説明

カンゾウ属植物株及びカンゾウ属植物増殖方法

【課題】グリチルリチン含有の割合が高く保持されたまま、カンゾウ属植物を継代し増殖しうるカンゾウ属植物株及びカンゾウ属植物増殖方法の提供。
【解決手段】根部におけるグリチルリチン含有の割合が高く、継代後もグリチルリチン含有の割合が高く保持され、かつ根部又は茎部の切片を養液栽培することにより植物体を再生できるカンゾウ属植物株、及び、親株の植物体から採取された根部又は茎部の切片を、二価鉄イオンを少なくとも含有する水溶液に浸漬した後、該切片を用いて養液栽培を行う手順を少なくとも含むカンゾウ属植物増殖方法を提供する。本発明に係るカンゾウ属植物株は、継代後もグリチルリチン含有の割合を高く保持できる。従って、例えば、一つの植物体から多数の植え付け材料を取得し、それらの切片をそれぞれ養液栽培することにより、グリチルリチン含有の割合の高いカンゾウ属植物体を多数取得できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンゾウ属の植物のうち所定の性質を備えるカンゾウ属植物株、及び、カンゾウ属植物増殖方法などに関連する。より詳細には、親株の植物体が養液栽培を行うことのできる株であり、親株の植物体から採取された根部又は茎部の切片を用いて養液栽培を行うことにより植物体を再生でき、かつ親株及び再生植物体の根部におけるグリチルリチン含有の割合が両者とも高いカンゾウ属植物株、並びに親株の植物体から採取された根部又は茎部の切片を、二価鉄イオンを少なくとも含有する水溶液に浸漬した後、該切片を用いて養液栽培を行う手順を少なくとも含むカンゾウ属植物増殖方法などに関連する。
【背景技術】
【0002】
カンゾウ属(甘草属、学名「Glycyrrhiza」、以下同じ)植物は、マメ科の多年草で、中国北部、ロシア南部、中央アジア、地中海地方などの乾燥地帯に主に自生する。例えば、中国北部などに自生するウラルカンゾウ(学名「G. uralensis」、以下同じ)、地中海地方などに広く自生するスペインカンゾウ(学名「G. glabra」、以下同じ)などが広く知られている。
【0003】
東洋医学(漢方)の分野では、古くから、カンゾウ属植物の根部(ストロンを含む、以下同じ)を乾燥させたものなどが生薬「甘草」として重用されている。甘草の乾燥粉末・エキスなどには、緩和作用・止渇作用があるとされる。そのため、各種の生薬を緩和・調和する目的で、安中散、四君子湯、十全大補湯、人参湯など、多数の漢方方剤に甘草が配合されている。また、甘草には、単独でも、のどの痛みやせきを鎮める効果があるとされ、鎮痛薬・鎮咳薬などとしても用いられている。
【0004】
甘草の主な薬効成分として、グリチルリチン(Glycyrrhizin、C426216、CAS番号:1405−86−3、以下同じ)が知られている。グリチルリチンは、トリテルペン配糖体の一つで、カンゾウ属植物の根部などに多く含有する。グリチルリチンは、抗炎症作用を有し、また、強い甘みを有することが知られている。そのため、単独でも、医薬品、化粧品、甘味料などとしても広く用いられている。グリチルリチンは、主に、カンゾウ属植物の根部から抽出・精製することにより、製造されている。
【0005】
多くの場合、生薬の甘草又はグリチルリチンの原材料に、野生のカンゾウ属植物が収穫され用いられている。一方、カンゾウ属植物の乱獲による環境破壊や資源の枯渇化の問題が顕在化している。そのため、カンゾウ属植物を安定供給するための栽培・増殖方法を確立することが望まれている。
【0006】
カンゾウ属植物の圃場栽培の場合、グリチルリチン含有の割合の高いカンゾウ属植物を得るためには、数年以上の長い栽培期間を必要とする。また、気候、採集時期、栽培地域、個体間などでのグリチルリチン含有の割合のばらつきが大きく、生薬又はグリチルリチンの原材料に使用できるカンゾウ属植物を安定的に栽培することは難しい。その他、開花・結実しにくいため種子から大量に栽培することが難しい、冬期に地上部が冬枯れするため一年を通じての収穫が難しい、などの問題もある。
【0007】
そこで、組織培養によるカンゾウ属植物の増殖方法や、養液栽培などの閉鎖系施設栽培によるカンゾウ属植物の栽培方法などが、種々検討されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、カンゾウをカルス化し、たばこ加香用甘草エキスを得る方法が、特許文献2には、カンゾウを養液栽培し、得られたカンゾウの根などからグリチルリチンを採取するグリチルリチンの製造方法が、特許文献3には、培養液のpHおよび窒素源組成を調整することによって根部の伸長及びグリチルリチン含量増大を図るカンゾウ属植物の養液栽培方法が、特許文献4には、カンゾウ属植物の腋芽組織を暗黒下で液体培養してストロン様組織を誘導するカンゾウ属植物の組織培養方法が、それぞれ記載されている。
【0009】
また、非特許文献1には、ロックウールなどを水耕栽培用の支持体として用いて、生長点組織から調製したカンゾウの無菌幼植物を定植し、約6ヵ月間水耕栽培を行った結果、約150mgのグリチルリチン生産量が認められたことが記載されている。非特許文献2には、カンゾウの根茎を7cm長に株分けし、ロックウールに定植し、所定の培養液で約5ヵ月間培養した結果、地下部のグリチルリチン含有率が2.52%であったことが記載されている。
【特許文献1】特開昭50−16440号公報
【特許文献2】特開平1−102092号公報
【特許文献3】特開平6−205618号公報
【特許文献4】特開2005−137291号公報
【非特許文献1】Koji KAKUTANI, “Glycyrrhizin Production ofLicorice by Nutricultures using Several Material”; Bull. Pharm. Res. Technol.Inst. 12, 133-138 (2003)
【非特許文献2】Suguru SATO et al, “The Effects of NutrientSolution Concentration on Inorganic and Glycyrrhizin Contents of Glycyrrhizaglabra Linn.”; YAKUGAKU ZASSHI 124 (10) 705-709 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の通り、組織培養によるカンゾウ属植物の増殖方法や、養液栽培などの閉鎖系施設栽培によるカンゾウ属植物の栽培方法が種々検討されている。また、それらの一部では、グリチルリチン含有の割合や含有量が高かった旨の報告もされている。
【0011】
しかし、グリチルリチン含有量を高く保持した状態でカンゾウ属植物を継代し、短期間で効率的に増殖する技術は確立していない。そのため、現在のところ、カンゾウ属植物の大量生産はほとんど実用化に到っていない。
【0012】
そこで、本発明は、グリチルリチン含有の割合を高く保持したまま、カンゾウ属植物を継代し増殖しうるカンゾウ属植物株及びカンゾウ属植物増殖方法を提供することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、根部(ストロンを含む、本発明において以下同じ)におけるグリチルリチン含有の割合が高く、継代後もグリチルリチン含有の割合が高く保持され、かつ根部又は茎部の切片を養液栽培することにより植物体を再生できるカンゾウ属植物株の選抜・誘導に成功し、また、親株の植物体から採取された根部又は茎部の切片を、二価鉄イオンを少なくとも含有する水溶液に浸漬した後、該切片を用いて養液栽培を行うことにより、カンゾウ属植物を簡易かつ高効率に増殖できることを新規に見出した。
【0014】
そこで、本発明では、下記(1)及び(2)の性質を備えるカンゾウ属植物株、及び、親株の植物体から採取された根部又は茎部の切片を、二価鉄イオンを少なくとも含有する水溶液に浸漬した後、該切片を用いて養液栽培を行う手順を少なくとも含むカンゾウ属植物増殖方法を提供する。
(1)親株の植物体が養液栽培を行うことのできる株であり、かつその植え付けから半年後の根部におけるグリチルリチン含有の割合が1.5%以上、又は、その植え付けから1年後の根部におけるグリチルリチン含有の割合が2.5%以上である。
(2)前記親株の植物体から採取された根部又は茎部の切片を用いて養液栽培を行うことにより植物体を再生でき、かつその再生植物体の植え付けから半年後の根部におけるグリチルリチン含有の割合が1.5%以上、又は、その再生植物体の植え付けから1年後の根部におけるグリチルリチン含有の割合が2.5%以上である。
【0015】
上述の通り、本発明に係るカンゾウ属植物株は、継代後もグリチルリチン含有の割合を高く保持できる。従って、例えば、一つの植物体の根部又は茎部の切片を継代培養して、その植物体から多数の植え付け材料(根部又は茎部の切片)を取得し、それらの切片を、それぞれ養液栽培することにより、グリチルリチン含有の割合の高いカンゾウ属植物体を多数取得できる。これにより、生薬の甘草を多量に調製でき、また、根部などからグリチルリチンを抽出・精製することにより、多量のグリチルリチンを生産できる。
【0016】
親株の植物体から採取された根部又は茎部の切片から植物体を再生する際、二価鉄イオンを少なくとも含有する水溶液にその切片を浸漬した後、該切片を用いて養液栽培を行うことにより、植物体の再生効率を大幅に向上できる。従って、これによっても、生薬の甘草やグリチルリチンの生産効率を向上できる。
【0017】
上述の通り、一般的に、カンゾウ属植物は、開花・結実しにくいため種子から大量に栽培することが難しい。それに対し、本発明者らは、養液栽培で短期間に植物体を再生・育成するとともに、それらの植物体を開花・結実させることに成功し、さらに、その結実により得られた種子から植物体を再生することにも成功した。従って、本発明に係るカンゾウ属植物株は、結実する株、さらには、結実により得られた種子から前記植物体を再生できる株であってもよい。
【0018】
以上の通り、本発明では、高グリチルリチン生産性を維持した状態で、親株から再生植物体を多数取得できる。加えて、親株又はその再生植物体から種子を採取でき、それらの種子からも植物体を再生できる。従って、本発明により、一つの株から多数の高グリチルリチン生産株を比較的短期間で大量に育成・増殖できるという有利性がある。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、グリチルリチン含有量の高いカンゾウ属植物の増殖を行うことができるため、生薬の甘草又はグリチルリチンの生産効率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<本発明に係るカンゾウ属植物株について>
本発明は、少なくとも下記(1)及び(2)の性質を備えるカンゾウ属植物株をすべて包含し、植物体の形態などによって狭く限定されない。例えば、種子、若しくは植物体の一部分などであっても、下記の性質を備えた植物体をそれらから再生できる場合は本発明に広く包含される。
(1)親株の植物体が養液栽培を行うことのできる株であり、かつその植え付けから半年後の根部におけるグリチルリチン含有の割合が1.5%以上、又は、その植え付けから1年後の根部におけるグリチルリチン含有の割合が2.5%以上である。
(2)前記親株の植物体から採取された根部又は茎部の切片を用いて養液栽培を行うことにより植物体を再生でき、かつその再生植物体の植え付けから半年後の根部におけるグリチルリチン含有の割合が1.5%以上、又は、その再生植物体の植え付けから1年後の根部におけるグリチルリチン含有の割合が2.5%以上である。
【0021】
