説明

カルバミン酸フェニル化合物

【課題】
カルバミン酸エステルを効率よく製造するための触媒として有用な、カルバミン酸フェニル化合物を提供すること。
【解決手段】
下記一般式(1)で表されるカルバミン酸フェニル化合物。
【化1】


[式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数1〜10の脂肪族オキシ基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10のアリールオキシ基、炭素数7〜10のアラルキル基及び炭素数7〜10のアラルキルオキシ基からなる群より選ばれる官能基又は水素原子を示す。ただしR、R及びRの炭素数の合計が2〜20であり、前記官能基中の炭素原子は、酸素原子又は窒素原子で置換されていてもよい。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルバミン酸フェニル化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
カルバミン酸フェニル化合物は、医薬、農薬、除草剤、殺虫剤等の原料として有用な化合物として広く知られているが、イソシアネートを製造するための、カルバミン酸エステル(ウレタン)の熱分解触媒としての利用法もある(例えば、特許文献1)。
【0003】
イソシアネートの主な工業的製造法は、アミン化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン法)であり、全世界の生産量のほぼ全量がホスゲン法により生産されている。しかしながら、ホスゲン法は多くの問題がある。
【0004】
第1に、原料としてホスゲンを大量に使用することである。ホスゲンは極めて毒性が高く、従業者への暴露を防ぐためにその取扱いには特別の注意を要し、廃棄物を除害するための特別の装置も必要である。
【0005】
第2に、ホスゲン法においては、腐食性の高い塩化水素が大量に副生するため、該塩化水素を除害するためのプロセスが必要となる上、製造されたイソシアネートには多くの場合加水分解性塩素が含有されることになり、ホスゲン法で製造されたイソシアネートを使用した場合に、ポリウレタン製品の耐候性、耐熱性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0006】
このような背景から、ホスゲンを使用しないイソシアネート化合物の製造方法が望まれている。ホスゲンを使用しないイソシアネート化合物の製造方法の一つとして、カルバミン酸エステルの熱分解による方法が提案されている。カルバミン酸エステルの熱分解によってイソシアネートとヒドロキシ化合物が得られることは古くから知られている(例えば、非特許文献1参照)。その基本反応は下記式(A)によって例示される。
【0007】
【化1】

