カルコゲン化合物粉及びカルコゲン化合物ペースト及びそれらの製造方法
【課題】カルコゲン化合物の膜状結晶を得る場合、Cu、In、Gaからなる金属膜を形成し、Se化処理する方法があるが、膜の均一性や生産性に課題がある。Cu・In・Ga・Seを含むナノ粒子を低コストで得られる方法によって均一性の高いカルコゲン化合物の膜状結晶が得られるが、その抵抗値が高く、太陽電池用途などでは満足する特性が得られていない。
【解決手段】銅塩およびインジウム塩の混合物、又は銅およびインジウムの複合水酸化物、又は銅およびインジウムの複合酸化物のうちいずれか一種以上と、セレン又はセレン化合物と、沸点が250℃以下の溶媒とを混合して混合溶媒を生成し、220℃〜500℃の温度で加熱してCu・In・Ga・Seを含み、平均粒径(DSEM)が80nm以下
の低カーボン量のカルコゲン化合物粉を得る。カルコゲン化合物粉のペーストによりCu・In・Ga・Seを含み低抵抗の薄膜を得られる。
【解決手段】銅塩およびインジウム塩の混合物、又は銅およびインジウムの複合水酸化物、又は銅およびインジウムの複合酸化物のうちいずれか一種以上と、セレン又はセレン化合物と、沸点が250℃以下の溶媒とを混合して混合溶媒を生成し、220℃〜500℃の温度で加熱してCu・In・Ga・Seを含み、平均粒径(DSEM)が80nm以下
の低カーボン量のカルコゲン化合物粉を得る。カルコゲン化合物粉のペーストによりCu・In・Ga・Seを含み低抵抗の薄膜を得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池の光吸収層、蛍光体、ペルチェ素子用の電極膜の形成等に用いられるカルコゲン系元素を含んだカルコゲン化合物粉およびカルコゲン化合物ペースト及びびそれらの製造方法に関し、特に、低コストで危険性が少なく、更に、このカルコゲン化合物粉を用いたカルコゲン化合物ペーストを塗布、焼成して形成した膜の電気抵抗を低くすることができるカルコゲン化合物粉およびカルコゲン化合物ペースト及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属化合物のナノサイズ粉として、例えば半導体ナノ結晶、特に、テルル化カドミウム(CdTe)、セレン化カドミウム(CdSe)、及び硫化カドミウム(CdS)、銅インジウムガリウムセレン(CuInGaSe)、銅インジウムセレン(CuInSe)等のカルコゲン化合物は、径のサイズ効果による光吸収スペクトルの制御や発光の制御が可能な他に、化合物のバンドギャップの制御が固溶体の形成により可能であるために太陽電池への応用にも近年、研究開発が活発に行われている。特に、CuInxGa1−xSeyS2−y(ただし、0≦x≦1、0≦y≦2)で表わされる物質は、InとGaの比を変えることによりバンドギャップを容易に制御できる点で優れ、太陽電池や蛍光体への応用が期待されている。
【0003】
CuInxGa1−xSe2を太陽電池に使用する場合、膜状結晶として使用する。現状では、Cu、In、Gaからなる金属膜を形成し、その金属膜をSe化処理する方法がある。
【0004】
カルコゲン化合物のナノ粒子であるCdSeナノ結晶の合成方法の一例としてジメチルカドミウム(Cd(CH3)2)をカドミウム前駆物質として使用するCdSeナノ結晶の合成は、Murrayらの最初の報告(非特許文献1参照。)以降、開発されてきた。なお、本願で、カルコゲン化合物とは、金属元素の1種以上とSe、Sから選択される元素の1種以上を構成元素とする化合物を示す。
【0005】
また、Barbera−Guillemらは、Murrayらの方法を使用したナノ結晶の生成のための連続流動法を開示している(特許文献1参照。)
【0006】
また、安価で非発火性の材料として金属酸化物または金属塩を前駆物質として使用し、金属酸化物または金属塩を配位子及び配位溶媒と混合させて溶解性金属錯体を生成させ、元素カルコゲン前駆物質(セレン(Se)、テルル(Te)、または硫黄(S)など)を加えて、ナノ結晶が生成される方法も知られている(特許文献2参照。)
【0007】
更に、出願人によって、高沸点溶媒中に金属化合物とセレンを混合し、加熱することにより危険性が少なく、結晶性が高いカルコゲン化合物のナノ粒子(ナノ結晶)を得る方法も、開発されている(特願2009−009241号明細書)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,179,912号明細書
【特許文献2】特表2004−510678号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society(1993)、115、8706−8715
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
カルコゲン化合物のうち、Cu・In・(Ga)・Se・(S)からなる化合物のナノ粒子(ナノ結晶)は、薄膜化して太陽電池を製造する用途として期待されている。ここで、Cu・In・(Ga)・Se・(S)と表記した場合の(Ga)、(S)は、GaおよびSを含まなくてもよいことを示す(以下同様)。
【0011】
Cu・In・(Ga)・Se・(S)からなるカルコゲン化合物を薄膜化する場合、従来よりCuおよびIn、又はCuおよびInおよびGaからなる金属膜を形成し、その金属膜をSe化処理する方法があるが、膜の均一性や生産性に課題があった。
【0012】
例えば、カルコゲン化合物粉であって、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、以下SEM)観察により測定される平均粒径(DSEM)が80nm以下の粒子(本願ではとくに断りがない場合、これをナノ粒子と称する)があれば、均一性の高いカルコゲン化合物薄膜を低コストで得られる可能性があった。
【0013】
そこで、出願人は先行する特願特願2009−009241号(以下先願)に開示の方法を開発した。これにより、結晶性が高く、平均粒径が60nm以下のカルコゲン化合物のナノ粒子を低コストで安全に得ることができるようになった。
【0014】
しかし、上記の方法で得られたカルコゲン化合物を用いて太陽電池用の薄膜を形成した場合、薄膜の電気抵抗が高い問題があった。具体的には、太陽電池などに用いられるカルコゲン化合物の薄膜は、シート抵抗が1000Ω/□以下であることが好ましい。しかし、先願に開示の方法で得られたカルコゲン化合物のナノ粒子をペースト化し、焼成した薄膜は、シート抵抗が10MΩ/□以上と高いものであった。この原因として、先願に開示の方法で得られたカルコゲン化合物のナノ粒子の粉末には、有機物が5質量%超含まれていることが考えられた。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、係る課題に鑑みてなされたものであり、第1に、一般式CuaInbGa1-bSecSd(0.65≦a≦1.2、0≦b≦1、1.9≦C+d≦2.4)で表され、電子顕微鏡観察により測定される平均粒径(DSEM)が1nm〜80nmで、カーボン量を5質量%以下としたカルコゲン化合物を提供することにより解決するものである。
【0016】
また、前記カーボン量が1質量%以下であることを特徴とするものである。
【0017】
また、前記カーボン量が0.5質量%以下であることを特徴とするものである。
【0018】
第2に、前記カルコゲン化合物粉と分散媒を含有したカルコゲン化合物ペーストを提供することにより解決するものである。
【0019】
また、前記分散媒がアルコールであることを特徴とするものである。
【0020】
また、前記アルコール中の前記カルコゲン化合物粉の含有量が20質量%〜80質量%であることを特徴とするものである。
【0021】
第3に、銅およびインジウムを含む金属源と、セレン又はセレン化合物と、沸点が250℃以下である溶媒とを混合して混合溶媒を生成する工程と、該混合溶媒を220℃〜500℃の温度で加熱する工程と、を具備することにより解決するものである。
【0022】
また、前記溶媒の沸点が200℃以下であることを特徴とするものである。
【0023】
また、前記溶媒がメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールのいずれかであることを特徴とするものである。
【0024】
また、前記溶媒は水を70質量%以下含有することを特徴とするものである。
【0025】
また、前記金属源は、銅塩およびインジウム塩の混合物、又は銅およびインジウムの複合水酸化物、又は銅およびインジウムの複合酸化物のうちいずれか一種以上であることを特徴とするものである。
【0026】
また、前記混合物はガリウム塩を含むことを特徴とするものである。
【0027】
また、前記複合水酸化物は、ガリウムを含むことを特徴とするものである。
【0028】
また、前記複合酸化物はガリウムを含むことを特徴とするものである。
【0029】
また、前記加熱は、加圧容器中で行うことを特徴とするものである。
【0030】
第4に、カルコゲン化合物と分散媒を混合する工程を具備することにより解決するものである。
【0031】
また、前記分散媒がアルコールであることを特徴とするものである。
【0032】
また、前記カルコゲン化合物ペースト中の前記カルコゲン化合物粉の含有量が20質量%〜80質量%であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0033】
本実施形態によれば、第1に安価な金属源を原料として、Cu・In・(Ga)・Se・(S)を含み、平均粒径が1nm〜80nmでカーボン量が少なく、高品質のカルコゲン化合物粉を得ることができる。また低コストで危険性の少ないカルコゲン化合物粉の製造方法を提供できる。
【0034】
第2に、当該カルコゲン化合物粉をペースト化することで、このペーストを塗布・加熱して得られる膜の抵抗値を1000Ω/□以下とすることができるカルコゲン化合物ペーストを得ることができる。また低コストで危険性の少ないカルコゲン化合物ペーストの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態の製造方法を説明するフロー図である。
【図2】本発明の実施例1による試料の状態を評価した結果である。
【図3】本発明の実施例1による粒度分布図である。
【図4】本発明の実施例1によるカルコゲン化合物粉の蛍光X線による分析の結果である。
【図5】本発明の実施例1によるカルコゲン化合物粉のX線回折結果を示すグラフである。
【図6】本発明の比較例1による試料の状態を評価した結果である。
【図7】本発明の比較例1によるカルコゲン化合物粉のX線回折結果を示すグラフである。
【図8】本発明の比較例2による試料の状態を評価した結果である。
【図9】本発明の実施例1および比較例2について波長分散型蛍光X線分析によってカーボン量を評価した結果である。
【図10】本発明の実施例1および比較例2について、カルコゲン化合物薄膜のシート抵抗を測定した結果である。
【図11】本発明の実施例1および比較例2について、カルコゲン化合物薄膜のカーボン量をSEM−EDSで評価した結果である。
【図12】本発明の実施例2による試料の状態を評価した結果である。
【図13】本発明の実施例2によるカルコゲン化合物粉の蛍光X線による分析の結果である。
【図14】本発明の実施例2によるカルコゲン化合物粉のX線回折結果を示すグラフである。
【図15】本発明の比較例3による試料の状態を評価した結果である。
【図16】本発明の実施例3による試料の状態を評価した結果である。
【図17】本発明の実施例3による粒度分布図である。
【図18】本発明の実施例3によるカルコゲン化合物粉の蛍光X線による分析の結果である。
【図19】本発明の実施例3によるカルコゲン化合物粉のX線回折結果を示すグラフである。
【図20】本発明の比較例4による試料の状態を評価した結果である。
【図21】本発明の実施例5による試料1の走査型電子顕微鏡写真である。
【図22】本発明の実施例5による試料の状態を評価した結果である。
【図23】本発明の実施例5によるカルコゲン化合物粉の蛍光X線による分析の結果である。
【図24】本発明の実施例5による波長分散型蛍光X線分析を用いたカーボン含有量の測定結果である。
【図25】本発明の実施例5によるカルコゲン化合物薄膜のシート抵抗の測定結果である。
【図26】本発明の実施例6による試料の状態を評価した結果である。
【図27】本発明の実施例6によるカルコゲン化合物粉の蛍光X線による分析の結果である。
【図28】本発明の実施例7による試料の状態を評価した結果である。
【図29】本発明の実施例7による粒度分布図である。
【図30】本発明の実施例7によるカルコゲン化合物粉の蛍光X線による分析の結果である。
【図31】本発明の実施例7によるカルコゲン化合物粉のX線回折結果を示すグラフである。
【図32】本発明の比較例による試料の状態を評価した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を、図1から図32を参照して詳細に説明する。
【0037】
本実施形態のカルコゲン化合物粉は銅(Cu)、インジウム(In)、セレン(Se)を含み、一般式CuaInbGa1-bSecSd(0.65≦a≦1.2、0≦b≦1、1.9≦C+d≦2.4)で表され、電子顕微鏡観察により測定される平均粒径(DSEM)が1nm〜80nmで含まれるカーボン量が少ない化合物である。
