カラー陰極線管及びその製造方法
【課題】蛍光面へのバリウム膜の付着を抑制し、バリウム膜による輝度劣化及び輝度むらを防止し、かつ、所定以上のゲッター吸着能力を保持し、さらには、設計上の放電電流を維持する高輝度カラー陰極線管を提供し、さらに、設備投資を行わない高輝度カラー陰極線管の製造方法を提供する。
【解決手段】陰極線管体内に、電子銃6と蛍光面3と色選別機構4と内部磁気シールド9とゲッター部12を有してなるカラー陰極線管1であって、ゲッター部は、前記内部磁気シールドを介して前記蛍光面3中心へのゲッター材の飛散を維持できる位置に配置され、ゲッター部12に対向する内部磁気シールド9の面には、複数のゲッター窓13、13aが形成されてなる
【解決手段】陰極線管体内に、電子銃6と蛍光面3と色選別機構4と内部磁気シールド9とゲッター部12を有してなるカラー陰極線管1であって、ゲッター部は、前記内部磁気シールドを介して前記蛍光面3中心へのゲッター材の飛散を維持できる位置に配置され、ゲッター部12に対向する内部磁気シールド9の面には、複数のゲッター窓13、13aが形成されてなる
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テレビ受像機や、ディスプレイ端末用等に用いられるカラー陰極線管に関し、陰極線内部で高真空を保つためのゲッターに関する。
【背景技術】
【0002】
カラー陰極線管30は、図7に示すように、前面ガラスパネル31(以下、パネルと呼ぶ)と、漏斗状のガラスファンネル37(以下、ファンネルと呼ぶ)と、ガラスネック部41(以下、ネック部と呼ぶ)とにより真空外囲器、すなわち陰極線管体が構成される。この陰極線管体内には、色選別機構33と外部磁界を遮蔽する内部磁気シールド40(Inner Magnetic Shield)が配置され、パネル31の内面に赤、緑及び青の3色の蛍光体を塗布した蛍光スクリーン、すなわち蛍光面32が形成され、さらにネック部41内に電子放出機構を有する電子銃42が配置される。色選別機構33としては、例えば多数の電子通過孔が形成された色選別用電極薄板を有する、いわゆるシャドーマスク(Shadow Mask)、或いは、すだれ状の隙間(電子通過孔)を設けた色選別用電極薄板をフレームに架張してなる、いわゆるアパーチャーグリル(Aperture Gril)等が用いられる。
【0003】
さらに陰極線管内部には、陰極線管稼動状態で真空雰囲気を維持する為に、ゲッター容器内にバリウムを主成分とするゲッター材を下収納したゲッター部39が配置される。製造工程中に、ゲッター部39を加熱することによって、バリウム材を飛散させ、陰極線管内壁に付着させる。このようにゲッター皮膜であるバリウム膜を管内に形成することによって、バリウム膜に管内の排気残留ガスや陰極線稼動時の放出ガスを吸着させ、良好な真空度を保持することができる。
ゲッター部39には、アルミニウムバリウム合金を粉砕した粉末とニッケル粉末を主に混合したものが、ステンレス製円形容器に圧縮して詰められている。
【0004】
カラー陰極線管30の製造工程において、パネル31の内面は蛍光体が塗布され蛍光面32をなし、色選別機構33、内部磁気シールド40、ゲッター部39等をパネル31とファンネル37内に配置した後に、パネル31とファンネル37をガラスハンダにて接着し、その後電子銃42を封入して真空排気する。真空排気された陰極線管30はゲッター飛散工程に送られる。そして、陰極線管30外部に配置された図示しない高周波コイルに高周波電流を流すことにより、陰極線管内部に配置したゲッター部39に誘導電流が誘発され、この誘導電流によりゲッターが誘導加熱されて、真空中でバリウム金属が飛散される。当該バリウム粒子は対向したガラス内壁、色選別機構33、内部磁気シールド40等に付着する。
このようして、製造工程において陰極線管30内にバリウム膜が形成される。
特許文献1には、内部磁気シールド40膜に指向性を持たせた窓を設けることによって、蛍光面32へのゲッター皮膜の生成を低減し、蛍光面32の輝度むらを抑制する方法が記載されている。特許文献2においては、色選別機構33にゲッター皮膜を付着させないために、ゲッター位置を工夫したカラー陰極線管が記載されている。また、特許文献3には、上部へのゲッター飛散を防止するために、ゲッターシールドが用いられている。
【0005】
ところで、カラー陰極線管の稼動状態においては、電子銃42から高エネルギーの電子流が発せられ、この電子流が、蛍光面32を構成する、色の三原色である、赤、青、緑の蛍光体をそれぞれ励起することにより、天然色を伴う光が発せられる。蛍光体は、赤、青、緑の3色で発光効率が異なるため、所望する色を得るためには、予め電子銃42からの電子流の電流量が調整される。またこの電子流は蛍光面32にぶつかるだけでなく、反射して他の内蔵物にも衝突するので、これにより陰極線管30内において、ガス分子がたたき出されることになる。
【特許文献1】特開2003−68236号公報
【特許文献2】特開平11−162380号公報
【特許文献3】実開平1−70255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、第1の課題について説明する。
ゲッター材であるバリウムは気体と非常に強い反応を示す金属であり、陰極線管内に上述したようなガス分子がある場合には、そのガス分子と強く反応し、すなわちガス分子を吸着する。従来、この作用を利用し、バリウム膜に、排気残りのガス分子や、稼動時に内蔵物から電子銃からの電子ビームによって叩き出されてくるガス分子を吸着させることによって、陰極線管内の高真空が保持されている。
【0007】
上述したように、陰極線管は、バリウム膜へのガス分子の吸着により高真空が保持されているが、バリウム膜はバリウム原子が多層にわたり積層された状態のため、バリウム膜表面に吸着したガス分子は、その後、時間の経過と共にバリウム膜内部に拡散していく。また、ガス分子によってバリウムとの結合エネルギーが異なるため、バリウム膜へのガス分子の衝突時の吸着率、すなわち、捕捉確立が異なり、バリウム膜への一度の衝突では捕捉されないガス分子も多い。したがって、バリウム膜へのガス分子のガス吸着率は、バリウム表面積に大きく律速される。さらに、ガス分子のバリウム膜内部への拡散速度は、バリウム膜表面への吸着速度に比べ非常に小さい為、陰極線管の寿命時間を通じてのバリウム吸着能力は、バリウム膜の厚さではなく、バリウム膜の表面積に大きく依存することとなる。
【0008】
また、ガスの放出速度は寿命時間を通じて一定ではなく、当初は非常に多いが時間と共に減衰するため、ゲッター量はバリウム膜寿命とガス放出量のバランスで決められる。しかし、ゲッター量が多くても、バリウム膜が厚いと、上述したように表面ガス吸着面積が減少するため、吸着能力が悪くなり、ガス分子のバリウム膜内部への拡散が不十分な時点で全表面にガスが吸着してしまい、ガス吸着能力が飽和してしまう。
【0009】
したがって、ゲッターを使用する際の第1の課題として、初期のガス吸着速度、及び、陰極線管寿命時間を通じてのバリウムのガス吸着能力、すなわちゲッター吸着能寿命を確保するために、バリウムの厚さが均一で、広面積なバリウム膜を得ることが根本となる。
【0010】
次に、第2の課題について説明する。
ファンネル内面には陽極高電圧を供給するアノードボタンが設置されている。このアノードボタンに供給された20乃至30kV程度の高電圧が、蛍光面、色選別機構、及び電子銃に供給される。このアノードボタンに供給された高電圧は、ファンネル内面に塗布された導電性皮膜を介し、蛍光面などに供給される。導電性皮膜は、主として、粒状グラファイト及び水ガラスよりなる。
【0011】
電子銃から発せられたマイナスの電子流は、アノードボタンから電子銃へ供給されたプラスの高電圧により加速され、プラスの高電圧となっている蛍光体が塗られたパネルの内面、すなわち蛍光面に衝突し、光を発する。このため、蛍光面上にバリウム膜が付着していると、このバリウム膜により、マイナスの電子流は妨害され、蛍光面に達する電子数が少なくなり、出てくる光、すなわち輝度、明るさが劣化する。
この輝度劣化率は蛍光面上のバリウム膜の厚さにより異なり、以下の関係がある。
【0012】
【数1】
