説明

カルバゾールオキシムエステル光開始剤

本発明はカルバゾールオキシムエステル光開始剤およびその合成方法に関するものである。カルバゾールオキシムエステル光開始剤の構造は以下の一般式(I)で示される。一般式(I)において、Rはシクロアルキルで置換された脂肪族炭化水素基であり、前記シクロアルキルはシクロプロピルからシクロオクチルの脂環基である。前記シクロアルキルとオキシムエステル基とは、鎖長が炭素数1〜5の直鎖状脂肪族炭化水素基で連結されている。このような化学構造を持つカルバゾールオキシムエステル化合物は、新規な化合物であり、光開始剤として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光開始剤に属する技術分野に関し、さらに詳しくはカルバゾールオキシムエステル光開始剤及びその合成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光硬化性材料(光硬化性塗膜、インク、フォトレジスト、CF、BM)は、主に不飽和樹脂およびその単量体材料に、紫外線、X線またはレーザー光を照射して重合および固形化して製造するが、光開始剤または増感剤の添加が必須である。特定の波長の紫外線、X線、又はレーザー光線を光硬化性材料に照射すると、添加された光開始剤又は増感剤は、活性基を発生し、光硬化性材料中の不飽和基の重合および固形化が開始される。
【0003】
光硬化性材料中では、従来型の光開始剤が広く使用されている。例えば、ベンゾイン誘導体、ベンジルケタール類、α,α'−ジアルコキシアセトフェノン類、α−ヒドロキシアルキルフェノン類、α−アミノアルキルフェノン類、アシルフォスフィンオキシド類、ベンゾフェノン/ジフェニルアミン系、ミヒラーケトン、チオキサントン/チオカルボン酸アミド類、アミン硬化剤、アリールジアゾニウム塩、アリールヨードニウム塩、アリールスルホニウム塩、フェロセン、チタノセン類、ヘキサフェニルイミダゾール類、トリアジン及び従来のオキシムエステル類などが挙げられる。これらの従来型光開始剤は、程度の差はあるが、感度が低い(重合速度および変換率のいずれもが低い)、溶解性が悪い(透明性が低く、残存光開始剤が多い)、酸素ガスが光硬化に大きな影響を与える及び貯蔵安定性が悪いなどの欠点があった。それゆえ従来型光開始剤および光増感剤の使用はかなり制限され、感光性材料の性能にも大きく影響する。特に、従来型光開始剤は次世代大型LCDにおける重要な部品であるBM(ブラックマトリックス)とCF(カラーフィルター)とを製造するための要求を満足することができない。新しいオキシムエステル光開始剤の登場により、上記問題のかなりの部分が解決された。
【0004】
非特許文献1によって、はじめてオキシムエステル化合物の光化学性能が報告され、非特許文献2によって、はじめてオキシムエステル類化合物の光開始剤としての応用が報告され、その商品名はDE−OS 179508と Agfa−Gevaert AGとして知られている。商業的に製造され、且つ広く使用されたオキシムエステル光開始剤は下記構造式で示すQuantacure PDOである。
【0005】
【化1】

【0006】
上記従来型のオキシムエステル光開始剤は、開始剤としての反応性が高いが、熱安定性が低いため、次第に淘汰された。オキシムエステル類光開始剤は再び注目されるようになった(非特許文献3と非特許文献4)が、それは、硫化フェニル基、又はカルバゾール基をオキシムエステル化合物に導入することにより、より大きい共役系及びより強い分子内電子移動特性となり、オキシムエステル化合物の熱安定性および感光性が著しく改善されたからである。現在広く使用されている二つの代表的なオキシムエステル類光開始剤は下記構造式で示されるOXE−1とOXE−2である(特許文献1と特許文献2参照)。
【0007】
【化2】