カンゾウ属(学名「Glycyrrhiza」、以下同じ)の植物は、根部にグリチルリチンを少なくとも含有するものであればよい。例えば、ウラルカンゾウ(学名「G. uralensis」)、スペインカンゾウ(学名「G. glabra」)、チョウカカンゾウ(学名「G. inflata」)、学名「G. acanthocarpa」、学名「G. aspera」、学名「G. astragalina」、学名「G. bucharica」、学名「G. echinata」、学名「G. eglandulosa」、学名「G. foetida」、学名「G. foetidissima」、学名「G. gontscharovii」、学名「G. iconica」、学名「G. korshinskyi」、学名「G. lepidota」、学名「G. pallidiflora」、学名「G. squamulosa」、学名「G. triphylla」、学名「G. yunnanensis」、これらカンゾウ属植物の変種などが適用可能であり、ウラルカンゾウ及びスペインカンゾウが好適であり、ウラルカンゾウがより好適である。
【0022】
本発明のカンゾウ属植物株の親株の植物体は、上述(1)の通り、養液栽培を行うことのできる株である。
【0023】
親株の植え付け材料は、特に限定されない。例えば、種子から苗を育成し、その苗を養液栽培に供してもよいし、養液栽培・圃場栽培・組織培養などにより得られたカンゾウ属植物株を養液栽培に供してもよいし、それらの株から所定長の根部又は茎部の切片を調製し、その切片を養液栽培に供してもよい。
【0024】
本発明において、根部は根・ストロンなどを、茎部は茎・頂芽・シュート・節・葉などを広く包含する。根部又は茎部の切片は、二以上の節を含むように2〜20cm程度の長さに調製することが好ましい。切片の調製は、例えば、鋏・カッター・メスなど、公知の切断手段などを用いて行うことができる。
【0025】
例えば、閉鎖温室内に容器を設置し、その中に養液を入れる。親株の植え付け材料を支持体で固定し、支持体ごと容器内に置床し、養液に浸漬させ、養液栽培を行う。
【0026】
支持体には、公知の材料を用いることができ、特に限定されない。例えば、ロックウール、ハイドロボール、ココピート(ヤシの実の殻を形成するファイバー繊維を堆積・醗酵させた土壌改良剤)・パミスサンド(火山性軽石)・ピートモス・バーミキュライト・パーライトなどの土壌を容器・袋状物などに充填したものなどを用いることができる。
【0027】
養液には、水、又は、窒素分、リン分、カリウム分、金属成分などの植物の生長に必要な成分を含有する水溶液であればよく、公知のものを用いることができ、特に限定されない。例えば、アンモニア性窒素分、硝酸性窒素分、リン酸分(P)、カリウム分(KO)、マグネシウム分(MgO)、マンガン分(MnO)、ホウ素分(B)、鉄分(Fe)、銅分(Cu)、亜鉛分(Zn)、モリブデン分(Mo)などの成分を含むものを用いることができる。
【0028】
栽培条件なども、公知の知見を採用でき、特に限定されないが、例えば、閉鎖温室内で養液栽培を行うことにより、栽培温度、相対湿度、明期(1日のうち、光の当たっている時間、以下同じ)の長さなどを調整できるという利点がある。これにより、気候の影響などを受けずに栽培でき、また、一年を通じての収穫が可能になる。本発明に係る株は、閉鎖温室内で養液栽培を行っても増殖でき、グリチルリチン含有の割合を高く保持できるという有利性があり、閉鎖温室内での養液栽培に適している。
【0029】
続いて、本発明のカンゾウ属植物株は、上述(2)の通り、親株の植物体から採取された根部又は茎部の切片を用いて養液栽培を行うことにより植物体を再生できる。
【0030】
この再生植物体の植え付け材料には、例えば、親株の植物体から採取した根部又は茎部の切片を用いる。切片の長さ、調製方法などは上記と同様である。
【0031】
これらの根部又は茎部の切片を、切片調製後、養液栽培へ供する前に、二価鉄イオンを少なくとも含有する水溶液に速やかに浸漬することが好ましい。切片を調製してから切片を同液に浸漬するまでの時間は、できるだけ短いほうがよい。切片の表面が乾燥する前に浸漬することが好ましく、切片の調製から30分以内が好適であり、10分以内がより好適である。切片の浸漬時間は、5分〜4時間が好適であり、20分〜3時間がより好適であり、30分〜2時間が最も好適である。また、溶液中の鉄イオン濃度は、例えば、0.01〜1,000μMが好適であり、0.1〜100μMが好適であり、1〜10μMが最も好適である。鉄イオン濃度は、公知の方法により、測定できる。
【0032】
二価鉄イオンを少なくとも含有する水溶液に切片を浸漬することにより、二価鉄イオンが植物体に素早く吸収され、根の生長などが活性化される。また、二価鉄イオンが植物体の切り口などから浸出する物質と結合して膜状物を形成し、その部分を保護するとともに、水分・養分の吸収を促進する。これにより、切片の生長が促され、植物体が再生しやすくなると推測する。
【0033】
次に、二価鉄イオン水溶液に浸漬した切片を植え付け、養液栽培を行う。養液栽培の方法・条件などは上記と同様である。
【0034】
切片を植え付けてから約半月〜3カ月で、植物体はシュートを再生する。本発明に係るカンゾウ属植物株は、植え付け後のシュート再生率が高く、かつ、シュートの生育が良好な株がより好ましい。例えば、切片の植え付けから1カ月以内におけるシュート再生率が30%以上のものが好適であり、50%以上がより好適であり、70%以上が最も好適である。
【0035】
切片を植え付けてから約1カ月〜8カ月で植物体を再生できる。再生した植物は、すぐに、又は、育成した後、収穫する。収穫時期は、例えば、再生植物体を植え付けてから約4カ月〜4年の間が好適である。グリチルリチンは、主に、根部の短径が1mm以上の部分やストロンなどに多く含有するため、その部分を採集する。
【0036】
親株と再生植物体のいずれにおいても、継代により、同株を維持・増殖させてもよい。例えば、無菌条件下で公知の培地に切片を移植して培養し、植物体が生長したら、その植物体から2節以上を含む根部又は茎部の切片を採取し、その切片を前記と同様に移植することにより、継代を行ってもよい。その場合、継代を2〜3カ月ごとに行うことができる。また、例えば、上記と同様の方法で、切片から養液栽培により植物体を再生し、その再生した植物体から2節以上を含む根部又は茎部の切片を採取することにより、継代を行ってもよい。その場合、継代を4〜6カ月ごとに行うことができる。
【0037】
上述の通り、本発明のカンゾウ属植物株は、継代してもグリチルリチン含有の割合を高く保持でき、1つの切片から多数の植え付け材料を取得することが可能である。従って、親株と再生植物体のいずれの継代を行った場合でも、同一クローン由来の植え付け材料を多数調製できるため、カンゾウ属植物を大量に増殖させることができる。
【0038】
本発明のカンゾウ属植物株は、上述の通り、親株の植物体と再生植物体のいずれについても、植え付けから半年後の根部におけるグリチルリチン含有の割合が1.5%以上、又は、前記切片の植え付けから1年後の根部におけるグリチルリチン含有の割合が2.5%以上である。
【0039】
グリチルリチン(Glycyrrhizin、C426216、CAS番号:1405−86−3、以下同じ)は、上述の通り、トリテルペン配糖体の一つであり、カンゾウ属植物の根部(根・ストロンなど)に多く含有する。本発明において、グリチルリチンは、カンゾウ属植物の根部から抽出・精製することにより得ることができるものをすべて包含し、また、グリチルリチンの塩(例えば、グリチルリチン酸2カリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウムなど)、グリチルリチンの代謝物なども広く包含する。
【0040】
例えば、植物体の植え付けから半年後に形成された植物体の根部におけるグリチルリチン含有の割合は、1.5%以上のものが好適であり、1.6%以上のものがより好適であり、1.9%以上のものが最も好適である。
【0041】
または、例えば、植物体の植え付けから1年後に形成された植物体の根部におけるグリチルリチン含有の割合は、2.5%以上のものが好適であり、2.7%以上のものがより好適であり、3.0%以上のものが最も好適である。
【0042】
グリチルリチンの定量は、公知の方法により行うことができる。例えば、植物体の根部全体の乾燥重量を測定し、一方、ODSカラムを用いて、HPLC(高速液体クロマトグラフィー、以下同じ)によりその乾燥試料中におけるグリチルリチン含有の割合を取得できる。また、根部全体の乾燥重量とその乾燥試料中におけるグリチルリチン含有の割合を乗じることにより、株当たりのグリチルリチン含有量を算出できる。
【0043】
上述の通り、本発明のカンゾウ属植物株は継代してもグリチルリチン含有の割合を高く保持できるため、1つの切片から多数の植え付け材料を取得することが可能であり、グリチルリチンの大量製造に有用である。
【0044】
その他、本発明のカンゾウ属植物株は、人工的な環境制御により開花する性質、及び、人工受粉などにより結実する性質、さらには、その結実により得られた種子から前記植物体を再生できる性質を備えた株であってもよい。
【0045】
結実する株である場合、さらには、結実により得られた種子から前記植物体を再生できる株である場合、親株より採取された切片などから、高グリチルリチン生産性を維持した状態で再生植物体を多数取得することに加え、親株又はその再生植物体から種子を採取し、それらの種子からも植物体をさらに再生させることができるため、一つの株から多数の高グリチルリチン生産株を比較的短期間で大量に育成・増殖できる。なお、人工受粉は、公知の方法により行うことができる。
【0046】
以上のような性質を備えるカンゾウ属植物株として、例えば、ウラルカンゾウGu2−2−1株、Gu2−3−2株、GuTS71−08IV1株、GuTS71−08IV2株のいずれかが挙げられる。本発明者らは、これらの4株を、ブダペスト条約上の国際寄託機関でもある独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(所在地:日本国茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター中央第6)に寄託申請したが、保管・分譲などの業務を技術的に遂行することができないことを理由に、2010年10月22日付で受託を拒否された。そこで、本出願人は、これらの株を、独立行政法人医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター筑波研究部育種生理研究室(所在地:日本国茨城県つくば市八幡台1−2)内において自己寄託し、維持・保存している。本出願人は、日本国特許法施行規則第27条の3各号に該当する場合、各法令の遵守を条件に、第三者に分譲することを保証する。
【0047】
<本発明に係る株の系統間遺伝子識別方法>
本発明者らは、上述の4株について、SQS(スクアレン合成酵素、以下同じ)遺伝子及びCYP88D6遺伝子の部分配列を取得した。従って、これらの配列との相同性を解析することにより、由来の不明な株について、本発明に係る株かどうか、識別できる。
【0048】
SQSはカンゾウ属植物のグリチルリチン生合成経路上の酵素の一つである。本発明者らの解析の結果、SQS1遺伝子のイントロン1及びSQS2遺伝子のイントロン1において、顕著な塩基配列の差異が認められた。そこで、この部分の塩基配列の相違を解析することにより、由来の不明な株について、本発明に係る株かどうか、識別できる。
【0049】
