説明

カーボンブラック用原料油の製造方法

【解決課題】簡便な方法で安価かつ大量に高品質なカーボンブラック用原料油を製造する方法を提供する。
【解決手段】70℃における粘度が300mPa・s以下であるコールタール残渣油を含むコールタール残渣油含有液100質量部に対し、石油系重質油または石油系分解残油を10〜50質量部混合して混合油を作製した後、該混合油中に生成した凝集物を遠心分離除去して、キノリン不溶分の含有割合が0.5〜2質量%であるカーボンブラック用原料油を作製することを特徴とするカーボンブラック用原料油の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラック用原料油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、塗料やインクの黒色顔料や、タイヤ等のゴム製品の補強材等として工業的に広く利用されている。
上記カーボンブラックを製造する方法としては、ファーネス法、チャンネル法、アセチレン法、サーマル法等が知られており、現在では、原料油を高温ガス中で不完全燃焼させてカーボンブラックを得るファーネス法、すなわちオイルファーネス法が主流になっている。
【0003】
オイルファーネス法で用いられる原料油としては、従来より、コールタールを分留して得られる重質油留分(クレオソート油、アントラセン油)等の石炭系重質油の他、ナフサを分解して得られる残渣油(エチレンボトム油)や、石油精製工程において流動接触分解(Fluid Catalytic Cracking)により得られる残渣油(FCC残渣油)等の石油系の重質油が知られており、これ等を単独または混合したものが使用されてきた。
【0004】
しかしながら、タール蒸留工業や石油化学工業の操業状況によって、原料油の供給量や価格が影響されるため、原料を安定確保し難く、特に石油系の重質油はその供給量や価格が原油価格等に左右され易いことから、安定的に確保し難い状況にある。
このため、カーボンブラック用原料油として、コールタールの分留時に残渣として生成する、芳香族成分を多量に含むコールタール残渣油を使用することが試みられてきた。
【0005】
コールタール残渣油をカーボンブラックの原料油として使用する場合、コールタール残渣油中に含まれるキノリン不溶分(以下QIと示す)が、カーボンブラックの製造時にコークスグリッドと呼ばれるコークス粒子を異物として生成し、カーボンブラック中に残存することが知られている。このコークスグリッドは、硬い微小粒子状であることから、カーボンブラックをゴム等に配合した際に、表面荒れや機械的強度の低下等を生じ製品特性を低下させる場合がある。
【0006】
このため、コールタール残渣油に灯油を加え、溶剤抽出法によって予めQIを除去する方法が知られている(特許文献1参照)が、特許文献1記載の方法においては煩雑な処理を必要とすることから、簡便な方法で安価かつ大量に高品質なカーボンブラック用原料油を製造することが困難であるという技術課題が存在していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭59−29631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況下、本発明は、簡便な方法で安価かつ大量に高品質なカーボンブラック用原料油を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記従来技術における課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、コールタール残渣油中に含まれるQIの多くは、カーボンブラックの製造時にそのままコークスグリットになるわけではなく、コールタール残渣油中に含まれる一部の重質成分がバインダーとして作用してQIを凝集させる結果、得られる凝集体がコークスグリットになることを見出した。
また、本発明者は、上記コールタール残渣油中のQIと重質成分との凝集反応が、コールタール残渣油に対して石油系重質油または石油系分解残油を添加することによって促進されることを見出し、特定のコールタール残渣油中に予め石油系重質油または石油系分解残油を添加してQIと重質成分との凝集反応を促進させた後、生成した凝集物を遠心分離法で除去することにより、カーボンブラック中におけるコークスグリッドの生成を抑制し得ることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)70℃における粘度が300mPa・s以下であるコールタール残渣油を含むコールタール残渣油含有液100質量部に対し、石油系重質油または石油系分解残油を10〜50質量部混合して混合油を作製した後、該混合油中に生成した凝集物を遠心分離除去して、キノリン不溶分の含有割合が0.5〜2質量%であるカーボンブラック用原料油を作製することを特徴とするカーボンブラック用原料油の製造方法、