【0008】
式(I)中、Rはx価の有機残基を表し、R’は、1価の有機残基を表し、xは、1以上の整数を表す。
【0009】
しかしながら、カルバミン酸エステルの熱分解反応は、高温下でおこなわれるなど反応条件が厳しく、種々の不可逆な副反応が併発する。副反応としては、例えば、置換された尿素類、ビウレット類、カルボジイミド類、イソシアヌレート類等の生成を挙げることができる。これらの副反応は、目的とするイソシアネートの収率・選択率を低下させるのみならず、特にポリイソシアネートの製造においては高分子量体の生成を引き起こし、場合によっては固形物の析出等によって反応器の閉塞等の問題を引き起こす場合がある。
【0010】
このような、カルバミン酸エステルの熱分解における副生物の生成を抑制し、良好なイソシアネート収率を得る方法として、これまで、様々な方法が提案されている。
【0011】
例えば、特許文献2には、塩基性触媒存在下にカルバミン酸エステルを熱分解させるイソシアネートの製造方法が開示されている。しかしながら、塩基性触媒を使用した場合、固体状の副生物の生成量が増加し、イソシアネートの収率はそれほど高くならない場合が多く(例えば、非特許文献2参照)、好ましい方法とは言えない。
【0012】
また、特許文献2には、ルイス酸を使用する方法が提案されており、種々の金属塩やハロゲン化物が例示されている。これらの改良方法として、種々の金属化合物を触媒として使用する方法が多数提案されていて、例えば、特許文献3には重金属化合物が、特許文献4および特許文献5にはIb、IIb、IIIa、IVa、IVb、Vb、VIII族の金属化合物が、特許文献6および特許文献7には塩化亜鉛が、特許文献8および特許文献9にはアルミニウムと鉄のアセチルアセトナートが、特許文献10にはタリウム、スズ、アンチモン、ジルコニウムの化合物が均一系熱分解触媒として有効に作用しているとの記載がある。
【0013】
しかしながら、カルバミン酸エステルの熱分解に触媒活性を示すこれらの多くの金属および金属化合物が、アロファネート化、ビウレット生成や三量化等の副反応に対しても触媒作用を示すことはよく知られていて、これまで提案されてきた触媒の使用ではカルバミン酸エステルの熱分解における副生物の生成を抑制し、良好なイソシアネート収率を得ることには限界があった。
【0014】
また、特許文献1には、RfOCONH(Rfは炭素数1〜20の脂肪族、脂環族、芳香脂肪族、芳香族炭化水素基を表す)で表されるカルバミン酸化合物の存在下にカルバミン酸エステルを熱分解する方法が開示されている。当該方法により、カルバミン酸エステルの熱分解の際に反応溶液に不溶な固形物等の生成が抑制される効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第2962596号公報
【特許文献2】特開昭46−17773号公報
【特許文献3】特開昭51−19721号公報
【特許文献4】特開昭52−19642号公報
【特許文献5】特開昭56−166160号公報
【特許文献6】特開昭56−79657号公報
【特許文献7】特開昭57−21356号公報
【特許文献8】米国特許第4290968号
【特許文献9】米国特許第4369141号
【特許文献10】特開昭58−128354号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Berchte der Deutechen Chemischen Gesellschaft,第3巻,653頁,1870年
【非特許文献2】J.Appl.Pol.Sci.,第16巻,1213頁,1972年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、特許文献1に記載の方法では、カルバン酸エステルの熱分解を速やかに行う場合に、十分に不溶な固形物等の生成を抑制することが困難であった。また、カルバミン酸化合物の添加量を増やした場合でも、これらの効果は十分に得られなかった。
【0018】
そこで、本発明の目的は、カルバミン酸エステルを効率よく製造するための触媒として有用な、カルバミン酸フェニル化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題に対し鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有するカルバミン酸フェニル化合物が、カルバミン酸エステルを効率よく製造するための触媒として有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0020】
すなわち本発明は、以下の[1]〜[4]に記載のカルバミン酸フェニル化合物を提供する。
[1]下記一般式(1)で表されるカルバミン酸フェニル化合物。
【化2】


[式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数1〜10の脂肪族オキシ基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10のアリールオキシ基、炭素数7〜10のアラルキル基及び炭素数7〜10のアラルキルオキシ基からなる群より選ばれる官能基又は水素原子を示す。ただしR、R及びRの炭素数の合計が2〜20であり、前記官能基中の炭素原子は、酸素原子又は窒素原子で置換されていてもよい。]
[2]R、R及びRが、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基又は水素原子である、[1]に記載のカルバミン酸フェニル化合物。
[3]R、R及びRが、それぞれ独立に、炭素数3〜10のアルキル基又は水素原子であり、R、R及びRのうち少なくとも一つが第3級炭素原子を有するアルキル基である、[1]又は[2]に記載のカルバミン酸フェニル化合物。
[4]下記式(2)で表されるカルバミン酸フェニル化合物。
【化3】

【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、カルバミン酸エステルを効率よく製造するための触媒として有用なカルバミン酸フェニル化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1における、カルバミン酸(4−tert−オクチルフェノール)と4−tert−オクチルフェノールからなる混合物のH−NMRスペクトル。
【図2】実施例1における、カルバミン酸(4−tert−オクチルフェノール)と4−tert−オクチルフェノールからなる混合物の13C−NMRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0024】
本実施形態に係るカルバミン酸フェニル化合物は、下記一般式(1)で表されるカルバミン酸フェニル化合物である。
【0025】
【化4】

