説明

ガス化システム及びその使用法

本発明はガス化システムとその使用法に関するものであり、このガス化システムはガス化反応器(43)と合成ガス冷却容器(44)とを備え、ガス化反応器(43)は、大気圧より高い圧力を維持するための圧力シェルと;圧力シェルの下部に配置されたスラグ槽と;圧力シェルの内部に配置されてガス化室(47)を形成するガス化装置壁とを備え、運転中はガス化室において合成ガスを生成でき、ガス化装置壁の開放下部がスラグ槽に流体連通しており、ガス化装置壁の開放上端部が連結導管(51)を介して合成ガス冷却容器に流体連通しており;合成ガス冷却容器(44)が、高温合成ガスの入口と、冷却された合成ガスの出口(49)と、使用時にガス化反応器内で生成された高温合成ガスに液体の水を直接接触させる手段(46)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素含有ストリームを用いて炭素系ストリームから一酸化炭素と水素とを含んだ混合物を製造するための改善されたガス化システムに関する。このガス化システムはガス化反応器と合成ガス冷却容器とを備える。本発明はまた、本発明のシステムにおいて一酸化炭素と水素とを含んだ混合物を製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
合成ガスの製造方法は従来からよく知られている。合成ガスの製造方法の例がEP−A−400740に記載されている。一般に、炭素系ストリーム、例えば石炭、褐炭、泥炭、木材、コークス、煤、又はその他のガス状、液状若しくは固体状の燃料又はそれらの混合物を、酸素含有ガス(例えば実質的に純粋な酸素又は(随意に酸素に富んだ)空気など)を用いてガス化反応器内で部分燃焼させ、特に合成ガス(COとH)、CO及びスラグを得る。部分燃焼中に形成されるスラグは落下し、反応器の底に又は底近くに位置する出口から排出される。
【0003】
EP−A−400740の反応器中の高温の生成物ガスは上向きに流れる。この高温の生成物ガス、すなわち生の合成ガスは、通常は粘着性の粒子を含み、この粒子は冷却されると粘着性を失う。生の合成ガス中のこれらの粘着性の粒子は、生の合成ガスが更に処理されるガス化反応器の下流にて問題を引き起こし得る。というのは、例えば熱交換の表面、壁、バルブ又は出口の上への粘着性の粒子の望ましくないデポジットがプロセスに悪影響を与え得る。また、このようなデポジットは除去するのが難しい。
【0004】
したがって、生の合成ガスは急冷領域において急冷される。この急冷領域において、上向きに移動している生の合成ガスを冷却するために、該合成ガス中に急冷ガスが注入される。
【0005】
WO−A−2004/005438はガス化反応器と合成ガス冷却容器とを備えたガス化システムを記載している。この刊行物は、ガス化燃焼室と、前記燃焼室の開放した上端部に流体連結された管状部とを記載している。燃焼室と管状部の両方が圧力シェル中に配置され、前記圧力シェルと燃焼室の間、及び前記圧力シェルと管状部との間にそれぞれ環状空間を形成する。管状部において、高温の合成ガス中に急冷ガスが注入される。この刊行物はまた、上下に配置された3列の熱交換の伝熱面を備えた別個の冷却容器を記載している。
【0006】
US−A−5803937は1つの圧力容器内のガス化反応器と合成ガス冷却器とを記載している。この反応器内において、管状部が燃焼室の開放上端部に流体連結されている。管状部の上端部にて、ガスを180°偏向させ、管状部と圧力シェルの壁との間の環状空間を通って下向きに流れるようにする。前記環状空間には、高温ガスを冷却するために熱交換面が設けられている。
【0007】
US−A−4836146は、WO−A−2004/005438に記載のようなガス化反応器と合成ガス冷却容器とを備えた固体粒子用のガス化システムを記載している。この刊行物には、別個の冷却容器内に存在する熱交換面のラッピングを制御するための方法及び装置が記載されている。このラッピングは、デポジットして熱交換器の表面に堆積するのを防ぐために必要とされる。
【0008】
上述したガス化反応器は、前記反応器中に存在するガス化バーナーに関して、製造された合成ガスが実質的に上向きに流れ、スラグが実質的に下向きに流れる点で共通している。よって、これらすべての反応器は合成ガスの出口とは別のスラグ用の出口を備える。これは、例えばEP−A−926441に記載のような、スラグと合成ガスの両方が下向きに流れ、スラグと合成ガスの両方の出口が反応器の下端部に配置されているような種類のガス化反応器とは対照的である。
