説明

カラー視覚センサの色教示方法

【目的】 カラー視覚センサの色認識用のしきい値を、簡便に決定する方法を提供すること。
【構成】 教示された色の統計データ(平均値ベクトル、共分散行列)と指定された色認識手法で予め定められた確信度kをパラメータとする評価式を用いて、与えられた色データについて、評価式を満たす色データの数を計数し、全データ数に対する比率Sを求めることにより、k−Sの特性線を求め、カラー視覚センサのモニタ画面にグラフィック表示する手段を設け、教示色と比較色(複数の場合もある)の特性線のグラフと両者を区別するカーソルをモニタ画面に表示し、操作者が、カラー視覚センサのキー入力操作手段により、カーソル位置を最適な位置に移動・設定すれば、教示色と比較色を判別するためのしきい値を設定できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、カラー視覚センサに係り、特に、色認識のためのカラー視覚センサの色教示方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の、色認識を扱うカラー視覚センサは、認識対象をカラーカメラで撮像し、RGB(赤:R,緑:G,青:B)の画像に分離し、それぞれを、ディジタル変換して、3枚の多値画像の組として、カラー視覚センサのメモリに格納する。この3枚の多値画像に対して、画像処理用に開発された各種手法を適用して、認識対象に対して、目的の色認識を行う。しかし、画像データから、目的の色認識処理を行うためには、認識の対象とする色と、他の色を分離判別するために、色認識の閾値を決定・指定しなければならない。
【0003】色認識手法の例は、特開平4−308979号公報(「カラー色の識別方法」)に開示されているが、この先願技術では、閾値の決定方法については述べられていない。
【0004】閾値の決定方法については、特開平2−297030号公報(「色識別装置」)において、基準にする検出体を実際の検出条件下に設定し、これを複数回サンプリングすることにより、その色情報のばらつきを得るか、あるいは、偏差のある複数の色情報を数値入力して得た基準色情報のサンプル群を、装置固有の色識別の為のパラメータに基づいて演算し、最適な識別閾値を自動的に作成または決定し、登録する機能を有する色識別装置が示されている。しかし、識別閾値は、基準色だけからでなく、比較色との相対関係から決定されるはずであるという点を考えると、最適な識別閾値を自動決定するものとしては、不十分であった。
【0005】その他の従来技術としては、認識対象の各RGB成分の輝度分布図を、カラー視覚センサのモニタ画面に表示して、このグラフから閾値を決定したり、認識対象の各RGB成分の平均、および、分散を計算して、この値から、試行錯誤的に閾値を仮決めし、実物に対して、認識処理を実行して、最適な値を決定するという方法をとっていたものが挙げられる。また、別の方法としては、「コンピュータ画像処理入門」;田村秀行監修(総研出版、1985年)の238〜260頁に記載されているように、RGB画像データを、明度、色度に分離し、明度ヒストグラム、色度図を作成し、これを、カラー視覚センサのモニタ画面にグラフィック表示して、閾値を決定するようにした方法が挙げられる。なお、この後者の手法は、RGBの3次元データを、1次元の明度と、2次元の色度で表わし、処理データの次元を下げて、カラー視覚センサのモニタ画面上で扱い易くしている点で優れている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、複数の対象からそれぞれの色を判別したりする場合には、各対象物について、上記のような方法で色認識の閾値を決定すると、その値の妥当性の検証のために、全ての対象物について、認識実験を行って確認しなければならないという問題があった。また、色認識のカラー視覚センサとして色教示を完了し、実際の稼働を始めた後に、新しい認識対象物がでてきたときは、この新しい認識対象物について、上述の認識教示を行うと共に、以前の認識対象物全てについて、再度認識実験を行い、新しい認識対象物を含む全ての認識対象物について、設定した閾値の妥当性を確認しなければならなかった。これ自体、非常に面倒かつ時間のかかる仕事であった。また、実際の工場の生産ラインなどでは、現在の生産計画に関係しない、例えば、数か月先に再度認識対象となるようなものを含めた全ての認識対象物を、常時準備しておくことはできないという問題もあった。この問題は、認識の閾値が、認識対象に依存して、試行錯誤的に決定されていて、認識条件に対して、物理的意味付けが明確になっていないことに起因していた。
