説明

ガス絶縁母線

【課題】周囲状況が変化した場合においても、振動および騒音を低減することができるガス絶縁母線を提供する。
【解決手段】ガス絶縁母線10では、開口端部を有する複数の母線タンク1が連続して接続された内部空間に絶縁性ガスが封入されるとともに導体が収納される。他方、前記母線タンク1の外周にはエアバッグ加圧手段11が装着され、さらにエアバッグ加圧手段11に半円状の分割片3a、3bからなる金属リング3が締結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、振動および騒音を低減することができるガス絶縁母線に関する。
【背景技術】
【0002】
電力設備間を接続する母線として多くの場合、ガス絶縁母線が用いられる。ガス絶縁母線は、絶縁媒体となるSFなどのガスを封入した金属製の母線タンク内に導体を収納して構成されている。
【0003】
このガス絶縁母線の長さは、電力設備の規模が大きくなるにつれて長尺となるが、母線が長尺となると必然的に母線を構成する母線タンクも長くなる。この母線タンクは、円筒形状の本体部分の両端に接続用フランジを溶接一体化して形成されている。また、ガス絶縁母線の設置スペース縮小の目的で、3相の導体を同一タンク内に収容する3相一括型のガス絶縁母線が近年主流となっている。
【0004】
一方、母線の長尺化に伴い、母線タンクの固有振動数が商用周波数の2倍に一致して大きな振動を発生し、その結果として大きな騒音を発生するという問題が顕在化するようになってきている。
【0005】
このため、その固有振動数が商用周波数の2倍に概ね一致する母線タンクに対して金属製のリングを追加することで、母線タンクの固有振動数を商用周波数の2倍の値近傍から変化させ、共振を避けることにより振動および騒音を低減することが行われている。
【0006】
即ち、図5、図6に示すように、このようなガス絶縁母線50は、両端部に母線タンクフランジ1aを有する母線タンク1を複数連結し、絶縁媒体となるSFなどのガスを母線タンク1内部に封入して3相の導体2a、2b、2cを収納し、かつ母線タンク1に複数の円弧状の分割片3a,3bからなる金属リング3を締結固定して形成される。
【0007】
このように構成することにより、母線タンク1の固有振動モードが、金属リング3を締結固定した位置において分割されることになる。その結果として、母線タンク1の固有振動数は高い方へ移動する。金属リング3を追加する前の固有振動数が商用周波数の2倍近傍の値であれば、固有振動数が変化することから共振状態となることを避けることが可能となり、母線タンク1の振動、騒音を低減することができる。
【0008】
また、図7に示すように、母線タンク1の途中に支え(脚)5を追加することによっても、母線タンク1の固有振動数を変化させることができる。
【0009】
図7に示すガス絶縁母線60では、支え5が母線タンク1の軸方向中央の位置に溶接されており、支え5の下部は基礎6に据付固定されている。
【0010】
上記のガス絶縁母線60では、支え5の追加により母線タンク1の見かけ上の剛性を向上させることで、固有振動数をより高い振動数側へ移動させ、共振状態となることを避けるものである。さらに、この支え5は基礎6に固定されていることから、母線タンク1の振動の振幅を抑制する効果も期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−191532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
近年、製造技術や輸送技術等の向上、さらなるコストダウン要請等の理由から、母線タンク1単体の長さは従来と比較してさらに長尺化している。そのため、従来のような振動低減対策では十分な効果が得られないことがある。
【0013】
また、母線タンク1に封入される絶縁ガスの内圧等により、母線タンク1表面の径方向に加えられる力が、母線タンク1の固有振動数に大きな影響を与える。このタンク表面径方向の力は、運転条件や日射等の環境により変化する熱等の影響を受ける。そのため、周囲状況の変化に対応できるような追加対策手法を用いてより確実な振動騒音低減を実現することが求められる。
【0014】
そこで、本発明の実施形態は、周囲状況が変化した場合においても、振動および騒音を低減することができるガス絶縁母線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の目的を達成するため、本発明の実施形態は、開口端部を有する複数の母線タンクが連続して接続された内部空間に絶縁性ガスが封入されるとともに導体が収納され、他方、前記母線タンクの外周には金属リングが締結されてなる長尺のガス絶縁母線において、前記母線タンクに対して径方向に力を印加できる加圧装置を設けたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るガス絶縁母線の第1の実施の形態を示す正面図。
【図2】質量体とばねからなる1自由度系のモデルを示す概略図。
【図3】本発明に係るガス絶縁母線の第2の実施の形態を示す正面図。