【0009】
本発明は、スラグが下向きに流れて反応器の下端部にて排出され、合成ガスが上向きに流れて前記反応器の上端部にて排出されるような種類の改善された反応器に関する。
【特許文献1】EP−A−400740
【特許文献2】WO−A−2004/005438
【特許文献3】US−A−5803937
【特許文献4】US−A−4836146
【特許文献5】EP−A−926441
【特許文献6】US−A−48887962
【特許文献7】US−A−4523529
【特許文献8】US−A−4510874
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
WO−A−2004/005438及びUS−A−4836146の合成ガス冷却器、及びUS−A−5803937の装置における問題は、熱交換面によって前記装置の構成が非常に複雑になってしまうことである。さらに、デポジットして熱交換器の表面に堆積するのを防ぐためには、ラッピングのような大規模な手段が必要となる。別の問題は、熱交換面が例えば強いアルカリ性の内容物を有する供給原料によるファウリングに一層弱いことである。よって、より簡単なガス化システムを提供する要望だけでなく、強いアルカリ性の供給原料を処理する要望も存在する。これらの目的及びその他の目的が下記の反応器により達成される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概要
ガス化反応器と合成ガス冷却容器とを備えたガス化システムであって、ガス化反応器が、
- 大気圧より高い圧力を維持するための圧力シェルと;
- 圧力シェルの下部に配置されたスラグ槽と;
- 圧力シェルの内部に配置されガス化室を形成するガス化装置壁と、
を備え、運転中はガス化室において合成ガスを生成でき、ガス化装置壁の開放下部がスラグ槽に流体連通しており、ガス化装置壁の開放上端部が連結導管を介して合成ガス冷却容器に流体連通しており;
合成ガス冷却容器が高温合成ガスの入口と、冷却された合成ガスの出口と、使用時に液体の水をガス化反応器において生成された高温合成ガスと直接接触させる手段とを備える、前記ガス化システム。
【0012】
出願人は、本発明の反応器を用いることにより、複雑な熱交換面の使用を回避できることが分かった。別の利点は、強いアルカリ性の供給原料をより容易に処理できることである。その他の利点と好ましい実施態様を以下で説明する。
【0013】
本発明はまた、一酸化炭素と水素とを含む混合物を本発明のガス化システムにおいて固体炭素系原料の部分酸化によって製造する方法に関する。ガス化室内において、固体炭素系原料を酸素含有ガスにより部分酸化させ、温度が1200〜1800℃、好ましくは1400〜1800℃で圧力が20〜100バールの上向きに移動するガス混合物を形成し、ガス又は液体状の冷却媒体を注入することにより連結導管中の前記ガス混合物を500〜900℃の温度に冷却し、次に合成ガス冷却容器中のガスを水と接触させることにより500℃未満に更に冷却する。
【0014】
生の合成ガスが非常に効率的に冷却され、その結果、ガス化反応器の下流にて粘着性の粒子のデポジットの危険が軽減されることが分かった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明の詳細な説明
本発明のガス化反応器又は本発明のシステムにおいて固体炭素系原料の部分酸化により一酸化炭素と水素とを含んだ混合物を製造するため、本発明のガス化反応器を使用するのが適している。このようなプロセスでは、ガス化室内で酸素含有ガスを用いて固体炭素系原料を部分酸化させ、温度が1200〜1800℃、好ましくは1400〜1800℃の上向きに移動するガス混合物を形成する。好ましくは、この混合物は冷却工程において冷却する。別の冷却容器において、このガスを好ましくは500℃未満に更に冷却する。
【0016】
固体炭素系原料を酸素含有ガスで部分酸化させる。好ましい炭素系原料は固体で高炭素含有の供給原料であり、より好ましくは実質的に(すなわち>90重量%の)天然の石炭又は合成(石油)コークスを含み、最も好ましくは石炭である。適する石炭として、亜炭、歴青炭、亜歴青炭、無煙炭、及び褐炭が挙げられる。