【0007】本発明は、上記問題点を解消するためになされたもので、その目的とするところを箇条書きにすれば次の通りである。
■ 物理的に意味のある色認識の閾値決定法を提案すること。
■ グラフィック表示により、簡単に、閾値を設定する方法を提案すること。
■ 新しい認識対象がでてきたときには、新しい認識対象についてのみ、認識条件を教示するのみで、既に教示済みの認識対象については認識実験を再度実行する必要のないようにすること。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための考え方を以下に示す。色認識の対象物を、カラーカメラで撮像し、RGB(赤:R,緑:G,青:B)の画像に分離し、それぞれを、ディジタル変換して、3枚の多値画像の組として、カラー視覚センサの多値メモリに格納するが、例えば、ある特定の色のみを撮像したとしても、3枚の多値画像の組としてカラー視覚センサの多値メモリに格納された色データは、RGBそれぞれのメモリ内では、ある特定の色に固有の一定の値とはならない。メモリの値は、RGBそれぞれについて、図2に示すように、その色固有の各RGBの値を中心としたある分布を持つ。ここで、図2は、横軸に画像メモリ内の色の値(以下では、輝度と言う)を、縦軸にその発生頻度をとった色データの度数分布を表わしている。この分布の形状は、非常に、正規分布に近い。すなわち、画像メモリに格納された色データは、正規分布で近似することができる。このような事実にもとづけば、「画像処理応用技術」;田中弘編著(工業調査会、1990年)の95〜99頁に、撮像したある領域内が同一色であり、その色aの各RGB成分の輝度変化の分布が、平均値ベクトルm、共分散行列Σの正規分布をなすならば、任意のある色ベクトルfが、色aである確率Pa(f)は、次の■式のように与えられることが、示されている。なお、■式において、tは、ベクトルの転置を示す。
【0009】
【数4】


【0010】上の関係から、ある確率以上の色ベクトルfを色aであるとみなすことにすると、色ベクトルfは、次の■式の関係を満たす。
【0011】
【数5】


【0012】■式の左辺は、スカラー量であり、kは、統計の分野でいう1σ,2σ,……,kσなどのように使われる統計上の信頼度を与える量である。このkを、以下では、確信度kと言うことにする。
【0013】撮像したある領域内の色aの輝度変化の分布を、1成分のみについて示すと、図3の(a)のようになる。図3の(a)の色aについて、上記■式を満たす色成分は、例えば、図3の(a)において斜線を施した部分のようになる。ここで、上記したkは、また、図3の(a)における斜線部の幅を与えてもいる。
【0014】斜線部の面積の全体に対する比率をS(以下では、面積Sという)とすると、撮像したある領域内の色aは、「確信度kで、面積S以上を持つ色は、色aである。」という表現によって、定義することができる。
【0015】次に、図3の(b),(c)に、別の色成分b,cを撮像したときの、統計データ(色分布)、及び、色aについての前記■式を満たす色部分を斜線で示す。図3の(a)と図3の(b)とは、2つの色の統計量に重なりのない場合を示し、当然ながら、2つの色の区別は、可能である。図3の(a)と図3の(c)とからは、2つの色の統計量にかなりの重なりがあっても、k及び、Sを適切に選べば、色aの抽出、または、色aと他の色との区別ができることが分かる。
【0016】次に、一般の色情報(R,G,B)を扱う場合の考え方を示す。一成分のみの場合の説明から、色判別のための特徴量(閾値)は、kとSであることが、容易に推察される。そこで、横軸にk、縦軸にSをとって、図3の各色の状態を、今度は、RGBの三成分について、■式の関係を利用して描くと、図1が得られる。図1の作成は、色aについては、撮像した色の認識対象である領域(以下では、ウインドウという)の色ベクトルについて、kをパラメータとして、色aに関する■式を満たすSを順次求めて、グラフにすることにより行うことができる。同様に、色b、および、色cについては、撮像した色の認識対象であるウインドウの色ベクトルについて、kをパラメータとして、色aに関する■式を満たすSを順次求めて、グラフ化することにより行うことができる。図1の特性線100,101,102は、それぞれ、図3の色a,b,cの分布300,301,302に対応している。