(2)前記コールタール残渣油含有液が、コールタール残渣油とともに、コールタールを分留して得られる重質油またはピッチコークスを製造する際に副生する重質油を合計で0質量%を超え50質量%以下含むものである上記(1)に記載のカーボンブラック用原料油の製造方法、
(3)前記石油系重質油がA重油またはC重油である上記(1)または(2)に記載のカーボンブラック用原料油の製造方法、および
(4)前記石油系分解残油がエチレンボトム油またはFCC残渣油である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のカーボンブラック用原料油の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、特定の粘度を有するコールタール残渣油に対し、石油系重質油または石油系分解残油を所定量加え、予め凝集物を生成させた後、生成した凝集物を遠心分離除去することにより、簡便な方法で安価かつ大量に高品質なカーボンブラック用原料油を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例で用いた、カーボンブラック製造用反応炉を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のカーボンブラック用原料油の製造方法は、70℃における粘度が300mPa・s以下であるコールタール残渣油を含むコールタール残渣油含有液100質量部に対し、石油系重質油または石油系分解残油を10〜50質量部混合して混合油を作製した後、該混合油中に生成した凝集物を遠心分離除去して、キノリン不溶分の含有割合が0.5〜2質量%であるカーボンブラック用原料油を作製することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の製造方法においては、70℃における粘度が300mPa・s以下のコールタール残渣油を含むコールタール残渣油含有液が用いられる。
本出願書類において、コールタール残渣油含有液は、70℃における粘度が300mPa・s以下のコールタール残渣油を必須成分として含むものを意味し、コールタール残渣油含有液としては、上記コールタール残渣油単独またはコールタール残渣油に対し他の重質油等を加えたものが挙げられる。
【0015】
本発明の製造方法において、コールタール残渣油は、70℃における粘度が300mPa・s以下であるものであり、280mPa・s以下であるものが好ましく、250mPa・s以下であるものがより好ましい。コールタール残渣油の70℃における粘度の下限は特に制限されない。
70℃における粘度が300mPa・s以下であるコールタール残渣油を用いることにより、後述する凝集物の遠心分離処理を効率的に行うことができる。
【0016】
なお、本出願書類において、70℃における粘度は、測定試料を500mlの容器中に7割程度充填したのち、70℃まで加温し、ビスコテスターVT−01型(リオンテック(株)製)を用いて測定した値を意味する。
【0017】
コールタール残渣油は、コールタールを分留して各留分を得た際に得られる蒸留残渣であり、例えばJIS K2439に規定されているものから適宜選択することができる。
【0018】
本発明の製造方法において、コールタール残渣油中のQIの含有割合は、通常0.5〜20質量%であり、0.8〜10質量%であることが適当である。
【0019】
なお、本出願書類において、QIの含有割合は、JIS K2425−1983「タールピッチのキノリン不溶分定量方法」に規定されている「濾過法」により求めた値を意味する。上記方法においては、試料1gを温キノリン20mlに溶解し、75℃で30分加熱した後、濾過器を用いて吸引濾過し、得られた濾過残分を、温キノリン、アセトンの順に濾液が無色になるまで洗浄し、乾燥した後、質量を量り、次式によりQIの含有割合(質量%)を算出する。
QIの含有割合(質量%)=(M−M/S)×100
上式で、Mは、洗浄、乾燥後における濾過器と濾過助剤と濾過残分との合計質量(g)、Mは濾過器と濾過助剤の合計質量(g)、Sは試料の質量(g)である。
【0020】
本発明の製造方法において、コールタール残渣油含有液を構成するコールタール残渣油の含有割合は、50〜100質量%であることが好ましく、50質量%以上100質量%未満であることがより好ましく、60〜95質量%であることがさらに好ましく、70〜90質量%であることが一層好ましい。
【0021】
本発明の製造方法において、コールタール残渣油含有液は、コールタール残渣油とともに、コールタールを分留して得られる重質油またはピッチコークスを製造する際に副生する重質油を合計で0質量%を超え50質量%以下含むものであることが好ましい。
【0022】
コールタールを分留して得られる重質油としては、クレオソート油、アントラセン油等を挙げることができる。
