説明

ガスバリア性フィルムの製造方法

【課題】オーバーコート層を設けなくても高湿度下で長時間ガスバリア性を有しながら、かつ耐衝撃性に優れたガスバリア性フィルムを得ることを課題とする。また、その製造工程において、ガスバリアコート剤のポットライフを長く、塗布の作業性を良好にすることを課題とする。
【解決手段】ナイロンフィルムの片面に接着層を設け、該接着層の上にガスバリアコート剤を塗布することによりガスバリア層を形成するフィルム積層体の製造において、前記ガスバリアコート剤を、アルコキシシランの加水分解物とポリビニルアルコールとを含有する水性溶液をpH3.5以下に調整したものとし、前記接着層を、ガスバリアコート剤の酸性成分を中和する性質を有するものとする。接着層を形成する接着剤として2液型ウレタン系接着剤を用い、該接着剤の主剤のヒドロキシル基と硬化剤のイソシアナート基の比が1:50〜100になるように混合したものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品、医薬品、精密電子部品等の包装分野等に用いられる、透明性を有するガスバリア性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品、医薬品、精密電子部品等の包装分野に用いられる包装材料は、内容物の変質、特に食品においては油脂の酸化や蛋白質の変質等を抑制して味や鮮度を保持するために、また医薬品においては有効成分の変質を抑制して効能を維持するために、さらに精密電子部品においては金属部分の腐食を抑制して絶縁不良等を防ぐために、包装材料を透過する酸素による影響を防止する必要があり、気体(ガス)を遮断するガスバリア性を備えることが求められている。
【0003】
そのため、従来から塩化ビニリデン樹脂を塗布したポリプロピレン(KOP)やポリエチレンテレフタレート(KPET)或いはエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)など一般にガスバリア性が比較的高いと言われる高分子フィルムをガスバリア材として用いた包装フィルム、あるいは酸化珪素(SiOx)などの珪素酸化物薄膜を透明高分子からなる基材上に真空蒸着などの手段によって設けた蒸着フィルムをガスバリア材として用いた包装フィルムが一般的に使用されてきた。
【0004】
ところが、上述のEVOHを用いた包装フィルムは、温度や湿度の影響を受け易く、その変化によっては更にガスバリア性が低下することがある。さらにKOPやKPET等の塩化ビニリデン樹脂を用いた包装フィルムは、使用後の廃棄において焼却処理すると塩素ガスを発生するため、これが酸性雨の原因の一つになると言われ、最近では敬遠される傾向がある。また、珪素酸化物薄膜を透明高分子からなる基材上に真空蒸着などの手段によって設けた蒸着フィルムは、屈曲等によって蒸着膜にクラックが入りやすく、結果としてガスバリア性が低下することがある。
【0005】
そこでこれらの欠点を克服した包装フィルムとして、水溶性の無機物もしくはポリマーからなる液状組成物をフィルムに塗布し、高いガスバリア性を発現させる方法として、ポリビニルアルコール(PVA)等の親水性高分子溶液と金属アルコキシドの加水分解溶液を混合し、フィルムに塗布後乾燥、熱処理し親水性高分子と金属アルコキシド間で相互に作用させることによりガスバリア性の付与を行う方法が提案されている(特許文献1)。これらの方法は金属酸化物が有する優れたガスバリア性と高分子が有する柔軟性を兼ね備えており、高いガスバリア性と屈曲するような乱暴な取扱いにも耐えうる実用性を有している。しかしながら親水性高分子と金属酸化物を高度に複合化させることは容易でなく、特に高湿度下に長時間暴露するとガスバリア性が損なわれるという問題があった。
【0006】
そこで、ポリビニルアルコールにかえて、ポリビニルアルコールにエチレン・ビニルアルコールコポリマーを混合して用いたもの(特許文献2)、ポリビニルアルコールとして変性ポリビニルアルコールを用いたもの(特許文献3)等が報告されており、また、シラン化合物としてイミノ基を有する珪素アルコキシドを用い、乾燥してガスバリア層を形成した後エージングする方法(特許文献4)も報告されている。これらにより、ガスバリア性は一定の向上をみるものの、特に高湿度下に長時間暴露した場合のガスバリア性の改善は十分なものとは言い難かった。
【0007】
本発明者らは、先に、これら欠点を克服したガスバリア性フィルムを提案した(特願2004−282962号)。該フィルムは、ガスバリア層の上にオーバーコート層を設けなくとも、高湿下での時間の経過によるガスバリア性の低下が少ないものである。
該ガスバリア層の原料である、金属アルコキシドの加水分解溶液と親水性高分子溶液とからなるゾルゲルコート剤は、酸性側では安定であるが、pH3.5を超えると粘度が上がるため塗布が困難となり、中性付近になると短時間でゲル化するため実用上使用できなくなる。そこで、通常は加水分解触媒あるいはpH調整剤として酸を添加することにより、コート剤塗布時の作業性を良くすると共に、コート剤に十分なポットライフを持たせる(特許文献5)。
【0008】
先に本発明者らは、金属アルコキシドの加水分解触媒に塩酸を用いてpH2.3の加水分解液を調製し、該加水分解液を用いて調製したガスバリアコート剤のpHは2.9であった。このコート剤のポットライフやバリア性の性能は良好であった。
しかしながら、このようなコート剤を基材のナイロンフィルムもしくはその上に設けた接着層上にコートし、エージングすると、酸に弱いナイロンフィルムはコート剤由来の酸により加水分解し分子量が低下することによって、耐衝撃性が低下することがわかった(特許文献6)。
【0009】
【特許文献1】特開平4−345841号公報、特開平6−192454号公報
【特許文献2】特開2001−219506号公報
【特許文献3】特開2004−143197号公報
【特許文献4】特開2002−292810号公報
【特許文献5】特開平4−80030号公報、特開平4−345841号公報
【特許文献6】特開2006−95782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、オーバーコート層を設けなくても高湿度下で長時間ガスバリア性を有しながら、かつ耐衝撃性に優れたガスバリア性フィルムを得ることを課題とする。また、その製造工程において、ガスバリアコート剤の塗布の作業性を良好に、かつポットライフを長くすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、ガスバリア層と基材フィルムとの間に酸性成分の中和性能を持たせた接着層を導入することで課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
(1)ナイロンフィルムの片面に接着層を設け、該接着層の上にガスバリアコート剤を塗布することによりガスバリア層を形成するフィルム積層体の製造方法であって、前記ガスバリアコート剤が、珪素アルコキシド及び/又は珪素アルコキシド重縮合物の加水分解物と親水性ポリマーとを含有する水性溶液をpH3.5以下に調整したものであり、前記接着層が前記ガスバリアコート剤の酸性成分を中和する性質を有するものであることを特徴とする、フィルム積層体の製造方法、
(2)前記接着層が、2液型ウレタン系接着剤からなり、該接着剤中の主剤のヒドロキシル基と硬化剤のイソシアナート基の比が1:50〜100であることを特徴とする、上記(1)記載のフィルム積層体の製造方法、
(3)前記ガスバリアコート剤が、一般式[1](式中、Rは同一でも異なってもよい炭素数1〜4のアルキル基を、nは0〜10の整数を表す。)で表される珪素アルコキシド及び/又は珪素アルコキシド重縮合物の加水分解物と、ポリビニルアルコールとを含有する(珪素アルコキシド及び/又は珪素アルコキシドの重縮合物の加水分解物から生成する珪素酸化物と、ポリビニルアルコールの重量比が50/50〜80/20)水性溶液であって、pH3.5以下に調整したものである、上記(1)又は(2)に記載のフィルム積層体の製造方法、
【化2】

(4)上記(1)〜(3)いずれか一の製造方法により得られるフィルム積層体、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、オーバーコート層を設けなくても高湿度下で長時間ガスバリア性を維持し、かつ一般的な包装材料として使用可能な衝撃強度のあるガスバリア性フィルムが得られる。また製造時、ガスバリアコート剤はpH3.5以下に調整するため保存安定性が良く取扱いが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のガスバリアコート剤は、珪素アルコキシド及び/又は珪素アルコキシド重縮合物の加水分解物と親水性ポリマーとを含有する水性溶液をpH3.5以下に調整したものである。
本発明で用いられる珪素アルコキシドおよびその重縮合物(以下、単に「アルコキシシラン」ともいう。)としては通常、上記一般式[1](式中、Rは同一又は異なってもよい炭素数1〜4のアルキル基を、nは0〜10の整数を表す。)で表される化合物が用いられる。
【0014】
親水性ポリマーとしては、バリア性や可撓性の面から、ポリビニルアルコール類が望ましい。ポリビニルアルコール類は、ポリビニルアルコール、もしくはエチレン含有率が3〜30%の変性ポリビニルアルコールを使用しても良いが、水溶液を調製するにあたってポリビニルアルコールが好ましい。けん化度は80%以上が好ましく、より好ましくは完全けん化物が用いられる。完全けん化物の方が珪素アルコキシドの加水分解物との相溶性が良く、より緻密なバリア層を形成する。ポリビニルアルコールの重合度は200から3,500が好ましい。
【0015】
アルコキシシランは、好ましくは加水分解率90%に加水分解された後、ポリビニルアルコール溶液と混合される。アルコキシシランの加水分解は、アルコキシシランを水、無機酸及び有機溶媒を含む溶液中で加温することにより実施される。このときアルコキシシラン加水分解物の重縮合も同時に起こる。用いられる水の量は、アルコキシシランの珪素1原子に対し6〜10モルである。10モルより多いと加水分解したシリケートの重縮合が進行しすぎて溶液がゲル化する。ゲル化した液はポリビニルアルコール溶液と均一に混合することができない。また6モルより少ないと珪素アルコキシドの加水分解率90%以上を達成することが実質上困難である。
【0016】
添加される無機酸は、珪素アルコキシドの加水分解および重縮合の触媒として作用する。用いられる酸は、塩酸や硝酸等の鉱酸やその他の無機酸が好適に用いられる。加水分解時のpHは、0.5〜3.5、好ましくは2.0〜3.0である。pHが3.5より大きいと加水分解が進行しない。pHが0.5より小さいと加水分解は十分に進行するものの同時に重縮合の進行も著しく、溶液がゲル化する。
【0017】
加水分解時の温度は、30〜60℃、好ましくは40〜55℃である。60℃より高いと重縮合が進行し溶液がゲル化する。また30℃より低いと加水分解が十分に進行せず、より長い時間を要し実用的でない。加水分解時間は溶液のpHおよび温度によって異なるが、概ね30〜400分である。
【0018】
用いられる有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノールなどが挙げられるが、特にエチルアルコールおよびイソプロピルアルコールが好適に用いられる。有機溶媒の量は加水分解に使用する水の重量に対し0.3〜3重量%である。3重量%より多いと有機溶媒を回収するのに困難であり、0.3重量%より少ないと珪素アルコキシドの加水分解時に溶液がゲル化を起こす。以上の方法により、珪素アルコキシド90%以上の加水分解率にも関わらず、ゲル化しない溶液を得ることができる。
【0019】
珪素アルコキシドの加水分解液とポリビニルアルコール溶液との混合は、加水分解液中の珪素酸化物(SiO2換算)100重量%に対してポリビニルアルコール25〜100重量%、好ましくは60〜100重量%である。ポリビニルアルコールの重量比が25重量%より低い場合、バリア層の柔軟性が十分でなくクラックを生じやすいばかりでなく、ガスバリア性も低下する。100重量%より大きい場合もガスバリア性が低下し、好ましくない。該加水分解液とポリビニルアルコール水溶液とを混合したときのpHは1.5〜3.5が好ましく、2.0〜3.0がより好ましい。pHが1.5より低いと、基材のナイロンフィルムの耐衝撃性を著しく低下させてしまう。pHが3.5より高いとコート剤が高粘度となりゲル化しやすく、塗布の作業が困難となるし、十分なポットライフが得られない。このため、該加水分解液とポリビニルアルコールを混合したときpHが3.5より高ければポットライフ安定化のために塩酸や硝酸等の鉱酸やその他の無機酸を添加し、pHを調整してもよい。
【0020】
本発明の接着層を形成する接着剤としては、ガスバリアコート剤の酸性成分を中和する能力を有するものであれば特に限定されないが、主剤にポリオール、硬化剤にポリイソシアナートを用いる2液型ポリウレタン樹脂接着剤が望ましい。
【0021】
2液型ポリウレタン樹脂接着剤の主剤に用いられるポリオールは、その分子中にヒドロキシル基(OH)を2個以上有するポリオール化合物からなるものである。該ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリエステルポリカーボネートポリオール類、ポリカーボネートポリオール類が挙げられる。これらは混合して使用されてもよい。また、場合によってはシランカップリング剤等の添加剤を添加してもよい。
【0022】
2液型ポリウレタン樹脂接着剤の硬化剤に用いられるポリイソシアナートは、その分子中に2個以上のイソシアネート基(NCO)を有する化合物からなるものである。例えば、トリレンジイソシアネート、トリフェニルメタンイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネートなどのモノマー類と、これらの重合体、誘導体などがある。
【0023】
前記ポリオールとポリイソシアナートとの混合比率について、NCO/OH比率が50〜100となるようにすることが好ましい。この場合、過剰のイソシアナート基がガスバリアコート剤中の酸性成分を中和する。50以下である場合、隣接する層のガスバリアコート剤の酸性成分を充分に中和することができず、そのためエージング中に酸性成分が基材のナイロンにダメージを与え、フィルムの衝撃強度が低下する可能性がある。NCO/OH比率が100以上であると、ポリイソシアナートの構造によっては接着強度を低下させる恐れがある。
上記のような比率で主剤のポリオールと硬化剤のポリイソシアナート、必要に応じて酢酸エチルやトルエン等の溶媒を混合して撹拌し、接着層の原料である接着剤を得る。
【0024】
本発明では、上記のようにして調製した接着剤、ガスバリアコート剤を、基材であるナイロンフィルムの片面に順次塗布して乾燥し、接着層、ガスバリア層を形成する。
基材のナイロンフィルムとしては、たとえばナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン6/66、ナイロン66/610、ナイロンMXDなどポリアミド系樹脂からなるフィルムが用いられる。ナイロンフィルムは無延伸でも二軸延伸フィルムでも構わないが、強度の観点からは二軸延伸されたフィルムが好ましい。
【0025】
接着剤やガスバリアコート剤の塗布には、通常のコーティング法を用いることができる。例えば、リバースロールコーティング法、ディップコーティング法、メイヤーバーコーティング法、ナイフコート法、ノズルコーティング法、ダイコーティング法、スプレーコーティング法、カーテンコーティング法、スクリーン印刷、グラビアコート、などの各種印刷法などが挙げられる。また、これらを組み合わせてもよい。
【0026】
乾燥後の接着層の厚みは、0.01〜2.0μm、好ましくは0.1〜1μmが好ましい。乾燥後の厚みが0.01μm未満であると、基材とバリア層との間で充分な接着強度を示さない。一方、乾燥後の厚みが2.0μmを超えると、多くの接着剤を要すためコストが高く、工業的に好ましくない。
乾燥後のガスバリア層厚みは、0.1〜3.0μm、好ましくは0.5〜1.5μmがよい。乾燥後の厚さが0.1μm未満であると、充分なガスバリア性が発現しない。一方、乾燥後のコート層厚さが3.0μmを超えると、クラックの発生や不十分な密着強度によって、ガスバリア性が低下するし、コストアップともなるので好ましくない。
【0027】
塗布後、ガスバリア層の乾燥およびエージングを行い、高湿度下においても高いガスバリア性を有するガスバリア層を形成させる。
乾燥は、ドライヤー内温度200℃以下、好ましくは100〜150℃で1〜30秒行う。200℃より高い温度で乾燥した場合、急激な溶媒の揮発によりバリア層に微細なボイドが形成され、ガスバリア性が低下する。乾燥時間が30秒より長い場合は、塗膜の体積収縮が著しくなりその結果塗膜にクラックが発生する。
【0028】
乾燥後、エージングは、雰囲気温度20〜80℃で8時間以上実施される。80℃よりも高いとプラスチックフィルムからなる基材の平面性が損なわれ、印刷適性等の加工適性が悪くなるので好ましくない。また20℃より低い場合、十分なエージング効果が得られない。
【0029】
上記の方法により得られたガスバリア性のフィルム積層体は、JIS P 8134で測定した衝撃強度が10.0kgf・cm以上となる。米袋のような重量物や水物袋など特に耐衝撃性を要する包装袋に用いるフィルムでは、その包装袋製造工程、輸送工程での破袋する確率を低減させるために10kgf・cm以上が必要であるとされている。
また、上記の方法により得られたガスバリア性のフィルム積層体は、23℃、90%RHの条件下でJIS K 7126(等圧法)に基づき測定した酸素透過度が10cc/m2・atm・24h以下である。一般的に酸素バリア性が必要とされている食品包装では酸素透過度20cc/m2・atm・24h以下が必要とされている。
【実施例】
【0030】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明について具体的に説明する。
なお、衝撃強度の測定には、東洋精機社製インパクトテスターを用いた衝撃穴あけ強さ試験(JIS P 8134)を行い評価した。
【0031】
実施例1
エチルシリケート40(コルコート社製 SiO分40%)に対して100重量部の純水および50重量部のイソプロパノールを加え、0.83重量部の6M塩酸を混合した後、撹拌しながら55℃で200分間加水分解を行った。この溶液を冷却後、該加水分解液と同重量の純水を添加し、珪素酸化物が8重量%の透明な溶液を得た。一方、ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA−117、ケン化度98−99%、平均重合度1700)を純水に溶解し、7重量%の水溶液を得た。珪素酸化物の固形分と、ポリビニルアルコールの固形分の重量比が59:41となるように、加水分解液100重量部に対して、ポリビニルアルコール水溶液79.4重量部と純水14.3重量部を室温で撹拌しながら混合して均一な溶液とし、固形分濃度8重量%のガスバリアコート剤を得た。このときのコート剤pHは約2.9であった。
【0032】
2液型ポリウレタン樹脂接着剤の主剤としてポリエステルポリオール(東洋モートン社製、AD−503)100重量部に対して、硬化剤としてポリイソシアネート(東洋モートン社製、CAT−60)46.7重量部、溶剤として酢酸エチル627重量部、トルエン627重量部を室温で撹拌しながら混合し、均一な溶液として接着剤を得た。この接着剤は、固形分濃度5重量%、NCOとOH比が72:1であった。
【0033】
調製した接着剤を延伸ナイロンフィルム(興人製二軸延伸ポリアミドフィルム「ボニール」、厚み15μm)上にメイヤーバーで塗布し、2秒後に100℃の熱風乾燥機中で15秒乾燥した。このときの接着層の厚みは約0.5μmで、乾燥後の塗布量は約0.3g/mであった。
さらにその上から同様の塗布方法で、調製したガスバリアコート剤を塗布し、100℃、15秒乾燥した。このときのガスバリア層の厚みは約1μmで、乾燥後の塗布量は約1g/m2であった。
【0034】
得られたフィルム積層体を一旦室温に戻した後、55℃で96時間エージングし、ガスバリア性フィルムを得た。
得られたフィルムについて23℃、50%RHの温湿度条件下にて24時間以上調湿し、JIS P 8134に基づいて衝撃穴あけ強さ試験を10回行い、その平均値の測定を行った。また、23℃、90%RHの条件下でJIS K 7126(等圧法)に基づき酸素透過度の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0035】
実施例2
実施例1において、主剤のポリエステルポリオールを東洋モートン社製 MAS−4019に変更し、87.5重量部とした以外は実施例1と同様に行った。この時得られた接着剤は固形分濃度5重量%、NCOとOH比が54:1であった。
【0036】
実施例3,4、比較例1
実施例1において、接着剤のNCOとOHの比を表1に示す数値にした以外は、実施例と同様に行った。
【0037】
比較例2
実施例2において、接着剤のNCOとOHの比を表1に示す数値にした以外は、実施例と同様に行った。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1〜4のフィルムは、いずれも重量物包装など特に耐衝撃性を要する包装袋に必要とされている10kgf・cm以上の衝撃強度を示した。
【0040】
実施例に比べるとNCO/OHの値が小さい比較例1,2を見ると、衝撃強度の平均値は10.0kgf・cmより小さく、実施例1〜4に比べると低い。これは、ガスバリアコート剤中の酸を接着層が十分に中和しきれていないことを示唆している。
すなわち、イソシアナート基(NCO)をヒドロキシル基(OH)の50倍以上にすることによって、本発明に使用しているガスバリアコート剤中の酸による耐衝撃性の低下を防止することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上説明した通り、本発明によると、オーバーコート層を設けなくても、高湿度下で長時間、ガスバリア性を有するガスバリア性フィルムが提供され、食品、医薬品、精密電子部品等の各種分野の包装用材料として有用である。さらに耐衝撃性にも優れるため、強度を要する液体充填包装や重量物の包装にも利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロンフィルムの片面に接着層を設け、該接着層の上にガスバリアコート剤を塗布することによりガスバリア層を形成するフィルム積層体の製造方法であって、前記ガスバリアコート剤が、珪素アルコキシド及び/又は珪素アルコキシド重縮合物の加水分解物と親水性ポリマーとを含有する水性溶液をpH3.5以下に調整したものであり、前記接着層が前記ガスバリアコート剤の酸性成分を中和する性質を有するものであることを特徴とする、フィルム積層体の製造方法。
【請求項2】
前記接着層を形成する接着剤が、2液型ウレタン系接着剤からなり、該接着剤中の主剤のヒドロキシル基と硬化剤のイソシアナート基の比が1:50〜100であることを特徴とする、請求項1記載のフィルム積層体の製造方法。
【請求項3】
前記ガスバリアコート剤が、一般式[1](式中、Rは同一でも異なってもよい炭素数1〜4のアルキル基を、nは0〜10の整数を表す。)で表される珪素アルコキシド及び/又は珪素アルコキシド重縮合物の加水分解物と、ポリビニルアルコールとを含有する(珪素アルコキシド及び/又は珪素アルコキシドの重縮合物の加水分解物から生成する珪素酸化物と、ポリビニルアルコールの重量比が50/50〜80/20)水性溶液であって、pH3.5以下に調整したものである、請求項1又は2に記載のフィルム積層体の製造方法。
【化1】

【請求項4】
請求項1〜3いずれか一項の製造方法により得られるフィルム積層体。

【公開番号】特開2009−280714(P2009−280714A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134877(P2008−134877)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】