【0017】図1から、色の特性を分離するように、例えば、kbとSbを色認識の閾値として選べば、閾値kb線上で、色aは、Sbより上側に、他の色は、下側に位置するようになるから、色aと他の色が、分離・判別できることが、容易に推察できる。また逆に、このような選択ができないときは、各色の区別ができないことになる。このように、図1を用いれば、色認識の閾値を容易に決定することができる。尚、閾値kbとSbの選択は、例えば、色aと他の色を判別する場合、色aの特性線と色cの特性線の間の任意の点を選択して良いこともわかる。
【0018】図1の利点は、色認識の認識条件が、2次元のグラフィック画面上で容易に判別・決定できることにある。もう1つの利点は、多次元情報を、人間の理解しやすい2次元のグラフィック画面上に表現できることである。もう1つの利点は、色認識の確度、もしくは、色判別の余裕度が、グラフの特性線の間隔から推定できることである。さらに、もう1つの利点は、色情報が、正規分布にしたがっていることから、色ベクトルの統計情報がわかっていれば、視覚認識装置の演算処理機能を利用して、任意の色ベクトルを与える擬似乱数を発生することができるので、一度実物教示をして色情報に関する統計情報(平均値、および、共分散)を記憶しておけば、既教示対象には再教示することなく擬似乱数を用いて図1を作成することができることである。図1を、以下では、k−Sグラフと呼ぶことにする。
【0019】
【作用】教示した色の、統計情報と実際の個別の色ベクトルデータ、または、擬似乱数を利用した色ベクトルデータを用いて、容易にk−Sグラフを作成することができる。k−Sグラフは、2次元の図形で表現されるので、人間の理解しやすい世界で、簡単に色認識教示ができるようになる。
【0020】
【実施例】以下、本発明を図示した実施例によって説明する。図4は、本発明の1実施例に係る色教示方法が適用されるカラー視覚センサの構成を示す図である。
【0021】図4において、1は、図示しない色認識対象物を撮影するための照明手段である。2は、図示しない色認識対象物を撮影するためのカラーカメラである。3は、カラーカメラ2の撮影した画像を表示したり、認識プロセスを表示したり、視覚認識の教示プロセスを表示したりするためのカラーモニタである。4は、カラーカメラ2で撮影したRGB三成分の画像データをカラーカメラより取り出し、ディジタルデータに変換して、後記多値画像メモリ5に格納するデータ変換手段である。5は、データ変換手段4の各RGBのディジタルの多値画像データを格納する多値画像メモリである。6は、視覚認識用の教示データを格納する教示データ用メモリである。7は、カラー視覚センサを操作するための種々のキースイッチを備えた操作手段である。8は、図示しない周辺装置から視覚認識実行指令を受信したり、認識結果を逆に送信したりするための通信手段である。9は、上記した各構成要素と電気的に接続された演算制御手段であり、該演算制御手段9は、通信手段8、および、操作手段7からの操作実行指令にしたがって、所定の機能を実行する。
【0022】ここで本発明は、カラー視覚センサの色教示方法に係るものであり、その内容について、以下詳細に説明するが、演算制御手段9の処理内容は、以下の説明から容易にわかるので、この処理フローの提示は省き、カラーモニタの表示画面を中心にして説明を行う。
【0023】視覚認識用の教示データを格納する教示データ用メモリ6は、図5に例示するように、複数の領域に分割されている。各領域には、0,1,2,……のように番号が付けられ、それぞれが、色認識の1つの実行単位となっている。色認識実行時には、通信手段8、または、操作手段7から領域番号を指定して色認識の実行を要求するようになっている。従って、各領域には、教示された条件の色認識が実行できるのに必要十分な教示データが格納されている。例えば、認識対象物の色認識場所(ウインドウ)、色認識方法、認識色の統計データ(平均値、共分散)などである。もちろん、認識内容は、1つに限定される必要はないので、複数個の認識項目が含まれていても良い。
【0024】カラー視覚センサの電源を入れると、予め決められた処理ステップにしたがって、演算制御手段9が、図6に示すような案内画面をカラーモニタ3に表示する。本実施例において色教示の場合には、カラー視覚センサの操作者が、案内画面から、操作手段7のキースイッチを操作して、項目番号1の色教示を選択する。
