説明

ガス化反応器及びその使用法

【課題】小型で簡単な設計のガス化反応器を提供する。
【解決手段】大気圧より高圧を維持するための圧力外殻;該外殻の下部に配置したスラグ浴;合成ガスを形成できるガス化室を画定する外殻内に配列したガス化器壁であって、該器壁の下部開放部分はスラグ浴と流動可能に連絡し、該器壁の上部開放端は急冷帯と流動可能に連絡する該ガス化器壁;前記外殻内に管状形成部を配置してなる急冷帯であって、その上端及び下端は開放され、かつ圧力外殻より小さい直径を有し、こうして管状部の周りに環状空間を画定し、ここで該管状部の下部開放端はガス化器壁の上端に流動可能に接続し、該管状部の上部開放端は環状空間と流動可能に接続した該急冷帯;を備え、該管状部の下端には液体又はガス状の冷媒を噴射する噴射手段が存在し、前記空間には液体を霧状に噴射する噴射手段が存在し、前記空間に流動可能に接続した圧力外殻の壁には合成ガス用出口が存在する該ガス化反応器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、炭素質流から酸素含有ガスを用いてCO、CO及びHを含有する合成ガスを製造するための改良ガス化反応器に関する。また本発明は、このような合成ガスの製造用システム、及び前記反応器及びシステムで実施できる方法にも向けたものである。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
合成ガスの製造方法は従来より周知である。合成ガス製造方法の一例は、EP−A−400740に記載されている。一般に、石炭、褐炭、ピート、木材、コークス、煤、又はその他、ガス状、液体又は固体燃料又はその混合物のような炭素質流を、ほぼ純粋な酸素、(任意に酸素富化した)空気等の酸素含有ガスを用いてガス化反応器中で部分燃焼させ、これにより合成ガス(CO及びH)、CO及びスラグ、その他を得ている。部分酸化中生成するスラグは降下し、反応器底部又はその近くに配置された出口から排出される。
【0003】
EP−A−400740の反応器中の熱生成物ガスは上向きに流れる。こ熱生成物ガス、即ち、粗合成ガスは、通常、粘着な粒子を含み、この粘着性は冷却時になくなる。粗合成ガスを更に処理する場合、粗合成ガス中の粘着粒子は、ガス化反応器の下流で問題を起こす恐れがある。これは、例えば粘着粒子が壁、バルブ又は出口に堆積して、プロセスに悪影響を与える可能性があり、望ましくないからである。しかもこのような堆積は除去困難である。
【0004】
したがって、粗合成ガスは急冷部で急冷される。このような急冷部では、冷却のため、上向き流の粗合成ガス中に急冷ガスが噴射される。
EP−A−662506には、燃焼室と該燃焼室の頂部に流動可能に接続した管状部との界面において前記熱合成ガス中に冷却用ガスを下向きに噴射して、合成ガスを冷却する方法が記載されている。
【0005】
EP−A−400740と同様な反応器は、同一出願人のWO−A−2004/005438に記載されている。この文献には、ガス化燃焼室、及び該燃焼室の上部開放端に流動可能に接続した管状部が記載されている。燃焼室、管状部の両方とも圧力外殻内に配置され、この圧力外殻は、該圧力外殻と、燃焼室及び管状部との間にそれぞれ環状空間を画定している。この文献によれば、燃焼室で製造された、ダストが積った粗合成ガスが環状部に入るのを防止する対策が必要である。また、この文献には、3つの熱交換性表面を、別々の圧力容器内に存在するように重ねて配置した合成ガス冷却器が記載されている。
【0006】
US−A−5803937には、ガス化反応器及び1個の容器内の合成ガス冷却器が記載されている。この反応器には、燃焼室の上部開放端に流動可能に接続した管状部が両方とも圧力外殻内に配置されている。管状部と圧力外殻の壁との間の環状空間に下向きにガスを流すため、管状部の上端でガスは180°偏向される。前記環状部には、熱ガスを冷却するため、複数の熱交換性表面が存在する。
【0007】
以上述べたガス化反応器においては、生成した合成ガスはほぼ上向きに流れ、一方、スラグは、前記反応器に存在する複数のガス化バーナーに対しほぼ下向きに流れる点で共通する。したがって、これら反応器はいずれも、合成ガス用の出口から離れてスラグ用の出口を有する。これに対し、例えばEP−A−926441に記載されるガス化反応器は、スラグ、合成ガスの両方とも下向きに流れ、またスラグ出口、合成ガス出口の両方とも反応器の下端に配置されたタイプのガス化反応器である。
【特許文献1】EP−A−400740
