説明

ガス供給装置

【課題】樹脂製のタンクに対しても高圧ガスを急速充填可能なガス供給装置を提供すること。
【解決手段】本発明のガス供給装置1は,ガス製造装置11で製造されたガスを蓄ガス器13から供給先である高圧タンク16へ供給するガス供給装置1であって,蓄ガス器13から出力されたガスを高温ガスと低温ガスに分離して別々に排出するボルテックスチューブ14と,ボルテックスチューブ14から排出された高温ガスを放熱させる放熱用熱交換器15と,ボルテックスチューブ14から排出された低温ガスと放熱用熱交換器15を通過したガスとが合流する合流部25とを有し,合流部で合流したガスを高圧タンク16へ供給するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えば,燃料電池自動車等へ燃料である水素ガスを供給する水素供給ステーション等に設けられるガス供給装置に関する。さらに詳細には,圧縮したガスを貯蔵する貯蔵タンクから高圧タンクへガスを供給するガス供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば,燃料電池自動車に水素ガスを供給するための水素供給ステーションでは,都市ガス等から水素ガスを製造して貯蔵しておき,燃料電池自動車等に搭載されているタンク(車載タンク)に供給する。このようなガス供給装置100は,その概略を図14に示すように,ガス製造装置101,圧縮機102,蓄ガス器103,弁104を有している。車載タンク等の高圧タンク105に接続されて使用される。ガス製造装置101で製造されたガスは,圧縮機102によって例えば40MPaG以上に圧縮されて,蓄ガス器103に貯蔵されている。高圧タンク105は,一般にガス残量が少なくなった状態でこのガス供給装置100に接続され,例えば30MPaG程度の高圧までガスが充填される。
【0003】
自動車の車載タンク等では,樹脂等の耐熱性のやや低い材質が部分的に使用される場合があり,そのため,車載タンクに許容される温度範囲は,例えば−40〜82℃のように設定されている。それに対し一般に,水素等の高圧ガスを低圧状態の容器に急速充填すると、容器内においてガス温度が上昇することが分かっている。例えば,発明者らの試算では,蓄ガス器103の温度を25℃,圧力を40MPaとし,高圧タンク105の初期圧力を0.7MPaとすると,水素ガスを急速充填した場合の高圧タンク105の内部温度は153℃程度まで上昇する。この温度は,上記の許容される温度範囲を大きく超えている。
【0004】
そのため,従来のガス供給装置100では,高圧タンク105に充填する際の水素ガスの流量または充填ガス圧力をある程度まで制限することにより,温度上昇を抑えるようにしている。あるいは,高圧タンクの前に冷却用熱交換器を備えて,ガスを冷却しつつ充填する燃料充填装置が開示されている(例えば,特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−132401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,前記した従来のガス供給装置では,次のような問題点があった。まず,充填するガスの流量を制限する方法は,高圧タンク105への充填時間が長くかかることとなり好ましくない。また,充填ガスの圧力を制限すると,高圧タンク105の到達ガス圧力が低くなり,充填できるガスの量が減ってしまう。また,特許文献1に記載の技術では,高圧タンク105前のガスは,大気温度か冷却水温度程度までしか冷却されず,充填時の温度上昇幅と比較するとこの程度の冷却では不十分である。そのため,この技術によっても,やはりある程度ガス流量を制限する必要があるという問題点があった。
【0006】
本発明は,前記した従来のガス供給装置が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,樹脂製のタンクに対しても高圧ガスを急速充填可能なガス供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題の解決を目的としてなされたガス供給装置は,供給元ガス容器から供給先へガスを供給するガス供給装置であって,供給元ガス容器から出力されたガスを高温ガスと低温ガスに分離して別々に排出する高低温分離器と,高低温分離器から排出された高温ガスを放熱させる放熱器と,高低温分離器から排出された低温ガスと放熱器を通過したガスとが合流する合流部とを有し,合流部で合流したガスを供給先へ供給するものである。
【0008】
本発明によれば,供給元ガス容器から出力されたガスは,高低温分離器で高温ガスと低温ガスとに分離される。そのうちの高温ガスは放熱器で放熱されるので,ある程度降温される。さらに,この降温された高温ガスと低温ガスとが合流部で合流されるので,合流後のガスは十分低温なものとなる。従って,供給先へ供給されるガスは十分低温に降温されているので,供給先へ供給された後も,タンクの仕様上要求される程度には低温状態とすることが容易にできる。従って,樹脂製のタンクに対しても高圧ガスを急速充填可能なガス供給装置となっている。
【0009】
さらに本発明では,供給元ガス容器から高低温分離器をバイパスして供給先へガスを導くバイパス供給路を有することが望ましい。
このバイパス供給路があれば,高低温分離器を使用する必要がない場合には,高低温分離器をバイパスして供給元ガス容器から直接ガスを供給できる。
【0010】
また,本発明は,供給元ガス容器から供給先へガスを供給するガス供給装置であって,供給元ガス容器から出力されたガスを高温ガスと低温ガスに分離して別々に排出する高低温分離器と,高低温分離器から排出された高温ガスを供給元ガス容器へ戻す戻し路と,高低温分離器から排出された低温ガスを供給先へ導く低温ガス供給路と,供給元ガス容器から高低温分離器をバイパスして供給先へガスを導くバイパス供給路とを有するガス供給装置であってもよい。
本発明によれば,低温ガス供給路とバイパス供給路とを有するので,供給先のガス圧力等に応じて,高低温分離器を使用するかどうかを選択できる。さらに,戻し路を有するので,高低温分離器から排出された低温ガスのみを供給先へ供給できるとともに,高温ガスを再利用できる。
【0011】
さらに本発明では,高低温分離器は,供給元ガス容器から出力されたガスを渦状に内室に吹き込み,渦の外周部から高温ガスを取り出し,渦の中心部から低温ガスを取り出すボルテックスチューブであることが望ましい。
このようなものであれば,渦の外周部にあるガスは断熱圧縮に近い状態となるので高温になるとともに,渦の中心部にあるガスは断熱膨張に近い状態となるので低温になる。従って,このようなボルテックスチューブを用いることで,ガスを高温ガスと低温ガスとに分離することが出来る。
