説明

ガス絶縁電気機器

【課題】絶縁破壊を起こした場合に、2回目以降の絶縁破壊電圧を初期状態に維持可能なガス絶縁電気機器を得る。
【解決手段】絶縁ガス3が充填された金属容器1の内部に、高電圧導体である中心導体2が絶縁スペーサ4に絶縁支持されて収容され、中心導体2と絶縁スペーサ4との接続部に電界緩和シールド5が設けられたガス絶縁電気機器において、中心導体2及び電界緩和シールド5の金属表面に一定以上の膜厚で誘電体被覆膜6を施し、中心導体2に施した誘電体被覆膜6の一部に中心導体2の金属表面を露出させた金属露出部7を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高電圧導体を金属容器内に収納し、金属容器内に絶縁ガスを充填して高電圧導体と金属容器とを絶縁したガス絶縁電気機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス絶縁電気機器の耐圧性能として、高電界部である高電圧導体からの絶縁破壊がある。従来のガス絶縁電気機器において、高電圧導体からの絶縁破壊を抑止して耐圧を上げるために、高電圧導体上にコーティングで絶縁被覆をする技術が知られている。これは放電の初期電子となる高電圧導体の金属表面からの電子放出を絶縁被覆で抑制して、耐圧を向上させる方法である。
また、例えば、絶縁性ガスが充填された金属容器内に高電圧導体である母線が配置され、この母線を金属容器に対して支持絶縁物で絶縁支持するガス絶縁母線において、母線の外表面及び金属容器の内表面のそれぞれにフッ素樹脂被覆を設け、金属容器内に存在する金属異物の挙動を抑制して耐圧を向上させる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平5−30626号公報(第2頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、高電圧導体上にコーティングで絶縁被覆を施すものは、電子放出を抑制させる効果はあっても、絶縁被覆が薄膜の場合は耐圧を下げる原因となる電極面積効果を完全に抑制させることは困難である。
また、特許文献1に示すような複合絶縁方式を採用した母線絶縁では、電子放出及び電極面積効果の抑制は可能であるが、絶縁被覆が母線導体表面や金属容器内面の全てにおいて金属面を覆い尽くしているため、絶縁破壊が一度でも起こると絶縁被覆が貫通破壊し、その後は絶縁被覆が絶縁物としての機能を失って絶縁耐力が著しく低下する。絶縁ガス自体は絶縁回復能力があるため、例えば、絶縁被覆を施さない金属電極で絶縁ガスのみの絶縁構成の場合では、複数回の絶縁破壊に対し同じ耐圧を維持できるが、特許文献1のような絶縁構成では、一度絶縁破壊が起これば同じ耐圧を維持することができないという問題点があった。
【0005】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、たとえ絶縁破壊を起こした後でも、同じ耐圧を維持できるガス絶縁電気機器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係わるガス絶縁電気機器は、絶縁ガスが充填された金属容器と、この金属容器の内部に収容され所定の電圧が印加される高電圧導体と、この高電圧導体を金属容器に絶縁支持する絶縁支持部材と、高電圧導体と絶縁支持部材との接続部の電界を緩和する電界緩和シールドとを備えたガス絶縁電気機器において、高電圧導体及び電界緩和シールドの金属表面に誘電体被覆膜が施され、高電圧導体に施された誘電体被覆膜の一部に金属表面を露出させた金属露出部が形成されているものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明のガス絶縁電気機器によれば、高電圧導体及び電界緩和シールドの金属表面に誘電体被覆膜を施して、その誘電体被覆膜の一部に高電圧導体の金属表面を露出させた金属露出部を形成したので、高電圧導体及び電界緩和シールドは誘電体被覆膜によって耐圧が向上すると共に、絶縁破壊時に誘電体被覆膜から放電が発生しても、金属露出部にめがけて放電が進展し、誘電体被覆膜表面の沿面放電となって、誘電体被覆膜の貫通破壊を防止することができる。したがって、2回目以降の絶縁破壊電圧は初期状態を保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1によるガス絶縁電気機器を示す断面図である。
