説明

ガス充填装置およびガス充填方法

【課題】ガスの消費量を低減できるガス充填装置およびガス充填方法を提供する。
【解決手段】接続配管5に配置したチップ管3を介して封入容器2内の気体を真空排気し、チップ管3を介して封入容器2に低圧の封入ガスを充填し、チップ管3を溶断して封入容器2を封止した後、接続配管5に、封入ガスと異なる代替ガスを導入して、接続配管5を略大気圧に復圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス充填装置およびガス充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイ用のパネル(PDP)は、2枚のガラスの隙間に発光ガスを封入する必要がある。パネルに発光ガスを封入する充填装置では、発光ガスのヘッダである供給配管の末端に設けた接続配管にパネルを接続し、供給配管、接続配管およびパネルの内部を真空排気してから、供給配管に発光ガスを供給して接続配管を介してパネルに発光ガスを導入し、パネルを封止する。
【0003】
例えば特許文献1に記載されているように、パネルとガス充填装置の接続配管との間の接続は、溶断することによって、パネルを接続配管から分離するとともに、パネルおよび接続配管を封止できるチップ管と呼ばれるガラス製の管が用いられる。
【0004】
プラズマディスプレイ用のパネルには、大気圧よりも低い圧力の発光ガスが封入されるため、発光ガスの充填直後の接続配管内の圧力も大気圧より低い圧力になっている。次のパネルに発光ガスを充填するためには、接続配管に取り付けたチップ管を交換する必要があるが、接続配管内の圧力が大気圧以下であると、圧力差のためにチップ管を取り外すことが困難である。そこで、従来のガス充填装置では、チップ管の溶断後に、供給配管を介して接続配管にさらに発光ガスを供給して、接続配管内の圧力を大気圧まで復圧している。しかしながら、復圧のために供給配管および接続配管に供給された発光ガスは、次のパネルを真空引きする際に、すべて排気されることになるので、発光ガスの消費量が増大し、製造コストを押し上げている。
【0005】
発光ガスの消費を低減するには、接続配管を大気開放して復圧すればよいようにも思われるが、大気中に含まれる水分等の不純物は、接続配管等の内壁に付着しやすいので、パネルおよび接続配管の内部の空気および不純物を完全に除去するために必要な真空引きに要する時間およびエネルギーを増大させるため、却ってコスト高となる。
【0006】
このため、従来のガス充填装置では、発光ガスを用いて接続配管を復圧するだけでなく、交換した新しいチップ管およびチップ管を完全に接続する前のパネルの内部に発光ガスを吹き込んで、可能な限り空気および大気中の不純物を排除するパージ(洗浄)が行われている。
【0007】
あるガス充填装置では、発光ガスの全消費量の内、約60%が真空引きしたパネルに所定圧力の発光ガスを供給配管および接続配管を介して充填する際に消費され、約35%が供給配管および接続配管の復圧のために消費され、約5%がパージの際に消費される。
【0008】
また、供給配管と真空引きのためのヘッダである真空配管とを分離し、供給配管を真空引きしなければ、発光ガスの消費が低減できるように思われるかもしれないが、配管内に低圧の発光ガスを残しておくと、真空引きの際の熱等の影響により、発光ガスの成分が分離して、組成が一定でなくなってしまうという問題が生じる。このため、従来のガス充填装置では、末端の接続配管だけではなく、ヘッダ部分の供給配管も同時に真空引きする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−27641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記問題点に鑑みて、本発明は、ガスの消費量を低減できるガス充填装置およびガス充填方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明によるガス充填装置は、封入容器に接続されるチップ管を連通状態に保持できる接続配管と、前記接続配管に連通する供給配管と、前記供給配管および前記接続配管を真空引きする真空排気手段と、前記供給配管を介して前記接続配管に封入ガスを所定圧力で供給する封入ガス供給手段と、前記供給配管を介して前記接続配管に、前記封入ガスと異なる代替ガスを供給する代替ガス供給手段とを有するものとする。
【0012】
また、本発明のガス充填装置において、前記代替ガス供給手段は、前記チップ管を交換する前に、前記供給配管を介して前記接続配管に前記代替ガスを供給し、前記接続配管を略大気圧に復圧してもよく、前記接続配管に前記チップ管を配置した後、前記供給配管を介して前記接続配管に大気圧以上の圧力を有する前記代替ガスを導入して、前記チップ管内の空気を追い出してもよい。
【0013】
さらに、本発明によるガス充填方法は、接続配管に配置したチップ管を介して封入容器内の気体を真空排気し、前記チップ管を介して前記封入容器に低圧の封入ガスを充填し、前記チップ管を溶断して前記封入容器を封止した後、前記接続配管に、前記封入ガスと異なる代替ガスを導入して、前記接続配管を略大気圧に復圧する。
【0014】
また、本発明によるガス充填方法において、前記封入容器内の気体を真空排気する前に、前記接続配管に前記代替ガスを供給する供給配管を真空排気し、前記供給配管の圧力が所定の時間内に所定の真空圧力まで低下していることを確認することによって、前記封入ガスと前記代替ガスとが混入して供給されないことを担保できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、接続配管の復圧およびチップ管のパージに代替ガスを使用するので、真空引きのためのコストを増大させることなく、封入ガスの消費量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るガス充填装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の1つの実施形態であるガス充填装置1を示す。このガス充填装置1は、2枚のガラスの隙間に空間を形成した封入容器であるプラズマディスプレイパネル2に発光ガス(封入ガス)を充填する装置である。発光ガスは、例えば、ネオンガスに少量のキセノンガス等を混合した気体であり、その組成が厳密に管理されねばならない。
【0018】
ガス充填装置1は、プラズマディスプレイパネル2の開口に取り付けられるチップ管3を保持可能なヘッド4が設けられた接続配管5と、接続配管5に発光ガスを供給するためのヘッダである供給配管6と、接続配管5を真空引きするためのヘッダである真空配管7とを有する。
【0019】
供給配管6には、発光ガスを供給するための発光ガスボンベ(発光ガス供給手段)8と、代替ガスを供給するための代替ガスボンベ(代替ガス供給手段)9とが接続されている。代替ガスは、例えば、発光ガスの主成分であるネオンガスのみからなる比較的安価な気体である。
【0020】
また、真空配管7には、真空排気手段として、高真空を実現するターボ分子ポンプ10および粗引用のロータリポンプ11が接続されている。
【0021】
接続配管5と供給配管6とは供給弁12を介して、接続配管5と真空配管7とは排気弁13を介して、それぞれ、連通または分離可能に接続されている。また、供給配管6と真空配管7との間には、両者を連通させて、等しく真空引きできるようにするために、均圧弁14が設けられている。
【0022】
さらに、ガス充填装置1は、発光ガスボンベ8から供給配管6への発光ガスの供給流路を開閉する発光ガス弁15、および、代替ガスボンベ9から供給配管6への代替ガスの供給流路を開閉する代替ガス弁16を有する。また、発光ガスおよび代替ガスは、マスフローコントローラ(制御弁)17を介して、供給配管6に供給されるようになっている。マスフローコントローラ17は、不図示の制御装置に制御され、発光ガスまたは代替ガスの流量を調整することにより、供給配管6の圧力をプログラムにしたがって上昇させる。
【0023】
ターボ分子ポンプ10およびロータリポンプ11は、遮断弁18を介して真空配管7に接続されており、排気弁13および真空配管7を介して接続配管5を真空引きする。遮断弁18近傍の真空配管7には、真空度を確認するための圧力計19が配設されている。ヘッド4に保持したチップ管3の先端にプラズマディスプレイパネル2をガラスペースト等で接続してから接続配管5を真空引きすると、チップ管3を介してプラズマディスプレイパネル2の内部の気体を真空排気できる。
【0024】
ガス充填装置1は、プラズマディスプレイパネル2を十分に真空引きした後、排気弁13および遮断弁18を閉じ、発光ガス弁15および供給弁12を開いて、発光ガスボンベ8から、供給配管6を介して接続配管5に、所定の封入圧力になるまで発光ガスを供給する。供給配管6および接続配管5の圧力が所定の封入圧力に達すると、発光ガス弁15を閉じて、発光ガスの供給が停止される。
【0025】
そして、不図示のバーナにより、チップ管3の途中で溶断すると、チップ管3を切断するだけでなく、その切断部分を閉塞することもできる。これにより、プラズマディスプレイパネル2の内部空間に所定の組成および所定の封入圧力の発光ガスを封入することができる。また、このとき、ヘッド4に残されたチップ管3の残部も先端が封止されるので、接続配管5の内圧も、前記封入圧力に維持される。
【0026】
ガス充填装置1は、チップ管3を溶断した後、代替ガス弁16を開いて代替ガスを供給し、供給配管6および接続配管5を復圧、つまり、それらの圧力が略大気圧になるまで代替ガスを導入する。これにより、オペレータまたはロボットが、ヘッド4に保持されているチップ管3の残部を抜き取ることができるようになる。
【0027】
次のプラズマディスプレイパネル2にガスを充填するために、オペレータまたはロボットがチップ管3を新しいものに交換したならば、ガス充填装置1は、再度、代替ガス弁16を開いて、チップ管3に代替ガス(供給配管6および接続配管5に残留していた発光ガスを含む)を供給する。これにより、新しいチップ管3の内部に存在する空気や不純物を周囲の雰囲気中に追い出すパージを行う。また、チップ管3の先端にプラズマディスプレイパネル2を配置した後、チップ管3とプラズマディスプレイパネル2とをガラスペースト等で完全に接着する前にパージを行うことで、プラズマディスプレイパネル2の内部空間に存在する不純物の一部をチップ管3とプラズマディスプレイパネル2との隙間から外部に追い出して、真空排気の負荷を低減できる。
【0028】