【0017】
一般に、このいわゆるガス化は、触媒の不在下で高温にて限定容量の酸素を用いて炭素系原料を部分燃焼させることにより実行する。より迅速で完全なガス化を実現するためには、石炭微粒子よりも石炭の初期粉砕が好ましい。微粒子なる用語は、約90重量%以上の物質が90μm未満であり、含水量が一般に2〜8重量%、好ましくは約5重量%未満となるような粒径分布を有する少なくとも粉砕された粒子を含むことを意味する。
【0018】
好ましくは、ガス化は酸素と場合によってはいくらかの水蒸気の存在下にて実行され、好ましくは酸素の純度は少なくとも90体積%であり、窒素、二酸化炭素及びアルゴンが不純物として許容される。実質的に純粋な酸素、例えば空気分離装置(ASU)により分離されたものなどが好ましい。酸素はいくらかの水蒸気を含んでもよい。水蒸気はガス化反応においてモデレータガスとして機能する。好ましくは酸素と水蒸気の割合は、酸素1体積部当たり水蒸気0〜0.3体積部である。好ましくは、使用される酸素は、石炭と接触させる前に好ましくは約200〜500℃の温度に加熱する。
【0019】
石炭が使用されるとき起こりうるような炭素系原料の水分含有量が高すぎる場合、供給原料を使用前に乾燥させるのが好ましい。
【0020】
好ましくは、部分酸化反応は、本発明の反応器のガス化室内に設けられた適当なバーナーにおいて炭素系原料の微粒子とキャリヤーガスとの乾燥した混合物を酸素で燃焼させることにより実行される。適当なバーナーの例がUS−A−48887962、US−A−4523529及びUS−A−4510874に記載されている。好ましくはガス化室は1対又は複数対の部分酸化バーナーを備え、このバーナーは固体炭素系原料の供給手段と酸素の供給手段とを備える。ここで、1対のバーナーとは、ガス化室中に水平に直径方向に配置された2つのバーナーを意味する。この結果として、同じ水平位置にて実質的に反対方向の1対の2個のバーナーとなる。反応器はこのように対になったバーナーを1〜5対備えてもよい。対数の上限は反応器の大きさに依存するであろう。バーナーの燃焼方向は例えばEP−A−400740に記載のようにわずかに接線方向にずらしてもよい。
【0021】
乾燥した固体原料をバーナーに輸送するのに適したキャリヤーガスの例は、水蒸気、窒素、合成ガス及び二酸化炭素である。特に発電のためにアンモニアを作る供給原料として合成ガスが用いられる場合には窒素を使用するのが好ましい。合成ガスに対して下流でシフト反応が実行される場合には二酸化炭素を使用するのが好ましい。シフトされた合成ガスは、例えば水素メタノール及び/又はジメチルエーテルを製造するため、又はフィッシャー・トロプシュ合成の原料ガスとして使用できる。
【0022】
ガス化反応器から放出される合成ガスは少なくともH、CO、及びCOを含む。特にメタノール生成反応に対する合成ガス組成の適性は、合成ガスの化学量数SNにより表され、よってモル含有量[H]、[CO]、及び[CO]を用いて、SN=([H]−[CO])/([CO]+[CO])で表される。炭素系原料のガス化により製造される合成ガスの化学量数は、メタノール生成反応においてメタノールを生成する場合の望ましい比である約2.05よりも小さいことが分かった。水シフト反応を実行し二酸化炭素の一部を分離することにより、SN数を改善できる。好ましくは、メタノール合成のオフガスから分離された水素を合成ガスに加えてSNを増すことができる。
【0023】
本発明の一実施態様では、高温の合成ガスが別個の冷却容器に入る前に、まず高温の合成ガスを第1の冷却工程において500〜900℃の温度に冷却する。好ましくは、この第1の冷却工程において、高温の合成ガス中に存在する非ガス成分の凝固温度より低いガス温度を実現する。高温の合成ガス中の非ガス成分の凝固温度は、炭素系原料に依存し、石炭系の供給原料の場合、通常は600〜1200℃、特に500〜1000℃である。好ましくは、ガス化室と冷却容器とを流体連結する連結導管内において第1の冷却工程を実行する。急冷ガスを注入することにより冷却を行ってもよい。急冷ガスによる冷却は周知であり、例えばEP−A−416242、EP−A−662506及びWO−A−2004/005438に記載されている。適する急冷ガスの例は、リサイクルの合成ガス及び水蒸気である。