Bは発光明るさ、Eb(kV)はアノードボタンにかかる電圧、Ibは電子銃から発せられる電子ビーム電流(mA)、Sはラスター面積(m3)、Tfはパネルのガラス光透過率及び蛍光面発光効率、E0はバリウムの膜厚、蛍光体層、及び、蛍光体上に蒸着したアルミ膜厚により変動する値である。
【0013】
ここで、蛍光面上には、極力バリウムの付着を避ける必要があり、上述したように特許文献1及び2では、蛍光面上にバリウムの付着を回避する工夫がなされているが、バリウム膜が全く無い場合には、寿命時間の吸着能力が劣ることとなるので、なるべく薄く広い面積で、均一な膜厚のバリウム付着が求められる。また、蛍光体上へのバリウム膜の膜厚が大きくばらつくと、画面での輝度差が大きくなり、画面上で暗く感じる場所がでてくる。
【0014】
したがって、ゲッターを使用する際の第2の課題として、高輝度の陰極線管を得るために、蛍光面への均一な厚さで薄く広い面積のバリウム膜を作ることが挙げられる。
【0015】
最後に第3の課題について説明する。
電子銃には、電子流を発散させないように、低電圧も供給される。このため、電子銃内の高電圧供給部と低電圧供給部の間は20kV程度の大きな電位差となり、この間にごみがある場合や電界集中が起こると部品間で放電現象を生ずる事がある。放電現象が起きると、陽極電圧供給部であるアノードボタンから電子銃を介し、回路に放電電流が流れ、この放電電流が高い場合は、故障の原因となる。
【0016】
従来、上述した放電電流を低く抑えるために、導電性皮膜の電気抵抗を高くし、流れる電流を抑えるということが行われている。
ところで、陰極線管においては、上述したように、真空度を維持するためにゲッター及びバリウム膜の形成は不可欠なものであるが、この蒸着バリウム膜は、陰極線管内の真空中では金属バリウムとなっているために非常に導電性が高い。また、特許文献1のように、蛍光面にバリウム膜を付着させないようにするために、内部磁気シールドの裏側にゲッターを配置する方法や、特許文献3のようにゲッター上部にゲッターシールドを取付け、上部へのゲッター飛散を防止する方法が取られるが、飛散バリウムは前述したとおり、金属に衝突した場合、跳ね返され他の部分に付着する。
【0017】
ゲッター上部に設けられた内部磁気シールドやゲッターシールドなどの金属に跳ね返されたバリウムは、ファンネルに堆積する。このように、従来の方法では、内部磁気シールドやゲッターシールドと対向したファンネル位置にバリウムが厚く付着し、さらには、ファンネルの電子銃の近くまでバリウムが付着する。
このため、バリウム膜がファンネル内に形成された導電性皮膜上に付着した場合には、電流は導電性皮膜内部を通らず、抵抗の小さいバリウム膜を通ることとなり、導電性皮膜の電気抵抗値を高くしても高電流となる。したがって、バリウム膜により、大きな放電電流が発生しやすくなる。すなわち、導電性皮膜にバリウム膜が付着することによって、バリウム膜と電子銃間の導電性皮膜の距離が短くなることによって、導電性皮膜の抵抗が大きなものであったとしても、電流が流れやすくなる。
【0018】
したがって、ゲッターを使用する際の第3の課題として、放電電流が回路に流れ込むのを防ぐために、ゲッター飛散の際に、陽極電圧供給部であるアノードボタンの近傍、及ファンネル、及び電子銃付近のファンネルにバリウム膜が厚く付着するのを回避することが挙げられる。
【0019】
以上のように、ゲッター使用の際の課題として、第1〜3の課題が挙げられる。ところが、第1の課題であるゲッター吸着能寿命時間を延ばすためには、広い面積が取れる蛍光面上にバリウム膜を付着させることが考えられるが、そうすると、第2の課題である高輝度で均一な輝度が得られない可能性がある。そして、第2の課題である高輝度で均一な輝度を確保するためには、蛍光面上にバリウム膜を付着させない方法が考えられるが、そうすると、アノードボタン、及びファンネルにバリウム膜が厚く形成されて、放電電流がアノードボタンを介して回路に流れ込み、故障の原因となり、さらには、ゲッター吸着能寿命時間も短くなる。第3の課題である放電電流を抑制するために、アノードボタン近傍にバリウム膜を形成させないようにするには、第1の課題である、ゲッター吸着能寿命時間が犠牲になってしまう。従来のゲッター使用においては、以上のようなトリレンマがあり、第1〜第3までの課題を同時に解消することができない。また、ゲッター位置の大幅な変更はゲッター飛散装置の大幅な改造が必要であり、コストアップへ繋がる。
よって、ゲッターを使用する際の究極の課題としては、コストアップ無く、高輝度を得ることがあげられる。
【0020】
本発明は、上述の点に鑑み、蛍光面へのバリウム膜の付着を抑制し、バリウム膜による輝度劣化及び輝度むらを防止し、かつ、所定以上のゲッター吸着能力を保持し、さらには、設計上の放電電流を維持する高輝度カラー陰極線管を提供し、さらに、設備投資を行わない高輝度カラー陰極線管の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明のカラー陰極線管は、陰極線管体内に、電子銃と蛍光面と色選別機構と内部磁気シールドとゲッター部を有してなるカラー陰極線管であって、ゲッター部は、内部磁気シールドを介して前記蛍光面中心へのゲッター材の飛散を維持できる位置に配置され、ゲッター部に対向する内部磁気シールドの面には、複数のゲッター窓が形成されてなることを特徴とする。
【0022】
本発明のカラー陰極線管では、内部磁気シールドに複数のゲッター窓を有することにより、ゲッター材が陰極線管体全体に飛散される。
【0023】
本発明のカラー陰極線管の製造方法は、陰極線管体内に、電子銃と蛍光面と色選別機構と内部磁気シールドを有するカラー陰極線管の製造方法であって、陰極線管体内に、蛍光面の中心に向かうようにゲッター部を配置し、ゲッター部に対向する位置に複数のゲッター窓を有する内部磁気シールドを色選別機構に取り付ける工程と、陰極線管体を真空封止した後、ゲッター部を加熱してゲッター材を飛散させる工程とを有することを特徴とする。
【0024】
本発明のカラー陰極線管体の製造方法では、ゲッター部が蛍光面の中心に向かってゲッター部が配置され、複数のゲッター窓を介してゲッター材が飛散されるので、管内に均一にゲッター膜が形成される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、バリウム膜は蛍光体上に均一に飛散し、さらに、内部磁気シールド上とファンネル内面の電子銃から離れた所望の部分に付着する。このため、ゲッター吸着能寿命が優れ、放電電流も抑制され、かつ輝度を落とすことなく、輝度むらのない高輝度カラー陰極線管を製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0027】
図1、2に本発明に係るカラー陰極線管の一実施の形態の概略構成を示す。一般的に、テレビやコンピュータなどに組み込まれたカラー陰極線管は、視聴者から見て、水平方向と垂直方向の寸法が異なっており、水平方向の寸法が長くなっている。図1は、本例におけるカラー陰極線管1の水平方向の概略断面構成であり、図2は、垂直方向の真上から陰極線管1の一部断面を示す概略構成を示す。
【0028】
本実施の形態に係るカラー陰極線管1は、パネル2とファンネル15とネック部5とがガラスハンダによって接合されてなる陰極線管体の、パネル2の内面に、赤、緑、及び青の蛍光体層からなるカラー蛍光面(以下蛍光面)3が形成され、この蛍光面3に対向して色選別機構4(アパーチャーグリル、シャドウマスク等)が配置され、ネック部5内に電子銃6が配置されてなる。色選別機構4は、これに取り付けられている支持スプリング7の先端をパネル2の内側壁に一体のパネルピン8に接合させてパネル2内に支持される。また、色選別機構3には、地磁気の影響を防ぐための内部磁気シールド9が取り付けられている。そして、陰極線管体内部には、ファンネル15からネック部5の一部にわたって、導電性皮膜14が塗布されている。図3に、本実施の形態における色選別機構4である例えばアパーチャーグリルと内部磁気シールド9の概略分解図を示す。色選別機構4であるアパーチャーグリルは、相対向する支持部材51,52と、その両端間に連接された弾性付与部材53,54とからなるフレーム10ガ設けられ、支持部材51,52間にすだれ状間隙(電子流透過孔)が形成されて、色選別用薄板55が架張されてなる。各支持部材51,52、弾性付与部材53,54には、パネルピンに嵌合する嵌合手段56を有する。支持スプリング7がスプリングホルダー57を介して溶接されている。
