することは困難であり、これにより画像の局所的な品位低下を生じていた。
【0045】
本発明は、パネルに対するマスク構体の着脱性を低下させることなく、花孔スプリング11とセンタリングスプリング12との特性上の差異を少なくし、画像の局所的な品位低下を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0046】
本発明のカラー受像管は、内面に蛍光体スクリーンが形成された略矩形状のパネルと、前記パネルの4つのコーナー部の内壁面に植設された4つのパネルピンと、前記蛍光体スクリーンに対向するシャドウマスクと、前記シャドウマスクを保持する略矩形枠状のフレームと、前記フレームの4つのコーナー部の外壁面に固定された4つのスプリングとを備える。
【0047】
前記4つのスプリングのうちの少なくとも1つは、前記フレームに溶接されたベースプレートと、前記パネルピンと嵌合する嵌合孔が形成されたセンタリングプレートと、前記センタリングプレートの前記嵌合孔よりも大きな貫通孔が形成されたバネ部品とを備え、前記バネ部品に前記センタリングプレートが重ね合わされて一体化されており、前記ベースプレートの一端と前記バネ部品の一端とが接合されたセンタリングスプリングである。前記4つのスプリングのうちの残りは、前記フレームに溶接されたベースプレートと、前記パネルピンと嵌合する嵌合孔が形成されたバネ部品とを備え、前記ベースプレートの一端と前記バネ部品の一端とが接合された花孔スプリングである。
【0048】
前記花孔スプリングの前記ベースプレートの高さをA、前記バネ部品の高さをCとし、前記センタリングスプリングの前記ベースプレートの高さをB、前記バネ部品の高さをDとしたとき、|A−B|>|C−D|を満足することを特徴とする。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、バネ部品の斜辺部の長さや傾き角度を花孔スプリングとセンタリングスプリングとで同じにすることができる。
【0050】
バネ部品の斜辺部のデザインは、スプリングの特性に最も大きな影響を有し、これが花孔スプリングとセンタリングスプリングとで同じであることにより、発生するバネ圧がほぼ同じになる。従って、フレームの4つのコーナー部に加えられるバネ圧がほぼ同じになるので、画像の局所的な品位低下を低減することすることができる。
【0051】
また、花孔スプリング及びセンタリングスプリングのいずれにおいても、それらがパネル内でマスク構体を支持している状態において、嵌合部と固定部とをほぼ平行にすることが可能になるため、マスク構体のパネルに対する着脱性が低下することもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
次に本発明を一実施例(以下、「実施例」という)を示しながら詳細に説明する。
【0053】
本発明のカラー受像管の構成は、フレームをその4つのコーナー部で支持する4つのスプリングを除いて特に限定はなく、例えば従来のカラー受像管と同様であっても良い。
【0054】
図1はコーナー支持方式を用いた本発明に係るカラー受像管の一例の対角軸に沿った概略断面図である。カラー受像管は、略矩形状のパネル1と漏斗状のファンネル3とが接合された外囲器を備える。ファンネル3はネック6とコーン部10とを備える。ネック6内には電子ビームを発生する電子銃5が配置されている。またコーン部10の外周面上には電子ビームを偏向し走査させる偏向ヨーク4が装着されている。
【0055】
パネル1の内面には蛍光体スクリーン7が形成されている。蛍光体スクリーン7に対して、所定の間隔を隔てて、多数の開孔が形成されたシャドウマスク2が対向している。シャドウマスク2は略矩形枠状のフレーム9により保持されている。シャドウマスク2及びフレーム9からなるマスク構体8は、パネル1の側壁部1bの内壁面に突出して植設された4つのパネルピン24に、4つのスプリング11(12)を介してコーナー支持方式により係止されている。
【0056】
図2はマスク構体8の概略斜視図である。マスク構体8のフレーム9の4つのコーナー部のそれぞれにはスプリングが取り付けられている。4つのスプリングのうちの少なくとも1つ(実施例では1つ)はセンタリングスプリング12であり、残り(実施例では3つ)は花孔スプリング11である。本発明の花孔スプリング11の基本的構成は、図3に示した従来の花孔スプリング11と同じであり、本発明のセンタリングスプリング12の基本的構成は、図4及び図5に示した従来のセンタリングスプリング12と同じである。従来のカラー受像管での説明と一部重複するが、本発明の花孔スプリング11及びセンタリングスプリング12を説明する。