【0008】
大型スクリーンLCDの製造に主に用いられるBMおよびRGBの価格は非常に高く、光開始剤の化学構造は、外国企業の特許によって保護されている(特許文献1および特許文献2参照)。
【0009】
新規なカルバゾールオキシムエステルの化学構造は、OXE−2の化学構造に類似している、しかしながら、新規なカルバゾールオキシムエステルの実用性能(感度、熱安定性、溶解性)は、OXE−2より優れている。
【0010】
それゆえ、新規なオキシムエステル光開始剤は、光開始された材料の製造、特にBMおよびCFの製造において、それらの性能を高め/改善し、関連製品の絶え間なく求められる品質の改良に対応するために、OXE−1およびOXE−2の代わりに広く使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】中国特許第99108598号明細書
【特許文献2】中国特許第02811675号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】A.Wemer and A.Piguet, Ber.Dtsch.1904, 37, 4295
【非特許文献2】G.A.Delzenne, U.Laridon and H.Peeters.European Polymer Journal, 1970, 6, 933-943
【非特許文献3】R.Mallivia et al, J.Photochem.Photobiol.A: Chemistry 2001, 138, 193
【非特許文献4】L.Lavalee et al, J.Photochem.Photobiol.A: Chemistry 2002, 151, 27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来のオキシムエステル光開始剤は、実用性能の点で問題があった。言い換えれば、従来の光開始剤は、感度、熱安定性および溶解性が低かった。本発明者らの解決しようとする技術的課題は、上記の問題をいかに解決するかということである。本発明の目的は、より優れた実用性能を有する新規なオキシムエステル光開始剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、新規カルバゾールオキシムエステル光開始剤は実用性能(感光度、熱安定性、溶解性)がOXE−2より優れる。合成方法はシンプルであり、合成工程において産業廃棄物が生じず、製造コストが比較的低く、生成物の純度が高い。それゆえ、新規カルバゾールオキシムエステル光開始剤は、工業規模で製造することも、実験室規模で製造することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
以下、本発明を実施例および図面を用いて具体的に説明する。
【図1】本発明の好適な実施例2における試料のHNMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らが、前記の課題を解決するために採用した解決法は、以下の一般式(I)で示されるカルバゾールオキシムエステル光開始剤である。
【0018】
【化3】

【0019】
上記一般式(I)において、Rはシクロアルキルで置換された脂肪族炭化水素基であり、前記シクロアルキルはシクロプロピルからシクロオクチルまでの脂環基である。すなわちシクロアルキルとオキシムエステル基は、鎖長が炭素数1〜5の直鎖状脂肪族炭化水素基で連結されている。この種類の構造を有するオキシムエステル化合物は、新規で優れた性能を有する。
【0020】
本発明のカルバゾールオキシムエステル光開始剤の合成方法においては、N−エチルカルバゾールを出発原料として用い、以下のステップを有する。
【0021】
ステップA:アシル化反応:有機溶剤の中で、三塩化アルミニウムの触媒作用でN−エチルカルバゾールをアシル化させることによって、下記一般式(II)で示す中間体aである3−R-アシル−6−0−メチル−ベンゾイル−9−エチルカルバゾールを合成する。反応過程は以下に示される。
【0022】
【化4】

【0023】
(上記一般式(II)において、Rはシクロアルキルで置換された脂肪族炭化水素基であり、前記シクロアルキルはシクロプロピルからシクロオクチルまでの脂環基である。すなわちシクロアルキルとカルボニルとは、鎖長が炭素数1〜5の直鎖状脂肪族炭化水素基で連結されている。)
ステップB:オキシム化反応:中間体aである3−R-アシル−6−0−メチル−ベンゾイル−9−エチルカルバゾールは、オキシム化され、中間体bである1−(6−o−メチル−ベンゾイル−9−エチルカルバゾール−3−イル)−R−オン−1−オキシムとなる。反応過程は以下に示される。
【0024】
【化5】

【0025】
(一般式(III)において、Rはシクロアルキルで置換された脂肪族炭化水素基であり、前記シクロアルキルはシクロプロピルからシクロオクチルまでの脂環基である。すなわちシクロアルキルとオキシミド基とは、鎖長が炭素数1〜5の直鎖状脂肪族炭化水素基で連結されている。)
ステップC:エステル化反応:前記中間体bである1−(6−o−メチル−ベンゾイル−9−エチルカルバゾール−3−イル)−R−オン−1−オキシムを無水酢酸でエステル化させることによって、本発明のカルバゾールオキシムエステル光開始剤を合成する。反応過程は以下に示される。
【0026】
【化6】

