説明

ガス拡散電極及びその製造方法

【課題】固体高分子型燃料電池のドライアウト及びフラッディングを防止し、発電効率を向上させることができるガス拡散電極及びその製造方法を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂からなる撥水剤を含み、三次元に連続した微細孔を有するガス拡散電極の面直方向にフッ素脱離処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用のガス拡散電極及びその製造方法に係り、特に排水性を向上したガス拡散電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素ガスなどの燃料ガスと酸素を有する酸化剤ガスとを電解質を介して電気化学的に反応させ、電解質両面に設けた電極間から電気エネルギーを直接取り出すものである。特に高分子電解質膜を用いた固体高分子型燃料電池は、動作温度が低く、取り扱いが容易なことから移動体用の電源として注目されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、水素イオン伝導性の高分子電解質膜の両面にそれぞれ白金等を含有する触媒層を有し、この触媒層に接して電子伝導性及び通気性を有するガス拡散層を有している。この触媒層及びガス拡散層が、それぞれ燃料極(以下、「アノード」又は「負極」ともいう。)及び酸化剤極(以下、「カソード」又は「正極」ともいう。)を構成している。そして、燃料極、酸化剤極の外側に、ガス供給溝が形成されたセパレータを各々設けて、これらの燃料極及び酸化剤極へセパレータのガス供給溝からそれぞれ水素を含む燃料ガス及び酸素を含む酸化剤ガスを供給することにより、以下の(1)式及び(2)式の電気化学反応により発電を行っている。
【0004】
[燃料極反応]: H2 → 2H+ + 2e- …(1)
[酸化剤極反応]: 2H+ + 2e- + 1/2O2 → H2O …(2)
固体高分子型燃料電池において、顕著な発電性能の低下の原因としてフラッディング(水溢れ)現象がよく知られている。フラッディング現象は、発電反応による生成水の排出能力が不足し、主にカソードの水分過剰によりガス供給が阻害されて発電性能が低下する現象である。
【0005】
カソード触媒層の発電反応により生成した水は、流通ガス中に水蒸気として排出されたり、高分子電解質膜を透過してアノード側に排出されたりする。また、一部の生成水は液状でカソード側のガス拡散層を透過し、カソード側セパレータのガス供給溝内に排出される。フラッディングを抑制するための手法の一つとして、カソード側のガス拡散層を液状で透過する生成水の排水性を向上させるため、ガス拡散層に撥水剤としてフッ素樹脂、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を添加する手法が広く用いられている。
【0006】
しかし、ガス拡散層に撥水剤のフッ素樹脂を添加する場合、排水性を向上させようとフッ素樹脂の量を増加させるとガス拡散層の空孔率が減少してガスの拡散性が阻害され、ガスの拡散性を向上させようとフッ素樹脂の量を減少させると排水性が悪化してしまうという二律背反の問題点があった。
【0007】
上記問題点に対して、ガス拡散層に厚さ方向の連通孔を設け、少なくとも連通孔のセパレータ側に吸水性を持つ親水部を設けることで、触媒層からの生成水の排水性を向上させる技術が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−120461号公報(第7頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術によれば、連通孔を機械加工によって形成するため、連通孔の直径が0.1mm等比較的大きく、ガス拡散層からの排水量が増加し、高分子電解質膜がドライアウトし易くなっていた。また、ガス拡散層の機械強度が低下するという問題点もあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の問題点を解決するために、本発明の一つの様相であるガス拡散電極は、フッ素樹脂からなる撥水剤を含み、三次元に連続した微細孔を有するガス拡散電極において、