【0057】
本発明の花孔スプリング11は、図3に示すように、フレーム9に溶接されるベースプレート13と、パネル1のパネルピン24と嵌合する嵌合孔22が形成されたバネ部品17とからなる。より詳細に説明すると、ベースプレート13は、フレーム9に溶接固定される固定部14、バネ部品17と接続される第1接続部16、及び、固定部14と第1接続部16とを繋ぐ連結部15を備える。バネ部品17は、パネルピン24と嵌合する嵌合孔22が形成された嵌合部18、ベースプレート13の第1接続部16と接続される第2接続部20、及び、第2接続部20と嵌合部18とを繋ぐ斜辺部19とを備える。花孔スプリング11は、ベースプレート13の一端の第1接続部16とバネ部品17の一端の第2接続部20とを重ね合わせて接合することにより、全体として略V字状を有している。
【0058】
実施例では、花孔スプリング11のベースプレート13は厚さ1.0mm程度の金属製バネ材を折り曲げ成形して製造される。バネ部品17は厚さ約0.6mmの金属製バネ材を折り曲げ成形して製造される。第1接続部16及び第2接続部20の幅W1は約21mmである。ベースプレート13の幅は、第1接続部16、連結部15、及び固定部14のいずれにおいてもW1で一定である。バネ部品17の斜辺部19の幅は、その第2接続部20側端ではW1であるが、これよりその嵌合部18側端に向かって徐々に狭くなっている。斜辺部19の長さL1は16.3mm程度である。
【0059】
本発明のセンタリングスプリング12は、図4及び図5に示すように、フレーム9に溶接されるベースプレート13と、パネル1のパネルピン24と嵌合する嵌合孔22が形成されたセンタリングプレート23と、嵌合孔22よりも大きな開孔(貫通孔)21が形成されたバネ部品17とからなる。より詳細に説明すると、ベースプレート13は、フレーム9に溶接固定される固定部14、バネ部品17と接続される第1接続部16、及び、固定部14と第1接続部16とを繋ぐ連結部15を備える。バネ部品17は、開孔21が形成された嵌合部18、ベースプレート13の第1接続部16と接続される第2接続部20、及び、第2接続部20と嵌合部18とを繋ぐ斜辺部19とを備える。センタリングスプリング11は、ベースプレート13の一端の第1接続部16とバネ部品17の一端の第2接続部20とを重ね合わせて接合することにより、全体として略V字状を有している。センタリングプレート23は、その嵌合孔22が開孔21内に位置するようにして、嵌合部18に溶接固定される。
【0060】
一般的には、開孔21の開口寸法は、開孔21内でパネルピン24が1mm程度移動できるような寸法に設定される。図4及び図5では、開孔21の端縁形状は円形であるが、本発明はこれに限定されず、例えば楕円形にし、且つ、その長軸方向をパネルピン24が相対的位置ズレしやすい方向に設定することにより、パネルピン24の相対的位置ズレを効果的に吸収しても良い。
【0061】
実施例では、センタリングスプリング12のベースプレート13は厚さ1.0mm程度の金属製バネ材を折り曲げ成形して製造される。バネ部品17は厚さ約0.6mmの金属製バネ材を折り曲げ成形して製造される。第1接続部16及び第2接続部20の幅W2は約21mmである。ベースプレート13の幅は、第1接続部16、連結部15、及び固定部14のいずれにおいてもW2で一定である。バネ部品17の斜辺部19の幅は、その第2接続部20側端ではW2であるが、これよりその嵌合部18側端に向かって徐々に狭くなっている。開孔21は直径9mm程度の円形孔である。センターリングプレート23の厚さは0.6mm程度であり、花孔スプリング11の嵌合部18に形成された嵌合孔22と同じ嵌合孔22が形成されている。
【0062】
図10(A)は本発明に係るセンタリングスプリング12の断面図、図10(B)は従来のセンタリングスプリング12の断面図、図10(C)は花孔スプリング11の断面図である。いずれも、パネル1内でマスク構体8を支持している状態を示している。図10(A)〜図10(C)に示すように、センタリングスプリング12及び花孔スプリング11がパネル1内でマスク構体8を支持している状態において、その嵌合部18と固定部14とはほぼ平行である。
【0063】