【0038】
また、本実施形態のカルコゲン化合物とは、金属元素の1種以上とセレン(Se)、硫黄(S)から選択される元素の1種以上を構成元素とする化合物をいう。
【0039】
図1は、本実施形態のカルコゲン化合物粉、カルコゲン化合物ペーストおよびカルコゲン化合物薄膜を得るための製造方法の一例を説明するフロー図である。
【0040】
まず、図1(A)を参照して、本実施形態のカルコゲン化合物結晶粉の製造方法を説明する。本実施形態のカルコゲン化合物結晶粉の製造方法は、銅およびインジウムを含む金属源と、セレン、セレン化合物、硫黄、硫黄化合物の1種以上(カルコゲン源)と、沸点が250℃以下である溶媒とを混合して混合溶媒を生成する工程と、混合溶媒を220℃〜500℃の温度で加熱する工程と、を有する。
【0041】
このように、金属源と、前記カルコゲン源と溶媒を混合した混合溶媒を所定の条件で加熱してカルコゲン化反応させることにより、所定のカルコゲン化合物を生成することができる。
【0042】
この方法により、平均粒径(DSEM)が1nm〜80nm以下であるカルコゲン化合物粉を得ることができる。
【0043】
原料となる金属源は、銅塩およびインジウム塩の混合物、又は銅およびインジウムの複合水酸化物、又は銅およびインジウムの複合酸化物のうちいずれか一種以上を含む粉末を使用できる。
【0044】
ここで混合物とは、銅塩およびインジウム塩を混合した金属塩の混合物をいう。複合水酸化物とは、銅塩およびインジウム塩を溶媒に溶解し、アルカリを添加して生成した金属水酸化物の複合物をいう。また、複合酸化物は、複合水酸化物を酸化(脱水)して得られる、金属酸化物の複合物をいう。
【0045】
また金属源は、ガリウム(Ga)を含んでもよい。すなわち、銅塩およびインジウム塩およびガリウム塩の混合物、又は銅およびインジウムおよびガリウムの複合水酸化物、又は銅およびインジウムおよびガリウムの複合酸化物のうちいずれか一種以上を含む粉末を使用できる。
【0046】
そして、金属塩(銅塩およびインジウム塩)の混合物を出発原料とする場合には、混合物を溶媒に溶解し、アルカリを添加してCuおよびInの複合水酸化物を沈殿させた後に、デカンテーションや遠心沈降、ろ過等を行い、必要に応じて水洗し、乾燥して複合水酸化物の金属化合物粉末を得る。または複合水酸化物を酸化(脱水)して複合酸化物の金属化合物粉末を得る。
【0047】
以下の例では、金属塩の混合物を出発原料とし、複合水酸化物又は複合酸化物を生成して、カルコゲン化合物を得る場合を例に説明するが、複合水酸化物の金属化合物粉末や、複合酸化物の金属化合物粉末を出発原料とすることもできる。
【0048】
まず、Cu塩およびIn塩を溶媒に溶解させる。溶媒としては水を使用することができる。その後、アルカリを添加することにより中和して金属水酸化物を生成する。詳細には、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、またはアミノ基を持つアルカリ性有機化合物によって金属水酸化物として沈殿させる。
【0049】
この際、得ようとするカルコゲン化合物が複数の金属元素を含有する化合物であるので、金属塩の構成として、前記カルコゲン化合物と同じ金属元素比を有する金属水酸化物の沈殿を得るために、少なくともCuとInの金属塩を用いて金属水酸化物の生成をおこなう。具体的に例えば、CuInSe2を製造する場合には、CuとInの原子比が1:1になるように、銅塩とインジウム塩を原料として用い、金属水酸化物を生成する。
【0050】
これらの金属水酸化物を含むスラリーを遠心脱水機、高速遠心沈降管、またはフィルタープレス、ヌッチェ等により反応副産物を含んだ溶媒を一度除去して、水やエタノール等の溶媒に再分散して、更に溶媒を除去するという操作を繰り返し、洗浄を行う。洗浄は、残液(ろ液)の導電率が10−1Sm−1以下になるまで繰り返すことが望ましい。特にアルカリ金属は残留すると揮発しないために不純物元素として残ることになるので問題となる可能性がある。
【0051】
洗浄を行うことにより反応不純物を除去できる。本実施形態の中和におけるpHの終了点はアルカリ性であることが好ましい。そのpHは特に限定されるものではないが、例えば10以上でも良い。また、水洗によるろ液の導電率が低いほど良いが、pHが中性に近付くと金属水酸化物自体が溶出するために組成が変わるので、前記ろ液のpHは、7.5以上に維持することが望ましい。
【0052】
後述するカルコゲン化反応の金属源としては、前記洗浄後の水酸化物を固液分離して得た溶媒を含有するケーキ、下記の方法で得た水酸化物または酸化物のいずれかまたはこれらの混合物を使用することができる。
【0053】
前記洗浄後固液分離をおこなうことにより得た金属水酸化物を例えば空気雰囲気下で70℃から90℃で乾燥させ、複合水酸化物の粉末(金属化合物粉末)を得ることができる。この際、乾燥温度は、特に限定されず、真空乾燥にすることにより乾燥温度を下げることが出来る。また乾燥温度は200℃以上であっても良い。また、上記の複合水酸化物を加熱し、酸化して複合酸化物の粉末(金属化合物粉末)を生成してもよい。
【0054】
具体的には、洗浄によってろ液の導電率を10−1Sm−1以下にした、複合水酸化物を含むスラリーの含水率を50パーセント以下に調整し、このスラリー(またはケーキ)を再度、溶媒に分散させる。
【0055】
複合水酸化物を含む溶媒を空気、窒素、アルゴン等のガスを導入して水を外部に蒸発させ(バブリングし)、溶媒の温度を70℃〜300℃の範囲内で加熱することで、溶媒中の複合水酸化物は、金属酸化物、もしくは金属酸化物と金属水酸化物の混合物となり、凝集している金属水酸化物が解離して、溶媒中に一次粒子のサイズとして1nm〜200nmの粉が未焼結の状態で存在する状態とすることができる。
【0056】
この際、溶媒分子自体を前記の粒子に化学結合、もしくは物理吸着の形態で包むことにより溶媒中に分散させても良い。もしくは溶媒に界面活性剤を添加して溶媒に対して前記の粒子を分散させても良い。このように溶媒に分散した粒子においては、粒子に表面処理や粒子と他の反応処理において、粒子間の凝集や焼結を防ぐことが出来るので望ましい。
【0057】
この酸化時の反応は溶媒中に水を放出するので、上記の如くバブリングしても良いが、オートクレーブ中で高温にして酸化反応を促進させても良い。
【0058】
また、ここでは複合水酸化物を洗浄した後に複合酸化物を生成した場合を例に示したが、複合水酸化物を生成してから同一溶媒中にて加熱して複合酸化物を生成した後に、洗浄操作を行っても良い。また、複合水酸化物生成とカルコゲン化反応を同一溶媒中でおこなう場合、カルコゲン化反応の後で洗浄操作を行っても良い。いずれの段階においても洗浄を行うことにより反応不純物を適正に除去できる。
【0059】
次に、複合水酸化物あるいは複合酸化物の金属化合粉末と極性溶媒を混合し、カルコゲン源(セレン(Se)又はセレン化合物、硫黄(S)または硫黄化合物、またはこれらの混合物)を添加して混合溶媒を生成し、これを加熱する。
【0060】
ここで、極性溶媒とは、沸点250℃未満の有機溶媒、および、前記有機溶媒と水の混合溶媒を指す。前記有機溶媒は、沸点250℃以下の有機溶媒を2種以上混合した溶媒としてもよい。得られるカルコゲン化合物粉のカーボン量を低減する観点から、前記有機溶媒の沸点は低い方が好ましく、前記有機溶媒の沸点は、200℃以下が好ましく、150℃以下であることが更に好ましく、100℃以下であることが一層好ましい。前記有機溶媒としては、ジエチレングリコールも使用できるが、沸点を考慮すると、C4−C5のアルコール(ブタノール、ペンタノール)を使用することが好ましく、C1−C3のアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール)を使用することが一層好ましい。このほか、前記有機溶媒の例として、ジメチルケトン、ジエチルケトン、アセトアルデヒド、酢酸等が挙げられる。極性溶媒として、前記有機溶媒と水の混合溶媒を使用する場合、極性溶媒中の水の含有量は、70質量%以下とすることができるが、カルコゲン化反応を促進する観点から50%以下とすることが好ましい。
【0061】
セレン化合物とは例えば、セレン化水素(H2Se)が挙げられる。
【0062】
そして、上記カルコゲン源と、金属化合物粉末および極性溶媒との混合溶媒を、220℃〜500℃の温度で加熱する。これにより、カルコゲン源と、金属化合物粉末および極性溶媒との混合溶媒をカルコゲン化反応させ、カルコゲン化合物粉を容易に得ることができる。前記の加熱温度(カルコゲン化反応のための温度:以下、反応温度)は、低いとカルコゲン化合物の生成が十分でない場合があり、400℃以上にしても、得られるカルコゲン化合物の生成状態に大きな変化が見られないことから、好ましくは、220℃〜400℃、更に好ましくは、250℃〜400℃の範囲である。
【0063】
極性溶媒の沸点が220℃超、250℃以下の場合には、カルコゲン反応は、反応温度を220℃以上、かつ極性溶媒の沸点以下とすることにより、常圧で実施することが可能であるが、得られるカコゲン化合物粉のカーボン含有量をより低く抑えるためには、極性溶媒の温度を200℃以下にすることが好ましく、この場合、カルコゲン化反応は、常圧以上の圧力環境下でおこなう必要がある。前記カルコゲン化反応に用いる容器は、加圧環境下で加熱できる容器を使用することが好ましい。
【0064】
本実施形態では、極性溶媒を前記温度領域まで加熱することにより、溶媒が還元剤として働き、金属化合物粉末を還元するとともに、カルコゲン源のSeと還元された金属を反応させることにより、カルコゲン化合物粉を容易に得ることができるものと考えられる。また、これにより作成したカルコゲン化合物粉の粒子は、平均粒径(DSEM)が1nm〜200nmのサイズとなり、焼結や粒子間結合のない粉を得ることができる。前記金属化合物粉末の粒径を調整することにより、平均粒径(DSEM)が1nm〜80nmのカルコゲン化合物粉を得ることができる。
【0065】
本実施形態で得られるカルコゲン化合物粉は、X線回折のピーク強度比(目的とするカルコゲン化合物のピーク強度のうち最も高いピーク高さを、それ以外の物質によるピークのうち最も高いピーク高さで割った値)が8以上であり、目的とする組成を有する結晶からなる粒子を高濃度で含む。このカルコゲン化合物粉(一般式CuaInbGa1-bSecSd(0.65≦a≦1.2、0≦b≦1、1.9≦C+d≦2.4))を使用して成膜することにより、成膜した膜の特性向上が期待できる。
【0066】
カルコゲン化合物粉の平均粒径(DSEM)は、より低温の焼成でカルコゲン化合物の膜を得ようとする場合、1nm〜80nmであることが好ましく、1nm〜60nmであることが更に好ましい。平均粒径(DSEM)が1nm〜20nmであれば、200℃程度の焼成温度でもカルコゲン化合物の膜を得ることが可能となり、一層好ましい。平均粒径(DSEM)が80nmを超える場合、高い焼成温度が必要となる。平均粒径(DSEM)1nm未満のカルコゲン化合物粉は得ることが難しい。
【0067】
また、カルコゲン源を添加してカルコゲン化合物粉を作製した後に、複合水酸化物を生成する際に混入した不純物を除去する洗浄操作を行っても良い。いずれの段階においても洗浄を行うことにより反応不純物を適正に除去できる。
【0068】
尚、金属化合物粉末と極性溶媒、およびカルコゲン源の混合、添加の順は上記の例に限らない。すなわち、金属塩から複合水酸化物を生成する工程において、金属塩の溶解液として純水に、極性溶媒を加えたものを用いてもよい。また、複合水酸化物から複合酸化物を生成(酸化)する工程の溶媒として、極性溶媒を用いてもよい。更に、複合水酸化物から複合酸化物を生成(酸化)する工程の溶媒として、極性溶媒を用い、更に、カルコゲン源を添加する際に極性溶媒を追加してもよい。
【0069】
本実施形態におけるカルコゲン化反応開始時の金属化合物の液中の固形分濃度は薄いと分散しやすく凝集が少ないが、1反応当たりの製造量が少なくなり、逆に濃いと得られるカルコゲン化合物粒子間の結合や凝集が起こりやすくなるので、カルコゲン化反応開始時の金属化合物の固形分濃度としては、0.1質量%〜50質量%の範囲にあることが良い。更に好ましくは0.1質量%〜10質量%の範囲である。
【0070】
また、カルコゲン反応時に添加するカルコゲン源の量は、余剰に添加しすぎても不経済なので、当量の1倍〜1.3倍を添加するのが好ましい。
【0071】
本実施形態では以下、「過剰に添加」、と記載した場合には、当量の1倍超、1.5倍以下の量を添加すること意味する。
【0072】
これにより、カルコゲン化合物粉を得ることができる。カルコゲン化合物粉は、若干のカーボンを含んでいる。本実施形態の如くカルコゲン反応に使用する溶媒の沸点が高い場合には、上記の洗浄工程ではカーボンが完全には除去されず、カルコゲン化合物粉中に含まれてしまうが、本実施形態では、カルコゲン化合物粉に含まれるカーボン量を、5質量%以下に低減できる。
【0073】
次に、図1(B)および図1(C)を参照して、本実施形態のカルコゲン化合物ペーストおよびそれらの製造方法を説明する。さらに、ペーストを塗布・焼成して得られる膜の評価方法について説明する。
【0074】
