説明

カートリッジカラムおよびカラムモジュール

【課題】分離材としてガラス質多孔体を用いた信頼性が高いカートリッジカラム、およびそれを用いたカラムモジュールを提供する。
【解決手段】本発明のカートリッジカラムは、柱状の分離材10と、分離材10の外周面を覆うように配置される変形チューブ21と、分離材10および変形チューブを保持するハウジング30とを備える。分離材10が、柱状のガラス質多孔体11とガラス質多孔体11の外周面を覆う熱収縮チューブ12とを含む。変形チューブ21は、25℃における圧縮率が5%〜90%の範囲にあるチューブであるか、または、エラストマーチューブである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフィーに用いられるカートリッジカラム、およびそれを用いたカラムモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クロマトグラフィー用のカラムにおいて、粉末状の分離材の代わりに多孔質シリカなどからなる一体型の多孔体を用いたカラムが提案されている。そのようなカラムの1つとして、ゾル−ゲル法によって形成される無機多孔体(分離材)を用いたカラムが提案されている(たとえば特許文献1および2参照)。一体型の無機多孔体を用いたカラムは、分離性能が高い、分離特性のばらつきが小さい、安定性に優れるといった特長を有する。このような多孔体は、高精度の分析やDNAの高速分離に用いることが可能である。
【0003】
一体型の多孔体を用いたカラムの1つとして、熱収縮チューブと熱可塑性樹脂層とを含む円筒によって多孔体の外周面を保護したカラムが提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平6−265534号公報
【特許文献2】特開平7−41374号公報
【特許文献3】特開平10−197508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、硬い樹脂のみによって外周面が保護されたカラムの場合、測定装置またはハウジングにカラムをセットした場合に、カラムの端部や外周部で分離対象物がリークする場合があった。分離対象物がリークすると、分離の再現性や精度が低下してしまう。
【0005】
このような状況において、本発明は、分離材としてガラス質多孔体を用いた信頼性が高いカートリッジカラム、およびそれを用いたカラムモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1のカートリッジカラムは、柱状の分離材と、前記分離材の外周面を覆うように配置されるチューブと、前記分離材および前記チューブを保持するハウジングとを備え、前記チューブの25℃における圧縮率が5%〜90%の範囲にあり、前記分離材が、柱状のガラス質多孔体と前記ガラス質多孔体の外周面を覆う熱収縮チューブとを含む。
【0007】
なお、チューブの圧縮率は、同じ材料からなるシートの圧縮率をJIS−R3453の規格に沿って25℃で測定したときの値である。
【0008】
また、本発明の第2のカートリッジカラムは、柱状の分離材と、前記分離材の外周面を覆うように配置されるチューブと、前記分離材および前記チューブを保持するハウジングとを備え、前記チューブがエラストマーチューブであり、前記分離材が、柱状のガラス質多孔体と前記ガラス質多孔体の外周面を覆う熱収縮チューブとを含む。
【0009】
また、本発明のカラムモジュールは、加圧された流体を内部に満たすことが可能な容器と、前記容器内に配置されるカートリッジカラムとを備えるカラムモジュールであって、前記カートリッジカラムが、上記本発明の第1または第2のカートリッジカラムであり、前記カートリッジカラムの前記ハウジングが、前記流体の圧力が前記チューブに伝わるように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のカートリッジカラムでは、分離材の外周面が、大きく変形するチューブで覆われており、それら分離材およびチューブがハウジングで保持される。そのため、本発明によれば、ガラス質多孔体の外周面において分離対象物がリークすることを抑制できる。また、ガラス質多孔体の外周面が熱収縮チューブで保護されているため、ガラス質多孔体が破損することを抑制できる。また、本発明のカラムモジュールによれば、分離対象物を再現性よく分離できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、具体例を挙げて本発明を説明する場合があるが、本発明は以下で説明する具体例に限定されない。
【0012】
[カートリッジカラム]
本発明のカートリッジカラムは、クロマトグラフィーに用いることができる。このカートリッジカラムは、物質の分離や、物質の抽出に用いることができる。
【0013】