ガス絶縁電気機器は、圧力容器である円筒状の金属容器1の内部に、高電圧が印加される高電圧導体である中心導体2が収容され、金属容器1と中心導体2の間を絶縁するために、SFガス等の絶縁ガス3が充填されている。また、中心導体2は、固体絶縁物からなる絶縁支持部材である絶縁スペーサ4によって、金属容器1の同軸中心の位置に支持固定されている。更に、絶縁スペーサ4と中心導体2の接続部には、接続部を覆うように、接続部の電界を緩和する電界緩和シールド5が設けられている。
【0009】
金属容器1と中心導体2が同軸円筒構造の場合には、中心導体2は高電界部となる。そこで、中心導体2の表面と、更に高電界部である電界緩和シールド5の表面に、電極面積に依存する電極面積効果による耐圧低下を防止するために、誘電体被覆膜6を施している。そして、本発明の特徴として、中心導体2に施した誘電体被覆膜6の一部に、中心導体2の金属表面を露出させた金属露出部7を形成している。
【0010】
誘電体被覆膜6の材料としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、フッ素樹脂、ゴム系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等の絶縁物で構成することが望ましい。
誘電体被覆膜6の厚さは、絶縁破壊時の放電で印加電圧分の電界がかかった状態でも貫通破壊しないような一定以上の厚さとする。実際の厚さは、使用材料や被覆する場所によって大きく異なるが、例えば、1mm以上のミリオーダである。
また誘電体被覆膜6の形成方法としては、モールド注形法、静電塗装や流動浸漬法等の粉体塗装法、塗料等の液体樹脂を塗装する方法、絶縁シートを巻きつける方法、収縮チューブ等をかぶせる方法等が挙げられる。
【0011】
次に、誘電体被覆膜6の作用について説明する。
同軸円筒構造の場合、径方向には電界勾配が存在するが、周方向及び長手方向には電界は一定である。したがって、中心導体2の表面領域は全てほぼ同電界になっている。通常、絶縁体は電界値によって放電開始や絶縁破壊が決まるが、SFガスでは、電極のミクロな突起が原因となる電極面積効果によって、破壊電界値が面積に対し依存性を持つ。高電圧用のガス絶縁電気機器の場合、中心導体2の表面領域は100,000mm以上にもなるので、小規模の電極面積の場合と比べ、電極面積効果によって破壊電界値は大きく低下する。
そこで、誘電体被覆膜6によって絶縁被覆することにより、導体表面のミクロな突起をマスク化することができ、耐圧を向上させることができる。
【0012】
この誘電体被覆膜6は、高電界となる中心導体2と電界緩和シールド5の全面に形成するのが一般的であるが、本実施の形態の発明では、上述のように、一部に誘電体被覆膜6を形成しない金属露出部7を設けたものであり、以下にこの作用について説明する。
【0013】
先ず始めに、図2の説明図に基づいて、絶縁破壊に至る過程から説明する。
ガス絶縁電気機器の同軸円筒構造の部分は、径方向の電界は中心導体2側が高く、金属容器1の壁面側が低くなる。したがって、放電開始は中心導体2側からとなる。中心導体2の主絶縁は絶縁ガス3と誘電体被覆膜6の複合絶縁である。固体とガスの複合絶縁系では固体絶縁物よりも絶縁ガス3のほうが破壊電圧は低いため、一般的にガス空間の最大電界部から放電が開始する形となる。この系では誘電体被覆膜6の表面となり、この表面から放電開始する確率が最も高くなる。放電は高圧電極と低圧電極間を橋絡することで完成するため、図2中の放電経路8a又は放電経路8bのように、中心導体2の誘電体被覆膜6の表面、又は電界緩和シールド5の表面から始まった放電は低圧側の金属容器1の内壁面と高電圧側である中心導体2へ向かって進展する。
【0014】
その際に、もし高電圧側の中心導体2の全面が誘電体被覆膜6によって覆われていれば、金属部に到達して放電を完成するには、誘電体被覆膜6を貫通しなければならない。貫通破壊すると、誘電体被覆膜6の破壊痕は、被覆膜の効果がなくなるような大きな穴が開くか、それほどの穴とならなくても電気抵抗が小さい破壊路が残るため、その部分が絶縁的に弱点となり絶縁耐力は未破壊時よりも大きく低下する。
【0015】