図1(B)の如く、上記で作成したカルコゲン化合物粉を、分散媒とを混合する。分散媒としては、アルコール(多価アルコールを含む)等の液体を用いることができる。例えば、ジエチレングリコールなどである。また、カルコゲン化合物ペースト中のカルコゲン化合物粉の含有量は、20質量%〜80質量%とすることが好ましい。20質量%以下では、塗布時のパターン形成に不具合が生じることがあり、80質量%以上ではペーストの粘度が高くなりすぎる場合がある。これらを攪拌しながら混合し、カルコゲン化合物ペーストを生成する。尚、本実施形態のカルコゲン化合物ペーストは、分散媒中にカルコゲン化合物粉が分散した状態のものをいう。
【0075】
次に、図1(C)の如く、得られたカルコゲン化合物ペーストを塗布し、乾燥する。その後、例えばアルゴン(Ar)雰囲気中で焼成を行い、カルコゲン化合物薄膜を形成する。本実施形態では、分散媒としてジエチレングリコールを使用したカルコゲン化合物ペーストを塗布・焼成して得たカルコゲン化合物膜のシート抵抗を測定した。
【0076】
太陽電池などに用いられるカルコゲン化合物薄膜では、膜のシート抵抗が低いことが望まれている。具体的には、シート抵抗が1000Ω/□以下であることが好ましく、更に800Ω/□以下であることが好ましく、500Ω/□以下であることが一層好ましい。
【0077】
従来の方法(先願に開示の方法)により得られるカルコゲン化合物粉を用いたカルコゲン化合物薄膜では、カルコゲン化合物粉を含む乾燥粉末中に含まれる有機物(例えば炭素(C))が多く、シート抵抗が高い(例えば10MΩ/□以上)問題があった。
【0078】
本実施形態により作成したカルコゲン化合物粉を含む乾燥粉末はそれに含まれる有機物が少ないため、カルコゲン化合物薄膜を形成した場合に、シート抵抗を1000Ω/□未満に低減できる。
【0079】
以下に図2から図32を参照して実施例を詳細に示す。尚、以下の実施例において、得られたカルコゲン化合物の各元素の元素組成比と、生成しようと意図した元素組成比とに差異がある場合でも、その差異が5%以下であれば、生成しようと意図した元素組成比の分子式で表現する場合がある。
【実施例1】
【0080】
CuInSe2粒子を合成するために、硝酸銅0.1molと硝酸インジウム0.1molを純水500mLに溶かした溶液を1000mLのビーカーに入れた。続いてビーカー内を300rpmで直径5cmの羽を攪拌した状態で、水酸化ナトリウムの1N溶液を、液のpH7.8になるまで滴下して、水酸化物として沈殿させ、銅・インジウムの複合水酸化物を得た。この状態で30分放置してから、ヌッチェにより固液分離を行った。この際、採取した銅・インジウムの水酸化物のケーキを再度純水に分散させて、同様にヌッチェでろ過した。ろ液の伝導度が10−3Sm−1以下になるまで繰り返した。取り出したケーキの一部を加熱乾燥(80℃、12時間、空気雰囲気)して、加熱乾燥前後の質量から、ケーキ中に含まれる水分を測定した。得られたケーキ中の水分量は73質量%であった。
【0081】
次にこの乾燥後の複合水酸化物を5g取り出した。この複合水酸化物中に含まれるCuに対して、Seの原子比が2.2になる量のSe粉末を秤量し、準備した。次に、5gの複合水酸化物と秤量したSe粉末を50mLのフッ素樹脂製容器に入れて、エタノール20mLを加えた。この状態で攪拌して、水酸化物をエタノール中に分散させた。この後、高圧容器(オーエムラボテック株式会社製MM−50)に入れて封止し、封止した状態を維持して、加圧状態(溶媒沸点を反応温度より高くして密閉し、温度を上昇させた状態)で、図2に記載の200℃、210℃、220℃、230℃、240℃、250℃、260℃、270℃の8種類の温度でそれぞれ5時間反応(カルコゲン化反応)させ、粉末状の生成物(カルコゲン化合物粉)を得た。各温度で作製したカルコゲン化合物粉をろ紙を用いてろ過して得た粉末に対し、洗浄を2回繰り返しておこなった。
【0082】
洗浄は以下の通りである。50mLのエタノール中に得られた粉末を添加し攪拌した後、3000rpm、5分間の条件で遠心分離を実施し、上澄みの液体を除去した。
【0083】
洗浄済みの粉末を、空気雰囲気下で80℃、12時間、乾燥し、カルコゲン化合物の乾燥粉末を得た。以下、本実施形態では、空気雰囲気下で80℃、12時間の条件で乾燥したカルコゲン化合物粉を乾燥粉末と称する。また、既述のごとく乾燥粉末には、本実施形態の反応温度では分離できない少量のカーボンが含まれている。
【0084】
この乾燥粉末に対し、X線回折装置(X-Ray Diffractometer、以下XRD、株式会社リガク製 RAD−rX)による結晶解析を行い、試料1から試料10についてカルコゲン化合物(CuInSe2)の生成状態を調べ、CuInSe2粒子の生成に必要なカルコゲン化反応の反応温度を調べた。この結果を図2に示す。この際、X線回折は50kV 100mAの条件で測定を行ない、目的とするカルコゲン化合物(CuInSe2)のピーク強度のうち最も高いピーク高さを、それ以外の物質によるピーク強度のうち最も高いピーク高さで割った値(以下、ピーク強度比)を求めた。ピーク強度比が、15以上あれば、目的とするカルコゲン化合物が高純度で得られた(目的物の単相が得られた)と判定し、図2において○で示した。ピーク強度比が5以上であれば、目的とするカルコゲン化合物の含有量が高い物質が得られたと判定し、図2において、△で示した。ピーク強度比が5未満の場合は、目的とするカルコゲン化合物の含有量が低いと判定し、×で示した。この評価基準は、他の実施例でも同様である。
【0085】
図2の結果から、カルコパイライト結晶構造を持つCuInSe2粒子を合成するためには少なくとも220℃以上の反応温度が必要なことが分かった。また、高純度のCuInSe2粒子を合成するためには少なくとも230℃以上の反応温度が必要なことが分かった。
【0086】
図3は、カルコゲン化反応の温度を250℃として作製した乾燥粉末の粒径をレーザー光を用いた動的光散乱法による粒度分布測定装置(Sympatech社製、NANOPHOX)で調べた粒度分布の結果を示す。測定は、試料をイソプロパノールに10μg/mLの割合で分散させておこなった。本願での平均粒径(D50)は、この方法で測定した値を示す。ここで、平均粒径(D50)は、体積基準の粒度分布における50%径であり、前記の粒度分布測定装置により描かれる体積基準の粒度分布のグラフ、すなわち、横軸に粒径D(nm)、縦軸に粒径D(nm)以下の粒子が存在する容積Q(%)をとった累積粒度曲線において、Q%が50%のときの粒径D(nm)をいう。この方法で測定した平均粒径(D50)は42nmであった。また、試料4〜8の乾燥粉の粒径をSEMで調べた結果、いずれも平均粒径(DSEM)は40nm〜45nmであった。平均粒径(DSEM)は、SEM像を、日本電子株式会社製、JSM6700Fにて5万倍で撮影した写真を拡大し、全粒子のうち任意の100個の粒子の粒子径を測定し、その平均値とした。
【0087】
得られた乾燥粉末(試料6、7、8)について、蛍光X線による組成分析をおこなった。蛍光X線分析は、日本電子株式会社製JSX−3201を使用して測定をおこなった。
【0088】
図4は、その分析結果を示すものであり、Cuを1として規格化し、構成元素の原子比で示した。各構成元素の原子比の値が、目標の値とのずれが5%以内の場合、○と判定した。これによると、目的とする組成比(Cu:In:Se=1:1:2)に近いカルコゲン化合物が得られていることが、確認された。図5は、得られたカルコゲン化合物(試料6)のX線回折結果を示すグラフであり、縦軸がピーク強度[cps]であり、横軸が回折角(2θ)[°]である。
(比較例1)
比較例1として、カルコゲン化反応時に使用した溶媒をエタノールの代わりに純水を用いた以外は実施例1と同じ条件で試験をおこなった。
【0089】
図6は得られた乾燥粉末を実施例1と同様にX線回折で調べ、実施例1と同様に評価した結果を示す。いずれの試料もCuInSe2粒子の合成が出来なかった。
【0090】
図7に、比較例1の試料6のXRDの結果を示した。図7の結果は水酸化物及び酸化物が主体の結果であった。
(比較例2)
比較例2として、カルコゲン化反応時に使用した溶媒としてテトラエチレングリコールを用いた以外は実施例1と同じ条件で試験をおこなった。
【0091】
図8は得られた乾燥粉末を実施例1と同様にX線回折で調べ、実施例1と同様に評価した結果を示す。この結果は実施例1と同じ傾向を示した。
【0092】
実施例1の試料4、6と比較例2の試料4、6について、波長分散型蛍光X線分析で、試料中のカーボン量を評価した。評価は、装置として、波長分散型蛍光X線分析装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、S8 TIGER)用いて試料中のカーボン含有量を測定し、カーボン含有量を質量%で算出した。
【0093】
図9は、この測定結果を示す。比較例2と比較して実施例1の乾燥粉末は、カーボン量が劇的に低減されていた。これにより、後述するように、本実施形態のカルコゲン化合物粉を用いることにより、シート抵抗の低いカルコゲン化合物薄膜を形成できる。
【0094】
次に、実施例1の試料4、6と比較例2の試料4、6の乾燥粉末を用いて、ペーストを作成し、そのペーストを塗布・焼成することにより、カルコゲン化合物薄膜を形成し、その膜の導電性を下記の方法で評価した。
【0095】
試料4、6の乾燥粉末の含有量が50質量%となるようにして、乾燥粉末とジエチレングリコールを攪拌装置(遊星ボールミル、FRITSCH社製、puluerisette5)で10分間混合してペーストを作成した。このペーストをバーコーターを用いて、厚さ10μmで青板ガラス上にMo膜を厚さ1μmで形成した基板上に塗布し、この膜を大気中110℃で1時間乾燥した。この膜を250℃で大気中にて2時間加熱した。この後、窒素と水素の混合ガス(水素ガス5容量%)の雰囲気中で575℃、1時間の焼成を行い、カルコゲン化合物薄膜(CuInSe膜)を形成した。
【0096】
図10は、カルコゲン化合物薄膜のシート抵抗を三菱化学株式会社製、MCP-T410を用いて測定した結果を示す。比較例2の乾燥粉末を使用した場合は、膜のシート抵抗が10MΩ/□以上あるため、値を測定できなかったが、実施例1の乾燥粉末(試料4、6)を使用した場合には、膜のシート抵抗が1000Ω/□未満であった。ペーストを作成する際の乾燥粉末の含有量を、前記の50質量%から、20質量%、40質量%、70質量%に変更し、その他の条件は上記と同様で、カルコゲン化合物薄膜を作成し、そのシート抵抗を測定した結果は、上記と同様であり、比較例2の乾燥粉末を使用した場合は、膜のシート抵抗が10MΩ/□以上のあるため値を測定できず、実施例1の乾燥粉末(試料4、6)を使用した場合には、膜のシート抵抗が1000Ω/□未満であることを確認した。
【0097】
既述の如く、カルコゲン化合物薄膜を太陽電池などに用いる場合には、シート抵抗が低いことが望まれている。具体的にはシート抵抗が1000Ω/□以下が望ましく、実施例1の試料4,6は前記シート抵抗を満足することができた。
【0098】
図11は実施例1の試料4、6および比較例2の試料4、6の4種類の乾燥粉末を用いて形成した膜について、カーボン量をSEM−EDSで評価した結果を示す。比較例2の乾燥粉末を用いて形成した膜では、測定されたカーボン量は、3質量%であったが、実施例1の乾燥粉末を用いて形成した膜について測定されたカーボン量は、0.1質量%未満と少ないことが分かった。また、つまり本実施形態では、乾燥粉末(カルコゲン化合物粉)中のカーボン量が少ないため、これを用いたカルコゲン化合物薄膜のシート抵抗値が大幅に低減しているといえる。
【実施例2】
【0099】
CuInSe2粒子を合成するために、カルコゲン化反応時に加熱する物質を、塩化銅0.01molと塩化インジウム0.01mol、Se粉末0.021mol、エタノール50mLとし、図2の各温度に加熱する時間を12時間とした以外は実施例1と同様に試験をおこなった。
【0100】
図12は、XRDによる評価結果と実施例1と同様の評価による評価結果を示す。図12よりカルコパイライト結晶構造を持つCuInSe2粒子を合成するためには少なくとも220℃以上の反応温度が必要であった。また、高純度のCuInSe2粒子を合成するためには少なくとも230℃以上の反応温度が必要であった。250℃で作製した乾燥粉末(試料6)の粒径をSEMで調べた結果、平均粒径(DSEM)は40nmであった。
【0101】
図13は、試料6、7、8について蛍光X線による組成分析を行った結果を示す。この結果から、目標の組成比に近い結晶粉が生成していることが分かった。
【0102】
図14は、250℃で作製した試料6のXRDの結果を示す。
(比較例3)
比較例3として、カルコゲン化反応時に使用した溶媒をエタノールの代わりに純水を用いた以外は実施例2と同じ条件で試験をおこなった。XRDによる評価結果と実施例1と同様の評価による評価結果を図15に示したが、いずれもCuInSe2粒子の合成が出来なかった。
【実施例3】
【0103】
Cu0.9In0.5Ga0.5Se2.2粒子を合成するために、出発原料を、硝酸銅0.1molと硝酸インジウム0.1molから、硝酸銅0.09molと硝酸インジウム0.05mol、硝酸ガリウム0.05molに変更し、カルコゲン化反応時に添加するSeの量を水酸化物中に含まれるCuに対して、Seの原子比が2.2になる量から、原子比が2.42になる量に変更した以外は、実施例1と同様に試験をおこなった。得られた水酸化物のケーキ中の水分量は実施例1では73質量%であったが、実施例3では、69%であった。