本発明のカートリッジカラムとして、以下に、2種類のカートリッジカラムについて説明する。
【0014】
本発明の第1のカートリッジカラムは、柱状の分離材と、分離材の外周面を覆うように配置されるチューブと、分離材およびチューブを保持するハウジングとを備える。以下、第1のカートリッジカラムにおいて分離材の外周面を覆うチューブを、「軟質チューブ」という場合がある。
【0015】
分離材は、柱状のガラス質多孔体と、ガラス質多孔体の外周面を覆う熱収縮チューブとを含む。分離材は、柱状のガラス質多孔体を未収縮のチューブ内に配置した状態で、チューブに熱を加えて収縮させることによって、形成できる。通常、熱収縮チューブの肉厚は薄く、たとえば、0.08mm〜5mmの範囲(好ましくは0.1mm〜2.5mmの範囲)にある。
【0016】
軟質チューブの25℃における圧縮率は、5%〜90%の範囲にある。変形する軟質チューブを用いることによって、分離材の外周面の凹凸に対応するように、分離材の外周面を押圧することが可能である。その結果、ガラス質多孔体の外周面において分離対象物がリークすることを抑制できる。なお、本発明の第2のカートリッジカラムの説明で述べるように、軟質チューブは、エラストマーチューブであってもよい。
【0017】
軟質チューブの25℃における圧縮率は、10%〜88%の範囲であってもよく、たとえば、20%〜60%の範囲であってもよい。軟質チューブとしては、たとえば、軟質ポリテトラフルオロエチレン(以下、「軟質PTFE」という場合がある)が挙げられる。市販されている軟質PTFEとしては、たとえば、ジャパンゴアテックス株式会社製のハイパーシート(登録商標)などがある。
【0018】
一例の軟質チューブでは、軟質チューブの厚さ(肉厚:外径と内径の差)tが1.0mm〜30mmの範囲にあり、25℃における圧縮率が、45%〜67%の範囲にある。
【0019】
本発明の第2のカートリッジカラムは、柱状の分離材と、分離材の外周面を覆うように配置されるチューブと、分離材およびチューブを保持するハウジングとを備える。分離材の外周面を覆うチューブは、エラストマーチューブである。分離材は、柱状のガラス質多孔体と、ガラス質多孔体の外周面を覆う熱収縮チューブとを含む。
【0020】
エラストマーチューブは、エラストマーからなるチューブである。エラストマーは、ゴム状弾性を有する高分子物質であり、典型的な一例はゴムである。エラストマーチューブはゴムチューブであってもよい。以下の説明において、エラストマーをゴムと読みかえることが可能である。
【0021】
エラストマーチューブは、たとえば、フッ素ゴムからなるものであってもよいし、シリコーンゴムや石油合成ゴムからなるものであってもよい。石油合成ゴムとしては、たとえば、ニトリルゴム(NBR)、スチレン・ブタジエン共重合ゴム(SBR)、アクリルゴム(ACM)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン・プロピレンゴム(EP)、イソブチレン・イソプレン共重合ゴム(IIR)が挙げられる。フッ素系エラストマー(たとえばフッ素ゴム)は、耐薬品性や耐熱性が高い点で好ましい。フッ素ゴムとしては、たとえば、フッ化ビニリデン系ゴム、四フッ化エチレン−プロピレンゴム、四フッ化エチレン−パーフルオロメチルビニルエーテルゴム(FFKM)などが挙げられる。また、他のフッ素系エラストマーとしては、たとえば、パーフロロエラストマーが挙げられる。これらの中でも、パーフロロエラストマーおよびFFKMは、耐薬品性および耐熱性が高いため好ましい。
【0022】
エラストマーチューブの好ましい硬度は、エラストマーチューブの厚さtによっても異なるが、たとえば、デュロメータタイプの硬度計に従って測定された硬度(JIS−K−6253)が、A/20〜A/100の範囲(たとえばA/40〜A/90の範囲)であってもよく、またはD/60以下の範囲であってもよい。
【0023】
一例のエラストマーチューブでは、エラストマーチューブの厚さ(肉厚)tが2mm〜4mmの範囲であり、硬度(JIS−K−6253)が、A/50〜A/80の範囲である。
【0024】
エラストマーチューブは高い弾性を有することが必要である。そのため、硬質テフロン(登録商標)や、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)といった、ゴム状弾性を有さない樹脂で形成されたチューブを用いることはできない。
【0025】
以下、上述した軟質チューブとエラストマーチューブとを総称して、「変形チューブ」という場合がある。
【0026】
変形チューブの厚さ(肉厚)が薄すぎると、チューブの特性が充分に発揮されない。そのため、分離材が収納される部分の変形チューブの厚さtは一定以上の厚さであることが好ましい。一例では、変形チューブの通常時(外力が加えられていない状態)の厚さtは、0.1mm以上(たとえば0.5mm以上で一例では2.5mm以上)であってもよい。厚さtの上限について、特に限定はなく、たとえば20mm以下としてもよい。