【0027】
(一般式(I)において、Rはシクロアルキルで置換された脂肪族炭化水素基であり、前記シクロアルキルはシクロプロピルからシクロオクチルまでの脂環基である。すなわちシクロアルキルとオキシムエステル基とは、鎖長が炭素数1〜5の直鎖状脂肪族炭化水素基で連結されている。)
前記ステップAについては、アシル化反応はワンポット合成で行われ、反応温度は5℃〜15℃であり、最適反応温度は5℃〜10℃である。反応に用いられる原料の最適比(モル比)はN−エチルカルバゾール:塩化o−メチル−ベンゾイル:ハロゲン化アシル=1:1:1である。1〜4個の炭素原子を有するハロゲン化炭化水素を有機溶媒として使用することができる。
【0028】
前記ステップBについては、オキシム化反応を水とメタノールとの混合溶剤、又は水とエタノールとの混合溶剤の中で行うことが最も効果的である。製造コストの面から、水とメタノールとの混合溶剤を使用することが好ましい。反応に用いられる原料の比(モル比)は、中間体a:ヒドロキシアミン=1:1.1〜1.3であり、好ましくは、中間体a:ヒドロキシアミン=1:1.2である。最適反応温度は76℃〜80℃である。
【0029】
前記ステップCについては、無水酢酸または塩化アセチルを反応剤として使用することができるが、無水酢酸が好ましい。反応温度は室温である。反応に用いられる原料の比(モル比)は、ヒドロキシルアミン:塩化アセチル=1:1.05〜1.2であり、好ましくは、ヒドロキシルアミン:塩化アセチル=1:1.1である。
【実施例】
【0030】
<実施例1>
1−(6−o−メチル−ベンゾイル−9−エチルカルバゾール−3−イル) −3−シクロヘキシルアセトン−1−オキシム酢酸エステルの合成
ステップ1:3−(3−シクロヘキシルプロピオニル)−6−o−メチル−ベンゾイル−9−エチルカルバゾールの合成
N−エチルカルバゾール39.0g、三塩化アルミニウム(微粉砕)25.3gおよびジクロロメタン150mlを500mlの四つ口フラスコの中に投入した。撹拌しながら、フラスコ中の物質を保護するために、アルゴンガスをフラスコの中に供給し、それらを氷浴で冷却した。温度が0℃に下がった時点で、塩化o−メチル−ベンゾイル25.4gとジクロロメタン21gとの混合溶液の反応系への滴下を開始し、10℃以下の一定の温度に保ちながら、上記塩化o−メチル−ベンゾイルとジクロロメタンとの溶液を約1.5時間をかけて滴下した。フラスコ内の物質を更に2時間撹拌し続けた後、三塩化アルミニウム(微粉砕)25.4gを反応系に投入した。温度を10℃以下の一定の温度に保ちながら、塩化3−シクロヘキシルプロピオニル38.4gとジクロロメタン20gとの混合溶液を約1.5時間をかけて滴下した。温度は15℃に上昇し、更に反応系を2時間撹拌し続けた後、生成物を取り出した。
【0031】
後処理:
上記生成物を、濃塩酸65mlを氷400gと混合して得られた希塩酸の溶液に撹拌しながら徐々に注入し、混合物を得た。分液ロートで混合物の下層部を分離し、抽出物は、混合物の残りの上層部をジクロロメタン50mlで抽出して得た。抽出物を前記分離して得た下層部と混合し、下層部と抽出物との混合物を得た。上記混合物を、pH=7とするために、まず、重炭酸ナトリウム10gと水200gとを混合して得た重炭酸ナトリウムの溶液で混合物を洗浄し、さらに、混合物を水200mlで3回洗浄した。続いて、無水硫酸マグネシウム30gで水を除去し、ジクロロメタンをロータリーエバポレーターで除去した。ジクロロメタンを留去した蒸留フラスコの中の粗生成物は粉末状の固体であった。