図11は、本発明に係るセンタリングスプリング12がパネル1内でマスク構体8を支持している状態を示した概略断面図である。図11中、点線はこのセンタリングスプリング12と同時に使用される花孔スプリング11の形状を示している。
【0064】
図10(A)に示すように、パネル1内でマスク構体8を支持している状態において、本発明に係るセンタリングスプリング12のベースプレート13の高さをB、バネ部品17の高さをDとする。また、図10(B)に示すように、パネル1内でマスク構体8を支持している状態において、従来のセンタリングスプリング12のベースプレート13の高さをB’、バネ部品17の高さをD’とする。更に、図10(C)に示すように、パネル1内でマスク構体8を支持している状態において、花孔スプリング11のベースプレート13の高さをA、バネ部品17の高さをCとする。ここで、「高さ」とは、固定部14に対する垂線方向の寸法を意味する。また、センタリングスプリング12のバネ部品17の高さD,D’はセンタリングプレート23の厚さを含まない。
【0065】
本発明のセンタリングスプリング12では、バネ圧及びマスク構体8のパネル1に対する着脱性に大きな影響を及ぼすバネ部品17の形状を花孔スプリング11のバネ部品17と同じにしている(即ち、C=D)。一方、センタリングスプリング12のベースプレート13の高さBを、センタリングプレート23の厚さと略同一寸法だけ花孔スプリング11のベースプレート13の高さAよりも小さくしている(即ち、B<A)。これにより、センタリングスプリング12がパネル1内でマスク構体8を支持している状態において、その固定部14と嵌合部18とがほぼ平行になる。これを数式で表すと、
|A−B|>|C−D| ・・・(1)
となる。実施例では、A=6.2mm、B=5.6mm、C=4.2mm、D=4.2mmである。
【0066】
スプリング11,12の製造バラツキを考慮しない場合には、A>B、且つ、C=Dを満足する。
【0067】
これに対して、従来のセンタリングスプリング12では、ベースプレート13の高さB’は花孔スプリング11のベースプレート13の高さAと同じであった(A=B’)。そのため、従来はセンターリングプレート23の厚さ分だけバネ部品17の高さD’を花孔スプリング11のバネ部品17の高さCよりも小さくする(即ちC>D’)ことで、センタリングスプリング12がパネル1内でマスク構体8を支持している状態において、その固定部14と嵌合部18とがほぼ平行になるようにしていた。これを数式で表すと、
|A−B’|<|C−D’|
となる。具体的には、従来のスプリング11,12では、A=6.2mm、B’=6.2mm、C=4.2mm、D’=3.6mmである。従来のスプリング11,12のこれら以外の寸法は実施例と同じである。
【0068】
本発明及び従来のセンタリングスプリング12のベースプレート13の高さB,B’はB<B’を満足する。このように、本発明では、従来に比べてベースプレート13の高さを低くすることにより、バネ部品17の斜辺部19の長さや傾き角度を花孔スプリング11とセンタリングスプリング12とで同じにしても、センタリングスプリング12がパネル1内でマスク構体8を支持している状態において、そのベースプレート13の固定部14とバネ部品17の嵌合部18とを平行にすることができる。そのため、マスク構体8のパネル1に対する着脱性を確保することができる。
【0069】
また、花孔スプリング11の斜辺部19の長さL1とセンタリングスプリング12の斜辺部の19長さとが同じであるので、スプリング11,12がパネル1内でマスク構体8を支持している状態において、センタリングスプリング12と花孔スプリング11とでバネ圧がほぼ同一となる。その結果、スプリング11,12がフレーム9の4つのコーナー部C1〜C4に印加するバネ圧F1〜F4(図9参照)がほぼ同一になるので、スプリング11に捩れ変形が生じることもない。
【0070】
また、4つのコーナー部C1〜C4に加えられるバネ圧F1〜F4がほぼ同じであるので、マスク構体8をパネル1に対して所望する位置に支持することができる。また、落下等によりカラー受像管に衝撃が加えられたときにも、パネル1に対するシャドウマスク2の位置ズレが生じない。更に、スプリング11,12のドーミング補正機能も損なわれない。また、マスク構体8のパネル1に対する着脱を繰り返しても、マスク構体8をパネル1に対して常に所望の位置で安定して保持させることができる。従って、蛍光体スクリーン7に対する電子ビームのランディング位置の局所的なズレの発生を防止できる。その結果、画像の局所的な品位低下がなく、良好な画像品質のカラー受像管を提供することができる。