当該ガス拡散電極の面直方向にフッ素脱離処理がされてなることを要旨とする。
【0010】
また、本発明の別の様相であるガス拡散電極の製造方法は、フッ素樹脂からなる撥水剤を含み、三次元に連続した微細孔を有するガス拡散電極の製造方法であって、
ガス拡散電極の面直方向にフッ素脱離処理する工程を備えたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガス拡散電極によれば、水の排出性を向上させてフラッディング現象を抑制すると共に、過剰な水分排出も抑制して、ドライアウトも防止するガス拡散電極を提供することができる。
【0012】
本発明のガス拡散電極の製造方法によれば、比較的簡単な工程で本発明に係るガス拡散電極を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係るガス拡散電極を説明する。
【0014】
図1は、本発明に係るガス拡散電極を備えた固体高分子型の燃料電池セル1の模式断面図である。燃料電池セル1は、中心部に水素イオン伝導性を有する高分子電解質膜2を備えている。この高分子電解質膜2の一方の表面には燃料極触媒層3が、他方の表面には酸化剤極触媒層4がそれぞれ形成されている。この燃料極触媒層3の外側及び酸化剤極触媒層4の外側にはそれぞれ導電性多孔質層5,6が、これらの触媒層に接して設けられている。燃料極側の導電性多孔質層5の外側には燃料極ガス拡散層基材7が、酸化剤側の導電性多孔質層6の外側には酸化剤極ガス拡散層基材8が、それぞれ設けられている。燃料極ガス拡散層基材7の外側には燃料極セパレータ9が、酸化剤極ガス拡散層基材8の外側には酸化剤極セパレータ10が、それぞれ設けられている。この燃料極セパレータ9には、燃料ガス供給用のガス流路溝11が形成され、酸化剤極セパレータ10には、酸化剤ガス供給用のガス流路溝12が形成されている。
【0015】
燃料極側の導電性多孔質層5とガス拡散層基材7とにより燃料極側のガス拡散層21が構成される。また、酸化剤側の導電性多孔質層6と酸化剤極ガス拡散層基材8とにより酸化剤側のガス拡散層22が構成される。これらのガス拡散層21及びガス拡散層22が、本発明のガス拡散電極に相当する。また、上述した高分子電解質膜2の両面に触媒層3,4を形成したものは触媒塗布膜(CCM)30と呼ばれる。
【0016】
燃料極側のガス拡散層21及び酸化剤極側のガス拡散層22は、いずれもフッ素樹脂からなる撥水剤を含み、三次元に連続した微細孔を有している。具体的には、図1に示した本実施形態では、燃料極側のガス拡散層21を構成する燃料極側の導電性多孔質層5は、例えばフッ素樹脂からなる撥水剤としてのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔質膜に、導電材としてのカーボン粒子が固着してなり、また、ガス拡散層基材7は、例えばカーボンペーパーよりなる。酸化剤極側のガス拡散層22の構成は、燃料極側のガス拡散層22の構成と同様とすることができ、つまり、酸化剤極側の導電性多孔質層6は、例えばフッ素樹脂からなる撥水剤としてのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)多孔質膜に、導電材としてのカーボン粒子が固着してなり、また、ガス拡散層基材8は、例えばカーボンペーパーよりなる。
【0017】
そして、本実施形態のガス拡散電極においては、フッ素樹脂からなる撥水剤を含む導電性多孔質層5,6の少なくとも一方が、面直方向にフッ素脱離処理がされている。
【0018】
図2に、図1に示した本実施形態における酸化剤極側のガス拡散層22を構成する導電性多孔質層6及びガス拡散層基材8、並びにそれらの近傍を模式的に示す拡大断面図を示す。なお、図2では、代表的に酸化剤極側のガス拡散層22のみを示しているが、燃料極側のガス拡散層21も同様の構成とすることができる。
【0019】
図2において、導電性多孔質層6には、触媒層4側から面直方向に貫通する複数の空孔経路61が形成されている。そして本実施形態では、導電性多孔質層6における触媒層4と対向する表面がフッ素脱離処理されているとともに、空孔経路61の内面が、触媒層4側から面直方向に貫通する導電性多孔質層6の全厚さにわたってフッ素脱離処理領域62となっている。このフッ素脱離処理は、後で詳しく述べるが、例えばプラズマ処理又はフッ素樹脂を光励起させる処理によって実施することができる。
【0020】
本発明に従い、ガス拡散電極がその面直方向にフッ素脱離処理がされていることによる作用効果について説明する。燃料電池が発電に用いられたとき、カソード側の触媒層4の発電反応により生成した水は、ガス拡散層22中の三次元微細孔を通過する際、水と、ガス拡散層22を形成する構造体との自由表面エネルギーの関係によって、このガス拡散層22中の三次元微細孔径に比例した通過抵抗が発生するため、所定の微細孔径を有した三次元空孔経路を選択的に通過する(通常は大きな微細孔径を有した三次元空孔経路から通過し始める)。
【0021】
ガス拡散層22の導電性多孔質層6に含まれる撥水剤としてのポリテトラフルオロエチレン40は、その分子構造を図3(a)に模式的に示すように、炭素原子41同士のC−C結合の主鎖と、炭素原子41及びフッ素原子42のC−F結合からなる側鎖とからなる重合体である。このようなポリテトラフルオロエチレン40に、プラズマ処理又はフッ素樹脂の光励起処理を行って、図3(b)に示すようにフッ素原子を脱離させると、撥水性が失効する。したがって、本実施形態のガス拡散電極においては、ガス拡散層22を構成する導電性多孔質層6に含まれるPTFEのフッ素を脱離させることで、その脱離させた部位の撥水性能を失効させる。これにより、触媒層付近の過剰な水分は、フッ素脱離処理により通過抵抗が減少したガス拡散層22の空孔経路を選択的に通過して触媒層からセパレータへ排出される。したがって、上記した水の通過抵抗を低減し、上記水の排出性を向上させることができる。その結果、固体高分子型燃料電池におけるガスの拡散性が阻害されることなくフラッディング現象を抑制できるため、発電性能が向上する。また、過剰な水分排出も抑制するため、ドライアウトも防止することができる。
【0022】
本発明に係るガス拡散電極の別の実施形態においては、このフッ素脱離処理は、ガス拡散電極(ガス拡散層)の一方の表面から面直方向に所望範囲の深さでされたものとすることができる。
【0023】
図4は、本実施形態における酸化剤極側のガス拡散層22を構成する導電性多孔質層6及びガス拡散層基材8並びにそれらの近傍とを模式的に示す拡大断面図を示す。なお、図4において、図2と同一の部材については同一の符号を付しており、以下では重複する説明を省略する。また、代表的に酸化剤極側のガス拡散層22の例を示しているが、燃料極側のガス拡散層21でも同様の構成とすることができる。
【0024】
図4において、導電性多孔質層6には、触媒層4側から面直方向に貫通する複数の空孔経路61が形成されている。そして本実施形態では、導電性多孔質層6における触媒層4と対向する表面がフッ素脱離処理されているとともに、特定の空孔経路61の内面のうち、触媒層4側から所定の深さまでがフッ素脱離処理領域62となっており、残りはフッ素脱離処理の未処理領域63となっている。このようなフッ素脱離処理は、後で詳しく述べるが、プラズマ処理又はフッ素樹脂を光励起させる処理における処理深さの調整によって実施することができる。また、フッ素脱離処理の深さは、当該ガス拡散電極を用いて作製された燃料電池における耐フラッディング性、耐ドライアウト性を勘案して、適切な深さを選択することができる。
【0025】
図4に示した本実施形態のガス拡散電極は、フッ素脱離処理の深さが調整されていることにより、燃料電池電極の発電時において優れた耐フラッディング性及び優れた耐ドライアウト性を兼ね備えることができる。
【0026】
本発明に係るガス拡散電極の更に別の実施形態においては、このフッ素脱離処理は、ガス拡散電極(ガス拡散層)における触媒層と対向する表面の面内で選択的になされたものとすることができる。
【0027】
図5は、本実施形態における酸化剤極側のガス拡散層22を構成する導電性多孔質層6及びガス拡散層基材8並びにそれらの近傍とを模式的に示す拡大断面図を示す。なお、図5において、図2及び図3と同一の部材については同一の符号を付しており、以下では重複する説明を省略する。また、代表的に酸化剤極側のガス拡散層22の例を示しているが、燃料極側のガス拡散層21でも同様の構成とすることができる。
【0028】
図5において、導電性多孔質層6には、触媒層4側から面直方向に貫通する複数の空孔経路61が形成されている。そして本実施形態では、複数の空孔経路61のうち、一部の空孔経路のみが、その内面にフッ素脱離処理領域62を有している。残りの空孔経路については、フッ素脱離処理の未処理領域63となっている。なお、図5に示した本実施形態では、フッ素脱離処理領域62を有する空孔経路61は、触媒層4側から所定の深さまでがフッ素脱離処理領域62となっている例を示しているが、図示した例に限定されず、導電性多孔質層6の厚さにわたってフッ素脱離処理領域62となっていてもよい。このようなフッ素脱離処理は、プラズマ処理又はフッ素樹脂を光励起させる処理を、導電性多孔質層6における触媒層と対向する表面の面内において選択的に行うにことよって実施することができる。
【0029】
図5に示した本実施形態のガス拡散電極は、フッ素脱離処理をガス拡散層における触媒層と対向する表面の面内で選択的に行うことにより、排水性を高めた領域を面内で選択的に形成させることができる。例えば、生成水が存在し易い反応ガスの下流側において、フッ素脱離エリアを重点的に設けることが可能となり、その結果排水効率が高まるといった効果がある。
【0030】
以上、図1〜5を用いて説明した実施形態では、ガス拡散層22が、導電性多孔質層6と酸化剤極ガス拡散層基材8との合計2層で構成される例を示したが、本発明のガス拡散電極は、この導電性多孔質層6が省略され、ガス拡散層基材のみの1層で構成される場合にも適用できる。この場合、ガス拡散層基材は、ガス拡散層基材をフッ素樹脂液中に浸漬させた後、乾燥、焼成することによって、撥水処理されたものを用いることができる。そのように撥水処理されたガス拡散層基材に、本発明に従い、フッ素脱離処理を施すことによって、本発明のガス拡散電極とすることができる。
【0031】
次に、本実施形態に係るガス拡散電極の製造方法について説明する。本実施形態のガス拡散電極の製造方法では、ガス拡散電極の面直方向にフッ素脱離処理する工程を備えている。フッ素脱離処理する工程を備えていることにより、上述した本発明の実施形態に係るガス拡散電極を容易に製造することが可能となる。
【0032】
このフッ素脱離処理は、ガス拡散電極をプラズマ処理すること、又は、ガス拡散電極に含まれるフッ素樹脂を光励起させてC−F結合を切断させる処理によることが好ましい。プラズマ処理又は光励起処理によれば、ガス拡散電極中に含まれるフッ素樹脂を容易に脱離させることができる。また、これらのプラズマ処理又は光励起処理によるフッ素脱離処理は、機械加工するものではないのでガス拡散層の強度強化を招くことがなく、また、連通孔をガス拡散層の面直方向に直線的に形成することにより生じる面内方向の三次元ガス流通の遮断も招かない。さらに、プラズマ処理又は光励起処理は、フッ素を脱離させる程度のエネルギーでよいため、連通孔をガス拡散層の面直方向に直線的に形成するほどの高エネルギーは必要としない。
【0033】
プラズマ処理を行うためのプラズマ処理装置の概念図を図6に示す。図6に示されたプラズマ処理装置70は、プラズマ反応槽71内に、プラズマ処理を施すガス拡散層22を載置するステージ72を備えている。このステージ72は脚72aにより支持されている。ステージ72に載置される被処理物であるガス拡散層22を挟んで、一対の電極73A及び73Bが設けられている。電極73Aは高周波電源74と接続され、電極73Bはアース接地75される。プラズマ反応槽71のガス導入口71aには、複数のガス容器81A、81Bからのガスを供給するガス導入管82が接続される。また、プラズマ反応槽71の排気口71bには、排気手段85が接続される。
【0034】
プラズマ処理装置70によりガス拡散層22の導電性多孔質層6をプラズマ処理するときには、プラズマ反応槽71内のステージ72上にガス拡散層22を載置する。このとき、ガス拡散層22の導電性多孔質層6が電極73Aと対向するようにする。ガス拡散層22と電極73A及び73Bとを近接させた状態で、プラズマ反応槽71内を排気手段85により所定の減圧雰囲気に保持しつつ、複数のガス容器81A、81Bから所定のプラズマ反応ガス、例えば、空気−水素ガス、空気−メタンガス等をプラズマ反応槽71内に導入する。そして、高周波電源74により電極73A及び73Bとの間に高周波電圧を印加すると、プラズマ反応槽71に供給されたプラズマ反応ガスがプラズマ化する。図6では、模式的にプラズマ反応ガスの分子を符号mで示し、プラズマ化された後の電子を符号eで示し、プラズマ化された後の陽イオンを符号cで示す。ガス拡散層22は、一対の電極73A及び73B間のプラズマ雰囲気に晒されることにより、導電性多孔質層6の表面及び微細孔の空孔経路の内面のフッ素が脱離される。
【0035】
このプラズマ処理装置70を用いたフッ素脱離処理では、フッ素脱離処理時間の調整などによって、導電性多孔質層6の表面からのフッ素脱離処理の深さを調整することができる。
【0036】
また、導電性多孔質層6の表面にマスク材を設けることにより、導電性多孔質層6の表面の面内において一部のみを選択的にフッ素脱離処理することが可能になる。
【0037】
本実施形態のガス拡散電極に施されるフッ素脱離処理は、上述したプラズマ処理する工程に限定されず、ガス拡散電極に含まれるフッ素樹脂を光励起させてC−F結合を切断させる工程によっても実現することができる。
【0038】
このような光励起処理装置の概念図を図7に示す。図7に示された光励起処理装置90は、真空槽91内に、光励起処理を施すガス拡散層22を載置するステージ92を備えている。このステージ92はステージ台92aにより支持されている。また、このステージ92はアース設置94される。これは、本発明のように高エネルギーの光をワークに照射する場合、脱フッ素の他に光電効果(光エネルギーを受け取った電子が物質外に放出される)現象が発生するためであり、仮にワークをアース接地しておかないと、このワークへの電子の供給がなされないため、電子の放出によるワークのプラス帯電が起き(チャージアップ現象)、電気的バランスが崩れるおそれがあるためである。この電気的アンバランスは脱フッ素化の妨げとなる可能性があるため、これを回避するためにステージ92はアース設置94される。光励起処理装置90には、このステージ92に載置される被処理物であるガス拡散層22に含まれるフッ素樹脂を光励起させるための発光装置93が設けられている。この発光装置93は、図示した例では真空槽91の外に配設され、真空槽91の壁面に部分的に設けられた透光窓91を通してステージ92上のガス拡散層22に光を照射するようになっている。真空槽91の排気口91bには、排気手段85が接続されて、真空槽91内を所定の高真空状態にできるようになっている。
【0039】
光励起処理装置90によりガス拡散層22の導電性多孔質層6のフッ素樹脂を光励起させるときには、真空槽91内のステージ92上にガス拡散層22を載置する。このとき、ガス拡散層22の導電性多孔質層6が発光装置93と対向するようにする。排気手段85により真空槽91内を所定の高真空状態、例えば10-6Paオーダーにして、発光装置93からフッ素樹脂のC−C結合よりもC−F結合が選択的に切断される波長帯の光を導電性多孔質層6に向けて照射する。このような波長帯の光は、具体的にはX線、紫外線などの高エネルギー短波長、例えばhν=600〜800 eVのものが好ましい。フッ素樹脂のC−F結合は結合力が強いため、C−F結合を選択的に切断するためには、このように高いエネルギー帯域の光を用いる必要がある。このような光を照射することによって、フッ素樹脂は、C−C結合よりもC−F結合が選択的に切断され、その結果、フッ素が脱離される。
【0040】
光励起処理装置90によるフッ素脱離処理では、三次元に連続した微細孔を有するガス拡散電極に含有されるPTFEに対して、C−F結合に寄与していない電子をC−F反結合軌道のエネルギー準位まで光励起させることでC−F結合を切断し、フッ素を脱離させる。これにより、PTFEの主鎖であるC−C結合に対して側鎖であるC−F結合を選択的に切断することで、ガス拡散電極に含有されるPTFEの骨格の損傷を抑えつつ、フッ素脱離をすることが可能となる。また、光照射はプラズマ照射に対して、指向性が格段に高いため、特にフッ素脱離をガス拡散層の表面の面内において選択的に行う場合に、その脱離部位の選択に関しては非常に高い精度で行うことが可能である。
【0041】
また、光照射によるガス拡散層22の導電性多孔質層6のフッ素脱離処理を、導電性多孔質層6の全厚さにわたって容易に行うことができる。これは、一般的に認識されているように、X線、紫外光は、可視光と比べ遥かに進入深さが深い。しかも、例えば光のスポット径(ビーム径)を導電性多孔質層6の細孔径よりも小さく絞ることができ、例えばX線のスポット径は0.1μmオーダーまで絞ることも可能である。これにより、更なる進入深さ(処理深さ)を実施できる。また、フッ素脱離処理を、導電性多孔質層6の厚さのうち所定の深さまで行う場合であっても、光励起処理照射はその深さ調整も容易である。更に、スポット径を小さくした光照射を、導電性多孔質層6の触媒層4に対向する面において、所定のスポット間隔を空けて、ドット状に行うこともできる。この場合、スポット径及び単位面積あたりのスポット密度は適宜調整することができる。
【0042】
次に、図8のガス拡散層の製造フローチャート、図9の導電性多孔質膜のフッ素脱離処理フローチャートを参照して、本発明におけるガス拡散電極の製造方法の具体例を説明する。
【0043】
まず、図8のS10のガス拡散層基材の準備、S18のPTFE多孔質膜の準備、S20のカーボンインクの調製は、平行して開始可能である。
【0044】
S10のガス拡散層基材の準備ステップでは、ガス拡散層基材として、東レ社製カーボンペーパーTGP−H−060を10cm角に切り出したものを準備する。次いで、S12で、エタノールを洗浄液とする超音波洗浄装置にガス拡散層基材を浸漬し、10分間洗浄処理し、80℃の乾燥炉中に投入して、約10分乾燥する。
【0045】
S18では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜を準備する。平均空孔径10μm、厚み50μmのPTFE多孔質薄膜を10cm角に切断して導電性多孔質膜の基材とし、親水処理液に導電性多孔質膜基材を浸漬する。親水処理液としては、界面活性剤(ダウケミカル社製 Triotn X−100)5gと、エタノール200gを混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌分散処理を行い、親水処理液とする。
【0046】
S20では、カーボンインクを調製する。界面活性剤(ダウケミカル社製 Triton X−100)3gと、純水200gを混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌処理を行って、界面活性剤分散水溶液とする。この界面活性剤分散水溶液にCabot 社製Vulcan XC−72Rカーボンブラック20gを投入混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌処理を行ってインクスラリーとする。上記インクスラリーをジェットミルを用いて粉砕処理を行い、カーボン平均粒径を1μmとする。上記インクスラリーに、PTFE微粒子であるダイキン工業製Polyflon D−1E 13gを投入混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌処理を行い、カーボンインクとする。
【0047】
S22では、親水処理されたPTFE多孔質膜にカーボンインクを塗布する。このカーボンインクの塗布には、例えば、図9に模式的な斜視図で示した塗布装置100を用いる。この図9(a)に示す塗布装置100は、平坦な上面が網状になり、内部が中空の吸引治具101と、枠形状を有する液保持治具102とを有している。吸引治具101は、吸引ポンプ103と接続され、吸引治具101の内部を負圧にすることができるようになっている。この塗布装置100を用いてPTFE多孔質膜にカーボンインク110を塗布するときには、まず、吸引治具101の上面にPTFE多孔質膜を載置する。次に載置されたPTFE多孔質膜の上に液保持治具102を載せてPTFE多孔質膜を固定する。次に図9(b)に示すように、液保持治具102の枠内にカーボンインク110を滴下し、カーボンインク110が液保持治具102の枠内でPTFE多孔質膜上を全て覆うようにするとともに、吸引治具101と接続された吸引ポンプ103を作動させて吸引治具101の内部を負圧にすることにより、PTFE多孔質膜を介してカーボンインク110を吸引する。これにより、カーボンインク110がPTFE多孔質膜に塗布され、PTFE多孔質膜の微細孔中にカーボンブラック微粒子及びPTFE微粒子が付着する。
【0048】
次いでS24で、カーボンインクが塗布されたPTFE多孔質膜を80℃の乾燥炉で15分以上乾燥させる。
【0049】
次いで、S26で導電性多孔質膜の1次焼成を行う。カーボンインクを塗着、乾燥させたPTFE多孔質膜を、中空部が8cm角のステンレス製治具に固定した後、350℃の焼成炉で10分の焼成処理を行い、PTFE多孔質膜にカーボン粒子を固定して、導電性多孔質膜を得る。
【0050】
次いで、S27において、本実施例の中心となる導電性多孔質膜のフッ素脱離処理を行う。このS27のフッ素脱離処理は、上述したプラズマ処理装置70又は光励起処理装置90を用いて行われる。
【0051】
次いで、S28で、ガス拡散層基材とフッ素脱離処理された導電性多孔質膜とをホットプレスにて150℃、1MPa、3分の熱接合処理を行う。こうして得られたガス拡散層基材と導電性多孔質膜電極の接合体を所定のサイズに切り出して、ガス拡散電極とする。
【0052】
基材に撥水でフッ素樹脂含むときは、フッ素離脱処理することもできる。
【0053】
次に、本実施形態のガス拡散電極を用いた図1の燃料電池セル1の製造工程の具体例を説明する。最初に高分子電解質膜2の両面に触媒層3,4を形成した触媒塗布膜30(以下CCMと呼ぶ、Cataiyst Coated Menbrane)の製造工程を説明する。まず触媒層を形成するための触媒スラリーを調製する。ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製カーボンブラック ケッチェンブラックEC4gに、ジニトロジアンミン白金水溶液(Pt濃度1%)400gを加えて1時間攪拌する。さらに、還元剤としてメタノール50gを混合し、1時間攪拌する。その後、30分で80℃まで加温し、そのまま6時間攪拌した後、1時間で室温まで降温させる。沈殿物を濾過して得られた固形物を減圧下85℃において12時間乾燥し、乳鉢で粉砕し、電極触媒(Pt粒子の平均粒径2.6nm、Pt担持濃度50質量%)を得る。
【0054】
次いで、上記電極触媒の質量に対して、5倍量の純水を加え、減圧脱泡操作を5分間加える。これに、0.5倍量のn−プロピルアルコールを加え、DuPont社製 20%Nafionを加える(電極触媒層中のカーボン質量に対するプロトン伝導性高分子電解質固形分質量比が0.9とする)。得られた混合スラリーを超音波ホモジナイザーでよく分散させ、減圧脱泡操作を加えることによって触媒スラリーを作製する。これをポリテトラフルオロエチレンシートの片面にスクリーン印刷法によって、所望の厚さに応じた量の触媒スラリーを印刷し、60℃で24時間乾燥させる。形成される触媒層のサイズは、5cm×5cmとした。また、ポリテトラフルオロエチレンシート上の塗布層は、Pt量が0.2mg/cm(アノード触媒層の平均厚みは6μm)となるように調整した。
【0055】
次に、上記触媒層を高分子電解質膜に転写してCCMを製造する。高分子電解質膜として、DuPont社製 Nafion NRE211(膜厚25μm)と、先に作製したポリテトラフルオロエチレンシート上に形成された電極触媒層とを重ね合わせる。その際には、アノード触媒層、高分子電解質膜、カソード触媒層を、この順序で積層させた。その後、130℃、2.0MPaで、10分間ホットプレスして、ポリテトラフルオロエチレンシートのみを剥がしてCCMを得た。
【0056】
次に、本発明に係るガス拡散電極と上記のCCMとを接合したMEAを用いて燃料電池セル1を組立て、アノードに水素ガス、カソードに空気をそれぞれ大気圧で導入し、セル温度70℃、負荷電流密度1A/cm2 で12時間エージング処理を行った後、セルの発電性能評価を行った。本発明によるガス拡散電極は、良好な生成水排出特性を示すと共に、過剰な排水を行うことなく、フラッディングとドライアウトが共に抑制されることを確認した。
【0057】

以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付加しておく。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係るガス拡散電極が適用される固体高分子型燃料電池の単位セルの模式断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るガス拡散電極及びその近傍の模式的な断面図である。
【図3】ポリテトラフルオロエチレンの分子構造の模式図である。
【図4】本発明の実施形態に係るガス拡散電極及びその近傍の模式的な断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るガス拡散電極及びその近傍の模式的な断面図である。
【図6】プラズマ処理装置の概念図である。
【図7】光励起処理装置の概念図である。
【図8】ガス拡散電極の製造方法を説明する製造フローチャートである。
【図9】導電性多孔質層の作製方法の説明図である。
【符号の説明】
【0059】
1 燃料電池セル
2 高分子電解質膜
3 燃料極触媒層
4 酸化剤極触媒層
5 導電性多孔質層
6 導電性多孔質層
7 燃料極ガス拡散層基材
8 酸化剤極ガス拡散層基材
9 燃料極セパレータ
10 酸化剤極セパレータ
11 ガス流路溝
12 ガス流路溝
21 ガス拡散層(ガス拡散電極)
22 ガス拡散層(ガス拡散電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂からなる撥水剤を含み、三次元に連続した微細孔を有するガス拡散電極において、
当該ガス拡散電極の面直方向にフッ素脱離処理がされてなることを特徴とするガス拡散電極。
【請求項2】
前記ガス拡散電極の一方の表面から面直方向に所望範囲の深さでフッ素脱離処理がされてなることを特徴とする請求項1に記載のガス拡散電極。
【請求項3】
前記ガス拡散電極の一方の表面から面直方向にフッ素脱離処理が、当該表面の面内で選択的にされてなることを特徴とする請求項1に記載のガス拡散電極。
【請求項4】
フッ素樹脂からなる撥水剤を含み、三次元に連続した微細孔を有するガス拡散電極の製造方法であって、
ガス拡散電極の面直方向にフッ素脱離処理する工程を備えたことを特徴とするガス拡散電極の製造方法。
【請求項5】
前記フッ素脱離工程は、前記ガス拡散電極をプラズマ処理する工程であることを特徴とする請求項4に記載のガス拡散電極の製造方法。
【請求項6】
前記フッ素脱離工程は、前記ガス拡散電極に含まれるフッ素樹脂を光励起させてC−F結合を切断させる工程であることを特徴とする請求項4に記載のガス拡散電極の製造方法。
【請求項7】
前記光励起させる工程が、フッ素樹脂のC−C結合よりもC−F結合が選択的に切断される波長帯の光を用いることを特徴とする請求項6に記載のガス拡散電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−129384(P2010−129384A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303038(P2008−303038)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】