しかしながら、本実施の形態の発明では、高電圧側である中心導体2に、一部金属面を露出させた金属露出部7を形成しているので、放電は、誘電体被覆膜6を貫通するよりもその金属露出部7の部位にめがけて進展し、誘電体被覆膜6表面を這って露出部分に到達して絶縁破壊に至る。
したがって、絶縁破壊によって誘電体被覆膜6が破壊されその絶縁機能が大きく低下するのを防ぐことができる。
【0016】
上記のような構成において、高電圧側の金属面の一部をガス空間中に露出させることによって、その露出部分が放電起点になる虞がある。そこで、次に、適正な露出部の大きさについて説明する。
図3は誘電体被覆膜6に金属露出部7を形成するために、中心導体2の径方向に被覆膜のない隙間を設けた場合の、(隙間幅/誘電体被覆膜厚)と金属面の電界強度の関係を示す図である。図のように、(隙間幅/誘電体被覆膜厚)の値が10程度より小さくなると急に電界強度が下がっている。これから分かるように、露出させる金属面の部分をある一定の間隔以下に狭めることによって、金属面上の電界を下げることが可能となる。したがって、使用する誘電体被覆膜6の膜厚を考慮しながら、金属面の電界を破壊電界以下にするような隙間距離を選択することにより、放電起点となることなく、誘電体被覆膜6の性能を発揮して高耐圧を保つことができる。
【0017】
以上のように、本実施の形態の発明によれば、絶縁ガスが充填された金属容器に、絶縁支持部材によって支持されて高電圧導体が収容され、高電圧導体と絶縁支持部材の接続部に電界緩和シールドを備えたガス絶縁電気機器において、高電圧導体及び電界緩和シールドの金属表面に誘電体被覆膜を施し、高電圧導体に施した誘電体被覆膜の一部に金属表面を露出させた金属露出部を形成したので、誘電体被覆膜により耐圧が向上すると共に、絶縁破壊時の放電が絶縁ガス部を橋絡して誘電体被覆膜のみに高電圧が印加する状態になっても金属露出部にめがけ放電が進展するので、誘電体被覆膜表面の沿面放電となり貫通破壊を防ぐことができ、2回目以降の絶縁破壊電圧を初期状態に保つことができる。
【0018】
実施の形態2.
図4は、実施の形態2によるガス絶縁電気機器の中心導体部の断面図である。実施の形態1の図1の中心導体部に相当する部分であり、図示以外は図1と同等なので全体の説明は省略する。また、同等部分は同一符号で示しているが、誘電体被覆膜のうち、特に中心導体2の表面に施された誘電体被覆膜を符号6aとし、また金属露出部のうち中心導体2の長手方向に形成された金属露出部を符号7aとして区別している。本実施の形態の発明は、金属露出部の部位に関するものである。
【0019】
図のように、円筒状をした中心導体2上に密着して誘電体被覆膜6aが施されているが、その長手方向(中心導体2の軸線方向)に、ある一定の間隔(等間隔でなくても良い)で、導体の金属面が絶縁ガス3の空間に露出した金属露出部7aを設けている。金属露出部7aは中心導体2の周方向に一巡して設けられ、その幅は、実施の形態1で説明したと同様に、金属面の電界を破壊電界以下にするような隙間距離とする。
また、金属露出部7aは、中心導体2の長手方向に、1箇所以上設けるものとする。例えば、中心導体2が両端を絶縁スペーサで支持されている場合であれば、その絶縁スペーサ間で、少なくとも1箇所、金属露出部7aを設けるものとする。
【0020】
中心導体2の長手方向の表面は、先述のように電界緩和シールド5よりも電界が低いため、絶縁破壊が起きる可能性は低いが、発生の可能性が零ではない。放電が発生すれば、中心導体2の長手方向の誘電体被覆膜6aを沿面放電が這う形となる。長手方向の長さは、長いものでは数mにもなるので、沿面放電が進展し難いため、誘電体被覆膜6の貫通破壊が先に起こる恐れがある。そこで、本発明の構成のように、長手方向に一定の間隔で金属露出部7aを設けることにより、放電はその部分に向けて進展して行き、金属露出部7aへ到達するため、誘電体被覆膜6aの貫通破壊を防ぐことができる。
【0021】
以上のように、本実施の形態の発明によれば、高電圧導体に施した誘電体被覆膜の一部に形成する金属露出部を、高電圧導体の長手方向に少なくとも1箇所以上形成したので、高電圧導体で放電が発生した場合は、長手方向に設けた金属露出部で放電経路が形成されるため、誘電体被覆膜が貫通破壊することを避けることができ、複数回の絶縁破壊後も絶縁破壊耐力の低下を防ぐことができる。
【0022】
実施の形態3.
図5は、実施の形態3によるガス絶縁電気機器の電界緩和シールド部を示す断面図である。ガス絶縁電気機器は実施の形態1の図1と同等であり、その電界緩和シールド部のみを拡大して示している。図1と同等部分は同一符号で示し説明を省略する。但し、誘電体被覆膜のうち、中心導体2の表面に施された誘電体被覆膜を符号6a、電界緩和シールド5の表面に施された誘電体被覆膜を符号6bとして区別している。
本実施の形態の発明は、金属露出部の部位に関するものであり、実施の形態2とは別の例である。
【0023】
図のように、電界緩和シールド5には、その表面全体にわたり誘電体被覆膜6bを施している。一方、中心導体2側は、絶縁支持部材である絶縁スペーサ4との接続部で、電界緩和シールド5の内側に入り込んだ中心導体2の端部を金属露出部7bとし、その他の部分、すなわち電界緩和シールド5に隠れていない外側の部分には、誘電体被覆膜6aを施している。但し、この外側の誘電体被覆膜6aには、実施の形態2で説明したように、ある一定の間隔で、金属露出部7aを設けても良い。
【0024】
電界緩和シールド5は、中心導体2の長手方向表面部よりも電界が高くなる構造となっているため、中心導体2に比べて絶縁破壊する可能性が高い。そこで、電界緩和シールド5の外表面部は全て誘電体被覆膜6bで覆って、ガス空間に露出させないようにし、誘電体被覆膜6の効果による高耐圧を保つようにし、かつ、もし絶縁破壊が起きた場合には、先述の図2中の放電経路8bのように、電界緩和シールド5の内側へと沿面放電が進展して、内側の金属露出部7bへ到達する形となるため、電界緩和シールド5の誘電体被覆膜6bが貫通破壊するのを防ぐことができ、複数回の絶縁破壊後も絶縁破壊耐力の低下を防ぐことができる。
【0025】
なお、絶縁支持部材は、例えば、円錐状の絶縁スペーサであってもよく、金属容器1から支柱方式で支持するポスト形スペーサであっても良い。
【0026】
以上のように、本実施の形態の発明によれば、高電圧導体と絶縁支持部材との接続部で、電界緩和シールドの内側に入り込んだ高電圧導体の端部を金属露出部としたので、中心導体部よりも高電界部になる電界緩和シールド部の外表面を誘電体被覆膜で覆って金属面をなくすことで耐圧を向上させると共に、放電が発生した場合には、金属露出部で沿面放電経路を形成して、誘電体被覆膜の貫通破壊を防ぐことができる。
【0027】
なお、実施の形態1〜3において、ガス絶縁電気機器として、密閉容器内に絶縁スペーサに支持された中心導体が収納されて構成されたものについて説明したが、これの限定するものではなく、例えば、遮断器、断路器、接地開閉器、避雷器、主母線等から構成されるガス絶縁開閉装置の各部に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態1によるガス絶縁電気機器を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1によるガス絶縁電気機器の絶縁破壊過程を説明する説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1による誘電体被覆膜の膜厚と金属露出部の隙間幅と電界強度の関係を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態2によるガス絶縁電気機器の中心導体部を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態3によるガス絶縁電気機器の電界緩和シールド部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 金属容器 2 中心導体
3 絶縁ガス 4 絶縁スペーサ
5 電界緩和シールド 6,6a,6b 誘電体被覆膜
7,7a,7b 金属露出部 8a,8b 放電経路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ガスが充填された金属容器と、この金属容器の内部に収容され所定の電圧が印加される高電圧導体と、この高電圧導体を前記金属容器に絶縁支持する絶縁支持部材と、前記高電圧導体と前記絶縁支持部材との接続部の電界を緩和する電界緩和シールドとを備えたガス絶縁電気機器において、
前記高電圧導体及び前記電界緩和シールドの金属表面に誘電体被覆膜が施され、前記高電圧導体に施された前記誘電体被覆膜の一部に前記金属表面を露出させた金属露出部が形成されていることを特徴とするガス絶縁電気機器。
【請求項2】
請求項1記載のガス絶縁電気機器において、前記金属露出部は、円筒状をした前記高電圧導体の長手方向に、少なくとも1箇所以上形成されていることを特徴とするガス絶縁電気機器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のガス絶縁電気機器において、前記金属露出部は、前記高電圧導体と前記絶縁支持部材との接続部で、前記電界緩和シールドの内側に入り込んだ前記高電圧導体の端部に形成されていることを特徴とするガス絶縁電気機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−271744(P2008−271744A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114226(P2007−114226)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】