【特許文献2】EP−A−662506
【特許文献3】US−A−5803937
【特許文献4】WO−A−2004/005438
【特許文献5】EP−A−926441
【特許文献6】EP−A−416242
【特許文献7】EP−A−551951
【特許文献8】EP−A−1499418
【特許文献9】WO−A−2005/052095
【特許文献10】US−B−6755980
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、例えばWO−A−2004/005438やUS−A−5803937に記載されるような、スラグ及び合成ガスが反応器から別々に排出されるタイプのガス化反応器を改良したものである。WO−A−2004/005438の合成ガス冷却器及び更にUS−A−5803937の装置による問題は、熱交換表面が前記装置の設計を非常に複雑化することである。WO−A−2004/005438の合成ガス冷却器及び更にUS−A−5803937の装置による他の問題は、熱交換表面が、例えばアルカリを多量に含有する供給原料の汚染に対し損傷し易いことである。したがって、高アルカリ性供給原料を処理することが望まれるし、また更に簡単なガス化反応器を提供することが望まれる。これら及び他の目的は以下に説明する反応器により達成される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の概要
大気圧よりも高い圧力に維持するための圧力外殻、
該圧力外殻の下部に配置したスラグ浴、
操作中、合成ガスを形成できるガス化室を画定する圧力外殻内に配列されたガス化器壁であって、該ガス化器壁の下部開放部分はスラグ浴と流動可能に連絡し、該ガス化器壁の上部開放端は急冷帯と流動可能に連絡している該ガス化器壁、
圧力外殻内に管状形成部を配置してなる急冷帯であって、その上端及び下端は開放され、かつ圧力外殻より小さい直径を有し、これにより管状部の周りに環状空間を画定し、ここで管状形成部の下部開放端は、ガス化器壁の上端に流動可能に接続され、管状形成部の上部開放端は、環状空間と流動可能に接続されている該急冷帯、
を備え、該管状部の下端には液体又はガス状の冷媒を噴射するための噴射手段が存在し、該環状空間には液体を霧状に噴射するための噴射手段が存在し、前記環状空間に流動可能に接続された圧力外殻の壁には合成ガス用出口が存在するガス化反応器。
【発明の効果】
【0010】
出願人は、本発明の反応器を用いると、複雑な熱交換表面を使用するのが回避でき、しかもアルカリ及び塩化物を多量に含む供給原料を処理できることを見出した。
【0011】
本発明は、合成ガス用出口が乾燥固体除去ユニットの入口に流動可能に接続され、湿潤ガススクラバーの入口が該乾燥固体除去ユニットのガス出口に流動可能に接続されると共に、該湿潤ガススクラバーは、一酸化炭素及び水素を含有する精製混合物用の出口を供給する、本発明のガス化反応器からなる、一酸化炭素及び水素を含有する精製混合物の製造用システムにも向けたものである。
このシステムは、乾燥固体の取出し処理工程を省略でき、またシステム全体を一層簡素化できるという利点がある。
【0012】
本発明は、本発明のガス化反応器又は本発明のシステムにおける固体炭素質原料の部分酸化による一酸化炭素及び水素よりなる混合物の製造方法にも向けたものである。このような方法では、前記ガス化室において、固体炭素質原料を酸素含有ガスで部分酸化されて、1200〜1800℃の温度及び20〜100バールの圧力を有する上向き流のガス混合物が形成される。このガス混合物は、まず前記管状部内で500〜900℃の温度に冷却され、引続き更に該ガス混合物を前記環状部内で該ガス流中に、水滴からなる霧を噴射して、500℃未満に冷却される。
前記粗合成ガスは極めて効率的に冷却され、その結果、ガス化反応器下流で粘着粒子が堆積する危険が低下することが見出された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明のガス化反応器は、本発明のガス化反応器又は本発明のシステムにおいて、固体炭素質原料の部分酸化による一酸化炭素及び水素からなる混合物の製造に好適に使用される。このような方法では、固体炭素質原料はガス化室内で酸素含有ガスにより部分酸化されて、1200〜1800℃、好ましくは1400〜1800℃の温度を有する上向き流のガス混合物が形成される。この混合物は、第一冷却工程において、管状部内で500〜900℃の温度に冷却され、引続き更に第二冷却工程において、前記環状部内でガス流中に、水滴からなる霧を噴射して、500℃未満に冷却される。
