説明

ガス吸着濾材

【課題】 空気中の有害ガスの除去性能に優れると共に、微量アウトガス等の再放出が少く、難燃性を有するガス吸着濾材を提供する。
【解決手段】 ポリプロピレンなどの基材表面に、空気中の水分を吸収して前記基材表面において水分を保持する臭化リチウムなどの保湿剤を担持させ、その保水効果によって、水溶性(極性)ガスが引き寄せられ易く、また、滞留し易くして、酸性ガス、塩基性ガスなど所定のガスを吸着する硫酸亜鉛、炭酸カルシウムやヨウ素などの吸着剤を担持させたガス吸着濾材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吸着濾材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、活性炭やゼオライトを含むフィルタ基材に、リン酸や炭酸カルシウム等の吸着剤を添加して、酸性ガスや塩基性ガスを吸着するガス吸着フィルタが考案されていた。この種のガス吸着フィルタをクリーンルーム等の建屋設備に適用する場合、難燃性が必要となる。よって、フィルタに難燃性を付与するために、難溶性の難燃剤(例えば、メタリン酸アルミニウム、リン酸メラミン、リン酸マグネシウム、縮合リン酸アミド等のリン系難燃剤や、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機系難燃剤)を添加することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−079083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した活性炭やゼオライト等の多孔質材は主として微細な細孔からなり比表面積が大きく、吸着対象のガスを物理的に吸着するものであるので、吸着対象ガスの上流濃度変動や温度変動によって、吸着したガスを再放出し、いわゆるアウトガスが発生するという問題点があった。
【0004】
従って、本発明の目的は、上記問題点に鑑み、微量アウトガス等の再放出が少なく、且つ、難燃性を有し、空気中の有害ガスの除去性能に優れるガス吸着濾材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成するための本発明のガス吸着濾材の特徴構成は、請求項1に記載されているように、基材表面に、所定のガスを吸着する吸着剤と、空気中の水分を吸収して前記基材表面において水分を保持する保湿剤とを担持した点にある。
【0006】
上記特徴構成において、請求項2に記載されているように、前記保湿剤が、臭化リチウム(LiBr)、塩化リチウム(LiCl)、水酸化リチウム(LiOH)、硝酸リチウム(LiNO)、塩素酸リチウム(LiClO・1/2HO)及び過塩素酸リチウム(LiClO)からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分を含むことが好ましく、
請求項3に記載されているように、前記吸着剤が、硫酸亜鉛(ZnSO)、硝酸亜鉛(Zn(NO・6HO)及びヨウ化亜鉛(ZnI)からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸性物質であることが好ましく、
請求項4に記載されているように、前記吸着剤が、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸ナトリウム(Na(CO))、水酸化カリウム(KOH)水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化ナトリウム(NaOH)、硫酸アルミニウム(Al(SO)及び硝酸アルミニウム(Al(NO)並びにこれらの水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩基性物質であることが好ましく、
請求項5に記載されているように、前記吸着剤が、ヨウ素(I)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化カルシウム(CaI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ素酸カリウム(KIO)、ヨウ素酸カルシウム(Ca(IO)及びヨウ素酸ナトリウム(NaIO)からなる群より選ばれる少なくとも1種の還元剤であることが好ましく、
請求項6に記載されているように、前記吸着剤と前記保湿剤とを含む担持物を、前記基材の重量に対して、5重量%を超え300重量%以下の割合で担持していることが好ましく、
請求項7に記載されているように、前記吸着剤と前記保湿剤とを含む担持物を、前記基材の表面に、1〜600g/mの割合で担持していることが好ましく、
請求項8に記載されているように、前記基材が、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、炭素繊維、炭化ケイ素、フェノール樹脂、ガラス、シリカ・アルミナ、液晶ポリマー、天然セルロース、岩綿、羊毛、綿、麻及び絹からなる群より選ばれる少なくともいずれか1種の物質であることが好ましく、
【0007】
又、この目的を達成するための本発明のガス吸着フィルタの特徴構成は、請求項9に記載されているように、請求項1〜8の何れか1項記載のガス吸着濾材を、所定形状に成形した点にある。
【0008】
上記特徴構成において、請求項10に記載されているように、前記基材の形状が、ペーパー状、ハニカム状、ミニプリーツ状、フェルト状又は細密充填状であることが好ましい。
【0009】
又、この目的を達成するための本発明のファン・フィルタ複合ユニットの特徴構成は、請求項11に記載されているように、請求項9又は10の何れか1項記載のガス吸着濾材と、通風手段と、除塵フィルタとを備えた点にある。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載されているように、ガス吸着濾材を構成するにあたって、除去すべきガス種に応じて、所定のガスを吸着する吸着剤を基材表面に担持させることによって、該ガスの吸着除去が行われる。ここで、前記基材表面に、空気中の水分を吸収して前記基材表面において水分を保持する保湿剤を担持させると、その保水効果によって、基材表面に水分を多く含む領域が形成される。この領域が存在することによって、水溶性(極性)ガスが引き寄せられ易く、又、滞留し易くなるので、この種のガスの吸着除去性能が向上する。又、この領域に、充分量の水溶性(極性)吸着剤を保持することができるようになるので、ガスの化学的吸着量をさらに高めることができる。これらの効果は、除去すべきガスが低濃度で存在し、吸着剤との接触が起こりにくいような場合に、特に有効であろう。更には、ガスの除去が化学吸着を主体として行うことができるので、従来の多孔質体を用いた物理吸着のようなアウトガスの放出がない。又、基材表面に水分を多く含む領域が形成されることによって、濾材に難燃性が付与される。
【0011】
請求項2に記載されているように、前記保湿剤が、臭化リチウム(LiBr)、塩化リチウム(LiCl)、水酸化リチウム(LiOH)、硝酸リチウム(LiNO)、塩素酸リチウム(LiClO・1/2HO)及び過塩素酸リチウム(LiClO)からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分を含むものであると、前記基材表面における保水性が大きく、又、揮発性が低く安定であるので良い。
【0012】
請求項3に記載されているように、前記吸着剤が、硫酸亜鉛(ZnSO)、硝酸亜鉛(Zn(NO・6HO)及びヨウ化亜鉛(ZnI)からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸性物質であると、塩基性のガス(特に、アンモニア)を吸着除去するのに適している。
【0013】
請求項4に記載されているように、前記吸着剤が、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸ナトリウム(Na(CO))、水酸化カリウム(KOH)水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化ナトリウム(NaOH)、硫酸アルミニウム(Al(SO)及び硝酸アルミニウム(Al(NO)並びにこれらの水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩基性物質であると、酸性のガス(特に、SO、NO)を吸着除去するのに適している。
【0014】
請求項5に記載されているように、前記吸着剤が、ヨウ素(I)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化カルシウム(CaI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ素酸カリウム(KIO)、ヨウ素酸カルシウム(Ca(IO)及びヨウ素酸ナトリウム(NaIO)からなる群より選ばれる少なくとも1種の還元剤であると、オゾン(O)ガスを吸着除去(分解)するのに適している。
【0015】
請求項6に記載されているように、前記吸着剤と前記保湿剤とを含む担持物がその効果を発揮するためには、前記基材の重量に対して5重量%以上の割合で担持される必要がある。前記担持物が前記基材の表面に300重量%より多く担持されていても、その効果に変わりはない。ここで、前記担持物中における前記吸着剤と前記保湿剤との存在比(重量ベース)は、吸着剤:保湿剤=100:1〜100:30であることが好ましい。
【0016】
請求項7に記載されているように、前記吸着剤と前記保湿剤とを含む担持物がその効果を発揮するためには、前記基材の表面に1g/m以上の割合で担持される必要がある。前記担持物が前記基材の表面に600g/mより多く担持されていても、その効果に変わりはない。ここで、吸着剤がその機能を十分に発揮するためには、前記基材の表面に吸着剤が1〜600g/m、より好ましくは50〜500g/m存在することが好ましい。又、保湿剤がその機能を十分に発揮するためには、前記基材の表面に保湿剤が1〜100g/m存在することが好ましい。
【0017】
請求項8に記載されているように、前記基材が、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、炭素繊維、炭化ケイ素、フェノール樹脂、ガラス、シリカ・アルミナ、液晶ポリマー、天然セルロース、岩綿、羊毛、綿、麻及び絹からなる群より選ばれる少なくともいずれか1種の物質であると、比較的濡れ性が良いので、前記担持物と基材との馴染みが良い。
【0018】
又、請求項9に記載されているように、請求項1〜8の何れか1項記載のガス吸着濾材を、所定形状に成形することによって、空気中の有害ガスの除去性能に優れると共に、微量アウトガス等の再放出が少なく、難燃性を有するガス吸着フィルタを提供することができる。
【0019】
請求項10に記載されているように、前期ガス吸着フィルタの基材の形状を、ペーパー状、ハニカム状、ミニプリーツ状、フェルト状又は細密充填状とすることで、表面積が大きく圧力損失の少ないフィルタを提供することができる。
【0020】
又、請求項11に記載されているように、請求項9又は10の何れか1項記載のガス吸着濾材と、通風手段と、除塵フィルタとを備えたファン・フィルタ複合ユニットは、空気中の有害ガスの除去性能に優れると共に、微量アウトガス等の再放出が少なく、難燃性を有するものとなる。このようなファン・フィルタ複合ユニットは、微量なアウトガスにも影響を受ける半導体製造用のクリーンルーム等に設置するのに適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
本発明は、ガス吸着濾材及びこれを用いたガス吸着フィルタ、ファン・フィルタユニットに関する。これらは、例えば、クリーンルーム、空気清浄機等に用いられるものである。
【0022】
本発明に係るガス吸着濾材は、繊維から構成される基材表面に、所定のガスを吸着する吸着剤と、空気中の水分を吸収して前記基材表面において水分を保持する保湿剤とを担持したものである。前記繊維としては、前記吸着剤と前記保湿剤とをその表面に保持可能な程度の濡れ性を有するものであれば、特に限定されない。尚、多孔性材料を基材とすると物理的吸着・脱離によるアウトガス放出が発生する虞れがあるので、多孔質ではない、例えば、窒素吸着BET比表面積で300m/基材(g)以下の基材を採用することが好ましい。濡れ性、比表面積等を考慮すると、例えば、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、炭素繊維、炭化ケイ素、フェノール樹脂、ガラス、シリカ・アルミナ、液晶ポリマー、天然セルロース、岩綿、羊毛、綿、麻又は絹、或いは、これらを混合した素材が好ましい。これら繊維の形状は、通常の円柱状であってもよく、又は異形繊維を採用することもできる。ガス吸着濾材の一例として、これらの繊維から構成される不織布が、シート状ガス吸着濾材として使用される。前記ガス吸着濾材の形状はシート状に限定されず、他の形状をも取りうる。
【0023】
前記保湿材としては、揮発性が低く、保水力の高いものが好ましい。これが、周囲の水分を吸収することで前記基材表面に水分が保持され、水分に富んだ領域が形成される。例えば、臭化リチウム(LiBr)、塩化リチウム(LiCl)、水酸化リチウム(LiOH)、硝酸リチウム(LiNO)、塩素酸リチウム(LiClO・1/2HO)及び過塩素酸リチウム(LiClO)が挙げられる。夫々の保湿剤について、基材(m)当たり、例えば、1〜180g、好ましくは1〜100g、特に好ましくは5〜100gの範囲で担持させることが好ましい。
【0024】
前記吸着剤は、酸性物質、塩基性物質、還元剤及び酸化剤等が、その吸着対象であるガス種に応じて適宜選択可能である。好ましくは、前記保湿剤の周囲に形成される水分の多い領域に保持され易い水溶性(極性)の化合物が、本発明で使用される吸着剤に適している。例えば、アンモニア、トリメチルアミンをはじめとする塩基性ガスを吸着するには、硫酸亜鉛(ZnSO)、硝酸亜鉛(Zn(NO・6HO)及びヨウ化亜鉛(ZnI)等の酸性物質が吸着剤として選択される。特に、硫酸亜鉛は乾燥して基材表面から剥落し易いものであるが、保湿剤が共存する状態では剥落が抑制された。硫化水素、メチルメルカプタン、窒素酸化物(NO)、硫黄酸化物(SO)等の酸性ガスを吸着するには、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸ナトリウム(Na(CO))、水酸化カリウム(KOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化ナトリウム(NaOH)、硫酸アルミニウム(Al(SO)、硝酸アルミニウム(Al(NO)及びこれらの水和物等の塩基性物質が吸着剤として選択される。オゾンガスや特に硫黄系酸性ガスを吸着するには、ヨウ素(I)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化カルシウム(CaI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ素酸カリウム(KIO)、ヨウ素酸カルシウム(Ca(IO)及びヨウ素酸ナトリウム(NaIO)等の還元剤が吸着剤として選択される。生活臭は主に人体由来のアンモニアやトリメチルアミンを含み、タバコ臭はアンモニア、アルデヒド類、酢酸を含んでいる。これらを除去するには、上述した吸着剤を適宜組み合わせて使用すればよい。
【0025】
尚、必要に応じて、リン酸、トリクロロリン酸、リン酸アンモニウム、トリコチンリン酸、三酸化アンチモン、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロデカン、水酸化ジルコニウム等の難燃性を併せ持つ吸着剤を添加すると、ガス吸着濾材の難燃性が更に向上する。
【0026】
前記吸着剤と保湿剤とを含む担持物担持量は、その機能を十分に発揮し、且つ、剥離・脱落が起こり難い範囲として、例えば、前記基材の重量に対して、1重量%を超え400重量%以下とすることができる。好ましくは5〜300重量%、特に好ましくは50〜250重量%である。或いは、前記吸着剤と保湿剤とを含む担持物は、例えば、前記基材の表面に0.1〜800g/mの割合で担持させることができ、好ましくは、1〜600g/m、特に好ましくは50〜500g/mの割合で担持させることができる。
【0027】
前記ガス吸着濾材を任意の所定形状に成形し、ガス吸着フィルタとすることができる。例えば、前掲のシート状ガス吸着濾材をハニカム状、コルゲートハニカム状又はミニプリーツ状に成形すると、通過する空気の接触面積が大きく圧力損失が少ないガス吸着フィルタとなる。或いは、ガス吸着濾材をフェルト状にしたり、所定形状(例えば、球状、チップ状)とした微細なガス吸着濾材を細密充填してガス吸着フィルタを形成することができる。
【0028】
本発明に係るガス吸着濾材は、例えば、上述した保湿剤と吸着剤とを含んだ溶液を、前記基材に含浸させ、これを数時間乾燥器内で通風乾燥させて得ることができる。又は、基材に前記溶液を吹き付け乾燥させることによっても得られるが、これらの限定されるものではない。
【0029】
次に、以下において、本発明のガス吸着濾材を用いたガス吸着フィルタの構成を、図面に基づいて説明する。尚、図1〜3において、矢線は浄化されるべき空気の流れる方向を示している。
【0030】
図1は、本発明に係るガス吸着濾材を積層してなるケミカルフィルタ(ガス吸着フィルタ)3の一例を、斜視図で示している。このケミカルフィルタ3は、シート状のガス吸着濾材を微小コルゲートハニカム状に成形し積層したものである。図1に示すように、このハニカムの空隙を、除去すべきガスを含んだ気体が通過するように構成されている。尚、本発明に係るフィルタ(濾材)がその効果を十分に発揮するためには、保湿剤に水分が接触可能な程度の湿度(例えば、相対湿度35%以上)の環境で使用されることが好ましい。又、その保存時等においても、一定の湿度(例えば、10%以上)を保った状態に置かれることが好ましいであろう。
【0031】
図2は、前掲のケミカルフィルタ3を、ファン・フィルタ複合ユニット9及び半導体製造等の用途に用いられるクリーンルームシステムにおいて使用した例を示す。図2に示すように、クリーンルーム(作業エリア)4の天井部分側壁に設けられた外気導入孔(図示せず)は、その外側に設けられた空調機2と外調機1とを通じて、外気を前記クリーンルーム4内に導入可能に設けられている。クリーンルーム4前記外気導入孔から導入される外気の通過経路上の、クリーンルーム4の天井付近には、前記ケミカルフィルタ3と集塵フィルタ7としてのHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタとがファン8を挟んで積層配置されたファン・フィルタ複合ユニット9が設けられている。尚、前記ファン・フィルタ複合ユニット9は、空気の通過順に上流側からケミカルフィルタ3、集塵フィルタ7、ファン8の順に積層して構成してもよい。又、前記集塵フィルタ7の代表例としてHEPAフィルタを挙げたが、集塵機能を有するフィルタであればこれに限定されず、例えば、更に微細な粒子に対する集塵能力の高いULPA(Ultra Low Penetration Air)フィルタを採用してもよい。
【0032】
また、クリーンルーム4内部には、局所クリーンブース5である半導体製造装置が設置され、前記半導体製造装置5内に導入される空気の通過経路上には、ケミカルフィルタ3が配置されている。また、前記クリーンルーム4の床から排出された空気は、メンテナンスゾーン6に移行し、ここでさらにケミカルフィルタ3によって濾過される。
【0033】
クリーンルーム4内に導入される外気は、まず、ケミカルフィルタ3が取り付けられた外調機1を通過することにより、一次浄化され、空調機2に送られた後、外気導入孔を通って、クリーンルーム4内に入る。次に、ファン・フィルタ複合ユニット9を構成するケミカルフィルタ3により、空気中に含まれる微量有害ガスのほとんどが吸着濾過されるようになっている。次に、積層されているHEPAフィルタ7により、その他の粒子状不純物質を濾過した後、天井から前記クリーンルーム4内に供給される。クリーンルーム4内に供給された空気の一部は、半導体製造装置5内に導入される。この際、半導体製造装置5内に導入される前に別に設けられたケミカルフィルタ3により、さらに残余の微量有害ガスを除去する。クリーンルーム4内に導入された空気は、その後、床下の排気孔(図示せず)からメンテナンスゾーン6に排出される。前記メンテナンスゾーン6内において、空気はさらにケミカルフィルタ3によって残余の微量有害ガスを除去された後、その一部は外部に放出される。残部の空気は、再度、前記空調機2に導入され、その内部に設けられたケミカルフィルタ3を通過して残余の微量有害ガスを除去した後、ファン・フィルタ複合ユニット9を通過してクリーンルーム4内に返送される。
【0034】
このように、本発明に係るケミカルフィルタ3を随所に設けたクリーンルームシステムにあっては、濾材そのものからのアウトガス放出が非常に抑制され、且つ、微量の有害ガスの捕集能力に優れているので、非常に清浄な空気がその内部に循環しており、半導体製造、精密機械製造等の用途に非常に適している。
【0035】
本発明に係るガス吸着濾材のクリーンルームシステムの用途として、例えば、ガス浄化装置が挙げられる。ガス浄化装置は、前掲の上記ケミカルフィルタ3を載置した半導体製造装置5のような局所クリーンブースとして構成されていてもよく、外調機1として示されるような、クリーンルーム4外部に取り付けられる外調機として構成されていてもよい。或いは、例えば、空気清浄機やエアコン内部に、本発明に係るガス吸着濾材、ガス吸着フィルタ又はファン・フィルタ複合ユニットを装着して構成されるものであってもよい。これらも、空気中に含まれるアンモニア、トリメチルアミン、メチルメルカプタン、硫化水素、SOx、NOx、オゾン等の微量ガスに対して高除去性能を有し、且つ、長寿命で、アウトガス放出も少なく、目的に応じた清浄空間を実現できる。
【実施例】
【0036】
〔ガス吸着フィルタの作成〕
基材は以下のようにして作成した。パルプ繊維から成る坪量約150g/m、厚み0.3mmの平板状のシートを、コルゲーター(コルゲート成形機)でコルゲート加工(波板状加工)して、波板状物を得た。この波板状物を50段積層してコルゲートハニカム構造体を得た。尚、コルゲートの波形については、通気抵抗、吸着効率を考慮して、波板状物の一面側の山部同士の間隔は4.8mm、平板状物から山部までの高さを2.0mmとした。ハニカムのセル数は、80/平方インチであった。
【0037】
上記基材を、保湿材と吸着剤とを所定の割合で配合した水溶液に浸漬し、乾燥処理を施して、保湿材と吸着剤とを所定の割合で担持したコルゲートハニカム状ガス吸着フィルタを得た。保湿材及び吸着剤の種類並びにこれらの担持量は、以下に個別に示す。
【0038】
〔実験例1〕
上記基材に、吸着剤としての硫酸亜鉛を120g/基材(m)、保湿材としての塩化リチウムを28g/基材(m)の割合で担持したガス吸着フィルタを得た。このガス吸着フィルタの圧力損失をJIS B 9901に規定された方法で測定したところ、線速3.0mm/秒の条件でΔp=8mmAqであった。
【0039】
〔実験例2〕
上記基材に、吸着剤としてのヨウ化カリウムを105g/基材(m)、保湿材としての塩化リチウムを12g/基材(m)の割合で担持したガス吸着フィルタを得た。このガス吸着フィルタの圧力損失をJIS B 9901に規定された方法で測定したところ、線速1.7mm/秒の条件でΔp=1.7mmAqであった。
【0040】
〔実験例3〕
上記基材に、吸着剤としてのヨウ化カリウムを75g/基材(m)及び炭酸カリウム263g/基材(m)、保湿材としての塩化リチウムを30g/基材(m)の割合で担持したガス吸着フィルタを得た。このガス吸着フィルタの圧力損失をJIS B 9901に規定された方法で測定したところ、線速0.7mm/秒の条件でΔp=0.7mmAqであった。
【0041】
〔比較例1〕
上記基材に、保湿材は担持させず、吸着剤としての硫酸亜鉛を120g/基材(m)の割合で担持したガス吸着フィルタを得た。
【0042】
〔比較例2〕
上記基材に、保湿材は担持させず、吸着剤としてのクエン酸を72g/基材(m)、難燃材としてのリン酸を18g/基材(m)の割合で担持したガス吸着フィルタを得た。
【0043】
〔比較例3〕
上記基材に、保湿材は担持させず、吸着剤としてのヨウ化カリウムを105g/基材(m)の割合で担持したガス吸着フィルタを得た。
【0044】
〔低濃度塩基性ガス除去性能評価方法〕
塩基性ガスの代表指標としてアンモニアガスを用いて、ガス吸着フィルタの低濃度ガス除去性能評価を以下のようにして行った。
即ち、1パス除去性能試験装置に、本発明に係る実験例1のガス吸着フィルタ(150mm角、厚み140mmのテストピース)を取り付け、室内空気(上記微量ガスを含んだ試験用空気:温度23℃、相対湿度50%)を線速3.0m/秒でガス吸着フィルタに導入した。一定時間ごとにガス吸着フィルタの入口側・出口側で空気を湿式捕集し、空気中のアンモニア濃度(入口アンモニア濃度,出口アンモニア濃度,単位:ppb)の測定を行った。湿式捕集は、吸収液が入ったガス吸収瓶とミニポンプとを1セットとし、吸収液中に試料空気をバブリングによりサンプリングし濃縮捕集を行った。吸収液としては比抵抗率18.0MΩ以上18.3MΩ以下の超純水を100mL用い、サンプリング条件は毎分2Lの吸引流量で360Lの吸引サンプリングであった。捕集溶液はイオン交換クロマトグラフィ分析装置で分析し、得られたアンモニアイオン濃度からガス吸着濾材のアンモニア除去率を下記の計算式(数1)を用いて算出した。イオン交換クロマトグラフィの分析条件を表1に示す。湿式捕集(サンプリング)は、通気開始後約50時間において、約60分間ずつ3回行い、それらの平均データを入口アンモニア濃度及び出口アンモニア濃度として求め、除去率(%)を算出した。
【0045】
尚、比較例1のガス吸着フィルタ(150mm角、厚み140mmのテストピース)及び比較例2のガス吸着フィルタ(150mm角、厚み140mmのテストピース)についても、同様に評価を行った。
【0046】
【数1】

【0047】
【表1】

【0048】
1パス除去性能試験の結果、実験例1のガス吸着フィルタでは、入口アンモニア濃度が8.36ppbであったのに対して、出口アンモニア濃度は0.16ppbであり、除去率は98.1%であった。
これに対して、比較例1のガス吸着フィルタでは、入口アンモニア濃度が19.8ppbであったのに対して、出口アンモニア濃度は7.2ppbであり、除去率は63.6%であった。
比較例2のガス吸着フィルタでは、入口アンモニア濃度が12.4ppbであったのに対して、出口アンモニア濃度は0.41ppbであり、除去率は96.7%であった。しかしながら、セルロースを主体とする基材が担持した酸によって劣化し、変色すると共に臭気が発生した。
【0049】
上記評価から、保湿材である塩化リチウムの有無によってフィルタのガス捕集率(除去率)が大幅に変化し、又、他の化合物を担持した場合に、基材が劣化しアウトガスが発生する事が明らかとなった。これにより、本発明に係るガス吸着濾材及びフィルタが、高い吸着能とアウトガス発生の抑制との双方を達成し、従来のものに比べて非常に優れたものであることがわかる。
【0050】
〔低濃度酸化剤ガス除去性能評価方法〕
酸化剤の代表指標としてオゾンガスを用いて、ガス吸着フィルタの低濃度酸化剤ガス除去性能評価を行った。
即ち、1パス除去性能試験装置に本発明に係る実験例2のガス吸着フィルタ(150mm角、厚み80mmのテストピース)を取り付け、室内空気(上記微量ガスを含んだ試験用空気:温度23℃、相対湿度50%)を線速1.7m/秒でガス吸着フィルタに導入した。一定時間ごとにガス吸着フィルタの入口側・出口側で、空気をオゾン自動分析計(小型デジタルオゾン分析計A21−ZX:エムケー・サイエンティフィック社製)に導入し、オゾン濃度を計測した。
【0051】
尚、比較例2のガス吸着フィルタ(150mm角、厚み80mmのテストピース)についても、同様に評価を行った。
【0052】
1パス試験の結果、実験例2のガス吸着フィルタでは、入口オゾン濃度が5.0ppbであったのに対して、出口オゾン濃度は0.75ppbであり、除去率は85.0%であった。
これに対して、比較例3のガス吸着フィルタでは、入口オゾン濃度が5.0ppbであったのに対して、出口オゾン濃度は2.55ppbであり、除去率は49.0%であった。
【0053】
上記評価から、保湿材である塩化リチウムの有無によってフィルタのガス捕集率(除去率)が大幅に変化し、本発明に係るガス吸着濾材及びフィルタが、高いオゾンガス吸着能を有し、従来のものに比べて非常に優れたものであることがわかる。
【0054】
〔低濃度酸性ガス除去性能評価方法〕
酸性ガスの代表指標として亜硫酸ガス(SO)を用いて、表2に示す条件以外は前掲の低濃度塩基性ガス除去性能評価方法と同様にして、実験例2(150mm角、厚み80mmのテストピース)及び実験例3(150mm角、厚み25mmのテストピース)のガス吸着フィルタの低濃度酸性ガス除去性能評価を行った。
【0055】
【表2】

【0056】
1パス除去性能試験の結果、実験例2のガス吸着フィルタでは、入口亜硫酸濃度が4.03ppbであったのに対して、出口亜硫酸濃度は0.03ppbであり、除去率は99.3%であった。同様に、実験例3のガス吸着フィルタでは、入口亜硫酸濃度が11.4ppbであったのに対して、出口亜硫酸濃度は0.50ppbであり、除去率は95.6%であった。
【0057】
上記評価から、保湿材である塩化リチウムを添加することによって、本発明に係るフィルタが、塩基性ガス除去性能試験と同様に、高い酸性ガス捕集率をアウトガスの発生を抑制しつつ維持することが明らかとなった。
【0058】
〔自己難燃性評価〕
UL94規格に則って、実験例1〜3及び比較例1のガス吸着フィルタの自己難燃性の評価を行った(夫々につき、5検体ずつ試験した結果の平均値を評価とした)。ガスバーナ(バーナ口径:9.5mm、バーナー長さ:102mm)の青色炎の長さを19mmに調整し、これを、試験体(下端幅:12.7mm、長さ:127.0mm、厚み:3.1mm)の中央に10秒間当てた後に試験体を炎から遠ざけ、この時の自消時間をs1(秒)とした。続けて、前記試験体下端の中央に炎を10秒間当てた後に試験体を炎から遠ざけ、この時の自消時間をs2(秒)とした。この後、発煙を伴うくすぶりが収まるまでの時間をs3(秒)とした。
【0059】
上記実験例1のガス吸着フィルタでは、s1=0秒、s2=0秒、s3=5.2秒と優れた自己消火性を示した。試験体の溶融落下(ドリップ)も皆無であった。
上記実験例2のガス吸着フィルタでは、s1=0秒、s2=0秒、s3=8.8秒と優れた自己消火性を示した。試験体の溶融落下(ドリップ)も皆無であった。
上記実験例3のガス吸着フィルタでは、s1=0秒、s2=0秒、s3=8.8秒と優れた自己消火性を示した。試験体の溶融落下(ドリップ)も皆無であった。
尚、比較例1のガス吸着フィルタの結果は、実験例1〜3の結果には及ばず、自己消火性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
微量アウトガス等の再放出が少なく、且つ、難燃性を有し、空気中の有害ガスの除去性能に優れるガス吸着濾材として、クリーンルームを構成するファン・フィルタ複合ユニット等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係るガス吸着濾材の斜視図
【図2】本発明に係るガス吸着濾材を用いたクリーンルームの概略図
【符号の説明】
【0062】
1 外調機
2 空調機
3 ガス吸着濾材
4 クリーンルーム
5 半導体製造装置(局所クリーンブース)
6 メンテナンスゾーン
7 HEPAフィルタ(集塵フィルタ)
8 ファン
9 ファン・フィルタ複合ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に、所定のガスを吸着する吸着剤と、空気中の水分を吸収して前記基材表面において水分を保持する保湿剤とを担持したガス吸着濾材。
【請求項2】
前記保湿剤が、臭化リチウム、塩化リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、塩素酸リチウム及び過塩素酸リチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の成分を含む請求項1記載のガス吸着濾材。
【請求項3】
前記吸着剤が、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛及びヨウ化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸性物質である請求項1又は2記載のガス吸着濾材。
【請求項4】
前記吸着剤が、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、硫酸アルミニウム及び硝酸アルミニウム並びにこれらの水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種の塩基性物質である請求項1又は2記載のガス吸着濾材。
【請求項5】
前記吸着剤が、ヨウ素、ヨウ化カリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ素酸カリウム、ヨウ素酸カルシウム及びヨウ素酸ナトリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の還元剤である請求項1又は2記載のガス吸着濾材。
【請求項6】
前記吸着剤と前記保湿剤とを含む担持物を、前記基材の重量に対して、5重量%を超え300重量%以下の割合で担持している請求項1〜5の何れか1項記載のガス吸着濾材。
【請求項7】
前記吸着剤と前記保湿剤とを含む担持物を、前記基材の表面に、1〜600g/mの割合で担持している請求項1〜6の何れか1項記載のガス吸着濾材。
【請求項8】
前記基材が、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、炭素繊維、炭化ケイ素、フェノール樹脂、ガラス、シリカ・アルミナ、液晶ポリマー、天然セルロース、岩綿、羊毛、綿、麻及び絹からなる群より選ばれる少なくともいずれか1種の物質である請求項1〜7の何れか1項記載のガス吸着濾材。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項記載のガス吸着濾材を、所定形状に成形したガス吸着フィルタ。
【請求項10】
前記所定形状が、ペーパー状、ハニカム状、ミニプリーツ状、フェルト状又は細密充填状である請求項9記載のガス吸着フィルタ。
【請求項11】
請求項9又は10の何れか1項記載のガス吸着フィルタと、通風手段と、除塵フィルタとを備えたファン・フィルタ複合ユニット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−192388(P2006−192388A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7845(P2005−7845)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【出願人】(501213893)産栄サービス株式会社 (3)
【Fターム(参考)】