説明

カーボンナノチューブを用いた記憶素子

【課題】カーボンナノチューブを用いて構造が簡単で且つ寸法の小さい不揮発性の記憶素子を実現する。
【解決手段】第1の電極13と第2の電極14との間に電場を発生させると、その電場に応答してカーボンナノチューブからなる電場応答素子11が直線的に伸長し、第2の電極14と接触する。その結果、両電極13、14が互いに導通する。この状態は、デジタル信号の「1」を表す状態に対応する。電場応答素子11は、一旦変形すると、電力供給を停止してもその状態を保つ。この状態は電場応答素子11と第2の電極14および絶縁層12との間のファンデルワールス力によって保たれる。第1の電極13と第2の電極14との間に逆向きの電場を発生させると、その電場に応答して電場応答素子11が縮長し、第2の電極14から離れる。この状態は、デジタル信号の「0」を表す状態に対応する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ(以下、CNTと記す。)の電場応答性を利用して記憶動作等を行う素子に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は、CNTを用いた従来の記憶素子の構造を例示する断面図である。図9に示すように、従来の記憶素子50は、基板51上に形成した二つの絶縁突起52、53にCNTからなる薄いリボン状の電場応答素子(不織布のような物)54を掛け渡して設けるとともに、電場応答素子54の一方の端部に第1の電極55を設け、絶縁突起52、53間に第2の電極56を設けてなる(特許文献1参照)。
【0003】
図10は、図9に示す従来の記憶素子の動作説明図である。第1の電極55と第2の電極56との間の電位差が0の時(あるいは所定の電位差に達していない時)は、図10(a)に示すように、電場応答素子54が撓み無く張った状態(あるいは撓みが小さい状態)になっている。この状態では、電場応答素子54が第2の電極56に接触していないため、両電極55、56は導通しない。この状態は、デジタル信号の「0」を表す状態に対応する。一方、第1の電極55と第2の電極56との間の電位差が所定の電位差に達した時は、図10(b)に示すように、電場応答素子54が両電極55、56間の電場に応答して伸長し、第2の電極56側に大きく撓むため、電場応答素子54が第2の電極56に接触した状態になる。その結果、両電極55、56が互いに導通する。この状態は、デジタル信号の「1」を表す状態に対応する。電場応答素子54は、一旦変形すると、電力供給を停止してもその状態を保つ。この状態は電場応答素子54と第2の電極56との間のファンデルワールス力によって保たれる。そして、両電極55、56の極性を反転させて、逆向きの電場を加えると、電場応答素子54は以前の状態すなわち図10(a)の状態に戻る。
【0004】
このように、図9に示す従来の記憶素子50は、第1の電極54と第2の電極54との間に発生させる電場によって状態(0,1)を切り替えることができ、しかもその状態を電力供給を停止後も保持できる。したがって、この記憶素子は、不揮発性のメモリーとなる。
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/041466号明細書(US2005041466)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、図9に示した従来の記憶素子50は、基板51上に形成した二つの絶縁突起52、53に電場応答素子54を掛け渡して設け、電場応答素子54の基板51側への撓み変形を利用して状態(0,1)の切り替えを行うため、基板51に対して垂直な方向における素子の寸法(厚さ、高さ)を小さくすることが困難である。すなわち、従来の記憶素子50では、基板51に対して垂直な方向における電場応答素子54の撓みを許容し得る空間を素子内に確保する必要がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、構造が簡単で且つ素子の厚さを上述した従来の素子よりも小さくすることが可能な記憶素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解消するために、本発明の記憶素子は、電場応答素子と、絶縁層と、第1の電極と、第2の電極と、を備え、前記電場応答素子は電場に応答して前記絶縁層の表面に沿って直線的に伸縮するCNTからなる電場応答素子であり、前記電場応答素子の一端(伸縮する方向における一方の端部)は前記絶縁層に対して固定されており、前記電場応答素子の他端(伸縮する方向におけるもう一方の端部)は自由に変位でき、前記絶縁層の表面は平坦であり、前記第1の電極は前記一端に接続されており、前記第2の電極は前記電場応答素子が伸長したときに前記他端と接触する位置に固定して設けられている。
【0009】
前記第1の電極と前記第2の電極との間に電場を発生させると、その電場に応答して前記電場応答素子が伸長(湾曲せず、直線的に伸長)し、前記他端が前記第2の電極と接触する。その結果、両電極が互いに導通する。この状態は、デジタル信号の「1」(あるいは「0」)を表す状態に対応する。電場応答素子は、一旦変形すると、電力供給を停止してもその状態を保つ。この状態は電場応答素子と第2の電極および絶縁層との間のファンデルワールス力によって保たれる。そして、前記第1の電極と前記第2の電極との間に逆向きの電場を発生させると、その電場に応答して前記電場応答素子が縮長し、前記他端が前記第2の電極から離れる。この状態は、デジタル信号の「0」(あるいは「1」)を表す状態に対応する。
【0010】
前記電場応答素子は、複数のCNTからなり、当該複数のCNTの大部分が前記電場応答素子の伸縮方向に配向していることが望ましい。電場応答素子を構成するCNTの大部分が電場応答素子の伸縮方向に配向していることにより、電場応答素子の電場応答性が良好(高速、高利得)となるので、記憶素子の状態(0,1)切り替え動作を高速且つ安定に行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の記憶素子は、電場による電場応答素子の直線的な伸縮変形を利用して状態(0,1)の切り替えを行うため、電場応答素子の撓み変形を利用する従来の記憶素子と比較して構造が簡単である。また、本発明の記憶素子は、電場応答素子の撓みを許容し得る空間を素子内に確保する必要がないため、従来の記憶素子と比較して素子の厚さを小さくすることが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明の記憶素子の形態例を概念的に示す断面図である。
【0014】
図1に示す記憶素子10は、電場応答素子11と、絶縁層12と、第1の電極13と、第2の電極14と、を備えている。
【0015】
電場応答素子11は、電場に応答して伸縮する。
電場応答素子11は、絶縁層12の表面に沿って伸縮する。
電場応答素子11は、複数のカーボンナノチューブからなる。
電場応答素子11を構成しているカーボンナノチューブの大部分は電場応答素子11の伸縮方向に配向している。
電場応答素子11の一端(伸縮する方向における一方の端部)11aは絶縁層12に対して固定されている。
電場応答素子11の他端(伸縮する方向におけるもう一方の端部)11bは自由に変位できる。
絶縁層12は、基板(たとえばシリコン基板)15上に形成されている。
絶縁層12の表面は平坦である。
第1の電極13および第2の電極14は、絶縁層12内に埋設して形成されている。
第1の電極13と第2の電極14は、絶縁層12によって互いに絶縁されている。
第1の電極13は、電場応答素子11の一端11aに接続されている。
第2の電極14は、電場応答素子11が伸長したときに電場応答素子11の他端11bと接触する位置に設けられている。
記憶素子10は、第1の電極13と第2の電極14との間に必要な電位差を発生させるための回路(図2中に、その簡単な回路図が示されている。)を備えている。
【0016】
図2は、図1に示す記憶素子1の動作説明図である。
【0017】
第1の電極13と第2の電極14との間の電位差が0ボルトの時(あるいは所定の電位差に達していない時)は、図2(a)に示すように、電場応答素子2が縮長した状態(初期状態)になっている。この状態では、電場応答素子11が第2の電極14に接触していないため、両電極13、14は導通しない。この状態は、デジタル信号の「0」を表す状態に対応する。
【0018】
一方、第1の電極13と第2の電極14との間の電位差が所定の電位差に達した時は、図2(b)に示すように、電場応答素子11が両電極13、14間の電場に応答して伸長し、電場応答素子11が第2の電極14に接触した状態になる。その結果、両電極13、14が互いに導通する。この状態は、デジタル信号の「1」を表す状態に対応する。電場応答素子11は、一旦変形(伸長)すると、電力供給を停止してもその状態を保つ。この状態は電場応答素子11と第2の電極14および絶縁層12との間のファンデルワールス力によって保たれる。そして、両電極13、14の極性を反転させて、逆向きの電場を加えると、電場応答素子11は初期状態すなわち図2(a)の状態に戻る。
【0019】
このように、この記憶素子10は、第1の電極13と第2の電極14との間に発生させる電場によって状態(0,1)を切り替えることができ、しかもその状態を電力供給を停止後も保持できる。したがって、この記憶素子10は、不揮発性のメモリーとなる。
【0020】
しかも、この記憶素子10は、電場による電場応答素子11の直線的な伸縮変形を利用して状態(0,1)の切り替えを行うため、電場応答素子11の撓み変形を利用する従来の記憶素子と比較して構造が簡単であり(絶縁突起52、53が不要!)、基板15に対して垂直な方向における素子の寸法(厚さ、高さ)を小さくすることが容易である。つまり、この記憶素子10は、電場応答素子11の撓みを許容し得る空間を素子内に確保する必要がないため、従来の記憶素子と比較して素子の厚さを小さくすることが容易である。
【0021】
また、この記憶素子10は、電場応答素子11を構成するCNTの大部分が電場応答素子11の伸縮方向に配向していることにより、電場応答素子11の電場応答性が良好(高速、高利得)となるので、記憶素子1の状態(0,1)切り替え動作を高速且つ安定に行うことができる。
【0022】
図3は、本発明の記憶素子の別の形態例を概念的に示す断面図である。
【0023】
図3に示す記憶素子20は、電場応答素子21と、絶縁層22と、第1の電極23と、第2の電極24と、を備えている。
【0024】
電場応答素子21は、電場に応答して伸縮する。
電場応答素子21は、絶縁層22の表面に沿って伸縮する。
電場応答素子21は、複数のカーボンナノチューブからなる。
電場応答素子21を構成しているカーボンナノチューブの大部分は電場応答素子21の伸縮方向に配向している。
電場応答素子21の一端(伸縮する方向における一方の端部)21aは絶縁層22に対して固定されている。
電場応答素子21の他端(伸縮する方向におけるもう一方の端部)21bは自由に変位できる。
絶縁層22は、基板(たとえばシリコン基板)25上に形成されている。
絶縁層22の表面は平坦である。
第1の電極23および第2の電極24は、絶縁層22上に形成されている。
第1の電極23と第2の電極24は、絶縁層22によって互いに絶縁されている。
第1の電極23は、電場応答素子21の一端21aに接続されている。
第2の電極24は、電場応答素子21が伸長したときに電場応答素子21の他端21bと接触する位置に設けられている。
記憶素子20は、第1の電極23と第2の電極24との間に必要な電位差を発生させるための回路(図4中に、その簡単な回路図が示されている。)を備えている。
【0025】
図4は、図3に示す記憶素子1の動作説明図である。
【0026】
第1の電極23と第2の電極24との間の電位差が0ボルトの時(あるいは所定の電位差に達していない時)は、図4(a)に示すように、電場応答素子21が縮長した状態(初期状態)になっている。この状態では、電場応答素子21が第2の電極24に接触していないため、両電極23、24は導通しない。この状態は、デジタル信号の「0」を表す状態に対応する。
【0027】
一方、第1の電極23と第2の電極24との間の電位差が所定の電位差に達した時は、図4(b)に示すように、電場応答素子21が両電極23、24間の電場に応答して伸長し、電場応答素子21が第2の電極24に接触した状態になる。その結果、両電極23、24が互いに導通する。この状態は、デジタル信号の「1」を表す状態に対応する。電場応答素子21は、一旦変形(伸長)すると、電力供給を停止してもその状態を保つ。この状態は電場応答素子21と第2の電極24および絶縁層22との間のファンデルワールス力(主として絶縁層22との間のファンデルワールス力)によって保たれる。そして、両電極23、24の極性を反転させて、逆向きの電場を加えると、電場応答素子21は初期の状態すなわち図4(a)の状態に戻る。
【0028】
このように、この記憶素子1は、第1の電極23と第2の電極24との間に発生させる電場によって状態(0,1)を切り替えることができ、しかもその状態を電力供給を停止後も保持できる。したがって、この記憶素子20は、不揮発性のメモリーとなる。
【0029】
しかも、この記憶素子20は、電場による電場応答素子21の直線的な伸縮変形を利用して状態(0,1)の切り替えを行うため、電場応答素子21の撓み変形を利用する従来の記憶素子と比較して構造が簡単であり(絶縁突起52、53が不要!)、基板25に対して垂直な方向における素子の寸法(厚さ、高さ)を小さくすることが容易である。つまり、この記憶素子20は、電場応答素子21の撓みを許容し得る空間を素子内に確保する必要がないため、従来の記憶素子と比較して素子の厚さを小さくすることが容易である。
【0030】
また、この記憶素子20は、電場応答素子21を構成するCNTの大部分が電場応答素子21の伸縮方向に配向していることにより、電場応答素子21の電場応答性が良好(高速、高利得)となるので、記憶素子20の状態(0,1)切り替え動作を高速且つ安定に行うことができる。
[別の形態例1]
図9に示した従来の記憶素子50は、基板51上に形成した二つの絶縁突起52、53に電場応答素子54を掛け渡して設け、電場による電場応答素子54の基板51と垂直な方向への撓み変形を利用して状態(0,1)の切り替えを行うため、構造が複雑であり、基板51と平行な方向における素子寸法を小さくすることが困難である。
【0031】
本発明が解決しようとする課題は、構造が簡単で且つ基板(基板面)と平行な方向における素子寸法を上述した従来の素子よりも小さくすることが可能な記憶素子を提供することにある。
【0032】
図5は、本発明の記憶素子の別の形態例を概念的に示す断面図である。
【0033】
図5に示す記憶素子30は、電場応答素子31と、絶縁層32と、第1の電極33と、第2の電極34と、を備えている。
【0034】
電場応答素子31は、電場に応答して伸縮する。
電場応答素子31は、絶縁層32の表面に対して垂直に立てて設けられている。
電場応答素子31は、複数のカーボンナノチューブからなる。
電場応答素子31を構成しているカーボンナノチューブの大部分は電場応答素子31の伸縮方向に配向している。
電場応答素子31の一端(伸縮する方向における一方の端部)31aは絶縁層32に対して固定されている。
電場応答素子31の他端(伸縮する方向におけるもう一方の端部)31bは自由に変位できる。
絶縁層32は、基板(たとえばシリコン基板)35上に形成されている。
第1の電極33は、電場応答素子31の一端31aに接続されている。
第1の電極33は、絶縁層32の表層部に埋設して設けられている。
電場応答素子31は、第1の電極33の表面に立設されている。
第2の電極34は、電場応答素子31の先端部(他端31b)に隣接させて設けられている。
第2の電極34は、絶縁層32と一体的に形成された絶縁突起上に形成されている。
記憶素子30は、第1の電極33と第2の電極34との間に必要な電位差を発生させるための回路(図6中に、その簡単な回路図が示されている。)を備えている。
【0035】
図6は、図5に示す記憶素子30の動作説明図である。
【0036】
第1の電極33と第2の電極34との間の電位差が0ボルトの時(あるいは所定の電位差に達していない時)は、図6(a)に示すように、電場応答素子31が直立した状態(初期状態、縮長した状態)になっている。この状態では、電場応答素子31が第2の電極34に接触していないため、両電極33、34は導通しない。この状態は、デジタル信号の「0」を表す状態に対応する。
【0037】
一方、第1の電極33と第2の電極34との間の電位差が所定の電位差に達した時は、図6(b)に示すように、電場応答素子31が両電極33、34間の電場に応答して伸長するとともに、電場応答素子31の先端側(他端31b側)が第2の電極34側に湾曲するため、電場応答素子31が第2の電極34に接触した状態になる。その結果、両電極33、34が互いに導通する。この状態は、デジタル信号の「1」を表す状態に対応する。電場応答素子31は、一旦変形(伸長)すると、電力供給を停止してもその状態を保つ。この状態は電場応答素子31と第2の電極34との間のファンデルワールス力によって保たれる。そして、両電極33、34の極性を反転させて、逆向きの電場を加えると、電場応答素子31は初期の状態すなわち図6(a)の状態に戻る。
【0038】
このように、この記憶素子30は、第1の電極33と第2の電極34との間に発生させる電場によって状態(0,1)を切り替えることができ、しかもその状態を電力供給を停止後も保持できる。したがって、この記憶素子30は、不揮発性のメモリーとなる。
【0039】
しかも、この記憶素子30は、基板26に対して略垂直に立てた状態で設けられた電場応答素子31の基板35と平行な方向への撓み(傾倒)を利用して状態(0,1)の切り替えを行うため、二つの絶縁突起52、53(図9参照)に掛け渡した電場応答素子の基板面と垂直な方向への撓みを利用する従来の記憶素子と比較して、構造を簡単にできるとともに、基板面と平行な方向における素子寸法を小さくできる。この構成により、記憶素子の集積度を格段と向上させることができる。
【0040】
また、この記憶素子30は、電場応答素子31を構成するCNTの大部分が電場応答素子31の伸縮方向に配向していることにより、電場応答素子31の電場応答性が良好(高速、高利得)となるので、記憶素子30の状態(0,1)切り替え動作を高速且つ安定に行うことができる。
[別の形態例2]
図7は、本発明の記憶素子の更に別の形態例を概念的に示す断面図である。
【0041】
図7に示す記憶素子40は、電場応答素子41と、絶縁層42と、第1の電極43と、第2の電極44と、第3の電極45と、を備えている。
【0042】
電場応答素子41は、電場に応答して伸縮する。
電場応答素子41は、第2の電極44側に湾曲変形可能である。
電場応答素子41は、第3の電極45側に湾曲変形可能である。
電場応答素子41は、絶縁層42の表面に対して略垂直に立てて設けられている。
電場応答素子41は、複数のカーボンナノチューブからなる。
電場応答素子41を構成しているカーボンナノチューブの大部分は電場応答素子41の伸縮方向に配向している。
電場応答素子41の一端(伸縮する方向における一方の端部)41aは絶縁層42に対して固定されている。
電場応答素子41の他端(伸縮する方向におけるもう一方の端部)41bは自由に変位できる。
絶縁層42は、基板(たとえばシリコン基板)46上に形成されている。
第1の電極43は、電場応答素子41の一端41aに接続されている。
第1の電極43は、絶縁層32の表層部に埋設して設けられている。
電場応答素子41は、第1の電極43の表面に立設されている。
第2の電極44は、電場応答素子41の先端部(他端41b)に隣接させて設けられている。
第3の電極45は、電場応答素子41の先端部(他端41b)に隣接させて設けられている。
第2の電極44は、電場応答素子41が湾曲変形する一方の側に、電場応答素子41から所定の距離を隔てて設けられている。
第3の電極45は、電場応答素子41が湾曲変形する他方の側に、電場応答素子41から所定の距離を隔てて設けられている。
第2の電極44と第3の電極45は、電場応答素子41に関して対象となる位置にそれぞれ配置されている。
第2の電極44と第3の電極45は、絶縁層42と一体的に形成された絶縁突起上に形成されている。
記憶素子40は、第1の電極43と第2の電極44との間および第1の電極43と第3の電極45との間に必要な電位差を発生させるための回路(図8中に、その簡単な回路図が示されている。)を備えている。
【0043】
図8は、図7に示す記憶素子40の動作説明図である。
【0044】
第1の電極43と第2の電極44との間の電位差が0ボルト(あるいは所定の電位差未満)であり且つ第1の電極43と第3の電極45との間の電位差が0ボルト(あるいは所定の電位差未満)である時は、図8(a)に示すように、電場応答素子41が直立した状態(初期状態、縮長した状態)になっている。この状態では、電場応答素子41が第2の電極44に接触していないため、両電極43、44は導通しない。この状態は、デジタル信号の「0」を表す状態に対応する。
【0045】
第1の電極43と第2の電極44との間の電位差が所定の電位差以上であり且つ第1の電極43と第3の電極45との間の電位差が0ボルト(あるいは所定の電位差未満)である時は、図8(b)に示すように、電場応答素子41が第1の電極43と第2の電極44との間の電場に応答して伸長するとともに、電場応答素子41の先端側(他端32b側)が第2の電極44側に湾曲するため、電場応答素子41が第2の電極44に接触した状態になる。その結果、第1の電極43と第2の電極44が互いに導通する。この状態は、デジタル信号の「1」を表す状態に対応する。電場応答素子41は、一旦変形(伸長)すると、電力供給を停止してもその状態を保つ。この状態は電場応答素子41と第2の電極44との間のファンデルワールス力によって保たれる。そして、両電極43、44の極性を反転させて、逆向きの電場を加えると、電場応答素子41は初期の状態すなわち図8(a)の状態に戻る。
【0046】
第1の電極43と第2の電極44との間の電位差が0ボルト(あるいは所定の電位差未満)であり且つ第1の電極43と第3の電極45との間の電位差が所定の電位差以上である時は、図8(c)に示すように、電場応答素子41が第1の電極43と第3の電極45との間の電場に応答して伸長するとともに、電場応答素子41の先端側(他端32b側)が第3の電極45側に湾曲するため、電場応答素子41が第3の電極45に接触した状態になる。その結果、第1の電極43と第3の電極45が互いに導通する。この状態は、デジタル信号の第3の値(「1」でも[0]でもない値)を表す状態(「x」)に対応する。電場応答素子41は、一旦変形(伸長)すると、電力供給を停止してもその状態を保つ。この状態は電場応答素子41と第3の電極45との間のファンデルワールス力によって保たれる。そして、両電極44、45の極性を反転させて、逆向きの電場を加えると、電場応答素子41は初期の状態すなわち図8(a)の状態に戻る。
【0047】
このように、この記憶素子40は、第1の電極43と第2の電極44との間および第1の電極43と第3の電極45に発生させる電場によって3つの状態(0,1,x)を切り替えることができ、しかもその状態を電力供給を停止後も保持できる。したがって、この記憶素子40は、不揮発性の3状態メモリー(three-state memory)となる。すなわち、x=−1とすれは、「−1」、「0」、「1」の3つの値を保持し得る3状態メモリーが実現される。
【0048】
しかも、この記憶素子40は、基板46に対して略垂直に立てた状態で設けられた電場応答素子41の基板46と平行な方向への撓み(傾倒)を利用して状態(0,1、x)の切り替えを行うため、二つの絶縁突起52、53(図9参照)に掛け渡した電場応答素子の基板面と垂直な方向への撓みを利用する従来の記憶素子と比較して、構造を簡単にできるとともに、基板面と平行な方向における素子寸法を小さくできる。この構成により、記憶素子の集積度を格段と向上させることができる。
【0049】
また、この記憶素子40は、電場応答素子41を構成するCNTの大部分が電場応答素子41の伸縮方向に配向していることにより、電場応答素子41の電場応答性が良好(高速、高利得)となるので、記憶素子40の三つの状態(0,1、x)の切り替え動作を高速且つ安定に行うことができる。
【0050】
なお、上記の動作説明では、記憶素子40を3状態メモリーとして動作させる場合について説明したが、記憶素子40を2状態メモリーとして動作させることも勿論可能である。
【0051】
記憶素子40を2状態メモリーとして動作させる場合、記憶素子40を第1の状態(図8(a)の状態)から第2の状態(図8(b)の状態)に確実に切り替えるための補助電極として第3の電極45を用いることができる。
【0052】
また、図8(b)の状態を第1の状態(すなわち「0」を表す状態)とし、図8(c)の状態を第2の状態(すなわち「1」を表す状態)とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の記憶素子の形態例を概念的に示す断面図
【図2】図1に示す記憶素子の動作説明図
【図3】本発明の記憶素子の形態例を概念的に示す断面図
【図4】図3に示す記憶素子の動作説明図
【図5】本発明の記憶素子の形態例を概念的に示す断面図
【図6】図5に示す記憶素子の動作説明図
【図7】本発明の記憶素子の形態例を概念的に示す断面図
【図8】図7に示す記憶素子の動作説明図
【図9】従来の記憶素子の構造を概念的に示す断面図
【図10】図9に示す従来の記憶素子の動作説明図
【符号の説明】
【0054】
10 記憶素子
11 電場応答素子
12 絶縁層
13 第1の電極
14 第2の電極
20 記憶素子
21 電場応答素子
22 絶縁層
23 第1の電極
24 第2の電極
30 記憶素子
31 電場応答素子
32 絶縁層
33 第1の電極
34 第2の電極
40 記憶素子
41 電場応答素子
42 絶縁層
43 第1の電極
44 第2の電極
45 第3の電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電場応答素子と、絶縁層と、第1の電極と、第2の電極と、を備えた記憶素子。
前記電場応答素子は、電場に応答して伸縮する。
前記電場応答素子は、前記絶縁層の表面に沿って直線的に伸縮する。
前記電場応答素子は、カーボンナノチューブからなる。
前記電場応答素子の一端は前記絶縁層に対して固定されている。
前記電場応答素子の他端は自由に変位できる。
前記絶縁層の表面は平坦である。
前記第1の電極は、前記一端に接続されている。
前記第1の電極は、前記絶縁層によって前記第2の電極と絶縁されている。
前記第2の電極は、前記電場応答素子が伸長したときに前記他端と接触する位置に設けられている。
前記第1の電極と前記第2の電極との間に電場を発生させると、その電場に応答して前記電場応答素子が伸長し、前記他端が前記第2の電極と接触する。
前記第1の電極と前記第2の電極との間に逆向きの電場を発生させると、その電場に応答して前記電場応答素子が縮長し、前記他端が前記第2の電極から離れる。
【請求項2】
前記電場応答素子は、複数のカーボンナノチューブからなり、当該複数のカーボンナノチューブの大部分が前記電場応答素子の伸縮方向に配向している、請求項1の記憶素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−92746(P2006−92746A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2005−371606(P2005−371606)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(393009909)