【0014】
固体炭素質原料は、酸素含有ガスで部分酸化される。好ましい炭素質原料は、固体で炭素含有量の多い供給原料であり、更に好ましくは、実質的に(即ち、>90重量%)天然産の石炭又は合成(石油)コークス、最も好ましくは石炭からなる。好適な石炭としては、亜炭、瀝青炭、亜瀝青炭、無煙炭及び褐炭が挙げられる。
【0015】
一般に、いわゆるガス化は、炭素質原料を触媒の不存在下、高温で制限量の酸素により部分燃焼させて行われる。更に迅速、かつ完全なガス化を達成するには、石炭の初期の粉砕で石炭微粒子にすることが好ましい。微粒子とは、材料の少なくとも約90重量%が90μm未満で、かつ水分が通常、2〜8重量%、好ましくは約5重量%未満となるような粒度分布を有する粉砕粒子を少なくとも含むことを意図する。
【0016】
ガス化は、酸素及び任意に若干の水蒸気の存在下で行うことが好ましい.酸素の純度は、好ましくは90容量%以上で、窒素、二酸化炭素及びアルゴンは不純物として許容し得る。空気分離ユニット(ASU)で製造されるような、ほぼ純粋な酸素が好ましい。
【0017】
石炭を使用する場合にあり得るが、炭素質原料の水分が多すぎる場合は、原料は使用前に乾燥することが好ましい。使用される酸素は、石炭と接触させる前に、好ましくは200〜500℃の温度に加熱することが好ましい。
【0018】
部分酸化反応は、炭素質原料微粒子の乾燥混合物及び担体ガスを、本発明反応器のガス化室に存在するような好適なバーナー中、酸素で燃焼させて行うことが好ましい。好適なパーナーの例はUS−A−48887962、US−A−4523529及びUS−A−4510874に記載される。ガス化室は、1対以上の部分酸化バーナーを備えると共に、前記バーナーは固体炭素質原料用供給手段及び酸素用供給手段を備えることが好ましい。ここでいう1対のバーナーとは、ガス化室中に対立的(diametric)に向けた2本のバーナーを意味する。これは、同じ水平位置でほぼ反対方向の1対の2本のバーナーとなる。これらバーナーの火炎方向は、例えばEP−A−400740に記載されるように僅かに接線方向であってよい。
【0019】
乾燥固体原料をバーナーまで輸送する好適な担体ガスの例は、水蒸気、窒素、合成ガス及び二酸化炭素である。アンモニアを作るため、合成ガスを特に発電に使用すると共に、供給原料として使用する場合は、二酸化炭素を使用することが好ましい.シフトした合成ガスは、例えばフィッシャー・トロプシュ合成の供給原料ガスとして使用してもよいし、或いは水素、メタノール及び/又はジメチルエーテルの製造に使用してもよい。
【0020】
ガス化反応器から排出された合成ガスは、少なくともH、CO及びCOを含有する。メタノール形成反応に対する合成ガス組成の適性は、合成ガスの化学量論数SNで表される。ここで合成ガスのSNは、モル含有量[H]、[CO]及び[CO]で表して、SN=([H]−[CO])/([CO]+[CO])である。炭素質原料のガス化により製造された合成ガスの化学量論数は、メタノール形成反応でメタノールを生成するのに理想的な化学量論比である約2.05よりも低いことが見出された。水シフト反応を行って、二酸化炭素の部分を分離すると、SN数を向上することができる。メタノール合成のオフガスから分離された水素を合成ガスに添加すると、SNを増大することができる。
【0021】
本発明の幾つかの実施態様では、第二冷却工程を行う前に、粗合成ガスは、第一冷却工程において、管状部中で非ガス状成分の固化温度よりも低い温度に冷却される。粗合成ガス中の非ガス状成分の固化温度は、炭素質原料に依存し、石炭型供給原料では、通常、600〜1200℃、更に特に500〜1000℃である。管状部での第一冷却工程は、急冷ガスの噴射により行ってよい。急冷ガスによる冷却は、例えばEP−A−416242、EP−A−662506及びWO−A−2004/005438に記載されている。好適な急冷ガスの例は、再循環合成ガス及び水蒸気である。この第一冷却は、以下に更に詳細に説明するように、ガス流に液滴からなる霧を噴射して行うのが更に好ましい。液体の霧を使用すると、霧は、ガス急冷に比べて、大きな冷却能力があるので、有利である。この液体は、噴霧するのに好適な粘度を有するいかなる液体であってもよい。噴射する液体の非限定的な例は、炭化水素液体、廃棄流等である。このような液体は、水を50%以上含有することが好ましい。この液体は、最も好ましくは実質的に(即ち、>95容量%)水からなる。好ましい実施態様では、可能な下流合成ガススクラバー中の、黒水とも云われる廃水が液体として使用される。なお更に好ましくは、任意の下流水シフト反応器のプロセス凝縮物が液体として使用される。