例えば、SQS1遺伝子のエキソン1〜エキソン3の部分における塩基配列の相同性が、配列番号1〜3のいずれかの配列と比較して、90%以上の場合、本発明に係る株である可能性があり、95%以上の場合、本発明に係る株である可能性が高く、99%以上の場合、本発明に係る株である可能性が非常に高いと判定できる。同様に、SQS2遺伝子のエキソン1〜エキソン3の部分における塩基配列の相同性が、配列番号4又は5の配列と比較して、90%以上の場合、本発明に係る株である可能性があり、95%以上の場合、本発明に係る株である可能性が高く、99%以上の場合、本発明に係る株である可能性が非常に高いと判定できる。
【0050】
CYP88Dサブファミリー遺伝子は、マメ科植物に特異的に見出される遺伝子群であり、CYP88D6遺伝子は、カンゾウ属植物のグリチルリチン生合成経路上において、β−アミリン、11−オキソ−β−アミリン、30−ヒドロキシ−β−アミリン、又は、11,30−ジヒドロキシ−β−アミリンの11位炭素を酸化する酵素をコードする遺伝子である。本発明者らの解析の結果、特に、CYP88D6遺伝子のイントロン7において、顕著な塩基配列の差異が認められた。そこで、この部分の塩基配列の相違を解析することにより、由来の不明な株について、本発明に係る株かどうか、識別できる。
【0051】
例えば、CYP88D6のエキソン6〜エキソン8の部分における塩基配列の相同性が、配列番号10又は11の配列と比較して、85%以上の場合、本発明に係る株である可能性があり、90%以上の場合、本発明に係る株である可能性が高く、95%以上の場合、本発明に係る株である可能性が非常に高いと判定できる。
【0052】
由来な不明な株のそれらの領域における塩基配列は、例えば、公知方法によりゲノムDNAを取得し、そのDNAを鋳型として、設計プライマーを用いて、PCR法によりその部分を増幅し、その増幅産物を、公知のシークェンシングベクターにクローニングし、その部分の塩基配列を解析することにより、取得できる。
【0053】
その他、例えば、上記の部分配列を増幅しうるプライマーセットを用いて、PCR(Polymerase Chain Reaction、以下同じ)を行い、増幅産物のサイズや有無を解析することにより、簡易かつ高精度に、由来の不明な株について、本発明に係る株かどうか、識別できる。
【0054】
また、例えば、本発明に係る株に特異的な配列部分に制限酵素サイトが含まれる場合、PCR−RFLP(PCR−Restriction Fragment Length Polymorphism;制限酵素断片長多型、以下同じ)により、簡易かつ高精度に、由来の不明な株について、本発明に係る株かどうか、識別できる。その場合、制限酵素サイトを含む部分配列を増幅しうるプライマーセットを用いてPCRを行った後、制限酵素処理し、増幅産物が切断されるかどうかを解析することにより、行うことができる。
【0055】
なお、その場合における由来の不明な株の鋳型DNAの取得も、公知の方法により行うことができる。
【0056】
<本発明に係るカンゾウ属植物増殖方法について>
本発明に係る植物体の増殖方法は、親株の植物体から採取された根部又は茎部の切片を、二価鉄イオンを少なくとも含有する水溶液に浸漬した後、該切片を用いて養液栽培を行う手順を少なくとも含むものをすべて包含し、他の手順を含むことによって、狭く限定されない。
【0057】
このカンゾウ属植物増殖方法では、例えば、グリチルリチン含有の割合の高い株を養液栽培又は組織培養などにより、継代する手順(手順1)、継代後の1又は複数の株(親株)から、2節以上を含む根部又は茎部の切片を多数取得する手順(手順2)、二価鉄イオンを少なくとも含有する水溶液にその切片を浸漬する手順(手順3)、浸漬した切片を用いて養液栽培を行い、植物体を再生させる手順(手順4)、養液栽培を行った各株を収穫し、根部などを採集する手順(手順5)、の順で行ってもよい。
【0058】
各手順における手段・条件などは上述のものと同様である。収穫時期は、例えば、再生植物体を植え付けてから約4カ月〜4年の間が好適であり、約4カ月〜1年半の間がより好適である。グリチルリチンは、主に、根部の短径が1mm以上の部分やストロンなどに多く含有するため、その部分を採集する。
【0059】
手順3において、切片調製後、養液栽培へ供する前に、親株の植物体から採取された根部又は茎部の切片を、二価鉄イオンを少なくとも含有する水溶液に浸漬する。上述の通り、切片調製から切片を同液に浸漬するまでの時間は、できるだけ短いほうがよい。切片の表面が乾燥する前に浸漬することが好ましく、切片調製から30分以内が好適であり、10分以内がより好適である。切片の浸漬時間は、5分〜4時間が好適であり、20分〜3時間がより好適であり、30分〜2時間が最も好適である。また、上述の通り、溶液中の鉄イオン濃度は、例えば、0.01〜1,000μMが好適であり、0.1〜100μMが好適であり、1〜10μMが最も好適である。
【0060】
二価鉄イオンを少なくとも含有する水溶液に切片を浸漬することにより、切片から高い確率で植物体を再生させることが可能となる。
【0061】
その他、植物体を育成し、人工的な環境制御により開花させる手順、人工受粉により結実させる手順などを含んでいてもよい。
【0062】
本発明では、養液栽培を行うことにより、カンゾウ属植物を比較的短期間で再生・育成することができる。加えて、閉鎖温室内又はグロースチャンバー室内で栽培できるため、明期の長さ・温度・相対湿度などを調節できる。これにより、比較的短期間でカンゾウ属植物を開花させることができる。開花への誘導手段は特に限定されないが、例えば、植物体がある程度育成した段階で、明期を8〜12時間から14〜18時間に延長した場合、明期の時間の変更より2〜5か月後に開花させることができる場合がある。
【0063】
開花した植物体について、人工受粉を行うことにより、結実させることができる。人工受粉の方法は、公知の方法を広く採用できる。
【0064】
結実により得られた種子を発芽させた後、例えば、その実生から切片を調製し、上記と同様の方法で育成・栽培することにより、複数の個体を再生することができる。種子を発芽させる手段については、公知の方法を採用でき、特に限定されないが、例えば、無菌環境下で播種・培養することにより、発芽・育成効率を高めることができる。
【0065】
以上の手順でカンゾウ属植物を栽培することにより、同一クローン由来の株を多数栽培できるため、カンゾウ属植物の大量増殖に有用である。また、従来よりも短期間で収穫でき、かつ増殖した全ての株が高いグリチルリチン含有の割合を保持するため、生薬の甘草の生産やグリチルリチンの製造に有効である。その他、これらの手順は、全て閉鎖温室内で行うことができるため、気候の影響などを受けずに栽培でき、また、一年を通じての収穫が可能になるという利点がある。
【0066】
<本発明に係るグリチルリチン製造方法について>
上述の通り、本発明により、グリチルリチン含有の割合が高く保持された同一クローン由来の株を多数栽培できる。従って、それらの植物体から根・ストロンなどを採集し、グリチルリチンを抽出・精製することにより、グリチルリチンを大量製造できる。
【0067】
グリチルリチンの抽出・精製は、公知の方法を採用できる。例えば、収穫したカンゾウ属植物の根部などを乾燥・粉砕し、その粉状物から水、親水性有機溶媒、それらの混合物などを用いてグリチルリチンなどの成分を抽出し、HPLCなどで分離・精製することにより、目的物を取得できる。
【実施例1】
【0068】
実施例1では、ウラルカンゾウGu株を誘導した。
【0069】
国立医薬品食品衛生研究所北海道薬用植物栽培試験場(現独立行政法人医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター北海道研究部、以下、「北海道研究部」とする。)で圃場栽培されているウラルカンゾウ株(北海道研究部における導入番号:HK13905)について、2001年5月に、その15〜20cm長のストロンを、国立医薬品食品衛生研究所筑波薬用植物栽培試験場(現独立行政法人医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター筑波研究部、以下、「筑波研究部」とする。)に導入し(筑波研究部における同株の導入番号:TS301−07)、筑波研究部圃場に植え付け、約1年間栽培を行った。
【0070】
2002年7月に、筑波研究部において、その株の先端の若いシュートを切り取って葉を落とし、約7cm長の頂芽又は茎の切片を調製した。その植物切片を径9cmのガラスシャーレに入れ、75%エタノール液を注ぎ、よく振り混ぜながら1分間殺菌した。殺菌後、75%エタノール液を捨て、滅菌水50mLを入れ、1分間よく漱いだ。次に、次亜塩素酸ナトリウム殺菌液(有効塩素濃度2%、2μL/mLのTween20を含む)をビーカーに入れ、その植物切片をその中に浸し、10分間、攪拌しながら殺菌した。殺菌後、滅菌したピンセットを用いて、滅菌した径9cmのガラスシャーレにその植物切片を移し、滅菌水50mLを入れ、1分間よく漱ぎ、その滅菌水を捨てた。滅菌水による漱ぎ操作を3回繰り返した後、シャーレの一方を高くし、水気を切った。新しい滅菌シャーレにその植物切片を入れ、傷んだ部分を切り取り、約2〜3cm長の頂芽又は茎の切片を調製した。
【0071】
径30mm、高さ15cmの培養試験管に培地を入れ、その植物切片を置床し、23℃、14時間照明下で培養し、シュートを再生させた。培地には、Woody Plant液体培地に10mg/Lグルタミンを添加し(以下、「WPG液体培地」とする。)、さらにインドール酪酸(IBA)1mg/Lとカイネチン(Kin)3mg/Lを添加したものを用いた。支持体にはフロリアライト222(植物性繊維とバーミキュライトを主成分とする植物支持体。日清紡績株式会社製。以下同じ)を用いた。
【0072】
径30mm、高さ15cmの培養試験管に植物ホルモン無添加WPG固形培地(WPG液体培地を0.25%ゲルライトで固化したもの。以下、「WPG固形培地」とする。なお、「ゲルライト」はCP Kelco ApS社の登録商標。以下同じ)を入れ、再生したシュートを切り取って培地に置床し、23℃、14時間照明下で培養し、ウラルカンゾウの組織培養体(Gu株)を得た。
【0073】
そのウラルカンゾウの組織培養体を、23℃、14時間照明下、植物ホルモン無添加WPG固形培地で培養した。2〜3カ月ごとに2節を含む茎切片を調製し、無菌条件下で各切片を1本ずつ別の培養試験管に移植し、同じ培地・条件で継代培養した。
【0074】
継代培養した組織培養体の一つを培養試験管より取り出し、根から固形培地を弱い水流でよく洗い流した。閉鎖温室内に鉢(径15cm×高さ30cmのポリエチレンポット)を置き、その中に培養土を入れ、その植物体を植え付けた。
【0075】
培養土の組成は、ベラボン(登録商標、株式会社フジック製):赤玉土:クレハ培養土(商品名、株式会社クレハ製、「クレハ」は登録商標、以下同じ):堆肥=5:3:1:1とした。
【0076】
閉鎖温室内の栽培条件を、温度20℃、相対湿度60%(植え付けから803日後以降は50%に変更した。)、明期16時間(自然光及び早朝・夜間にそれぞれ約2時間ずつ補光照明を使用した(補光照明で明期を調節することについて、以下同じ)。植え付けから803日後以降は明期14時間に変更した。)に設定した。植え付けから約10日間、透明プラスチック製のコップ容器(容量500mL)を、開口部を下向きにして被せ、植物体を馴化させた。自動灌水装置により1日1回灌水を行った。肥料として、ハイポネックス原液6−10−5(株式会社ハイポネックスジャパン製、「ハイポネックス」は登録商標、以下同じ)の1,000倍液を1週間に1回散布した。
【0077】