【0024】
より好ましくは、この第1の冷却及び/又は冷却容器において行われる冷却は、後に詳細に説明するように、液滴からなるミストをガス流に注入することにより実行される。急冷ガスに比べて液体ミストの使用は、ミストの冷却能力がより大きいので有利である。
【0025】
この液体は、霧状にするのに適した粘度を有する任意の液体とし得る。限定するものではないが、注入する液体の例は、液化炭化水素、廃棄ストリームなどである。好ましくは、この液体は50%以上の水を含む。最も好ましくは、この液体は実質的に(すなわち>95体積%の)水を含む。好ましい実施態様では、設置が想定される下流の合成ガススクラバーにおいて得られる廃水(黒水ともいう)をこの液体として使用する。より好ましくは、任意の下流の水シフト反応器のプロセス凝縮液をこの液体として使用する。
【0026】
高温の合成ガスなる用語は、ガス化室において直接得られるようなガス混合物を意味する。
「ミスト」なる用語は、液体が小さな液滴の形にて注入されることを意味する。液体として水が使用される場合には、好ましくは80%より多くの水、より好ましくは90%より多くの水が液体状態にある。
【0027】
好ましくは、注入されるミストの温度は、注入地点の一般的な圧力条件において泡立ち点より最大で50℃低く、特に最大で15℃低く、より好ましくは泡立ち点より最大で10℃低い。このために、注入される液体が水の場合には、通常、その温度は90℃より高く、好ましくは150℃より高く、より好ましくは200℃〜230℃である。この温度は明らかにガス化反応器の動作圧力に依存し、すなわち後に詳細に述べる生の合成の圧力に依存する。これにより、冷点を防ぎながら、注入されるミストを迅速に気化できる。その結果、ガス化反応器において塩化アンモニウムがデポジットしたり、灰が局所的に引き付けられる危険が小さくなる。
【0028】
さらに、ミストが50〜200μm、好ましくは100〜150μmの直径を有する液滴からなるのが好ましい。好ましくは、注入される液体の少なくとも80体積%が、上記大きさを有する液滴の形をしている。
高温の合成ガスの急冷を促進するために、30〜90m/s、好ましくは40〜60m/sの速度でミストを注入させるのが好ましい。
【0029】
また、ガス化反応器中に存在する生の合成ガスの圧力より少なくとも10バール高く、好ましくは生の合成ガスの圧力より20〜60バール高く、より好ましくは生の合成ガスの圧力より約40バール高い注入圧力でミストを注入するのが好ましい。生の合成ガスの圧力より10バール未満高い注入圧力でミストが注入される場合、ミストの液滴が大きくなり過ぎるかもしれない。後者では霧化ガスを用いて少なくとも部分的にオフセットさせてもよく、この霧化ガスとしては、例えばN、CO、水蒸気又は合成ガスが挙げられ、より好ましくは水蒸気又は合成ガスである。霧化ガスを用いることの更なる利点は、注入圧力と生の合成ガスの圧力との差を5〜20バールの圧力差まで低減できることである。
【0030】
さらに、ガス化反応器から離れる方向にミストが注入される場合か、又は生の合成ガスの流れ方向に、より好ましくは一定の角度でミストが注入される場合に特に適していることが分かった。これにより、連結導管の壁上の局所的なデポジットを生じさせ得るデッドスペースが生じないか、又は小さくなる。好ましくは、連結導管の壁から、又は冷却容器の壁から高温の合成ガスの流れ方向に、連結導管又は冷却容器の縦軸に垂直な平面に対して30〜60°、より好ましくは約45°の角度でミストが注入される。別法として、冷却容器におけるミストの注入は、合成ガスの流路と同じ方向、好ましくは下向きにミストを注入することによって実行してもよい。
【0031】
別の好ましい実施態様によると、注入されるミストは遮蔽流体により少なくとも部分的に包まれている。これにより、局所的なデポジットを形成する危険が小さくなる。遮蔽流体は任意の適当な流体とし得るが、好ましくはNやCOなどの不活性ガス、合成ガス、水蒸気及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0032】
特に好ましい実施態様によると、注入されるミストの量は、冷却容器を出て行く生の合成ガスが少なくとも40体積%のHO、好ましくは40〜60体積%のHO、より好ましくは45〜55体積%のHOを含むように選択される。