【0104】
図16は、XRDによる結晶解析の結果と実施例1と同様に評価した結果を示す。この結果から、カルコパイライト結晶構造を持つCu0.9In0.5Ga0.5Se2.2粒子を合成するためには少なくとも220℃以上の反応温度が必要なことが分かった。また、高純度のCuInSe2粒子を合成するためには少なくとも230℃以上の反応温度が必要なことが分かった。
【0105】
図17は、250℃で作製した粉(試料6)の粒度分布をレーザー散乱による粒度分布測定装置で調べた結果を示す。また、資料6の乾燥粉の平均粒径(DSEM)は35nmであった。
【0106】
図18は、試料6、7、8について蛍光X線による組成分析を行った結果を示す。この図18ではCuを0.9として規格化し、組成比を計算した。この結果から、目標の組成比に近い結晶粉が生成していることが分かった。
【0107】
図19は、250℃で作製した試料6のXRDの結果を示す。
【0108】
実施例1と同様に測定した試料4〜8の乾燥粉末のカーボン量は、0.3質量%〜0.4質量%であり、実施例1と同様にして測定した膜のシート抵抗は、試料4、8の乾燥粉末を用いた場合、いずれも1000Ω/□未満であった。
(比較例4)
比較例4として、カルコゲン化反応時に使用した溶媒をエタノールの代わりに純水を用いた以外は実施例3と同じ条件で試験をおこなった。
【0109】
図20にXRDによる評価結果と実施例1と同様の評価による評価結果を示したが、いずれもCu0.9In0.5Ga0.5Se2.2粒子の合成が出来なかった。
【実施例4】
【0110】
カルコゲン化反応時に使用する溶媒を、エタノールから、メタノール、プロパノール、イソプロパノール(2−プロパノール)、ブタノール、ペンタノール、ジメチルケトン、ジエチルケトン、アセトアルデヒド、酢酸の沸点が200℃以下の溶媒(9種類)に変更した以外は、実施例1と同様の試験をおこなった。カルコゲン化反応温度を270℃とした場合には、前記9種類のいずれの溶媒を使用した試験でも、XRDのピーク強度比は20以上であり、蛍光X線分析による元素組成比の評価は○であり、実施例1と同様に目的とするカルコゲン化合物が高純度で得られた。
【実施例5】
【0111】
Cu0.85In1.00Se2.05粒子を合成するために、硝酸銅0.085molと硝酸インジウム0.1molを純水500mLに溶かした溶液を1000mLのビーカーに入れた。続いてビーカー内を300rpmで直径5cmの羽を攪拌した状態で、水酸化ナトリウムの1N溶液を、液のpH7.9になるまで滴下して、水酸化物として沈殿させ、銅・インジウムの複合水酸化物を得た。この状態で30分放置してから、ヌッチェにより固液分離を行った。この際、採取した銅・インジウムの複合水酸化物のケーキを再度純水に分散させて、同様にヌッチェでろ過した。ろ液の伝導度が10−3Sm−1以下になるまで繰り返した。取り出したケーキの一部を加熱乾燥(80℃、12時間、空気雰囲気)して、加熱乾燥前後の質量から、ケーキ中に含まれる水分を測定した。得られたケーキ中の水分量は68質量%であった。
【0112】
次にこの加熱乾燥した複合水酸化物を5g取り出した。この複合水酸化物中に含まれるCuに対して、Seの原子比が2.05になる量のSe粉末を秤量し、準備した。次に、5gの複合水酸化物と秤量したSe粉末を50mLのフッ素樹脂製容器に入れて、メタノール20mLを加えた。この状態で攪拌して、複合水酸化物を分散させた。この後、高圧容器(オーエムラボテック株式会社製MM−50))に入れて封止し、封止した状態を維持して、250℃の温度で5時間反応(カルコゲン化反応)させ、粉末状の生成物(カルコゲン化合物粉)を得た。
【0113】
粉末状の生成物をろ紙を用いてろ過して得た粉末に対し、洗浄を2回繰り返しておこなった。
【0114】
洗浄は、以下の通りである。50mLのエタノール中に得られた粉末を添加し攪拌した後、3000rpm、5分間の条件で遠心分離を実施し、上澄みの液体を除去した。
【0115】
洗浄済みの粉末を、空気雰囲気下で80℃、12時間、乾燥し、乾燥粉末(試料1)を得た。図21に乾燥粉末(試料1)の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0116】
メタノールの代わりに、溶媒としてエタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1-ペンタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエレングリコールを用いた以外は、上記と同様にして乾燥粉末(試料2〜8)を得た。ここで、試料1−5は実施例であり、試料6−8は比較例である。
【0117】
図22は、各溶媒を用いて製造した乾燥粉末のXRDによる結晶解析結果と、これらを実施例1と同様の方法で評価した結果を示す。
【0118】
どの溶媒も図22に示すようにカルコパイライト結晶構造のCu0.85In1.00Se2.05粒子粉末が得られた。
【0119】
また図23は、これらの蛍光X線分析による組成比を示す。
【0120】
さらに、図24は、これらの乾燥粉末に対し、前述の波長分散型蛍光X線分析を用いた方法により、カーボン含有量の測定をおこなった結果を示す。この結果から、沸点が高い(分子量の大きい)溶媒を用いて製造した乾燥粉では、カーボン量が多いことが分かった。
【0121】
次に、試料1〜8の乾燥粉末と乾燥粉末と同質量のジエチレングリコールを攪拌混合して、濃度50重量%のCu0.85In1.00Se2.05粒子分散液(ペースト)を調製した。この分散液をガラス基板に厚さ10μmとなるように、バーコート法により塗布して、この膜を110℃の空気中で1時間乾燥した。この膜を250℃の空気中で2時間加熱した。この後、窒素と水素の混合ガス(水素ガス5容量%)の雰囲気中にて575℃で1時間焼成し、カルコゲン化合物薄膜を得た。
【0122】
図25は、作製したカルコゲン化合物薄膜のシート抵抗を測定した結果を示す。図25の結果は、付着しているカーボン量が多い乾燥粉末を配合したペーストを使用して形成された膜は、シート抵抗が高くなることを示している。乾燥粉末のカーボン量は、5質量%以下であることが好ましく、3%以下が更に好ましく、0.5%以下が一層の好ましい。
【実施例6】
【0123】
カルコゲン化反応時に使用する溶媒をエタノールから、エタノールと水の混合溶媒または水(水の比率は、図26に示す8種類(30質量%〜100質量%))に変更し、カルコゲン化反応時の温度を250℃のみとし、カルコゲン化反応時に添加するSeの量を水酸化物中に含まれるCuに対して、Seの原子比が2.2になる量から、原子比が2.0になる量に変更した以外は、実施例1と同様の試験をおこなった。
【0124】
図26は、XRDによる結晶解析の結果と、実施例1と同様に評価した結果を示す。図26では試料1−3が比較例であり、試料4−8は本実施例である。この結果から、カルコパイライト結晶構造を持つものを合成するためには少なくとも、水とエタノールの混合溶媒において、水が70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましいことが分かった。
【0125】
また、図27に、試料6、7、8について蛍光X線により求めた元素組成比を示す。
【0126】
実施例1と同様に測定した試料4〜8の乾燥粉末のカーボン量は、0.3質量%〜0.4質量%であり、実施例1と同様にして測定した膜のシート抵抗は、試料4、8の乾燥粉末を用いた場合、それぞれ、870Ω/□、850Ω/□であった。
【実施例7】
【0127】
実施例1においてはCuInSe2粒子を合成するカルコゲン化反応をおこなう際に、金属源として金属の複合水酸化物を使用したが、本実施例では複合水酸化物を一度、加熱して複合酸化物までにした後、高圧容器に入れて反応させたものである。実施例1で洗浄後の複合水酸化物ケーキを空気中で80℃、12時間の条件で乾燥した後、空気中350℃で、3時間の加熱処理を行い、複合酸化物の金属化合物粉末を作製した。カルコゲン化反応時に使用する複合水酸化物5gの代わりに、この複合酸化物を5gを使用したことと、カルコゲン化反応時に使用したエタノール量を30mLに変更したこと、および、カルコゲン化反応時に添加するSeの量を水酸化物中に含まれるCuに対して、Seの原子比が2.2になる量から、原子比が2.1になる量に変更した以外は、実施例1と同様に試験をおこなった。
【0128】
図28は、XRDによる評価結果と実施例1と同様の評価による評価結果を示す。この結果から、カルコパイライト結晶構造を持つものを合成するためには少なくとも220℃以上の反応温度が必要なことが分かった。また、高純度のCuInSe2粒子を合成するためには少なくとも230℃以上の反応温度が必要なことが分かった。
【0129】
図29は、250℃で作製した乾燥粉末(試料6)のレーザー散乱による粒度分布測定装置で調べた粒度分布の結果を示す。試料6の粒径をSEMで調べた結果、平均粒径DSEMは75nmであった。
【0130】
図30は、試料6、7、8について蛍光X線による組成分析を行った結果を示す。この図30ではCuを1として規格化し、組成比を計算した。この結果から、目標の組成比に近い結晶粉が生成していることが分かった。
【0131】
図31は、試料6のXRDの結果を示す。
【0132】
実施例1と同様に測定した試料4〜8の乾燥粉末のカーボン量は、0.3質量%〜0.4質量%であり、実施例1と同様にして測定した膜のシート抵抗は、試料4、8の乾燥粉末を用いた場合、いずれも1000Ω/□未満であった。
(比較例7)
比較例7として、カルコゲン化反応時に使用した溶媒をエタノールの代わりに純水を用いた以外は実施例7と同じ条件で試験をおこなった。
【0133】
図32にその結果を示したが、いずれもCuInSe2粒子の合成が出来なかった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池の光吸収層、蛍光体、ペルチェ素子用の電極膜の形成等に用いられるカルコゲン系元素を含んだカルコゲン化合物粉およびカルコゲン化合物ペースト及びびそれらの製造方法に関し、特に、低コストで危険性が少なく、更に、このカルコゲン化合物粉を用いたカルコゲン化合物ペーストを塗布、焼成して形成した膜の電気抵抗を低くすることができるカルコゲン化合物粉およびカルコゲン化合物ペースト及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属化合物のナノサイズ粉として、例えば半導体ナノ結晶、特に、テルル化カドミウム(CdTe)、セレン化カドミウム(CdSe)、及び硫化カドミウム(CdS)、銅インジウムガリウムセレン(CuInGaSe)、銅インジウムセレン(CuInSe)等のカルコゲン化合物は、径のサイズ効果による光吸収スペクトルの制御や発光の制御が可能な他に、化合物のバンドギャップの制御が固溶体の形成により可能であるために太陽電池への応用にも近年、研究開発が活発に行われている。特に、CuInxGa1−xSeyS2−y(ただし、0≦x≦1、0≦y≦2)で表わされる物質は、InとGaの比を変えることによりバンドギャップを容易に制御できる点で優れ、太陽電池や蛍光体への応用が期待されている。
【0003】
CuInxGa1−xSe2を太陽電池に使用する場合、膜状結晶として使用する。現状では、Cu、In、Gaからなる金属膜を形成し、その金属膜をSe化処理する方法がある。
【0004】
カルコゲン化合物のナノ粒子であるCdSeナノ結晶の合成方法の一例としてジメチルカドミウム(Cd(CH3)2)をカドミウム前駆物質として使用するCdSeナノ結晶の合成は、Murrayらの最初の報告(非特許文献1参照。)以降、開発されてきた。なお、本願で、カルコゲン化合物とは、金属元素の1種以上とSe、Sから選択される元素の1種以上を構成元素とする化合物を示す。
【0005】
また、Barbera−Guillemらは、Murrayらの方法を使用したナノ結晶の生成のための連続流動法を開示している(特許文献1参照。)
【0006】
また、安価で非発火性の材料として金属酸化物または金属塩を前駆物質として使用し、金属酸化物または金属塩を配位子及び配位溶媒と混合させて溶解性金属錯体を生成させ、元素カルコゲン前駆物質(セレン(Se)、テルル(Te)、または硫黄(S)など)を加えて、ナノ結晶が生成される方法も知られている(特許文献2参照。)
【0007】
更に、出願人によって、高沸点溶媒中に金属化合物とセレンを混合し、加熱することにより危険性が少なく、結晶性が高いカルコゲン化合物のナノ粒子(ナノ結晶)を得る方法も、開発されている(特願2009−009241号明細書)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,179,912号明細書
【特許文献2】特表2004−510678号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society(1993)、115、8706−8715
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
カルコゲン化合物のうち、Cu・In・(Ga)・Se・(S)からなる化合物のナノ粒子(ナノ結晶)は、薄膜化して太陽電池を製造する用途として期待されている。ここで、Cu・In・(Ga)・Se・(S)と表記した場合の(Ga)、(S)は、GaおよびSを含まなくてもよいことを示す(以下同様)。
【0011】
Cu・In・(Ga)・Se・(S)からなるカルコゲン化合物を薄膜化する場合、従来よりCuおよびIn、又はCuおよびInおよびGaからなる金属膜を形成し、その金属膜をSe化処理する方法があるが、膜の均一性や生産性に課題があった。
【0012】
例えば、カルコゲン化合物粉であって、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、以下SEM)観察により測定される平均粒径(DSEM)が80nm以下の粒子(本願ではとくに断りがない場合、これをナノ粒子と称する)があれば、均一性の高いカルコゲン化合物薄膜を低コストで得られる可能性があった。
【0013】
そこで、出願人は先行する特願特願2009−009241号(以下先願)に開示の方法を開発した。これにより、結晶性が高く、平均粒径が60nm以下のカルコゲン化合物のナノ粒子を低コストで安全に得ることができるようになった。
【0014】
しかし、上記の方法で得られたカルコゲン化合物を用いて太陽電池用の薄膜を形成した場合、薄膜の電気抵抗が高い問題があった。具体的には、太陽電池などに用いられるカルコゲン化合物の薄膜は、シート抵抗が1000Ω/□以下であることが好ましい。しかし、先願に開示の方法で得られたカルコゲン化合物のナノ粒子をペースト化し、焼成した薄膜は、シート抵抗が10MΩ/□以上と高いものであった。この原因として、先願に開示の方法で得られたカルコゲン化合物のナノ粒子の粉末には、有機物が5質量%超含まれていることが考えられた。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、係る課題に鑑みてなされたものであり、第1に、一般式CuaInbGa1-bSecSd(0.65≦a≦1.2、0≦b≦1、1.9≦C+d≦2.4)で表され、電子顕微鏡観察により測定される平均粒径(DSEM)が1nm〜80nmで、カーボン量を5質量%以下としたカルコゲン化合物を提供することにより解決するものである。
【0016】
また、前記カーボン量が1質量%以下であることを特徴とするものである。
【0017】
また、前記カーボン量が0.5質量%以下であることを特徴とするものである。
【0018】
第2に、前記カルコゲン化合物粉と分散媒を含有したカルコゲン化合物ペーストを提供することにより解決するものである。
【0019】
また、前記分散媒がアルコールであることを特徴とするものである。
【0020】
また、前記アルコール中の前記カルコゲン化合物粉の含有量が20質量%〜80質量%であることを特徴とするものである。
【0021】
第3に、銅およびインジウムを含む金属源と、セレン又はセレン化合物と、沸点が250℃以下である溶媒とを混合して混合溶媒を生成する工程と、該混合溶媒を220℃〜500℃の温度で加熱する工程と、を具備することにより解決するものである。
【0022】
また、前記溶媒の沸点が200℃以下であることを特徴とするものである。
【0023】
また、前記溶媒がメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールのいずれかであることを特徴とするものである。
【0024】
また、前記溶媒は水を70質量%以下含有することを特徴とするものである。
【0025】
また、前記金属源は、銅塩およびインジウム塩の混合物、又は銅およびインジウムの複合水酸化物、又は銅およびインジウムの複合酸化物のうちいずれか一種以上であることを特徴とするものである。
【0026】
また、前記混合物はガリウム塩を含むことを特徴とするものである。
【0027】
また、前記複合水酸化物は、ガリウムを含むことを特徴とするものである。
【0028】
また、前記複合酸化物はガリウムを含むことを特徴とするものである。
【0029】
また、前記加熱は、加圧容器中で行うことを特徴とするものである。
【0030】
第4に、カルコゲン化合物と分散媒を混合する工程を具備することにより解決するものである。
【0031】
また、前記分散媒がアルコールであることを特徴とするものである。
【0032】
また、前記カルコゲン化合物ペースト中の前記カルコゲン化合物粉の含有量が20質量%〜80質量%であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0033】
本実施形態によれば、第1に安価な金属源を原料として、Cu・In・(Ga)・Se・(S)を含み、平均粒径が1nm〜80nmでカーボン量が少なく、高品質のカルコゲン化合物粉を得ることができる。また低コストで危険性の少ないカルコゲン化合物粉の製造方法を提供できる。
【0034】
第2に、当該カルコゲン化合物粉をペースト化することで、このペーストを塗布・加熱して得られる膜の抵抗値を1000Ω/□以下とすることができるカルコゲン化合物ペーストを得ることができる。また低コストで危険性の少ないカルコゲン化合物ペーストの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態の製造方法を説明するフロー図である。
【図2】本発明の実施例1による試料の状態を評価した結果である。
【図3】本発明の実施例1による粒度分布図である。
【図4】本発明の実施例1によるカルコゲン化合物粉の蛍光X線による分析の結果である。
【図5】本発明の実施例1によるカルコゲン化合物粉のX線回折結果を示すグラフである。
【図6】本発明の比較例1による試料の状態を評価した結果である。
【図7】本発明の比較例1によるカルコゲン化合物粉のX線回折結果を示すグラフである。
【図8】本発明の比較例2による試料の状態を評価した結果である。
【図9】本発明の実施例1および比較例2について波長分散型蛍光X線分析によってカーボン量を評価した結果である。
【図10】本発明の実施例1および比較例2について、カルコゲン化合物薄膜のシート抵抗を測定した結果である。
【図11】本発明の実施例1および比較例2について、カルコゲン化合物薄膜のカーボン量をSEM−EDSで評価した結果である。
【図12】本発明の実施例2による試料の状態を評価した結果である。
【図13】本発明の実施例2によるカルコゲン化合物粉の蛍光X線による分析の結果である。
【図14】本発明の実施例2によるカルコゲン化合物粉のX線回折結果を示すグラフである。
【図15】本発明の比較例3による試料の状態を評価した結果である。
【図16】本発明の実施例3による試料の状態を評価した結果である。
【図17】本発明の実施例3による粒度分布図である。
【図18】本発明の実施例3によるカルコゲン化合物粉の蛍光X線による分析の結果である。
【図19】本発明の実施例3によるカルコゲン化合物粉のX線回折結果を示すグラフである。
【図20】本発明の比較例4による試料の状態を評価した結果である。
【図21】本発明の実施例5による試料1の走査型電子顕微鏡写真である。
【図22】本発明の実施例5による試料の状態を評価した結果である。
【図23】本発明の実施例5によるカルコゲン化合物粉の蛍光X線による分析の結果である。
【図24】本発明の実施例5による波長分散型蛍光X線分析を用いたカーボン含有量の測定結果である。
【図25】本発明の実施例5によるカルコゲン化合物薄膜のシート抵抗の測定結果である。
【図26】本発明の実施例6による試料の状態を評価した結果である。
【図27】本発明の実施例6によるカルコゲン化合物粉の蛍光X線による分析の結果である。
【図28】本発明の実施例7による試料の状態を評価した結果である。
【図29】本発明の実施例7による粒度分布図である。
【図30】本発明の実施例7によるカルコゲン化合物粉の蛍光X線による分析の結果である。
【図31】本発明の実施例7によるカルコゲン化合物粉のX線回折結果を示すグラフである。
【図32】本発明の比較例による試料の状態を評価した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を、図1から図32を参照して詳細に説明する。
【0037】
本実施形態のカルコゲン化合物粉は銅(Cu)、インジウム(In)、セレン(Se)を含み、一般式CuaInbGa1-bSecSd(0.65≦a≦1.2、0≦b≦1、1.9≦C+d≦2.4)で表され、電子顕微鏡観察により測定される平均粒径(DSEM)が1nm〜80nmで含まれるカーボン量が少ない化合物である。
【0038】
また、本実施形態のカルコゲン化合物とは、金属元素の1種以上とセレン(Se)、硫黄(S)から選択される元素の1種以上を構成元素とする化合物をいう。
【0039】
図1は、本実施形態のカルコゲン化合物粉、カルコゲン化合物ペーストおよびカルコゲン化合物薄膜を得るための製造方法の一例を説明するフロー図である。
【0040】
まず、図1(A)を参照して、本実施形態のカルコゲン化合物結晶粉の製造方法を説明する。本実施形態のカルコゲン化合物結晶粉の製造方法は、銅およびインジウムを含む金属源と、セレン、セレン化合物、硫黄、硫黄化合物の1種以上(カルコゲン源)と、沸点が250℃以下である溶媒とを混合して混合溶媒を生成する工程と、混合溶媒を220℃〜500℃の温度で加熱する工程と、を有する。
【0041】
このように、金属源と、前記カルコゲン源と溶媒を混合した混合溶媒を所定の条件で加熱してカルコゲン化反応させることにより、所定のカルコゲン化合物を生成することができる。
【0042】
この方法により、平均粒径(DSEM)が1nm〜80nm以下であるカルコゲン化合物粉を得ることができる。
【0043】
原料となる金属源は、銅塩およびインジウム塩の混合物、又は銅およびインジウムの複合水酸化物、又は銅およびインジウムの複合酸化物のうちいずれか一種以上を含む粉末を使用できる。
【0044】
ここで混合物とは、銅塩およびインジウム塩を混合した金属塩の混合物をいう。複合水酸化物とは、銅塩およびインジウム塩を溶媒に溶解し、アルカリを添加して生成した金属水酸化物の複合物をいう。また、複合酸化物は、複合水酸化物を酸化(脱水)して得られる、金属酸化物の複合物をいう。
【0045】
また金属源は、ガリウム(Ga)を含んでもよい。すなわち、銅塩およびインジウム塩およびガリウム塩の混合物、又は銅およびインジウムおよびガリウムの複合水酸化物、又は銅およびインジウムおよびガリウムの複合酸化物のうちいずれか一種以上を含む粉末を使用できる。
【0046】
そして、金属塩(銅塩およびインジウム塩)の混合物を出発原料とする場合には、混合物を溶媒に溶解し、アルカリを添加してCuおよびInの複合水酸化物を沈殿させた後に、デカンテーションや遠心沈降、ろ過等を行い、必要に応じて水洗し、乾燥して複合水酸化物の金属化合物粉末を得る。または複合水酸化物を酸化(脱水)して複合酸化物の金属化合物粉末を得る。
【0047】
以下の例では、金属塩の混合物を出発原料とし、複合水酸化物又は複合酸化物を生成して、カルコゲン化合物を得る場合を例に説明するが、複合水酸化物の金属化合物粉末や、複合酸化物の金属化合物粉末を出発原料とすることもできる。
【0048】
まず、Cu塩およびIn塩を溶媒に溶解させる。溶媒としては水を使用することができる。その後、アルカリを添加することにより中和して金属水酸化物を生成する。詳細には、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、またはアミノ基を持つアルカリ性有機化合物によって金属水酸化物として沈殿させる。
【0049】
この際、得ようとするカルコゲン化合物が複数の金属元素を含有する化合物であるので、金属塩の構成として、前記カルコゲン化合物と同じ金属元素比を有する金属水酸化物の沈殿を得るために、少なくともCuとInの金属塩を用いて金属水酸化物の生成をおこなう。具体的に例えば、CuInSe2を製造する場合には、CuとInの原子比が1:1になるように、銅塩とインジウム塩を原料として用い、金属水酸化物を生成する。
【0050】
これらの金属水酸化物を含むスラリーを遠心脱水機、高速遠心沈降管、またはフィルタープレス、ヌッチェ等により反応副産物を含んだ溶媒を一度除去して、水やエタノール等の溶媒に再分散して、更に溶媒を除去するという操作を繰り返し、洗浄を行う。洗浄は、残液(ろ液)の導電率が10−1Sm−1以下になるまで繰り返すことが望ましい。特にアルカリ金属は残留すると揮発しないために不純物元素として残ることになるので問題となる可能性がある。
【0051】
洗浄を行うことにより反応不純物を除去できる。本実施形態の中和におけるpHの終了点はアルカリ性であることが好ましい。そのpHは特に限定されるものではないが、例えば10以上でも良い。また、水洗によるろ液の導電率が低いほど良いが、pHが中性に近付くと金属水酸化物自体が溶出するために組成が変わるので、前記ろ液のpHは、7.5以上に維持することが望ましい。
【0052】
後述するカルコゲン化反応の金属源としては、前記洗浄後の水酸化物を固液分離して得た溶媒を含有するケーキ、下記の方法で得た水酸化物または酸化物のいずれかまたはこれらの混合物を使用することができる。
【0053】
前記洗浄後固液分離をおこなうことにより得た金属水酸化物を例えば空気雰囲気下で70℃から90℃で乾燥させ、複合水酸化物の粉末(金属化合物粉末)を得ることができる。この際、乾燥温度は、特に限定されず、真空乾燥にすることにより乾燥温度を下げることが出来る。また乾燥温度は200℃以上であっても良い。また、上記の複合水酸化物を加熱し、酸化して複合酸化物の粉末(金属化合物粉末)を生成してもよい。
【0054】
具体的には、洗浄によってろ液の導電率を10−1Sm−1以下にした、複合水酸化物を含むスラリーの含水率を50パーセント以下に調整し、このスラリー(またはケーキ)を再度、溶媒に分散させる。
【0055】
複合水酸化物を含む溶媒を空気、窒素、アルゴン等のガスを導入して水を外部に蒸発させ(バブリングし)、溶媒の温度を70℃〜300℃の範囲内で加熱することで、溶媒中の複合水酸化物は、金属酸化物、もしくは金属酸化物と金属水酸化物の混合物となり、凝集している金属水酸化物が解離して、溶媒中に一次粒子のサイズとして1nm〜200nmの粉が未焼結の状態で存在する状態とすることができる。
【0056】
この際、溶媒分子自体を前記の粒子に化学結合、もしくは物理吸着の形態で包むことにより溶媒中に分散させても良い。もしくは溶媒に界面活性剤を添加して溶媒に対して前記の粒子を分散させても良い。このように溶媒に分散した粒子においては、粒子に表面処理や粒子と他の反応処理において、粒子間の凝集や焼結を防ぐことが出来るので望ましい。
【0057】
この酸化時の反応は溶媒中に水を放出するので、上記の如くバブリングしても良いが、オートクレーブ中で高温にして酸化反応を促進させても良い。
【0058】
また、ここでは複合水酸化物を洗浄した後に複合酸化物を生成した場合を例に示したが、複合水酸化物を生成してから同一溶媒中にて加熱して複合酸化物を生成した後に、洗浄操作を行っても良い。また、複合水酸化物生成とカルコゲン化反応を同一溶媒中でおこなう場合、カルコゲン化反応の後で洗浄操作を行っても良い。いずれの段階においても洗浄を行うことにより反応不純物を適正に除去できる。
【0059】
次に、複合水酸化物あるいは複合酸化物の金属化合粉末と極性溶媒を混合し、カルコゲン源(セレン(Se)又はセレン化合物、硫黄(S)または硫黄化合物、またはこれらの混合物)を添加して混合溶媒を生成し、これを加熱する。
【0060】
ここで、極性溶媒とは、沸点250℃未満の有機溶媒、および、前記有機溶媒と水の混合溶媒を指す。前記有機溶媒は、沸点250℃以下の有機溶媒を2種以上混合した溶媒としてもよい。得られるカルコゲン化合物粉のカーボン量を低減する観点から、前記有機溶媒の沸点は低い方が好ましく、前記有機溶媒の沸点は、200℃以下が好ましく、150℃以下であることが更に好ましく、100℃以下であることが一層好ましい。前記有機溶媒としては、ジエチレングリコールも使用できるが、沸点を考慮すると、C4−C5のアルコール(ブタノール、ペンタノール)を使用することが好ましく、C1−C3のアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール)を使用することが一層好ましい。このほか、前記有機溶媒の例として、ジメチルケトン、ジエチルケトン、アセトアルデヒド、酢酸等が挙げられる。極性溶媒として、前記有機溶媒と水の混合溶媒を使用する場合、極性溶媒中の水の含有量は、70質量%以下とすることができるが、カルコゲン化反応を促進する観点から50%以下とすることが好ましい。
【0061】
セレン化合物とは例えば、セレン化水素(H2Se)が挙げられる。
【0062】
そして、上記カルコゲン源と、金属化合物粉末および極性溶媒との混合溶媒を、220℃〜500℃の温度で加熱する。これにより、カルコゲン源と、金属化合物粉末および極性溶媒との混合溶媒をカルコゲン化反応させ、カルコゲン化合物粉を容易に得ることができる。前記の加熱温度(カルコゲン化反応のための温度:以下、反応温度)は、低いとカルコゲン化合物の生成が十分でない場合があり、400℃以上にしても、得られるカルコゲン化合物の生成状態に大きな変化が見られないことから、好ましくは、220℃〜400℃、更に好ましくは、250℃〜400℃の範囲である。
【0063】
極性溶媒の沸点が220℃超、250℃以下の場合には、カルコゲン反応は、反応温度を220℃以上、かつ極性溶媒の沸点以下とすることにより、常圧で実施することが可能であるが、得られるカコゲン化合物粉のカーボン含有量をより低く抑えるためには、極性溶媒の温度を200℃以下にすることが好ましく、この場合、カルコゲン化反応は、常圧以上の圧力環境下でおこなう必要がある。前記カルコゲン化反応に用いる容器は、加圧環境下で加熱できる容器を使用することが好ましい。
【0064】
本実施形態では、極性溶媒を前記温度領域まで加熱することにより、溶媒が還元剤として働き、金属化合物粉末を還元するとともに、カルコゲン源のSeと還元された金属を反応させることにより、カルコゲン化合物粉を容易に得ることができるものと考えられる。また、これにより作成したカルコゲン化合物粉の粒子は、平均粒径(DSEM)が1nm〜200nmのサイズとなり、焼結や粒子間結合のない粉を得ることができる。前記金属化合物粉末の粒径を調整することにより、平均粒径(DSEM)が1nm〜80nmのカルコゲン化合物粉を得ることができる。
【0065】
本実施形態で得られるカルコゲン化合物粉は、X線回折のピーク強度比(目的とするカルコゲン化合物のピーク強度のうち最も高いピーク高さを、それ以外の物質によるピークのうち最も高いピーク高さで割った値)が8以上であり、目的とする組成を有する結晶からなる粒子を高濃度で含む。このカルコゲン化合物粉(一般式CuaInbGa1-bSecSd(0.65≦a≦1.2、0≦b≦1、1.9≦C+d≦2.4))を使用して成膜することにより、成膜した膜の特性向上が期待できる。
【0066】
カルコゲン化合物粉の平均粒径(DSEM)は、より低温の焼成でカルコゲン化合物の膜を得ようとする場合、1nm〜80nmであることが好ましく、1nm〜60nmであることが更に好ましい。平均粒径(DSEM)が1nm〜20nmであれば、200℃程度の焼成温度でもカルコゲン化合物の膜を得ることが可能となり、一層好ましい。平均粒径(DSEM)が80nmを超える場合、高い焼成温度が必要となる。平均粒径(DSEM)1nm未満のカルコゲン化合物粉は得ることが難しい。
【0067】
また、カルコゲン源を添加してカルコゲン化合物粉を作製した後に、複合水酸化物を生成する際に混入した不純物を除去する洗浄操作を行っても良い。いずれの段階においても洗浄を行うことにより反応不純物を適正に除去できる。
【0068】
尚、金属化合物粉末と極性溶媒、およびカルコゲン源の混合、添加の順は上記の例に限らない。すなわち、金属塩から複合水酸化物を生成する工程において、金属塩の溶解液として純水に、極性溶媒を加えたものを用いてもよい。また、複合水酸化物から複合酸化物を生成(酸化)する工程の溶媒として、極性溶媒を用いてもよい。更に、複合水酸化物から複合酸化物を生成(酸化)する工程の溶媒として、極性溶媒を用い、更に、カルコゲン源を添加する際に極性溶媒を追加してもよい。
【0069】
本実施形態におけるカルコゲン化反応開始時の金属化合物の液中の固形分濃度は薄いと分散しやすく凝集が少ないが、1反応当たりの製造量が少なくなり、逆に濃いと得られるカルコゲン化合物粒子間の結合や凝集が起こりやすくなるので、カルコゲン化反応開始時の金属化合物の固形分濃度としては、0.1質量%〜50質量%の範囲にあることが良い。更に好ましくは0.1質量%〜10質量%の範囲である。
【0070】
また、カルコゲン反応時に添加するカルコゲン源の量は、余剰に添加しすぎても不経済なので、当量の1倍〜1.3倍を添加するのが好ましい。
【0071】
本実施形態では以下、「過剰に添加」、と記載した場合には、当量の1倍超、1.5倍以下の量を添加すること意味する。
【0072】
これにより、カルコゲン化合物粉を得ることができる。カルコゲン化合物粉は、若干のカーボンを含んでいる。本実施形態の如くカルコゲン反応に使用する溶媒の沸点が高い場合には、上記の洗浄工程ではカーボンが完全には除去されず、カルコゲン化合物粉中に含まれてしまうが、本実施形態では、カルコゲン化合物粉に含まれるカーボン量を、5質量%以下に低減できる。
【0073】
次に、図1(B)および図1(C)を参照して、本実施形態のカルコゲン化合物ペーストおよびそれらの製造方法を説明する。さらに、ペーストを塗布・焼成して得られる膜の評価方法について説明する。
【0074】
図1(B)の如く、上記で作成したカルコゲン化合物粉を、分散媒とを混合する。分散媒としては、アルコール(多価アルコールを含む)等の液体を用いることができる。例えば、ジエチレングリコールなどである。また、カルコゲン化合物ペースト中のカルコゲン化合物粉の含有量は、20質量%〜80質量%とすることが好ましい。20質量%以下では、塗布時のパターン形成に不具合が生じることがあり、80質量%以上ではペーストの粘度が高くなりすぎる場合がある。これらを攪拌しながら混合し、カルコゲン化合物ペーストを生成する。尚、本実施形態のカルコゲン化合物ペーストは、分散媒中にカルコゲン化合物粉が分散した状態のものをいう。
【0075】
次に、図1(C)の如く、得られたカルコゲン化合物ペーストを塗布し、乾燥する。その後、例えばアルゴン(Ar)雰囲気中で焼成を行い、カルコゲン化合物薄膜を形成する。本実施形態では、分散媒としてジエチレングリコールを使用したカルコゲン化合物ペーストを塗布・焼成して得たカルコゲン化合物膜のシート抵抗を測定した。
【0076】
太陽電池などに用いられるカルコゲン化合物薄膜では、膜のシート抵抗が低いことが望まれている。具体的には、シート抵抗が1000Ω/□以下であることが好ましく、更に800Ω/□以下であることが好ましく、500Ω/□以下であることが一層好ましい。
【0077】
従来の方法(先願に開示の方法)により得られるカルコゲン化合物粉を用いたカルコゲン化合物薄膜では、カルコゲン化合物粉を含む乾燥粉末中に含まれる有機物(例えば炭素(C))が多く、シート抵抗が高い(例えば10MΩ/□以上)問題があった。
【0078】
本実施形態により作成したカルコゲン化合物粉を含む乾燥粉末はそれに含まれる有機物が少ないため、カルコゲン化合物薄膜を形成した場合に、シート抵抗を1000Ω/□未満に低減できる。
【0079】
以下に図2から図32を参照して実施例を詳細に示す。尚、以下の実施例において、得られたカルコゲン化合物の各元素の元素組成比と、生成しようと意図した元素組成比とに差異がある場合でも、その差異が5%以下であれば、生成しようと意図した元素組成比の分子式で表現する場合がある。
【実施例1】
【0080】
CuInSe2粒子を合成するために、硝酸銅0.1molと硝酸インジウム0.1molを純水500mLに溶かした溶液を1000mLのビーカーに入れた。続いてビーカー内を300rpmで直径5cmの羽を攪拌した状態で、水酸化ナトリウムの1N溶液を、液のpH7.8になるまで滴下して、水酸化物として沈殿させ、銅・インジウムの複合水酸化物を得た。この状態で30分放置してから、ヌッチェにより固液分離を行った。この際、採取した銅・インジウムの水酸化物のケーキを再度純水に分散させて、同様にヌッチェでろ過した。ろ液の伝導度が10−3Sm−1以下になるまで繰り返した。取り出したケーキの一部を加熱乾燥(80℃、12時間、空気雰囲気)して、加熱乾燥前後の質量から、ケーキ中に含まれる水分を測定した。得られたケーキ中の水分量は73質量%であった。
【0081】
次にこの乾燥後の複合水酸化物を5g取り出した。この複合水酸化物中に含まれるCuに対して、Seの原子比が2.2になる量のSe粉末を秤量し、準備した。次に、5gの複合水酸化物と秤量したSe粉末を50mLのフッ素樹脂製容器に入れて、エタノール20mLを加えた。この状態で攪拌して、水酸化物をエタノール中に分散させた。この後、高圧容器(オーエムラボテック株式会社製MM−50)に入れて封止し、封止した状態を維持して、加圧状態(溶媒沸点を反応温度より高くして密閉し、温度を上昇させた状態)で、図2に記載の200℃、210℃、220℃、230℃、240℃、250℃、260℃、270℃の8種類の温度でそれぞれ5時間反応(カルコゲン化反応)させ、粉末状の生成物(カルコゲン化合物粉)を得た。各温度で作製したカルコゲン化合物粉をろ紙を用いてろ過して得た粉末に対し、洗浄を2回繰り返しておこなった。
【0082】
洗浄は以下の通りである。50mLのエタノール中に得られた粉末を添加し攪拌した後、3000rpm、5分間の条件で遠心分離を実施し、上澄みの液体を除去した。
【0083】
洗浄済みの粉末を、空気雰囲気下で80℃、12時間、乾燥し、カルコゲン化合物の乾燥粉末を得た。以下、本実施形態では、空気雰囲気下で80℃、12時間の条件で乾燥したカルコゲン化合物粉を乾燥粉末と称する。また、既述のごとく乾燥粉末には、本実施形態の反応温度では分離できない少量のカーボンが含まれている。
【0084】