【図4】本発明に係るガス絶縁母線の第3の実施の形態を示す正面図。
【図5】従来のガス絶縁母線を示す正面図。
【図6】図5のVI−VI線断面図。
【図7】従来のガス絶縁母線の他の例を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。なお、従来例として図5に示したガス絶縁母線と同一の部材に関しては同一符号を付し、説明は省略する。
【0018】
[第1の実施の形態](エアバッグ加圧手段)
図1に、本発明に係るガス絶縁母線の第1の実施の形態を示す。
【0019】
このガス絶縁母線10では、母線タンク1の外周に、エアバッグ加圧手段11が装着され、さらにエアバッグ加圧手段11に、半円状の分割片3a、3bからなる金属リング3が締結されている。
【0020】
このように構成されたガス絶縁母線10の作用および効果について説明する。
【0021】
まず、母線タンク1の固有振動数は、一般的に、母線タンク1の材料特性(剛性、密度)、タンク径、タンク板厚、タンク長さおよびタンクの支持条件等により決定される。
【0022】
上記パラメータと固有振動数の関係について、図2に示すような質量体7とばね8からなる1自由度系のモデルを考えると、固有振動数fは質量Mとばね定数(剛性)Kから式(1)のように表わすことができる。
【数1】

【0023】
従って、式(1)より、剛性Kが高くなると固有振動数fは高くなり、質量Mが大きくなると、固有振動数は低下する。
【0024】
したがって、母線タンク1の密度やタンクの長さ寸法が大きくなると固有振動数は低下することになる。
【0025】
本実施の形態のガス絶縁母線10では、装着した金属リング3は、その装着部において母線タンク1に対して拘束を与えるので、見かけ上のタンク長を短くし、固有振動数を高い方へ移動させることになる。
【0026】
また、母線タンク1内に封入される絶縁ガスの圧力は、タンク表面の径方向の力として作用し、見かけ上のタンクの剛性を向上させる。例えば絶縁ガスの圧力が0.4MPaである場合、大気圧の場合と比較して、母線タンク1の固有振動数は、固有振動モードや母線タンク1の条件(タンク形状、境界条件等)にもよるが、一般に10〜20Hz程度高くなる。
【0027】
例として、タンク径1000mm、タンク板厚12mm、タンク長5000mm、アルミ材の場合のタンクの固有振動数(固有振動モードが円周方向2次(楕円)および3次(三角)の軸方向1次モード)を表1に示す。
【表1】

【0028】
装着したエアバッグ加圧手段11は、母線タンク1に対して径方向の力を増減させる作用を有する。そのため、母線タンク1の固有振動数が絶縁ガスの圧力により変化した場合や、金属リング3の追加による振動モード分割効果が期待できないような振動モードに対しても、母線タンク1の共振を回避することが可能となる。
【0029】
以上より、金属リング3の部分でモード分割され、母線タンク1の固有振動数は高周波数側へ移動し共振回避が可能となる他、モード分割の手法では固有振動数移動が困難なモードに対しても、エアバッグ加圧手段11により母線タンク1を加圧することで固有振動数を移動させることが可能となる。
【0030】
このため、長尺化した母線タンク1においても周囲状況の変化に対応して固有振動数を移動させて共振を回避することにより、振動および騒音を低減することができる。
【0031】
また、加圧手段としてエアバッグ加圧手段11を用いることにより、金属リング3が母線タンク1に加圧する圧力を、広範囲にわたって均一に与えることが可能となる。このため、より確実かつ効果的に固有振動数を移動させることが可能となり、共振を回避することができるので、ガス絶縁母線の振動および騒音を低減することが可能となる。
【0032】
なお、エアバッグ加圧手段11及び金属リング3は、問題となる振動モードを回避できる位置に設置すればよく、また個数についても必要な個数を設置すればよい。また、本実施の形態ではエアバッグ加圧手段11上に金属リング3を締結したが、金属リング3を直接母線タンク1に締結するとともにエアバッグ加圧手段11を別の手段で母線タンク1に締結してもよい。
【0033】
[第2の実施の形態](油圧機構)
図3に、本発明に係るガス絶縁母線の第2の実施の形態を示す。
【0034】
このガス絶縁母線20では、基礎6に据付固定された一組の支え(脚)5によって母線タンク1が支持され、さらに、基礎6と母線タンク1との間には油圧シリンダ等を用いた油圧機構21が設置されている。
【0035】
このように構成されたガス絶縁母線20の作用および効果について説明する。
【0036】
本実施の形態のガス絶縁母線20では、支え5がその支持部において母線タンク1に対して拘束を与えることになるので、金属リングと同様に見かけ上のタンク長を短くする作用を有する。さらに、基礎6に設置されている油圧機構21により母線タンク1に対して圧力を加えることができるので、支え5近傍の母線タンク1の見かけの剛性を調整することが可能となり、タンク自身の共振回避に対して有効に作用する。
【0037】
また、この支え5は基礎6に据付固定されているので、母線タンク1本体の振動を抑制する作用も有しており、これにより発生振動の低減およびそれに起因する騒音を低減することができる。
【0038】
以上のような構成により、従来構成の母線タンクと比較してより効果的に騒音振動を低減することができる。
【0039】
なお、支え5の設置位置については、図示した母線タンク1長手方向の中間位置および個数に限定されることはなく、タンクの状況に合わせた配置および個数とすればよい。また、本実施の形態では一組の支え5の間に油圧機構21を配置したが、支え5の外側に油圧機構21を配置してもよい。
【0040】
また、油圧機構21に代えて、空気圧で加圧を行う機構を用いることもできる。
【0041】
[第3の実施の形態](エアバッグ加圧手段+油圧機構)
図4に、本発明に係るガス絶縁母線の第3の実施の形態を示す。
【0042】
このガス絶縁母線30では、母線タンク1が、金属リング3を装着したエアバッグ加圧手段11で締結されるとともに、基礎6に据付固定された一組の支え(脚)5によって支持されている。また、基礎6と母線タンク1との間には油圧シリンダ等を用いた油圧機構21が設置されている。
【0043】
このように構成されたガス絶縁母線30の作用および効果について説明する。
【0044】
本実施の形態のガス絶縁母線30では、支え5がその支持部において母線タンク1に対して拘束を与えることになるので、金属リングと同様に見かけ上のタンク長を短くする作用を有する。さらに、基礎6に設置されている油圧機構21により母線タンク1に対して圧力を加えることができるので、支え5近傍の母線タンクの見かけの剛性を調整することが可能となり、タンク自身の共振回避に対して有効に作用する。
【0045】
また、この支え5は基礎6に据付固定されているので、母線タンク1本体の振動をさらに抑制する作用も有しており、これにより発生振動の低減およびそれに起因する騒音を低減することができる。
【0046】
また、支え5を設置できない母線タンク1の中間部分に対しては、エアバッグ加圧手段11が母線タンク1に対して径方向の力を増減させる作用を有する。そのため、母線タンク1の固有振動数が絶縁ガスの圧力により変化した場合や、金属リング3の追加による振動モード分割効果が期待できないような振動モードに対しても、母線タンク1の共振を回避することが可能となり、より効果的に騒音振動の低減を実現することができる。
【0047】
さらに、エアバッグ加圧手段11により、母線タンク1に加圧する圧力を広範囲にわたって均一に与えることが可能となる。このため、より確実かつ効果的に固有振動数を移動させることが可能となり、共振を回避することができるので、ガス絶縁母線の振動および騒音を低減することが可能となる。
【0048】
以上のような構成により、従来構成の母線タンクと比較して、特に長尺な母線タンクの場合には、より効果的に騒音振動を低減することができる。
【0049】
なお、金属リング3、エアバッグ加圧手段11、支え5および油圧機構21は、問題となる振動モードを回避できる位置に設置すればよく、また個数についても必要な個数を設置すればよい。
【0050】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組合せを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0051】
1:母線タンク
2a、2b、2c:導体
3:金属リング
3a、3b:分割片
5:支え(脚)
6:基礎
10:ガス絶縁母線
11:エアバッグ加圧手段(加圧装置)
20:ガス絶縁母線
21:油圧機構(加圧装置)
30:ガス絶縁母線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口端部を有する複数の母線タンクが連続して接続された内部空間に絶縁性ガスが封入されるとともに導体が収納され、他方、前記母線タンクの外周には金属リングが締結されてなる長尺のガス絶縁母線において、
前記母線タンクに対して径方向に力を印加できる加圧装置を設けたことを特徴とするガス絶縁母線。
【請求項2】
前記加圧装置は、前記母線タンクの外周に設けられたエアバッグ加圧手段であることを特徴とする請求項1記載のガス絶縁母線。
【請求項3】
前記エアバッグ加圧手段の外周に前記金属リングが締結されていることを特徴とする請求項2記載のガス絶縁母線。
【請求項4】
前記加圧装置は、基礎に据付固定され、前記母線タンクに対して油圧により加圧する油圧機構であることを特徴とする請求項1記載のガス絶縁母線。
【請求項5】
前記基礎に据付固定されて前記母線タンクを支持する支えをさらに設けたことを特徴とする請求項4記載のガス絶縁母線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−257418(P2012−257418A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129755(P2011−129755)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】