コールタールを分留して得られる重質油またはピッチコークスを製造する際に副生する重質油は、70℃における粘度が低いもの程好ましく、70℃における粘度が、300mPa・s以下であるものが好ましく、250mPa・s以下であるものがより好ましい。
【0023】
本発明の製造方法において、コールタール残渣油含有液は、コールタールを分留して得られる重質油またはピッチコークスを製造する際に副生する重質油を、合計で0質量%を超え50質量%以下含むものであることが好ましく、5〜40質量%含むものであることがより好ましく、10〜30質量%含むものであることがさらに好ましい。
【0024】
本発明の製造方法において、コールタール残渣油含有液が、コールタールを分留して得られる重質油またはピッチコークスを製造する際に副生する重質油を、合計で0質量%を超え50質量%以下含む場合、コールタール残渣油含有液の粘度を所望範囲に制御して、後述する遠心分離処理時の分離効率を向上させることができる。
【0025】
本発明の製造方法において、コールタール残渣油含有液は、70℃における粘度が300mPa・s以下であるものが好ましく、280mPa・sであるものがより好ましく、250mPa・sであるものがさらに好ましい。
【0026】
本発明の製造方法は、原料として、コールタール残渣油を必須成分として含むコールタール残渣油含有液を使用するものであることから、カーボンブラック製造用原料油を安価に作製することができる。
【0027】
本発明の製造方法においては、70℃における粘度が300mPa・s以下のコールタール残渣油を含むコールタール残渣油含有液100質量部に対し、石油系重質油または石油系分解残油を10〜50質量部混合して混合油を作製する。
【0028】
石油系重質油としては、A重油、C重油等を挙げることができ、石油系分解残油としては、エチレンボトム油、FCC分解残油等を挙げることができる。
【0029】
本発明の製造方法において、石油系重質油または石油系分解残油は、アルキル成分の多いものが好ましく、アルキル成分の割合が20%以上であるものが好ましく、30%以上であるものがより好ましい。
【0030】
なお、本出願書類において、石油系重質油または石油系分解残油のアルキル成分の割合は、対象試料の13C−NMRスペクトルにおける、0〜50ppmのピーク面積をアルキル成分由来のピーク面積とし、100〜200ppmのピーク面積をアロマ成分由来のピーク面積としたときに、{アルキル成分由来のピーク面積/(アルキル成分由来のピーク面積+アロマ成分由来のピーク面積)}×100により求められる値を意味する。
【0031】
また、石油系重質油または石油系分解残油は、70℃における粘度が、300mPa・s以下であるものが好ましく、280mPa・sであるものがより好ましく、250mPa・sであるものがさらに好ましい。
【0032】
本発明の製造方法は、70℃における粘度が300mPa・s以下であるコールタール残渣油を含むコールタール残渣油含有液100質量部に対し、石油系重質油または石油系分解残油を10〜50質量部混合して混合油を作製するものであり、石油系重質油または石油系分解残油を、20〜40質量部混合して混合油を作製することがより好ましい。
【0033】
上記コールタール残渣油含有液100質量部に対する石油系重質油または石油系分解残油の混合割合が10質量部以上であることにより、コールタール残渣油中のQIおよび重質成分を十分に凝集させることができ、上記コールタール残渣油含有液100質量部に対する石油系重質油または石油系分解残油の混合割合が50質量部以下であることにより、カーボンブラックを高い得率で効率的に製造することができる。
【0034】
本発明の製造方法においては、70℃における粘度が300mPa・s以下であるコールタール残渣油を含むコールタール残渣油含有液100質量部に対し、石油系重質油または石油系分解残油を10〜50質量部混合することにより、コールタール残渣油中に含まれるQIおよび重質成分の凝集を十分に促進させることができ、生成した凝集物を後述する遠心分離除去することにより、コークスグリッドの生成を抑制し得る高品質なカーボンブラック用原料油を簡便に製造することができる。
【0035】
本発明の製造方法においては、上記コールタール残渣油含有液と、石油系重質油または石油系分解残油とを、所定の比率で混合して混合液を作製する。
本発明の製造方法においては、上記コールタール残渣油含有液と石油系重質油または石油系分解残油とを混合した後、均一化処理を施すことが好ましく、均一化処理方法としては、例えば、上記混合液を攪拌または循環する方法や、ホモジナイザーなどを用いて均一攪拌を促進する方法等、種々の方法を採用することができる。
【0036】
ホモジナイザーとしては、高速攪拌翼を有するものや、超音波攪拌器等を挙げることができる。