【0022】
“粗合成ガス”とは、ガス化反応器中で直接得られるガス混合物を意味する。この生成物流は、更に例えば乾燥固体取出しシステム、湿潤ガススクラバー、及び/又はシフト転化器中で更に処理でき、通常、処理される。“霧”とは、液体が小滴の形態で噴射されることを意味する。水を液体として使用する場合は、この水の好ましくは80%より多く、更に好ましくは90%より多くは、液体状態である。
【0023】
噴射された霧の温度は、噴射点において、通常の圧力条件下で泡立ち点より最大で50℃低い、特に最大で15℃低い、更に好ましくは最大で10℃低い温度である。この目的のため、噴射された霧が水であれば、通常、この温度は、90℃を超え、好ましくは150℃を超え、更に好ましくは200〜230℃である。この温度は、ガス化反応器の操作圧力、即ち、以下に特定した粗合成ガスの圧力に依存することは明らかである。これにより、噴射された霧の急速な蒸発が達成され、コールドスポットが回避される。その結果、ガス化反応器における塩化アンモニウムの堆積及び灰分の局所誘導は減少する。
【0024】
更に、直径50〜200μm、好ましくは100〜150μmの滴を含むことが好ましい。噴射された霧は、80容量%は、前記指定の大きさを有する滴の形態であることが好ましい。
粗合成ガスの急冷を促進するため、霧は、30〜90m/s、好ましくは40〜60m/sの速度で噴射することが好ましい。
【0025】
また、霧はガス化反応器中に存在する粗合成ガスの圧力より10バール以上、好ましくは20〜60バール、更に好ましくは約40バール高い噴射圧力で噴射することが好ましい。霧が粗合成ガスの圧力より10バール未満高い噴射圧力で噴射されると、霧の滴は、大きくなりすぎる可能性がある。後者は、噴霧ガスを使用して、少なくとも部分的に相殺することができる。噴霧ガスは、例えばN、CO、水蒸気又は合成ガス、更に好ましくは水蒸気又は合成ガスであってよい。噴霧ガスを使用すると、噴射圧力と粗合成ガスの圧力との差が5〜20バールの圧力差に低下できるという別の利点がある。
【0026】
更に、霧をガス化反応器から離れた方向に噴射するか、或いは霧を粗合成ガスの流れ方向に噴射すると、特に好適であることが見出された。こうして、霧を管状部に適用する場合は部分的に上向き方向に噴射し、或いは霧を環状空間に適用する場合は下向き方向に噴射することが好ましい。霧は管状部の縦軸に垂直な平面に対し30〜60°、更に好ましくは約45°で噴射することが好ましい。環状部では、霧は垂直下向きの方向に噴射することが好ましい。
【0027】
更に好ましい実施態様では、噴射された霧は、遮蔽流体で少なくとも部分的に囲まれる。これにより、局部堆積を形成する危険性は低下する。遮蔽流体は、いかなる好適な流体でもよいが、好ましくはN、COのような不活性ガス、合成ガス、水蒸気及びそれらの組合せよりなる群から選択される。
【0028】
特に好ましい実施態様では、噴射された霧の量は、急冷部を出る粗合成ガスがHOを40容量%以上、好ましくは40〜60容量%、更に好ましくは45〜55容量%以上含有するような量に選択される。
【0029】
他の好ましい実施態様では、粗合成ガスに対する水の添加量は、いわゆる過急冷の実施を選択する場合、前記好ましい範囲よりもなお多い。過急冷型プロセスでは、水の添加量、好ましくは環状部での添加量は、必ずしも全ての液体水が蒸発せず、若干の液体水が冷却粗合成ガス中に残るような量である。このような方法は、下流の乾燥固体取出しシステムを省略できるので有利である。このような方法では、ガス化反応器を出る粗合成ガスは水で飽和される。粗合成ガスと水噴射との重量比は、1:1〜1:4が可能である。
【0030】
これにより任意の下流水シフト転化工程において、水蒸気を更に追加する必要がなくなるか、或いは極小量で済むので資金をかなり低減できることが見出された。ここで資金とは、水シフト転化工程の原料中に噴射するのに必要な水蒸気の発生に要する水蒸気ボイラー用の資金を意味する。更に乾燥固体取出しシステムを省略することで、なおさら、資金をかなり低減できることが見出された。過急冷操作では、乾燥固体取出しシステムは省略できる。また、環状部下流の反応器の出口での合成ガス温度が500℃未満であるプロセス実施態様でも乾燥固体取出しシステムは省略できる。
【0031】
本発明の好ましい方法では、急冷部を出る粗合成ガス、特に水で飽和された合成ガスは、シフト転化することが好ましく、この場合、前記水の少なくとも一部は、COと反応して、CO及びHを生成し、こうしてシフト転化された合成ガス流が得られる。当業者ならば、シフト転化器とは何を意味するか容易に理解しているので、これについては更に検討しない。粗合成ガスをシフト転化する前に、粗合成ガスは、熱交換器中でシフト転化合成ガスで加熱することが好ましい。これにより、本方法のエネルギー消費は更に低下する。これに関連して、本発明方法では、この液体を用いて霧として噴射する前に、液体は加熱することも好ましい。この液体の加熱は、前記シフト転化合成ガス流との間接熱交換により行うことが好ましい。
【0032】
/COのいかなる所望のモル比も次のようにして得られる。合成ガスの一部に、水シフト反応を行ってCO欠乏流を得た後、合成ガスの他の一部と共に、この水シフトユニットをバイパスさせ、前記CO欠乏流とこのバイパス流とを組合わせる。バイパス原料とシフト原料との比率を選択すれば、好ましい下流プロセス用に最も望ましい比率が達成できる。
【0033】
以下に本発明を添付の非限定的図面を参照して、例示により更に詳細に説明する。
図1を参照すると、図1は、合成ガス製造用システム1を概略的に示す。ガス化反応器(2)において、炭素質原料及び酸素含有流は、それぞれライン(3)、(4)経由でガス化反応器(2)に供給できる。ガス化反応器(2)では、粗合成ガス及びスラグが得られる。この目的のため、通常、数本のバーナー(図示せず)がガス化反応器(2)中に存在する。通常、ガス化反応器(2)での部分酸化は、1200〜1800℃、好ましくは1400〜1800℃の範囲の温度及び1〜200バール、好ましくは20〜100バール、更に好ましくは40唐0バールの範囲の圧力で行われる。
【0034】
好ましい原料の殆どに存在する灰成分は、以上のような温度でいわゆる液体スラグを形成する。このようなスラグは、反応器(2)の壁の内側に層を形成することが好ましく、これにより、隔離層を作る。この温度条件は、スラグが一方ではこのような保護層を作り、他方では任意の別の処理用に下部に配置したスラグ出口(7)になお流動可能であるように選択される。
【0035】
生成した粗合成ガスは、ライン(5)経由で急冷帯(6)に供給され、ここで粗合成ガスは、通常、500℃未満、例えば約400℃に冷却される。急冷部(6)には、以下、図3において更に説明するように、液体水がライン(17)経由で霧状に噴射される。
【0036】
急冷部(6)への霧の噴射量は、急冷部(6)を出る粗合成ガスの所望温度等の各種条件に依存する。本発明の好ましい実施態様では、霧の噴射量は、急冷部(6)を出る粗合成ガスがHOを45〜55容量%以上含有するような量に選択される。
【0037】
図1の実施態様に示すように、急冷部(6)を出る粗合成ガスは、更に処理される。この目的で粗合成ガスは、該ガス中の乾燥灰分を少なくとも一部除去するため、ライン(8)経由で乾燥固体除去ユニット(9)に供給される。好ましい乾燥固体除去ユニット(9)は、例えばEP−A−551951及びEP−A−1499418に記載されるようなサイクロン又は濾過ユニットである。乾燥灰分はライン18経由で乾燥固体除去ユニット(9)から除去される。
【0038】
乾燥固体除去ユニット(9)を出た後、粗合成ガスは、ライン(10)経由で湿潤ガススクラバー(11)に供給し、次いで水の少なくとも一部をCOと反応させてCO及びHを製造するため、ライン(12)経由でシフト転化器(13)に供給してよい。これにより、ライン(14)中にシフト転化ガス流が得られる。湿潤ガススクラバー(11)及びシフト転化器(13)自体は既に公知なので、これらについて更に詳細には検討しない。ガススクラバー(11)からの廃水は、ライン(22)経由で除去され、更に、任意にその一部はライン(23)経由でガススクラバー(13)に再循環される。好ましくはガススクラバー(13)からの廃水、即ち、黒水の一部は、ライン(17)経由で噴射される液体水として使用してよい。黒水中に存在するいかなる固体化合物も乾燥固体除去ユニット(9)経由で本プロセスから除去されるので、このように液体水として使用するのは好ましい。
【0039】
ライン(12)中の粗合成ガスを、熱交換器(15)において、シフト転化器(13)から出るライン(14)中のシフト転化合成ガスで加熱すると、更に改良が達成される。
