説明

ガス発生微生物探索キット

【課題】ガス発生微生物を探索できる、バイオの教材として好適なキットを提供する。
【解決手段】一端に開口部を有し培養液を収納する培養部2と、培養部から発生するガスを収集する透明な発生ガス収集部3とからなり、培養部に微生物を投入した状態で培養部の開口部に発生ガス収集部を気密に嵌合したときに培養部から発生ガス収集部へのガスの移動を可能にするガス流路を有し、培養部から発生するガスにより発生ガス収集部内に装着した検知材33が移動することによりガス発生量を検知するようにしたガス発生微生物探索キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素等のガスを発生するバクテリア等の微生物を探索するためのキットであって、より詳しくは、特に学童・生徒等にバイオに関心を持たせるための教育用キットに適したものである。
【背景技術】
【0002】
糖類やデンプンから、水素発酵により水素を発生するバクテリアは数多く知られている。この発酵による水素生成技術は、脱石油のクリーンなエネルギー源として、将来の利用が期待されている。
【0003】
そのためには、水素生成能の高いバクテリアを発見することが重要であるが、種々の環境下に存在する微生物の中から有望なバクテリアを探し当てるには多大の労力と期間を要することとなる。
一方、バイオ分野の研究を促進するためには、学童等子供たちにバイオテクノロジーに対する興味・理解と向学心を持たせることが重要である。そのためには実験が有効であるが、バクテリアを扱う実験は、クリーンベンチ等の特殊装置が必要であり、広く実験を行うことは困難であった。
【0004】
従来、この種の教育キットとして、培地に燃料発生微生物を収容した培養装置と、回収装置とを備え、その培養装置から発生する燃料ガス(水素)を回収装置に集め、例えば燃料電池を作動させるなどした学習キットが特許文献1に開示されている。
また、培養容器に収容した培地と酵母から微生物発酵により発生したアルコールを気体吸引装置で吸引し、そのアルコールで燃料電池を起動させるようにした学習教材が特許文献2に開示されている。
【0005】
しかしこれらのキットは、構造が複雑であったり複数の器材があったりして、基本的に実験室内などで使用されるものであり、微生物が存在する野外での使用には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−178304号公報
【特許文献2】特開2008−224264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、コンパクトで安全な構造をとることで持ち運びを可能にし、微生物が存在する野外で自分自身で微生物を採取することができ、またその微生物のガス発生能を目で見ることができるようにして子供等に強い興味をわかせるように工夫したキットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の水素発生微生物探索キットは、一端に開口部を有し培養液を収納する培養部と、培養部から発生するガスを収集する透明な発生ガス収集部とからなり、
発生ガス収集部には、発生するガスの圧力により発生ガス収集部の内部を摺動する検知材を装着してあり、
培養部に微生物の投入した状態で培養部の開口部に発生ガス収集部を気密に嵌合したときに培養部から発生ガス収集部へのガスの移動を可能にするガス流路を有し、
培養部から発生するガスにより発生ガス収集部の検知材が移動することによりガス発生量を検知することを特徴とするガス発生微生物探索キットである。
【0009】
本発明の請求項2に記載のガス発生微生物探索キットは、発生ガス収集部の嵌合部の側に、微生物採取用ロッドを一体的に設け、培養部の開口部に発生ガス収集部を気密に嵌合したときに培養部の培養液中に前記微生物採取用ロッドが浸漬されて微生物の投入が行われることを特徴とする請求項1記載のガス発生微生物探索キットである。
【0010】
本明細書および本特許請求の範囲において、「培養液」とは、微生物を培養するための培地材料をいい、例えばゲル状に固めたものや、水分を供給することにより液状になるものなどを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コンパクトで密封性の優れた構造を有するため、子供たちでも安全、簡単に操作できる。また持ち運びが容易なため、微生物が存在する野外において、自分自身で微生物を採取して実験できるので、興味を持たせることができる。また、ガスの発生量を目視で確認できるため、教材として関心を持たせるのに好適である。
また、請求項2記載の発明によれば、培養部の開口部に発生ガス収納部を気密に嵌合するだけで、同時に微生物の投入を行うことができ、一層便利である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のガス発生微生物探索キットの一例の一部切り欠いた正面図である。
【図2】本発明のガス発生微生物探索キットの培養部の一例の断念図である。
【図3】本発明のガス発生微生物探索キットの発生ガス収集部の一例の断面図である。
【図4】本発明のガス発生微生物探索キットの検知材の一例を示す断面図である。
【図5】本発明のガス発生微生物探索キットの微生物採取用ロッドの一例の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明のガス発生微生物探索キットは、図2に一例を示す培養部2と、図3に一例を示す発生ガス収集部3とからなっており、使用時には図1に示すように両者を嵌合連結して使用する。
図2に示すように、培養部2は、一端に、発生ガス収集部との連結部となる開口部21と、培養液を収容する培養液収容部22とを有し、開口部を除き密封構造となっている。この開口部21は、培養液を収容した未使用状態では、金属箔(アルミ箔など)を貼る等の手段により密閉状態とされている。
本例では、外側にフランジ23を設け、発生ガス収集部3との嵌合が、安定して気密に行われるようにしてある。
【0014】
発生ガス収集部は、図3に示すように、培養部2と連結するための嵌合部31と、ガスを収容する本体(空洞部)32と、本体32内に装着された検知材33とを有している。他端34は密閉されている。嵌合部31は、内外同心円状のリングからなり、その間に培養部2の開口部21が密着嵌合するように構成されている。
図4は、検知材33の一例を示すものであって、適当な硬度のゴム材料等で形成され、発生ガス収集部3の本体32内面に気密状に装着される。発生ガス収集部は通常円筒状なので、検知材33は全体としてリング状となっている。
【0015】
上下には、検知材33を本体32の内面に対し直角に維持するためのスタビライザ331,331を有し、中央部には、ガスをシールするためのリップ332を有している。スタビライザ331の直径は本体32の内径にほぼ等しいか僅かに小径で、リップ332の直径は本体32の内径よりも僅かに大きくなっている。
また、本体32の外面または内面には、目盛36(図1参照)が付され、検知材の移動量を簡単に確認できるようにしてある。この発生ガス収集部3は、外から検知材33の動きが視認できるよう透明材料で形成される。
【0016】
また好ましい態様においては、発生ガス収集部の嵌合部31側に、微生物採取用ロッド35が形成されている。本例では、ロッド5の基部353を、発生ガス収集部の嵌合部31内側に差し込み、接着剤などで固着している。図5により説明すると、このロッド35は、土壌中、水中などに突き刺して微生物を採取するためのものであって、先端部には採取が十分行われるよう溝351が形成されている。また根元部には、後述するように、嵌合部31に向かって末広がりの傘状となった逆止片352が形成されている。
【0017】
また本例では、微生物採取用ロッド5の基部付近の表面に、通気溝354が形成されていて、培養部2から発生ガス収集部3へのガス流路が形成されている。すなわち、通気溝353により、培養部2の培養液収容部と発生ガス収集部3の本体32が連通した状態となっている。
【0018】
図1は、培養部2と発生ガス収集部とを嵌め合わせた状態、すなわち本発明キットの使用状態を一部切り欠き正面図で示している。
培養部2の培養液収容部22に予め培養液24を充填し、その開口部21をアルミ箔などで密封しておく。一方、発生ガス収集部に一体に固着された微生物採取用ロッド35により、土壌中や水中から微生物を採取する。そして、培養部2の開口部21に発生ガス収集部の嵌合部31を嵌合させる。開口部21の外径と外側の嵌合部31の内径、および開口部21の内径と内側の嵌合部31の外径間が、密に嵌り合う寸法関係に設定されているため、両者は密に結合される。また外側の嵌合部31が培養部2のフランジ23に固着されるため容易に安全な連結を達成できる。更に確実には、両者間にパッキングを入れるとよい。この連結はねじ接合とすることもできる。
【0019】
その結果、微生物採取用ロッド35の微生物が付着した先端部(溝351)が培養液24中に達し、培養液中に微生物を投入した状態となる。
そしてその際、前記逆止片352が、培養部2の開口部21を通過するため、強制的にすぼんだ状態で開口部21を通過し、その後傘状に開くため、一旦嵌合した後は、容易には抜けないように構成されている。逆止片352は、ロッド35と一体成形することもできるし、別体で作成しロッド35に固着してもよく、プラスチック材料の持つ弾力性を利用するのが好ましい。
また、前記したように、培養部2で発生した水素などのガスは、図5に示す通気溝(ガス流路)を通じて発生ガス収集部3に集まるので、そのガス圧で検知材33が移動する。
【0020】
なお、逆止片352を形成するのに、その部分のロッド35を中空体とし、その壁面を切り起こして逆止片を形成し、その切り起こしにより生じた空隙をガス流路として利用することもできる。
【0021】
発生ガス収集部3には、目盛36が付されており、ガスの発生量の大小が数字で把握できるようになっている。この目盛は、培養液の量と成分を考慮して発生ガス量を算出し、例えば通常のガス発生能であれば1、高性能であれば3、極めて高性能であれば5というように設定することができる。また通常は培養部2も透明材料で構成されるので、ガスの発生する状態を観察することも可能になる。
【0022】
本発明キットは、全体形状として円筒状であり、全体をABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、ポリカーボネート樹脂などの透明プラスチック材料で形成するのが好ましく、射出成形などで形成した部品を組み立てることにより形成できる。本発明キットは、培養部2に所定の種類、量の培養液を充填した状態で、発生ガス収集部とセットにして流通させるのが好適である。
また、培養液の内容は自由に変えることができるので、特定の基質を代謝する微生物に的を絞って探索することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のガス発生微生物探索キットは、持ち運びが容易であり、また好ましい態様においては一旦嵌合すると再開封できないので安全であり、学童・生徒などが野外の各所で採取した微生物を本キットで培養することにより、発生ガス量の大小を楽しみながらバイオへの関心を高めることができる。
また、特にガス発生量の多い微生物を発見した場合には、供給元に通報するなどの方法をとれば、広く情報を集めることができ、高性能の微生物探索の一助とすることができる。
【符号の説明】
【0024】
1…ガス発生微生物探索キット
2…培養部
21…培養部の開口部
22…培養液収容部
24…培養液
3…発生ガス収集部
31…嵌合部
32…発生ガス収集部本体
33…検知材
35…微生物採取用ロッド
352…逆止片
354…通気溝(ガス流路)
36…目盛

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に開口部を有し培養液を収納する培養部と、培養部から発生するガスを収集する透明な発生ガス収集部とからなり、
発生ガス収納部には、発生するガスの圧力により発生ガス収集部の内部を摺動する検知材を装着してあり、
培養部に微生物を投入した状態で培養部の開口部に発生ガス収集部を気密に嵌合したときに培養部から発生ガス収集部へのガスの移動を可能にするガス流路を有し、培養部から発生するガスにより発生ガス収集部の検知材が移動することによりガス発生量を検知することを特徴とするガス発生微生物探索キット。
【請求項2】
発生ガス収集部の嵌合部の側に、微生物採取用ロッドを一体的に設け、培養部の開口部に発生ガス収集部を気密に嵌合したときに培養部の培養液中に前記微生物採取用ロッドが浸漬されて微生物の投入が行われることを特徴とする請求項1記載のガス発生微生物探索キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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