組織培養体の植え付けからそれぞれ370、722、1,009日後に、植物体を収穫し、茎、根(径1mm以上の部分)、細根(径1mm未満の部分)に分割し、50℃で数日間温風乾燥し、乾燥重量を測定した。
【0078】
乾燥後、試料を粉末にし、精密に100mgを秤量し、正確に50%エタノールを7mL加え、超音波洗浄機で30分間、ボルテックスミキサーで1分間処理し、溶出成分を抽出した。その抽出液を遠心分離処理(4,500rpm、3分間)し、ウルトラフリーMC(限外ろ過膜。ミリポア社製)でその上清300μLを遠心ろ過処理(15,000rpm、1分間、20℃)し、そのろ液をHPLCに供して、グリチルリチン含有の割合を測定した。
【0079】
HPLCのカラムに、TSKgel ODS−100V(径4.6mm×250mm、5μm。「TSKGEL」は登録商標(以下同じ)、東ソー株式会社製)を用いた。移動相にアセトニトリル:2%酢酸=2:3の溶液を用いた。流速1.0mL/min、カラム温度20℃に設定した。定量検出はUV254nmで、定性検出(検出ピークの同定)はUV200〜400nmで行った。
【0080】
結果を表1及び表2に示す。
【表1】

【表2】

【0081】
表1は、樹立したウラルカンゾウGu株の植え付けから370、722、1,009日後におけるグリチルリチン含有の割合などを示す表である。表2は、対照植物であるウラルカンゾウGuH株の植え付けから372、724、1,011日後におけるグリチルリチン含有の割合などを示す表である。
【0082】
なお、対照植物としたウラルカンゾウGuH株は、北海道研究部において2003年10月に採取されたウラルカンゾウの種子(北海道研究部における導入番号:HK13905、筑波研究部における導入番号:TS291−04)を精米機で約10分間処理して表面に傷を付けた後、Gu株の時と同様に、殺菌後、植物ホルモン無添加WPG固形培地に植え付け、23℃、14時間照明下で培養し、組織培養体を得て、継代培養した後、閉鎖温室内で鉢に植え付けたものを用いた。
【0083】
表1及び表2中、「植え付けからの日数」は、閉鎖温室内で鉢に植え付けてからの日数を、「径1mm以上の根長」は、根の短径が1mm以上の部分の長さを、「最大根幅」は最も太い部分の根の幅を、「径1mm以上の根の収量(乾燥重量)」は、根の短径が1mm以上の部分の乾燥処理後の重量を、「グリチルリチン含有の割合(乾燥重量当たり)」は根の短径が1mm以上の部分におけるHPLCの結果による乾燥重量当たりのグリチルリチン含有の割合を、「1株当たりの根のグリチルリチンの含有量」は、根の短径が1mm以上の部分におけるウラルカンゾウ一株当たりの根のグリチルリチンの含有量を、それぞれ表わす。
【0084】
表1及び表2に示す通り、ウラルカンゾウGu株では、植え付けから約1年後におけるグリチルリチン含有の割合が1.41%であり、ウラルカンゾウGuH株の0.91%と比較して、顕著に高かった。また、根の収量及びグリチルリチンの含有量も高かった。植え付けから約3年後においても、ウラルカンゾウGu株では、グリチルリチン含有の割合及び含有量が高い状態で維持されていることを確認した。
【実施例2】
【0085】
実施例2では、ウラルカンゾウGu株からのサブクローンの誘導と、そのサブクローンからの植物体の再生を行った。
【0086】
上述の通り、実施例1において、ウラルカンゾウGu株を継代培養により増殖させた。そのうち5株(Gu1〜Gu5)を、さらに同条件下で継代培養し、増殖させた。その結果、Gu2〜Gu5の4クローンは培養試験管内で充分に増殖した。そこで、培養植物体クローン(Gu2〜Gu5)から、それぞれ、2節を含む茎切片を調製し、サブクローンの誘導を試みた。
【0087】
100mLフラスコに培地20mLを入れ、各切片を1本ずつ植え付け、20℃、暗所、振とう条件(60〜80rpm)下で培養し、ストロン様培養物を誘導した。培地には、MS(「Murashige and Skoog」、以下同じ)液体培地に、6%ショ糖とナフタレン酢酸(NAA)0.01mg/Lを添加したものを用いた。
【0088】
その結果、特に、Gu2株が、76日間培養後におけるストロン様培養物の形成率が35.7%、形成したシュートの長さが平均14.58cmであり、シュートの生育も良好であった。
【0089】
そこで、同フラスコ内でGu2株由来のストロン様培養物を増殖させ、2〜3カ月ごとに2節を含む茎切片を調製し、無菌条件下で各切片を1本ずつ別のフラスコに移し、同じ培地・条件で継代培養した。複数回の継代培養の結果、シュート形成率が高く、生育良好なストロン様サブクローン3株(Gu2−2−1、Gu2−3−2、Gu2−5−2)を得た。これらの株からは、植え付け後56日間で、平均6.0本の植え付け材料(2節を含む茎切片)を得ることができた。
【0090】
そこで、径40mm、高さ13cmの培養試験管に培地20mLを入れ、各切片を植え付け、20℃、14時間照明下で83日間培養した。培地には、WPG液体培地に、1%ショ糖、ナフタレン酢酸(NAA)0.1mg/L、カイネチン(Kin)0.5mg/Lを添加したものを用いた。支持体にはフロリアライト224を用いた。
【0091】
その結果、ストロン様のサブクローンから植物体を再生できた。植物体再生率は76%であった。
【0092】
なお、Gu2−2−1、Gu2−3−2の両株を、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託申請したが、受託を拒否された。上述の通り、これらの株は、独立行政法人医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター筑波研究部育種生理研究室内において維持・保存されており、各法令の遵守を条件に、第三者に分譲可能である。
【実施例3】
【0093】
実施例3では、実施例2で再生したサブクローン植物体の養液栽培を試みた。
【0094】
閉鎖温室内にコンテナ(高さ20cm)を設置し、そのコンテナ内に鉢(径15cm×高さ30cmのポリエチレンポット)を置いた。鉢には、その底面にケイ酸塩白土(商品名「ミリオンA」、ソフト・シリカ株式会社製、以下同じ)を敷き、その上にハイドロボール中粒(直径約4〜8mm、有限会社都市園芸研究所製、以下同じ)を鉢の中程まで入れ、ハイドロボール小粒(直径約4mm以下、有限会社都市園芸研究所製、以下同じ)をその上に積層させた。なお、ハイドロボールは天然の凝灰質頁岩を主成分とする岩石を焼成発泡させたものである(以下同じ)。
【0095】
この養液栽培装置に、実施例2で再生したGu2−2−1及びGu2−3−2の植物体をそれぞれ植え付け、コンテナ内を肥料養液で満たし、閉鎖温室内でサブクローン植物体の養液栽培を行った。
【0096】
閉鎖温室内の栽培条件を、温度20℃、相対湿度60%(植え付けから195日後以降は相対湿度50%に変更した。)、明期16時間(植え付けから195日後以降は明期14時間に変更した。)に設定した。肥料養液として、水8Lに対し、マツザキ1号(商品名、株式会社マツザキアグリビジネス製、以下同じ)1.5g、マツザキ2号(商品名、株式会社マツザキアグリビジネス製、以下同じ)1.0gを溶解したものを、植え付けから301日経過後は、マツザキ1号3.0g、マツザキ2号2.0gを溶解したものを、それぞれ用いた。
【0097】
なお、用いたマツザキ1号の成分組成は、全窒素分10.0%(うち、アンモニア性窒素1.5%、硝酸性窒素8.5%)、リン酸分(P)8.0%、カリウム分(KO)29.0%、マグネシウム分(MgO)4.0%、マンガン分(MnO)0.1%、ホウ素分(B)0.1%、鉄分(Fe)0.186%、銅分(Cu)0.0036%、亜鉛分(Zn)0.0066%、モリブデン分(Mo)0.0036%である(以下同じ)。用いたマツザキ2号の成分組成は、硝酸性窒素分11.0%、石灰分(CaO)22.0%である(以下同じ)。
【0098】
サブクローン植物体(再生植物体)2株の植え付けからそれぞれ400〜401、738〜740日後に、植物体を収穫し、茎、根(径1mm以上の部分)、細根(径1mm未満の部分)、ストロンの各部位に分割し、50℃で数日間温風乾燥し、乾燥重量を測定した。
【0099】
乾燥後、試料を粉末にし、精密に100mgを秤量し、正確に50%エタノールを7mL加え、超音波洗浄機で30分間、ボルテックスミキサーで1分間処理し、溶出成分を抽出した。その抽出液を遠心分離処理(4,500rpm、3分間)し、ウルトラフリーMC(限外ろ過膜。ミリポア社製)でその上清300μLを遠心ろ過処理(15,000rpm、1分間、20℃)し、そのろ液をHPLCに供して、グリチルリチン、リキリチン、リキリチゲニン、イソリキリチン、イソリキリチゲニン、グリシクマリン、及び、グラブリジンの7種の化合物の同時分析を行った。
【0100】
HPLCのカラムに、TSKgel ODS−100V(径4.6mm×250mm、5μm、東ソー株式会社製)を用いた。移動相に、アセトニトリル(溶媒A)と1%酢酸(溶媒B)を混合して用いた。溶出開始から0〜42分間は溶媒Aの混合比率を0〜70%に直線的に上げ、42〜44分間は溶媒Aの混合比率を70〜100%に直線的に上げ、44〜45分間は溶媒Aの混合比率を100%〜0%に直線的に下げ、流速1.0mL/min、カラム温度40℃に設定した。定量検出はUV254nmで、定性検出(検出ピークの同定)はUV200〜400nmで行った。
【0101】
結果を表3及び表4に示す。
【表3】

【表4】

【0102】
表3は、ウラルカンゾウGu2−2−1株の植え付けから401及び738日後におけるグリチルリチン含有の割合などを示す表である。表4は、ウラルカンゾウGu2−3−2株の植え付けから400及び740日後におけるグリチルリチン含有の割合などを示す表である。
【0103】
表3及び表4中、「植え付けからの日数」、「径1mm以上の根長」、「最大根幅」、「径1mm以上の根の収量(乾燥重量)」、「グリチルリチン含有の割合(乾燥重量当たり)」、「一株当たりの根のグリチルリチンの含有量」の各項目は、表1及び表2と同様である。同表中、「リキリチン含有の割合(乾燥重量当たり)」、「イソリキリチン含有の割合(乾燥重量当たり)」、「グリシクマリン含有の割合(乾燥重量当たり)」は、それぞれ、HPLCの結果による乾燥重量当たりの各成分含有の割合を表す。
【0104】
表3に示す通り、ウラルカンゾウGu2−2−1株では、植え付けから約1年後におけるグリチルリチン含有の割合が3.06%、約2年後における同成分含有の割合が3.66%であった。また、表4に示す通り、ウラルカンゾウGu2−3−2株では、植え付けから約1年後におけるグリチルリチン含有の割合が2.95%、約2年後における同成分含有の割合が5.22%であった。一株あたりの根のグリチルリチンの含有量も、植え付けから約1年後では、Gu2−2−1株で415.20mg、Gu2−3−2株で690.31mgであり、約2年後では、Gu2−2−1株で753.92mg、Gu2−3−2株で965.14mgであった。
【0105】
その他、植え付けから約2年後の両株では、グリチルリチン以外の二次代謝物であるリキリチン、イソリキリチン、グリシクマリンの各化合物も検出された。
【実施例4】
【0106】
実施例4では、実施例3で樹立したウラルカンゾウ株を親株とし、そのストロン切片から、養液栽培による植物体の再生を試みた。
【0107】
実施例3において植え付けから738日間養液栽培を行ったGu2−2−1の植物体、及び、同じく740日間養液栽培を行ったGu2−3−2の植物体を親株とし、それらの植物体から、それぞれ剪定鋏でストロンを約5cm長に切断し、それぞれ1株当たり10〜31個の2節を含むストロンの切片を得た。
【0108】