本発明では、熱交換器(15)を出るライン(16)の流れに含まれるエネルギーを使用して、急冷部(6)中に噴射されるライン(17)中の水を暖機状態に暖めることが好ましい。この目的のため、ライン(16)中の流れは、ライン(17)中の流れと間接熱交換するため、間接熱交換器(19)に供給してよい。
【0040】
図1の実施態様に示すように、ライン(14)中の流れは、ライン(16)経由で間接熱交換器(19)に入れる前に、まず熱交換器(15)に供給される。しかし、当業者ならば、所望に応じて、熱交換器(15)は、なくてもよいし、或いはライン(14)中の流れは、熱交換器(15)で熱交換する前に、まず間接熱交換器(19)に供給されることは容易に理解している。
【0041】
間接熱交換器(19)を出るライン(20)中の流れは、所望ならば、更に熱の回収及びガス処理のため、更に処理してよい。
所望ならば、ライン(17)中の加熱流は、ガススクラバー(11)の原料(ライン(21))として一部使用してもよい。
【0042】
図2を参照すると、図2は、図1のシステム1と同様な合成ガス製造用システム(101)を概略的に示す。図1と図2との差だけの重複を避けるため、詳細に検討する。プロセス条件及び流れ及び処理ユニットの機能の殆どは図1と同様である。
【0043】
炭素質原料及び酸素含有流は、それぞれライン(103)、(104)経由で燃焼室(102)に供給され、ここで粗合成ガス及びスラグが得られる。
生成した粗合成ガスは、図1と同様、ライン(105)経由で急冷帯(106)に供給される。急冷部(6)には、以下、図3において更に説明するように、液体水がライン(17)経由で霧状に噴射される。
【0044】
粗合成ガスに対する、急冷部(6)への霧の噴射量は、図1の方法よりも多い。この過急冷型方法では、水の添加量は、必ずしも全ての液体水が蒸発せず、若干の液体水が冷却粗合成ガス中に残るような量である。このような方法は、図2に示すように、下流の乾燥固体取出しシステムを省略できるので有利である。粗合成ガスと水噴射との重量比は、1:1〜1:4が可能である。
【0045】
図2の実施態様に示すように、急冷部(106)を出る粗合成ガスは、更に湿潤ガススクラバー(111)中で処理され、次いでライン(112)経由でシフト転化器(113)に供給される。ガススクラバー(111)からの廃水は、ライン(122)経由で除去され、更に任意にその一部はライン(123)経由でガススクラバー(111)に再循環される。ガススクラバー(111)からの廃水、即ち、黒水の一部は、好ましくはライン(117)経由で噴射される液体水として使用してよい。ライン(112)中の粗合成ガスは、熱交換器(115)において、シフト転化器(113)から出るライン(114)中のシフト転化合成ガスで加熱される。ライン(116)中の水蒸気は、ライン(117)中の流れと間接熱交換するため、間接熱交換器(119)に供給される。図2の実施態様に示すように、ライン(114)中の流れは、ライン(116)経由で間接熱交換器(119)に入れる前に、まず熱交換器(115)に供給される。間接熱交換器(119)を出るライン(120)中の流れは、所望ならば、更に熱の回収及びガス処理のため、更に処理してよい。所望ならば、ライン(117)中の加熱流は、ガススクラバー(111)の原料(ライン(121))として一部使用してもよい。
【0046】
図3は、図1のシステム1又は図2のシステム(101)に使用できるガス化反応器の縦断面を示す。図3は、以下の構成要素を含む好ましいガス化反応器を例示する。
・大気圧よりも高い圧力に維持するための圧力外殻(31)。
【0047】
該圧力外殻(31)の下部に配置した、好ましくは、いわゆるスラグ浴により、スラグを除去するための出口(25)。反応器の下端は、WO−A−2005/052095に記載されるように、好適に設計できる。スラグは、スラグ浴(25)経由、例えばUS−B−6755980に記載されるようなスラグ流出装置経由で圧力外殻(31)から除去できる。
【0048】
・操作中、合成ガスを形成できるガス化室(33)を画定する圧力外殻(31)内に配列されたガス化器壁(32)であって、該ガス化器壁(32)の下部開放部分はスラグ浴と流動可能に連絡している。該ガス化器壁(32)の上部開放端(34)は急冷帯(35)と流動可能に連絡している。ガス化器壁(32)は、内部に水、更に好ましくは蒸発(evaporating)水が流れる多数の導管により冷却される。このような冷却壁(32)に好適な設計は、いわゆる膜壁である。膜壁は、多数の平行な相互連結した管で構成され、これらの管は共同で気密体を形成する。これらの管は、蒸発水が冷却媒体として一層容易に使用できるように、垂直方向に配置される。