【0027】
変形チューブは、通常、分離材の外周面の全体を覆う。ただし、本発明の効果が得られる限り、変形チューブは、分離材の外周面の実質的に全体を覆えばよい。たとえば、本発明の効果が得られる限り、分離材の最端部まで変形チューブによって被覆されていてもよいし、分離材の最端部の領域は被覆されていなくてもよい。
【0028】
熱収縮チューブは、ゴム状弾性を有さないチューブである。熱収縮チューブとしては、たとえば、フッソ樹脂やオレフィン樹脂からなるチューブが挙げられる。市販されている熱収縮チューブとしては、フッ素樹脂製のペンチューブ(ペンニットー株式会社製)などが挙げられる。分離対象物によっては、熱収縮チューブは耐薬品性が高い材料で形成されることが好ましい。
【0029】
本発明のカートリッジカラムでは、ガラス質多孔体と熱収縮チューブとが密着することによって固定されている。分離材は、変形チューブに対して、着脱不可能に固定されていてもよいが、通常は着脱可能に挿入される。
【0030】
1つの変形チューブの長さ(チューブの中心軸方向の長さ)は、通常1mm以上(たとえば2mm以上)であり、通常200mm以下(たとえば100mm以下)である。
【0031】
なお、1つの分離材の外周面を、複数の変形チューブで覆ってもよい。この場合、変形チューブに分離材を挿入することが容易になる。また、複数個の分離材が1つの変形チューブの中に配置されていてもよい。また、ハウジング内に、複数個の分離材と、複数個の変形チューブとが配置されてもよい。
【0032】
分離材のガラス質多孔体は、粉末状の分離媒体とは異なり、柱状の一体型(モノリス型)の分離媒体である。ガラス質多孔体の形状は、たとえば、円柱状(円盤状を含む)であり、典型的な形状は、断面形状が真円である円柱である。ただし、ガラス質多孔体は、断面形状が真円でなくともよく、また、端面が平面でなくてもよい。たとえば、端面が曲面であってもよい。また、本発明のガラス質多孔体の断面形状は、四角形の角を丸めることによって得られる円状の形状であってもよい。
【0033】
分離材のガラス質多孔体(実質的に無機多孔体であり、ガラスおよびガラスセラミクスなどを含む)には、ゾル−ゲル法を用いて形成されたガラス質多孔体、具体的には、ゾル−ゲル法を用いて得られる多孔性ゲルや、そのゲルを熱処理して得られる多孔体を用いることができる。たとえば、金属アルコキシド(たとえばアルコキシシラン)やハロゲン化金属を出発材料として公知のゾル−ゲル法によって形成されるガラス質多孔体を用いることができる。なお、分離材のガラス質多孔体は、有機基が結合した金属アルコキシドやハロゲン化金属を出発材料の1つとして形成される、有機成分を含むガラス質多孔体であってもよい。
【0034】
このガラス質多孔体は、分離能を高めるために、表面が修飾されていてもよい。たとえば、ガラス質多孔体の表面に、官能基または有機分子が結合していてもよい。また、ガラス質多孔体の表面に、官能基を備える有機分子が結合していてもよい。ガラス質多孔体の表面を修飾する官能基または有機分子は、求められる分離能に応じて選択される。それらには、分離材で用いられる公知のものを適用でき、たとえば、ヘキシル基やオクチル基やその他のアルキル基、オクタデシルシラン、オクタデシル基、フェニル基、トリメチルシリル基、シアノ基、アミノ基を適用できる。
【0035】
ガラス質多孔体の典型的な一例は、酸化ケイ素を主成分(50質量%以上)とする多孔体であり、たとえば多孔質シリカガラスである。ただし、酸化ケイ素以外の酸化物を含むガラス質多孔体(無機多孔体)や、酸化ケイ素以外の酸化物を主成分とするガラス質多孔体(無機多孔体)を用いてもよい。ゾル−ゲル法で形成されるモノリス型のゲル(ガラス質多孔体)は、多孔度や孔径の制御が比較的容易であり、分離能のばらつきが小さいという点で好ましい。
【0036】
分離材のガラス質多孔体には、市販されているガラス質多孔体を用いてもよい。また、ガラス質多孔体は、公知のゾル−ゲル法を用いて形成してもよい。たとえば、特開平6−265534号公報や特開平7−41374号公報に記載されている方法で形成してもよい。これらの方法によれば、円柱状の多孔質シリカガラス(多孔質シリカゲル)を形成することが可能である。
【0037】
分離材のガラス質多孔体には、孔径が比較的大きい貫通孔と、孔径が小さい細孔とが混在するものを用いてもよい。たとえば、特開平6−265534号公報に記載の製造方法で製造されるガラス質多孔体、具体的には、孔径が500nm〜数十μm(たとえば30μm)の多数の貫通孔と、孔径が5nm〜100nmの多数の細孔とが形成されたガラス質多孔体を用いてもよい。このガラス質多孔体の細孔の全容積は、たとえば0.001m3/kg〜0.01m3/kg(1m3/t〜10m3/t)の範囲である。