本例では、内部磁気シールド9は、図3に示すように、色選別機構4のフレーム部10を覆うようにして配置される。このとき、また、図2に示すように、例えば円形のゲッター容器にゲッター材が収納されたゲッター部12を有するゲッター手段は、陰極線管1のファンネル15に形成された陽極電圧供給部であるアノードボタン11に取り付けられている。
【0029】
図4に、本例のゲッター手段20の概略構成図(図4A)と、ゲッター手段20をアノードボタン11に取り付けたときの概略断面構成(図4B)を示す。本実施の形態におけるゲッター手段20は、ゲッター手段20をアノードボタン11に取り付けるための取付部17と、ゲッター部12と取付部17を接続するためのゲッタースプリング16とが互いに接合され、構成されている。このゲッター手段20の取付部17に形成された孔部17Aを陰極線管1のファンネル15内に突出するアノードボタン11の凸部に圧入して固定され、ゲッタースプリング16の長手方向22と、管軸方向22とが、垂直関係を有するようにアノードボタン11に取り付けられる。よって、ゲッター手段20は、管軸と垂直関係を有するようにファンネル15面に沿って取り付けられる。このとき、ファンネル15の曲率の関係から、ゲッター部12の向きは蛍光面3の略センターに対向する。つまり、ゲッター部12がアノードボタン11と同じ高さになることにより、蛍光面3の略センターにゲッター部12が向くようになる。またこのとき、図4Bに示すように、ゲッタースプリング16に設けられた接触支持部18によってゲッター部12がファンネル15の内面に弾性的に接触して固定される。
【0030】
ここで、陰極線管体のファンネル15の内面は管軸方向22に沿う方向(上下方向)の曲率R1と、管軸に直交する軸に沿う方向(左右方向)の曲率R2とは異なる。すなわち、曲率R1>曲率R2の関係にある。ゲッター手段20は、アノードボタン11に取り付けられた状態でゲッタースプリング16の長手方向が、上記曲率R2に沿うように、画面の長辺方向(いわゆる横向き)に配置される。この配置によって、ゲッター部12は蛍光面3の中心に向くようになる。
【0031】
そして、アノードボタン11に取り付けられたゲッター部12の対向する内部磁気シールド9面には、主ゲッター窓13とサブゲッター窓13aで構成される複数のゲッター窓が形成されている。
ここで、ゲッター窓13とは、アノードボタン11に取り付けられたゲッター部12から飛散されたバリウムを、蛍光面3方向へ飛散させるための窓である。また、本来内部磁気シールド9は、外部磁気を遮断し、外部磁気による電子流へのフレミングの左手の法則を防止することにあるため、すなわち、電子流のミスランディングを防止するため、大きなゲッター窓をあけることは出来ないうえに、大きなゲッター窓を開けることは、蛍光面3へのバリウム付着厚を大きくすることとなる。本実施の形態においては、このような関係から最適なゲッター窓13、13aが形成される。
本例において、主のゲッター窓13の面積は、80mm(縦)×10mm(横)とし、その両側にサブゲッター窓13aとして、30mm(縦)×5mm(横)程度で設ける。
ゲッター窓として、主ゲッター窓13とサブゲッター窓13aを構成することにより、バリウム材の蒸発(ゲッターフラッシュ)時には、ゲッター窓を通して直線的に飛散していくと共に、主ゲッター窓13とサブゲッター窓13aが設けられた内部磁気シールド9によりバリウム粒子が方向を変えることにより、光の干渉膜のようにバリウムが飛散していくので、均一な厚さのバリウム膜を得ることができる。よって、蛍光面3へのバリウム膜も均一化し、蛍光面3の輝度がより均一となる。さらには、内部磁気シールド9に反射してファンネル15にバリウム膜が厚く形成されることを回避することができる。
【0032】
さらに好ましくは、ゲッター部12の対向する内部磁気シールド9面の複数のゲッター窓が、図5に示すように、円形すだれ状に形成される。円形であるゲッター部12の外形が20mmとすると、すだれ状円形窓の外形は例えば70mmとし、複数のゲッター窓13bとなる開口部とめくら部のすだれ形状をそれぞれ5mm幅とする。この場合には、バリウムはゲッター窓13bを通して直線的に飛散していくと共に、すだれ状に開けられた内部磁気シールド9の開口金属端に衝突するバリウムが方向を変えることにより、光の干渉膜のようにバリウムが飛散していくので、より均一な厚さのバリウム膜を得ることができるので、蛍光面3へのバリウム膜も均一化し、蛍光面3の輝度がより均一となり、高精細な画像が得られる。さらには、内部磁気シールド9に反射してファンネル15にバリウム膜が厚く形成されることを回避することができる。このすだれ状のゲッター窓13bの形状は、蛍光面3と内部磁気シールド9との距離などから適宜決定されるものであり、以上に限られたものではない。また、本実施の形態におけるゲッター窓の大きさは、25〜30インチの画面に対応するものである。
【0033】
また、本実施の形態においては、ゲッター手段20は、アノードボタン11に取り付ける構成としたが、内部磁気シールド9へ取り付ける構成としてもよい。また、本実施の形態では、ゲッター手段20は1つしか設けてないが、複数個設けることも可能である。この場合も、複数のゲッター窓が設けられる。
【0034】
ところで、通常のゲッター材としては、ファンネル15側へのバリウム付着を嫌うため、窒素が入っていないソフトフラッシュゲッターと呼ばれるゲッターが用いられる。このゲッターの場合には、バリウムは略直線的に上部に飛散していくので、バリウム飛散の指向性がある。放電電流がそれほど大きくならない陰極線管モデルの場合には、ゲッター材に窒素を入れておき、ゲッター飛散前に窒素を放出させ、飛散バリウムがこの窒素と衝突することより、不規則な蒸発方向となり、付着面積を広げることができる窒素ドープゲッターも使用される。
【0035】
しかし、上述したようなゲッター材では、内部磁気シールド9の裏側、すなわちゲッターの上部となる内部磁気シールド9側と、内部磁気シールド9の対向するファンネル15位置にバリウムが厚く付着し、ゲッター吸着能寿命が不足し、設計寿命が満足できないものもある。これを満足しようとすると、ゲッター窓13を大きくせざるを得ず、輝度が劣化するデメリットがある。
【0036】
そこで本実施の形態では、ソフトフラッシュゲッターや、窒素ドープゲッターに代えて、窒素2度蒸発ゲッター(Delayed Nitrogen Doped Getter:DNDゲッター)を使用する。通常ゲッターでは、バリウム飛散前にゲッター12から窒素を蒸発させるのに対し、DNDゲッターでは、バリウム蒸発中にも窒素を再度蒸発させる。バリウム飛散は、ゲッター部12により異なるが、飛散開始から10秒程度継続する。通常の窒素ドープゲッターの場合には、最初の窒素は、最初のバリウム飛散時にバリウムに吸着され、窒素がなくなってしまう。そのため、それ以後のバリウムは、上部へ直線的に飛散するようになる。DNDゲッターでは、窒素を再度蒸発させることにより、飛散バリウムは、再度不規則な方向へ飛散するようになり、結果的に、バリウム付着面積が広くなる。
【0037】
窒素蒸発がない場合、バリウムの飛散方向は直線的で、最初の飛散速度を維持するためにバリウムは蛍光面3まで到達する。しかし、窒素ドープの場合には、衝突による速度劣化により蛍光面3まで到達するバリウムが少なくなり、色選別機構4に付着するバリウムが多くなる。また、内部磁気シールド9の裏側でも、DNDゲッターでない場合には、バリウム蒸発速度が速いため、内部磁気シールド9裏側及びファンネル15内面にバリウムが衝突する回数が増加し、結果として、広範囲のバリウム付着となる。これに対し、DNDゲッターの場合には、速度が弱まるため、内部磁気シールド9裏側とファンネル15内部への付着面積をコントロールでき、所望のゲッター寿命を得ることができる。
【0038】
なお、色選別機構4がシャドーマスクの場合、マスク裏側にバリウムが付着すると温度によるマスク拡張が起こり、色ずれが起きてくるが、本例のアパーチャーグリルでは、マスクにテンションをかけているため、色ずれが起こらず、高輝度を得ることが出来る。
【0039】
本実施の形態のカラー陰極線管1の、ゲッター飛散工程における様子を、図6に模式的に示す。図6において、図1及び図2に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