この乾燥粉末に対し、X線回折装置(X-Ray Diffractometer、以下XRD、株式会社リガク製 RAD−rX)による結晶解析を行い、試料1から試料10についてカルコゲン化合物(CuInSe2)の生成状態を調べ、CuInSe2粒子の生成に必要なカルコゲン化反応の反応温度を調べた。この結果を図2に示す。この際、X線回折は50kV 100mAの条件で測定を行ない、目的とするカルコゲン化合物(CuInSe2)のピーク強度のうち最も高いピーク高さを、それ以外の物質によるピーク強度のうち最も高いピーク高さで割った値(以下、ピーク強度比)を求めた。ピーク強度比が、15以上あれば、目的とするカルコゲン化合物が高純度で得られた(目的物の単相が得られた)と判定し、図2において○で示した。ピーク強度比が5以上であれば、目的とするカルコゲン化合物の含有量が高い物質が得られたと判定し、図2において、△で示した。ピーク強度比が5未満の場合は、目的とするカルコゲン化合物の含有量が低いと判定し、×で示した。この評価基準は、他の実施例でも同様である。
【0085】
図2の結果から、カルコパイライト結晶構造を持つCuInSe2粒子を合成するためには少なくとも220℃以上の反応温度が必要なことが分かった。また、高純度のCuInSe2粒子を合成するためには少なくとも230℃以上の反応温度が必要なことが分かった。
【0086】
図3は、カルコゲン化反応の温度を250℃として作製した乾燥粉末の粒径をレーザー光を用いた動的光散乱法による粒度分布測定装置(Sympatech社製、NANOPHOX)で調べた粒度分布の結果を示す。測定は、試料をイソプロパノールに10μg/mLの割合で分散させておこなった。本願での平均粒径(D50)は、この方法で測定した値を示す。ここで、平均粒径(D50)は、体積基準の粒度分布における50%径であり、前記の粒度分布測定装置により描かれる体積基準の粒度分布のグラフ、すなわち、横軸に粒径D(nm)、縦軸に粒径D(nm)以下の粒子が存在する容積Q(%)をとった累積粒度曲線において、Q%が50%のときの粒径D(nm)をいう。この方法で測定した平均粒径(D50)は42nmであった。また、試料4〜8の乾燥粉の粒径をSEMで調べた結果、いずれも平均粒径(DSEM)は40nm〜45nmであった。平均粒径(DSEM)は、SEM像を、日本電子株式会社製、JSM6700Fにて5万倍で撮影した写真を拡大し、全粒子のうち任意の100個の粒子の粒子径を測定し、その平均値とした。
【0087】
得られた乾燥粉末(試料6、7、8)について、蛍光X線による組成分析をおこなった。蛍光X線分析は、日本電子株式会社製JSX−3201を使用して測定をおこなった。
【0088】
図4は、その分析結果を示すものであり、Cuを1として規格化し、構成元素の原子比で示した。各構成元素の原子比の値が、目標の値とのずれが5%以内の場合、○と判定した。これによると、目的とする組成比(Cu:In:Se=1:1:2)に近いカルコゲン化合物が得られていることが、確認された。図5は、得られたカルコゲン化合物(試料6)のX線回折結果を示すグラフであり、縦軸がピーク強度[cps]であり、横軸が回折角(2θ)[°]である。
(比較例1)
比較例1として、カルコゲン化反応時に使用した溶媒をエタノールの代わりに純水を用いた以外は実施例1と同じ条件で試験をおこなった。
【0089】
図6は得られた乾燥粉末を実施例1と同様にX線回折で調べ、実施例1と同様に評価した結果を示す。いずれの試料もCuInSe2粒子の合成が出来なかった。
【0090】
図7に、比較例1の試料6のXRDの結果を示した。図7の結果は水酸化物及び酸化物が主体の結果であった。
(比較例2)
比較例2として、カルコゲン化反応時に使用した溶媒としてテトラエチレングリコールを用いた以外は実施例1と同じ条件で試験をおこなった。
【0091】
図8は得られた乾燥粉末を実施例1と同様にX線回折で調べ、実施例1と同様に評価した結果を示す。この結果は実施例1と同じ傾向を示した。
【0092】
実施例1の試料4、6と比較例2の試料4、6について、波長分散型蛍光X線分析で、試料中のカーボン量を評価した。評価は、装置として、波長分散型蛍光X線分析装置(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、S8 TIGER)用いて試料中のカーボン含有量を測定し、カーボン含有量を質量%で算出した。
【0093】
図9は、この測定結果を示す。比較例2と比較して実施例1の乾燥粉末は、カーボン量が劇的に低減されていた。これにより、後述するように、本実施形態のカルコゲン化合物粉を用いることにより、シート抵抗の低いカルコゲン化合物薄膜を形成できる。
【0094】
次に、実施例1の試料4、6と比較例2の試料4、6の乾燥粉末を用いて、ペーストを作成し、そのペーストを塗布・焼成することにより、カルコゲン化合物薄膜を形成し、その膜の導電性を下記の方法で評価した。
【0095】
試料4、6の乾燥粉末の含有量が50質量%となるようにして、乾燥粉末とジエチレングリコールを攪拌装置(遊星ボールミル、FRITSCH社製、puluerisette5)で10分間混合してペーストを作成した。このペーストをバーコーターを用いて、厚さ10μmで青板ガラス上にMo膜を厚さ1μmで形成した基板上に塗布し、この膜を大気中110℃で1時間乾燥した。この膜を250℃で大気中にて2時間加熱した。この後、窒素と水素の混合ガス(水素ガス5容量%)の雰囲気中で575℃、1時間の焼成を行い、カルコゲン化合物薄膜(CuInSe膜)を形成した。
【0096】
図10は、カルコゲン化合物薄膜のシート抵抗を三菱化学株式会社製、MCP-T410を用いて測定した結果を示す。比較例2の乾燥粉末を使用した場合は、膜のシート抵抗が10MΩ/□以上あるため、値を測定できなかったが、実施例1の乾燥粉末(試料4、6)を使用した場合には、膜のシート抵抗が1000Ω/□未満であった。ペーストを作成する際の乾燥粉末の含有量を、前記の50質量%から、20質量%、40質量%、70質量%に変更し、その他の条件は上記と同様で、カルコゲン化合物薄膜を作成し、そのシート抵抗を測定した結果は、上記と同様であり、比較例2の乾燥粉末を使用した場合は、膜のシート抵抗が10MΩ/□以上のあるため値を測定できず、実施例1の乾燥粉末(試料4、6)を使用した場合には、膜のシート抵抗が1000Ω/□未満であることを確認した。
【0097】
既述の如く、カルコゲン化合物薄膜を太陽電池などに用いる場合には、シート抵抗が低いことが望まれている。具体的にはシート抵抗が1000Ω/□以下が望ましく、実施例1の試料4,6は前記シート抵抗を満足することができた。
【0098】
図11は実施例1の試料4、6および比較例2の試料4、6の4種類の乾燥粉末を用いて形成した膜について、カーボン量をSEM−EDSで評価した結果を示す。比較例2の乾燥粉末を用いて形成した膜では、測定されたカーボン量は、3質量%であったが、実施例1の乾燥粉末を用いて形成した膜について測定されたカーボン量は、0.1質量%未満と少ないことが分かった。また、つまり本実施形態では、乾燥粉末(カルコゲン化合物粉)中のカーボン量が少ないため、これを用いたカルコゲン化合物薄膜のシート抵抗値が大幅に低減しているといえる。
【実施例2】
【0099】
CuInSe2粒子を合成するために、カルコゲン化反応時に加熱する物質を、塩化銅0.01molと塩化インジウム0.01mol、Se粉末0.021mol、エタノール50mLとし、図2の各温度に加熱する時間を12時間とした以外は実施例1と同様に試験をおこなった。
【0100】
図12は、XRDによる評価結果と実施例1と同様の評価による評価結果を示す。図12よりカルコパイライト結晶構造を持つCuInSe2粒子を合成するためには少なくとも220℃以上の反応温度が必要であった。また、高純度のCuInSe2粒子を合成するためには少なくとも230℃以上の反応温度が必要であった。250℃で作製した乾燥粉末(試料6)の粒径をSEMで調べた結果、平均粒径(DSEM)は40nmであった。
【0101】
図13は、試料6、7、8について蛍光X線による組成分析を行った結果を示す。この結果から、目標の組成比に近い結晶粉が生成していることが分かった。
【0102】
図14は、250℃で作製した試料6のXRDの結果を示す。
(比較例3)
比較例3として、カルコゲン化反応時に使用した溶媒をエタノールの代わりに純水を用いた以外は実施例2と同じ条件で試験をおこなった。XRDによる評価結果と実施例1と同様の評価による評価結果を図15に示したが、いずれもCuInSe2粒子の合成が出来なかった。
【実施例3】
【0103】
Cu0.9In0.5Ga0.5Se2.2粒子を合成するために、出発原料を、硝酸銅0.1molと硝酸インジウム0.1molから、硝酸銅0.09molと硝酸インジウム0.05mol、硝酸ガリウム0.05molに変更し、カルコゲン化反応時に添加するSeの量を水酸化物中に含まれるCuに対して、Seの原子比が2.2になる量から、原子比が2.42になる量に変更した以外は、実施例1と同様に試験をおこなった。得られた水酸化物のケーキ中の水分量は実施例1では73質量%であったが、実施例3では、69%であった。
【0104】
図16は、XRDによる結晶解析の結果と実施例1と同様に評価した結果を示す。この結果から、カルコパイライト結晶構造を持つCu0.9In0.5Ga0.5Se2.2粒子を合成するためには少なくとも220℃以上の反応温度が必要なことが分かった。また、高純度のCuInSe2粒子を合成するためには少なくとも230℃以上の反応温度が必要なことが分かった。
【0105】
図17は、250℃で作製した粉(試料6)の粒度分布をレーザー散乱による粒度分布測定装置で調べた結果を示す。また、資料6の乾燥粉の平均粒径(DSEM)は35nmであった。
【0106】
図18は、試料6、7、8について蛍光X線による組成分析を行った結果を示す。この図18ではCuを0.9として規格化し、組成比を計算した。この結果から、目標の組成比に近い結晶粉が生成していることが分かった。
【0107】
図19は、250℃で作製した試料6のXRDの結果を示す。
【0108】
実施例1と同様に測定した試料4〜8の乾燥粉末のカーボン量は、0.3質量%〜0.4質量%であり、実施例1と同様にして測定した膜のシート抵抗は、試料4、8の乾燥粉末を用いた場合、いずれも1000Ω/□未満であった。
(比較例4)
比較例4として、カルコゲン化反応時に使用した溶媒をエタノールの代わりに純水を用いた以外は実施例3と同じ条件で試験をおこなった。
【0109】
図20にXRDによる評価結果と実施例1と同様の評価による評価結果を示したが、いずれもCu0.9In0.5Ga0.5Se2.2粒子の合成が出来なかった。
【実施例4】
【0110】
カルコゲン化反応時に使用する溶媒を、エタノールから、メタノール、プロパノール、イソプロパノール(2−プロパノール)、ブタノール、ペンタノール、ジメチルケトン、ジエチルケトン、アセトアルデヒド、酢酸の沸点が200℃以下の溶媒(9種類)に変更した以外は、実施例1と同様の試験をおこなった。カルコゲン化反応温度を270℃とした場合には、前記9種類のいずれの溶媒を使用した試験でも、XRDのピーク強度比は20以上であり、蛍光X線分析による元素組成比の評価は○であり、実施例1と同様に目的とするカルコゲン化合物が高純度で得られた。
【実施例5】
【0111】
Cu0.85In1.00Se2.05粒子を合成するために、硝酸銅0.085molと硝酸インジウム0.1molを純水500mLに溶かした溶液を1000mLのビーカーに入れた。続いてビーカー内を300rpmで直径5cmの羽を攪拌した状態で、水酸化ナトリウムの1N溶液を、液のpH7.9になるまで滴下して、水酸化物として沈殿させ、銅・インジウムの複合水酸化物を得た。この状態で30分放置してから、ヌッチェにより固液分離を行った。この際、採取した銅・インジウムの複合水酸化物のケーキを再度純水に分散させて、同様にヌッチェでろ過した。ろ液の伝導度が10−3Sm−1以下になるまで繰り返した。取り出したケーキの一部を加熱乾燥(80℃、12時間、空気雰囲気)して、加熱乾燥前後の質量から、ケーキ中に含まれる水分を測定した。得られたケーキ中の水分量は68質量%であった。
【0112】
次にこの加熱乾燥した複合水酸化物を5g取り出した。この複合水酸化物中に含まれるCuに対して、Seの原子比が2.05になる量のSe粉末を秤量し、準備した。次に、5gの複合水酸化物と秤量したSe粉末を50mLのフッ素樹脂製容器に入れて、メタノール20mLを加えた。この状態で攪拌して、複合水酸化物を分散させた。この後、高圧容器(オーエムラボテック株式会社製MM−50))に入れて封止し、封止した状態を維持して、250℃の温度で5時間反応(カルコゲン化反応)させ、粉末状の生成物(カルコゲン化合物粉)を得た。
【0113】
粉末状の生成物をろ紙を用いてろ過して得た粉末に対し、洗浄を2回繰り返しておこなった。
【0114】
洗浄は、以下の通りである。50mLのエタノール中に得られた粉末を添加し攪拌した後、3000rpm、5分間の条件で遠心分離を実施し、上澄みの液体を除去した。
【0115】
洗浄済みの粉末を、空気雰囲気下で80℃、12時間、乾燥し、乾燥粉末(試料1)を得た。図21に乾燥粉末(試料1)の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【0116】
メタノールの代わりに、溶媒としてエタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1-ペンタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエレングリコールを用いた以外は、上記と同様にして乾燥粉末(試料2〜8)を得た。ここで、試料1−5は実施例であり、試料6−8は比較例である。
