説明

ガスタービンの異常診断装置

【課題】少ないデータ収集によって簡単かつ早期に異常診断を行うことができ、既存のガスタービンにおいても容易に異常診断を行うことができるガスタービンの異常診断装置を提供すること。
【解決手段】異常診断装置6は、ガスタービン1を所定の出力で運転を行った後、その運転を停止する直前に形成された無負荷運転状態において、タービン3の出口温度TOT、コンプレッサ2の入口温度CIT及びタービン3の入口温度TITを測定する計測手段61と、第1の温度差(TOT−CIT)、第2の温度差(TIT−CIT)及び第3の温度差(TIT−TOT)を求める算出手段62と、第1〜第3の温度差のいずれかが、所定の正常範囲を超えて増加したときには、ガスタービン1に異常が発生したことを検出する異常検出手段63とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンの異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンの出力(発電機の出力)は、コンプレッサの入口温度、燃焼器における噴射蒸気量、タービンの入口温度、タービンの出口温度、圧力比、圧縮効率等の多くの因子の影響を受けて変化する。また、これらの因子が相互に影響し合っているため、通常の運転状態では出力低下や性能劣化等の異常がわかり難く、異常の発見が遅れがちとなる。
例えば、特許文献1のガスタービン性能の分析予測方法においては、運転中のガスタービンから取得した複数の原データからガスタービン性能の分析又は予測を行う方法が開示されている。この分析予測方法においては、複数の原データからガスタービン性能の指標となる1つのデータ(例えばガスタービン出口温度)を目的変数として選択し、この目的変数に影響が大きい複数のデータ(ガスタービン入口ガス温度、ガスタービン吸気温度等)を説明変数として選択する。そして、目的変数と複数の説明変数との関係を回帰分析し、時系列の変化から過去の性能変化を分析することにより、将来の性能を予測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−2673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の方法によると、コンプレッサ、タービン、燃焼器等の個々の詳細な運転データを収集する必要があり、これらの運転データの収集が容易ではない。そのため、ガスタービンに生じた異常を簡単な方法で早期に発見するためには用いることができない。また、特に、特許文献1の方法によると収集するデータが多く、既存のガスタービンには採用することが困難である。
従って、既存のタービン設備に対しても容易に適用することができる異常診断装置の開発が望まれていた。
【0005】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、少ないデータ収集によって簡単かつ早期に異常診断を行うことができ、既存のガスタービンにおいても容易に異常診断を行うことができるガスタービンの異常診断装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、空気を吸気し圧縮して吐き出すコンプレッサと、
該コンプレッサから供給される圧縮空気と燃料とを燃焼させる燃焼器と、
上記コンプレッサと同一軸上に配設し、上記燃焼器において生成した燃焼ガスによって回転するタービンとを備えたガスタービンにおいて、何らかの異常が発生したか否かを診断する装置であって、
上記ガスタービンを所定の出力で運転を行った後、その運転を停止する直前に形成された無負荷運転状態において、上記タービンの出口温度、上記コンプレッサの入口温度、及び上記タービンの入口温度のうちの少なくとも2つを測定する計測手段と、
上記タービンの出口温度から上記コンプレッサの入口温度を差し引いた第1の温度差、上記タービンの入口温度から上記コンプレッサの入口温度を差し引いた第2の温度差、及び上記タービンの入口温度から上記タービンの出口温度を差し引いた第3の温度差のうちの少なくとも1つを求める算出手段と、
上記第1〜第3の温度差のうちの少なくとも1つが、所定の正常範囲を超えて増加したときには、上記ガスタービンに異常が発生したことを検出する異常検出手段とを有することを特徴とするガスタービンの異常診断装置にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0007】
本発明のガスタービンの異常診断装置は、ガスタービンに形成される無負荷運転状態においては、タービンにおける膨張仕事が、コンプレッサにおける圧縮仕事と所定の摩擦損失との和になり、ガスタービンが正常であるときには、上記第1〜第3の温度差は大きく変化しないことに着目して、異常診断を行うものである。
ガスタービンの無負荷運転状態においては、燃焼器における燃料の燃焼量が少なく、実質的には、コンプレッサによって圧縮された空気がタービンにおいて膨張するサイクルを形成しているとみなせる。
【0008】
そして、本発明の異常診断装置は、上記計測手段、算出手段及び異常検出手段により、上記無負荷運転状態において測定したタービンの出口温度、コンプレッサの入口温度、及びタービンの入口温度のうちの少なくとも2つを用いて、上記第1〜第3の温度差のうちの少なくとも1つを求め、第1〜第3の温度差のうちの少なくとも1つが、所定の正常範囲を超えて増加したときに、ガスタービンに異常が発生したことを検出する。これにより、本発明においては、ガスタービンにおける各部位の温度を測定することにより異常診断を行うことができ、少ないデータ収集によって簡単かつ早期に異常診断を行うことができる。
【0009】
また、通常は、タービンの出口温度、コンプレッサの入口温度、及びタービンの入口温度は、ガスタービンの運転データとして監視を行っており、本発明の異常診断装置は、既存のガスタービンにおいても容易に採用することができる。
また、無負荷運転状態は、ガスタービンを所定の出力で運転を行った後の状態としている。そのため、ガスタービンにおける各部位の温度が安定しており、異常検出に誤差が生じることを抑制することができる。
【0010】
それ故、本発明のガスタービンの異常診断装置によれば、少ないデータ収集によって簡単かつ早期に異常診断を行うことができ、既存のガスタービンにおいても容易に異常診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例における、ガスタービンの異常診断装置を模式的に示す説明図。
【図2】実施例における、ガスタービンの異常診断装置によって異常診断を行う流れを示すスローチャート。
【図3】確認試験における、失火が発生した場合のガスタービンの各部位の温度差及び補正後流量の変化の状態を示すグラフ。
【図4】確認試験における、タービン汚れが発生した場合のガスタービンの各部位の温度差及び補正後流量の変化の状態を示すグラフ。
【図5】確認試験における、圧縮空気の漏れが発生した場合のガスタービンの各部位の温度差及び補正後流量の変化の状態を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述した本発明のガスタービンの異常診断装置における好ましい実施の形態につき説明する。
本発明において、上記ガスタービンは、タービンの回転によって発電する発電機を有する構成とすることができる。また、上記燃焼器は、水蒸気を噴射させる構成又は水蒸気を噴射させない構成のいずれの構成とすることもできる。
上記無負荷運転状態は、発電機の回転速度が定格回転速度であり、発電機の出力がゼロであり、燃焼器における水蒸気噴射量がゼロであり、ガスタービンを1時間以上連続運転した後に運転を停止したことのすべての条件を満たす状態とすることができる。
【0013】
また、上記計測手段は、上記無負荷運転状態において、上記燃料の流量も測定し、上記異常検出手段は、上記第1〜第3の温度差のうちの少なくとも1つが、所定の正常範囲を超えて増加すると共に、上記流量も、所定の正常範囲を超えて増加したときには、上記ガスタービンに異常が発生したことを検出することができる(請求項2)。
この場合には、燃料の流量変化の度合いも考慮して異常診断を行うことができ、異常診断をさらに正確にすることができる。
【実施例】
【0014】
以下に、本発明のガスタービンの異常診断装置にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例のガスタービン1は、図1に示すごとく、空気A1を吸気し圧縮して吐き出すコンプレッサ2と、コンプレッサ2から供給される圧縮空気A2と燃料Fとを燃焼させる燃焼器4と、コンプレッサ2と同一軸上に配設し、燃焼器4において生成した燃焼ガスG1によって回転するタービン3と、タービン3の回転によって発電する発電機5とを備えている。本例のガスタービン1の異常診断装置6は、ガスタービン1を制御する制御装置から運転データを受け取り、ガスタービン1に何らかの異常が発生したか否かを診断するよう構成してある。
【0015】
異常診断装置6は、以下の計測手段61、算出手段62及び異常検出手段63をコンピュータを用いて構成している。
計測手段61は、ガスタービン1を所定の出力で運転を行った後、その運転を停止する直前に形成された無負荷運転状態において、タービン3の出口温度TOT、コンプレッサ2の入口温度CIT、及びタービン3の入口温度TITのうちの少なくとも2つを測定する。また、算出手段62は、タービン3の出口温度TOTからコンプレッサ2の入口温度CITを差し引いた第1の温度差、タービン3の入口温度TITからコンプレッサ2の入口温度CITを差し引いた第2の温度差、及びタービン3の入口温度TITからタービン3の出口温度TOTを差し引いた第3の温度差のうちの少なくとも1つを求める。また、異常検出手段63は、第1〜第3の温度差のうちの少なくとも1つが、所定の正常範囲を超えて増加したときには、ガスタービン1に異常が発生したことを検出する。
【0016】
以下に、本例のガスタービン1の異常診断装置6につき、図1、図2を参照して詳説する。
図1に示すごとく、本例のガスタービン1は、蒸気噴射式のガスタービンであり、燃焼器4において燃料F、圧縮空気A2及び水蒸気Sを用いて燃焼を行い、この燃焼ガスG1によってタービン3を回転させて発電機5による発電を行うと共に、タービン3からの排気ガスG2を用いて排ガス蒸気ボイラ(図示略)によって水蒸気Sを発生させるよう構成されている。燃焼器4へは、排ガス蒸気ボイラから水蒸気Sが供給される。
【0017】
本例のガスタービン1は、発電機5を所定の定格回転速度(例えば14000rpm)で回転させて発電を行うよう構成されている。
ガスタービン1の制御装置は、燃焼器4における燃料Fの噴射量、水蒸気Sの噴射量を調整して、発電機5の出力が所定の出力になるよう制御する。
ガスタービン1においては、タービン3の出口温度TOT、コンプレッサ2の入口温度CIT、タービン3の入口温度TIT及び燃料Fの流量を測定するよう構成されている。そして、これらの温度及び流量は、いずれも制御装置に取り込まれ、異常診断装置6は、制御装置からこれらの温度及び流量のデータを受け取るよう構成してある。
【0018】
本例の異常診断装置6は、第1〜第3の温度差のすべてを求め、第1〜第3の温度差のいずれかと燃料Fの流量とが、所定の正常範囲を超えて増加したときに、ガスタービン1に異常が発生したことを検出するよう構成されている。
燃料Fの流量の値は、コンプレッサ2における入口温度(吸気温度)CITの変化を考慮して補正することができる。具体的には、補正後の燃料Fの流量Q’は、実測値をQ(Nm3/hr)としたとき、Q’=Q×{(273+Tg)/(273+CIT)}1/2から求めることができる。ここで、Tgはコンプレッサ2への吸込空気の基準温度を示し、Tg=15(℃)とする。
本例の異常診断装置6によって異常診断を行う無負荷運転状態は、発電機5の回転速度が定格回転速度であり、発電機5の出力がゼロであり、燃焼器4における水蒸気Sの噴射量がゼロであり、ガスタービン1を1時間以上連続運転した後に運転を停止したことのすべての条件を満たす状態とする。
【0019】
次に、本例の異常診断装置6により異常診断を行うことができることを具体的に説明し、その作用効果を説明する。
ガスタービン1を停止する直前において、発電機5の回転速度が一定(定格回転速度)である無負荷運転状態においては、燃焼器4において水蒸気Sの噴射がなく、燃料Fの噴射量も空気A1の吸気量に比べて極少量となる。
そして、ガスタービン1に形成される無負荷運転状態においては、タービン3における膨張仕事をWt、コンプレッサ2における圧縮仕事をWc、所定の摩擦損失をLとしたとき、Wt=Wc+Lの関係が成り立つ。ここで、Wtは、Wt=E×Cpe×(TIT−TOT)となり、Wcは、Wc=A×Cpa×(CDT−CIT)となる。また、CITはコンプレッサ2の入口温度、CDTはコンプレッサ2の出口温度、TITはタービン3の入口温度、TOTはタービン3の出口温度を示し、Aはコンプレッサ2の吸気量、Cpaは空気A1の定圧比熱、Eはタービン3の排気量、Cpeは排気ガスG2の定圧比熱を示す。
【0020】
以下に、上記第1〜第3の温度差を求める際に生じる誤差について検討する。
無負荷運転状態のガスタービン1においては、燃焼器4における燃焼量が少ないため、コンプレッサ2の吸気量Aとタービン3の排気量Eとがほぼ同じになる。そして、無負荷運転状態は、コンプレッサ2によって圧縮された空気A1がタービン3において膨張するサイクルとみなすことができ、排気ガスG2の定圧比熱Cpeは、空気A1の定圧比熱Cpaとほぼ同じとみなすことができる。
空気A1の温度により、コンプレッサ2の吸気量が若干変化し、圧縮仕事Wcも増減するが、排気ガスG2の排気量も同じように変化し、膨張仕事Wtが増減する。そのため、ガスタービン1における作動ガスの流量が変化するに留まり、単位吸気量が行う仕事は同じになり、熱サイクルとしての変化は生じない。
【0021】
無負荷運転状態のガスタービン1においては、ガスタービン1における摩擦損失Lは、ほぼ一定である。そのため、コンプレッサ2の吸気量が少なくなると、タービン3における膨張仕事Wtに対する摩擦損失Lの割合が増加し、タービン3の入口温度TITを高くする必要が生じる。しかし、摩擦損失Lがもともと微小であるため、第1〜第3の温度差を求める際に与える影響は少ない。
コンプレッサ2の吸気量の変化により、圧力比(膨張比)、コンプレッサ2の圧縮効率、タービン3の膨張効率が変化し、その結果、コンプレッサ2の出口温度CDT、タービン3の出口温度TOT等も変化するが、無負荷運転状態においては、その変化の程度が微小であり、第1〜第3の温度差を求める際に与える影響は少ない。
【0022】
以上の検討より、無負荷運転状態における熱サイクルは、各部位の温度変化だけで考えることができ、コンプレッサ2の入口温度CITを基準に、ほぼ同じ温度サイクルを描く。すなわち、ガスタービン1が正常な状態においては、温度差(CDT−CIT)、第1の温度差(TOT−CIT)、第2の温度差(TIT−CIT)がほぼ一定になり、これらの関係から第3の温度差(TIT−TOT)もほぼ一定になる。なお、コンプレッサ2の出口温度CDTは、一般には計測されていないため、温度差(CDT−CIT)以外の温度差(第1〜第3の温度差)を異常診断を行う際の指標とする。
【0023】
また、温度サイクルが一定であるため、コンプレッサ2の入口温度(吸気温度)CITの変化による吸気量の変化を補正した燃料Fの流量Q’を、実測値をQ(Nm3/hr)として、Q’=Q×{(273+Tg)/(273+CIT)}1/2から求めることができる。ただし、補正が必ずしも正確ではないため、Q’の値は、異常診断を行う際に補足的に使用することができる。
【0024】
コンプレッサ2やタービン3の効率低下、摩擦損失Lの増加等の異常が発生すると、(TIT−TOT)≒(CDT−CIT)+Lの関係から、燃焼器4における燃焼量を増加させ、タービン3の入口温度TITを高める運転となり、第1の温度差(TOT−CIT)、第2の温度差(TIT−CIT)、第3の温度差(TIT−TOT)、及び燃料Fの補正後流量Q’は、正常なときに比べ大きくなる。
一方、ガスタービン1が正常であるときには、第1〜第3の温度差及び燃料Fの補正後流量Q’は、ほとんど変化しない。
【0025】
なお、第2の温度差(TIT−CIT)と第3の温度差(TIT−TOT)とは、メンテナンスを行うごとに若干変化することがある。従って、第1の温度差(TOT−CIT)をメインにして、異常診断を行うことにより、異常診断の診断精度を高くすることができる。
また、ガスタービン1を始動したときの無負荷運転状態においても、同様の異常診断を行うことができると考えられる。しかし、ガスタービン1の本体、配管の熱容量が大きいために、短時間では各部位の温度が安定せず、ガスタービン1の始動時に測定して求めた各部位の温度差は、異常診断を行うための指標としては用いることができない。
【0026】
本例の異常診断装置6により異常診断を行う流れを示すと、図2のようになる。
異常診断装置6は、発電機5の出力がゼロになると共に燃焼器4における水蒸気Sの噴射量がゼロになり、かつガスタービン1を1時間以上連続運転したか否かを検出する(図のステップS1)。これらの条件が満たされたときには、運転後1時間以上経過して、ガスタービン1の各部位の温度が安定していることを条件に、計測手段61は、運転停止直前の無負荷運転状態において、タービン3の出口温度TOT、コンプレッサ2の入口温度CIT、タービン3の入口温度TIT、燃料Fの流量を測定する(S2)。
次いで、算出手段62は、第1の温度差(TOT−CIT)、第2の温度差(TIT−CIT)、第3の温度差(TIT−TOT)、及び燃料Fの補正後流量Q’を求める(S3)。
【0027】
その後、異常検出手段63は、第1〜第3の温度差のいずれか及び補正後流量Q’が、所定の正常範囲を超えて増加したときには(S4)、ガスタービン1に異常が発生したことを検出する(S5)。一方、異常検出手段63は、第1〜第3の温度差のすべてが所定の正常範囲内にあるときには(S4)、ガスタービン1に異常が発生していないことを検出する(S6)。
なお、異常診断においては(S4)、第1の温度差(TOT−CIT)をメインの診断指標とし、その他を補足的な診断指標として用いることができる。これは、例えば、第1の温度差については、正常範囲を狭く設定する(異常であると判定する温度差を正常範囲に近い温度差に設定する)一方、その他については、正常範囲を広く設定する(異常であると判定する温度差を正常範囲から大きく外れた温度差に設定する)ことによって、実現することができる。
【0028】
このように、本例においては、ガスタービン1における各部位の温度を測定することにより異常診断を行うことができ、少ないデータ収集によって簡単かつ早期に異常診断を行うことができる。また、通常は、タービン3の出口温度TOT、コンプレッサ2の入口温度CIT、タービン3の入口温度TIT、及び燃料Fの流量は、ガスタービン1の運転データとして監視を行っており、本例の異常診断装置6は、既存のガスタービン1においても容易に採用することができる。
また、無負荷運転状態は、ガスタービン1を所定の出力で運転を行った後の状態としている。そのため、ガスタービン1における各部位の温度が安定しており、異常検出に誤差が生じることを抑制することができる。
【0029】
それ故、本例のガスタービン1の異常診断装置6によれば、少ないデータ収集によって簡単かつ早期に異常診断を行うことができ、既存のガスタービン1においても容易に異常診断を行うことができる。また、ガスタービン1の運転を停止する際に異常の有無を検出することができ、何らかの異常があったときには、運転を再開するまでに修復することができる。また、ガスタービン1に異常が生じる可能性を予測することができ、異常が発生する前にメンテナンスを行って、ガスタービン1の予防保全を行うこともできる。
【0030】
(確認試験)
本確認試験においては、1週間程度の間隔でガスタービン1を停止するごとに、異常診断装置6を用いてガスタービン1に異常が発生したか否かを診断した。
異常診断を行う際には、第1の温度差(TOT−CIT)、第2の温度差(TIT−CIT)、第3の温度差(TIT−TOT)、及び燃料Fの補正後流量Q’を用いた。
図3は、ガスタービン1において、複数の燃焼器4のうちの1つに失火が発生したときの状況を、横軸に時間(日)をとり、縦軸に温度差(℃)及び流量(Nm3/hr)をとって、各温度差及び補正後流量Q’の変化の状態を示す。同図において、180日を経過した付近及び210日を経過した付近において、各温度差及び補正後流量Q’が増加していることがわかる。また、第3の温度差の変化量は、他の温度差の変化量に比べて小さいことがわかる。
このことより、ガスタービン1において失火が発生したときには、各温度差及び補正後流量Q’が、所定の正常範囲を超えて増加するため、異常診断装置6によってガスタービン1に何らかの異常が発生したことを安定して検出できることがわかる。
【0031】
図4は、ガスタービン1においてタービン3の汚れが発生したときの状況を、横軸に時間(日)をとり、縦軸に温度差(℃)及び流量(Nm3/hr)をとって、各温度差及び補正後流量Q’の変化の状態を示す。同図において、60日を経過した付近から、各温度差及び補正後流量Q’が徐々に増加を繰り返していることがわかる。また、第2の温度差及び第3の温度差は、メンテナンス後には値が若干変わっていることがわかる。
このことより、ガスタービン1においてタービン汚れが発生したときには、各温度差及び補正後流量Q’が、所定の正常範囲を超えて増加するため、特に第1の温度差をメインにして異常診断を行うことにより、ガスタービン1に何らかの異常が発生したことを安定して検出できることがわかる。
【0032】
図5は、ガスタービン1において圧縮空気A2の漏れが発生したときの状況を、横軸に時間(日)をとり、縦軸に温度差(℃)及び流量(Nm3/hr)をとって、各温度差及び補正後流量Q’の変化の状態を示す。同図において、60日を経過した付近において、第1〜第3の温度差及び補正後流量Q’が増加していることがわかる。
このことより、ガスタービン1において圧縮空気A2の漏れが発生したときには、各温度差及び補正後流量Q’が、所定の正常範囲を超えて増加するため、ガスタービン1に何らかの異常が発生したことを安定して検出できることがわかる。なお、図5の場合は、図3、図4の場合とガスタービン1の機種が異なるものについて確認試験を行った結果である。
【符号の説明】
【0033】
1 ガスタービン
2 コンプレッサ
3 タービン
4 燃焼器
5 発電機
6 異常診断装置
61 計測手段
62 算出手段
63 異常検出手段
A1 空気
A2 圧縮空気
F 燃料
G1 燃焼ガス
G2 排気ガス
CIT コンプレッサの入口温度
CDT コンプレッサの出口温度
TIT タービンの入口温度
TOT タービンの出口温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を吸気し圧縮して吐き出すコンプレッサと、
該コンプレッサから供給される圧縮空気と燃料とを燃焼させる燃焼器と、
上記コンプレッサと同一軸上に配設し、上記燃焼器において生成した燃焼ガスによって回転するタービンとを備えたガスタービンにおいて、何らかの異常が発生したか否かを診断する装置であって、
上記ガスタービンを所定の出力で運転を行った後、その運転を停止する直前に形成された無負荷運転状態において、上記タービンの出口温度、上記コンプレッサの入口温度、及び上記タービンの入口温度のうちの少なくとも2つを測定する計測手段と、
上記タービンの出口温度から上記コンプレッサの入口温度を差し引いた第1の温度差、上記タービンの入口温度から上記コンプレッサの入口温度を差し引いた第2の温度差、及び上記タービンの入口温度から上記タービンの出口温度を差し引いた第3の温度差のうちの少なくとも1つを求める算出手段と、
上記第1〜第3の温度差のうちの少なくとも1つが、所定の正常範囲を超えて増加したときには、上記ガスタービンに異常が発生したことを検出する異常検出手段とを有することを特徴とするガスタービンの異常診断装置。
【請求項2】
請求項1において、上記計測手段は、上記無負荷運転状態において、上記燃料の流量も測定し、
上記異常検出手段は、上記第1〜第3の温度差のうちの少なくとも1つが、所定の正常範囲を超えて増加すると共に、上記流量も、所定の正常範囲を超えて増加したときには、上記ガスタービンに異常が発生したことを検出することを特徴とするガスタービンの異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−275934(P2010−275934A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129443(P2009−129443)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000221834)東邦瓦斯株式会社 (440)