【0012】
さらに本発明では,供給先のガス圧力が所定の上限値未満であるときには高低温分離器を通してガス供給を行い,供給先のガス圧力が所定の上限値を超えているときには高低温分離器をバイパスしてガス供給を行う制御部を有することが望ましい。
供給先のガス圧力が所定の上限値を超えていれば,高圧のガスを充填することによる温度上昇の程度は小さい。従って,この場合には高低温分離器をバイパスした方が,速く充填することができる。
【0013】
さらに本発明では,供給元のガス温度が所定の下限値以上であるときには高低温分離器を通してガス供給を行い,供給元のガス温度が所定の下限値未満であるときには高低温分離器をバイパスしてガス供給を行う制御部を有することが望ましい。
供給元のガス温度が所定の下限値未満であれば,高圧のガスを急速充填することによって温度上昇したとしても供給先の許容温度以内とすることができる。従って,この場合には高低温分離器をバイパスした方が,速く充填することができる。
【0014】
さらに本発明では,高低温分離器は,排出する高温ガスおよび低温ガスの流量比が固定されたものであり,供給元ガス容器から出力されるガスの温度センサと,供給元ガス容器から出力されるガスの流量調整弁とを有し,制御部は,高低温分離器を通して供給先へガス供給した場合の供給先における最高到達温度を,流量調整弁についてあらかじめ定められた複数水準の流量ごとに算出し,最高到達温度が許容値を超えない範囲内で最大の流量を決定し,決定された流量により高低温分離器を通してのガス供給を行うことが望ましい。
このようになっていれば,供給先の最高到達温度が許容値を超えない範囲内で最大の流量が決定されるので,許容範囲で最大速度の充填が可能である。
【0015】
さらに本発明では,供給元ガス容器から出力されるガスの温度センサと,高低温分離器における高温ガスに対する低温ガスの排出流量の比または差を調整する流量配分調整弁とを有し,制御部は,高低温分離器を通して供給先へガス供給した場合の供給先における最高到達温度を,流量配分調整弁についてあらかじめ定められた複数水準の流量比または流量差ごとに算出し,最高到達温度が許容値を超えない範囲内で最大の流量比または流量差を決定し,決定された流量比または流量差により高低温分離器を通してのガス供給を行うことが望ましい。
このようになっていれば,供給先の最高到達温度が許容値を超えない範囲内で最大の流量が決定されるので,許容範囲で最大速度の充填が可能である。なお,ここでの流量比とは,高低温分離器から排出される(低温ガスの流量)/(高温ガスの流量)を表す。また流量差とは,(低温ガスの流量)−(高温ガスの流量)を表す。
【発明の効果】
【0016】
本発明のガス供給装置によれば,樹脂製のタンクに対しても高圧ガスを急速充填可能となっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
「第1の形態」
以下,本発明を具体化した第1の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,高圧で貯蔵されているガスを,高圧タンクに充填供給するガス供給装置に本発明を適用したものである。
【0018】
本形態のガス供給装置1は,図1に示すように,ガス製造装置11,圧縮機12,蓄ガス器13,ボルテックスチューブ14,放熱用熱交換器15を有している。そして,車載タンク等の高圧タンク16に接続されて使用される。ガス製造装置11は,例えば,都市ガスの改質によって水素ガスを製造する装置であり,低圧ガス配管等を含んでいる。このガス製造装置11で製造されたガスは低圧状態にあり,圧縮機12によって高圧ガスとされて,蓄ガス器13に一旦貯蔵される。蓄ガス器13は,例えば複数の高圧タンクを有し,圧縮機12によって40MPaG程度にされた高圧ガスが貯蔵される。これらのガス製造装置11,圧縮機12,蓄ガス器13は,いずれも従来のものと同様である。
【0019】
さらに,蓄ガス器13は,ガス管21によってボルテックスチューブ14のガス入口14aに接続され,この約40MPaGの高圧ガスがボルテックスチューブ14に導かれる。ボルテックスチューブ14には2つのガス出口14b,14cがあり,ガス出口14bにはガス管22が,ガス出口14cにはガス管23がそれぞれ接続されている。ガス管23には,さらに放熱用熱交換器15が接続されている。さらに,放熱用熱交換器15のガス出口に接続されたガス管24は,合流部25においてガス管22と接続されている。さらに,合流部25には,ガス供給装置1からガスの供給をうける高圧タンク16に接続するためのガス管26が接続されている。
【0020】
ここで,ボルテックスチューブ14は,後述するように,ガス入口14aから入力された高圧ガスを,そのガス圧力を利用して低温ガスと高温ガスとに分離するものである。そして,低温ガスをガス出口14bから,高温ガスをガス出口14cから出力する。ガス出口14cから出力された高温ガスは,ガス管23を介して放熱用熱交換器15に入力される。放熱用熱交換器15は,空気や水等の熱媒体との熱交換により入力された高温ガスから放熱させ,常温程度まで温度低下させるものである。ガス出口14cから出力されたガスは高温となっているので,大気へ排熱させるだけでも十分な効果がある。従って,放熱用熱交換器15としては特段の冷却装置は不要である。また,ガス管22は低温ガスの温度を保持するため,外気との熱交換が行われにくいものを使用する。
【0021】
次に,ボルテックスチューブ14について説明する。ボルテックスチューブ14は,その概略を図2に示すように略円管状の部材であり,入力された高圧ガスから,高温ガスと低温ガスとを得る装置である。ボルテックスチューブ14の長手方向の一端寄りにガス入口14aが設けられ,長手方向両端部には2つのガス出口14b,14cを有している。なお,図2に示すように,ガス出口14bはボルテックスチューブ14の中心軸部分に開口し,ガス出口14cは円周部に円環状に開口している。さらに,ガス出口14cには,ボルテックスチューブ14の軸方向に移動可能な流路調整部材14dが配置され,これによって開口断面積がある程度変更可能にされている。
【0022】
使用時には,このボルテックスチューブ14のガス入口14aから高圧ガスを流入させる。ガス入口14aは,図3に示すように,その内周側に隔壁14eを有し,隔壁14eには半径方向に対して斜めに設けられた複数のノズル14fが設けられている。従って,ガス入口14aから流入したガスは,一旦隔壁14eの外周側に入った後,複数のノズル14fから隔壁14eの内周側へ斜めに吹き込まれる。これにより,ガス入口14aから入力されたガスがボルテックスチューブ14の内周面に沿って螺旋状に流れ込み,流れ込んだガスはガス圧力によって螺旋状に高速で旋回しながら円環状のガス出口14cへ向かう。この旋回によって,内壁近傍のガス部分は断熱圧縮されたに近い状態となり,高温ガスとなってガス出口14cから流出する。
【0023】
一方,高温ガスの旋回流によって,ボルテックスチューブ14の中心軸付近のガスは,断熱膨張されたに近い状態となるため低温ガスとなる。そして,流路調整部材14dによって図2中右方への流出は妨げられているので,反転して図2中左方へ流れる。従って,低温ガス部分はガス出口14bから流出する。すなわち,ボルテックスチューブ14を用いることにより,ガス出口14cからは高温ガスが,ガス出口14bからは低温ガスが得られる。このときガス出口14cの流路断面積が流路調整部材14dによって小さくされていれば,それだけ高温ガスの流出量が減り,それにつれて低温ガスの流量が増えることになる。
【0024】
ボルテックスチューブ14では,入力されるガスの圧力や,出力させる高温ガスと低温ガスとの流量比率等によって,出力される高温ガスと低温ガスとの温度(あるいは,入力ガス温度との温度差)が決定される。例えば,1MPa程度の圧縮空気を入力ガスとして用いた場合,低温ガス:高温ガス=80%:20%の流量比で出力させると,低温ガスの温度が(入力ガスの温度−31.4℃),また高温ガスの温度が(入力ガスの温度+107.2℃)となるものが市販されている。一般にボルテックスチューブ14では,入力ガスの圧力が高いほど,また低温ガスの比率が低いほど出力される低温ガスの温度は低くなる。
【0025】
本形態では,ガス入口14aから入力させる高圧ガスとして,蓄ガス器13に貯蔵されている約40MPaの水素ガスを用いる。従って,上記の例に比較して入力ガスの圧力が非常に大きく,より低温の出力ガスが得られると考えられる。また,上記の例とは,空気と水素という動作流体の違いがあるが,伝熱と流体に関する無次元数(Re,Pr数など)が同じならば,ボルテックスチューブは同じ性能値を示すという報告(STEPHAN K.ら,“A SIMILARITY RELATION FOR ENERGY SEPARATION IN A VORTEX TUBE”,1984)がある。従って,設計の工夫により,少なくとも上記の例と同等程度の出力温度差が得られるボルテックスチューブ14を製造することは可能である。
【0026】
次に,本形態のガス供給装置1によるガス供給方法について説明する。ガス製造装置11で製造された水素ガスは,圧縮機12によって40MPa程度まで圧縮された状態で,蓄ガス器13に貯留されている。ガスの供給を受けるために高圧タンク16が接続されると,水素ガスはガス管21を介して,蓄ガス器13からボルテックスチューブ14へ入力される。そして,ボルテックスチューブ14によって,高温ガスと低温ガスとに分離される。
【0027】
ガス出口14cから出力された高温ガスは,ガス管23を介して放熱用熱交換器15を通過し,放熱されることにより常温程度まで降温される。そして,常温程度にされたガスはガス管24を介して合流部25へ至る。一方,ガス出口14bから出力された低温ガスは,ガス管22を介し低温を保って合流部25へ至る。合流部25において,これらのガスが混合される。ここで,ボルテックスチューブ14における低温ガスの比率等を調整することにより,この合流部25での混合ガスの温度を適度に低いものとできる。そして,この低温の混合ガスがガス管26を介して高圧タンク16へと供給される。
【0028】
本形態では,ボルテックスチューブ14を用いているので,高圧水素ガスを比較的低圧の高温の水素ガスと低温の水素ガスとに分離することが出来る。このとき使用されるエネルギーは,もとの水素ガスが有していた圧力エネルギーのみであり,従来の方法では捨てられていたエネルギーである。従って,ボルテックスチューブ14を用いることにより,圧力エネルギーを有効利用してガス温度を下げることが可能となった。
【0029】
例えば,上記の例のように,低温ガス:高温ガス=80%:20%の流量比で低温ガスの温度が(入力ガスの温度−31.4℃)とできるとする。この場合,蓄ガス器13の温度が25℃であれば,合流部25における混合ガスの温度は2℃程度とできる。もしこれと同等の冷却能力を通常のチラーで得るためには,1kmol/minの急速充填をする場合,18kW程度の冷却能力が必要となる。本形態ではこれを節約できるのである。
【0030】
以上詳細に説明したように本形態のガス供給装置1によれば,高圧ガスを貯蔵する蓄ガス器13とガスが充填される高圧タンク16との間に,ボルテックスチューブ14が設けられているので,高圧ガスは高圧タンク16に流入する前に十分冷却される。従って,高圧タンク16に急速充填することである程度温度上昇しても,その上限温度は低く抑えることができる。これにより,樹脂製のタンクに対しても高圧ガスを急速充填可能なガス供給装置1となっている。
【0031】
次に,本発明を具体化した第2〜5の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。これらの形態は,第1の形態をさらに現実的なものとして,そのいくつかのバリエーションを展開したものである。第1の形態と同一の部材については同じ符号を付して説明を省略する。
【0032】
「第2の形態」
本形態のガス供給装置2は,図4に示すように,ガス製造装置11,圧縮機12,蓄ガス器13,ボルテックスチューブ14を有している。そして,車載タンク等の高圧タンク16に接続されるディスペンサ17を有している。なお,本形態では蓄ガス器13をより詳しく示している。すなわち,高圧バンク13a,低圧バンク13bを有し,それぞれの出口に遮断弁13c,13dが設けられたものを図示している。これは,一般的に用いられる蓄ガス器の構成であり,ガス製造装置11で製造され圧縮機12で圧縮されたガスを,一時的に貯蔵して供給するものである。
【0033】
また,本形態では,蓄ガス器13の下流に温度計(T)31が備えられ,蓄ガス器13からの出力ガス温度が測定される。また,ディスペンサ17に温度計(T)32と圧力計(P)33とが備えられ,このガス供給装置2から高圧タンク16へ出力されるガスの温度と圧力とが測定される。ディスペンサ17に高圧タンク16が接続されていれば,高圧タンク16内のガスの温度と圧力とを測定できる。また,ボルテックスチューブ14の入力口14aの上流に流量計(F)34が備えられ,ボルテックスチューブ14に入力されるガス流量が測定される。
【0034】
また,この流量計34の出口側には分岐部35が設けられ,その分岐部35によって分岐された一方のガス管36は遮断弁37を介して合流部38に至る。この合流部38はディスペンサ17に接続されている。また,分岐部35によって分岐された他方のガス管41は,ボルテックスチューブ14のガス入口14aに接続されている。そして,低温ガス用のガス出口14bは,ガス管42に接続され,遮断弁43を介して合流部38に接続されている。一方,高温ガス用のガス出口14cにはガス管44が接続されている。さらに,この高温ガス用のガス出口14cは,バッファタンク45及びその上流側の圧力調整弁46を介して,圧縮機12のガス入口に接続されている。さらに,蓄ガス器13の出口と流量計34との間には,流量調整弁51が備えられている。ここで,このガス管36がバイパス供給路に,ガス管42が低温ガス供給路に,ガス管44が戻し路に,それぞれ相当する。
【0035】
すなわち,図中に白矢印で示すように,ガス製造装置11で製造されたガスは圧縮機12で圧縮されて蓄ガス器13の2つのタンクに貯蔵される。ディスペンサ17に高圧タンク16が接続されてガスの供給が要求されると,蓄ガス器13の遮断弁13cまたは13dが開放されて,ガスが出力される。このとき,高圧タンク16の温度や圧力等に応じて,遮断弁37または43のいずれかが開放されることにより,蓄ガス器13からのガスがそのまま供給されるか(遮断弁37:開,43:閉)または,ボルテックスチューブ14を介して供給されるか(遮断弁37:閉,43:開)が選択される。また,流量調整弁51でガス流量が調整される。さらに,ボルテックスチューブ14の使用が選択された場合には,その高温側の出力ガスは,圧力調整弁46を介してバッファタンク45に一旦貯蔵され,適時に圧縮機12のガス入口へ戻される。
【0036】
このように制御するために,このガス供給装置2は,その全体を司るコントローラ55を有している。このコントローラ55は,温度計31,32,圧力計33,流量計34の検出結果を受けて,流量調整弁51,遮断弁37,43,圧力調整弁46をそれぞれ制御する。そして,最も短時間で高圧タンク16にガスを充填できるように,ガスの流通経路およびその流量を制御する。以下では高圧タンク16の入口に入力されるガス流量を,充填ガス流量という。なお,蓄ガス器13中の遮断弁13c,13dについても,このコントローラ55によって制御しても良い。あるいは,蓄ガス器13に別の制御装置を備えて制御しても良い。
【0037】
次に,最も短時間でのガス充填を行う方法について説明する。この充填方法は,供給先である高圧タンク16のガス残圧Ptによって異なる。これは,従来の問題点としても説明したように,高圧ガスを低圧状態の容器に急速充填した場合に、容器内においてガス温度が上昇するのであり,高圧タンク16にある程度以上のガスがもともとあればガス温度の上昇はさほどではないからである。また,実際問題として,高圧タンク16の残圧は1台1台ちがうものである。
【0038】
すなわち,最初から高圧タンク16にある程度以上のガスが残っていれば,あるいは,充填によって高圧タンク16にある程度までガスが溜まれば,その後のガス充填に関してはガス温度等に考慮する必要はなく,蓄ガス器13の高圧ガスをそのまま急速充填してかまわない。このときの高圧タンク16のガス残圧Ptをここではボルテックス使用上限圧Pmaxという。高圧タンク16のガス残圧Ptがボルテックス使用上限圧Pmax以上であれば,ボルテックスチューブ14を使用する必要はない。なお,これより明らかなように,ボルテックス使用上限圧Pmaxとは,ボルテックスチューブ14自体の耐圧のことではない。
【0039】
またこの充填方法は,供給元である蓄ガス器13内のガス温度によっても異なる。これは,供給元の蓄ガス器13内のガス温度(一般には外気温度に等しい)が,例えば氷点下等である場合など,所定の温度未満であれば急速充填によってガス温度が上昇しても,高圧タンク16の許容温度を超えることはない。従って,この場合も蓄ガス器13の高圧ガスをそのまま急速充填してかまわない。このときの蓄ガス器13のガス温度Toをここではボルテックス使用下限温度Tminという。外気温度がボルテックス使用下限温度Tmin未満であれば,ボルテックスチューブ14を使用する必要はない。
【0040】
一方,高圧タンク16のガス残圧Ptがボルテックス使用上限圧Pmaxより小さく,かつ,蓄ガス器13内のガス温度(外気温度)Toがボルテックス使用下限温度Tmin以上である場合には,高圧ガスをそのまま急速充填できないので,ボルテックスチューブ14を使用して温度を低下させたガスを充填する。このとき,第1の形態でも説明したように,ボルテックスチューブ14の性質上,入力ガスと出力ガスとの圧力の差が大きいほど,また出力ガスのうちの低温ガスの流量比率が低いほど出力される低温ガスの温度は低くなる。
【0041】
ここで,ボルテックスチューブ14に入力されるガス圧力(以下では,入力ガス圧力という)は最大で蓄ガス器13の圧力である。本形態では,入力ガス圧力は流量調整弁51によって制御される。また,ボルテックスチューブ14使用時の低温側のガス出口14bから出力されるガス圧力(以下では,出力ガス圧力という)は高圧タンク16のガス残圧Ptに等しいため,入力ガス圧力との圧力比(あるいは差)はガス充填とともに変化する。なお,高温側から出力されるガス圧力は,圧力調整弁46によって低温側と合わせられている。以下では,入力ガス圧力と出力ガス圧力との圧力比(あるいは差)を入口出口圧力比という。
【0042】
また,ボルテックスチューブ14の出力低温ガスの温度は入力ガス温度および低温ガスと高温ガスとの流量比率によって変化する。以下では,ボルテックスチューブ14から出力される低温ガス流量の高温ガス流量に対する比率を,冷温ガス流量比率という。この冷温ガス流量比率はボルテックスチューブ14の流路調整部材14d(図2参照)の配置によって変更できる。本形態では,ボルテックスチューブ14の冷温ガス流量比率は,所定の一定比率に固定されている。
【0043】
そこで本形態では,そのときの高圧タンク16のガス圧力に応じて,充填ガス流量が最大となる入力ガス圧力を求める。もちろん入力ガス圧力が大きいほど充填ガス流量は大きくなるが,その分,高圧タンク16の温度上昇も大きい。そこで,高圧タンク16の温度が許容範囲内となる最大の入力ガス圧力を求めるのである。このようなタンクへのガス充填処理では,入力前のタンクの圧力と温度,および入力されるガスの温度と流量とが与えられれば,最大上昇温度を算出できる充填温度計算法が確立されている。そこで,入力ガス圧力を最大値から少しずつ小さくして最大上昇温度が許容範囲内となる最初の入力ガス圧力を求めることにより,最適な流量調整弁51の開度が得られる。
【0044】
次に,上記の処理を具体化した本形態のガス供給装置2の使用方法について,図5のフローチャートに基づいて説明する。本処理は,ガスの供給を受けようとする自動車等の高圧タンク16が,このガス供給装置2に接続されることによって開始される。このとき,すべての遮断弁37,43および流量調整弁51は閉止されている。高圧タンク16が接続されると,まず,圧力計33によってディスペンサ17の圧力を測定する(S101)。ここでは,高圧タンク16がディスペンサ17に接続されているので,これによりタンク残圧Ptが測定できる。また,そのときの外気温度To(高圧タンク16の温度)を温度計32によって計測する(S102)。
【0045】
次に,S101で測定されたタンク残圧Ptがボルテックス使用上限圧Pmaxより小さく,かつ,外気温度Toがボルテックス使用下限温度Tmin以上であるかどうかを判断する(S103)。上記したように,タンク残圧Ptとボルテックス使用上限圧Pmaxとの大小関係および,外気温度Toとボルテックス使用下限温度Tminとの大小関係が,ボルテックスチューブ14を使用するかどうかの分岐点となる。すなわち,タンク残圧Ptがボルテックス使用上限圧Pmax以上であるか,または,外気温度Toがボルテックス使用下限温度Tmin未満である場合には(S103:No),ボルテックスチューブ14を使用せず,蓄ガス器13から直接急速充填できる。この場合の処理については後述する。
【0046】
一方,タンク残圧Ptがボルテックス使用上限圧Pmaxより小さく,かつ,外気温度Toがボルテックス使用下限温度Tmin以上である場合には(S103:Yes),ボルテックスチューブ14を使用して充填する方がより速くガスを充填できる。そこで,高圧タンク16の温度上昇が許容範囲内であって,最大の充填ガス流量が得られる流量調整弁51の開度を求める。なおこの形態では,冷温ガス流量比率は一定である。
【0047】
そのために,整数nをパラメータとして,入力ガス圧力を最大値から少しずつ下げ,温度上昇が許容範囲内となる最初の入力ガス圧力を求める。入力ガス圧力の最大値Pimaxは,流量調整弁51を最大開度としたときの圧力であり,蓄ガス器13のガス圧力に等しい。すなわち,nにおける入力ガス圧力Pi(n)の算出の初期値としては,Pi(0)=Pimaxとすればよい(S104)。また,ボルテックスチューブ14使用時の出力ガス圧力はタンク残圧Ptに等しい。これらから,入力ガス圧力と出力ガス圧力との比(以下では,入口出口圧力比という)が求められる(S105)。
【0048】
ボルテックスチューブ14では,入力ガスの温度と出力低温ガスの温度との温度差は,入口出口圧力比および冷温ガス流量比率との間に所定の関係がある。そこで,コントローラ55にはあらかじめ,図6に示すように,冷温ガス流量比率と温度差との関係を示すグラフを入口出口圧力比ごとに記憶している。そのうちから,S105で求められた入口出口圧力比に合致するグラフを選択する(S106)。さらに,本形態では冷温ガス流量比率は所定の値に固定されているので,このグラフから温度差が得られる。入力ガス温度は,S102で計測した外気温度Toに等しいので,得られた温度差によって出力される低温ガスの温度を得ることができる(S107)。
【0049】
また,ボルテックスチューブ14の入力ガス圧力Pi(n)と冷温ガス流量比率とから,高圧タンク16へ入力される充填ガス流量が求められる。この充填ガス流量とS107で求められたガス温度とを用いて充填温度計算を行い,高圧タンク16内の温度が到達する最大上昇温度T(n)を算出する(S108)。この温度には,一般に充填開始から比較的早い時間で到達する。
【0050】
そこで,最大上昇温度T(n)が高圧タンク16に許容される最高許容温度Tmaxより小さいかどうかを判断する(S109)。高圧タンク16が最高許容温度Tmax以上となるのであれば,この条件での充填はできない。そこで,nをインクリメントして,新たな入力ガス圧力Pi(n)を設定する。ここでは,あらかじめ決定されている所定の一段階圧力差pを用いて,前回の入力ガス圧力より圧力pだけ小さいものとする(S110)。ただし,入力ガス圧力Pi(n)は,タンク残圧Ptより大きくなければ充填できない。
【0051】
そして,この新たなPi(n)を用いて,S105〜S108を再び行う。これにより,この入力ガス圧力Pi(n)における低温ガス温度から最大上昇温度T(n)が求められるので,この温度を最高許容温度Tmaxと比較する(S109)。こうして,入力ガス圧力を少しずつ下げて,最大上昇温度T(n)が最高許容温度Tmaxより小さくなったら(S109:Yes),これが充填ガス流量が最大となる条件である。そこで,このときの入力ガス圧力Pi(n)から,充填ガス入力流量が求められる(S111)。そしてこれより,適切な流量調整弁51の開度が決定される(S112)。
【0052】
そこで,コントローラ55によって遮断弁43を開放して,遮断弁37を遮断する。また,流量調整弁51を決定された開度に制御し,ボルテックスチューブ14を利用してガス充填を開始する(S113)。ある程度充填したら,再び圧力計33による検出を行い,タンク残圧Ptをボルテックス使用上限圧Pmaxと比較する(S114)。タンク残圧PtがまだPmaxに到達していなければ,S104〜S112を再び行い,新たに設定された流量調整弁51の開度によってガス充填を続行する(S113)。このようにして,タンク残圧PtがPmaxに到達するまで,徐々に流量調整弁51の開度を大きくする。
【0053】
タンク残圧PtがPmaxに到達したら(S103:NoまたはS114:No),以後は温度上昇を考慮することなく急速充填してもかまわない。そこで,流量調整弁51を最大開度とし,遮断弁43と圧力調整弁46を遮断して,遮断弁37を開放する。これにより,ボルテックスチューブ14を使用せず,ガス管36を介して蓄ガス器13から直接高圧タンク16へガス充填される(S115)。このときの充填ガス流量は,蓄ガス器13と高圧タンク16との圧力差やガス管等の設備によって決定される。
【0054】
そして,タンク残圧Ptが,所定の終了圧力Pendを超えるまで(S116:No),充填を継続する。そして,所定の終了圧力Pendを超えたら(S116:Yes),充填終了する(S117)。そして,遮断弁37と流量調整弁51とを遮断し,高圧タンク16をガス供給装置2から切り離す。以上で,この処理の説明を終了する。
【0055】
このようにすれば,図7に示すように,従来の方法に比較して短時間で充填することができる。この図において,実線La,Lcで示したのが本形態の充填方法による充填状況であり,破線Lb,Ldで示したのがボルテックスチューブ14を使用しない従来の方法による充填状況である。この図に示すように,ボルテックスチューブ14を使用することにより,ボルテックス使用上限圧Pmaxに到達するまでの充填時間がかなり短縮されている。これは,ボルテックスチューブ14によって低温化されたガスを充填しているため,ガス流量を比較的大きくできるからである。
【0056】
以上詳細に説明したように本形態のガス供給装置2によれば,第1の形態と同様に,樹脂製のタンクに対しても高圧ガスを急速充填可能なガス供給装置2となっている。
【0057】
「第3の形態」
本形態のガス供給装置3は,図8に示すように,ガス製造装置11,圧縮機12,蓄ガス器13,ボルテックスチューブ14を有している。そして,車載タンク等の高圧タンク16に接続されるディスペンサ17を有している。本形態のガス供給装置3は,第2の形態のガス供給装置2に比較して,流量調整弁51が省略され,代わりに流量調整弁52が追加されているものである。従って,ボルテックスチューブ14のガス入口14aへの入力ガス圧力は,蓄ガス器13のガス圧力によって決定される。一方で,ボルテックスチューブ14の冷温ガス流量比率は,流量調整弁52によって変更可能にされている。その意味で,この流量調整弁52が流量配分調整弁に相当する。
【0058】
次に,本形態のガス供給装置3の使用方法について,図9のフローチャートに基づいて説明する。本処理は,ガスの供給を受けようとする自動車等の高圧タンク16が,このガス供給装置3に接続されることによって開始される。初めのS201〜S203については,第2の形態のS101〜S103と同一の処理である。また,終わりのS215〜S217は,第2の形態のS115〜S117と同一の処理である。そこで,その間のS204〜S324について説明する。
【0059】
ボルテックスチューブ14を使用して充填する場合,本形態では,ボルテックスチューブ14のガス入口14aへの入力ガス圧力は決まっているので,タンク残圧Ptからボルテックスの入口出口圧力比が算出できる(S204)。なお,ガス出口14cの圧力は,圧力調整弁46によってガス出口14bの圧力とほぼ等しくなるように制御される。さらに,その算出された入口出口圧力比に基づいて,図6に示したような,冷温ガス流量比率と低温ガスの温度差とのグラフを選択する(S205)。
【0060】
次に,整数nをパラメータとして,温度上昇が許容範囲内となる最大の冷温ガス流量比率を求める。まず,冷温ガス流量比率の初期値をn=0,V(0)=Vmaxとする(S206)。これは,ボルテックスチューブ14の冷温ガス流量比率を最大とする,すなわち,最大量の低温ガスを出力させるという意味であり,入力ガスのうち80%以上を低温ガスとして出力させることに相当する。ボルテックスチューブ14の性質上,入力流量の全量を低温ガスとすることはできない。次に,S204で選択されたグラフ上で,S206で得られたV(n)に対応する温度差値を読み取り,外気温度との差から出力低温ガスの温度を得る(S207)。
【0061】
次に,上記の冷温ガス流量比率V(n)から充填ガス流量が求められ,この充填ガス流量とS207で得られたガス温度とから,充填温度計算によってタンク内最大上昇温度T(n)を算出する(S208)。そして,最大上昇温度T(n)が高圧タンク16に許容される最高許容温度Tmaxより小さいかどうかを判断する(S209)。高圧タンク16が最高許容温度Tmax以上となるのであれば,この条件での充填はできない。そこで,nをインクリメントして,低温ガスの出力比率を1段階小さくする。すなわち,低温ガスの流量を所定量減らし,その分高温ガスの流量が増えることになる。このように,あらかじめ設定されている一段階比率差vを用いて,冷温ガス流量比率V(n)を1段階小さくし(S210),グラフから再び出力低温ガスの温度を得る(S207)。
【0062】
そして再び,充填温度計算によってタンク内最大上昇温度T(n)を算出し(S208),最高許容温度Tmaxより小さいかどうかを判断する(S209)。こうして,冷温ガス流量比率V(n)を少しずつ下げて,最大上昇温度T(n)が最高許容温度Tmaxより小さくなるnを見つけたら(S209:Yes),その条件で充填ガス流量とそのガス温度の組み合わせを決定する(S211)。さらに,そのときの冷温ガス流量比率から流量調整弁52の開度を決定する(S212)。
【0063】
そして,コントローラ55によって遮断弁43を開放して,遮断弁37を遮断する。また,流量調整弁52をこのように決定された開度に制御し,ボルテックスチューブ14を使用してガス充填を行う(S213)。そして,タンク残圧Ptが所定のボルテックス使用上限圧Pmaxになるまで(S214:Yes),そのまま充填を継続する。所定のPmaxを超えたら(S214:No),各遮断弁37,43等を切り替えてボルテックスチューブ14を使用せずに充填を行う(S215)。以後の手順は,第2の形態と同様であるので,説明を省略する。
【0064】
以上詳細に説明したように本形態のガス供給装置3によれば,第1の形態と同様に,樹脂製のタンクに対しても高圧ガスを急速充填可能なガス供給装置3となっている。
【0065】
「第4の形態」
本形態のガス供給装置4は,図10に示すように,ガス製造装置11,圧縮機12,蓄ガス器13,ボルテックスチューブ14を有している。そして,車載タンク等の高圧タンク16に接続されるディスペンサ17を有している。本形態のガス供給装置4は,第2の形態のガス供給装置2に比較して,流量調整弁52が追加されているものである。すなわち,流量調整弁51と流量調整弁52とをともに有している。従って,ボルテックスチューブ14のガス入口14aへの入力ガス圧力は,流量調整弁51によって制御されるとともに,ボルテックスチューブ14の冷温ガス流量比率は,流量調整弁52によって制御される。
【0066】
次に,本形態のガス供給装置4の使用方法について,図11と図12のフローチャートに基づいて説明する。本処理は,ガスの供給を受けようとする自動車等の高圧タンク16が,このガス供給装置4に接続されることによって開始される。この処理において,求めようとしているのは高圧タンク16への充填ガス流量が最大となる流量調整弁51,52の開度である。そこで,充填ガス流量が最大となるときの冷温ガス流量比率をVx,入力ガス圧力をPxとし,そのときの充填ガス流量をRxとする。そして,これらの初期値として,いずれも0としておく。
【0067】
図11の初めのS301〜S303は,第2の形態のS101〜S103と同一の処理である。また,図12の終わりのS409〜S411は,第2の形態のS115〜S117と同一の処理である。そこで,その部分についての説明は省略する。以下では,S303でYesと判断され,ボルテックスチューブ14を使用して充填する場合について説明する。本形態では,整数mとnをパラメータとして使用する。そして,ボルテックスチューブ14の入力ガス圧力Pi(m)とボルテックスチューブ14の冷温ガス流量比率V(n)とが最適な組み合わせとなるようにm,nの組を求める。
【0068】
入力ガス圧力Pi(m)の初期値は,Pi(0)=Pimaxとする(S304)。また,ボルテックスチューブ14の出力ガス圧力はタンク残圧Ptに等しいので,ボルテックスチューブ14の入口出口圧力比が求められる(S305)。次に,図6に示した冷温ガス流量比率と温度差との関係を示すグラフから,S305で求められた入口出口圧力比に合致するグラフを選択する(S306)。一方,ボルテックスチューブ14の冷温ガス流量比率V(n)の初期値は,V(0)=Vmaxとする(S307)。そして,S306で選択されたグラフ上で,S307で得られたV(n)に対応する温度差値を読み取り,出力低温ガスの温度を得る(S308)。
【0069】
次に,高圧タンク16への充填ガス流量とS308で得られたガス温度とから充填温度計算によってタンク内最大上昇温度T(m,n)を算出する(S309)。そして,最大上昇温度T(m,n)が最高許容温度Tmax以上となるのであれば(S310:No),第2の形態と同様にnをインクリメントして,冷温ガス流量比率V(n)を1段階小さくし(S311),再び出力低温ガスの温度を得る(S308)。
【0070】
これを繰り返して,Pi(m)においてT(m,n)がTmaxを超えない最大のV(n)を決定する(S310:Yes)。さらに,得られたPi(m)とV(n)に対応する充填ガス流量Rを算出する(S312)。そして,図12の(B)へ続き,この求めたRを保管されているRxと比較する(S401)。RがRxより大きい場合は(S401:Yes),このRをRxに保管し,またPi(m)をPxに,V(n)をVxにそれぞれ保管する(S402)。
【0071】
次に,第3の形態と同様にmをインクリメントして,入力ガス圧力Pi(m)を1段階小さくする(S403)。入力ガス圧力Pi(m)がタンク残圧Ptより小さくない場合は(S404:No),図11の(C)へ戻る。そして,再びS305〜S312を実行して,このPi(m)における最大のV(n)および,これらに対応する充填ガス流量Rを決定する。再び図12の(B)へ続き,RがRxより大きい場合は(S401:Yes),このRをRxに保管し,またPi(m)をPxに,V(n)をVxにそれぞれ保管する(S402)。これにより,以前に保管されたRx,Px,Vxの値は消去される。
【0072】
これを繰り返し,入力ガス圧力Pi(m)がタンク残圧Ptより小さくなったら(S404:Yes),このとき保管されているRxが最大の充填ガス流量である。そして,このRxを得られる条件は,そのとき保管されているPx,Vxである(S405)。さらにこれらから,流量調整弁51,52の開度が決定される(S406)。決定された開度に流量調整弁51,52を制御し,遮断弁43を開放し,遮断弁37を遮断して,ボルテックスチューブ14を使用してガス充填を行う(S407)。
【0073】
ある程度充填したら,再び圧力計33による検出を行い,タンク残圧Ptをボルテックス使用上限圧Pmaxと比較する(S408)。タンク残圧PtがまだPmaxに到達していなければ(S408:No),図11の(D)へ続いて,S304に戻る。そして,図11のS304〜S312と,図12のS401〜S406を再び行い,最大の充填ガス流量を得られる条件を算出する。得られた条件となるように,流量調整弁51,52の開度を新たに制御し,ガス充填を続行する(S407)。このようにして,タンク残圧PtがPmaxに到達するまで,徐々に流量調整弁51,52の開度を大きくする。
【0074】
そして,タンク残圧Ptが所定のPmaxを超えたら(S303:NoまたはS408:No),各遮断弁37,43等を切り替えてボルテックスチューブ14を使用せずに充填を行う(S409)。以後の手順は,第2,第3の形態と同様であるので,説明を省略する。
【0075】
以上詳細に説明したように本形態のガス供給装置4によれば,第1の形態と同様に,樹脂製のタンクに対しても高圧ガスを急速充填可能なガス供給装置4となっている。
【0076】
「第5の形態」
本形態のガス供給装置5は,図13に示すように,ガス製造装置11,圧縮機12,蓄ガス器13,ボルテックスチューブ14を有している。そして,車載タンク等の高圧タンク16に接続されるディスペンサ17を有している。本形態のガス供給装置5は,第3の形態のガス供給装置3に比較して,バッファタンク45が省略され,流量調整弁52と圧力調整弁46との間に,放熱用熱交換器15を有しているものである。ボルテックスチューブ14の冷温ガス流量比率は,流量調整弁52によって制御される。また,本形態のガス経路の構成としては,第1の形態に分岐部35とガス管36とを追加したものといえる。このガス管36が,バイパス供給路に相当する。
【0077】
すなわちこの形態では,ボルテックスチューブ14のガス出口14cから出力される高温ガスはガス管23を介して放熱用交換器15に至り,例えば外気温度程度まで放熱される。さらに,ガス管24を介して合流部25に至る。ボルテックスチューブ14のガス出口14bから出力される低温ガスは,ガス管22を介して合流部25に至り,放熱後の高温ガスと合流される。従って,この形態では,高圧タンク16に入力される充填ガス流量は,ボルテックスチューブ14のガス入口14aに入力されるガス流量と等しい。なお,圧力調整弁46は,ガス管22側とガス管24側との合流部25における圧力差を解消するためのものである。
【0078】
本形態では,第3の形態と同様に,流量調整弁52の制御によってボルテックスチューブ14の冷温ガス流量比率が調整される。すなわち,本形態の使用方法は第3の形態のガス供給装置3と同様である。ただし,図6に示した流量比率と温度差との関係を示すグラフにおいて,温度差として低温ガスと放熱後の高温ガスの混合ガス温度をあらかじめ算出して設定しておく。あるいは,グラフは図6に示したものと同様のものを用い,高圧タンク16に入力される充填ガスの温度を算出する際に,放熱後の高温ガスの分を加えて算出するようにしてもよい。
【0079】
以上詳細に説明したように本形態のガス供給装置5によれば,第1の形態と同様に,樹脂製のタンクに対しても高圧ガスを急速充填可能なガス供給装置5となっている。なお,本形態のガス供給装置5のように放熱用熱交換器15を有している構成においても,上記の第2の形態から第4の形態に相当するバリエーションが展開可能である。例えば,本形態の流量調整弁52に代えて,第2の形態と同様の流量調整弁51を設けても良い。また,第4の形態と同様に流量調整弁51と流量調整弁52との両方を備えていても良い。これらのバリエーションにおける各弁の制御方法は,上記の第2の形態や第4の形態と同様である。
【0080】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。