その粉末状の固体を、常圧蒸留し石油エーテル200mlに投入し、混合物を得た。その混合物を空気濾過器で濾過し、濾過ケーキを得た。得られた濾過ケーキを無水エタノール150mlに投入して混合物を得、混合物を還流下で加熱した。その後、混合物を室温まで冷却し、さらに、それを2時間凍結させ、最後に、それを空気濾過し、粉末状の淡黄色固体を得、その粉末状の淡黄色固体を乾燥器で75℃で2時間乾燥して中間生成物を得た。重量は64.8gで、収率が71.8%であった。純度は94%超であった。
【0032】
ステップ2:1−(6−o−メチル−ベンゾイル−9−エチルカルバゾール−3−イル)−3−シクロヘキシルアセトン−1−オキシムの合成
ステップ1で得られた中間生成物64.8g、オキシアンモニウム塩酸塩12.9g、酢酸ナトリウム17.6g、エタノール150gおよび水50gを、500mlの四つ口フラスコの中に投入し、攪拌しながら還流下で加熱した。76℃以下の一定の温度に保ちながら、フラスコの反応物を5時間撹拌し続けた後、生成物を取り出した。反応の間、反応物が多量に沈殿した。
【0033】
後処理:
上記生成物を大きいビーカーに投入し、さらに、上記ビーカーに水1000gを加え、撹拌を行ない、混合物を得た。その混合物を一晩静置した後、空気濾過し、粉末状の白色固体を得た。その粉末状の白色固体をテトラヒドロフラン(THF)に投入して混合物を得、混合物中の水を除去するため無水硫酸マグネシウム50gを添加した。それを濾過して、濾過物を得、ロータリーエバポレーターで濾過物からTHFを蒸発させて、蒸留フラスコ中に油状の粘ちょう物を得た。その油状の粘ちょう物を無水メタノール150mlに投入し、撹拌を行なって、沈殿物を得た。その沈殿物を空気濾過し、粉末状の白色固体を得た。その粉末状の白色固体を乾燥器で70℃で5時間乾燥して中間生成物を得た。重量は54.2gで、収率が81%であった。純度は95%超であった。
【0034】
ステップ3:1−(6−o−メチル−ベンゾイル−9−エチルカルバゾール−3−イル) −3−シクロヘキシルアセトン−1−オキシム酢酸エステルの合成
ステップ2で得られた中間生成物54.2g、ジクロロメタン350mlおよびトリエチルアミン15.3gを1000mlの四つ口フラスコの中に投入し、撹拌しながら、フラスコの中での物質を氷浴で冷却した。温度が0℃に下がった時点で、塩化アセチル9.2gとジクロロメタン30gとの混合液を反応系に滴下し始め、約1.5時間をかけて滴下した。更に、反応系を1時間撹拌し続けた後、冷水500mlを反応系に滴下した。分液ロートで反応系の有機液体層部を分離した。有機液体層部をpH7とするために、5%重炭酸ナトリウム200mlで1回洗浄し、さらに水200mlで2回洗浄した。その後、それらを、濃塩酸20gと水400mlとを混合して得た希塩酸溶液で1回洗浄し、さらに、それらを水200mlで3回洗浄した。続けて、水を除去するため、無水硫酸マグネシウム100gを投入し、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去し、粘ちょう液体を得た。その粘ちょう液体をメタノール中に溶解させ、粘ちょう液体とメタノールとの混合溶液を得た。高速撹拌しながら、その粘ちょう液体とメタノールとの混合溶液を大量の水の中に滴下し、沈殿物として白色固体を得た。濾過及び乾燥を行ない、最終生成物を得た。重量は51.9 gで、収率は88%であった。純度は95%超であった。生成物である白色固体の構造式は以下に示される。
【0035】
【化7】