本例のゲッター飛散工程においては、陰極線管外部に設置された誘導加熱装置23のゲッターコイルに高周波電流を流すことによって、陰極線管内部に配置したゲッター部12に誘導電流を誘発させ、この誘導電流により、ゲッター部12を誘導加熱し、真空中でバリウム金属を飛散させる。本例では、ゲッター部12と対向する内部磁気シールド9膜に複数のゲッター窓13,13a(図2参照)が形成されることにより、ゲッター部12から飛散するバリウム粒子が、拡散されながら均一に陰極線管内部に付着する。また、複数のゲッター窓を構成する主ゲッター窓13、及びサブゲッター窓13aを有することにより、ゲッターから飛散したバリウムが内部磁気シールド9に跳ね返されて、アノードボタン近傍や、ファンネルに厚く堆積することを防ぐことができる。よって、放電電流を抑制することができる。
【0040】
次に、本実施の形態のカラー陰極線管の製造方法の一例を説明する。
色選別機構4のフレーム部10に複数のゲッター窓13,13aを設けた内部磁気シールド9を取り付ける。内面に蛍光面3を形成したパネル2のスカート部を、この色選別機構4に一体に設けられた支持スプリング7を介してパネルピン8に固定する。
そして、ファンネル15に取り付けたアノードボタン11に、ゲッター手段20をそのゲッター部12が複数のゲッター窓13,13aに対向し、且つ、蛍光面3の中心に向かうように取り付ける。
【0041】
予めファンネル15からネック部5の一部にわたり内面に導電性皮膜14が形成される。
次に、パネル2とファンネル15を、ガラスハンダを介して接合する。ネック部5内に電子銃6を挿入配置し、管体内を排気しながらネック部を封止する。そして、管体外部から誘導加熱装置を用いて、ゲッター部12を加熱し、ゲッター材を蒸発、飛散させてゲッター膜を蛍光面及び、電子銃から十分離れたところのファンネル内を含め、全体的に薄く均一に形成する。このようにして、目的のカラー陰極線管を得る。
【0042】
ここで、比較例1として、図8に従来の陰極線管におけるゲッター飛散工程の概略断面構成を模式的に示す。従来のゲッターにおいては、図8に示すように、ゲッタースプリングの長手方向と陰極線管の管軸方向が平行関係のファンネル37面に沿うようにゲッター部39が取り付けられている。図8において、図7に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
ファンネル37は上下左右方向にそれぞれ曲率をもっているので、本例のように、ゲッタースプリングが長い場合には、図8に示すように、バリウムが蛍光面方向に内部磁気シールドを介さずに対向するので、すべて蛍光面上に飛散し、厚膜25となってしまう。
さらに、図9にも、比較例2として、従来の陰極線管において、ゲッタースプリングが短い場合のゲッター飛散工程の概略断面構成を模式的に示す。ゲッタースプリングが短い場合、従来の内部磁気シールド24においては、図9に示すように、バリウム飛散用のゲッター窓がゲッターと対向する内部磁気シールド24面に1箇所設けてある。図9において、図7に対応する部分には同一符号を付し重複説明を省略する。
比較例2のように、1箇所のゲッター窓によって、バリウムを飛散させるためには、ゲッター部27よりも大きなゲッター窓が通常必要だが、前述したとおり、大きなゲッター窓を介して、バリウムを飛散させると、バリウムは蛍光面の一部に厚く付着してしまう。また、ゲッター窓近傍ではゲッター部27位置のファンネル37の曲率も加味して、内部磁気シールドに跳ね返されたバリウムが、ファンネル37の電子銃42側に付着し、厚膜26となってしまう。
【0043】
本実施の形態では、ゲッター部12を支持するゲッタースプリング16の長手方向22と陰極線管の管軸方向21が直行関係を有するようにゲッター手段20をアノードボタン11に取り付けることによって、ゲッター部12が蛍光面3のセンター面に向かうようにファンネル15に固定されて配置され、複数のゲッター窓13、13aからバリウムが拡散されるので、ファンネル15曲率の影響が緩和され、蛍光面3を含め、全体的に均一にバリウムを付着させることができる。このような構成では、従来のゲッター手段20をそのまま用いて、取り付ける方向を変えるのみでよい。よって、陰極線管製造工程のゲッター飛散工程においては、誘導加熱手段23を移動するだけで対応できる。誘導加熱手段23は、ロボットに取り付けられているので、単に、ロボットへのティーチングのみを行うことにより対応できる。このように、ゲッター手段20の設計変更が不要であり、設備改造も不要であるので、製造コストも削減できる。さらに、本実施の形態においては、ゲッター材として、DNDゲッターを用いることにより、飛散させるバリウムをさらに拡散することができるので、所望のゲッター吸着能寿命を確保することが出来る。
【0044】
本発明は、陰極線管のみならず、ゲッターを使用し、内部を真空に保持する表示装置へも利用できる。具体的には、FED(Field Emission Display)やSED(Surface-conduction Electro-emitter)等の平面型表示装置内部に取り付けられたゲッターへも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態におけるカラー陰極線管の概略断面構成図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるカラー陰極線管の上面から透過してみたときの概略構成図である。
【図3】本発明の一実施形態における色選別機構及び内部磁気シールドの分解したときの概略構成図である。
【図4】A、B本発明の一実施形態におけるゲッター支持板の概略構成図と、ゲッター支持板をアノードボタンに取り付けたときの概略断面構成図である。
【図5】本発明の一実施形態における内部磁気シールドに形成されるゲッター窓の他の例である。
【図6】本実施の一実施形態におけるゲッター飛散工程における模式図である。
【図7】従来のカラー陰極線管の概略断面構成図である。
【図8】従来の陰極線管のゲッター飛散工程における模式図である。
【図9】従来の陰極線管のゲッター飛散工程における模式図である。
【符号の説明】
【0046】
1、30・・(カラー)陰極線管、2、31・・パネル、3、32・・蛍光面、4、33・・色選別機構、5、41・・ネック部、6、42・・電子銃、7、34・・支持スプリング、8、35・・パネルピン、9、40・・内部磁気シールド、10・・フレーム部、11・・アノードボタン、12、39,27・・ゲッター部、13・・ゲッター窓、13a・・サブゲッター窓、13b・・ゲッター窓、14、38・・導電性皮膜、15、37・・ファンネル、16・・ゲッタースプリング、17・・取付部、18・・接触支持部、20・・ゲッター手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、テレビ受像機や、ディスプレイ端末用等に用いられるカラー陰極線管に関し、陰極線内部で高真空を保つためのゲッターに関する。
【背景技術】
【0002】
カラー陰極線管30は、図7に示すように、前面ガラスパネル31(以下、パネルと呼ぶ)と、漏斗状のガラスファンネル37(以下、ファンネルと呼ぶ)と、ガラスネック部41(以下、ネック部と呼ぶ)とにより真空外囲器、すなわち陰極線管体が構成される。この陰極線管体内には、色選別機構33と外部磁界を遮蔽する内部磁気シールド40(Inner Magnetic Shield)が配置され、パネル31の内面に赤、緑及び青の3色の蛍光体を塗布した蛍光スクリーン、すなわち蛍光面32が形成され、さらにネック部41内に電子放出機構を有する電子銃42が配置される。色選別機構33としては、例えば多数の電子通過孔が形成された色選別用電極薄板を有する、いわゆるシャドーマスク(Shadow Mask)、或いは、すだれ状の隙間(電子通過孔)を設けた色選別用電極薄板をフレームに架張してなる、いわゆるアパーチャーグリル(Aperture Gril)等が用いられる。
【0003】