また、ホモジナイザーとしては、混合液を加圧してノズルから噴射し、噴射流が相互に衝突するかあるいは壁面へ衝突するように高速噴射することにより、衝突および噴射時のせん断力等により攪拌する高圧衝突型のものや、外筒と内筒の同心円筒からなり、内筒の側面に貫通孔を備えるとともに、内筒の旋回による遠心力によって内筒内の混合液を内筒の貫通孔を通じて外筒の内壁面に移動させ、外筒の内壁面に油を含む薄膜を生成するとともに、この薄膜にずり応力と遠心力を加えて均一化を促進させるもの等を挙げることができる。
【0037】
上記均一化処理は、加熱下に行うことが好ましく、加熱温度は40〜150℃が好ましく、50〜120℃がより好ましい。加熱温度が40〜150℃であることにより、低沸点成分の揮散を抑制しつつ、混合液を容易に均一化することができる。均一化処理時間は、10分以上が好ましい。
【0038】
本発明の製造方法においては、上記コールタール残渣油含有液と石油系重質油または石油系分解残油との混合油を作製した後、混合油中に生成した凝集物を遠心分離除去する。
【0039】
本発明の製造方法においては、上記コールタール残渣油含有液と石油系重質油または石油系分解残油とを混合した後、上記均一化処理を施すことなく直ちに遠心分離処理を施してもよいし、上記均一化処理を施すことなく所定時間静置したのち遠心分離処理を施してもよいし、上記均一化処理を施した後、遠心分離処理を施してもよい。
【0040】
上記遠心分離処理に処される混合油は、70℃における粘度が300mPa・s以下であるものが好ましく、250mPa・s以下であるものがより好ましく、200mPa・s以下であるものがさらに好ましい。
【0041】
遠心分離処理に用いる遠心分離装置としては、適宜公知のものを使用することができる。
遠心分離処理時に混合油に加える遠心力は、500〜12000G(1G=9.8m/s)であることが好ましく、1000〜5000Gであることがより好ましい。上記遠心力が大きいほど遠心分離時間を短くすることができるが、遠心分離装置の維持管理が煩雑となる。遠心分離処理は、1回のみであってもよいし、複数回であってもよい。
【0042】
遠心分離時間は、合計で1〜60分間程度であることが適当である。
遠心分離処理は、常温〜150℃の温度下で行うことが好ましく、50〜120℃の温度下で行うことがより好ましい。
【0043】
本発明の製造方法においては、上記遠心分離処理により、上記混合油から凝集物を除去して、上澄み液中のQIの含有割合を0.5〜2質量%に低減する。本発明の製造方法においては、上記上澄み液中のQIの含有割合を、0.5〜1.5質量%に低減することがより好ましい。
上澄み液中のQIの含有割合は、使用するコールタール残渣油含有液中のコールタール残渣油の含有割合を調整したり、コールタール残渣油含有液に対する石油系重質油または石油系分解残油の混合量を適宜調整すること等により、容易に制御することができる。
【0044】
上記遠心分離処理によってコークスグリットを生成するコールタール残渣油中の重質成分とQIの凝集物を遠心分離除去し、残った上澄み液をカーボンブラック用原料油として取り出すことができる。
【0045】
本発明の製造方法において、得られるカーボンブラック用原料油中のQIの含有割合は、0.5〜2質量%であり、0.5〜1.5質量%であることがより好ましい。
カーボンブラック用原料油中のQIの含有割合が2質量%以下であることにより、カーボンブラックの製造時に副生するコークスグリッドの量を十分に抑制することができる。また、カーボンブラック用原料油中のQIの含有割合を0.5質量%未満にしても、コークスグリッドの生成抑制効果は大きく変わらないため、カーボンブラック用原料油中のQIの含有割合を0.5質量%以上とすることにより、高品質なカーボンブラック用原料油を簡便かつ大量に作製することができる。
【0046】
本発明の製造方法によれば、簡便な方法で安価かつ大量に高品質なカーボンブラック用原料油を製造することができる。
【実施例】
【0047】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0048】
(実施例1)
加熱、攪拌可能なタンク中で、70℃における粘度が200mPa・sであり、QI含有割合が6.0質量%であるコールタール残渣油が80質量%、70℃における粘度が3mPa・sであるクレオソート油が20質量%になるように混合してコールタール残渣油含有液を得た。得られたコールタール残渣油含有液100質量部に対し、石油系分解残油として、70℃における粘度が60mPa・sであり、アルキル成分の割合が20%であるFCC残渣油30質量部を混合、攪拌することにより、70℃における粘度が90mPa・sである混合油を得た。
この混合油を90℃で15分間攪拌した後、90℃の温度条件下、3000Gの遠心力で2分間遠心分離処理することによって凝集物を除去し、上澄み液としてQI含有割合が1.7質量%であるカーボンブラック用原料油を作製した。結果を表2に示す。