【0071】
なお、上記の説明では、バネ部品17の斜辺部19が平面状であったが、本発明はこれに限定されず、例えば、所望する特性を得るために斜辺部19の一部が折り曲げられていても良い。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係るカラー受像管は、フレームの4つのコーナーにそれぞれ配置された4つのスプリングの特性をバランスさせることができるので、画像が良好なカラー受像管として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】カラー受像管の一例の概要を示す対角軸に沿った断面図。
【図2】フレームにシャドウマスクが保持されたシャドウマスク構体の一例の概要を示す斜視図。
【図3】花孔スプリングの概要を示す斜視図。
【図4】センタリングスプリングの概要を示す分解斜視図。
【図5】センタリングスプリングの概要を示す斜視図。
【図6】マスク構体がパネルに装着された状態の花孔スプリング周辺を示した断面図。
【図7】花孔スプリングの動作を示す断面図。
【図8】従来のセンタリングスプリングの動作を示す断面図。
【図9】従来のセンタリングスプリングを使用した場合のマスク構体に加わる力のアンバランス状態を示した正面図。
【図10】(A)は本発明のセンタリングスプリングの断面図、(B)は従来のセンタリングスプリングの断面図、(C)は花孔スプリングの断面図。
【図11】本発明のカラー受像管において、センタリングスプリングがパネル内でマスク構体を支持している状態を示した概略断面図。
【符号の説明】
【0074】
1 パネル
1a パネルのフェース部
1b パネルの側壁部
2 シャドウマスク
2a 有孔部
2b 無孔部
3 ファンネル
4 偏向ヨーク
5 電子銃
6 ネック
7 蛍光体スクリーン
8 マスク構体
9 フレーム
10 コーン部
11 花孔スプリング
12 センタリングスプリング
13 ベースプレート
14 固定部
15 連結部
16 第1接続部
17 バネ部品
18 嵌合部
19 斜辺部
20 第2接続部
21 開孔
22 嵌合孔
23 センタリングプレート
24 パネルピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に蛍光体スクリーンが形成された略矩形状のパネルと、
前記パネルの4つのコーナー部の内壁面に植設された4つのパネルピンと、
前記蛍光体スクリーンに対向するシャドウマスクと、
前記シャドウマスクを保持する略矩形枠状のフレームと、
前記フレームの4つのコーナー部の外壁面に固定された4つのスプリングと
を備えたカラー受像管であって、
前記4つのスプリングのうちの少なくとも1つは、前記フレームに溶接されたベースプレートと、前記パネルピンと嵌合する嵌合孔が形成されたセンタリングプレートと、前記センタリングプレートの前記嵌合孔よりも大きな貫通孔が形成されたバネ部品とを備え、前記バネ部品に前記センタリングプレートが重ね合わされて一体化されており、前記ベースプレートの一端と前記バネ部品の一端とが接合されたセンタリングスプリングであり、
前記4つのスプリングのうちの残りは、前記フレームに溶接されたベースプレートと、前記パネルピンと嵌合する嵌合孔が形成されたバネ部品とを備え、前記ベースプレートの一端と前記バネ部品の一端とが接合された花孔スプリングであり、
前記花孔スプリングの前記ベースプレートの高さをA、前記バネ部品の高さをCとし、前記センタリングスプリングの前記ベースプレートの高さをB、前記バネ部品の高さをDとしたとき、
|A−B|>|C−D|
を満足することを特徴とするカラー受像管。
【請求項2】
A>B、且つ、C=Dを満足する請求項1に記載のカラー受像管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−141526(P2007−141526A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330736(P2005−330736)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(503217783)松下東芝映像ディスプレイ株式会社 (176)
【Fターム(参考)】