説明

ガスクロマトグラフ用カラム

【課題】キャピラリーカラムの強い強度のシャープなピークや良好なリテンションタイムや高い感度を持つ性質と、表面積が大きくカラムの長さが短くできる充填カラムの性質をあわせもったカラムを実現し、カラムの小型化によりガスクロマトグラフ装置の小型化さらに低消費電力化を同時に実現すること。
【解決手段】一枚の基板で形成されたガスクロマトグラフ用カラムであって、前記基板の表面に流路を形成し、この流路にガスを吸収する吸収手段を設けることを特徴とするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフ用カラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4は、非特許文献1に記載されている従来のガスクロマトグラフの一例を示す構成説明図であり、気体の成分の測定装置である。図4において、恒温槽1にカラム2を設け、このカラム2にガスボンベ3からヘリウムなどの気体を減圧弁4で調整しながら導入するとともに、試料導入口5から試料を導入し、カラム2を通過する時間の違いから物質を同定するために、カラム2を通過してきた試料を検出器6で分析し、増幅器7を介して、データ処理部8で、分析結果を確認する。
【0003】
また、カラムは、ガスクロマトグラフの心臓部にあたるもので、キャピラリーカラムと充填(パックド)カラムの2種類がある。充填カラムには、担体に揮発性の少ない液体(固定相液体や液相と称する)を含浸させたものや、活性炭、アルミナ、シリカゲルなどの吸着剤をガラス管や金属管に充填したものを使用する。キャピラリーカラムには、内径0.1〜1mm程度の中空パイプの管内壁に液相を塗布したWCOT型(Wall Coated Open Tubular)、管壁に直径数μmの微粒子のポーラスポリマーやアルミナなどを約5〜20μm程度の層状に担持させたPLOT型(Porous Layer Open Tubular)、粒径数10μmの珪藻土担体に液相を含浸させたものを内壁に数100μmの層状に担持させたSCOT型(Support Coated Open Tubular)がある。また、一般的なカラムのサイズは、充填カラムが内径3mm、長さ2mであり、キャピラリーカラムが内径0.25mm、長さ30m〜60mである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】井原 俊英、他14名「キャピラリーガスクロマトグラフィー」、朝倉書店、1997年7月20日、p.1−53
【非特許文献2】Sho Nishiyama、Four another names、”Parylene Stationary Phase for Micro Gas Chromatography Columns”、THE 25TH SENSOR SYMPOSUIUM、2008、p.154〜157
【非特許文献3】T.Nakai、Four another names、”Micro Fabricated Semi-Packed Gas Chromatography Column with Functionalized Parylene as the Stationary Phase”、Twelfth International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciences、2008、p.1790〜1792
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、充填カラムは、流路内のカラム充填剤を通り抜ける際に充填剤との相互作用で分離されるため、クロマトグラフィのピークを広げる原因となり、また充填剤を詰める工程が必要であることから、カラムの小型化(細径化や短長化)は困難であるという問題がある。
【0006】
また、キャピラリーカラムは、流路に障害物がなく、試料が移動相と固定相の間を行き来することで分離されるため、より強い強度のシャープなピークや良好なリテンションタイムや高い感度が得られるが、一方で分離性能を確保するためにカラムの長さが必要となるため小型化は困難であるという問題がある。
【0007】
上記理由により、充填カラムおよびキャピラリーカラムが大きい場合、温度制御を行う大型の恒温槽が必要となるため装置も大型化してしまい高価格となり、設置場所が限定され、さらに消費電力が大きくなるという問題がある。
【0008】
そこで、カラムの小型化の事例として、非特許文献2、3にあるように、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて、シリコンチップ上にガスクロマトグラフ装置を実現するマイクロガスクロマトグラフの研究が行われている。
【0009】
しかし、小型化と分析速度向上を実現するには、カラムの長さが短く、かつ分離効率の高いものが要求されるが、表面積が大きくなる3次元構造の作製が難しいという問題がある。