【0049】
(実施例2〜実施例8)
石油系分解残油または石油系重質油として、実施例1で用いたFCC残渣油の他、エチレンボトム油(70℃における粘度が60mPa・sであり、アルキル成分の割合が20%であるもの)、A重油およびC重油(70℃における粘度がいずれも30mPa・sであるもの)を用意した。
実施例1で用いたコールタール残渣油およびクレオソート油を、表1に示す割合になるように混合してコールタール残渣油含有液を得たのち、得られたコールタール残渣油含有液100質量部に対し、上記各石油系分解残油または石油系重質油を、表1に示す質量部になるように混合した以外は、実施例1と同様にしてカーボンブラック用原料油を作製した。
得られた各カーボンブラック用原料油のQI含有割合(質量%)を表2に示す。
【0050】
(実施例9)
実施例1で用いたコールタール残渣油が80質量%、実施例1で用いたクレオソート油が20質量%になるように混合してコールタール残渣油含有液を得たのち、このコールタール残渣油含有液100質量部に対し、実施例1で用いたFCC残渣油30質量部を混合し、混合後に高速攪拌のホモジナイザー(三丸機械工業(株)製)を用いてさらに均一化処理を行ったのち、実施例1と同様に遠心分離処理した以外は、実施例1と同様にしてカーボンブラック用原料油を作製した。
得られた各カーボンブラック用原料油のQI含有割合(質量%)を表2に示す。
【0051】
(比較例1)
70℃における粘度が150mPa・sであり、QI含有量が6.0質量%であるコールタール残渣油が50質量%、70℃における粘度が3mPa・sであるクレオソート油が50質量%になるように混合して、70℃における粘度が100mPa・sである混合油を得、この混合油に石油系重質油または石油系分解残油を加えることなく、90℃で15分間攪拌した後、90℃の温度条件下、3000Gの遠心力で3分間遠心分離処理することによって凝集物を除去し、上澄み液としてQI含有割合が2.7質量%であるカーボンブラック用原料油を作製した。
【0052】
(比較例2)
実施例1で用いたコールタール残渣油に対し、クレオソート油や、石油系重質油または石油系分解残油を加えることなく、また、遠心分離処理することもなく、そのままQI含有量が6.0質量%であるカーボンブラック用原料油とした。
【0053】
(比較例3)
実施例1で用いたコールタール残渣油100質量部に対し、実施例1で用いたFCC残渣油8質量部を混合して、70℃における粘度が180mPa・sである混合油を得、この混合油を90℃で15分間攪拌した後、90℃の温度条件下、3000Gの遠心力で3分間遠心分離処理することによって凝集物を除去し、上澄み液としてQI含有量が4.0質量%であるカーボンブラック用原料油を作製した。
【0054】
(比較例4)
実施例1で用いたコールタール残渣油100質量部に対し、実施例1で用いたFCC残渣油60質量部を混合して、70℃における粘度が110mPa・sである混合油を得、この混合油を90℃で15分間攪拌した後、遠心分離処理することなく、そのままQI含有量が2.0質量%であるカーボンブラック用原料油とした。
【0055】
(比較例5)
70℃における粘度が350mPa・sであり、QI含有割合が6.0質量%であるコールタール残渣油が80質量%、実施例1で用いたクレオソート油が20質量%になるように混合してコールタール残渣油含有液を得、得られたコールタール残渣油含有液100質量部に対し、実施例1で用いたFCC残渣油を30質量部攪拌、混合することにより、70℃における粘度が200mPa・sである混合油を得た。
この混合油を90℃で15分間攪拌した後、90℃の温度条件下、3000Gの遠心力で3分間遠心分離処理することによって凝集物を除去し、上澄み液としてQI含有量が2.6質量%であるカーボンブラック用原料油を作製した。
【0056】
<カーボンブラックの作製>
実施例1〜実施例9および比較例1〜比較例5でそれぞれ得られたカーボンブラック用原料油を用いて、図1に断面図で示す反応炉により、N339級のカーボンブラックを作製した。
【0057】
図1に示す反応炉は、耐熱性材料から構成されており、カーボンブラックの作製にあたっては、図1に示すように、炉頭部1から導入された燃焼用空気を燃焼室3に導入した。燃焼室3は、下流側出口が緩やかに縮径する最大内径400 mm、長さ500mm(下流側縮径部の最小内径180mm)のサイズを有しており、燃焼室3において、上記燃焼用空気と燃料供給ノズル2から供給された燃料油とを混合し、燃焼させて高温燃焼ガスを成し、生成した高温燃焼ガスを絞り部4(内径180mm、長さ500mm)に供給した。このとき、炉頭部1における温度は550℃であった。絞り部4においては、上記高温燃焼ガスに対して、原料油供給ノズル5から各カーボンブラック用原料油を噴霧導入して両者を混合した後、絞り部4から緩やかに拡管する拡管部6を経て反応部7に導入した。反応部7は、最大内径300mm、長さ1000mmのサイズを有しており、反応部7において上記混合したガスを反応させることにより、カーボンブラック微粒子(オイルファーネスカーボンブラック)を作製した。反応部7の下流側には、反応停止用冷却水ノズル8を設置し、生成したカーボンブラックを、冷却部9で回収可能な温度まで冷却した。冷却されたカーボンブラックは、出口10を経て(図示しない)捕集バッグフィルター等でガスと分離することにより分離回収した。