二価鉄イオンを含有する水溶液に、ストロンの切断後速やかにその切片を入れ、2時間以上その中に浸した。二価鉄イオンを含有する水溶液には、植物活力素メネデール(商品名、メネデール株式会社製、日本、「メネデール」は登録商標、以下同じ)の200倍希釈液を用いた。
【0109】
閉鎖温室内にトレーを置き、トレー内に水が高さ2cm以上満たされる状態を維持しつつ適宜灌水し、その中に、ジフィーセブン・水でふくらむタネまき土ポット(径48mm、株式会社サカタのタネ製、日本、以下同じ)を設置した。二価鉄イオンを含有する水溶液に浸したストロン切片のうち、1〜2個の芽の形成が認められる切片をその土ポットに一本ずつ挿し、その閉鎖温室内で27日間養液栽培を行った。
【0110】
閉鎖温室内の栽培条件を、温度20℃、相対湿度50%、明期14時間に設定した。
【0111】
その結果、土ポットに切片を挿してから27日後におけるシュート再生率は、Gu2−2−1で平均72.2%、Gu2−3−2は平均59.8%であった。また、その後、再生したシュートを養液栽培装置に移植し、肥料養液内で栽培を行った結果、良好に生育した。肥料養液には、水8Lに対し、マツザキ1号1.5g、マツザキ2号1.0gを溶解したものを用いた。なお、シュート再生率は、シュート再生が認められた切片数を供試切片数で除した値である(以下同じ)。
【実施例5】
【0112】
実施例5では、実施例4においてストロン切片から再生した植物体について、養液栽培による育成を試みた。
【0113】
実施例4で土ポットに挿したGu2−2−1のストロン切片について、土ポットに挿してから100日間、閉鎖温室内でそのまま養液栽培を行った。閉鎖温室内の栽培条件を、切片を挿してから70日目までは実施例4と同様に設定した。切片を挿してから70日以後は、相対湿度を55%に変更した。
【0114】
培養土を赤玉土3、堆肥1、クレハ培養土1の混合比で調製し、コイヤーポット(上径8cm、下径5.5cm、高さ8cm、トミタテクノロジー社製)にその培養土を入れた。土ポットに挿してから100日目に、養液栽培を行った切片を土ポットごと移植し、移植後314日間、閉鎖温室内で栽培した。閉鎖温室内の栽培条件を、温度25℃、相対湿度55%、明期14時間に設定した。自動灌水装置により1日1回灌水を行い、肥料としてハイポネックス原液6−10−5の1,000倍液を1週間に1回散布した。
【0115】
グロースチャンバー室(完全人工光室、以下同じ)内にコンテナ(高さ10cm)を設置し、そのコンテナ内に鉢(径15cm×高さ30cmのポリエチレンポット)を置いた。鉢には、その底面にケイ酸塩白土を敷き、その上にハイドロボール中粒を鉢の中程まで入れ、ハイドロボール小粒をその上に積層させた。コイヤーポットに移植してから314日後に、移植した苗11株をこの養液栽培装置に植え付け、コンテナ内を肥料養液で満たし、363日間、養液栽培を行った。
【0116】
グロースチャンバー室内の栽培条件を、温度25℃、相対湿度60%、養液栽培装置に移植してから133日目までは明期12時間、それ以降は明期16時間に設定した。肥料養液として、養液栽培装置に移植してから135日目までは、水8Lに対し、マツザキ1号1.5g、マツザキ2号1.0gを溶解したものを、それ以降は、水8Lに対し、マツザキ1号3.0g、マツザキ2号2.0gを溶解したものを、それぞれ用いた。
【0117】
その結果、コイヤーポットで土耕栽培を行っている間は、地上部・地下部ともほとんど生育が認められなかったのに対し、養液栽培装置に移植した後は、生育が旺盛になった。また、養液栽培装置に移植してから224日後頃より開花する株が観察され、全体では、養液栽培装置に移植した11株のうち、計3株が開花した(開花率27.3%)。
【0118】
続いて、養液栽培装置に移植してから363日後に、植物体を収穫し、茎、根(径2mm以上の部分)、細根(径2mm未満の部分)、ストロンの各部位に分割し、50℃で数日間温風乾燥し、乾燥重量を測定した。
【0119】
乾燥後、試料を実施例3と同様の方法で調製してHPLCに供し、グリチルリチン、リキリチン、イソリキリチン、及び、グリシクマリンの4種の化合物の同時分析を行った。
【0120】
HPLCのカラムに、TSKgel ODS−100V(径4.6mm×長さ250mm、粒径5μm、東ソー株式会社製)を、ガードカラムに、TSKguardgel ODS−100V(径3.2mm×長さ15mm、粒径5μm、東ソー株式会社製)を用いた。移動相に、アセトニトリル(溶媒A)と1%酢酸(溶媒B)を混合して用いた。溶出開始から0〜21分間は溶媒Aの混合比率を20〜76%に直線的に上げ、21〜22分間は溶媒Aの混合比率を76〜100%に直線的に上げ、22〜24分間は溶媒Aの混合比率を100%にし、24〜25分間は溶媒Aの混合比率を100%〜25%に直線的に下げ、流速1.0mL/min、カラム温度40℃に設定した。定量検出はUV254nmで、定性検出(検出ピークの同定)はUV200〜400nmで行った。
【0121】
結果を表5に示す。
【表5】

【0122】
表5は、ウラルカンゾウGu2−2−1株に関し、ストロン切片から再生した植物体について、養液栽培装置への移植(植え付け)から363日後におけるグリチルリチン含有の割合などを示す表である。
【0123】
表5中、「植え付けからの日数」、「径2mm以上の根長」、「最大根幅」、「径2mm以上の根の収量(乾燥重量)」、「グリチルリチン含有の割合(乾燥重量当たり)」、「一株当たりの根のグリチルリチンの含有量」、「リキリチン含有の割合(乾燥重量当たり)」、「イソリキリチン含有の割合(乾燥重量当たり)」、「グリシクマリン含有の割合(乾燥重量当たり)」の各項目は、表3及び表4と同様である。各項目の値は、6株の平均とその標準偏差を表す。
【0124】
表5に示す通り、ウラルカンゾウGu2−2−1株に関し、ストロン切片から再生した植物体では、植え付けから約1年後におけるグリチルリチン含有の割合が2.77%であった。
【0125】
この結果は、ウラルカンゾウGu2−2−1株について、親株の植物体から採取された根部の切片より再生された植物体が、親株同様、養液栽培を行うことのできる株であり、かつその植え付けから1年後における再生植物体の根部のグリチルリチン含有の割合が2.5%以上であること、即ち、このカンゾウ属植物株が、親株から採取した根部の切片を用いて養液栽培を行うことにより植物体を再生できる株であり、親株及びその再生植物体の両者とも養液栽培を行うことができる株であり、かつ、再生植物体においても養液栽培での高グリチルリチン生産性を維持できる株であることを示す。
【実施例6】
【0126】
上述の実施例5において、ウラルカンゾウGu2−2−1株の養液栽培を行うことにより、植え付けから7〜8カ月という短期間で開花させることに成功した。そこで、実施例6では、実施例5において開花した株について、その結実及び実生からの植物体の再生を試みた。
【0127】
開花した花に綿棒を入れて数回前後に動かし、人工的に受粉させ、人工受粉後もグロースチャンバー室内で育成を継続した。その結果、人工受粉した株では、結実が観察された。結実した株では、莢が完熟した後、種子を採取した。その結果、開花株3株から、計19個の種子が得られた。得られた種子は冷蔵庫内(4℃)で保管した。
【0128】
得られた種子のうち15個をサンドペーパー(G−P40)に挟み、約50回擦って表面に傷を付けた。その種子をガーゼ袋に包み,75%エタノールで1分間殺菌し、滅菌水で1回洗浄した。1μL/mLのTween20を含む2%次亜塩素酸ナトリウム液で撹拌しながらその種子を10分間殺菌し、滅菌水で3回洗浄した。
【0129】
径20mm、高さ9cmの培養試験管内に5mLの固形培地を入れ、殺菌した種子をその試験管内に無菌的に播種し、23℃、14時間照明下で培養した。培地には、ショ糖2%を添加し、主要無機塩類濃度を1/2に調製したMurashige and Skoog固形培地(1/2(2)MS固形培地、2.5g/Lゲルライトで固化した。)を用いた。その結果、1種子を除き全て発芽した。播種から18日後における発芽率は93.3%であった。
【0130】
発芽した実生からシュートの先端約1〜2cmを切り取った。径30mm、高さ15cmの培養試験管内に30mLの固形培地を入れ、その試験管内にその植物切片を植え付け、23℃、14時間照明下で培養した。培地には、3%ショ糖添加WPG固形培地を用いた。その結果、発根を観察し、養液栽培への植出が可能な状態に植物体を再生させることに成功した。
【0131】
なお、シュートを切り取った際の残りの実生(胚軸部・子葉・幼根からなる部分)の培養を同培地で継続した結果、子葉の付け根部分に2〜4本のシュートが更に形成された。前記と同様の手順で、そのシュートを切り取り、培養試験管内に植え付け、培養した結果、シュートの先端を切り取って植え付けた場合と同様、発根を観察し、養液栽培への植出が可能な状態に植物体を再生させることに成功した。即ち、前述のシュートと合わせ、1実生より平均3個体を再生できた。
【0132】
また、実生より得られた培養植物体は増殖効率が高く、WPG固形培地下で一か月に約3倍量に増殖した。従って、本株は、グロースチャンバー室内での養液栽培による自己増殖、及び、交配による育種の両方に適した株であると推定する。
【実施例7】
【0133】
実施例7では、ウラルカンゾウを種子から育成し、グリチルリチン含有の割合の高い株の選抜を試みた。
【0134】
供試材料として、2005年に採取された北海道研究部産のウラルカンゾウ種子(筑波研究部における導入番号:GuTS71−08)を用いた。
【0135】
シロイヌナズナ用屋内育成・種子回収キットのアラシステム(商品名、株式会社バイオメディカルサイエンス製、日本、以下同じ)を購入し、その土受けバスケットにバーミキュライトを充填した。
【0136】
供試材料の種子を約10分間精米機で処理した後、閉鎖温室内で、アラシステムにその種子を播種し、苗を育成した。閉鎖温室内の栽培条件を、温度20℃、相対湿度50%、明期14時間に設定した。
【0137】
播種から36日後におけるウラルカンゾウ種子の発芽率は58.8%であった。
【0138】
次に、実施例3と同様、閉鎖温室内にコンテナ(高さ10cm)を設置し、そのコンテナ内に鉢(径15cm×高さ30cmのポリエチレンポット)を置いた。鉢には、その底面にケイ酸塩白土を敷き、ハイドロボール中粒及びハイドロボール小粒をその上に順に積層させた。
【0139】
この養液栽培装置に、得られた苗を移植し、コンテナ内を肥料養液で満たし、閉鎖温室内で養液栽培を行った。
【0140】
閉鎖温室内の栽培条件を、温度20℃、相対湿度50%、明期14時間に設定した。肥料養液として、水8Lに対し、マツザキ1号1.5g、マツザキ2号1.0gを溶解したものを用いた。
【0141】
苗の移植から181、364日後に、植物体を収穫し、茎、根(径1mm以上の部分)、細根(径1mm未満の部分)に分割し、50℃で数日間温風乾燥し、乾燥重量を測定した。また、実施例3などと同様の方法でグリチルリチン、リキリチン、イソリキリチン、グリシクマリンの同時分析を行った。
【0142】
その結果、苗の移植から181日後では、根の短径が1mm以上の部分の乾燥処理後の重量は平均1.00g、根の短径が1mm以上の部分におけるHPLCの結果による乾燥重量当たりのグリチルリチン含有の割合は平均0.82%であった。
【0143】
また、苗の移植から364日後では、根の短径が1mm以上の部分の乾燥処理後の重量は平均10.8g、根の短径が1mm以上の部分におけるHPLCの結果による乾燥重量当たりのグリチルリチン含有の割合は平均1.51%、リキリチン含有の割合は0.36%、イソリキリチン含有の割合は0.09%、グリシクマリン含有の割合は0.10%、一株当たりの根のグリチルリチンの含有量は192.49mgであった。但し、個体間のばらつきが大きかった。