【0026】
式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数1〜10の脂肪族オキシ基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10のアリールオキシ基、炭素数7〜10のアラルキル基及び炭素数7〜10のアラルキルオキシ基からなる群より選ばれる官能基又は水素原子を示す。ただしR、R及びRの炭素数の合計が2〜20であり、上記官能基中の炭素原子は、酸素原子又は窒素原子で置換されていてもよい。
【0027】
なお、炭素原子が、酸素原子又は窒素原子で置換される場合は、適宜当該原子に結合する水素の数を変更することができる。官能基中の炭素原子が、酸素原子又は窒素原子で置換された例としては、−CH−CH−の炭素原子が酸素原子に置換された−CH−O−、−CH−CH−の炭素原子が窒素原子に置換された−CH−NH−、フェニル基の炭素原子が窒素原子に置換されたピリジニル基、等が挙げられる。また、上記官能基中の炭素原子が、全て酸素原子又は窒素原子で置換されることはない。
【0028】
特許文献1に記載のカルバミン酸化合物は、カルバミン酸エステルの熱分解触媒として使用する場合に、添加量を増やしても熱分解速度が十分に向上しなかった。これに対して、本実施形態に係るカルバミン酸フェニル化合物は、カルバミン酸エステルの熱分解触媒として有用であり、当該カルバミン酸フェニル化合物の熱分解反応への添加量を増やすことで、熱分解速度を大幅に向上させることができる。この一因として、本発明のカルバミン酸フェニル化合物は、反応溶液への溶解性が高く、添加したカルバミン酸フェニル化合物が十分に反応溶液に分散するためと考えられる。
【0029】
、R及びRは、水酸基を有しないことが好ましく、アミノ基を有しないことがより好ましい。すなわち、上記置換基の末端に位置する炭素原子は、酸素原子又は窒素原子で置換されないことが好ましい。
【0030】
また、R、R、Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基(各異性体)、ブチル基(各異性体)、ペンチル基(各異性体)、ヘキシル基(各異性体)、ヘプチル基(各異性体)、オクチル基(各異性体)、ノニル基(各異性体)、デシル基(各異性体)等の炭素数1〜10の脂肪族アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基(各異性体)、ブチルオキシ基(各異性体)、ペンチルオキシ基(各異性体)、ヘキシルオキシ基(各異性体)、ヘプチルオキシ基(各異性体)、オクチルオキシ基(各異性体)、ノニルオキシ基(各異性体)、デシルオキシ基(各異性体)等の炭素数1〜10の脂肪族アルコキシ基;フェニル基、メチルフェニル基(各異性体)、エチルフェニル基(各異性体)、プロピルフェニル基(各異性体)、ブチルフェニル基(各異性体)、ジメチルフェニル基(各異性体)、ジエチルフェニル基(各異性体)等の炭素数6〜10のアリール基;フェノキシ基、メチルフェノキシ基(各異性体)、エチルフェノキシ基(各異性体)、プロピルフェノキシ基(各異性体)、ブチルフェノキシ基(各異性体)、ジメチルフェノキシ基(各異性体)、ジエチルフェノキシ基(各異性体)等の炭素数6〜10のアリールオキシ基;フェニルメチル基、フェニルエチル基(各異性体)、フェニルプロピル基(各異性体)、フェニルブチル基(各異性体)等の炭素数7〜10のアラルキル基、フェニルメトキシ基、フェニルエトキシ基(各異性体)、フェニルプロピルオキシ基(各異性体)、フェニルブチルオキシ基(各異性体)等の炭素数7〜10のアラルキルオキシ基、等を例示することができる。これらの基は、さらに好ましくは、炭素、酸素、窒素、水素以外の原子を含まない基である。
【0031】
、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基又は水素原子であることが好ましい。このとき、R、R及びRを構成する官能基の炭素数の合計が、2〜10であることがより好ましい。
【0032】
また、R、R及びRが、それぞれ独立に、炭素数3〜10のアルキル基又は水素原子であり、R、R及びRのうち少なくとも一つが第3級炭素原子を有するアルキル基であることが好ましい。このとき、R、R及びRを構成する官能基の炭素数の合計が、3〜20であることがより好ましい。
【0033】
上記一般式(1)で表されるカルバミン酸フェニル化合物としては、カルバミン酸(プロピルフェニル)(各異性体)、カルバミン酸(ブチルフェニル)(各異性体)、カルバミン酸(ペンチルフェニル)(各異性体)、カルバミン酸(ヘキシルフェニル)(各異性体)、カルバミン酸(ヘプチルフェニル)(各異性体)、カルバミン酸(オクチルフェニル)(各異性体)、カルバミン酸(ノニルフェニル)(各異性体)、カルバミン酸(ジプロピルフェニル)(各異性体)、カルバミン酸(ジブチルフェニル)(各異性体)、カルバミン酸(ジペンチルフェニル)(各異性体)等が挙げられる。
【0034】
上記一般式(1)で表されるカルバミン酸フェニル化合物の製造方法は、特に制限されず、例えば、下記式(I)、(II)又は(III)で表される反応スキームに従って製造することができる。
【0035】
【化5】