【0010】
本発明は、これらの問題点を解決するものであり、その目的は、キャピラリーカラムの強い強度のシャープなピークや良好なリテンションタイムや高い感度を持つ性質と、表面積が大きくカラムの長さが短くできる充填カラムの性質をあわせもったカラムを実現し、カラムの小型化によりガスクロマトグラフ装置の小型化さらに低消費電力化を同時に実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
一枚の基板で形成されたガスクロマトグラフ用カラムであって、
前記基板の表面に流路を形成し、この流路にガスを吸収する吸収手段を設けることを特徴とする。
【0012】
請求項2は、請求項1記載のガスクロマトグラフ用カラムにおいて、
前記吸収手段は、多孔質固定相を有することを特徴とする。
【0013】
請求項3は、請求項1記載のガスクロマトグラフ用カラムにおいて、
前記吸収手段は、前記流路に離散的に複数設けることを特徴とする。
【0014】
請求項4は、請求項2記載のガスクロマトグラフ用カラムにおいて、
前記多孔質固定相は、2種類以上の層を有することを特徴とする。
【0015】
このように構成することにより、単位長さあたりの内壁面積を増加させることでカラムの長さが短くでき、分離時間も短くなり、また恒温槽のサイズも比例して小さくできるためガスクロマトグラフ装置の小型化、低消費電力化ができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に基づく微細流路を形成したカラムの一実施例を示す構成図である。
【図2】図1のガスクロマトグラフ用カラムを作製するプロセスの具体例を断面図により示す構成図である。
【図3】従来のガスクロマトグラフの一例を示す構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明のガスクロマトグラフ用カラムの一実施例を示す構成図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のX−Xダッシュ断面図である。
【0018】
(a)、(b)において、基板は1枚のセラミック基板10で形成されたものであり、その表面には試料およびガスの流路(以下、流路10aという)が設けられている。
【0019】
流路10aは、セラミック基板10の表面に蛇行形に形成されて一端にはガスの導入口10bが設けられるとともに他端にはガスの導出口10cが設けられている。
【0020】
(a)、(b)には、図示されていないが、蛇行形の流路10aには、ガスを吸収する吸収手段である複数のマイクロピラー12が形成されている。
【0021】
本発明のカラムは、導入口10bからキャリアガスと試料が導入されると、キャリアガスと試料は移動相と固定相をいききしながら微細流路を流れ、試料出口から検出器(図示せず)に接続されている。検出器にキャリアガス中の試料成分が入力されると、試料成分の濃度や質量に比例した信号が出力される。
【0022】
まず、アルミナと酸化シリコンが混合して焼成されたセラミック基板10(たとえば、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramic:低温焼成多層セラミックス)基板)においてキャリアガスおよび試料を導入するためのキャリアガスおよび試料の導出入口10b、10cを形成する。
【0023】
フォトレジストなどでマスキングされたセラミック基板10の表面をたとえばフッ酸などでエッチングする。これにより、セラミック基板10のパイレックス(登録商標)成分のみがエッチングされてアルミナ成分がポーラス状に残るため、カラムとして機能する多孔質13aの構造となり、表面に固定相13bが形成されるとともに、溝部よりなる流路10aが形成される。また、セラミック基板10の表面にアルミナが残った多孔質13aの構造で、表面に固定相13bが形成される構造をマイクロピラー12という。
【0024】
図2は、ガスクロマトグラフ用カラムを作製するプロセスの具体例を断面図により示す構成図であり、(a)は拡大構造図、(b)は(a)のY−Yダッシュ断面図、(c)は(b)の多孔質固定相13の拡大図である。
【0025】
アルミナと酸化シリコンが混合して焼成されたセラミック基板10にMEMS技術などで流路10aの内部にマイクロピラー12を有する微細流路が形成されている。
【0026】
このマイクロピラー12とは、セラミック基板10の表面、つまりガスの流路10aとなる表面に多孔質固定相13が形成されているものをいう。また、多孔質固定相13とは2種類以上の層を有し、つまりセラミック基板10の表面に多孔質13aが形成され、さらにこの多孔質13aの表面に固定相13bが形成されているものをいう。
【0027】
また、図2(a)、(b)より、流路10aにおいて、多孔質固定相13が等間隔に複数設けられている。