【0025】すると、図7に示す、次の案内画面が、演算制御手段9により、カラーモニタ3に表示される。図7の案内画面は、視覚認識用の教示データを格納する教示データ用メモリ6の、図5に例示した領域番号入力要求画面である。図7には、教示済み領域番号、および、未使用領域番号が表示されているので、カラー視覚センサの操作者は、案内画面にしたがって、操作手段7のキースイッチを操作して、新規教示(または、既教示データ修正)のための領域番号、例えば、0を入力する。
【0026】この入力により、領域0に対する色教示がスタートし、続いて、図8の案内画面が、演算制御手段9により、カラーモニタ3に表示される。色教示のベースは、実物教示であるから、カラー視覚センサの操作者は、まず、認識対象物をカラーカメラ2の前にセットし、照明条件、および、画像の移り具合を整えてから、操作手段7のキースイッチを操作して、図8の案内画面から、項目番号1の画像取り込みを選択する。これを受けて、演算制御手段9は、データ変換手段4に働きかけて、カラーカメラ2で撮影したRGB3成分の画像データをカラーカメラより取り出し、ディジタルデータに変換して、各RGBの多値画像データを多値画像メモリ5に格納させるとともに、案内画面と重複させて、カラーモニタ3に表示する。
【0027】次に、カラー視覚センサの操作者は、操作手段7のキースイッチを操作して、図8の案内画面の、項目番号2のウインドウ設定を選択する。これを受けて、演算制御手段9は、図8の案内画面を消去して、カラーカメラ2からとりこんだカラー画像のみをカラーモニタ3に表示する。カラー視覚センサの操作者は、このカラーモニタ3の表示を見ながら、操作手段7のキースイッチを操作して、色認識対象領域に、図9に示すようなウインドウ500を設定する。これを受けて、演算制御手段9は、設定されたウインドウデータ(この場合は、長方形ウインドウを特定するモニタ画面のウインドウの座標値)を指定の領域0に格納し、カラー画像を消去して、再度、図8の案内画面を表示する。
【0028】次に、カラー視覚センサの操作者は、操作手段7のキースイッチを操作して、図8の案内画面の、項目番号3の認識手法の設定を選択する。これを受けて、演算制御手段9は、図10に示す案内画面を表示する。認識手法については、後で、説明する。ここでは、前述の■式を用いる認識手法を、RGB最ゆう(尤)度法と呼び、これを、選択することにする。すなわち、カラー視覚センサの操作者は、操作手段7のキースイッチを操作して、図10の案内画面の項目番号2を選択する。これを受けて、演算制御手段9は、多値画像メモリ5に格納された各RGBの多値画像データを参照して、図9の指定されたウインドウ500内の各RGB成分の統計量(平均値、共分散)を求め、これと、指定された認識手法を指定の領域0に格納する。ここでは、色aが教示されたとする。
【0029】次に、演算制御手段9は、再度、図8の案内画面を表示する。これを受けて、カラー視覚センサの操作者は、操作手段7のキースイッチを操作して、図8の案内画面の、項目番号4の閾値の設定を選択する。
【0030】これを受けて、演算制御手段9は、カラーモニタ3に、図1に示す閾値教示画面の座標軸を表示したのちに、今教示された色aに関する特性線100を、領域0のメモリ内容(認識手法、ウインドウ位置、教示した色の平均値ベクトル、および、共分散等)と多値画像メモリ5に格納された各RGBの多値画像データを参照して、■式の関係式を利用して求め、これをグラフィック表示する。
【0031】さらに、もし、教示データ用メモリ6の他の領域に、同じ認識手法で認識する色データが教示されていれば、例えば、前述の色bと色cが教示されていれば、それぞれについて、それぞれの教示データの記憶されている領域から、それぞれの統計量(色b,色cの平均ベクトルと共分散)を取り出し、これをベースに、統計的に十分な数のサンプル色ベクトルfを乱数を使って発生し、色aに関する■式を用いて、それぞれの特性線を求め、図1に色bの特性線101、および、色cの特性線102として、グラフィック表示する。
【0032】最後に、閾値決定のための+記号のカーソルを、図1の予め決めておいた位置に初期表示する。
【0033】これを受けて、カラー視覚センサの操作者は、操作手段7のキースイッチを操作して、図1の+記号のカーソルを移動させ、色判別に適正と思われる位置に位置決めしたのち、完了信号に相当するキースイッチを操作する。これを受けて、演算制御手段9は、+記号のカーソルの座標位置、すなわち、認識の閾値(kb,Sb)を、図5の教示用データメモリ6の領域0に格納記憶する。
【0034】このようにして、色認識のためのカラー視覚センサへの色教示がカラーモニタ3のグラフィック画面上で簡単に行える。
【0035】尚、上記説明では、演算制御手段9の処理内容は、周知の演算処理手段等を利用して容易に実現できるので、中身の詳細についての説明は省略した。
【0036】また、色教示の手順も、本発明を説明できる程度に絞って、かなり簡略化した形で説明した。実際のカラー視覚センサの場合は、これとは異なる手順となる場合も起こりうる。
【0037】また、認識教示の際の案内画面も、進行方向側についてのみしか示さなかったが、実際上は、案内画面の後退操作などもありうる。
【0038】しかし、基本は、図1に示したように、教示したある色を基準に、各教示色の特性線をグラフィック表示し、カーソルを移動させて、色認識の閾値を、グラフィック画面上で簡単に設定することにある。
【0039】また、上述の説明では、教示したばかりの色の特性線は、実物画像の色データに従って、作成するとしたが、既教示色の場合と同様に、乱数を使って作成するようになっていても良いし、いずれかを選択できるようになっていても良い。乱数を使えるようにする利点は、例えば、図7の領域番号指定画面で、教示済みの番号を選んで、次の、図8の教示案内画面で、いきなり項目番号4の認識の閾値の設定を選べば、演算制御手段9が、前述のk−Sグラフを表示すると共に、既教示の色認識の閾値をモニタ画面に表示するようにしておけば、カラーカメラ2による撮影なしで、図1の色の閾値教示画面が得られ、既教示の閾値を確認できるというようにも利用できる点にある。
【0040】また、本発明の色教示方法は、前記■式、または、前記■式で表現したRGB最ゆう度法にのみ適用するものではなく、確信度kをパラメータとするある評価式をもとに、本発明の説明で用いた面積S、または、類似の評価量を使って、図1に示した色閾値教示方法が使えるものであれば、色認識手法はどのようなものであっても良い。例えば、「画像処理応用技術」;田中弘編著(工業調査会、1990年)の95頁に、記載されている多次元スライス法は、色画像データの2値化の方法として紹介されているが、これを、次のように変形すれば、本発明の方法が適用できることは、明白である。
【0041】
【数6】


【0042】ここで、上記■式において、(R,G,B)は、前述の色ベクトルfの成分、(mr,mg,mb)は、前述の色ベクトルfの平均値ベクトルmの成分、(σr,σg,σb)は、前述の色ベクトルfの共分散行列Σの対角要素の平方根、もしくは、色ベクトルのRGB成分の各標準偏差である。
【0043】また、例えば、「コンピュータ画像処理入門」;田村秀行監修(総研出版、1985年)の238〜260頁に記載されているように、RGB画像データを、明度、色度に分離する方式において、この明度、色度について■式の関係式を適用することもできる。また、2次元の情報である色度についてのみ■式の2次元の関係式を適用することもできる。またさらに、明度については、■式の関係式にあるスライス法を、色度については、■式の2次元の関係式を適用して、組み合わせて1つの評価式として適用することもできる。
【0044】また、図1の特性線のグラフィック表示において、特性線を色分けしたり、実線、破線、太線、細線等を使って表示するようにすると、本発明の色教示がさらにより良いものになることは、言うまでもない。
【0045】また、さらに、図1の+記号の閾値設定用カーソルの初期表示についても、まだ閾値の教示が未完の場合は、教示色の特性線100と判別色の特性線の中で、特性線100と最も近い特性線、図1の場合では特性線102を自動的に選択し、教示色の特性線100と選択した特性線との間で、kb線の方向の距離が最も大きくなる位置に+記号のカーソルを表示するようにすれば、認識用閾値の設定が容易になる。また閾値の教示が完了している場合は、既に教示された閾値の位置へカーソルを初期表示すれば、教示結果の確認または再教示が容易になることは言うまでもない。