【0049】
・圧力外殻(31)内に管状形成部(36)を配置してなる急冷帯(35)であって、その上端及び下端は開放され、かつ圧力外殻(31)より小さい直径を有し、これにより管状部(36)の周りに環状空間(37)を画定する。管状部(36)の壁は、水、更に好ましくは蒸発水が流れる多数の導管により冷却することが好ましい。このような冷却壁に好適な設計は、前述のような膜壁である。環状部(37)は、該空間上の垂直長さに平行して変化する幅を持ってよい。この幅は、好適には前記空間(37)内を流れるガスの方向に従って大きくなる。管状形成部(36)の下部開放端は、ガス化器壁(32)の上端に流動可能に接続している。管状形成部(36)の上部開放端は、反らせ空間(38)経由で環状空間(37)と流動可能である。
【0050】
管状部(36)の下端には、液体又はガス状の冷媒を噴射するための噴射手段(39)が存在する。噴射方向は、前述の液体霧の噴射の場合と同様であることが好ましい。環状空間(37)には、液体を霧状に、前記環状空間(37)を流れる合成ガス中に好ましくは下向き方向で、噴射するための噴射手段(40)が存在する。図2は、更に、前記環状空間(37)の下端に流動可能に接続された圧力外殻(31)の壁に存在する合成ガス用出口(41)を示す。反応器(31)を図2に例示したような水飽和合成ガスを製造するのに使用した場合、環状空間(37)の下端に水浴(図示せず)が存在してもよい。或いは水飽和合成ガスは、環状空間(37)から直接排出される。
【0051】
急冷帯は、清浄化手段(42)及び/又は(43)を備えることが好ましい。清浄化手段は、機械的叩き器が好ましく、振動により、管状部の表面及び/又は環状空間の表面にそれぞれ蓄積する固体を避け、及び/又は除去する。
【0052】
図3による反応器の利点は、小型化に簡単な設計を組合わせたことである。環状空間内で液体を霧状に冷却すると、反応器の前記空間部には追加の冷却手段を省略でき、反応器は一層簡単になる。本発明方法に従って、噴射器(39)、噴射器(40)の両方を経由して、液体、好ましくは水を霧状に噴射することが好ましい。
本発明は、特許請求の範囲に定義した範囲を逸脱しない限り、各種方法で変形が可能であることは、当業者ならば、容易に理解している。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】一酸化炭素及び水素を含む精製混合物の製造用システムに対する概略工程計画を示す。
【図2】一酸化炭素及び水素を含む精製混合物の製造用システムに対する概略工程計画を示す。
【図3】好ましいガス化反応器の概略縦断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧よりも高い圧力に維持するための圧力外殻、
該圧力外殻の下部に配置したスラグ浴、
操作中、合成ガスを形成できるガス化室を画定する圧力外殻内に配列されたガス化器壁であって、該ガス化器壁の下部開放部分はスラグ浴と流動可能に連絡し、該ガス化器壁の上部開放端は急冷帯と流動可能に連絡している該ガス化器壁、
圧力外殻内に管状形成部を配置してなる急冷帯であって、その上端及び下端は開放され、かつ圧力外殻より小さい直径を有し、これにより管状部の周りに環状空間を画定し、ここで管状形成部の下部開放端は、ガス化器壁の上端に流動可能に接続され、管状形成部の上部開放端は、環状空間と流動可能に接続されている該急冷帯、
を備え、該管状部の下端には液体又はガス状の冷媒を噴射するための噴射手段が存在し、該環状空間には液体を霧状に噴射するための噴射手段が存在し、前記環状空間に流動可能に接続された圧力外殻の壁には合成ガス用出口が存在するガス化反応器。
【請求項2】
管状部の下端には液体冷媒を霧状に噴射するための噴射手段が存在する請求項1に記載のガス化反応器。
【請求項3】
環状空間には液体を霧状に噴射するための下向きの噴射手段が存在すると共に、該環状空間の下端に流動可能に接続された圧力外殻の壁には、前記合成ガス用出口が存在する請求項1又は2に記載のガス化反応器。
【請求項4】
前記ガス化室は1対以上の部分酸化バーナーを備えると共に、前記バーナーは固体炭素質原料用供給手段及び酸素用供給手段を備える請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス化反応器。