【0117】
図22は、各溶媒を用いて製造した乾燥粉末のXRDによる結晶解析結果と、これらを実施例1と同様の方法で評価した結果を示す。
【0118】
どの溶媒も図22に示すようにカルコパイライト結晶構造のCu0.85In1.00Se2.05粒子粉末が得られた。
【0119】
また図23は、これらの蛍光X線分析による組成比を示す。
【0120】
さらに、図24は、これらの乾燥粉末に対し、前述の波長分散型蛍光X線分析を用いた方法により、カーボン含有量の測定をおこなった結果を示す。この結果から、沸点が高い(分子量の大きい)溶媒を用いて製造した乾燥粉では、カーボン量が多いことが分かった。
【0121】
次に、試料1〜8の乾燥粉末と乾燥粉末と同質量のジエチレングリコールを攪拌混合して、濃度50重量%のCu0.85In1.00Se2.05粒子分散液(ペースト)を調製した。この分散液をガラス基板に厚さ10μmとなるように、バーコート法により塗布して、この膜を110℃の空気中で1時間乾燥した。この膜を250℃の空気中で2時間加熱した。この後、窒素と水素の混合ガス(水素ガス5容量%)の雰囲気中にて575℃で1時間焼成し、カルコゲン化合物薄膜を得た。
【0122】
図25は、作製したカルコゲン化合物薄膜のシート抵抗を測定した結果を示す。図25の結果は、付着しているカーボン量が多い乾燥粉末を配合したペーストを使用して形成された膜は、シート抵抗が高くなることを示している。乾燥粉末のカーボン量は、5質量%以下であることが好ましく、3%以下が更に好ましく、0.5%以下が一層の好ましい。
【実施例6】
【0123】
カルコゲン化反応時に使用する溶媒をエタノールから、エタノールと水の混合溶媒または水(水の比率は、図26に示す8種類(30質量%〜100質量%))に変更し、カルコゲン化反応時の温度を250℃のみとし、カルコゲン化反応時に添加するSeの量を水酸化物中に含まれるCuに対して、Seの原子比が2.2になる量から、原子比が2.0になる量に変更した以外は、実施例1と同様の試験をおこなった。
【0124】
図26は、XRDによる結晶解析の結果と、実施例1と同様に評価した結果を示す。図26では試料1−3が比較例であり、試料4−8は本実施例である。この結果から、カルコパイライト結晶構造を持つものを合成するためには少なくとも、水とエタノールの混合溶媒において、水が70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましいことが分かった。
【0125】
また、図27に、試料6、7、8について蛍光X線により求めた元素組成比を示す。
【0126】
実施例1と同様に測定した試料4〜8の乾燥粉末のカーボン量は、0.3質量%〜0.4質量%であり、実施例1と同様にして測定した膜のシート抵抗は、試料4、8の乾燥粉末を用いた場合、それぞれ、870Ω/□、850Ω/□であった。
【実施例7】
【0127】
実施例1においてはCuInSe2粒子を合成するカルコゲン化反応をおこなう際に、金属源として金属の複合水酸化物を使用したが、本実施例では複合水酸化物を一度、加熱して複合酸化物までにした後、高圧容器に入れて反応させたものである。実施例1で洗浄後の複合水酸化物ケーキを空気中で80℃、12時間の条件で乾燥した後、空気中350℃で、3時間の加熱処理を行い、複合酸化物の金属化合物粉末を作製した。カルコゲン化反応時に使用する複合水酸化物5gの代わりに、この複合酸化物を5gを使用したことと、カルコゲン化反応時に使用したエタノール量を30mLに変更したこと、および、カルコゲン化反応時に添加するSeの量を水酸化物中に含まれるCuに対して、Seの原子比が2.2になる量から、原子比が2.1になる量に変更した以外は、実施例1と同様に試験をおこなった。
【0128】
図28は、XRDによる評価結果と実施例1と同様の評価による評価結果を示す。この結果から、カルコパイライト結晶構造を持つものを合成するためには少なくとも220℃以上の反応温度が必要なことが分かった。また、高純度のCuInSe2粒子を合成するためには少なくとも230℃以上の反応温度が必要なことが分かった。
【0129】
図29は、250℃で作製した乾燥粉末(試料6)のレーザー散乱による粒度分布測定装置で調べた粒度分布の結果を示す。試料6の粒径をSEMで調べた結果、平均粒径DSEMは75nmであった。
【0130】
図30は、試料6、7、8について蛍光X線による組成分析を行った結果を示す。この図30ではCuを1として規格化し、組成比を計算した。この結果から、目標の組成比に近い結晶粉が生成していることが分かった。
【0131】
図31は、試料6のXRDの結果を示す。
【0132】
実施例1と同様に測定した試料4〜8の乾燥粉末のカーボン量は、0.3質量%〜0.4質量%であり、実施例1と同様にして測定した膜のシート抵抗は、試料4、8の乾燥粉末を用いた場合、いずれも1000Ω/□未満であった。
(比較例7)
比較例7として、カルコゲン化反応時に使用した溶媒をエタノールの代わりに純水を用いた以外は実施例7と同じ条件で試験をおこなった。
【0133】
図32にその結果を示したが、いずれもCuInSe2粒子の合成が出来なかった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式CuaInbGa1-bSecSd(0.65≦a≦1.2、0≦b≦1、1.9≦C+d≦2.4)で表され、電子顕微鏡観察により測定される平均粒径(DSEM)が1nm〜80nmで、カーボン量が5質量%以下であることを特徴とするカルコゲン化合物粉。
【請求項2】
前記カーボン量が1質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のカルコゲン化合物粉。
【請求項3】
前記カーボン量が0.5質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のカルコゲン化合物粉。
【請求項4】
請求項1に記載のカルコゲン化合物粉と分散媒を含有することを特徴とするカルコゲン化合物ペースト。
【請求項5】
前記分散媒がアルコールであることを特徴とする請求項4に記載のカルコゲン化合物ペースト。
【請求項6】
前記アルコール中の前記カルコゲン化合物粉の含有量が20質量%〜80質量%であることを特徴とする請求項5に記載のカルコゲン化合物ペースト。
【請求項7】
銅およびインジウムを含む金属源と、セレン又はセレン化合物と、沸点が250℃以下である溶媒とを混合して混合溶媒を生成する工程と、
該混合溶媒を220℃〜500℃の温度で加熱する工程と、
を具備することを特徴とする請求項1に記載のカルコゲン化合物粉の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒の沸点が200℃以下であることを特徴とする請求項7に記載のカルコゲン化合物粉の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒がメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールのいずれかであることを特徴とする請求項8に記載のカルコゲン化合物粉の製造方法。
【請求項10】
前記溶媒は水を70質量%以下含有することを特徴とする請求項7に記載のカルコゲン化合物粉の製造方法。
【請求項11】
前記金属源は、銅塩およびインジウム塩の混合物、又は銅およびインジウムの複合水酸化物、又は銅およびインジウムの複合酸化物のうちいずれか一種以上であることを特徴とする請求項7に記載のカルコゲン化合物粉の製造方法。
【請求項12】
前記混合物はガリウム塩を含むことを特徴とする請求項11に記載のカルコゲン化合物粉の製造方法。
【請求項13】
前記複合水酸化物は、ガリウムを含むことを特徴とする請求項11に記載のカルコゲン化合物粉の製造方法。
【請求項14】
前記複合酸化物はガリウムを含むことを特徴とする請求項11に記載のカルコゲン化合物粉の製造方法。
【請求項15】
前記加熱は、加圧容器中で行うことを特徴とする請求項7から請求項14のいずれかに記載のカルコゲン化合物粉の製造方法。
【請求項16】
請求項1に記載のカルコゲン化合物と分散媒を混合する工程を具備することを特徴とするカルコゲン化合物ペーストの製造方法。
【請求項17】
前記分散媒がアルコールであることを特徴とする請求項16に記載のカルコゲン化合物ペーストの製造方法。
【請求項18】
前記カルコゲン化合物ペースト中の前記カルコゲン化合物粉の含有量が20質量%〜80質量%であることを特徴とする請求項16または請求項17に記載のカルコゲン化合物ペーストの製造方法。
【請求項1】
一般式CuaInbGa1-bSecSd(0.65≦a≦1.2、0≦b≦1、1.9≦C+d≦2.4)で表され、電子顕微鏡観察により測定される平均粒径(DSEM)が1nm〜80nmで、カーボン量が5質量%以下であることを特徴とするカルコゲン化合物粉。
【請求項2】
前記カーボン量が1質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のカルコゲン化合物粉。
【請求項3】
前記カーボン量が0.5質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のカルコゲン化合物粉。
【請求項4】
請求項1に記載のカルコゲン化合物粉と分散媒を含有することを特徴とするカルコゲン化合物ペースト。
【請求項5】
前記分散媒がアルコールであることを特徴とする請求項4に記載のカルコゲン化合物ペースト。
【請求項6】
前記アルコール中の前記カルコゲン化合物粉の含有量が20質量%〜80質量%であることを特徴とする請求項5に記載のカルコゲン化合物ペースト。
【請求項7】
銅およびインジウムを含む金属源と、セレン又はセレン化合物と、沸点が250℃以下である溶媒とを混合して混合溶媒を生成する工程と、
該混合溶媒を220℃〜500℃の温度で加熱する工程と、
を具備することを特徴とする請求項1に記載のカルコゲン化合物粉の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒の沸点が200℃以下であることを特徴とする請求項7に記載のカルコゲン化合物粉の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒がメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノールのいずれかであることを特徴とする請求項8に記載のカルコゲン化合物粉の製造方法。
【請求項10】
前記溶媒は水を70質量%以下含有することを特徴とする請求項7に記載のカルコゲン化合物粉の製造方法。
【請求項11】
前記金属源は、銅塩およびインジウム塩の混合物、又は銅およびインジウムの複合水酸化物、又は銅およびインジウムの複合酸化物のうちいずれか一種以上であることを特徴とする請求項7に記載のカルコゲン化合物粉の製造方法。
【請求項12】
前記混合物はガリウム塩を含むことを特徴とする請求項11に記載のカルコゲン化合物粉の製造方法。
【請求項13】
前記複合水酸化物は、ガリウムを含むことを特徴とする請求項11に記載のカルコゲン化合物粉の製造方法。
【請求項14】
前記複合酸化物はガリウムを含むことを特徴とする請求項11に記載のカルコゲン化合物粉の製造方法。
【請求項15】
前記加熱は、加圧容器中で行うことを特徴とする請求項7から請求項14のいずれかに記載のカルコゲン化合物粉の製造方法。
【請求項16】
請求項1に記載のカルコゲン化合物と分散媒を混合する工程を具備することを特徴とするカルコゲン化合物ペーストの製造方法。
【請求項17】
前記分散媒がアルコールであることを特徴とする請求項16に記載のカルコゲン化合物ペーストの製造方法。
【請求項18】
前記カルコゲン化合物ペースト中の前記カルコゲン化合物粉の含有量が20質量%〜80質量%であることを特徴とする請求項16または請求項17に記載のカルコゲン化合物ペーストの製造方法。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図20】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図30】
【図32】
【図3】
【図17】
【図19】
【図21】
【図29】
【図31】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
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【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図30】
【図32】
【図3】
【図17】
【図19】
【図21】
【図29】
【図31】
【公開番号】特開2011−16707(P2011−16707A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192459(P2009−192459)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
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