【0038】
ガラス質多孔体の分離能は、多孔体の孔の径や、多孔度、比表面積などによって変化する。そのため、求められる分離能に応じて、それらの値が制御される。それらの値は、多孔体の製造条件、特に、ゾル−ゲル法の条件を変更することによって制御できる。
【0039】
本発明では、ガラス質多孔体として、直径が1mm以上(たとえば1.6mm以上)であり、長さが2mm以上(たとえば20mm以上)であるものを用いてもよい。一例のガラス質多孔体は、直径が1.6mm〜300mmの範囲にあり、長さが2mm〜200mmの範囲にある。
【0040】
ハウジングは、分離材および変形チューブが挿入されるホルダを含んでもよい。ホルダは、通常、円筒状である。
【0041】
ハウジングは、変形チューブとホルダとの間に配置される円筒状のスペーサをさらに含んでもよい。この場合スペーサは、2つの半円筒状部材に分離可能であってもよい。分離材の外径が、スペーサの内径とほぼ同じであるかまたは大きい場合には、分離材をスペーサ内に挿入することが難しいことがあり、特に、分離材が長い場合(たとえば、長さが2cm以上)に難しくなることが多い。そのような場合でも、分離可能なスペーサを用いることによって、分離材を、スペーサ内に簡単に配置できる。
【0042】
ハウジングは、変形チューブの2つの端面のそれぞれを押圧するように移動可能な2つの押圧部材をさらに含んでもよい。その押圧部材は、変形チューブの端面に対して回転することなく移動可能であってもよい。この場合、ハウジングは、押圧部材の回転を防止するための回転抑制手段を備えてもよい。回転抑制手段は、特に限定がなく、たとえば、溝およびそれに嵌合するリブを、押圧部材およびホルダ(またはスペーサ)に形成してもよい。また、凹部およびそれに嵌合する突起を、押圧部材およびホルダ(またはスペーサ)に形成してもよい。
【0043】
ハウジングは、変形チューブの2つの端面と外周面とを押圧しながら分離材および変形チューブを保持してもよい。この構成によれば、分離対象物が、ガラス質多孔体以外の部分を流れることを抑制できる。典型的な一例では、変形チューブの2つの端面は押圧部材で押圧され、変形チューブの外周面は、ホルダまたはスペーサで押圧される。
【0044】
ハウジングの材質に特に限定はなく、適度な強度を有する材料で形成できる。通常、ハウジングの構成部材(O−リングを除く)は、弾性を有さない物質(プラストマー)からなる。ハウジングの構成部材(O−リングを除く)は、たとえば、ロックウェル硬度(ASTMD785)、Rスケールで15以上の材料で形成してもよい。それらの材料としては、たとえば、ナイロン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマ(LCP)、ポリエステル、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、アクリル、ポリプロピレン(PP)、ABS樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素樹脂、シリコーン樹脂や、様々な充填剤を配合した樹脂が挙げられる。ハウジングの構成部材は、1種類の材料で形成されてもよいし、複数種の材料で形成されてもよい。また、ハウジングの構成部材(O−リングを除く)の一部または全部は、金属で形成されてもよい。なお、本発明の効果が得られる限り、ハウジングの構成部材は、弾性を有する材料で形成されてもよい。
【0045】
本発明のカートリッジカラムでは、ハウジング内において、変形チューブがその中心軸に沿った方向に圧縮されてもよい。中心軸に沿った方向に圧縮されたエラストマーチューブは、その内径が通常時よりも小さくなり、その外径が通常時よりも大きくなる。その結果、変形チューブと分離材との密着性が高まる。ハウジング内において変形チューブの圧縮可能な長さは、通常時の変形チューブの長さの0.1%〜50%(たとえば1.5%〜25%)であってもよい。
【0046】
[カラムモジュール]
本発明のカラムモジュールは、加圧された流体を内部に満たすことが可能な容器と、その容器内に配置されるカートリッジカラムとを備える。そして、カートリッジカラムが、上述した本発明の第1または第2のカートリッジカラム、すなわち、変形チューブ(軟質チューブまたはエラストマーチューブ)を用いるカートリッジカラムである。そして、カートリッジカラムのハウジングは、上記流体の圧力が変形チューブに伝わるように構成されている。流体の圧力が変形チューブに伝わるようにハウジングが構成されていることを除き、カラムモジュールのカートリッジカラムの構成部材には、上述した本発明のカートリッジカラムの構成部材と同様の部材を適用できる。
【0047】
本発明のカラムモジュールでは、流体の圧力が変形チューブに伝わることによって、分離材の外周面が変形チューブの内周面によって押圧される。その結果、分離対象物が、ガラス質多孔体の外周面を流れることを抑制できる。