さらに陰極線管内部には、陰極線管稼動状態で真空雰囲気を維持する為に、ゲッター容器内にバリウムを主成分とするゲッター材を下収納したゲッター部39が配置される。製造工程中に、ゲッター部39を加熱することによって、バリウム材を飛散させ、陰極線管内壁に付着させる。このようにゲッター皮膜であるバリウム膜を管内に形成することによって、バリウム膜に管内の排気残留ガスや陰極線稼動時の放出ガスを吸着させ、良好な真空度を保持することができる。
ゲッター部39には、アルミニウムバリウム合金を粉砕した粉末とニッケル粉末を主に混合したものが、ステンレス製円形容器に圧縮して詰められている。
【0004】
カラー陰極線管30の製造工程において、パネル31の内面は蛍光体が塗布され蛍光面32をなし、色選別機構33、内部磁気シールド40、ゲッター部39等をパネル31とファンネル37内に配置した後に、パネル31とファンネル37をガラスハンダにて接着し、その後電子銃42を封入して真空排気する。真空排気された陰極線管30はゲッター飛散工程に送られる。そして、陰極線管30外部に配置された図示しない高周波コイルに高周波電流を流すことにより、陰極線管内部に配置したゲッター部39に誘導電流が誘発され、この誘導電流によりゲッターが誘導加熱されて、真空中でバリウム金属が飛散される。当該バリウム粒子は対向したガラス内壁、色選別機構33、内部磁気シールド40等に付着する。
このようして、製造工程において陰極線管30内にバリウム膜が形成される。
特許文献1には、内部磁気シールド40膜に指向性を持たせた窓を設けることによって、蛍光面32へのゲッター皮膜の生成を低減し、蛍光面32の輝度むらを抑制する方法が記載されている。特許文献2においては、色選別機構33にゲッター皮膜を付着させないために、ゲッター位置を工夫したカラー陰極線管が記載されている。また、特許文献3には、上部へのゲッター飛散を防止するために、ゲッターシールドが用いられている。
【0005】
ところで、カラー陰極線管の稼動状態においては、電子銃42から高エネルギーの電子流が発せられ、この電子流が、蛍光面32を構成する、色の三原色である、赤、青、緑の蛍光体をそれぞれ励起することにより、天然色を伴う光が発せられる。蛍光体は、赤、青、緑の3色で発光効率が異なるため、所望する色を得るためには、予め電子銃42からの電子流の電流量が調整される。またこの電子流は蛍光面32にぶつかるだけでなく、反射して他の内蔵物にも衝突するので、これにより陰極線管30内において、ガス分子がたたき出されることになる。
【特許文献1】特開2003−68236号公報
【特許文献2】特開平11−162380号公報
【特許文献3】実開平1−70255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、第1の課題について説明する。
ゲッター材であるバリウムは気体と非常に強い反応を示す金属であり、陰極線管内に上述したようなガス分子がある場合には、そのガス分子と強く反応し、すなわちガス分子を吸着する。従来、この作用を利用し、バリウム膜に、排気残りのガス分子や、稼動時に内蔵物から電子銃からの電子ビームによって叩き出されてくるガス分子を吸着させることによって、陰極線管内の高真空が保持されている。
【0007】
上述したように、陰極線管は、バリウム膜へのガス分子の吸着により高真空が保持されているが、バリウム膜はバリウム原子が多層にわたり積層された状態のため、バリウム膜表面に吸着したガス分子は、その後、時間の経過と共にバリウム膜内部に拡散していく。また、ガス分子によってバリウムとの結合エネルギーが異なるため、バリウム膜へのガス分子の衝突時の吸着率、すなわち、捕捉確立が異なり、バリウム膜への一度の衝突では捕捉されないガス分子も多い。したがって、バリウム膜へのガス分子のガス吸着率は、バリウム表面積に大きく律速される。さらに、ガス分子のバリウム膜内部への拡散速度は、バリウム膜表面への吸着速度に比べ非常に小さい為、陰極線管の寿命時間を通じてのバリウム吸着能力は、バリウム膜の厚さではなく、バリウム膜の表面積に大きく依存することとなる。
【0008】
また、ガスの放出速度は寿命時間を通じて一定ではなく、当初は非常に多いが時間と共に減衰するため、ゲッター量はバリウム膜寿命とガス放出量のバランスで決められる。しかし、ゲッター量が多くても、バリウム膜が厚いと、上述したように表面ガス吸着面積が減少するため、吸着能力が悪くなり、ガス分子のバリウム膜内部への拡散が不十分な時点で全表面にガスが吸着してしまい、ガス吸着能力が飽和してしまう。
【0009】
したがって、ゲッターを使用する際の第1の課題として、初期のガス吸着速度、及び、陰極線管寿命時間を通じてのバリウムのガス吸着能力、すなわちゲッター吸着能寿命を確保するために、バリウムの厚さが均一で、広面積なバリウム膜を得ることが根本となる。
【0010】
次に、第2の課題について説明する。
ファンネル内面には陽極高電圧を供給するアノードボタンが設置されている。このアノードボタンに供給された20乃至30kV程度の高電圧が、蛍光面、色選別機構、及び電子銃に供給される。このアノードボタンに供給された高電圧は、ファンネル内面に塗布された導電性皮膜を介し、蛍光面などに供給される。導電性皮膜は、主として、粒状グラファイト及び水ガラスよりなる。
【0011】
電子銃から発せられたマイナスの電子流は、アノードボタンから電子銃へ供給されたプラスの高電圧により加速され、プラスの高電圧となっている蛍光体が塗られたパネルの内面、すなわち蛍光面に衝突し、光を発する。このため、蛍光面上にバリウム膜が付着していると、このバリウム膜により、マイナスの電子流は妨害され、蛍光面に達する電子数が少なくなり、出てくる光、すなわち輝度、明るさが劣化する。
この輝度劣化率は蛍光面上のバリウム膜の厚さにより異なり、以下の関係がある。
【0012】
【数1】
Bは発光明るさ、Eb(kV)はアノードボタンにかかる電圧、Ibは電子銃から発せられる電子ビーム電流(mA)、Sはラスター面積(m3)、Tfはパネルのガラス光透過率及び蛍光面発光効率、E0はバリウムの膜厚、蛍光体層、及び、蛍光体上に蒸着したアルミ膜厚により変動する値である。
【0013】
ここで、蛍光面上には、極力バリウムの付着を避ける必要があり、上述したように特許文献1及び2では、蛍光面上にバリウムの付着を回避する工夫がなされているが、バリウム膜が全く無い場合には、寿命時間の吸着能力が劣ることとなるので、なるべく薄く広い面積で、均一な膜厚のバリウム付着が求められる。また、蛍光体上へのバリウム膜の膜厚が大きくばらつくと、画面での輝度差が大きくなり、画面上で暗く感じる場所がでてくる。
【0014】
したがって、ゲッターを使用する際の第2の課題として、高輝度の陰極線管を得るために、蛍光面への均一な厚さで薄く広い面積のバリウム膜を作ることが挙げられる。
【0015】
最後に第3の課題について説明する。
電子銃には、電子流を発散させないように、低電圧も供給される。このため、電子銃内の高電圧供給部と低電圧供給部の間は20kV程度の大きな電位差となり、この間にごみがある場合や電界集中が起こると部品間で放電現象を生ずる事がある。放電現象が起きると、陽極電圧供給部であるアノードボタンから電子銃を介し、回路に放電電流が流れ、この放電電流が高い場合は、故障の原因となる。
【0016】
従来、上述した放電電流を低く抑えるために、導電性皮膜の電気抵抗を高くし、流れる電流を抑えるということが行われている。
ところで、陰極線管においては、上述したように、真空度を維持するためにゲッター及びバリウム膜の形成は不可欠なものであるが、この蒸着バリウム膜は、陰極線管内の真空中では金属バリウムとなっているために非常に導電性が高い。また、特許文献1のように、蛍光面にバリウム膜を付着させないようにするために、内部磁気シールドの裏側にゲッターを配置する方法や、特許文献3のようにゲッター上部にゲッターシールドを取付け、上部へのゲッター飛散を防止する方法が取られるが、飛散バリウムは前述したとおり、金属に衝突した場合、跳ね返され他の部分に付着する。
【0017】
ゲッター上部に設けられた内部磁気シールドやゲッターシールドなどの金属に跳ね返されたバリウムは、ファンネルに堆積する。このように、従来の方法では、内部磁気シールドやゲッターシールドと対向したファンネル位置にバリウムが厚く付着し、さらには、ファンネルの電子銃の近くまでバリウムが付着する。
このため、バリウム膜がファンネル内に形成された導電性皮膜上に付着した場合には、電流は導電性皮膜内部を通らず、抵抗の小さいバリウム膜を通ることとなり、導電性皮膜の電気抵抗値を高くしても高電流となる。したがって、バリウム膜により、大きな放電電流が発生しやすくなる。すなわち、導電性皮膜にバリウム膜が付着することによって、バリウム膜と電子銃間の導電性皮膜の距離が短くなることによって、導電性皮膜の抵抗が大きなものであったとしても、電流が流れやすくなる。
【0018】
したがって、ゲッターを使用する際の第3の課題として、放電電流が回路に流れ込むのを防ぐために、ゲッター飛散の際に、陽極電圧供給部であるアノードボタンの近傍、及ファンネル、及び電子銃付近のファンネルにバリウム膜が厚く付着するのを回避することが挙げられる。
【0019】
以上のように、ゲッター使用の際の課題として、第1〜3の課題が挙げられる。ところが、第1の課題であるゲッター吸着能寿命時間を延ばすためには、広い面積が取れる蛍光面上にバリウム膜を付着させることが考えられるが、そうすると、第2の課題である高輝度で均一な輝度が得られない可能性がある。そして、第2の課題である高輝度で均一な輝度を確保するためには、蛍光面上にバリウム膜を付着させない方法が考えられるが、そうすると、アノードボタン、及びファンネルにバリウム膜が厚く形成されて、放電電流がアノードボタンを介して回路に流れ込み、故障の原因となり、さらには、ゲッター吸着能寿命時間も短くなる。第3の課題である放電電流を抑制するために、アノードボタン近傍にバリウム膜を形成させないようにするには、第1の課題である、ゲッター吸着能寿命時間が犠牲になってしまう。従来のゲッター使用においては、以上のようなトリレンマがあり、第1〜第3までの課題を同時に解消することができない。また、ゲッター位置の大幅な変更はゲッター飛散装置の大幅な改造が必要であり、コストアップへ繋がる。
よって、ゲッターを使用する際の究極の課題としては、コストアップ無く、高輝度を得ることがあげられる。
【0020】
本発明は、上述の点に鑑み、蛍光面へのバリウム膜の付着を抑制し、バリウム膜による輝度劣化及び輝度むらを防止し、かつ、所定以上のゲッター吸着能力を保持し、さらには、設計上の放電電流を維持する高輝度カラー陰極線管を提供し、さらに、設備投資を行わない高輝度カラー陰極線管の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明のカラー陰極線管は、陰極線管体内に、電子銃と蛍光面と色選別機構と内部磁気シールドとゲッター部を有してなるカラー陰極線管であって、ゲッター部は、内部磁気シールドを介して前記蛍光面中心へのゲッター材の飛散を維持できる位置に配置され、ゲッター部に対向する内部磁気シールドの面には、複数のゲッター窓が形成されてなることを特徴とする。
【0022】
本発明のカラー陰極線管では、内部磁気シールドに複数のゲッター窓を有することにより、ゲッター材が陰極線管体全体に飛散される。
【0023】
本発明のカラー陰極線管の製造方法は、陰極線管体内に、電子銃と蛍光面と色選別機構と内部磁気シールドを有するカラー陰極線管の製造方法であって、陰極線管体内に、蛍光面の中心に向かうようにゲッター部を配置し、ゲッター部に対向する位置に複数のゲッター窓を有する内部磁気シールドを色選別機構に取り付ける工程と、陰極線管体を真空封止した後、ゲッター部を加熱してゲッター材を飛散させる工程とを有することを特徴とする。
【0024】
本発明のカラー陰極線管体の製造方法では、ゲッター部が蛍光面の中心に向かってゲッター部が配置され、複数のゲッター窓を介してゲッター材が飛散されるので、管内に均一にゲッター膜が形成される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、バリウム膜は蛍光体上に均一に飛散し、さらに、内部磁気シールド上とファンネル内面の電子銃から離れた所望の部分に付着する。このため、ゲッター吸着能寿命が優れ、放電電流も抑制され、かつ輝度を落とすことなく、輝度むらのない高輝度カラー陰極線管を製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0027】
図1、2に本発明に係るカラー陰極線管の一実施の形態の概略構成を示す。一般的に、テレビやコンピュータなどに組み込まれたカラー陰極線管は、視聴者から見て、水平方向と垂直方向の寸法が異なっており、水平方向の寸法が長くなっている。図1は、本例におけるカラー陰極線管1の水平方向の概略断面構成であり、図2は、垂直方向の真上から陰極線管1の一部断面を示す概略構成を示す。
【0028】
本実施の形態に係るカラー陰極線管1は、パネル2とファンネル15とネック部5とがガラスハンダによって接合されてなる陰極線管体の、パネル2の内面に、赤、緑、及び青の蛍光体層からなるカラー蛍光面(以下蛍光面)3が形成され、この蛍光面3に対向して色選別機構4(アパーチャーグリル、シャドウマスク等)が配置され、ネック部5内に電子銃6が配置されてなる。色選別機構4は、これに取り付けられている支持スプリング7の先端をパネル2の内側壁に一体のパネルピン8に接合させてパネル2内に支持される。また、色選別機構3には、地磁気の影響を防ぐための内部磁気シールド9が取り付けられている。そして、陰極線管体内部には、ファンネル15からネック部5の一部にわたって、導電性皮膜14が塗布されている。図3に、本実施の形態における色選別機構4である例えばアパーチャーグリルと内部磁気シールド9の概略分解図を示す。色選別機構4であるアパーチャーグリルは、相対向する支持部材51,52と、その両端間に連接された弾性付与部材53,54とからなるフレーム10ガ設けられ、支持部材51,52間にすだれ状間隙(電子流透過孔)が形成されて、色選別用薄板55が架張されてなる。各支持部材51,52、弾性付与部材53,54には、パネルピンに嵌合する嵌合手段56を有する。支持スプリング7がスプリングホルダー57を介して溶接されている。
本例では、内部磁気シールド9は、図3に示すように、色選別機構4のフレーム部10を覆うようにして配置される。このとき、また、図2に示すように、例えば円形のゲッター容器にゲッター材が収納されたゲッター部12を有するゲッター手段は、陰極線管1のファンネル15に形成された陽極電圧供給部であるアノードボタン11に取り付けられている。
【0029】
図4に、本例のゲッター手段20の概略構成図(図4A)と、ゲッター手段20をアノードボタン11に取り付けたときの概略断面構成(図4B)を示す。本実施の形態におけるゲッター手段20は、ゲッター手段20をアノードボタン11に取り付けるための取付部17と、ゲッター部12と取付部17を接続するためのゲッタースプリング16とが互いに接合され、構成されている。このゲッター手段20の取付部17に形成された孔部17Aを陰極線管1のファンネル15内に突出するアノードボタン11の凸部に圧入して固定され、ゲッタースプリング16の長手方向22と、管軸方向22とが、垂直関係を有するようにアノードボタン11に取り付けられる。よって、ゲッター手段20は、管軸と垂直関係を有するようにファンネル15面に沿って取り付けられる。このとき、ファンネル15の曲率の関係から、ゲッター部12の向きは蛍光面3の略センターに対向する。つまり、ゲッター部12がアノードボタン11と同じ高さになることにより、蛍光面3の略センターにゲッター部12が向くようになる。またこのとき、図4Bに示すように、ゲッタースプリング16に設けられた接触支持部18によってゲッター部12がファンネル15の内面に弾性的に接触して固定される。
【0030】
ここで、陰極線管体のファンネル15の内面は管軸方向22に沿う方向(上下方向)の曲率R1と、管軸に直交する軸に沿う方向(左右方向)の曲率R2とは異なる。すなわち、曲率R1>曲率R2の関係にある。ゲッター手段20は、アノードボタン11に取り付けられた状態でゲッタースプリング16の長手方向が、上記曲率R2に沿うように、画面の長辺方向(いわゆる横向き)に配置される。この配置によって、ゲッター部12は蛍光面3の中心に向くようになる。
【0031】
そして、アノードボタン11に取り付けられたゲッター部12の対向する内部磁気シールド9面には、主ゲッター窓13とサブゲッター窓13aで構成される複数のゲッター窓が形成されている。