【0046】また、さらに、本発明の閾値決定法の変形として、図1の確信度閾値kbの値を、予め固定値として設定し、Sbの値のみを決定するような方法としても良い。その場合も、図1に示したグラフを用いて、Sbをkb線上を移動させて決定しても良く、または、図1のkb線上の各特性線の座標値Sを、カラーモニタ3の画面上に表示して、最適値を、数値入力したり、自動決定したりするような方法としても良い。
【0047】また、さらに、色認識対象物の特性は、照明条件、認識環境条件などによって微妙に異なる。本発明のグラフィック表示機能を用いれば、同一の認識対象物を繰返し撮影して、それらを同一の画面上に重ねて表示すれば、色認識対象物の微妙な色の特性のバラツキを視覚的に確認することができるから、特性のバラツキを含めた色認識の余裕度を把握することができる。
【0048】また、さらに、本発明のグラフィック表示には、色の統計量(平均値ベクトル、共分散行列)を、視覚センサのメモリに記憶しておくだけで良いから、相当数の色情報をメモリに記憶するようにしてもほとんどメモリは必要とされず、本発明を実現する上で、コストアップすることもない。
【0049】
【発明の効果】以上述べたように、本発明による色教示方法においては、ある領域内の色データについて、確信度kをパラメータとする評価式を用い、評価式を満たす色データの数をカウントし、領域面積との比率Sを求める手段により、教示色を基準として、種々の色データについて、図1に示すk−S特性線をカラー視覚センサのカラーモニタにグラフィック表示すると共に、複数の特性線のグラフィック表示の位置関係から認識したい色を判別するための閾値を、グラフィック画面上で設定できるようにしたので、■ 物理的に意味のある色認識の閾値決定ができると共に、■ グラフィック表示により、簡単に、閾値を設定することができるようになった。また、上記特性線を、色データの特徴量を利用して、乱数を用いて作成できるようにしたので、■ 新しい認識対象ができたときには、新しい認識対象についてのみ、認識条件を教示するのみで、既に教示済みの認識対象については認識実験を再度実行する必要がなくなった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による色教示の手法を説明するためのカラーモニタ上の画面の1例を示す説明図である。
【図2】色のRGB成分の分布例を示す説明図である。
【図3】色別の色成分の分布例を示す説明図である。
【図4】本発明の1実施例による色教示方法が適用されるカラー視覚センサの構成を示す説明図である。
【図5】本発明の1実施例による色教示用データメモリの構成例を示す説明図である。
【図6】本発明の1実施例によるカラーモニタ上のモード選択画面例を示す説明図である。
【図7】本発明の1実施例によるカラーモニタ上の領域番号指定画面例を示す説明図である。
【図8】本発明の1実施例によるカラーモニタ上の教示案内画面例を示す説明図である。
【図9】本発明の1実施例によるカラーモニタ上のウインドウ設定画面例を示す説明図である。
【図10】本発明の1実施例によるカラーモニタ上の認識手法設定画面例を示す説明図である。
【符号の説明】
1 照明手段
2 カラーカメラ
3 カラーモニタ
4 データ変換手段
5 多値画像メモリ
6 教示用データメモリ
7 操作手段
8 通信手段
9 演算制御手段
100 色aの特性線
101 色bの特性線
102 色cの特性線
+記号 閾値設定用カーソル

【特許請求の範囲】
【請求項1】 色認識対象物を撮影するためのカラーカメラと、カラーカメラの撮影した画像を表示したり、認識プロセスを表示したり、視覚認識の教示プロセスを表示したりするためのカラーモニタと、カラーカメラで撮影したRGB三成分(R:赤,G:緑,B:青)の画像データをカラーカメラより取り出し、ディジタルデータに変換するデータ変換手段と、各RGBのディジタルの多値画像データを格納する多値画像メモリと、視覚認識用の複数の色教示データを格納する複数の領域に分割された教示データ用メモリと、カラー視覚センサを操作するための操作手段と、操作手段などからの操作実行指令にしたがって、所定の機能を実行する演算制御手段と、を備えたカラー視覚センサにおいて、前記教示データ用メモリの複数に分割された各領域を、色認識教示結果の色認識ウインドウ、色認識方法、認識色の統計データ(平均値、共分散など)、色認識の閾値(確信度k、面積比率S)などを格納できるように構成し、色認識教示のプロセスにおいて、カラー視覚センサの操作者が、カラーモニタの案内画