【0048】
加圧される流体は、気体であってもよいし液体であってもよいが、通常は液体(たとえば水)が用いられる。第1および第2のカートリッジカラムについては、上述したため、重複する説明を省略する。
【0049】
ハウジングが円筒状のホルダを含む場合、ホルダの側壁に、流体が通過可能な開口部が形成されていてもよい。この構成によれば、流体の圧力が、変形チューブに伝わる。同様に、ハウジングが円筒状のスペーサを含む場合、スペーサの側壁に、流体が通過可能な開口部が形成されていてもよい。
【0050】
[カートリッジカラムの例]
以下、本発明のカートリッジカラムの一例について説明する。本発明のカートリッジカラムで用いられる分離材の一例について、中心軸に沿った断面図を図1(a)に示し、図1(a)の線Ib−Ibにおける断面図を図1(b)に示す。
【0051】
図1(a)および(b)の分離材10は、円筒状のガラス質の多孔体11と、熱収縮チューブ12とによって構成されている。熱収縮チューブ12は、多孔体11の外周面のすべてを覆っている。分離材10は、多孔体11を収縮前のチューブに挿入したのち、チューブを熱収縮させることによって形成できる。収縮したチューブは、多孔体11の外周面に密着する。
【0052】
分離材10は、円筒状の変形チューブ21に挿入される。変形チューブ21によって外周面が覆われた分離材10の一例の断面図を、図2(a)に示す。また、図2(a)の線IIb−IIbにおける断面図を図2(b)に示す。分離材10および変形チューブ21を用いたカートリッジカラムの一例について、分解斜視図を図3に示す。
【0053】
図3のカートリッジカラム20は、分離材10と、変形チューブ21と、ハウジング30とによって構成されている。分離材10は、変形チューブ21に挿入される。
【0054】
ハウジング30は、円筒状のスペーサ31と、円筒状のホルダ32と、2つのO−リング33と、2つのキャップ34と、2つのエンドキャップ35とを含む。変形チューブ21はスペーサ31に挿入され、スペーサ31はホルダ32に挿入される。O−リング33は、キャップ34の端面の凹部に嵌め込まれる。O−リング33は、変形チューブ21の端面および/または分離材10の端面に密着する。なお、O−リング33と分離材10との間に、円盤状の薄いパッキンを配置してもよい。
【0055】
キャップ34は、ホルダ32の内部に挿入される円柱状の挿入部34bを備える。挿入部34bの端面には環状の溝が形成されており、この溝にO−リング33が配置される。
【0056】
ホルダ32の外周面にはネジ山が形成されている。エンドキャップ35には、キャップ34が配置される円柱状の凹部35aが形成されている。凹部35aの内周面にはネジ溝が形成されており、エンドキャップ35は、ホルダ32の端部にネジ止めされる。エンドキャップ35のネジ溝がホルダ32のネジ山に締め込まれることによって、キャップ34が、ホルダ32の端部に嵌め込まれる。このようにして、O−リング33およびキャップ34は、変形チューブ21の端面を押圧する。すなわち、O−リング33およびキャップ34は、押圧部材として機能する。
【0057】
キャップ34には切り欠き部34aが形成されている。また、ホルダ32の端面には、切り欠き部34aと嵌合する凸部32aが形成されている。切り欠き部34aおよび凸部32aは、O−リング33およびキャップ34が移動する際に、それらが変形チューブ21に対して回転することを抑制する。このようにして、O−リング33およびキャップ34が変形チューブ21の端面を押圧する際に、変形チューブ21がねじれることが抑制される。その結果、変形チューブ21のねじれによるリークや、分離材10(多孔体11)の破損を防止できる。
【0058】
キャップ34には、分離対象物が導入される導入口34cが形成されている。また、エンドキャップ35には、分離対象物を導入口34cに導入するための貫通孔35bが形成されている。分離対象物は、貫通孔35bおよび導入口34cを通り、分離材10のガラス質多孔体11に導かれる。多孔体11を通過した分離対象物は、他方の導入口34cおよび貫通孔35bを通り、カートリッジカラム20の外部にでる。
【0059】
ホルダ32の内径は、スペーサ31の外径とほぼ同じかやや大きいことが好ましい。スペーサ31の内径は、外圧が加わっていない状態における変形チューブ21の外径とほぼ同じかそれよりも小さいことが好ましい。スペーサ31の内径が変形チューブ21の外径よりも小さい場合には、分離材10および変形チューブ21をスペーサ31に挿入することによって、変形チューブ21の外周面が、スペーサ31によって押圧される。
【0060】
通常、ハウジング30の構成部材のうちO−リング33以外の部材は、上述したように、弾性を有さない物質(プラストマー)からなる。