【0036】
【化6】

【0037】
【化7】

【0038】
式中、R、R及びRは、それぞれ上記一般式(1)におけるR、R及びRと同一であり、Rは、置換基を有してもよいアルキル基又は置換基を有してもよいアリール基を示す。
【0039】
上記式(I)で表される反応スキームに従って製造する場合、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で、尿素と置換フェノールとを、1:0.1〜1:100のモル比で、100℃〜250℃の温度範囲にて反応させることで、カルバミン酸フェニル化合物を得ることができる。
【0040】
上記式(II)で表される反応スキームに従って製造する場合、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で、アンモニアと炭酸エステルとを、1:0.01〜1:100のモル比で、0℃〜100℃の温度範囲にて反応させることで、カルバミン酸フェニル化合物を得ることができる。
【0041】
上記式(III)で表される反応スキームに従って製造する場合、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で、クロロギ酸フェニルとアンモニアとを、1:0.1〜1:100のモル比で、100℃〜250℃の温度範囲にて反応させることで、カルバミン酸フェニル化合物を得ることができる。
【0042】
これらのうち、上記(I)で表される反応スキームが、製造の容易さの観点から好ましい。
【0043】
本実施形態に係るカルバミン酸フェニル化合物の製造例として、上記式(2)で表されるカルバミン酸フェニル化合物の製造例を以下に示す。上記式(2)で表されるカルバミン酸フェニル化合物は、例えば、下記式(IV)で表される反応スキームにより製造することができる。
【0044】
【化8】

【0045】
具体的には、尿素と4−tert−オクチルフェノールを反応容器中で混合して、反応させ、上記式(2)で表されるカルバミン酸フェニル化合物を得ることができる。ここで、反応温度は100℃〜250℃であることが好ましく、130℃〜200℃であることがより好ましい。また、反応時間は、0.1時間〜50時間であることが好ましく、3時間〜20時間であることがより好ましい。また、上記反応容器中は、窒素置換されることが好ましい。
【0046】
上記反応において、4−tert−オクチルフェノールの使用量(モル)は、尿素の使用量(モル)に対して、1倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましい。4−tert−オクチルフェノールの使用量が、尿素の使用量に対して1倍以上であると、反応終了後に尿素の残存量が少なく、精製が容易になる。
【0047】
上記反応終了後の反応生成物を、減圧蒸留による4−tert−オクチルフェノールの除去等の方法により精製することで、上記式(2)で表されるカルバミン酸フェニル化合物が得られる。
【0048】
本実施形態に係るカルバミン酸フェニル化合物は、カルバミン酸エステルの熱分解触媒として好適に使用することができる。上記カルバミン酸エステルとしては、下記式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0049】
【化9】