面を参照しながら操作手段を操作して、教示データ用メモリの領域指定、色認識対象物の撮影、データ変換手段による撮影画像のディジタル変換と多値画像メモリへの格納、色認識ウインドウの指定、色認識手法の選択などのプロセスを通して、カラー視覚センサの教示データ用メモリの指定の領域に、前記色認識ウインドウ、色認識手法、認識ウインドウで指定される多値画像メモリのデータから求めた認識色の統計データ(平均値、共分散など)などを格納した後で、同じく、カラー視覚センサの操作者が、カラーモニタの案内画面を参照しながら操作手段を操作して、色認識の閾値(確信度k、面積比率S)設定を選択すると、(A)演算制御手段が、確信度kを横軸に、面積比率Sを縦軸にとった座標軸を、カラーモニタ画面に表示するプロセスAと、(B)演算制御手段が、指定された色の統計データと指定された認識手法で決まるあらかじめ定められた確信度kをパラメータとする評価式を用いて、教示用データメモリの指定の領域で指定される色認識ウインドウで指定される多値画像メモリの全データについて、評価式を満たすものの数を計数し、全データ数に対する比率S(面積比率S)を求めることにより、k−Sの特性線を求め、前記カラーモニタ画面に描画するプロセスBと、(C)演算制御手段が、指定以外の教示用データメモリの領域に、教示された色データがあるときは、教示された色すべてについて、教示された色の統計データ(平均値、分散)を基に乱数を使って色サンプルを作成し、前記指定の領域で指定される色の統計データと指定された認識方式で決まる前記評価式にしたがって、多数の色サンプルの内、前記評価式を満たすものの数を計数し、全色サンプルに対する比率Sを求めることにより、指定以外の教示色全てのk−S特性線を求め、前記カラーモニタ画面に描画するプロセスCと、(D)演算制御手段が、教示用データメモリの指定の領域で指定される色と、他の領域に教示された複数の色を分離判別するための、閾値設定用のカーソルを、前記カラーモニタ画面に表示するプロセスDと、(E)カラー視覚センサの操作者が、カラーモニタ画面を参照しながら、操作手段を操作して、閾値設定用のカーソルを適切な位置に移動・設定するプロセスEと、(F)演算制御手段が、カーソル位置(確信度k、面積比率S)を読み取り、前記教示用データメモリの指定の領域に、色認識閾値として、格納・記憶するプロセスFと、を演算制御手段に具備、実行せしめるようにしたことを特徴とするカラー視覚センサの色教示方法。
【請求項2】 色認識対象物を撮影するためのカラーカメラと、カラーカメラの撮影した画像を表示したり、認識プロセスを表示したり、視覚認識の教示プロセスを表示したりするためのカラーモニタと、カラーカメラで撮影したRGB三成分(R:赤,G:緑,B:青)の画像データをカラーカメラより取り出し、ディジタルデータに変換するデータ変換手段と、各RGBのディジタルの多値画像データを格納する多値画像メモリと、視覚認識用の複数の色教示データを格納する複数の領域に分割された教示データ用メモリと、カラー視覚センサを操作するための操作手段と、操作手段などからの操作実行指令にしたがって、所定の機能を実行する演算制御手段と、を備えたカラー視覚センサにおいて、前記教示データ用メモリの複数に分割された各領域を、色認識教示結果の色認識ウインドウ、色認識方法、認識色の統計データ(平均値、共分散など)、色認識の閾値(確信度k、面積比率S)などを格納できるように構成し、色認識教示のプロセスにおいて、カラー視覚センサの操作者が、カラーモニタの案内画面を参照しながら操作手段を操作して、教示データ用メモリの領域指定、色認識対象物の撮影、データ変換手段による撮影画像のディジタル変換と多値画像メモリへの格納、色認識ウインドウの指定、色認識手法の選択などのプロセスを通して、カラー視覚センサの教示データ用メモリの指定の領域に、前記色認識ウインドウ、色認識手法、認識ウインドウで指定される多値画像メモリのデータから求めた認識色の統計データ(平均値、共分散など)などを格納した後で、同じく、カラー視覚センサの操作者が、カラーモニタの案内画面を参照しながら操作手段を操作して、色認識の閾値(確信度k、面積比率S)設定を選択すると、(A)演算制御手段が、確信度kを横軸に、面積比率Sを縦軸にとった座標軸を、カラーモニタ画面に表示するプロセスAと、(B)演算制御手段が、教示用データメモリの指定の領域で指定された色の統計データ(平均値、分散)を基に乱数を使って色サンプルを作成し、指定された色の統計データと指定された認識方式で決まるあらかじめ定められた確信度kをパラメータとする評価式を用いて、全色サンプルの内、評価式を満たすものの数を計数し、全サンプル数に対する比率S(面積比率S)を求めることにより、k−Sの特性線を求め、前記カラーモニタ画面に描画するプロセスBと、(C)演算制御手段が、指定以外の教示用データメモリの領域に、教示された色データがあるときは、教示された色すべてについて、教示された色の統計データ(平均値、分散)を基に乱数を使って色サンプルを作成し、前記指定の領域で指定される色の統計データと指定された認識方式で決まる前記評価式にしたがって、多数の色サンプルの内、前記評価式を満たすものの数を計数し、全色サンプルに対する比率Sを求めることにより、指定以外の教示色全てのk−S特性線を求め、前記カラーモニタ画面に描画するプロセスCと、(D)演算制御手段が、教示用データメモリの指定の領域で指定される色と、他の領域に教示された複数の色を分離判別するための、閾値設定用のカーソルを、前記カラーモニタ画面に表示するプロセスDと、(E)カラー視覚センサの操作者が、カラーモニタ画面を参照しながら、操作手段を操作して、閾値設定用のカーソルを適切な位置に移動・設定するプロセスEと、(F)演算制御手段が、カーソル位置(確信度k、面積比率S)を読み取り、前記教示用データメモリの指定の領域に、色認識閾値として、格納・記憶するプロセスFと、を演算制御手段に具備、実行せしめるようにしたことを特徴とするカラー視覚センサの色教示方法。
【請求項3】 請求項1または2記載において、前記プロセスBで表示される特性線の色と、前記プロセスCで表示される特性線の色とを、異なる色としてカラーモニタに表示するようにしたことを特徴とするカラー視覚センサの色教示方法。
【請求項4】 請求項1または2記載において、前記プロセスBと前記プロセスCとで表示される特性線の位置関係から、演算制御手段が、最適な閾値(確信度k、面積比率S)を判断し、前記プロセスDで、判断した値に相当するカラーモニタ画面の位置に、閾値設定用カーソルを表示するようにしたことを特徴とするカラー視覚センサの色教示方法。
【請求項5】 請求項1または2記載において、選択した教示データ用メモリの領域の色が、既に教示済みの色であったときは、演算制御手段が、既教示の閾値(確信度k、面積比率S)を指定のメモリより取り出し、前記プロセスDで、取り出した値に相当するカラーモニタ画面の位置に、閾値設定用カーソルを表示するようにしたことを特徴とするカラー視覚センサの色教示方法。
【請求項6】 請求項1または2記載において、前記した確信度kを境界値とし、教示データ用メモリの指定の領域の色の統計データを基準とする評価式は、fを、(R,G,B)を成分とする色ベクトル、mを、(R,G,B)を成分とする教示色の平均ベクトル、Σを、(R,G,B)を成分とする教示色の共分散行列、としたとき、
【数1】


上式で表わされるものであることを特徴とするカラー視覚センサの色教示方法。
【請求項7】 請求項1または2記載において、前記した確信度kを境界値とし、教示データ用メモリの指定の領域の色の統計データを基準とする評価式は、fを、色度(色相、彩度)を成分とする色ベクトル、mを、色度(色相、彩度)を成分とする教示色の平均ベクトル、Σを、色度(色相、彩度)を成分とする教示色の共分散行列、としたとき、
【数2】


上式で表わされるものであることを特徴とするカラー視覚センサの色教示方法。
【請求項8】 請求項1または2記載において、前記した確信度kを境界値とし、教示データ用メモリの指定の領域の色の統計データを基準とする評価式は、R,G,Bを、それぞれ色のR,G,B成分、mr,mg,mbを、それぞれ教示色の平均値、σr,σg,σbを、それぞれ教示色の標準偏差、としたとき、
【数3】


上式で表わされるものであることを特徴とするカラー視覚センサの色教示方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開平7−44706
【公開日】平成7年(1995)2月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−190085
【出願日】平成5年(1993)7月30日
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)