【0036】
<実施例2>
1−(6−o−メチル−ベンゾイル−9−エチルカルバゾール−3−イル) −3−シクロペンチルアセトン−1−オキシム酢酸エステルの合成
ステップ1:3−(3−シクロペンチルプロピオニル)−6−o−メチル−ベンゾイル−9−エチル カルバゾールの合成
N−エチルカルバゾール39.0g、三塩化アルミニウム(微粉砕)25.3gおよびジクロロメタン150mlを500mlの四つ口フラスコの中に投入した。撹拌しながら、フラスコ中の物質を保護するために、アルゴンガスをフラスコの中に供給し、それらを氷浴で冷却した。温度が0℃に下がった時点で、塩化o−メチル−ベンゾイル25.4gとジクロロメタン21gとの混合溶液の反応系への滴下を開始し、温度を10℃以下の一定の温度に保ちながら、上記塩化o−メチル−ベンゾイルとジクロロメタンとの溶液を約1.5時間をかけて滴下した。フラスコ内の物質を更に2時間撹拌し続けた後、三塩化アルミニウム(微粉砕)25.4gを投入した。10℃以下の一定の温度に保ちながら、塩化3−シクロペンチルプロピオニル42.2gとジクロロメタン20gとの混合溶液を約1.5時間をかけて滴下した。温度は15℃に上昇し、更に反応系を2時間撹拌し続けた後、フラスコ内の物質を取り出した。
【0037】
後処理:
上記フラスコ内の物質を、濃塩酸65mlを氷400gと混合し得られた希塩酸溶液に撹拌しながら徐々に注入し、混合物を得た。分液ロートで混合物の下層部を分離し、抽出物は、混合物の残りの上層部をジクロロメタン50mlで抽出して得た。抽出物を、前記分離して得た下層部と混合し、下層部と抽出液の混合物を得た。上記混合物を、pH=7とするために、まず、重炭酸ナトリウム10gと水200gとを混合して得た重炭酸ナトリウムの溶液で混合物を洗浄し、さらに、混合物を水200mlで3回洗浄した。続いて、無水硫酸マグネシウム30gで水を除去し、ジクロロメタンをロータリーエバポレーターで留去した。ジクロロメタンを留去した蒸留フラスコ中の粗生成物は粉末状の固体であった。その粉末状の固体を、常圧蒸留した石油エーテル200mlに投入して、混合物を得た。その混合物を空気濾過し、濾過ケーキを得た。得られた濾過ケーキを無水エタノール150mlに投入して混合物とし、混合物を還流下で加熱した。その後、混合物を室温まで冷却し、さらに、それを2時間凍結させ、最後に、それを空気濾過し、粉末状の淡黄色固体を得、その粉末状の淡黄色固体を乾燥器で75℃で2時間乾燥して中間生成物を得た。重量は50.3gで、純度は96.0%超であった。
【0038】
ステップ2:1−(6−o−メチル−ベンゾイル−9−エチルカルバゾール−3−イル)−3−シクロペンチルアセトン−1−オキシムの合成
ステップ1で得られた中間生成物44.5g、オキシアンモニウム塩酸塩9.7g、酢酸ナトリウム13g、エタノール150gおよび水50gを、500mlの四つ口フラスコの中に投入し、攪拌しながら還流下で加熱した。10℃以下の一定の温度に保ちながら、フラスコ中の反応物を5時間撹拌し続けた後、生成物を取り出した。反応の間、反応物が多量に沈殿した。
【0039】
後処理:
上記生成物を大きいビーカーに投入し、さらに、上記ビーカーに水1000gを加え、撹拌を行ない、混合物を得た。その混合物を一晩静置した後、空気濾過し、粉末状の白色固体を得た。その粉末状の白色固体をテトラヒドロフラン(THF)に投入して混合物とし、混合物中の水を除去するため、無水硫酸マグネシウム50gを添加した。それを濾過して濾過物を得、ロータリーエバポレーターで濾過物からTHFを蒸発させることにより、フラスコ内に油状の粘ちょう物を得た。その油状の粘ちょう物を無水メタノール150mlに投入し、撹拌を行なって、沈殿物を得た。その沈殿物を空気濾過し、粉末状の白色固体を得た。その粉末状の白色固体を乾燥器で70℃で5時間乾燥して中間生成物を得た。重量は37.6gであり、収率は80.0%であった。純度は95.0%超であった。
【0040】
ステップ3:1−(6−o−メチル−ベンゾイル−9−エチルカルバゾール−3−イル) −3−シクロペンチルアセトン−1−オキシム酢酸エステルの合成
ステップ2で得られた中間生成物86gとジクロロメタン270mlとを500mlの四つ口フラスコの中に投入し、撹拌しながら、常温で無水酢酸32gとジクロロメタン32gとの混合溶液を反応系に滴下し始め、約1.5時間をかけて滴下した。更に、反応系を1時間撹拌し続けた。その後、5%水酸化ナトリウム水溶液260gを反応系に滴下した。反応後、生成物を取り出した。分液ロートで反応系の有機液体層を分離した。有機液体層部をPH7とするために、水で3回洗浄した。ロータリーエバポレーターでジクロロメタンを留去し、粘ちょう液体を得た。その粘ちょう液体をメタノール400mlに溶解させ、粘ちょう液体とメタノールとの混合溶液を得た。高速撹拌しながら、その粘ちょうな液体のメタノール溶液を大量の水の中に滴下し、沈殿物として白色固体生成物を得た。濾過及び乾燥を行ない、最終生成物を得た。最終生成物の機器分析を行った。最終生成物の重量は95.0 gで、純度は98%超であった。HNMRスペクトルは図1に示され、構造式は以下に示される。
【0041】
【化8】