ここで、ゲッター窓13とは、アノードボタン11に取り付けられたゲッター部12から飛散されたバリウムを、蛍光面3方向へ飛散させるための窓である。また、本来内部磁気シールド9は、外部磁気を遮断し、外部磁気による電子流へのフレミングの左手の法則を防止することにあるため、すなわち、電子流のミスランディングを防止するため、大きなゲッター窓をあけることは出来ないうえに、大きなゲッター窓を開けることは、蛍光面3へのバリウム付着厚を大きくすることとなる。本実施の形態においては、このような関係から最適なゲッター窓13、13aが形成される。
本例において、主のゲッター窓13の面積は、80mm(縦)×10mm(横)とし、その両側にサブゲッター窓13aとして、30mm(縦)×5mm(横)程度で設ける。
ゲッター窓として、主ゲッター窓13とサブゲッター窓13aを構成することにより、バリウム材の蒸発(ゲッターフラッシュ)時には、ゲッター窓を通して直線的に飛散していくと共に、主ゲッター窓13とサブゲッター窓13aが設けられた内部磁気シールド9によりバリウム粒子が方向を変えることにより、光の干渉膜のようにバリウムが飛散していくので、均一な厚さのバリウム膜を得ることができる。よって、蛍光面3へのバリウム膜も均一化し、蛍光面3の輝度がより均一となる。さらには、内部磁気シールド9に反射してファンネル15にバリウム膜が厚く形成されることを回避することができる。
【0032】
さらに好ましくは、ゲッター部12の対向する内部磁気シールド9面の複数のゲッター窓が、図5に示すように、円形すだれ状に形成される。円形であるゲッター部12の外形が20mmとすると、すだれ状円形窓の外形は例えば70mmとし、複数のゲッター窓13bとなる開口部とめくら部のすだれ形状をそれぞれ5mm幅とする。この場合には、バリウムはゲッター窓13bを通して直線的に飛散していくと共に、すだれ状に開けられた内部磁気シールド9の開口金属端に衝突するバリウムが方向を変えることにより、光の干渉膜のようにバリウムが飛散していくので、より均一な厚さのバリウム膜を得ることができるので、蛍光面3へのバリウム膜も均一化し、蛍光面3の輝度がより均一となり、高精細な画像が得られる。さらには、内部磁気シールド9に反射してファンネル15にバリウム膜が厚く形成されることを回避することができる。このすだれ状のゲッター窓13bの形状は、蛍光面3と内部磁気シールド9との距離などから適宜決定されるものであり、以上に限られたものではない。また、本実施の形態におけるゲッター窓の大きさは、25〜30インチの画面に対応するものである。
【0033】
また、本実施の形態においては、ゲッター手段20は、アノードボタン11に取り付ける構成としたが、内部磁気シールド9へ取り付ける構成としてもよい。また、本実施の形態では、ゲッター手段20は1つしか設けてないが、複数個設けることも可能である。この場合も、複数のゲッター窓が設けられる。
【0034】
ところで、通常のゲッター材としては、ファンネル15側へのバリウム付着を嫌うため、窒素が入っていないソフトフラッシュゲッターと呼ばれるゲッターが用いられる。このゲッターの場合には、バリウムは略直線的に上部に飛散していくので、バリウム飛散の指向性がある。放電電流がそれほど大きくならない陰極線管モデルの場合には、ゲッター材に窒素を入れておき、ゲッター飛散前に窒素を放出させ、飛散バリウムがこの窒素と衝突することより、不規則な蒸発方向となり、付着面積を広げることができる窒素ドープゲッターも使用される。
【0035】
しかし、上述したようなゲッター材では、内部磁気シールド9の裏側、すなわちゲッターの上部となる内部磁気シールド9側と、内部磁気シールド9の対向するファンネル15位置にバリウムが厚く付着し、ゲッター吸着能寿命が不足し、設計寿命が満足できないものもある。これを満足しようとすると、ゲッター窓13を大きくせざるを得ず、輝度が劣化するデメリットがある。
【0036】
そこで本実施の形態では、ソフトフラッシュゲッターや、窒素ドープゲッターに代えて、窒素2度蒸発ゲッター(Delayed Nitrogen Doped Getter:DNDゲッター)を使用する。通常ゲッターでは、バリウム飛散前にゲッター12から窒素を蒸発させるのに対し、DNDゲッターでは、バリウム蒸発中にも窒素を再度蒸発させる。バリウム飛散は、ゲッター部12により異なるが、飛散開始から10秒程度継続する。通常の窒素ドープゲッターの場合には、最初の窒素は、最初のバリウム飛散時にバリウムに吸着され、窒素がなくなってしまう。そのため、それ以後のバリウムは、上部へ直線的に飛散するようになる。DNDゲッターでは、窒素を再度蒸発させることにより、飛散バリウムは、再度不規則な方向へ飛散するようになり、結果的に、バリウム付着面積が広くなる。
【0037】
窒素蒸発がない場合、バリウムの飛散方向は直線的で、最初の飛散速度を維持するためにバリウムは蛍光面3まで到達する。しかし、窒素ドープの場合には、衝突による速度劣化により蛍光面3まで到達するバリウムが少なくなり、色選別機構4に付着するバリウムが多くなる。また、内部磁気シールド9の裏側でも、DNDゲッターでない場合には、バリウム蒸発速度が速いため、内部磁気シールド9裏側及びファンネル15内面にバリウムが衝突する回数が増加し、結果として、広範囲のバリウム付着となる。これに対し、DNDゲッターの場合には、速度が弱まるため、内部磁気シールド9裏側とファンネル15内部への付着面積をコントロールでき、所望のゲッター寿命を得ることができる。
【0038】
なお、色選別機構4がシャドーマスクの場合、マスク裏側にバリウムが付着すると温度によるマスク拡張が起こり、色ずれが起きてくるが、本例のアパーチャーグリルでは、マスクにテンションをかけているため、色ずれが起こらず、高輝度を得ることが出来る。
【0039】
本実施の形態のカラー陰極線管1の、ゲッター飛散工程における様子を、図6に模式的に示す。図6において、図1及び図2に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
本例のゲッター飛散工程においては、陰極線管外部に設置された誘導加熱装置23のゲッターコイルに高周波電流を流すことによって、陰極線管内部に配置したゲッター部12に誘導電流を誘発させ、この誘導電流により、ゲッター部12を誘導加熱し、真空中でバリウム金属を飛散させる。本例では、ゲッター部12と対向する内部磁気シールド9膜に複数のゲッター窓13,13a(図2参照)が形成されることにより、ゲッター部12から飛散するバリウム粒子が、拡散されながら均一に陰極線管内部に付着する。また、複数のゲッター窓を構成する主ゲッター窓13、及びサブゲッター窓13aを有することにより、ゲッターから飛散したバリウムが内部磁気シールド9に跳ね返されて、アノードボタン近傍や、ファンネルに厚く堆積することを防ぐことができる。よって、放電電流を抑制することができる。
【0040】
次に、本実施の形態のカラー陰極線管の製造方法の一例を説明する。
色選別機構4のフレーム部10に複数のゲッター窓13,13aを設けた内部磁気シールド9を取り付ける。内面に蛍光面3を形成したパネル2のスカート部を、この色選別機構4に一体に設けられた支持スプリング7を介してパネルピン8に固定する。
そして、ファンネル15に取り付けたアノードボタン11に、ゲッター手段20をそのゲッター部12が複数のゲッター窓13,13aに対向し、且つ、蛍光面3の中心に向かうように取り付ける。
【0041】
予めファンネル15からネック部5の一部にわたり内面に導電性皮膜14が形成される。
次に、パネル2とファンネル15を、ガラスハンダを介して接合する。ネック部5内に電子銃6を挿入配置し、管体内を排気しながらネック部を封止する。そして、管体外部から誘導加熱装置を用いて、ゲッター部12を加熱し、ゲッター材を蒸発、飛散させてゲッター膜を蛍光面及び、電子銃から十分離れたところのファンネル内を含め、全体的に薄く均一に形成する。このようにして、目的のカラー陰極線管を得る。
【0042】
ここで、比較例1として、図8に従来の陰極線管におけるゲッター飛散工程の概略断面構成を模式的に示す。従来のゲッターにおいては、図8に示すように、ゲッタースプリングの長手方向と陰極線管の管軸方向が平行関係のファンネル37面に沿うようにゲッター部39が取り付けられている。図8において、図7に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