【0033】
別の好ましい実施態様では、いわゆるオーバークエンチを実行することを選択した場合には、生の合成ガスに関して添加される水の量は、上記の好ましい範囲よりもさらに多い。オーバークエンチ型のプロセスでは、添加される水の量、好ましくは冷却容器に添加される量は、液体の水すべてが蒸発するわけではなく、液体の水のいくらかは冷却された生の合成ガス中に残るような量である。このようなプロセスは、下流での乾燥固体の除去システムを省くことができるので、有利である。このようなプロセスでは、冷却容器を出て行く生の合成ガスは水で飽和している。生の合成ガスと水注入との重量比は1:1〜1:4とし得る。
【0034】
オーバークエンチ型のプロセス条件は、多量の水を合成ガスの流路に注入すること、冷却容器の下端部に配置された水槽に合成ガス流を通すこと、又はこれらの手段の組合せによって実現できる。
【0035】
これにより下流の任意の水シフト転化工程において水蒸気をさらに添加する必要がないか、又は水蒸気の必要な添加量がかなり少なくなるので、資本コストを実質的に削減できることが分かった。ここで資本コストとは、蒸気ボイラのための資本コストを意味する。
【0036】
本発明の好ましい方法では、急冷領域から出て行く合成ガス又はその一部、特に水で飽和した合成ガスが好ましくはシフト転化され、それにより水の少なくとも一部がCOと反応してCOとHとを生成することで、シフト転化された合成ガスストリームを得る。当業者はシフトコンバータが意味するものを容易に理解するであろうから、これについては更に説明しない。好ましくは、生の合成ガスをシフト転化する前に、熱交換器においてシフト転化された合成ガスストリームで生の合成ガスを加熱する。これにより本方法のエネルギー消費が更に削減される。この点に関しては、本発明の方法においてミストとして注入する液体を用いる前に、液体を加熱することも好ましい。好ましくは、この液体の加熱は、シフト転化された合成ガスストリームに対する間接熱交換によって行う。
【0037】
合成ガスの一部を水シフト反応させてCOの少ないストリームを取得し、合成ガスの別の部分は水シフト装置をバイパスさせ、COの少ないストリームとバイパスストリームとを混合することにより、H/COの任意の所望のモル比を得ることができる。バイパスとシフトへの送り量の比を選択することにより、好ましい下流プロセスに対して最も望ましい比を実現できる。
【0038】
図面の詳細な説明
以下、限定するものではないが例として添付の図面を参照して本発明を詳しく説明する。以下で用いられる同じ参照番号は同様の構造要素を示す。
【0039】
図1を参照する。図1は合成ガスを製造するためのシステム(1)を概略的に示す。ガス化反応器(2)において、炭素系ストリームと酸素含有ストリームとがそれぞれ管路(3)及び(4)からガス化室(2)に供給される。ガス化室(2)では、生の合成ガスとスラグが得られる。このために、通常はいくつかのバーナー(図示せず)がガス化室(2)内に設けられる。通常、ガス化室(2)内における部分酸化は、1200〜1800℃、好ましくは1400〜1800℃の範囲の温度で1〜200バール、好ましくは20〜100バール、より好ましくは40〜70バールの圧力にて実行される。
【0040】
製造された生の合成ガスは、連結導管(5)を介して冷却容器(9)に送られる。連結導管(5)には、ミストとなっている水(17)が注入され、合成ガスが500℃未満、例えば約400℃に冷却される。
【0041】
ほとんどの好ましい原料中に存在する灰成分は、これらの温度ではガス化室(2)内においていわゆる液状スラグを形成する。好ましくは、このスラグはガス化室(2)の壁の内側に層を形成し、それによって絶縁層を与える。温度条件は、スラグが一方においてはこのような保護層を作り且つ他方においては任意の更なる処理のために下部に設けられたスラグ出口(7)に依然として流れることができるように、選択される。
【0042】
図1の実施態様に示されているように、部分的に冷却された合成ガス(8)が冷却容器(9)に入る。冷却容器(9)内では、オーバークエンチ・プロセス・モードにて合成ガス(8)を所定量の水(6)と接触させ、水飽和合成ガス(10)を得る。
【0043】