例えば,上記の第1の形態に記載した低温ガスと高温ガスとの流量比やその温度変化幅等は一例であり,全ガス流量や外気温度等の各種条件に応じて変更しても良い。また例えば,上記の第2の形態〜第5の形態では,ボルテックスチューブ14の特性が入口出口圧力の比によるものとしたが,それらの圧力の差に基づくものであっても良い。その場合は,上記の入口出口圧力比をすべて入口出口圧力差に置き換えて実行する。さらに,第3形態〜第5形態の流量調整弁52は,ボルテックスチューブ14自体の調節機能を使用しても良い。また,流量比率とガス温度差をグラフ化して記憶するとしたが,グラフに限らず,数表としたり分岐点を数式化して記憶しても良い。また例えば,本発明は,水素ガスを自動車の車載タンクに供給する水素ステーションに限らず,他の気体を充填するものにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】第1の形態のガス供給装置を示す概略構成図である。
【図2】ボルテックスチューブの概略構成を示す断面図である。
【図3】ボルテックスチューブの概略構成を示す断面図である。
【図4】第2の形態のガス供給装置を示す概略構成図である。
【図5】第2の形態のガス供給装置の使用方法を示すフローチャートである。
【図6】圧力比ごとに用意され,流量比率とガス温度差との関係を表すグラフを示す説明図である。
【図7】経過時間と調整弁開度及び充填圧力の関係を示すグラフ図である。
【図8】第3の形態のガス供給装置を示す概略構成図である。
【図9】第3の形態のガス供給装置の使用方法を示すフローチャートである。
【図10】第4の形態のガス供給装置を示す概略構成図である。
【図11】第4の形態のガス供給装置の使用方法を示すフローチャートである。
【図12】第4の形態のガス供給装置の使用方法を示すフローチャートである。
【図13】第5の形態のガス供給装置を示す概略構成図である。
【図14】従来のガス供給装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0082】
1 ガス供給装置
13 蓄ガス器(供給元ガス容器)
14 ボルテックスチューブ(高低温分離器)
15 放熱用熱交換器(放熱器)
25 合流部
31 温度計(温度センサ)
36 ガス管(バイパス供給路)
42 ガス管(低温ガス供給路)
44 ガス管(戻し路)
51 流量調整弁
52 流量調整弁(流量配分調整弁)
55 コントローラ(制御部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給元ガス容器から供給先へガスを供給するガス供給装置において,
供給元ガス容器から出力されたガスを高温ガスと低温ガスに分離して別々に排出する高低温分離器と,
前記高低温分離器から排出された高温ガスを放熱させる放熱器と,
前記高低温分離器から排出された低温ガスと前記放熱器を通過したガスとが合流する合流部とを有し,
前記合流部で合流したガスを供給先へ供給することを特徴とするガス供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載のガス供給装置において,
供給元ガス容器から前記高低温分離器をバイパスして供給先へガスを導くバイパス供給路を有することを特徴とするガス供給装置。
【請求項3】
供給元ガス容器から供給先へガスを供給するガス供給装置において,
供給元ガス容器から出力されたガスを高温ガスと低温ガスに分離して別々に排出する高低温分離器と,
前記高低温分離器から排出された高温ガスを供給元ガス容器へ戻す戻し路と,
前記高低温分離器から排出された低温ガスを供給先へ導く低温ガス供給路と,
供給元ガス容器から前記高低温分離器をバイパスして供給先へガスを導くバイパス供給路とを有することを特徴とするガス供給装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載のガス供給装置において,前記高低温分離器は,
供給元ガス容器から出力されたガスを渦状に内室に吹き込み,渦の外周部から高温ガスを取り出し,渦の中心部から低温ガスを取り出すボルテックスチューブであることを特徴とするガス供給装置。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載のガス供給装置において,
供給先のガス圧力が所定の上限値未満であるときには前記高低温分離器を通してガス供給を行い,供給先のガス圧力が所定の上限値を超えているときには前記高低温分離器をバイパスしてガス供給を行う制御部を有することを特徴とするガス供給装置。
【請求項6】
請求項2または請求項3に記載のガス供給装置において,
供給元のガス温度が所定の下限値以上であるときには前記高低温分離器を通してガス供給を行い,供給元のガス温度が所定の下限値未満であるときには前記高低温分離器をバイパスしてガス供給を行う制御部を有することを特徴とするガス供給装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のガス供給装置において,
前記高低温分離器は,排出する高温ガスおよび低温ガスの流量比が固定されたものであり,
供給元ガス容器から出力されるガスの温度センサと,
供給元ガス容器から出力されるガスの流量調整弁とを有し,
前記制御部は,前記高低温分離器を通して供給先へガス供給した場合の供給先における最高到達温度を,前記流量調整弁についてあらかじめ定められた複数水準の流量ごとに算出し,最高到達温度が許容値を超えない範囲内で最大の流量を決定し,決定された流量により前記高低温分離器を通してのガス供給を行うことを特徴とするガス供給装置。
【請求項8】
請求項5または請求項6に記載のガス供給装置において,
供給元ガス容器から出力されるガスの温度センサと,
前記高低温分離器における高温ガスに対する低温ガスの排出流量の比または差を調整する流量配分調整弁とを有し,
前記制御部は,前記高低温分離器を通して供給先へガス供給した場合の供給先における最高到達温度を,前記流量配分調整弁についてあらかじめ定められた複数水準の流量比または流量差ごとに算出し,最高到達温度が許容値を超えない範囲内で最大の流量比または流量差を決定し,決定された流量比または流量差により前記高低温分離器を通してのガス供給を行うことを特徴とするガス供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−64473(P2007−64473A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−3568(P2006−3568)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(000221834)東邦瓦斯株式会社 (440)
【Fターム(参考)】