【0050】
式中、Rは、炭素数1〜20の脂肪族基及び炭素数1〜20の芳香族基からなる群より選ばれる官能基を示し、複数存在するRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。Rは、nに等しい原子化を有する炭素数1〜20の脂肪族基及び炭素数6〜20の芳香族基からなる群より選ばれる官能基を示す。nは1〜10の整数を示す。上記官能基は、酸素原子を含んでいてもよい。
【0051】
上記カルバミン酸フェニル化合物を熱分解触媒として使用した、上記カルバミン酸エステルの熱分解反応においては、カルバミン酸フェニル化合物の使用量が、カルバミン酸エステルに対して0.1〜50モル%であることが好ましく、0.5〜30モル%であることがより好ましい。上記範囲より少ない量では反応活性の効果が少なく、上記範囲より大きい場合には副反応が生起して反応の選択率が悪化する場合がある。
【0052】
上記熱分解反応における反応温度は、上記カルバミン酸エステルが熱分解される温度であれば特に限定されないが、通常100℃〜350℃の範囲であり、反応速度を高めるためには高温が好ましいが、一方で、高温ではカルバミン酸エステルおよび/または生成物であるイソシアネートによって、副反応が引き起こされる場合があるので、好ましくは150℃〜300℃の範囲である。反応温度を一定にするために、上記反応器に公知の冷却装置、加熱装置を設置してもよい。また、反応圧力は、用いる化合物の種類や反応温度によって異なるが、減圧、常圧、加圧のいずれであってもよく、通常20〜1×10Paの範囲で行われる。反応時間(連続法の場合は滞留時間)に、特に制限はなく、通常0.001〜100時間、好ましくは0.005〜50時間、より好ましくは0.01〜10時間である。
【0053】
カルバミン酸エステルは、高温下で長時間保持された場合、副反応を生起する場合があることから、カルバミン酸エステル、及び、カルバミン酸エステルの熱分解反応によって生成するイソシアネートが高温下に保持される時間は、可能な限り短時間であることが好ましく、熱分解反応は、好ましくは連続法でおこなわれる。連続法とは、カルバミン酸エステルを含有する混合物を、反応器に連続的に供給して、熱分解反応に付し、カルバミン酸エステルの熱分解反応によって生成するイソシアネート及びヒドロキシ化合物を、該熱分解反応器から連続的に抜き出す方法である。
【0054】
上記熱分解反応器の形式に、特に制限はないが、気相成分を効率よく回収するために、好ましくは、公知の蒸留装置を使用する。例えば、蒸留塔、多段蒸留塔、多管式反応器、連続多段蒸留塔、充填塔、薄膜蒸発器、内部に支持体を備えた反応器、強制循環反応器、落膜蒸発器、落滴蒸発器のいずれかを含む反応器を用いる方式、およびこれらを組み合わせた方式等、公知の種々の方法が用いられる。熱分解反応器およびラインの材質は、該カルバミン酸エステルや生成物であるヒドロキシ化合物、イソシアネート等に悪影響を及ぼさなければ、公知のどのようなものであってもよいが、SUS304やSUS316、SUS316L等が安価であり、好ましく使用できる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
<分析方法>
1)NMR分析方法
装置:日本国、日本電子(株)社製JNM−A400 FT−NMRシステム
(1)H、13Cおよび119Sn−NMR分析サンプルの調製
サンプル溶液を約0.3g秤量し、重クロロホルム(米国、アルドリッチ社製、99.8%)を約0.7gと内部標準物質としてテトラメチルスズ(日本国、和光純薬工業社製、和光一級)を0.05g加えて均一に混合した溶液をNMR分析サンプルとした。
(2)定量分析法
各標準物質について分析を実施し、作成した検量線を基に、分析サンプル溶液の定量分析を実施した。
【0057】
[実施例1]
内溶液10Lの4つ口フラスコに尿素(日本国、和光純薬工業社製、特級)66g(1.1mol)と4−tert−オクチルフェノール(日本国、東京化成社製)4530g(22mol)を入れ、撹拌子を入れ、留出液受器と連結した還流冷却器付き分留頭、および温度計を取り付け、該フラスコ内を真空−窒素置換した。該フラスコを、180℃に加熱したオイルバスに浸漬し、約10時間反応をおこなった。オイルバスの温度を160℃とし、系内を0.13kPaに減圧し、過剰の4−tert−オクチルフェノールを留去した。該フラスコには、233gの残留物が得られた。該残留物のHおよび13C−NMR分析をおこなったところ、該残留物はカルバミン酸(4−tert−オクチルフェニル)と4−tert−オクチルフェノールの混合物であり、H−NMRの積分値から、該混合物中に含有されるカルバミン酸(4−tert−オクチルフェニル)は約29wt%であった。
【0058】
実施例1で得られた混合物について、H NMR分析の結果を図1に示し、13C NMR分析の結果を図2に示す。