【請求項5】
前記合成ガス用出口が乾燥固体除去ユニットの入口に流動可能に接続され、湿潤ガススクラバーの入口が該乾燥固体除去ユニットのガス出口に流動可能に接続されると共に、該湿潤ガススクラバーは、一酸化炭素及び水素を含有する精製混合物用の出口を供給する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス化反応器からなる、一酸化炭素及び水素を含有する精製混合物の製造用システム。
【請求項6】
前記合成ガス用出口が湿潤ガススクラバーの入口に流動可能に接続されると共に、該湿潤ガススクラバーが一酸化炭素及び水素を含有する精製混合物用の出口を備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス化反応器からなる、一酸化炭素及び水素を含有する精製混合物の製造用システム。
【請求項7】
前記湿潤ガススクラバーの一酸化炭素及び水素を含有する精製混合物用出口が、シフトガス用の出口も備えたシフト転化器の入口に流動可能に接続される請求項5又は6に記載のシステム。
【請求項8】
熱交換器が存在し、ここで前記湿潤ガススクラバーからのガスが前記シフト転化器で得られたシフトガスで昇温される請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記ガス化室において、固体炭素質原料を酸素含有ガスで部分酸化して、1200〜1800℃の温度及び20〜100バールの圧力を有する上向き流のガス混合物を形成し、該ガス混合物を前記管状部内で500〜900℃の温度に冷却し、引続き更に該ガス混合物を前記環状部内で該ガス流中に、水滴からなる霧を噴射して500℃未満に冷却することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス化反応器又は請求項5〜8のいずれか1項に記載のシステムにおける固体炭素質原料の部分酸化による一酸化炭素及び水素よりなる混合物の製造方法。
【請求項10】
前記管状部での冷却が、前記ガス流中に、水滴からなる霧を噴射して行われる請求項9に記載の方法。
【請求項11】
噴射された霧の温度が150℃を超える請求項10に記載の方法。
【請求項12】
噴射された霧の温度が、前記上向き流ガス混合物の圧力下の水の泡立ち点よりも最大で50℃低い請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記霧が直径50〜200μmの滴を含む請求項9〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記霧が30〜100m/sの速度で噴射される請求項9〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記霧が40〜60m/sの速度で噴射される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記霧が、噴霧ガスを用いて、前記粗合成ガスの圧力よりも5〜20バール高い噴射圧力で噴射される請求項8〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記霧が、前記管状部の縦軸に垂直な平面に対し30〜60°の角度で噴射される請求項10〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記噴射された霧が遮蔽用流体で少なくとも部分的に囲まれる請求項10〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記遮蔽用流体が、N及びCOのような不活性ガス、合成ガス、水蒸気及びそれらの組合わせよりなる群から選択される請求項18に記載の方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−535471(P2009−535471A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508306(P2009−508306)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【国際出願番号】PCT/EP2007/053871
【国際公開番号】WO2007/125047
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP