説明

ガス吸着剤、ガス吸着素材及びガス吸着素材の製造方法

【課題】 酢酸等の酸性系の悪臭ガス及びアルデヒド系の悪臭ガスの吸着性能に優れ、なおかつ基材への密着性に優れるガス吸着剤を提供すること。
【解決手段】 ガス吸着剤は、アミノ基及び/又はイミノ基と、シラノール基又は加水分解によりシラノール基を生じ得る基と、を有する有機ケイ素化合物と、ヒドロキシル基又は加水分解基を有する有機金属化合物又は有機半金属化合物と、の反応生成物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吸着剤及びガス吸着素材とその製造方法に関し、より詳細には酢酸等の酸性系の悪臭ガスやアルデヒド系の悪臭ガスを吸着することのできるガス吸着剤、及びそれを用いて得られるガス吸着素材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の臭気ガスを吸着し、除去するためのガス吸着剤として安価な活性炭が多用されてきた。また、活性炭の他に、シリカ、アルミナ等の多孔性材料もガス吸着剤として用いられている。しかし、これらの材料は臭気ガスの吸着が、主に多数の微細孔への物理的な吸着作用によるものであることから、ガスの種類によっては十分な吸着量が得られないことがある。また、物理的な吸着は、臭気物質が容易に吸着される一方で、吸着したガスが容易に脱離する傾向にある。そのため、上記の材料にはガス吸着剤としてのさらなる性能の向上が要求されている。
【0003】
このような課題に対して、活性炭やシリカ等の多孔性材料の表面を化学的に処理することによって改変し、物理的吸着作用に加えて化学的吸着作用を発現させ、吸着性能を向上させる試みがなされている。例えば、下記特許文献1〜4には、多孔性材料にアミノ基を有する有機ケイ素化合物を担持させた吸着剤が提案されている。そして、このようなアミノ基による修飾は、酢酸等の酸性系の悪臭ガスやアルデヒド系の悪臭ガスに対する吸着性能の向上に有効であると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−257346号公報
【特許文献2】特開2000−218159号公報
【特許文献3】特開2006−312164号公報
【特許文献4】特開2009−113026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガス吸着剤は、そのままの形態でも用いられるが、例えば、空気清浄機用フィルターやガス吸着シートなどのようなガス吸着素材を作製するための材料として用いられる場合もある。ガス吸着素材の多くは、通常、所定の基材にガス吸着剤を付与することにより製造される。
【0006】
しかし、上記特許文献1〜3に記載のガス吸着剤では、十分なガス吸着性能を有するガス吸着素材を製造するためには多量に使用しなければならなかった。ガス吸着剤の使用量が多いと、ガス吸着素材が白化するという意匠上の問題や、ガス吸着素材の風合いが硬くなったり、ガス吸着素材が燃えやすくなったりするなどの問題、さらには、多量のガス吸着剤を要することによる高コスト化等の問題が生じてしまう。
【0007】
また、上記特許文献1〜3に記載のガス吸着剤は、基材への密着性が低いことから、摩耗、振動や微風等といった軽い衝撃によって簡単に脱落しやすい。そのため、上記従来のガス吸着剤を付与してなるガス吸着素材は、ガス吸着性能の安定性が不十分であり、ガス吸着素材の製造時或いは得られたガス吸着素材の加工時には粉塵が舞うなどの作業環境上の問題を有している。
【0008】
特許文献4に記載のガス吸着剤は、担体の平均粒径を調整することにより、基材の色相への影響、特に白化現象を抑えることが可能である。しかし、特許文献4のガス吸着剤を用いて作製されたガス吸着素材には、摩耗を受けることでガス吸着剤が白化したりガス吸着剤が脱落してガス吸着性能が低下してしまうという、製造直後では見られない問題が新たに見つかった。
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、酢酸等の酸性系の悪臭ガス及びアルデヒド系の悪臭ガスの吸着性能に優れ、なおかつ基材への密着性に優れるガス吸着剤を提供することを目的とする。また、本発明は、摩耗耐久性に優れ、意匠性やガス吸着性能が低下しにくいガス吸着素材、及びこのガス吸着素材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、特定の基を有する有機ケイ素化合物と、特定の基を有する有機金属化合物又は有機半金属化合物との反応生成物が、より少ない使用量で十分なガス吸着性能を発現するとともに、ガス吸着素材を作製するための基材への密着性も飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明のガス吸着剤は、アミノ基及び/又はイミノ基と、シラノール基又は加水分解によりシラノール基を生じ得る基と、を有する有機ケイ素化合物と、ヒドロキシル基又は加水分解基を有する有機金属化合物又は有機半金属化合物と、の反応生成物からなることを特徴とする。
【0012】
本発明のガス吸着剤は、上記構成を有することにより、酢酸等の酸性系の悪臭ガス及びアルデヒド系の悪臭ガスの吸着性能に優れ、なおかつ基材への密着性に優れる。このような本発明のガス吸着剤によれば、所定の基材に付着させることによって、摩耗耐久性に優れ、意匠性やガス吸着性能が低下しにくいガス吸着素材を実現することができる。
【0013】
なお、本発明により上記の効果が奏される理由を本発明者らは以下のように推測する。すなわち、上記有機ケイ素化合物と反応させる上記有機金属化合物又は有機半金属化合物が担体として機能することによって、ガス吸着剤の単位重量あたりのアミノ基及び/又はイミノ基の数を飛躍的に向上させることができることに加え、得られるガス吸着剤が有機の構造を有しない担体を用いた場合に比べて基材に密着しやすい分子形状をとることができ、さらには皮膜を形成できることで基材への密着性が向上するためであると考えられる。
【0014】
本発明のガス吸着剤において、上記反応生成物が、上記有機ケイ素化合物100質量部に対して上記有機金属化合物又は有機半金属化合物を1〜200質量部の割合で反応させて得られるものであることが好ましい。このような割合で反応させて得られるガス吸着剤は、基材上に付着させたときに、基材表面がベタつきにくく、基材の風合いを十分維持することができ、さらには、摩耗によって脱落しやすくなる等の不具合が発生しにくく、少ない使用量で十分なガス吸着性能を得ることが可能となる。
【0015】
また、本発明のガス吸着剤において、ガス吸着剤が有するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部が、炭酸、蟻酸及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の酸で中和されていることが好ましい。この場合、熱によるガス吸着性能の低下を十分抑えることができる。
【0016】
本発明はまた、基材に上記本発明のガス吸着剤を付着させてなることを特徴とするガス吸着素材を提供する。
【0017】
本発明のガス吸着素材によれば、本発明のガス吸着剤を用いることにより、酢酸等の酸性系の悪臭ガス及びアルデヒド系の悪臭ガスを効率よく吸着することができ、付与されるガス吸着剤量がより少ない場合でも従来よりも優れたガス吸着性能を発現でき、かつ、摩耗しても吸着剤が容易に脱落したり白化したりしないため、意匠性やガス吸着性能の低下を抑えることができる。
【0018】
また、本発明のガス吸着素材において、本発明のガス吸着剤のアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部が上記の酸により中和されている場合、更に優れた耐熱性を有することができる。このようなガス吸着素材は、低コスト化、品質、作業安全性を従来よりも高水準で両立することが可能となる。
【0019】
本発明はまた、基材に上記本発明のガス吸着剤を付着させる工程を備えることを特徴とするガス吸着素材の製造方法を提供する。このガス吸着素材の製造方法によれば、摩耗耐久性に優れ、意匠性やガス吸着性能が低下しにくいガス吸着素材を得ることができる。また、本発明のガス吸着素材の製造方法は、ガス吸着性能に優れかつ基材への密着性に優れた本発明のガス吸着剤を用いることで、ガス吸着素材の製造における低コスト化、品質、作業安全性を従来よりも高水準で両立することが可能となる。
【0020】
本発明はまた、基材に、アミノ基及び/又はイミノ基と、シラノール基又は加水分解によりシラノール基を生じ得る基と、を有する有機ケイ素化合物、又は、当該有機ケイ素化合物のアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部が、炭酸、蟻酸及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の酸で中和された中和物、と、ヒドロキシル基又は加水分解基を有する有機金属化合物又は有機半金属化合物と、を付与し、基材上で有機ケイ素化合物と有機金属化合物又は有機半金属化合物とを反応させることを特徴とするガス吸着素材の製造方法を提供する。
【0021】
上記のガス吸着素材の製造方法によれば、摩耗耐久性に優れ、意匠性やガス吸着性能が低下しにくいガス吸着素材を得ることができる。また、上記有機ケイ素化合物又は中和物と、上記有機金属化合物又は有機半金属化合物とを基材に直接付着させることができ、製造工程の一部を省くことができることから、ガス吸着素材の製造における低コスト化、品質、作業安全性を従来よりも高水準で両立することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒド系の悪臭ガスや、酢酸や酪酸等の有機酸に代表される酸性の悪臭ガスに対するガス吸着性能に優れ、なおかつ基材への密着性に優れるガス吸着剤を提供することができる。また、本発明によれば、摩耗耐久性に優れ、意匠性やガス吸着性能が低下しにくいガス吸着素材、及びこのガス吸着素材の製造方法を提供することができる。本発明によれば、ガス吸着素材の製造における低コスト化、品質、作業安全性を従来よりも高水準で両立することが可能となる。
【0023】
また、本発明によれば、ガス吸着性能及び密着性に加えて耐熱性にも優れたガス吸着剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のガス吸着剤は、アミノ基及び/又はイミノ基と、シラノール基又は加水分解によりシラノール基を生じ得る基と、を有する有機ケイ素化合物と、ヒドロキシル基又は加水分解基を有する有機金属化合物又は有機半金属化合物と、の反応生成物からなることを特徴とする。
【0025】
本発明において用いられる有機ケイ素化合物は、アミノ基及び/又はイミノ基を1個以上と、シラノール基又は加水分解によりシラノール基を生じ得る基を1個以上有する。ここで、加水分解によりシラノール基を生じ得る基としては、例えば、SiOR基(ここで、Rは炭化水素基を示し、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である)が挙げられる。
【0026】
上記有機ケイ素化合物としては、例えば、γ−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルジメチルメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルジメチルエトキシシラン等の一官能性の有機ケイ素化合物;γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン等の二官能性の有機ケイ素化合物;3−アミノプロピルトリヒドロキシシラン、メトキシ(3−アミノプロピル)ジヒドロキシシラン、エトキシ(3−アミノプロピル)ジヒドロキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピル(イソプロポキシ)ジメトキシシラン、2−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等の三官能性の有機ケイ素化合物、等のシランカップリング剤が挙げられる。
【0027】
反応性の観点から、シラノール基又は加水分解によりシラノール基を生じ得る基を合計で二個以上有する化合物を用いることが好ましく、二官能性又は三官能性の有機ケイ素化合物を用いることが好ましい。
【0028】
本発明において用いられるヒドロキシル基又は加水分解基を有する有機金属化合物又は有機半金属化合物としては、金属又は半金属が、例えば、Mg、Al、Si、Ti、Ge、Zr、Sn、Sr、Y、La、Hf、Ta、Biなどであるものが挙げられる。
【0029】
上記加水分解基とは、加水分解によりヒドロキシル基を生じ、上記有機ケイ素化合物由来のシラノール基と脱水縮合反応を経て結合し得る基のことを指す。このような加水分解基としては、例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン基、イソシアネート基、ジケトン基などが挙げられる。アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基などの炭素数1〜4のアルコキシ基などが挙げられ、アリールオキシ基の例としては、フェノキシ基などが挙げられる。加水分解基として特に好ましいのは、有機ケイ素化合物との反応性がより良好であるとの観点からアルコキシ基である。
【0030】
上記有機金属化合物又は有機半金属化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン化合物、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のトリアルコキシシラン化合物、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のジアルコキシシラン化合物、チタンテトライソプロポキシド、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)等のチタンアルコキシド化合物、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリエトキシド等のアルミニウムアルコキシド化合物、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド等のジルコニウムアルコキシド化合物、マグネシウムジエトキシド等のマグネシウムアルコキシド化合物、イットリウムトリブトキサイド等のイットリウムアルコキシド化合物、タンタルペンタエトキサイド等のタンタルアルコキシド化合物、ビスマストリブトキサイド等のビスマスアルコキシド化合物、ハフニウムテトラブトキサイド等のハフニウムアルコキシド化合物、ゲルマニウムテトラエトキサイド等のゲルマニウムアルコキシド化合物、ランタニウムテトライソプロポキサイド等のランタニウムアルコキシド化合物、スズテトラブトキサイド等のスズアルコキシド化合物、ストロンチウムジイソプロポキサイド等のストロンチウムアルコキシド化合物などの金属又は半金属アルコキシド化合物、メチルトリフェノキシシラン、メチルトリクロロシラン、テトライソシアネートシラン等のシラン化合物、チタンテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムアセチルアセトネート等の金属キレート化合物等が挙げられる。
【0031】
上記有機金属化合物又は有機半金属化合物は、ヒドロキシル基又は加水分解基を合計で二個以上有するものが好ましく、三個以上有するものがより好ましい。これにより、ガス吸着剤のガス吸着素材への密着性をより強くすることが可能となる
【0032】
本発明においては、上記有機金属化合物又は有機半金属化合物を、有機ケイ素化合物100質量部に対して1〜200質量部の割合で反応させることが好ましく、3〜100質量部の割合で反応させることがより好ましく、5〜60質量部の割合で反応させることが最も好ましい。
【0033】
上記有機金属化合物又は有機半金属化合物の割合が、有機ケイ素化合物100質量部に対して1質量部未満であると、ガス吸着剤の分子量や架橋度が不十分なものとなる傾向があり、その結果、ガス吸着剤による皮膜が基材上に形成され難くなる。また、形成されたとしても粘着性の高いものとなるため、ガス吸着素材の素材表面がベタつき、製造や加工の際に作業性が悪くなる、風合いが損なわれる、吸着剤が摩耗によって脱落しやすくなる等の不具合が発生しやすくなる。一方、上記有機金属化合物又は有機半金属化合物の割合が、有機ケイ素化合物100質量部に対して200質量部より大きいと、少ないガス吸着剤の使用量で十分なガス吸着性能が得られにくくなる。
【0034】
本発明のガス吸着剤は、上記有機ケイ素化合物と、上記有機金属化合物又は有機半金属化合物との混合物を水の存在下で反応させることにより調整することができる。例えば、両者の混合物に水を加えて、室温(25℃程度)又は適宜加熱(好ましくは90℃以下で加熱)して10分〜5時間程度攪拌する方法により、ガス吸着剤を含有する水溶液もしくは水分散液として得ることができる。この場合、溶媒である水を除去して、固体状のガス吸着剤を得ることができる。或いは、両者の混合物を室温(25℃程度)又は適宜加熱下で空気中に放置することによってもガス吸着剤を得ることができる。この場合、空気中の水分により両者が反応する。
【0035】
本発明のガス吸着剤において、ガス吸着剤が有するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部が、炭酸、蟻酸及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の酸で中和されていることが好ましい。この場合、熱によるガス吸着性能の低下を十分抑えることができる。
【0036】
アミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部が、炭酸、蟻酸及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸で中和されたガス吸着剤を得るには、例えば、予め上記有機ケイ素化合物のアミノ基及び/又はイミノ基を上記酸で中和し、その後に上記有機金属化合物又は有機半金属化合物と反応させる方法、上記有機ケイ素化合物と上記有機金属化合物又は有機半金属化合物とを反応させた後に上記酸で中和をする方法等が挙げられる。
【0037】
より具体的には、上記有機ケイ素化合物と、上記有機金属化合物又は有機半金属化合物との混合物に水を加え、室温で10分〜5時間程度攪拌した後、この水溶液もしくは水分散液のpHが当初の11〜12から3〜10になるまで、好ましくは5〜9になるまで、炭酸ガス、ドライアイス、蟻酸及び酢酸のうちの1種以上を加えて中和することによって、アミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部が、炭酸、蟻酸及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸で中和されたガス吸着剤を含有する水溶液もしくは水分散液を得ることができる。
【0038】
本発明のガス吸着剤は、必要に応じて、有機溶剤、分散剤(好ましくは非イオン界面活性剤)、増粘剤、防腐剤や、尿素、ヒドラジン化合物、アミノグアニジン化合物等従来公知のアルデヒド吸着性能をもった成分と併用してもよい。
【0039】
本発明のガス吸着剤は、熱処理を加えなくても十分なガス吸着性を有するため、そのまま用いることができる。
【0040】
本発明のガス吸着素材は、基材に、上記本発明のガス吸着剤が付着されてなるものである。本発明のガス吸着素材の基材としては、例えば、繊維、プラスチック、ウレタンフォーム、天然皮革、紙、ガラス、木材、活性炭、セラミック等が挙げられる。繊維の素材としては、例えば、綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリオレフィン等の合成繊維、アセテート等の半合成繊維、レーヨン等の再生繊維、炭素繊維及びこれらの複合繊維、不織布、フェルト等が挙げられる。基材の形状は特に制限されず、使用形態に合わせて適宜選択することができる。また、本発明のガス吸着素材は、ガス吸着素材を製造した後に必要に応じて適宜加工することもできる。
【0041】
本発明のガス吸着素材は、ガス吸着剤の使用量が少ない場合でも従来よりも十分なガス吸着性能を発揮し、さらにはガス吸着剤の基材に対する高い密着性も両立することできる。具体的には、基材へのガス吸着剤の付着量が0.1g/m以上でガス吸着性能を十分発揮することができ、また、摩耗によるガス吸着剤の脱落によるガス吸着性能の低下がほとんどない。
【0042】
次に、本発明のガス吸着素材の製造方法について説明する。
【0043】
本発明に係るガス吸着素材の製造方法の第一様態としては、基材に、上記ガス吸着剤を付着させる工程を含むものである。
【0044】
基材にガス吸着剤を付着させる方法としては、本発明のガス吸着剤をそのまま、又は水やアルコール等の溶媒で適宜希釈又は濃縮した溶液もしくは分散液を用いて、スプレーやコーティング、キスロール、スタンプ等の公知の方法により塗布する方法や、浸漬する方法等が挙げられる。このとき、ガス吸着剤又はその分散液等には適宜バインダーを添加してもよい。バインダーとしては、従来公知のものを特に制限なく用いることができ、例えば、ポリビニルアルコール、アクリルエマルジョン、酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン、メチルセルロース、アクリル−スチレン共重合体エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、シリコーンエマルジョン等が挙げられる。
【0045】
また、上述したように、本発明のガス吸着剤を水等の溶媒が含まれる分散液等として得た場合、分散液等から溶媒を留去して得られる固体状のガス吸着剤と、上記バインダーとを混合し、この混合物を基材に塗布することができる。
【0046】
基材にガス吸着剤を付着させた後は、基材の種類や付与量に応じて適当な条件により風乾あるいは熱処理を施すことができる。
【0047】
更に、上記の製造方法の第一の様態について具体例を示す。例えば、基材が繊維製品である場合、特に、織物、編物や不織布等の布帛である場合、ガス吸着剤を含む処理液を用意し、この処理液を基材に塗布する、又は処理液に基材を浸漬する方法により、基材にガス吸着剤を付着させることができる。この後、基材を加熱乾燥することでガス吸着素材が得られる。処理液におけるガス吸着剤の分散媒等としては、環境や安全性の点から、メタノールやエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールや水が好ましい。
【0048】
処理液中のガス吸着剤の濃度は、製造されるガス吸着素材の目的や用途によって適宜設定されるが、ガス吸着性や風合い、外観などを考慮すると、ガス吸着剤の含有割合が0.001〜3質量%であることが好ましい。
【0049】
上記の処理液には、本発明のガス吸着剤の他に、繊維加工に用いられる従来公知の成分、例えば、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、柔軟剤、防皺剤等を適宜含有させることができる。
【0050】
加熱乾燥の条件は特に限定しないが、通常の繊維製品における熱処理条件を適用できる。
【0051】
本発明に係るガス吸着素材の製造方法の第二の様態は、基材に、アミノ基及び/又はイミノ基と、シラノール基又は加水分解によりシラノール基を生じ得る基と、を有する有機ケイ素化合物、又は、当該有機ケイ素化合物のアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部が、炭酸、蟻酸及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の酸で中和された中和物、と、ヒドロキシル基又は加水分解基を有する有機金属化合物又は有機半金属化合物と、を付与し、基材上で有機ケイ素化合物と有機金属化合物又は有機半金属化合物とを反応させ、これにより基材にガス吸着剤が付着されたガス吸着素材を得るものである。
【0052】
上記有機ケイ素化合物又は上記中和物と、上記有機金属化合物又は有機半金属化合物とは、基材に付着後、空気中の水分によって反応し、反応生成物は皮膜化することができる。或いは、基材に両者を付着させた後に、スプレー等で水を付与することにより両者を反応させたり、水蒸気中に放置することにより両者を反応させたりすることができる。予め、有機ケイ素化合物のアミノ基及びイミノ基の一部または全部が酸で中和されている場合も、空気中の水分又は付与された水分によって反応し皮膜化する。
【0053】
基材に、上記有機ケイ素化合物又は上記中和物と、上記有機金属化合物又は有機半金属化合物とを付与した後は、基材の種類や付与量に応じて適当な条件により風乾あるいは熱処理を施すことができる。例えば、湿度65%及び温度25℃の条件下で一日放置したり、60℃で二時間加熱放置したりするなどの方法が挙げられる。
【0054】
基材に、上記有機ケイ素化合物又は上記中和物と、上記有機金属化合物又は有機半金属化合物とを付与する際には、両成分の混合物を調製し、これを基材上に付与してもよいし、あるいは、一成分ずつ別々に基材上に付与してもよい。
【0055】
また、付与の方法としては、各成分又はその混合物を、そのままあるいは適宜希釈又は濃縮した分散液等を用いて、スプレー等の公知の方法により塗布する方法や浸漬する方法等が挙げられる。
【0056】
このとき、各成分もしくはその混合物に、適宜バインダーを添加してもよい。バインダーとしては、従来公知のものを特に制限なく用いることができ、例としては上述したものが挙げられる。
【0057】
なお、必要に応じて、各成分又はその混合物に、尿素、ヒドラジン化合物、アミノグアニジン化合物等従来公知のアルデヒド吸着性能を有する成分、有機溶剤、分散剤(好ましくは非イオン界面活性剤)、増粘剤、防腐剤や、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、柔軟剤、防皺剤等の従来公知の繊維加工剤などを適宜含有させることができる。
【0058】
本発明のガス吸着素材は、例えば、空気清浄機フィルター、ガス吸着シート、壁紙、カーテン、カーペット等の内装材、カーシート、天井材、フロアマットなどの自動車用内装材等のガス吸着用装飾剤等の各種部材として、ガス吸着が必要とされる空間で利用することができる。本発明のガス吸着素材から構成されるこれらの部材は、従来よりも少ないガス吸着剤付着量であっても従来と同等以上のガス吸着性を実現できるため低コストであり、また、ガス吸着剤の素材への密着性が高いため耐摩耗性に優れ、コスト面や意匠性に優れたものとなり得る。
【実施例】
【0059】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されものではない。
【0060】
<ガス吸着素材の製造>
以下の実施例、及び比較例はすべて生地目付200g/mの生地を用いて行った。
【0061】
(実施例1)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gにテトラエトキシシラン15gを添加して混合物を得た。次に、この混合物に炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施した。中和処理については、混合物を一部取り、水で10%希釈した液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んだ。なお、中和前の混合物の水10%希釈液のpHは11.5であった。
【0062】
次に、上記で得られた混合物をイソプロピルアルコールで1000倍に希釈して、0.1質量%の混合物分散液(処理液)を調整し、これにポリエステル100%黒染色布((株)色染社製)を、ピックアップ50質量%(ガス吸着剤の付与量が布に対して0.1質量%×50質量%=0.05質量%となる条件)で浸漬処理した。そして、浸漬処理後の布を120℃で2分間乾燥し、20℃で湿度65%の条件下で一晩放置することにより、ガス吸着素材を得た。
【0063】
(実施例2)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gにテトラエトキシシラン15gを添加して混合物を得た。次に、この混合物に炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施した。中和処理については、混合物を水で10%に希釈したもののpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んだ。なお、中和前の混合物の水10%希釈液のpHは11.5であった。
【0064】
次に、上記で得られた混合物を水で1000倍に希釈して、20℃で約30分間撹拌し、0.1質量%のガス吸着剤分散液(処理液)を調整し、これにポリエステル100%黒染色布((株)色染社製)を、ピックアップ50質量%(ガス吸着剤の付与量が布に対して0.1質量%×50質量%=0.05質量%となる条件)で浸漬処理した。そして、浸漬処理後の布を120℃で2分間乾燥することにより、ガス吸着素材を得た。
【0065】
(実施例3)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gにテトラエトキシシラン15gを添加し、これに水585gを加え、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0066】
次に、上記で得られた水分散液を水で100倍に希釈して、0.1質量%のガス吸着剤分散液(処理液)を調整し、これにポリエステル100%黒染色布((株)色染社製)を、ピックアップ50質量%(ガス吸着剤の付与量が布に対して0.1質量%×50質量%=0.05質量%となる条件)で浸漬処理した。そして、浸漬処理後の布を120℃で2分間乾燥することにより、ガス吸着素材を得た。
【0067】
(実施例4)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gにテトラエトキシシラン15gを添加し、これに水585gを加え、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0068】
次に、上記で得られた水分散液を水で25倍に希釈して、0.4質量%のガス吸着剤分散液(処理液)を調整し、これにポリエステル100%黒染色布((株)色染社製)を、ピックアップ50質量%(ガス吸着剤の付与量が布に対して0.4質量%×50質量%=0.2質量%となる条件)で浸漬処理した。そして、浸漬処理後の布を120℃で2分間乾燥することにより、ガス吸着素材を得た。
【0069】
(実施例5)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gにテトラエトキシシラン15gを添加し、これに水585gを加え、室温で約3時間攪拌し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。
【0070】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0071】
(実施例6)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gにテトラエトキシシラン1.5gを添加し、これに水463.5gを加え、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0072】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0073】
(実施例7)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gにテトラエトキシシラン50gを添加し、これに水900gを加え、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0074】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0075】
(実施例8)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン50gにテトラエトキシシラン15gを添加し、これに水585gを加え、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0076】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0077】
(実施例9)
γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gにテトラエトキシシラン15gを添加し、これに水585gを加え、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0078】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0079】
(実施例10)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン30gに、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン20g、テトラエトキシシラン15gを添加し、これに水585gを加え、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0080】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0081】
(実施例11)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gに、チタンテトライソプロポキシド15gを添加し、これに水585gを加え、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0082】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0083】
(実施例12)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gに、アルミニウムトリイソプロポキシド15gを添加し、これに水585gを加え、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0084】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0085】
(実施例13)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gに、チタンテトラアセチルアセトネート15gを添加し、これに水585gを加え、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0086】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0087】
(実施例14)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gに、メチルトリメトキシシラン10g、及びジメチルジメトキシシラン5gを添加し、これに水585gを加え、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0088】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0089】
(実施例15)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gに、テトラエトキシシラン10g、及びメチルトリメトキシシラン5gを添加し、これに水585gを加え、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで蟻酸を加えて中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0090】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0091】
(実施例16)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gに、テトラエトキシシラン10g、及びビニルトリメトキシシラン5gを添加し、これに水585gを加え、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0092】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0093】
(実施例17)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gに、テトラエトキシシラン10g、及びアルミニウムトリイソプロポキシド5gを添加し、これに水585gを加え、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0094】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0095】
(実施例18)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gに、テトラエトキシシラン7g、アルミニウムトリイソプロポキシド5g、ジメチルジメトキシシラン3gを添加し、これに水585gを加え、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0096】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0097】
(実施例19)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gにテトラエトキシシラン0.25gを添加し、これに水452.25gを加え、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0098】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0099】
(実施例20)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gにテトラエトキシシラン15gを添加し、これに水585gを加え、室温で約3時間攪拌し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。
【0100】
次に、上記で得られた水分散液を水で100倍に希釈して、0.1質量%のガス吸着剤分散液(処理液)を調整し、これにポリエステル100%黒染色布((株)色染社製)を、ピックアップ50質量%(ガス吸着剤の付与量が布に対して0.1質量%×50質量%=0.05質量%となる条件)で浸漬処理した。そして、浸漬処理後の布を温度20℃、湿度65%RHの恒温恒湿室で一昼夜風乾し、ガス吸着素材を得た。
【0101】
(実施例21)
γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシランに炭酸ガスを吹き込み、中和物を得た。中和処理については、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシランの一部を取り出して、水で10%希釈した液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んだ。なお、中和前の前記シラン化合物の水10%希釈液のpHは11.5であった。この中和物とテトラエトキシシランをそれぞれ、ポリエステル100%黒染色布((株)色染社製)に0.05g/mずつ均一にスプレーで付与した。そして、スプレー後の布を20℃、湿度65%の条件下で一晩放置し、両者を反応させることによりガス吸着素材を得た。
【0102】
(比較例1)
コロイダルシリカ(日産化学(株)製、商品名「スノーテックス30」、平均粒径10〜20nm、シリカ含有量30質量%)50gに、水550gを加え、これにγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gを添加し、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0103】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0104】
(比較例2)
コロイダルシリカ(日産化学(株)製、商品名「スノーテックス30」、平均粒径10〜20nm、シリカ含有量30質量%)167gに、水783gを加え、これにγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gを添加し、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0105】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0106】
(比較例3)
コロイダルシリカ(日産化学(株)製、商品名「スノーテックス30」、平均粒径10〜20nm、シリカ含有量30質量%)167gに、水783gを加え、これにγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gを添加し、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0107】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例4と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0108】
(比較例4)
シリカ(東ソー・シリカ(株)製、商品名「E−220A」、平均粒径1μm)15gに、水585gを加えて攪拌し、これにγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン50gを添加し、室温で約3時間攪拌した。次に、この反応液に、反応液のpHが9になるまで炭酸ガスを吹き込んで中和処理を施し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。なお、中和前の反応液のpHは11.5であった。
【0109】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0110】
(比較例5)
ポリエチレンイミン(日本触媒(株)製、商品名「SP−012」)10gに、水90gを加えて攪拌し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。
【0111】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0112】
(比較例6)
ポリアリルアミン(日東紡(株)製、商品名「PAA−15」、樹脂分15質量%)100gに、水50gを加えて攪拌し、ガス吸着剤の濃度が10質量%である水分散液を得た。
【0113】
次に、上記で得られた水分散液を用いたこと以外は実施例3と同様にして、ガス吸着素材を得た。
【0114】
[ガス吸着素材の評価]
上記の実施例及び比較例で得られたガス吸着素材について、ガス吸着性及び摩耗耐久性、摩耗前後の色相、表面の触感を以下の方法により評価した。結果を表1、2に示す。
【0115】
(ガス吸着性)
5Lのテドラーバックに、得られたガス吸着素材を10cm×10cm(100cm)の大きさに切ったものを入れて封をし、中の空気をアスピレーターで完全に除去した。この中に、酢酸の初発濃度50ppm、又はアセトアルデヒドの初発濃度14ppmを含む窒素ガス3Lを封入し、室温で2時間放置後の酢酸又はアセトアルデヒドの濃度を測定し、下記式によりその減少率を求めた。
【0116】
減少率(%)={1−(2時間後の酢酸又はアセトアルデヒド濃度[ppm]/酢酸又はアセトアルデヒドの初発濃度[ppm])}×100
【0117】
(摩耗耐久性)
平面摩耗試験機(山口科学(株)製)を用いて、ポリエステル100%白布((株)谷頭商店製)を取り付けた500gの摩擦子と、得られたガス吸着素材の表面を200回擦り合わせた後、ガス吸着素材の表面を軽くはたいて、アセトアルデヒドのガス吸着性を評価した。
【0118】
(摩耗前後の色相)
平面摩耗試験機(山口科学(株)製)を用いて、ポリエステル100%白布((株)谷頭商店製)を取り付けた500gの摩擦子と、得られたガス吸着素材の表面を200回擦り合わせる前と後について、ガス吸着素材の表面を目視にて下記基準に基づいて3段階で判定した。
○:未加工のポリエステル100%黒染色布と同等の色調である。
△:斑や白粉はみられないが、素材表面が全体にやや白っぽく見える。
×:素材表面に白い斑が見られる、又は、白粉が見られる。
【0119】
(表面の触感)
得られたガス吸着素材の表面の触感を、下記基準に基づいて3段階で判定した。
○:未加工のポリエステル100%黒染色布と同等の触感である。
△:表面にややべたつき感が感じられるが、触った手や指に異物の付着感は感じられない。
×:表面にべたつき感が感じられ、触った手や指に異物の付着感が感じられる。
【0120】
【表1】



【0121】
【表2】



【0122】
表1に示されるように、ポリエステル布に、アミノ基を有する有機ケイ素化合物と、加水分解基を有する有機金属化合物又は有機半金属化合物との反応生成物を付着させてなる実施例1〜18、20及び21のガス吸着素材は、ガス吸着剤の付着量が少量であっても酢酸及びアセトアルデヒドに対するガス吸着性が十分であることが確認された。また、これらの実施例において、摩耗によってもガス吸着素材の色相の変化がなく、ガス吸着性能の低下もないことが確認されており、十分な摩耗耐久性があることが明らかとなった。また、これらの実施例のガス吸着素材は、表面の触感も良好であり、実際の使用において問題のないことが確認された。
【0123】
アミノ基を有する有機ケイ素化合物に対して加水分解基を有する有機半金属化合物の使用量が少ない実施例19のガス吸着素材は、ガス吸着剤付着量が少量でも十分なガス吸着性が得られている。また、このガス吸着素材は、摩耗後のガス吸着性能の低下が見られるものの、比較例のガス吸着性能に比べるとガス吸着性能が維持されている。なお、このガス吸着素材は表面のべたつきが見られるが、表面の触感が要求されない用途には使用可能である。
【0124】
一方、アミノ基を有する有機ケイ素化合物をシリカに担持したガス吸着剤を使用した比較例1〜4のガス吸着素材は、摩耗後のガス吸着性が大きく低下しており、色相も劣っている。また、ガス吸着剤付着量が少量の場合、十分なガス吸着性が得られていない。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明によれば、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒド等のアルデヒド系の悪臭ガスや、酢酸や酪酸等の有機酸に代表される酸性の悪臭ガスに対するガス吸着性能に優れ、なおかつ基材への密着性に優れるガス吸着剤を提供することができる。また、本発明によれば、摩耗耐久性に優れ、意匠性やガス吸着性能が低下しにくいガス吸着素材、及びこのガス吸着素材の製造方法を提供することができる。本発明によれば、ガス吸着素材の製造における低コスト化、品質、作業安全性を従来よりも高水準で両立することが可能となる
【0126】
本発明のガス吸着素材は、家庭用又は車両用の空気清浄器用フィルターをはじめ、壁紙、カーテン、カーペット等の内装材、カーシート、天井材等の車両用の内装材へ利用することができ、酸性系ガスやアルデヒド系ガスの吸着除去を従来よりも高い減少率で達成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基及び/又はイミノ基と、シラノール基又は加水分解によりシラノール基を生じ得る基と、を有する有機ケイ素化合物と、
ヒドロキシル基又は加水分解基を有する有機金属化合物又は有機半金属化合物と、
の反応生成物からなる、ガス吸着剤。
【請求項2】
前記反応生成物が、前記有機ケイ素化合物100質量部に対して前記有機金属化合物又は有機半金属化合物を1〜200質量部の割合で反応させて得られるものである、請求項1に記載のガス吸着剤。
【請求項3】
ガス吸着剤が有するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部が、炭酸、蟻酸及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の酸で中和されている、請求項1又は2に記載のガス吸着剤。
【請求項4】
基材に請求項1〜3のいずれか一項に記載のガス吸着剤を付着させてなる、ガス吸着素材。
【請求項5】
基材に請求項1〜3のいずれか一項に記載のガス吸着剤を付着させる工程を備える、ガス吸着素材の製造方法。
【請求項6】
基材に、
アミノ基及び/又はイミノ基と、シラノール基又は加水分解によりシラノール基を生じ得る基と、を有する有機ケイ素化合物、又は、当該有機ケイ素化合物の前記アミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部が、炭酸、蟻酸及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の酸で中和された中和物、と、
ヒドロキシル基又は加水分解基を有する有機金属化合物又は有機半金属化合物と、
を付与し、
前記基材上で前記有機ケイ素化合物と前記有機金属化合物又は有機半金属化合物とを反応させる、ガス吸着素材の製造方法。

【公開番号】特開2011−110513(P2011−110513A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270170(P2009−270170)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】