ファンネル37は上下左右方向にそれぞれ曲率をもっているので、本例のように、ゲッタースプリングが長い場合には、図8に示すように、バリウムが蛍光面方向に内部磁気シールドを介さずに対向するので、すべて蛍光面上に飛散し、厚膜25となってしまう。
さらに、図9にも、比較例2として、従来の陰極線管において、ゲッタースプリングが短い場合のゲッター飛散工程の概略断面構成を模式的に示す。ゲッタースプリングが短い場合、従来の内部磁気シールド24においては、図9に示すように、バリウム飛散用のゲッター窓がゲッターと対向する内部磁気シールド24面に1箇所設けてある。図9において、図7に対応する部分には同一符号を付し重複説明を省略する。
比較例2のように、1箇所のゲッター窓によって、バリウムを飛散させるためには、ゲッター部27よりも大きなゲッター窓が通常必要だが、前述したとおり、大きなゲッター窓を介して、バリウムを飛散させると、バリウムは蛍光面の一部に厚く付着してしまう。また、ゲッター窓近傍ではゲッター部27位置のファンネル37の曲率も加味して、内部磁気シールドに跳ね返されたバリウムが、ファンネル37の電子銃42側に付着し、厚膜26となってしまう。
【0043】
本実施の形態では、ゲッター部12を支持するゲッタースプリング16の長手方向22と陰極線管の管軸方向21が直行関係を有するようにゲッター手段20をアノードボタン11に取り付けることによって、ゲッター部12が蛍光面3のセンター面に向かうようにファンネル15に固定されて配置され、複数のゲッター窓13、13aからバリウムが拡散されるので、ファンネル15曲率の影響が緩和され、蛍光面3を含め、全体的に均一にバリウムを付着させることができる。このような構成では、従来のゲッター手段20をそのまま用いて、取り付ける方向を変えるのみでよい。よって、陰極線管製造工程のゲッター飛散工程においては、誘導加熱手段23を移動するだけで対応できる。誘導加熱手段23は、ロボットに取り付けられているので、単に、ロボットへのティーチングのみを行うことにより対応できる。このように、ゲッター手段20の設計変更が不要であり、設備改造も不要であるので、製造コストも削減できる。さらに、本実施の形態においては、ゲッター材として、DNDゲッターを用いることにより、飛散させるバリウムをさらに拡散することができるので、所望のゲッター吸着能寿命を確保することが出来る。
【0044】
本発明は、陰極線管のみならず、ゲッターを使用し、内部を真空に保持する表示装置へも利用できる。具体的には、FED(Field Emission Display)やSED(Surface-conduction Electro-emitter)等の平面型表示装置内部に取り付けられたゲッターへも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態におけるカラー陰極線管の概略断面構成図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるカラー陰極線管の上面から透過してみたときの概略構成図である。
【図3】本発明の一実施形態における色選別機構及び内部磁気シールドの分解したときの概略構成図である。
【図4】A、B本発明の一実施形態におけるゲッター支持板の概略構成図と、ゲッター支持板をアノードボタンに取り付けたときの概略断面構成図である。
【図5】本発明の一実施形態における内部磁気シールドに形成されるゲッター窓の他の例である。
【図6】本実施の一実施形態におけるゲッター飛散工程における模式図である。
【図7】従来のカラー陰極線管の概略断面構成図である。
【図8】従来の陰極線管のゲッター飛散工程における模式図である。
【図9】従来の陰極線管のゲッター飛散工程における模式図である。
【符号の説明】
【0046】
1、30・・(カラー)陰極線管、2、31・・パネル、3、32・・蛍光面、4、33・・色選別機構、5、41・・ネック部、6、42・・電子銃、7、34・・支持スプリング、8、35・・パネルピン、9、40・・内部磁気シールド、10・・フレーム部、11・・アノードボタン、12、39,27・・ゲッター部、13・・ゲッター窓、13a・・サブゲッター窓、13b・・ゲッター窓、14、38・・導電性皮膜、15、37・・ファンネル、16・・ゲッタースプリング、17・・取付部、18・・接触支持部、20・・ゲッター手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極線管体内に、電子銃と蛍光面と色選別機構と内部磁気シールドとゲッター部を有してなるカラー陰極線管であって、
前記ゲッター部は、前記内部磁気シールドを介して前記蛍光面中心へのゲッター材の飛散を維持できる位置に配置され、
前記ゲッター部に対向する前記内部磁気シールドの面には、複数のゲッター窓が形成されてなる
ことを特徴とするカラー陰極線管。
【請求項2】
前記複数のゲッター窓は、円形すだれ状である
ことを特徴とする請求項1記載のカラー陰極線管。
【請求項3】
前記ゲッター部は、DNDゲッター部である
ことを特徴とする請求項1記載のカラー陰極線管。
【請求項4】
前記ゲッター部は、陰極線管体内のアノードボタンに支持される
ことを特徴とする請求項1記載のカラー陰極線管。
【請求項5】
陰極線管体内に、電子銃と蛍光面と色選別機構と内部磁気シールドを有するカラー陰極線管の製造方法であって、
前記陰極線管体内に、前記蛍光面の中心に向かうようにゲッター部を配置し、
前記ゲッター部に対向する位置に複数のゲッター窓を有する前記内部磁気シールドを前記色選別機構に取り付ける工程と、
前記陰極線管体を真空封止した後、前記ゲッター部を加熱してゲッター材を飛散させる工程とを有する
ことを特徴とするカラー陰極線管の製造方法。
【請求項6】
前記複数のゲッター窓は、円形すだれ状である
ことを特徴とする請求項5記載のカラー陰極線管の製造方法。
【請求項7】
前記ゲッター部として、DNDゲッターを用いる
ことを特徴とする請求項5記載のカラー陰極線管の製造方法。
【請求項8】
前記ゲッター部を、陰極線管体内のアノードボタンに支持する
ことを特徴とそる請求項5記載のカラー陰極線管の製造方法。
【請求項1】
陰極線管体内に、電子銃と蛍光面と色選別機構と内部磁気シールドとゲッター部を有してなるカラー陰極線管であって、
前記ゲッター部は、前記内部磁気シールドを介して前記蛍光面中心へのゲッター材の飛散を維持できる位置に配置され、
前記ゲッター部に対向する前記内部磁気シールドの面には、複数のゲッター窓が形成されてなる
ことを特徴とするカラー陰極線管。
【請求項2】
前記複数のゲッター窓は、円形すだれ状である
ことを特徴とする請求項1記載のカラー陰極線管。
【請求項3】
前記ゲッター部は、DNDゲッター部である
ことを特徴とする請求項1記載のカラー陰極線管。
【請求項4】
前記ゲッター部は、陰極線管体内のアノードボタンに支持される
ことを特徴とする請求項1記載のカラー陰極線管。
【請求項5】
陰極線管体内に、電子銃と蛍光面と色選別機構と内部磁気シールドを有するカラー陰極線管の製造方法であって、
前記陰極線管体内に、前記蛍光面の中心に向かうようにゲッター部を配置し、
前記ゲッター部に対向する位置に複数のゲッター窓を有する前記内部磁気シールドを前記色選別機構に取り付ける工程と、
前記陰極線管体を真空封止した後、前記ゲッター部を加熱してゲッター材を飛散させる工程とを有する
ことを特徴とするカラー陰極線管の製造方法。
【請求項6】
前記複数のゲッター窓は、円形すだれ状である
ことを特徴とする請求項5記載のカラー陰極線管の製造方法。
【請求項7】
前記ゲッター部として、DNDゲッターを用いる
ことを特徴とする請求項5記載のカラー陰極線管の製造方法。
【請求項8】
前記ゲッター部を、陰極線管体内のアノードボタンに支持する
ことを特徴とそる請求項5記載のカラー陰極線管の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2008−147138(P2008−147138A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336078(P2006−336078)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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