【0058】
なお、上記高温燃焼ガスを成す上記燃料油としては、比重(15/4℃)が1.05で、50℃における粘度が120mPa・sで、引火点が100℃であるFCC残渣油を70℃に加熱したものを用いた。
【0059】
得られた各カーボンブラック中のコークスグリッド含有割合(質量%)を、JIS K6218−3の規定される方法に基づいて測定した。具体的には、得られたカーボンブラック100gを、目開き150μmのふるいを通して水流で洗い流し、ふるいに残ったものを乾燥して、ふるい残分の質量M(g)を測定し、下記式
コークスグリッドの含有割合(質量%)=(M(g)/100(g))×100
により算出した。結果を表2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
表1および表2より、実施例1〜実施例9においては、70℃における粘度が300mPa・s以下であるコールタール残渣油を含むコールタール残渣油含有液100質量部に対し、石油系重質油または石油系分解残油を10〜50質量部混合して混合油を作製した後、該混合油中に生成した凝集物を遠心分離除去して、キノリン不溶分の含有割合が0.5〜2質量%であるカーボンブラック用原料油を作製していることから、上記原料油を簡便な方法で安価かつ大量に作製することができることが分かる。また、得られた原料油を用いて作製されたカーボンブラックは、コークスグリッド量が0.003質量%以下と非常に低いことから、実施例1〜実施例9で得られた原料油は、高品質なカーボンブラックを製造し得るものであることがわかる。
【0063】
これに対して、表1および表2より、比較例1〜比較例5においては、石油系重質油または石油系分解残油を加えていなかったり(比較例1および比較例2)、石油系重質油または石油系分解残油の混合量が、コールタール残渣油含有液100質量部に対して10質量部未満であったり(比較例3)、遠心分離処理を行わなかったり(比較例2および比較例4)、コールタール残渣油の70℃における粘度が300mPa・s超である(比較例5)ことにより、得られた原料油を用いてカーボンブラックを作製しても、コークスグリッド量が0.010〜0.050質量%と高い低品質のカーボンブラックしか得られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、簡便な方法で安価かつ大量に高品質なカーボンブラック用原料油を製造することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 炉頭部
2 燃料供給ノズル
3 燃焼室
4 絞り部
5 原料油供給ノズル
6 拡管部
7 反応部
8 反応停止用冷却水ノズル
9 冷却部
10 出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
70℃における粘度が300mPa・s以下であるコールタール残渣油を含むコールタール残渣油含有液100質量部に対し、石油系重質油または石油系分解残油を10〜50質量部混合して混合油を作製した後、該混合油中に生成した凝集物を遠心分離除去して、キノリン不溶分の含有割合が0.5〜2質量%であるカーボンブラック用原料油を作製することを特徴とするカーボンブラック用原料油の製造方法。
【請求項2】
前記コールタール残渣油含有液が、コールタール残渣油とともに、コールタールを分留して得られる重質油またはピッチコークスを製造する際に副生する重質油を合計で0質量%を超え50質量%以下含むものである請求項1に記載のカーボンブラック用原料油の製造方法。
【請求項3】
前記石油系重質油がA重油またはC重油である請求項1または請求項2に記載のカーボンブラック用原料油の製造方法。
【請求項4】
前記石油系分解残油がエチレンボトム油またはFCC残渣油である請求項1〜請求項3のいずれかに記載のカーボンブラック用原料油の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−64051(P2013−64051A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202790(P2011−202790)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】