【0028】
固定相13bは、導入口10bから導入される試料の成分によって分離性能が高いポリマー薄膜や揮発性の少ない液体(たとえば、固定相液体や液相)などを担持する。また、固定相13bは、ポリマーなどの固体であれば、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学蒸着)法などを用いて多孔質13aの孔内部をコンフォーマルに薄膜を形成する。コンフォーマルとは形状適応性という意味であり、図2(c)に示すように、セラミック基板10の表面に多孔質13aを形成し、さらにこの多孔質13aの上面に固定相13bを隙間なく形成する。
【0029】
揮発性の少ない液体は流路10aに塗布および含浸してから他のセラミック基板10を熱圧着などで接合することで作製でき、揮発性の少ない液体は他のセラミック基板10を熱圧着などで接合した後から導入口10bから流し入れて含浸して作製することもできる。
【0030】
また、一般のキャピラリーカラムの移動相と固定相13bの行き来は内壁面積に相関を持っているが、本発明のセラミック基板10に形成する微細流路にマイクロピラー12を構成した構造により、単位長さあたりの内壁面積が増加すればカラムの長さを短くできる。たとえば、内径0.25mm、長さ30m〜60mのキャピラリーカラムに対して、単位長さあたりの内壁面積が10倍になれば、長さ3〜6m程度で長さ30m〜60mのキャピラリーカラムと同等な分離性能のキャピラリーカラムが実現できる。また、流路幅が200μmであれば、50mm×50mm程度のセラミック基板10に集積化することもできる。
【0031】
また、セラミック基板10に微細流路を形成し、多孔質固定相13を設けることにより、キャピラリーカラムの強い強度のシャープなピークや良好なリテンションタイムや高い感度を持つ性質と、表面積が大きくカラム長が短くできる充填カラムの性質をあわせもったカラムを実現できるとともに、ガスクロマトグラフの小型化も実現できる。
【0032】
そして、カラムの流路10aの長さが短くできることにより、分離時間を短くできる。
【0033】
従来の充填カラムやキャピラリーカラムを巻いたサイズと比較すると、本発明によりカラムのサイズが1/10以下のサイズに小型化できるため、恒温槽のサイズも比例して小さくでき、ガスクロマトグラフ装置の小型化および低消費電力化が実現できる。
【0034】
さらに、上述のカラムの基板に導出入口10b、10cおよび検出器などガスクロマトグラフの基本要素を作製したマイクロガスクロマトグラフチップを実現できる。
【0035】
なお、本発明のカラムは小型化を実現できるため、試料の成分によってカラムの固定相13bの物質を変えたカラムを並列接続することにより、分離性能をさらに向上できる。
【0036】
なお、流路10aを形成したセラミック基板10と接合する材料は、セラミック基板10以外の材料、たとえばシリコン基板でもよい。
【0037】
なお、本発明のカラムが形成される基板に導出入口10b、10cおよび検出器などガスクロマトグラフ装置の基本要素を作製してもよい。
【0038】
なお、多孔質固定相13は、流路10aに離散的に設けられる一例として、等間隔に複数設けられてもよい。
【0039】
以上説明したように、本発明によれば、単位長さあたりの内壁面積を増加させることでカラムの長さが短くでき、分離時間も短くなり、また恒温槽のサイズも比例して小さくできるためガスクロマトグラフ装置の小型化、低消費電力化ができるカラムを実現できる。
【符号の説明】
【0040】
10 セラミック基板
10a 流路
10b 導入口
10c 導出口
12 マイクロピラー
13 多孔質固定相
13a 多孔質
13b 固定相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一枚の基板で形成されたガスクロマトグラフ用カラムであって、
前記基板の表面に流路を形成し、この流路にガスを吸収する吸収手段を設けることを特徴とするガスクロマトグラフ用カラム。
【請求項2】
前記吸収手段は、多孔質固定相を有することを特徴とする請求項1記載のガスクロマトグラフ用カラム。
【請求項3】
前記吸収手段は、前記流路に離散的に複数設けることを特徴とする請求項1記載のガスクロマトグラフ用カラム。
【請求項4】
前記多孔質固定相は、2種類以上の層を有することを特徴とする請求項2記載のガスクロマトグラフ用カラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−266331(P2010−266331A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117723(P2009−117723)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)