水飽和合成ガス(10)は湿性ガススクラバー(11)に直接送られ、次に管路(12)を介してシフトコンバータ(13)に送られ、水の少なくとも一部とCOを反応させてCOとHを生成することで、シフト転化されたガスストリームを管路(14)中に得る。洗浄されたガス(12)の一部はシフトコンバータ(13)をバイパスしてもよい。このガスとストリーム(20)は、随意に両ストリームが更なるガス処理(図示せず)を受けた後に混合してもよい。湿性ガススクラバー(11)とシフトコンバータ(13)自体は既知のものであるので、ここでは更に詳しい説明は行わない。ガススクラバー(11)からの廃水は管路(22)から取り出され、随意にその一部が管路(23)を介してガススクラバー(11)に再循環される。好ましくは、ガススクラバー(11)からの廃水の一部である黒水を、管路(17)又は(6)を介して注入される液体の水として使用できる。非オーバークエンチモードでは、好ましくは合成ガス(10)が乾燥固体除去装置に送られて乾燥灰を少なくとも一部除去する。好ましい固体除去装置は例えばEP−A−551951及びEP−A−1499418に記載のサイクロン又はフィルターユニットである。
【0044】
管路(12)中の生の合成ガスを熱交換器(15)においてシフトコンバータ(13)から出る管路(14)中のシフト転化された合成ガスで過熱する場合に、更なる改善が実現される。
【0045】
さらに、本発明によると、熱交換器(15)から出る管路(16)中のストリームに含まれるエネルギーを、第1又は第2の冷却工程において使用される前に管路(17)中の水を暖めるのに使用するのが好ましい。このために、管路(16)中のストリームを間接熱交換器(19)に送って、管路(17)中のストリームと間接熱交換させてもよい。
【0046】
図1の実施態様に示されているように、管路(14)中のストリームは、管路(16)を介して間接熱交換器(19)に入る前にまず熱交換器(15)に送られる。しかしながら、当業者は、必要なら熱交換器(15)を省いてもよいこと、又は管路(14)中のストリームを熱交換器(15)における熱交換の前にまず間接熱交換器(19)に送ってもよいことを容易に理解するであろう。
【0047】
間接熱交換器(19)から出た管路(20)中のCOの減少した合成ガスは、更なる熱回収及びガス処理のために必要なら更に処理してもよい。
【0048】
必要なら、管路(17)中の加熱されたストリームをガススクラバー(11)への給水(管路(21))として一部使用してもよい。
【0049】
図2は図1のシステム1の一部とし得るガス化システムの縦断面図である。図2は、連結導管、すなわち移送ダクト(45)により流体連結された下流冷却容器又は急冷容器(44)と組み合わされた、WO−A−2004/005438の図1のガス化反応器(43)を示す。図2にはガス化室(47)が示され、ガス化室(47)は管状部(51)に連結され、管状部(51)は、連結導管によってガス化室(47)を上壁部(52)を介して冷却容器(44)の内部に連結する。管状部(51)の下端部には、液体又はガス状の冷却媒体を注入するための注入手段(48)が設けられている。冷却容器(44)は、冷却された合成ガス用の出口(49)を更に備える。
【0050】
図2のシステムは、WO−A−2004/005438の図1に記載のシステムとは、前記図1の冷却容器3が省かれ、液体の水を加えるための手段(46)を備えた簡単な容器に代えられている点で異なる。別の相違点は、注入手段(48)が液体の水からなるミストを注入するのに適していることである。
【0051】
好ましくは、ガス化室(43)の壁及び/又は連結導管(51)の壁が冷却手段を備える。好ましくは、冷却手段が水冷管からなる構造を有し、さらに好ましくはメンブレンウォールの形をとっている。
【0052】
図2はまたバーナー(50)を示す。適切には、バーナー構成は参考のためここに組み入れたEP−A−0400740に記載されているようにし得る。好ましくは、冷却容器(44)の上部の構成だけでなく、ガス化反応器(43)及び移送ダクト(45)の他の種々の詳細は、WO−A−2004/005438の図1の装置に関して開示されているようにし得る。
【0053】
従来技術の刊行物の合成ガス冷却器を冷却容器(44)に代えることによって既存のガス化反応器を改装する場合、又は従来技術の現実のガス化反応器を維持しつつ、本発明の方法を採用することを望む場合、図2の実施態様が好ましい。
【0054】