【0061】
スペーサ31は、長軸に沿って分割可能であってもよい。たとえば、スペーサ31は、2つの半円筒状の部分に分割可能であってもよい。分割可能なスペーサ31を用いる場合、スペーサ31の内径よりも外径が大きい変形チューブ21を、比較的容易にスペーサ31内に収納できる。
【0062】
本発明の効果が得られる限り、1つの部材の中に配置される他の部材の数は、1つであってもよいし、複数であってもよい。たとえば、1つの分離材10の外周面を、複数の変形チューブ21で覆ってもよい。また、複数の分離材10の外周面を、1つの変形チューブ21で覆ってもよい。また、スペーサ31内に、複数の分離材10を配置してもよいし、複数の変形チューブ21を配置してもよい。また、1つのホルダ32内に、複数のスペーサ31を配置してもよい。
【0063】
また、スペーサ31を省略することも可能である。この場合、ホルダ32の内径は、変形チューブ21の外径とほぼ同じかそれよりも小さいことが好ましい。この場合のホルダ32の内径と、変形チューブ21の外径との関係は、スペーサの内径と変形チューブの外径とについて上述した関係と同様である。
【0064】
また、ホルダ32は、長軸に沿って分割可能であってもよい。そのようなホルダの例を図4(a)および(b)に示す。図4(a)のホルダ41は、半円筒状のホルダ42と半円筒状のホルダ43とからなる。ホルダ42は、鉤状の部分を備える突起42aを固定手段として含む。ホルダ43には、固定手段として孔43aが形成されており、孔43aは突起42aを保持する。突起42aが孔43aに保持されることによって、ホルダ42とホルダ43とが互いに固定され、円筒状のホルダ41となる。ホルダ41の外周面には、ネジ山が形成されている。
【0065】
図4(b)のホルダ45は、半円筒状のホルダ46と半円筒状のホルダ47とからなる。ホルダ46は突起46aを固定手段として含む。ホルダ47には、固定手段として、突起46aに対応する孔47aが形成されている。突起46aが孔47aに挿入されてホルダ46とホルダ47とが固定される。図4(b)のホルダ46では、複数の突起46aが、中心軸に対して非対称に形成されている。このような構成によれば、誤った方向に組み立てることを防止できる。図4(c)に示されるように、ホルダ47の外周部の一部には、平坦な切り欠き部47aが形成されている。図示はされていないが、ホルダ46にも、同様の切り欠き部が形成されている。キャップを締めたり緩めたりする際に、この切り欠き部をスパナで保持することによってホルダを固定できる。
【0066】
[カラムモジュールの例]
以下、本発明のカラムモジュールの一例について説明する。本発明のカラムモジュールの斜視図を図5に示す。図5のカラムモジュール50は、容器51と、2つのキャップ52とを備える。キャップ52にはネジ山が形成されており、容器51には、そのネジ山に嵌合するネジ溝が形成されている。キャップ52をねじ込むことによって、キャップ52は容器51に固定される。
【0067】
容器51には、液体を注入するための注入口51aと、液体を排出するための排出口(図示せず)が形成されている。容器51の内部は中空となっており、注入口51aから液体を注入することによって、容器51内を所定の圧力に加圧することが可能である。なお、容器51は、容器51内の液体の圧力を示す圧力計を備えてもよい。
【0068】
容器51内には、本発明のカートリッジカラムが配置される。容器51内に配置されるカートリッジカラムの一例の分解斜視図を図6に示す。
【0069】
図6のカートリッジカラム60は、分離材10と、変形チューブ21と、ハウジング61とを備える。ハウジング61は、スペーサ62と、2つのO−リング33と、2つのエンドキャップ63とを備える。分離材10のすべての外周面は、3つの変形チューブ21によって覆われる。3つの変形チューブ21の外周には、3つのスペーサ62が配置される。なお、図6には、3つの変形チューブ21と3つのスペーサ62とが用いられる一例について示したが、それらの数に限定はなく、1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。
【0070】
容器51内において、カートリッジカラム60の2つのエンドキャップ63は、キャップ52によって固定される。容器51のネジ溝にキャップ52をねじ込むことによって、エンドキャップ63およびO−リング33が分離材10を押圧し、分離材10が固定される。その結果、キャップ52の貫通孔から導入される分離対象物は、リークすることなく分離材10に到達する。
【0071】
スペーサ62は、その外周面から内周面に到達する切り欠き部62aが形成された円筒状の形状を有する。スペーサ62の一端の外周部には、切り欠き部62bが形成されている。また、スペーサ62の他端の内周部には、切り欠き部62bに対応する切り欠き部62cが形成されている。これらの切り欠き部によって、隣接するスペーサ62同士が固定される。
【0072】
容器51内には、加圧された液体が充填される。スペーサ62には切り欠き部62aが形成されているため、液体の圧力は、変形チューブ21の外周面に加えられる。その結果、変形チューブ21の内周面が、分離材10の外周面を押圧する。したがって、分離対象物が、ガラス質多孔体11と熱収縮チューブ12との間をリークすることが抑制される。リークの抑制によって、精度および再現性の高い分離が実現される。
【0073】
なお、図6の例では、切り欠き部62aが形成されたスペーサを用いる場合を示したが、複数の貫通孔が形成された円筒状のスペーサを用いてもよい。
【0074】
本発明のカートリッジカラムおよびカラムモジュールで用いられるガラス質多孔体11のサイズに限定はない。ただし、本発明では、比較的大きいサイズのガラス質多孔体11を用いることが可能である。
【0075】
直径が比較的大きいガラス質多孔体11を用いる場合、1つの導入口から導入された分離対象物が、ガラス質多孔体11内を均一に分散しない場合がある。そのような場合には、多孔体11の端面のうち導入口側の端面に、分離対象物を分散させるためのディストリビュータを配置してもよい。そのようなディストリビュータの一例の上面図を図7(a)に示し、図7(a)の線VIIb−VIIbにおける端面図を図7(b)に示す。図7のディストリビュータ70は、円盤状の形状を有する。ディストリビュータ70の片面には、長さが異なる溝70aが放射状に形成されている。溝70aの端部には、貫通孔70bが形成されている。分離対象物は、溝70aの中央部に導入され、分散されて貫通孔70bから多孔体11に導入される。そのため、ディストリビュータ70を用いることによって、分離対象物を、より均一に多孔体11に導入できる。なお、ディストリビュータは、カラムモジュールに限らず、本発明の他のカートリッジカラムに適用してもよい。
【0076】
また、上記の例においてはハウジングの外形が円柱状である場合を示したが、ハウジングの外形は他の形状、たとえば角柱状などであってもよい。
【0077】
また、上記の例においては、スペーサ31が分割できないものである場合を示したが、スペーサ31は分割可能であってもよい。スペーサ31も、ホルダ41および45と同様に分割することが可能である。分割可能なスペーサの例を、図8(a)および(b)に示す。
【0078】
図8(a)のスペーサ81は、半円筒状の部材82および83からなる。部材82は突起82aを備える。部材83には、突起82aが保持される孔83aが形成されている。突起82aが孔83aに保持されることによって、円筒状のスペーサが形成される。
【0079】
図8(b)のスペーサ85は、半円筒状の部材86および87からなる。部材86は突起86aを備える。部材87には、突起86aが挿入される孔87aが形成されている。突起86aが孔87aに挿入されることによって、円筒状のスペーサが形成される。スペーサ85の場合、ホルダ45とは異なりネジ山が形成されていないため、突起86aおよび孔87aは、対称に形成されていてもよいし、非対称に形成されていてもよい。
【0080】
[実施例]
図3に示したカートリッジカラム20と類似の構造を有するカラムを用いて、分離能の評価を行った。用いたガラス質多孔体11のサイズは、直径が2.2mmで長さが50mmであった。熱収縮チューブ12には、ペンニットー株式会社製のフッ素チューブ(厚さ約0.4mm)を用いた。また、変形チューブ21には、内径が約2.6mm、外径が約6.7mm、長さが約5mmの、ソフトテフロン(軟質PTFE)製のチューブを、10個連ねて使用した。
【0081】
上記カートリッジカラムを用いて、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、アミルベンゼンおよびヘキシルベンゼンを含む試料の液体クロマトグラフィーを行った。測定結果を図9に示す。図9に示すように、各成分のピークは鋭く、精度のよい分離ができた。
【0082】
以上、本発明の実施形態について例を挙げて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の技術的思想に基づいて他の実施形態に適用できる。
【0083】
別の観点では、本発明は、ガラス質多孔体以外の円柱状の分離材を用いたカラムにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、クロマトグラフィーに適用できる。本発明のカートリッジカラムおよびカラムモジュールは、たとえば、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーおよび分離分析、ならびにそれらの装置に用いることができる。本発明のカートリッジカラムおよびカラムモジュールによれば、様々な物質、たとえばタンパク質やペプチドといった有機化合物を分離することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】(a)および(b)は、それぞれ、本発明で用いられる分離材の一例を示す断面図である。
【図2】(a)および(b)は、それぞれ、変形チューブ内に配置された分離材の一例を示す断面図である。
【図3】本発明のカートリッジカラムの一例を示す分解斜視図である。
【図4】本発明で用いられるホルダの例を示す斜視図である。
【図5】本発明のカラムモジュールの一例を示す斜視図である。
【図6】本発明のカラムモジュールで用いられるカートリッジカラムの一例を示す分解斜視図である。
【図7】本発明で用いられるディストリビュータの一例を示す(a)上面図および(b)端面図である。
【図8】本発明で用いられるスペーサの例を示す分解斜視図である。
【図9】本発明のカートリッジカラムを用いて行った液体クロマトグラフィーの結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0086】
10 分離材
11 多孔体
12 熱収縮チューブ
21 変形チューブ
20、60 カートリッジカラム
30、61 ハウジング
31、62、81、85 スペーサ
32、41、45 ホルダ
33 O−リング
34、52 キャップ
35、63 エンドキャップ
50 カラムモジュール
51 容器
51a 注入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状の分離材と、
前記分離材の外周面を覆うように配置されるチューブと、
前記分離材および前記チューブを保持するハウジングとを備え、
前記チューブの25℃における圧縮率が5%〜90%の範囲にあり、
前記分離材が、柱状のガラス質多孔体と前記ガラス質多孔体の外周面を覆う熱収縮チューブとを含むカートリッジカラム。
【請求項2】
前記チューブが、軟質ポリテトラフルオロエチレンからなる請求項1に記載のカートリッジカラム。
【請求項3】
柱状の分離材と、
前記分離材の外周面を覆うように配置されるチューブと、
前記分離材および前記チューブを保持するハウジングとを備え、
前記チューブがエラストマーチューブであり、
前記分離材が、柱状のガラス質多孔体と前記ガラス質多孔体の外周面を覆う熱収縮チューブとを含むカートリッジカラム。
【請求項4】
前記ハウジングは、前記分離材および前記チューブが挿入されるホルダを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のカートリッジカラム。
【請求項5】
前記ハウジングは、前記チューブと前記ホルダとの間に配置される円筒状のスペーサをさらに含む請求項4に記載のカートリッジカラム。
【請求項6】
前記スペーサは、2つの半円筒状部材に分離可能である請求項5に記載のカートリッジカラム。
【請求項7】
前記ハウジングは、前記チューブの2つの端面のそれぞれを押圧するように移動可能な2つの押圧部材をさらに含む請求項1〜6のいずれか1項に記載のカートリッジカラム。
【請求項8】
前記押圧部材は、前記チューブの端面に対して回転することなく移動可能である請求項7に記載のカートリッジカラム。
【請求項9】
前記ハウジングは、前記チューブの2つの端面と外周面とを押圧しながら前記分離材および前記チューブを保持する請求項1〜8のいずれか1項に記載のカートリッジカラム。
【請求項10】
加圧された流体を内部に満たすことが可能な容器と、前記容器内に配置されるカートリッジカラムとを備えるカラムモジュールであって、
前記カートリッジカラムが、請求項1に記載のカートリッジカラムであり、
前記カートリッジカラムの前記ハウジングが、前記流体の圧力が前記チューブに伝わるように構成されている、カラムモジュール。
【請求項11】
内部に流体を満たすことが可能な容器と、前記容器内に配置されるカートリッジカラムとを備えるカラムモジュールであって、
前記カートリッジカラムが、請求項3に記載のカートリッジカラムであり、
前記カートリッジカラムの前記ハウジングが、前記流体の圧力が前記チューブに伝わるように構成されている、カラムモジュール。
【請求項12】
前記ハウジングは円筒状のホルダを含み、
前記ホルダの側壁に、前記流体が通過可能な開口部が形成されている請求項10または11に記載のカラムモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−102077(P2008−102077A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286130(P2006−286130)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000108524)ヘラマンタイトン株式会社 (57)