【0042】
当業者は、以上に説明された内容によって本発明の好ましい態様からヒントを得、本発明の本質と範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正を行うことができる。しかし、理解されるべきことは、本発明は図面に示されているもの、および本明細書に記載されているものに限定されるものではないということ、またそのような変更および修正は添付の特許請求の範囲に記載した範囲に含まれるということである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)に示されるカルバゾールオキシムエステル光開始剤。
【化1】

(式中、Rはシクロアルキルで置換された脂肪族炭化水素基であり、前記シクロアルキルはシクロプロピルからシクロオクチルまでの脂環基である。シクロアルキルとオキシムエステル基とは、鎖長が炭素数1〜5の直鎖状脂肪族炭化水素基で連結されている。)
【請求項2】
以下A〜Cの三つのステップを有することを特徴とするN−エチルカルバゾールを用いた請求項1に記載のカルバゾールオキシムエステル光開始剤の製造方法:
ステップA.アシル化反応:有機溶剤中で三塩化アルミニウムの触媒作用でN−エチルカルバゾールをアシル化させることによって、中間体aとしての3−R−アシル−6−o−メチル−ベンゾイル−9−エチルカルバゾールを合成する;
ステップB.オキシム化反応:中間体bとしての1−(6−o−メチル−ベンゾイル−9−エチル カルバゾール−3−イル)−R−オン−1−オキシムを前記中間体aから合成する;
ステップC.エステル化反応:前記1−(6−o−メチル−ベンゾイル−9−エチル カルバゾール−3−イル)−R−オン−1−オキシムを無水酢酸でエステル化させることによって、カルバゾールオキシムエステル光開始剤を合成する。
【請求項3】
前記ステップAにおけるアシル化反応で合成された中間体aである3−R−アシル−6−o−メチル−ベンゾイル−9−エチルカルバゾールの構造式は下記一般式(II)であることを特徴とする、請求項2に記載のカルバゾールオキシムエステル光開始剤の合成方法。
【化2】

(式中、Rはシクロアルキルで置換された脂肪族炭化水素基であり、前記シクロアルキルはシクロプロピルからシクロオクチルまでの脂環基である。シクロアルキルとカルボニルとは、鎖長が炭素数1〜5の直鎖状脂肪族炭化水素基で連結されている。)
【請求項4】
前記ステップAにおけるアシル化反応で使用された有機溶剤は1〜4個の炭素原子を有するハロゲン化炭化水素であることを特徴とする、請求項2に記載のカルバゾールオキシムエステル光開始剤の合成方法。
【請求項5】
前記ステップBにおけるアシル化反応で合成された中間体bである1−(6−o−メチル−ベンゾイル−9−エチル カルバゾール−3−イル)−R−オンー1−オキシムの構造式は下記一般式(III)であることを特徴とする、請求項2に記載のカルバゾールオキシムエステル光開始剤の合成方法。
【化3】

(式中、Rはシクロアルキルで置換された脂肪族炭化水素基であり、前記シクロアルキルはシクロプロピルからシクロオクチルまでの脂環基である。シクロアルキルとオキシミド基とは、鎖長が炭素数1〜5の直鎖状脂肪族炭化水素基で連結されている。)

【図1】
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【公表番号】特表2012−519191(P2012−519191A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552305(P2011−552305)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際出願番号】PCT/CN2009/075985
【国際公開番号】WO2010/102502
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(511216525)常州強力電子新材料有限公司 (2)
【Fターム(参考)】