【実施例8】
【0144】
実施例8では、実施例7で選抜した種子を用いて、ウラルカンゾウの養液栽培を試みた。
【0145】
径20mm、高さ9cmの培養試験管に5mLの固形培地を入れた。固形培地には、実施例6と同様の1/2(2)MS固形培地を用いた。
【0146】
上述のGuTS71−08の種子を実施例1と同様の方法で殺菌した後、その固形培地に無菌的に播種、23℃、14時間照明下で培養し、発芽させた。
【0147】
次に、閉鎖温室内で、発芽したものを、タネまき土ポット・ジフィーセブン(株式会社サカタのタネ製、日本)に移植し、苗を育成した。閉鎖温室内の栽培条件を、温度20℃、相対湿度50%、明期14時間に設定した。
【0148】
次に、実施例7と同様の養液栽培装置に、得られた苗のうち2株(GuTS71−08IV1株、GuTS71−08IV2株)を移植し、コンテナ内を肥料養液で満たし、グロースチャンバー室内で養液栽培を行った。
【0149】
グロースチャンバー室内の栽培条件を、相対湿度60%、明期18時間とし、明条件の際には温度を25℃に、暗条件の際には温度を15℃に設定した。肥料養液として、水8Lに対し、マツザキ1号1.5g、マツザキ2号1.0gを溶解したものを、苗を移植してから39日目以降はその倍の濃度の肥料を、それぞれ用いた。
【0150】
苗の移植から124日後に、それぞれの植物体を収穫し、茎、根(径1mm以上の部分)、細根(径1mm未満の部分)に分割し、50℃で数日間温風乾燥し、乾燥重量を測定した。また、実施例3などと同様の方法でグリチルリチン、リキリチン、イソリキリチン、グリシクマリンの同時分析を行った。
【0151】
その結果、植え付けから124日後(即ち、植え付けから半年経過する前)におけるGuTS71−08IV1株では、根の短径が1mm以上の部分の乾燥処理後の重量は平均7.8g、根の短径が1mm以上の部分におけるHPLCの結果による乾燥重量当たりのグリチルリチン含有の割合は平均2.07%、リキリチン含有の割合は0.67%、イソリキリチン含有の割合は0.21%、グリシクマリン含有の割合は0.12%、1株当たりの根のグリチルリチンの含有量は161.73mgであった。
【0152】
また、植え付けから124日後(即ち、植え付けから半年経過する前)におけるGuTS71−08IV2株では、根の短径が1mm以上の部分の乾燥処理後の重量は平均16.1g、根の短径が1mm以上の部分におけるHPLCの結果による乾燥重量当たりのグリチルリチン含有の割合は平均1.60%、リキリチン含有の割合は0.48%、イソリキリチン含有の割合は0.16%、グリシクマリン含有の割合は0.25%、1株当たりの根のグリチルリチンの含有量は258.32mgであった。
【0153】
なお、GuTS71−08IV1、GuTS71−08IV2の両株を、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託申請したが、受託を拒否された。上述の通り、これらの株は、独立行政法人医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター筑波研究部育種生理研究室内において維持・保存されており、各法令の遵守を条件に、第三者に分譲可能である。
【実施例9】
【0154】
実施例9では、実施例8で樹立したウラルカンゾウGuTS71−08IV1を親株とし、そのストロン切片から、養液栽培による植物体の再生を試みた。
【0155】
実施例8において移植から124日間養液栽培を行った株より茎の付け根を含む根を養液栽培装置に移植し、さらに366日間養液栽培を行ったGuTS71−08IV1の植物体を親株とし、その植物体から剪定鋏でストロンを切断し、約5cm長の切片を得た。
【0156】
ストロンを切断後、速やかに二価鉄イオンを含有する水溶液にその切片を入れ、30分間以上その中に浸した。二価鉄イオンを含有する水溶液には、植物活力素メネデールの100倍希釈液を用いた。
【0157】
次に、グロースチャンバー室内にトレーを置き、トレー内にメネデールの100倍希釈液を入れ、ジフィーセブン・水でふくらむタネまき土ポット(径48mm)を設置し、切片をその土ポットに一本ずつ挿し、グロースチャンバー室内でメネデール希釈液を与えながら14日間養液栽培を行った。切片を挿してから9日間、透明プラスチック製のカバーを被せ、高湿度を維持させた。グロースチャンバー室内の栽培条件を、相対湿度60%、明期12時間とし、明条件の際には温度を25℃に、暗条件の際には温度を15℃に設定した。その結果、切片を挿してから14日後にシュートが再生した。
【0158】
ストロン切片から再生したシュートを、それぞれ、実施例5などと同様の養液栽培装置に移植し、コンテナ内を肥料養液で満たし、323日間、グロースチャンバー室内で養液栽培を行った。
【0159】
グロースチャンバー室内の栽培条件を、温度25℃、相対湿度60%、養液栽培装置に移植してから70日目までは明期12時間、71日目から224日目までは明期16時間、225日目から252日目までは明期8時間、それ以降は明期16時間に設定した。肥料養液として、養液栽培装置に移植してから75日目までは、水8Lに対し、マツザキ1号1.5g、マツザキ2号1.0gを溶解したものを、それ以降は、水8Lに対し、マツザキ1号3.0g、マツザキ2号2.0gを溶解したものを、それぞれ用いた。
【0160】
続いて、養液栽培装置に移植してから323日後に、実施例5などと同様、植物体を収穫し、茎、根(径2mm以上の部分)、細根(径2mm未満の部分)、ストロンの各部位に分割し、50℃で数日間温風乾燥し、乾燥重量を測定した。また、乾燥後、試料を実施例3と同様の方法で調製してHPLCに供し、グリチルリチン、リキリチン、イソリキリチン、及び、グリシクマリンの4種の化合物の同時分析を行った。HPLCのカラム及び溶媒については、実施例5と同じものを用いた。また、設定なども実施例5に準じた。
【0161】
結果を表6に示す。
【表6】

【0162】
表6は、ウラルカンゾウGuTS71−08IV1株に関し、ストロン切片から再生した植物体について、養液栽培装置への移植(植え付け)から323日後におけるグリチルリチン含有の割合などを示す表である。
【0163】
表6中、「植え付けからの日数」、「径2mm以上の根長」、「最大根幅」、「径2mm以上の根の収量(乾燥重量)」、「グリチルリチン含有の割合(乾燥重量当たり)」、「一株当たりの根のグリチルリチンの含有量」、「リキリチン含有の割合(乾燥重量当たり)」、「イソリキリチン含有の割合(乾燥重量当たり)」、「グリシクマリン含有の割合(乾燥重量当たり)」の各項目は、表3〜5と同様である。各項目の値は、4株の平均とその標準偏差を表す。
【0164】
表6に示す通り、ウラルカンゾウGuTS71−08IV1株に関し、ストロン切片から再生した植物体では、植え付けから約1年後におけるグリチルリチン含有の割合が2.51%であった。
【0165】
この結果は、ウラルカンゾウGuTS71−08IV1株についても、親株の植物体から採取された根部の切片より再生された植物体が、親株同様、養液栽培を行うことのできる株であり、かつその植え付けから1年後における再生植物体の根部のグリチルリチン含有の割合が2.5%以上であること、即ち、このカンゾウ属植物株が、親株から採取した根部の切片を用いて養液栽培を行うことにより植物体を再生できる株であり、親株及びその再生植物体の両者とも養液栽培を行うことができる株であり、かつ、再生植物体においても養液栽培での高グリチルリチン生産性を維持できる株であることを示す。
【実施例10】
【0166】
実施例10では、実施例8で樹立したウラルカンゾウGuTS71−08IV2株を親株とし、そのストロン切片、及び、茎の付け根を含む根の切片から、養液栽培による植物体の再生を試みた。
【0167】
実施例8において移植から124日間養液栽培を行ったGuTS71−08IV2の植物体を親株とし、その植物体から剪定鋏でストロンを約5cm長に切断し、88個の切片を得た。また、その植物体から、茎の付け根を含む約5cm長の根の切片を得た。
【0168】
ストロン又は茎の付け根を含む根を切断後、速やかに二価鉄イオンを含有する水溶液にその切片を入れ、30分間以上その中に浸した。二価鉄イオンを含有する水溶液には、植物活力素メネデールの100倍希釈液を用いた。
【0169】
次に、ストロン切片については、グロースチャンバー室内にトレーを置き、トレー内にメネデールの100倍希釈液を入れ、ジフィーセブン・水でふくらむタネまき土ポット(径48mm)を設置し、切片をその土ポットに一本ずつ挿し、グロースチャンバー室内でメネデール希釈液を与えながら14日間養液栽培を行った。切片を挿してから9日間、透明プラスチック製のカバーを被せ、高湿度を維持させた。グロースチャンバー室内の栽培条件を、相対湿度60%、明期12時間とし、明条件の際には温度を25℃に、暗条件の際には温度を15℃に設定した。
【0170】
一方、茎の付け根を含む根の切片については、実施例5などと同様の養液栽培装置に切片を移植し、コンテナ内を肥料養液で満たし、グロースチャンバー室(完全人工光室)内で養液栽培を行った。肥料養液には、実施例5などと同様のものを用いた。栽培条件も実施例5と同様に設定した。
【0171】
その結果、ストロン切片のうち、1〜2個の芽の形成が認められたものと認められなかったもののいずれの場合も、切片を挿してから14日後におけるシュート再生率は、53.8〜100%で、非常に良好であった。また、再生したシュートを、実施例5などと同様の養液栽培装置に移植し、コンテナ内を肥料養液で満たし、閉鎖温室内で養液栽培を行った。肥料養液には、実施例5などと同様のものを用い、栽培条件も実施例5と同様に設定した。その結果、ストロン切片から得られた苗は、その後、良好に生育した。
【0172】
一方、茎の付け根を含む根の切片の養液栽培を行ったものについても、14日後にシュートが再生し、その後、良好に生育した。
【0173】
ストロン切片から得られた各植物体(再生植物体)を養液栽培装置に移植してから163日後に、植物体を収穫し、茎、根(径1mm以上の部分)、細根(径1mm未満の部分)に分割し、50℃で数日間温風乾燥し、乾燥重量を測定した。また、実施例3などと同様の方法でグリチルリチン、リキリチン、イソリキリチン、グリシクマリンの同時分析を行った。
【0174】
その結果、植え付けから163日後(即ち、植え付けから半年経過する前)における再生植物体では、根の短径が1mm以上の部分の乾燥処理後の重量は平均9.26g、根の短径が1mm以上の部分におけるHPLCの結果による乾燥重量当たりのグリチルリチン含有の割合は平均1.93%、リキリチン含有の割合は0.69%、イソリキリチン含有の割合は0.07%、グリシクマリン含有の割合は0.13%、一株当たりの根のグリチルリチンの含有量は175.28mgであった。
【実施例11】
【0175】
実施例11では、実施例10においてストロン切片から再生させたGuTS71−08IV2の苗について、養液栽培による育成を試みた。
【0176】
実施例10でジフィーセブン・水でふくらむタネまき土ポットに挿したストロン切片について、切片を挿してから41日間、引き続き同条件で養液栽培を継続し、苗を育成した後、その苗を、実施例5などと同様の養液栽培装置に移植し、コンテナ内を肥料養液で満たし、353日間、グロースチャンバー室内で養液栽培を行った。
【0177】