【0059】
[実施例2]
オイル循環によるジャケット式の加熱部を有する分子蒸留装置(柴田科学社製、MS−300型)に真空ポンプ及び真空コントローラーを取り付け、真空コントローラーのパージラインを窒素ガスラインに接続した。分子蒸留装置内を窒素置換し、加熱部を200℃に加熱した。分子蒸留装置内を窒素置換し、加熱部を200℃に加熱した。N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ビス(3−メチルブチル)エステル50.0g(0.145モル)をフタル酸ベンジルブチル(和光純薬工業社製、一級)120g、および、実施例1で得られたカルバミン酸(4−tert−オクチルフェニル)と4−tert−オクチルフェノールの混合物12.4g(カルバミン酸(4−tert−オクチルフェニル)0.0145モルに相当)と混合した。分子蒸留装置内を1.3kPaに減圧し、分子蒸留装置のワイパーを約300回転/分で回転させながら、混合溶液を分子蒸留装置内に約5g/分の速度で投入し、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ビス(3−メチルブチル)エステルの熱分解を行った。試料受器に熱分解生成物が21.8g得られた。H及び13C−NMR分析の結果、試料受器に回収されたものはヘキサメチレンジイソシアネートであった。N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ビス(3−メチルブチル)エステルに対する収率は89%であった。
【0060】
[比較例1]
オイル循環によるジャケット式の加熱部を有する分子蒸留装置(柴田科学社製、MS−300型)に真空ポンプ及び真空コントローラーを取り付け、真空コントローラーのパージラインを窒素ガスラインに接続した。分子蒸留装置内を窒素置換し、加熱部を200℃に加熱した。分子蒸留装置内を窒素置換し、加熱部を200℃に加熱した。N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ビス(3−メチルブチル)エステル52.0g(0.151モル)をフタル酸ベンジルブチル120g、および、カルバミン酸フェニル(和光純薬工業社製)2.1g(0.015モル)と混合した。分子蒸留装置内を1.3kPaに減圧し、分子蒸留装置のワイパーを約300回転/分で回転させながら、混合溶液を分子蒸留装置内に約5g/分の速度で投入し、N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ビス(3−メチルブチル)エステルの熱分解を行った。試料受器に熱分解生成物が10.9g得られた。H及び13C−NMR分析の結果、試料受器に回収されたものはヘキサメチレンジイソシアネートであった。N,N’−ヘキサンジイル−ビス−カルバミン酸ビス(3−メチルブチル)エステルに対する収率は43%であった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のカルバミン酸フェニル化合物は、カルバミン酸エステルの熱分解の際の反応溶液への溶解度が高く、当該カルバミン酸フェニル化合物によりカルバミン酸エステルの熱分解反応を効率よく進行させることができる。したがって、本発明の製造方法は産業上大いに有用であり商業的価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるカルバミン酸フェニル化合物。
【化1】


[式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数1〜10の脂肪族オキシ基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜10のアリールオキシ基、炭素数7〜10のアラルキル基及び炭素数7〜10のアラルキルオキシ基からなる群より選ばれる官能基又は水素原子を示す。ただしR、R及びRの炭素数の合計が2〜20であり、前記官能基中の炭素原子は、酸素原子又は窒素原子で置換されていてもよい。]
【請求項2】
、R及びRが、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基又は水素原子である、請求項1に記載のカルバミン酸フェニル化合物。
【請求項3】
、R及びRが、それぞれ独立に、炭素数3〜10のアルキル基又は水素原子であり、R、R及びRのうち少なくとも一つが第3級炭素原子を有するアルキル基である、請求項1又は2に記載のカルバミン酸フェニル化合物。
【請求項4】
下記式(2)で表されるカルバミン酸フェニル化合物。
【化2】


【図1】
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【図2】
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