その後、チップ管3をプラズマディスプレイパネル2に接着し、代替ガス弁16を閉じ、排気弁13および遮断弁18を開け、真空配管7を介して、供給配管6、接続配管5およびプラズマディスプレイパネル2の内部を真空引きすることにより、系内の気体を排気する。このとき、均圧弁14を開くことにより、供給配管6内に残留する発光ガスおよび代替ガスも真空排気する。
【0029】
発光ガスボンベ8および代替ガスボンベ9は、発光ガス弁15および代替ガス弁16によって個別に供給制御される。このため、発光ガス弁15または代替ガス弁16にリークがない限り、発光ガスボンベ8から発光ガスを供給する際に代替ガスが混入することは有り得ない。
【0030】
本実施形態では、プラズマディスプレイパネル2を真空引きする際、先ず、供給弁12および排気弁13を閉じ、均圧弁14を開いてから、遮断弁18を開いて、供給配管6および真空配管7を先に真空排気する。真空排気を開始してから所定時間が経過したとき、圧力計19によって真空配管7の圧力が確認される。このとき、圧力計19の検出圧力が所定の真空度に到達(所定の真空圧力まで低下)していない場合は、供給弁12、排気弁13、発光ガス弁15および代替ガス弁16のいずれかがリークしている可能性が高いので、警報が発せられる。
【0031】
圧力計19の検出圧力が、定時間内に所定の真空圧力まで低下していたならば、供給弁12、排気弁13、発光ガス弁15および代替ガス弁16のいずれもリークしていないと評価できる。したがって、この場合は、供給弁12および排気弁13を開いて、接続配管5を介してプラズマディスプレイパネル2の内部を真空引きし、発光ガスの供給準備を整える。
【0032】
このように、本実施形態では、真空排気を2段階に分けて行うことで、発光ガス弁15および代替ガス弁16にリークがなく、プラズマディスプレイパネル2に封入される発光ガスに無視できない量の代替ガスの混入がないことを担保する。
【0033】
ここで、代替ガスは、発光ガス(封入ガス)と異なり、且つ、大気に比べて真空排気が容易で不活性なガスであればいかなる気体でも使用できる。但し、微量の混入を考慮すると、代替ガスは、不純物を含まないだけでなく、発光ガスに対する混入が無視し得る量が多いものが好ましい。
【0034】
本発明のガス充填装置1では、従来、発光ガスを用いて行っていた接続配管5の復圧やチップ管3やプラズマディスプレイパネル2のパージを、代替ガスを用いて行う。したがって、消費される発光ガスと代替ガスとの総量は、従来のガス充填装置において消費される発光ガスの総量と同じである。しかしながら、ガス充填装置1では、高価な発光ガスの消費量は、従来と比べて約60%に低減されている。残りの40%分は代替ガスを消費するのであるが、発光ガスに比べて大幅に安価な代替ガスを用いることで、大きなコスト削減が達成される。
【符号の説明】
【0035】
1…ガス充填装置
2…プラズマディスプレイパネル(封入容器)
3…チップ管
4…ヘッド
5…接続配管
6…供給配管
7…真空配管
8…発光ガスボンベ(封入ガス供給手段)
9…代替ガスボンベ(代替ガス供給手段)
10…ターボ分子ポンプ(真空排気手段)
11…ロータリポンプ(真空排気手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
封入容器に接続されるチップ管を連通状態に保持できる接続配管と、
前記接続配管に連通する供給配管と、
前記供給配管および前記接続配管を真空引きする真空排気手段と、
前記供給配管を介して前記接続配管に封入ガスを所定圧力で供給する封入ガス供給手段と、
前記供給配管を介して前記接続配管に、前記封入ガスと異なる代替ガスを供給する代替ガス供給手段とを有することを特徴とするガス充填装置。
【請求項2】
前記代替ガス供給手段は、前記チップ管を交換する前に、前記供給配管を介して前記接続配管に前記代替ガスを供給し、前記接続配管を略大気圧に復圧することを特徴とする請求項1に記載のガス充填装置。
【請求項3】
前記代替ガス供給手段は、前記接続配管に前記チップ管を配置した後、前記供給配管を介して前記接続配管に大気圧以上の圧力を有する前記代替ガスを導入して、前記チップ管内の空気を追い出し得ることを特徴とする請求項1または2に記載のガス充填装置。
【請求項4】
接続配管に配置したチップ管を介して封入容器内の気体を真空排気し、前記チップ管を介して前記封入容器に低圧の封入ガスを充填し、前記チップ管を溶断して前記封入容器を封止した後、前記接続配管に、前記封入ガスと異なる代替ガスを導入して、前記接続配管を略大気圧に復圧することを特徴とするガス充填方法。
【請求項5】
前記封入容器内の気体を真空排気する前に、前記接続配管に前記代替ガスを供給する供給配管を真空排気し、前記供給配管の圧力が所定の時間内に所定の真空圧力まで低下していることを確認することを特徴とする請求項4に記載のガス充填方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−258424(P2011−258424A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132140(P2010−132140)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000211123)中外炉工業株式会社 (170)
【Fターム(参考)】