グロースチャンバー室内の栽培条件を、養液栽培装置に移植してから29日間は、相対湿度60%、明期16時間とし、明条件の際には温度を25℃に、暗条件の際には温度を15℃に、同30日目〜204日目は、温度25℃、相対湿度60%、明期16時間に、同205日目〜232日目は、温度25℃、相対湿度60%、明期8時間に、同233日目〜236日目は、温度25℃、相対湿度55%、明期16時間に設定した。同237日目以降は、閉鎖温室内で、温度25℃、相対湿度55%、明期14時間に設定した。肥料養液として、養液栽培装置に移植してから280日目までは、水8Lに対し、マツザキ1号1.5g、マツザキ2号1.0gを溶解したものを、それ以降は、水8Lに対し、マツザキ1号3.0g、マツザキ2号2.0gを溶解したものを、それぞれ用いた。
【0178】
続いて、養液栽培装置に移植してから353日後に、実施例5などと同様、植物体を収穫し、茎、根(径1mm以上の部分)、細根(径1mm未満の部分)、ストロンの各部位に分割し、50℃で数日間温風乾燥し、乾燥重量を測定した。また、乾燥後、試料を実施例3などと同様の方法で調製してHPLCに供し、グリチルリチン、リキリチン、イソリキリチン、及び、グリシクマリンの4種の化合物の同時分析を行った。HPLCのカラム及び溶媒については、実施例5と同じものを用いた。また、設定なども実施例5に準じた。
【0179】
結果を表7に示す。
【表7】

【0180】
表7は、ウラルカンゾウGuTS71−08IV2株に関し、ストロン切片から再生した植物体について、養液栽培装置への移植(植え付け)から353日後におけるグリチルリチン含有の割合などを示す表である。
【0181】
表7中、「植え付けからの日数」、「径1mm以上の根長」、「最大根幅」、「径1mm以上の根の収量(乾燥重量)」、「グリチルリチン含有の割合(乾燥重量当たり)」、「一株当たりの根のグリチルリチンの含有量」、「リキリチン含有の割合(乾燥重量当たり)」、「イソリキリチン含有の割合(乾燥重量当たり)」、「グリシクマリン含有の割合(乾燥重量当たり)」の各項目は、表3〜6と同様である。各項目の値は、2株の平均値と、測定値と平均値との差を表す。
【0182】
表7に示す通り、ウラルカンゾウGuTS71−08IV2株に関し、ストロン切片から再生した植物体では、植え付けから約1年後におけるグリチルリチン含有の割合が3.08%であった。
【実施例12】
【0183】
実施例12では、実施例10において、茎の付け根を含む根の切片から再生させたGuTS71−08IV2の苗について、養液栽培による育成を試みた。
【0184】
実施例10において養液栽培装置で再生させた植物体について、切片移植後365日間、引き続き同様の方法で養液栽培を行った。
【0185】
グロースチャンバー室内の栽培条件を、温度25℃、相対湿度60%とし、養液栽培装置に移植してから初めの6日間は明期16時間に、同7日目〜34日目は明期8時間に、同35日目〜38日目は明期16時間に設定し、同39日目以降は、閉鎖温室内で、温度25℃、相対湿度55%、明期14時間で養液栽培した。肥料養液として、養液栽培装置に移植してから81日目までは、水8Lに対し、マツザキ1号1.5g、マツザキ2号1.0gを溶解したものを、それ以降は、水8Lに対し、マツザキ1号3.0g、マツザキ2号2.0gを溶解したものを、それぞれ用いた。
【0186】
続いて、養液栽培装置に移植してから365日後に、実施例5などと同様、植物体を収穫し、茎、根(径2mm以上の部分)、細根(径2mm未満の部分)、ストロンの各部位に分割し、50℃で数日間温風乾燥し、乾燥重量を測定した。また、乾燥後、試料を実施例3などと同様の方法で調製してHPLCに供し、グリチルリチン、リキリチン、イソリキリチン、及び、グリシクマリンの4種の化合物の同時分析を行った。HPLCのカラム及び溶媒については、実施例5などと同じものを用いた。また、設定なども実施例5などに準じた。
【0187】
結果を表8に示す。
【表8】

【0188】
表8は、ウラルカンゾウGuTS71−08IV2株に関し、茎の付け根を含む根の切片から再生した植物体について、養液栽培装置への移植(植え付け)から365日後におけるグリチルリチン含有の割合などを示す表である。
【0189】
表8中、「植え付けからの日数」、「径2mm以上の根長」、「最大根幅」、「径2mm以上の根の収量(乾燥重量)」、「グリチルリチン含有の割合(乾燥重量当たり)」、「一株当たりの根のグリチルリチンの含有量」、「リキリチン含有の割合(乾燥重量当たり)」、「イソリキリチン含有の割合(乾燥重量当たり)」、「グリシクマリン含有の割合(乾燥重量当たり)」の各項目は、表3〜7と同様である。
【0190】
表8に示す通り、ウラルカンゾウGuTS71−08IV2株に関し、茎の付け根を含む根の切片から再生した植物体では、植え付けから約1年後におけるグリチルリチン含有の割合が2.94%であった。
【0191】
実施例11及び本実施例の結果は、ウラルカンゾウGuTS71−08IV2株についても、親株の植物体から採取された根部の切片より再生された植物体が、親株同様、養液栽培を行うことのできる株であり、かつその植え付けから1年後における再生植物体の根部のグリチルリチン含有の割合が2.5%以上であること、即ち、このカンゾウ属植物株が、親株から採取した根部の切片を用いて養液栽培を行うことにより植物体を再生できる株であり、親株及びその再生植物体の両者とも養液栽培を行うことができる株であり、かつ、再生植物体においても養液栽培での高グリチルリチン生産性を維持できる株であることを示す。
【0192】
以上、実施例3〜5及び実施例8〜12に示す通り、本発明者らは、下記(1)及び(2)の性質を備える複数の新規なカンゾウ属植物株の作出に成功した。
(1)親株の植物体が養液栽培を行うことのできる株であり、かつその植え付けから半年後における親株の根部のグリチルリチン含有の割合が1.5%以上、又は、その植え付けから1年後における親株の根部のグリチルリチン含有の割合が2.5%以上である。
(2)親株の植物体から採取された根部の切片を用いて養液栽培を行うことにより再生でき、かつその植え付けから半年後における親株の根部のグリチルリチン含有の割合が1.5%以上、又は、その植え付けから1年後における再生植物体の根部のグリチルリチン含有の割合が2.5%以上である。
【実施例13】
【0193】
実施例13では、実施例8で樹立したウラルカンゾウ株を親株とし、その地上茎(茎又は頂芽)の切片から、養液栽培による植物体の再生を試みた。
【0194】
実施例8において移植から366日間養液栽培を行ったGuTS71−08IV1の植物体を親株とし、その植物体から剪定鋏で、節を3つ以上含むように、地上茎を約10〜15cm長に切断し、51個の切片を得た。葉は全て落とした。調製した切片は、頂芽を含むものが34個、含まないものが17個であった。
【0195】
地上茎を切断後、速やかに二価鉄イオンを含有する水溶液にその切片を入れ、5〜20分間その中に浸した。二価鉄イオンを含有する水溶液には、植物活力素メネデールの100倍希釈液を用いた。
【0196】
アラシステムを用いて、その土受けバスケットにバーミキュライトを充填し、そこに切片を一本ずつ挿した。水受けトレーにメネデールの100倍希釈液を入れ、土受けバスケットごとその中に浸し、閉鎖温室内で13日間養液栽培を行った。システム全体を透明プラスチック製のカバーで覆い、高湿度を維持させた。閉鎖温室内の栽培条件を、相対湿度60%、明期12時間、温度を25℃に設定した。
【0197】
その結果、切片を挿してから13日後におけるシュート再生率は、平均72.5%で、良好であった。
【0198】
再生したシュートのうち、頂芽苗2本と茎苗2本を、それぞれ、実施例7などと同様の養液栽培装置に移植し、コンテナ内を肥料養液で満たし、閉鎖温室内で養液栽培を行った。肥料養液には、実施例7などと同様のものを用い、栽培条件も実施例7などと同様に設定した。その結果、いずれの苗についても、根部の切片から育成した苗と同様、その後、良好に生育した。
【実施例14】
【0199】
実施例14では、ウラルカンゾウGu2−3−2株及びGuTS71−08IV2株におけるSQS遺伝子の部分配列を取得した。
【0200】
上述の通り、カンゾウ属植物のグリチルリチン生合成経路上の酵素の一つとして、SQSが知られている。一般的に、相同酵素をコードする遺伝子のゲノム上におけるエキソン・イントロン構造は植物種間を超えて保存されている傾向がある。そこで、シロイヌナズナのSQS1遺伝子及びSQS2遺伝子のゲノムから、ウラルカンゾウにおける構造を予測し、その配列情報に基づき、ウラルカンゾウのSQS1遺伝子又はSQS2遺伝子のエキソン1〜エキソン3を増幅しうるプライマーを設計した。
【0201】
上述のGu2−3−2株及びGuTS71−08IV2株から公知方法によりゲノムDNAを取得し、そのDNAを鋳型として、設計プライマーを用いて、PCR法により、SQS1遺伝子又はSQS2遺伝子のエキソン1〜エキソン3の領域を増幅した。その増幅産物を、それぞれ、公知のシークェンシングベクターにクローニングし、その領域の塩基配列を解析した。
【0202】
その結果、Gu2−3−2株におけるSQS1遺伝子のエキソン1〜エキソン3の部分配列として配列番号1及び2の配列を、GuTS71−08IV2株におけるSQS1遺伝子のエキソン1〜エキソン3の部分配列として配列番号2及び3の配列を、それぞれ取得した。なお、両株とも、SQS1遺伝子の2種類の配列が検出され、その一方は両株に共通の配列であり、もう一方は、それぞれの株に特異的な配列であった。
【0203】
また、Gu2−3−2株におけるSQS2遺伝子のエキソン1〜エキソン3の部分配列として配列番号4の配列を、GuTS71−08IV2株におけるSQS2遺伝子のエキソン1〜エキソン3の部分配列として配列番号4及び5の配列を、それぞれ取得した。なお、GuTS71−08IV2株では、SQS2遺伝子の2種類の配列が検出され、その一方はGu2−3−2株と共通の配列であり、もう一方は、GuTS71−08IV2株に特異的な配列であった。
【実施例15】
【0204】
実施例15では、PCR法によりGuTS71−08IV2株を他の株から識別できるかどうか、検討した。
【0205】
実施例14における塩基配列解析の結果、Gu2−3−2株とGuTS71−08IV2株との間でも、SQS1遺伝子のイントロン1及びSQS2遺伝子のイントロン1において、顕著な塩基配列の差異が認められた。
【0206】
そこで、SQSの各塩基配列のうち、GuTS71−08IV2株に特異的な配列部位を増幅しうる識別用プライマーセットを2組設計し、そのプライマーを用いて、PCR法によりGuTS71−08IV2株を他の株から識別できるかどうか、検討した。
【0207】
設計したプライマーセットの配列を、それぞれ、配列番号6〜9に示す。配列番号6と7は、SQS1遺伝子の配列に基づき設計されたプライマーのセットである。配列番号8と9は、SQS2遺伝子の配列に基づき設計されたプライマーのセットである。なお、配列番号6及び8のプライマーがフォワードプライマー、配列番号7及び9のプライマーがリバースプライマーである。
【0208】
Gu2−3−2株及びGuTS71−08IV2株のゲノムDNAを鋳型として、それらのプライマーセットを用いて、PCR法により、SQS1遺伝子又はSQS2遺伝子の部分長の増幅を試みた。
【0209】
PCR機器には、GeneAmp PCR System 2400(アプライドバイオシステムズ社製、米国)を、PCR酵素にはTaKaRa Ex Taq(タカラバイオ株式会社製、日本)を、それぞれ用いた。1サンプル当たり、滅菌水78.5μL、10×Ex Taq buffer 10μL、dNTP(2.5mM each)8μL、フォワードプライマー(100μM)1μL、リバースプライマー(100μM)1μL、鋳型ゲノムDNA 1μL、Ex Taq 0.5μL、計100μLに調製し、94℃、5min→[94℃、30sec→58℃、30sec→72℃、1min]×30cycle→72℃、10min→4℃、foreverの条件でPCRを行った。
【0210】
結果を図1に示す。図1はSQS遺伝子の配列に基づき設計されたプライマーを用いてPCRを行った際の1%アガロースゲル電気泳動写真である。図1中、左から、レーン1はマーカー、レーン2はGuTS71−08IV2株のゲノムDNAを鋳型とし、SQS1遺伝子の配列に基づき設計されたプライマーのセットを用いてPCR行った際のPCR産物を電気泳動した結果を、レーン3はGu2−3−2株のゲノムDNAを鋳型とし、SQS1遺伝子の配列に基づき設計されたプライマーのセットを用いてPCR行った際のPCR産物を電気泳動した結果を、レーン4はGuTS71−08IV2株のゲノムDNAを鋳型とし、SQS2遺伝子の配列に基づき設計されたプライマーのセットを用いてPCR行った際のPCR産物を電気泳動した結果を、レーン5はGu2−3−2株のゲノムDNAを鋳型とし、SQS2遺伝子の配列に基づき設計されたプライマーのセットを用いてPCR行った際のPCR産物を電気泳動した結果を、それぞれ表わす。
【0211】
図1に示す通り、SQS1遺伝子の配列に基づき設計されたプライマーのセットを用いた場合(レーン2及び3参照)、GuTS71−08IV2株では、Gu2−3−2株と比較し、増幅産物のサイズに違いがあった。
【0212】
また、SQS2遺伝子の配列に基づき設計されたプライマーのセットを用いた場合(レーン4及び5参照)、GuTS71−08IV2株のゲノムDNAを鋳型とした場合のみ、増幅産物が得られた(図中の矢印参照)。
【実施例16】
【0213】
実施例16では、ウラルカンゾウGu2−3−2株及びGuTS71−08IV2株におけるCYP88D6遺伝子の部分配列を取得した。
【0214】
CYP88Dサブファミリー遺伝子に関し、ゲノム情報が公開されているタルウマゴヤシ、ミヤコグサのCYP88D遺伝子を調べた結果、そのエキソン・イントロン構造は広く保存されているという知見を得た。そこで、これらのゲノム情報から、ウラルカンゾウにおけるCYP88D6遺伝子の配列を予測し、その配列情報に基づき、その配列中のエキソン6〜エキソン8を増幅しうるプライマーを設計した。
【0215】
上述のGu2−3−2株及びGuTS71−08IV2株から公知方法によりゲノムDNAを取得し、そのDNAを鋳型として、設計プライマーを用いて、PCR法により、CYP88D6遺伝子のエキソン6〜エキソン8の領域を増幅した。その増幅産物を、それぞれ、公知のシークェンシングベクターにクローニングし、その領域の塩基配列を解析した。
【0216】
その結果、Gu2−3−2株におけるCYP88D6遺伝子のエキソン6〜エキソン8の部分配列として配列番号10の配列を、GuTS71−08IV2株におけるCYP88D6遺伝子のエキソン6〜エキソン8の部分配列として配列番号10及び11の配列を、それぞれ取得した。なお、GuTS71−08IV2株では、CYP88D6遺伝子の2種類の配列が検出され、その一方は両株に共通の配列(配列番号10)であり、もう一方は、GuTS71−08IV2株に特異的な配列(配列番号11)であった。
【実施例17】
【0217】
実施例17では、PCR−RFLPにより、GuTS71−08IV2株を他の株から識別できるかどうか、検討した。
【0218】
実施例16における塩基配列解析の結果、CYP88D6遺伝子のイントロン7において、GuTS71−08IV2株に特異的な塩基配列を発見した。この配列部位には制限酵素HincIIの切断サイトが含まれていた。
【0219】
そこで、CYP88D6遺伝子の塩基配列のうち、GuTS71−08IV2株に特異的な配列を含む部分配列を増幅しうる識別用プライマーセットを設計し、そのプライマーを用いて、PCR−RFLP法によりGuTS71−08IV2株を他の株から識別できるかどうか、検討した。
【0220】
設計したプライマーセットの配列を、それぞれ、配列番号12及び13に示す。配列番号12のプライマーがフォワードプライマー、配列番号13のプライマーがリバースプライマーである。
【0221】
Gu2−3−2株及びGuTS71−08IV2株のゲノムDNAを鋳型として、それらのプライマーセットを用いて、PCR法により、CYP88D6遺伝子の部分長の増幅を試みた。
【0222】
PCR機器には、2720 Thermal Cycler(アプライドバイオシステムズ社製、米国)を、PCR酵素にはKOD plus(東洋紡績株式会社製、日本)を、それぞれ用いた。1サンプル当たり、滅菌水34.5μL、10×KOD plus buffer 5μL、dNTP(2.0mM each)5μL、MgSO 2μL、フォワードプライマー(10μM)1μL、リバースプライマー(10μM)1μL、鋳型ゲノムDNA 1μL、KOD plus 0.5μL、計50μLに調製し、94℃、2min→[94℃、30sec→58℃、30sec→68℃、90sec]×40cycle→65℃、5min→4℃、foreverの条件でPCRを行った。
【0223】
そのPCR産物5μLに制限酵素HincIIを1μL加え、37℃で1.5時間処理した。
【0224】
結果を図2に示す。図2はCYP88D6遺伝子の配列に基づき設計されたプライマーと制限酵素HincIIを用いてPCR−RFLP法を行った際の1%アガロースゲル電気泳動写真である。図2中、左から、レーン1はマーカー、レーン2はGuTS71−08IV2株のゲノムDNAを鋳型としてPCR行った後、制限酵素処理を行ったものを電気泳動した結果を、レーン3はGu2−3−2株のゲノムDNAを鋳型としてPCR行った後、制限酵素処理を行ったものを電気泳動した結果を、レーン4はGuTS71−08IV2株のゲノムDNAを鋳型としてPCR行った後、制限酵素処理を行わずに電気泳動した結果を、レーン5はGu2−3−2株のゲノムDNAを鋳型としてPCR行った後、制限酵素処理を行わずに電気泳動した結果を、それぞれ表わす。
【0225】
図2に示す通り、GuTS71−08IV2株のゲノムDNAを鋳型としてPCR行った後、制限酵素処理を行った場合、約600bp及び約500bpの位置に、特異的な制限酵素断片が得られた(図中の矢印参照)。
【0226】
以上、実施例14及び実施例16において、Gu2−3−2株及びGuTS71−08IV2株におけるSQS遺伝子の部分配列とCYP88D6遺伝子の部分配列を取得できた。これらの遺伝子における配列を比較することにより、Gu2−3−2株又はGuTS71−08IV2株を他の株と識別できる。
【0227】
また、実施例15及び本実施例に示す通り、両実施例における方法を単独で若しくは並行して行うことにより、簡易かつ高精度にGuTS71−08IV2株を他の株から識別できる。
【図面の簡単な説明】
【0228】
【図1】実施例15において、SQS遺伝子の配列に基づき設計されたプライマーを用いてPCRを行った際の1%アガロースゲル電気泳動写真。
【図2】実施例17において、CYP88D6遺伝子の配列に基づき設計されたプライマーと制限酵素HincIIを用いてPCR−RFLPを行った際の1%アガロースゲル電気泳動写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)及び(2)の性質を備えるカンゾウ属植物株。
(1)親株の植物体が養液栽培を行うことのできる株であり、かつその植え付けから半年後における親株の根部のグリチルリチン含有の割合が1.5%以上、又は、その植え付けから1年後における親株の根部のグリチルリチン含有の割合が2.5%以上である。
(2)前記親株の植物体から採取された根部又は茎部の切片を用いて養液栽培を行うことにより再生でき、かつその植え付けから半年後における再生植物体の根部のグリチルリチン含有の割合が1.5%以上、又は、その植え付けから1年後における再生植物体の根部のグリチルリチン含有の割合が2.5%以上である。
【請求項2】
前記再生植物体が、前記親株の植物体から採取された根部又は茎部の切片を、二価鉄イオンを少なくとも含有する水溶液に浸漬した後、養液栽培を行うことにより得られたものである請求項1記載のカンゾウ属植物株。
【請求項3】
結実する株である請求項1又は請求項2記載のカンゾウ属植物株。
【請求項4】
前記結実により得られた種子から前記植物体を再生できる請求項3記載のカンゾウ属植物株。
【請求項5】
Gu2−2−1株、Gu2−3−2株、GuTS71−08IV1株、GuTS71−08IV2株のいずれかのカンゾウ属植物株。
【請求項6】
親株の植物体から採取された根部又は茎部の切片を、二価鉄イオンを少なくとも含有する水溶液に浸漬した後、該切片を用いて養液栽培を行う手順を少なくとも含むカンゾウ属植物増殖方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−115261(P2012−115261A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245757(P2011−245757)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1) 掲載アドレス:http://www.kajima.co.jp/news/press/201010/28e1−j.htm、 掲載年月日:平成22年10月28日 (2) 掲載アドレス:http://www.nibio.go.jp/news/2010/10/000022.html、 掲載年月日:平成22年10月29日 (3) 日本経済新聞 2010年(平成22年)10月29日付朝刊第10面、 発行年月日:平成22年10月29日 (4) 日経産業新聞 2010年(平成22年)10月29日付第2面、 発行年月日:平成22年10月29日 (5) 日刊工業新聞 2010年(平成22年)10月29日付第16面、 発行年月日:平成22年10月29日 (6) フジサンケイビジネスアイ 2010年(平成22年)10月29日付第3面、 発行年月日:平成22年10月29日 (7) 日刊建設工業新聞 2010年(平成22年)10月29日付第1面及び第2面、 発行年月日:平成22年10月29日 (8) 建設通信新聞 2010年(平成22年)10月29日付第3面、 発行年月日:平成22年10月29日 (9) 日刊建設産業新聞 2010年(平成22年)10月29日付第2面、 発行年月日:平成22年10月29日 (10) 電気新聞 2010年(平成22年)10月29日付第5面、 発行年月日:平成22年10月29日 (11) 化学工業日報 2010年(平成22年)10月29日付第1面、 発行年月日:平成22年10月29日 (12) SANKEI EXPRESS 2010年(平成22年)10月29日付第29面、 発行年月日:平成22年10月29日 (13) フジサンケイビジネスアイ 2010年(平成22年)11月4日付第1面、 発行年月日:平成22年11月4日 (14) 朝日新聞 2010年(平成22年)11月6日付夕刊第12面、 発行年月日:平成22年11月6日 (15) 産経新聞 2010年(平成22年)11月8日付第3面、 発行年月日:平成22年11月8日 (16) 薬事日報 2010年(平成22年)11月1日付第6面、 発行年月日:平成22年11月1日
【出願人】(505314022)独立行政法人医薬基盤研究所 (17)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】