よって、好ましくは本発明に係るシステムでは、使用時に合成ガスの実質的に下向きの流路が生じるように、冷却容器の高温合成ガスを受け入れるための入口をその上端部に備え、冷却された合成ガス用の出口をその下端部に備え、また、水のミストを注入する注入手段が前記下向きの流路中に設けられる。
【0055】
図3はガス化反応器(43)の上端部とガス化室(47)の上端部とを示す。この上端部は連結導管(51)によって別の冷却容器(53)に流体連結される。本発明の方法に従ってガス又は液体の急冷媒体を注入するために注入手段(48)が設けられている。
【0056】
冷却容器(53)内には、合成ガスの下向きの流路を作るためにディップ管(54)が設けられている。ディップ管(54)の上端部には、液体の水からなるミストを合成ガス中に注入するために注入手段(46)が設けられている。ディップ管は水槽(55)中に一部沈められている。使用時には、合成ガスは水槽(55)を通ってディップ管(54)と冷却容器(53)の壁との間に存在する環状空間(56)に流れる。前記環状空間(56)から、水飽和合成ガスが導管(57)を介して前記冷却容器から放出される。
【0057】
図3はまた水(59)を再循環させるためのポンプ(58)を示し、流出ストリーム(60)と新たな水の供給ストリーム(61)とを与える。
【0058】
よって、本発明はまた、合成ガス冷却容器が、上端部にて高温合成ガスを受け入れるための開口部と、冷却された合成ガスの出口とを有し、前記入口と出口との間に合成ガスの流路を形成し、また、前記合成ガスの流路中に水槽が設けられているシステムにも関する。
【0059】
より好ましくは本発明は液体又はガス状の冷却媒体を合成ガスに注入するための注入手段が前記連結導管中に設けられているシステムに関する。いっそう好ましくは、前記注入手段が、液体冷却媒体を水滴のミストの形にて注入するための注入手段である。
【0060】
当業者は、特許請求の範囲に記載の範囲から逸脱することなく種々の方法で本発明が変更できることを容易に理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】一酸化炭素と水素とを含んだ精製混合物を製造するためのシステムについての概略プロセス図である。
【図2】反応容器と冷却容器とから構成された好ましいガス化システムの概略的な縦断面図である。
【図3】冷却容器について可能な別の実施態様を概略的に示す。
【符号の説明】
【0062】
1 合成ガス製造システム
2 ガス化反応器
3 管路
4 管路
5 連結導管
9 冷却容器
11 湿性ガススクラバー
13 シフトコンバータ
15 熱交換器
19 間接熱交換器
43 ガス化反応器
44 冷却容器
45 移送ダクト
46 液体の水の添加手段
47 ガス化室
48 ミストの注入手段
50 バーナー
51 連結導管
53 冷却容器
54 ディップ管
55 水槽
56 環状空間
58 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス化反応器と合成ガス冷却容器とを備えたガス化システムであって、ガス化反応器が、
- 大気圧より高い圧力を維持するための圧力シェルと;
- 圧力シェルの下部に配置されたスラグ槽と;
- 圧力シェルの内部に配置されガス化室を形成するガス化装置壁と、
を備え、運転中はガス化室において合成ガスを生成でき、ガス化装置壁の開放下部がスラグ槽に流体連通しており、ガス化装置壁の開放上端部が連結導管を介して合成ガス冷却容器に流体連通しており;
合成ガス冷却容器が高温合成ガスの入口と、冷却された合成ガスの出口と、使用時に液体の水をガス化反応器において生成された高温合成ガスと直接接触させる手段とを備える、前記ガス化システム。
【請求項2】
合成ガス冷却容器は、使用時に合成ガスの実質的に下向きの流路が生じるように、上端部にて高温合成ガスを受け入れるための入口と、下端部にて冷却された合成ガス用の出口とを有し、また、水のミストを注入する注入手段が前記下向きの流路中に設けられる、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
合成ガス冷却容器が、上端部にて高温合成ガスを受け入れるための開口部と、冷却された合成ガスの出口とを有し、前記入口と出口との間に合成ガスの流路を形成し、また、前記合成ガスの流路中に水槽が設けられる、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
液体又はガス状の冷却媒体を合成ガスに注入するための注入手段が前記連結導管中に設けられる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記注入手段が、液体冷却媒体を水滴のミストの形にて注入するための注入手段である、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
燃焼室の壁と前記連結導管の壁が冷却手段を備える、請求項1〜5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記冷却手段が水冷管の構造を有し、好ましくはメンブレンウォールの形をなしている、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記ガス化室が1対又は複数対の部分酸化バーナーを備え、前記バーナーが固体炭素系原料の供給手段と酸素含有ガスの供給手段とを備える、請求項1〜7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
冷却された合成ガスの前記出口が、湿性ガススクラバーの入口に流体連結されている、請求項3〜8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
湿性ガススクラバーのガス出口が水シフトコンバータの入口に流体連結されている、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
一酸化炭素と水素とを含む混合物を請求項1〜10のいずれか一項に記載のガス化システムにおいて固体炭素系原料の部分酸化によって製造する方法であって、ガス化室内において、固体炭素系原料を酸素含有ガスにより部分酸化させ、温度が1200〜1800℃で圧力が20〜100バールの上向きに移動するガス混合物を形成し、ガス又は液体状の冷却媒体を注入することにより連結導管中の前記ガス混合物を500〜900℃の温度に冷却し、次に合成ガス冷却容器中のガスを水と接触させることにより500℃未満に更に冷却する、前記方法。
【請求項12】
水滴のミストをガス流中に注入することにより、連結導管及び/又は合成ガス冷却容器における前記冷却を実行する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
注入される水ミストの温度が高温合成ガスの圧力での水の泡立ち点より最大で50℃低い、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ミストが50〜200μmの直径を有する液滴からなる、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記ミストを30〜100m/sの速度で注入する、請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ミストを40〜60m/sの速度で注入する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
生の合成ガスの圧力より5〜20バール高い注入圧力の霧化ガスを用いて、前記ミストを注入する、請求項12〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記連結導管又は冷却容器の縦軸に垂直な平面に対して30〜60°の角度で前記連結導管又は冷却容器の壁から高温合成ガスの流れの方向に前記ミストを注入する、請求項12〜17のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−543890(P2009−543890A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508305(P2009−508305)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【国際出願番号】PCT/EP2007/053869
【国際公開番号】WO2007/125046
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP