説明

ガソリン分留、水クエンチシステム、および製品回収セクションにおける沈殿物軽減

沈殿物形成の軽減、存在する沈殿物の除去、および/または沈殿物形成の速度の減少にとって有用な溶媒または溶媒混合物を選択するための方法が開示される。沈殿物が生じ得る速度の減少および/または沈殿物が除去され得る速度の増加は、プロセス経済を劇的に改良できる(たとえば、沈殿物形成の結果としてのダウンタイムを減少させる)。一局面では、ここに開示される実施態様は、炭化水素流における汚染物の性質を判断するステップと、判断された性質に基づいて、汚染物を分散させるのに好適な溶媒または溶媒混合物を選択するステップと、汚染物を選択された溶媒または溶媒混合物と接触させるステップとを含む、炭化水素流における汚染物を分散させるためのプロセスに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一局面では、ここに開示される実施態様は、残油留分などのさまざまな炭化水素流における汚染物の結果としての沈殿物の軽減または沈殿物形成の速度の減少に関する。より特定的には、ここに開示される実施態様は、沈殿物形成の軽減、存在する沈殿物の除去、および/または沈殿物形成の速度の減少にとって有用な溶媒または溶媒混合物を選択するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低硫黄中間蒸留物に対する需要がさらに高まるにつれて、精製業者らは、減圧残油を蒸留物に変換することに強い関心を持っている。スイート原油の供給の減少、ならびに主に重質サワー原油および重質合成原油から生じる供給の増加のため、ここ数年にわたり、利用可能な最善の技術(Best Available Technology:BAT)の追求が高まってきた。
【0003】
重質原油とは一般に、粘度が高い、またはAPI比重が約23未満の原油を指す。原油、および原油の常圧または真空蒸留から生じる原油残油は、重質原油の例である。減圧残留物の伝統的な販路は高硫黄燃料油(HSFO)であるが、HSFOの需要はたいていの地域でここ10年にわたり減少しており、残留物変換プロセスにさらに拍車をかけている。
【0004】
近年興味深いある変換手法は、残油水素化処理である。残油水素化処理の際、残油は水素および水素化処理触媒を用いて改良され、より貴重な、沸点がより低い液体製品を生成する。常圧残留物脱硫(ARDS)、真空残留物脱硫(VRDS)、アップフロー反応器(UFR)、オンライン触媒置換(OCR)、およびLC−FINING(登録商標)プロセスを含む、触媒によるさまざまな残留物改良技術が、シェブロン・ラマス・グローバル(Chevron Lummus Global:CLG)から入手可能である。ISOCRACKING(登録商標)プロセスと一体化されたLC−FININGプロセスは、証明された高変換オプションを提供する。この組合されたプロセスは、金属含有量が高い残油の高変換を要する状況、およびディーゼル油の需要がガソリンの需要よりも高い状況において、特に魅力的である。
【0005】
そのような変換プロセスの動作中、汚染物が処理装置および関連する配管の上に固体の炭化水素系沈殿物を形成する恐れがあり、精製業者らにとって数々の問題を提示する。汚染物はくっつきあい、管の側面に付着し、凝集する恐れがある。何らかの製品流に一旦引き込まれると、汚染物はまた、関連する下流の装置および配管へと運ばれる。
【0006】
商業運転で通常行なわれるように、2つ以上の水素化処理プロセスが直列に接続されている場合、状況はさらにより悪化する。そのような場合、汚染物は、第1のプロセスにおいて固体成長および凝集のための核形成部位を形成するだけでなく、水素化処理された製品流とともに次のプロセスへと運ばれ、そこで追加の沈殿物が生じる場合がある。
【0007】
汚染物の沈殿物は、配管および管を塞ぎ、流れの面積を減少させることによりパイプを詰まらせ、劣化した流動様式を作り出し、装置の機能に干渉することがよく知られている。たとえば、汚染物は弁または他の装置を摩耗させ、または熱交換器表面上に断熱層を蓄積させる恐れがあり、熱を伝達する能力を低下させる。継続的な蓄積は、装置の修理、休止時間の増加、生産停止、ならびに効率および製造収率の全体的低下を要する恐れがある。
【0008】
汚染物の別の局面は、それらがはるかにより高い粘度をもたらし得る原油内のエマルジョンを促進し、油を1つの場所から別の場所にパイプラインで輸送することを困難にかつ厳しくするかもしれない、ということである。これらの影響は、重質油精製および輸送においてかなりの問題であり、利益が上がる可能性のある残油変換の報酬を追求し続ける動機を排除するほどまで生産コストを著しく増加させる場合がある。
【0009】
沈殿物の堆積および高い粘度に大きく起因する重質油においてしばしば見られる一種の汚染物は、アスファルテンである。アスファルテンは通常、低分子量パラフィン(すなわち、n−ヘプタンなど)に溶けない原油の一部として定義されており、原油中に20%を上回る量見つかっている。アスファルテンは典型的には、基本的に脂環式基と結合した縮合芳香核から形成された、茶色から黒の無定形固体である。炭素および水素に加え、複合原子構造は、窒素、酸素、および硫黄の原子も含む場合がある。粒径は0.03ミクロン〜数千ミクロンの範囲にわたる場合があり、粘着性があるとして特徴付けることができ、また凝集する場合がある。
【0010】
アスファルテンは、芳香族π−π軌道結合、水素結合、および酸と塩基との相互作用を通して集まる極性分子である。それらは、原油の他の成分によって熱力学的平衡へと安定化されるコロイド分散体の形で存在する。しかしながら、油の平衡は、生産プロセス中、もしくは圧力、温度、および相成分の変化が起こり得る任意の他の機械的または物理化学的処理中、乱される場合がある。これはアスファルテンを不安定にし、周囲への粒子の凝集および沈殿をもたらす。
【0011】
原油の生産に有益な多くのプロセスは、沈殿物の形成に有益な状態も提供するため、限られている。沈殿物形成を除去して防止するために、および重質原油の粘度を減少させるために、さまざまな方法が使用されてきた。ある方法では、沈殿物は、周囲の状態を厳しく制御することによって制御される。米国特許第4,381,987号では、アスファルテンを含有する炭化水素供給流が、触媒床の存在下で触媒反応ゾーンに流れを通過させることによって水素化処理される。触媒反応における水素化処理条件の程度を制御することにより、触媒床の閉塞を回避でき、アスファルテンが沈殿物を形成する可能性を減少させる、ということがそこに開示されている。しかしながら、反応器ゾーン外部の環境は予測可能なものではなく、ゾーン外部の同等の制御を得ることはできない。
【0012】
米国特許第5,139,088号では、油生産井の流路におけるアスファルテン析出が、比較的高い芳香族性およびモル重量を有する原油の重質留分を注入することにより阻止される、と請求されている。
【0013】
1978年3月28日に発行されたタン(Tan)らの米国特許第4,081,360号では、アスファルテンの形成を抑制するために、軽質溶媒が石炭液化留分に加えられる。
【0014】
分散剤および粘度降下剤の使用を含むさまざまな化学処理も、汚染物に影響を与えるために当該技術分野において開示されている。溶媒に分散剤を加えるアプローチがアスファルテンに影響を与えるために開示されており、米国公開第2006/0014654号によって開示されているように、この目的のためにさまざまな好適な分散剤組成が知られており、取引で入手可能である。井戸形成の連続処理またはスクイズ処理で使うために、アスファルテン析出阻害剤も開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、供給源は組成が著しく変わる場合があり、個々の分散剤および粘度降下剤は、限られた範囲でしか効果的に作用できない。油の組成のほんの小さな変化でさえ、アスファルテンについての分散特性に大きな影響を与える場合がある。また、分散剤および析出阻害剤は、アスファルテン析出を遅くする、または防止するという問題に対処しているが、沈殿物が一旦生じると、そのような阻害剤の使用は無効になる。なぜなら、沈殿物を除去するために、除去は通常、洗浄手順、こすり取る手順、または水素化処理手順を要するためである。それは通常、生産の減少または完全停止を要するため、望ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
ここに開示される実施態様は、残油留分などのさまざまな炭化水素流における汚染物の結果としての沈殿物の軽減または沈殿物形成の速度の減少に関する。より特定的には、ここに開示される実施態様は、沈殿物形成の軽減、存在する沈殿物の除去、および/または沈殿物形成の速度の減少にとって有用な溶媒または溶媒混合物を選択するための方法に関する。沈殿物が生じ得る速度の減少および/または沈殿物が除去され得る速度の増加は、プロセス経済を劇的に改良できる(たとえば、沈殿物形成の結果としての休止時間を減少させる)。
【0017】
一局面では、ここに開示される実施態様は、炭化水素流における汚染物を分散させるためのプロセスに関する。このプロセスは、炭化水素流における汚染物の性質を判断するステップと、判断された性質に基づいて、汚染物を分散させるのに好適な溶媒または溶媒混合物を選択するステップと、汚染物を選択された溶媒または溶媒混合物と接触させるステップとを含み得る。
【0018】
別の局面では、ここに開示される実施態様は、炭化水素流における汚染物の状態に影響を与えるためのプロセスであって、炭化水素流を精製プロセスに供給するステップと、炭化水素流における汚染物の性質を判断するステップと、熱力学的モデル用の入力パラメータおよび入力成分を確定するステップであって、そのモデルの結果を用いて所望の態様で汚染物に影響を与えるのに好適な炭化水素の混合物を判断された性質に基づいて選択するステップと、汚染物を選択された混合物と接触させるステップとを含む、プロセスに関する。
【0019】
他の局面および利点は、以下の説明および添付された請求項から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】アスファルテンを表わす提案された化学構造の図である。
【図2】ここに開示される実施態様に従った汚染物を分散させるためのプロセスを示す概要フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ここに開示される実施態様は、アスファルテンおよび他のアスファルテン様化合物などの汚染物を含有する炭化水素流の処理に関する。アスファルテンは通常、一定の種類の化合物群を指し、純粋な成分ではない。それらは何万もの化学種からなり、その組成は明確に定義されてはいない。加えて、それらは複雑な態様で互いに、および他の油成分と相互作用するようである。アスファルテンについて提案された数々の仮説的構造は、異なった、一貫性のないモデル化アプローチをもたらす。アスファルテンについての提案された1つの構造を、図1に示す。
【0022】
汚染物を含有する炭化水素流は、抗口縮合物、原油、重質原油、合成原油、石油原油、常圧または真空残留物、抜頭原油、常圧蒸留残油またはそれらの留分を含むさまざまな源から生じる場合がある。その源はまた、添加触媒または接触材料といった他の懸濁物質も含む場合がある。他の例では、供給源は、石炭と溶媒との混合物または石炭と石油との混合物、懸濁した石炭由来固体(たとえば灰)を含有する石炭由来液体、瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭または亜炭から由来する炭化水素系液体、シェール油、たとえば乾留シェール油から由来する炭化水素系液体、およびタールサンド、ギルソナイトなどの他の鉱物源から由来する他の炭化水素系液体を含む場合がある。源はまた、真空塔、常圧塔、または反応器沸騰床といった上流処理ステップから生じる場合があり、またはそれに代えて、源は地下層形成物から生じる場合がある。
【0023】
炭化水素流に存在する汚染物は、可溶化状態、析出状態、分散状態、懸濁状態または平衡状態を含み得るさまざまな状態で存在するものとして説明できる。その自然な状態では、たとえば、残油は分散された汚染物を含む場合がある。しかしながら、(汲み上げ、輸送、加熱、冷却、蒸留、反応、濃縮、沸騰などの)さまざまなプロセスの際、炭化水素流における汚染物の安定性は、圧力、温度、流れの化学組成、および他の要因の変化によって乱される場合がある。一旦乱されると、汚染物は、装置および関連する配管の上に沈殿物を容易に形成し得る。
【0024】
ここで開示される実施態様は概して、炭化水素流に含有される汚染物によって形成された、または形成され得る沈殿物を防止、阻止、抑制、除去、洗浄、分散、軽減、可溶化するなどのための方法に関する。ここに開示されるプロセスの使用により、配管および装置からの沈殿物の効率的な洗浄/除去、化学プロセスの動作中の沈殿物のその位置での除去、および化学プロセスの動作中の沈殿物形成の減少、のうちの1つ以上が起こり得る。ここに開示される実施態様は、前述の一貫性のないモデル化アプローチの欠点を補い、汚染物を含有する炭化水素流を効果的に処理する方法を提供する。
【0025】
より特定的には、ここに開示される実施態様は、沈殿物形成の軽減、存在する沈殿物の除去、および/または沈殿物形成の速度の減少にとって有用な溶媒または溶媒混合物を選択するための方法に関する。
【0026】
ここで図2を参照すると、ここに開示される実施態様に従った、炭化水素流における汚染物の状態に影響を与えるためのプロセスは、炭化水素流における汚染物の性質を判断するステップ(10)と、判断された性質に基づいて、汚染物を分散させるのに好適な溶媒または溶媒混合物を選択するステップ(20)と、汚染物を選択された溶媒または溶媒混合物と接触させるステップ(30)とを含み得る。
【0027】
プロセスステップ10で、汚染物の性質が判断される。ここで使用されるように、「性質」とは、沈殿物を形成する汚染物の傾向に影響を与える汚染物の特性を指す。汚染物の性質は、炭化水素原料を用いた際に形成された沈殿物の試料または炭化水素流にさまざまな試験を行なうといった分析手法を用いて判断されてもよい。そのような試験は、質量分析、ガスクロマトグラフィ、ゲル浸透クロマトグラフィ(分子量、分子量分析など)、臭化物試験、ヨウ素試験、粘度、シェル高温ろ過試験(Shell Hot Filtration Test)、金属含有量、ペンタン不溶物、ヘプタン不溶物および/またはトルエン不溶物、コンラドソン炭素残留物(Conradson Carbon Residue:CCR)、API比重、NMR分光法、元素分析(炭素、水素、硫黄、窒素、酸素などの含有量)、蒸留特性、ならびに炭化水素流の堆積物、物理的特性、または化学的特性を測定するのに有用な他の手法を含んでいてもよい。
【0028】
汚染物の特性はまた、経験的手法を用いて判断または推定されてもよい。上述の分析試験は、汚染物の付加特性を計算または推定するのに有用となる場合があり、さまざまな特性が経験的データを通して相互に関連付けられ、またはさまざまな熱力学的方程式を用いて推定され得る。推定された特性は、上述の試験についての予測値、ならびに、とりわけ溶解パラメータまたは平均溶解パラメータ、動力学的パラメータ、飽和物、芳香族化合物、樹脂、アスファルテン(SARA)バランス、仮説的構造、炭化水素流における汚染物の質量またはモル分率、活量係数、気化、溶融または昇華のエネルギ、および芳香族性といった他のものも含んでいてもよい。
【0029】
化学物質の特性はまた、温度および/または圧力とともに変わる場合がある。いくつかの実施態様では、温度または圧力の関数としての汚染物のさまざまな特性が推定されてもよい。
【0030】
ステップ(10)で汚染物の性質を判断した後、ステップ(20)で、判断された性質に基づいて、汚染物を分散させる(すなわち、溶液中で可溶化、懸濁または安定化させるなど)のに好適な溶媒混合物が選択され得る。選択された溶媒として、または溶媒混合物を形成する際に有用な成分は、脂肪族溶媒、脂環式溶媒、芳香族溶媒、ガソリン、灯油、ディーゼル燃料、航空燃料、船舶燃料、ナフサ、軽油、留出燃料、油、中質循環油(MCO)、軽質循環油(LCO)、フラックスオイル、重質循環油(HCO)、脱アスファルト化油(DAO)を含んでいてもよい。いくつかの実施態様では、溶媒または溶媒混合物は、炭化水素供給物全体の水素対炭素比と同様であるかそれよりも小さい水素対炭素比を有する二芳香族(三芳香族など)化合物を含有する炭化水素または炭化水素混合物を含んでいてもよい(炭化水素流についての全体的なH/C比は、たとえば10である)。他の実施態様では、溶媒または溶媒混合物は、汚染物の水素対炭素比と同様であるかそれよりも小さい水素対炭素比を有する二芳香族(三芳香族など)化合物を含有する炭化水素または炭化水素混合物を含んでいてもよい。いくつかの実施態様では、溶媒または溶媒混合物は、二芳香族化合物、三芳香族化合物、およびそれらの組合せのうちの1つ以上を含んでいてもよい。
【0031】
汚染物を分散させる溶媒または溶媒混合物の好適性は、とりわけ、分子量、芳香族性、脂肪族性、オレフィン性、水素対炭素比、極性、ヘテロ原子/官能基の存在、および粘度を含む、溶媒の1つ以上の化学的および物理的特性の関数であってもよい。汚染物を分散させる溶媒または溶媒混合物の好適性はまた、温度および圧力に依存していてもよい。溶媒の特性は、分析方法、経験的方法、または文献データに基づいて、測定、アップロード、適合、入力、または推定されてもよい。
【0032】
次に、1つ以上の溶媒の特性を用いて、汚染物を分散可能な溶媒または溶媒混合物を選択してもよい。溶媒混合物の特性は、たとえば、混合物に使用されている各溶媒のさまざまな質量またはモル分率の関数として推定されてもよい。
【0033】
いくつかの実施態様では、汚染物を分散させる溶媒または溶媒混合物の好適性は、溶媒と汚染物との予想される相互作用の関数であってもよい。予想される相互作用は、とりわけ、π結合、水素結合、およびファンデルワース力による引力(たとえば、芳香族性、脂肪族性、オレフィン性における類似点、ヘテロ原子および/または官能基の存在)、ミセルの形成、および十分な粘度を有する溶媒における汚染物の懸濁を含んでいてもよい。たとえば、いくつかの実施態様では、溶媒および汚染物の双方が、同様の水素対炭素比もしくは水素対炭素比の範囲を有することが有益な、または好ましい場合がある。他の実施態様では、溶媒が汚染物よりも低い水素対炭素比を有することが好ましい場合がある。
【0034】
選択するステップ(20)はこのため、汚染物の1つ以上の特性を判断するステップと、汚染物の判断された特性に基づいて、溶媒または溶媒混合物の1つ以上の所望の特性を判断するステップとを含んでいてもよい。溶媒の所望の特性は次に、所望の特性を有する溶媒または溶媒混合物を繰返し判断するために使用されてもよい。
【0035】
ステップ(20)での溶媒の選択に続き、選択された溶媒または溶媒混合物は、混合などによって形成され、汚染物または炭化水素流と接触させられてもよく(30)、プロセスの動作中に汚染物を効果的に分散させ、配管および装置から沈殿物を洗浄/除去し、化学プロセスの動作中に現場で沈殿物を除去し、および/または化学プロセスの動作中に沈殿物形成を減少させる。
【0036】
所与の化学プロセスのために、上述のステップのうちの1つ以上が定期的に繰返されてもよい。供給源は時間が経つにつれて組成が著しく変わる場合があり、組成のほんのわずかな変化でさえ、装置および配管の上に沈殿物を形成する汚染物の傾向に劇的に影響を与える場合がある。加えて、これらの組成のわずかな変化は、汚染物を効果的に分散させる選択された溶媒または溶媒混合物の好適性にも影響を与え得る。触媒失活の主な原因となる温度の上昇など、反応器についての動作条件も時間とともに変わる場合があり、そのような変化もまた、溶媒の好適性または沈殿物を形成する汚染物の傾向に影響を与え得る。したがって、選択された溶媒の定期的な調節が必要となる場合がある。同様に、汚れた装置および配管を定期的に洗浄するために選択された溶媒混合物を使用する際、選択された溶媒混合物を現在洗浄中の汚染物沈殿物に整合させるために、上述のステップのうちの1つ以上が繰返されてもよい。
【0037】
上述のように、供給源は、時間が経つにつれて組成が著しく変わる場合がある。ここに開示される実施態様に従ってパイプまたは他の汚れた装置を洗浄する際、洗浄すべき沈殿物がさまざまな原料から生じている場合がある。そのような場合、ある供給物からの汚染物を除去するのに有用な溶媒が、第2の供給物からの汚染物を除去するには有用ではない場合がある。そのような場合、過去の実績または工学的判断が十分ではないかもしれず、一方、ここに開示される実施態様に従った汚染物の性質の判断および溶媒混合物の選択によって、蓄積された沈殿物の効率的な除去が可能となり得る。
【0038】
所与の化学プロセスの動作時、過去の動作経験に基づいて認識され得るような、汚染の高い傾向が起こり得るようなプロセスの一部分でのみ、選択された溶媒混合物を炭化水素流と接触させることが望まれる場合がある。そのような場合、プロセスのその部分の上流で、選択された溶媒混合物を炭化水素流と接触させてもよい。たとえば、汚染物を分散されたままに保つために、熱交換器、蒸発または蒸留塔、反応器などの上流で選択された溶媒混合物を供給してもよく、次に、再利用および再使用のために、選択された溶媒混合物を炭化水素流から蒸発させ、または他の態様で分離してもよい。
【0039】
汚染物を選択された混合物と接触させることは、汚染物が選択された混合物と相互作用するようにするあらゆる態様で行なわれ得る。一実施態様では、選択された混合物を、汚染物を有する表面を通って、越えて、上に、または横切って流すことにより、選択された混合物を汚染物と接触させることが可能である。追加の一実施態様では、汚れた装置を通るように混合物を流すことによって、選択された混合物を汚染物と接触させることも可能であり、その汚れた装置(5)には、ポンプ、フィルタ、分離器、熱交換器、または貯蔵タンクといった、精製プロセス内で使用されるあらゆる装置を含まれ得る。
【0040】
たとえば、パイプ表面に沈殿した汚染物と接触させるために、選択された混合物を配管網を通してポンプで流すことが可能である。別の例として、汚染物が既に沈殿物として存在し得る熱交換器の管に、選択された混合物を通過させることが可能である。代替的な一実施態様では、選択された混合物は、流体内で見つかった汚染物と接触可能である。たとえば、流体は原油であってもよく、選択された混合物は、汚染物と接触できるように原油に加えられてもよい。
【0041】
炭化水素の選択された混合物は、単一の成分または複数の成分であってもよく、どの相であってもよい。一実施態様では、混合物は、非水性流体、水性流体、またはそれらの組合せを含み得る流体混合物であってもよい。別の実施態様では、選択された混合物は、ポリシクロ芳香族ヘテロ環で作られた溶媒を含んでいてもよい。さらに別の実施態様では、選択された混合物は極性溶媒を含んでいてもよく、その極性溶媒は、芳香族溶媒、酸素化溶媒、塩素化溶媒、またはそれらの混合物であってもよい。さらに別の実施態様では、選択された混合物は、少なくとも脂肪族溶媒、芳香族溶媒、またはそれらの組合せを含んでいてもよい。さらに別の実施態様では、選択された混合物はまた、粘度降下剤成分、極性溶媒成分、分散剤成分、またはそれらの組合せのうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0042】
所与の炭化水素流における汚染物のさまざまな特性に起因して、単一の溶媒では汚染物を効果的に分散させるのに好適ではない場合がある。いくつかの実施態様では、選択された混合物は相乗的であり、その混合物は、単独では、選択的に混合された場合における程度まで、所望の態様で汚染物の状態に影響を与えない少なくとも2つの成分を含む。同様の溶媒がこれまである程度有用であると示されてきたかもしれないが、ここに開示される実施態様に従って溶媒混合物を選択することは、単一の溶媒の先の使用に基づいて予想されるものよりも多い量の汚染物に影響を与えるのに有用であり得る。
【0043】
ここに開示される実施態様に従った溶媒または溶媒混合物の選択は、固定床水素化処理器、スラリー床水素化処理器、懸濁床水素化処理器、ハイドロビスブレーキング、沸騰床水素化処理器などを含む、さまざまな精製もしくは水素化処理プロセス、またはその一部にとって有用であり得る。そのようなプロセスは、ガソリン留分セクション、クエンチシステム(水性またはその他)、製品回収セクション、エチレンユニット、水素化分解プロセス、LC−FINING(登録商標)プロセス、触媒による残留物改良プロセス、分留装置、常圧塔、真空塔、さまざまな反応器列(reactor trains)、付随する配管、付随する回路、またはそれらの組合せを含む分留システムを含んでいてもよい。
【0044】
上述のように、測定および/または相互に関連付けられた汚染物の特性を用いて、汚染物を分散させるのに好適な溶媒または溶媒混合物を選択する。選択プロセスを促進する際、さまざまなシミュレーションプログラムが有用であり得る。これらのプログラムは、専用のもの、または、とりわけASPEN、PRO/II、およびHYSISといった商業的に入手可能なものであってもよい。そのようなシミュレーションプログラムを用いて、さまざまな化学物質/成分のさまざまな物理的および化学的特性が提供され得る。そのようなプログラムはまた、上述のような汚染物の性質の判断および溶媒または溶媒混合物の選択を容易にするために、さまざまなパラメータの手動入力、変更、またはプログラミングを可能にし得る。
【0045】
ここに開示される実施態様に従った汚染物を分散させるための方法の一例として、アスファルテンを含有する炭化水素流が長期にわたって処理され、沈殿物の形成が生じる。沈殿物の性質が判断されて、汚染物が、約1.5の水素対炭素原子比、約700amu〜約1100amuの範囲の分子量を有し、推定および判断された他の特性の中でも、芳香族成分と脂環式成分との混合物を含有する、ということが示される。所望の溶媒特性は、同様の水素対炭素原子比、および同様の芳香族成分と脂肪族成分との混合物を含んでいてもよい。いくつかの実施態様では、選択された溶媒混合物は、汚染物を含有する炭化水素供給物と比べて低いH/C原子比、または汚染物自体よりもさらに低いH/C原子比を有していてもよい。選択された溶媒混合物は、H/C原子比が約1.1〜約1.2の中質循環油と、H/C比が約1.7の脱アスファルト化油と、H/C比が約1.9の水素化処理ディーゼル油との混合物を含んでいてもよい。選択された溶媒混合物は、混合物が芳香族成分および脂環式成分を、汚染物の比と同様の比で、汚染物の比と同様のH/C比で、および汚染物のものと同様の溶解パラメータで含有するよう、混合される。選択された溶媒混合物はこのため、どの個々の溶媒と比較しても、汚染物の処理に対して相乗的である。沈殿物/汚染物を選択された混合物と接触させることは、効率的な汚染物の分散および装置からの除去をもたらす。
【0046】
ここに開示される実施態様に従った最も好適な混合物の選択は、プロセス効率の改良、有効性、および経済的動機の増加を提供する。有利には、汚染物を適正に選択された混合物と接触させることは、より効果的かつ経済的な態様で汚染を減少させ、除去するという利点を提供する。流動形式を改良することによって、または流体粘度を減少させることによって圧力降下が減少すると、流体を運ぶのに必要なエネルギが少なくなり、エネルギコストの減少をもたらす。また、熱伝達表面から汚染物を除去することにより、表面は、もともとの設計基準により近く機能してより大きい熱伝達を提供するようになり、エネルギコストのさらなる減少をもたらす。
【0047】
望ましくは、処理された流れは、弁、出口オリフィス、ポンプ、熱交換器、および他の関連装置を通って、効率的にかつ安全にパイプラインで輸送される。全体的な利点は、容量の増加、装置寿命の増加、および装置運転時間の増加を含む。開示された発明はまた、原油以外の他の流体における汚染物に影響を与えるものとして有用性を有する混合物を選択する能力を有利に含んでいてもよい。
【0048】
同様に有利には、変換プロセスで汚染物が適正に影響を受けると、動作温度が増加し、そのため、その後に汚染物の沈殿が増加することなく、より大きい変換が達成される。累積的に、コストの減少および変換の増加は、より高い生産性およびより高い利益に相当する。
【0049】
特定の実施態様を参照してこの発明を詳細に説明してきたが、実施態様は発明を例示するよう意図されており、それを限定するよう提供されてはいない。説明された実施態様に対する追加の修正、およびさらなる変更は当業者には容易に明らかであり、そのようなさらなる実施態様は、請求項に述べるようなこの発明の精神および範囲から逸脱することなく実現される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素流における汚染物を分散させるためのプロセスであって、前記プロセスは、
炭化水素流における汚染物の性質を判断するステップと、
判断された性質に基づいて、汚染物を分散させるのに好適な溶媒または溶媒混合物を選択するステップと、
汚染物を選択された溶媒または溶媒混合物と接触させるステップとを含む、プロセス。
【請求項2】
前記の汚染物の性質を判断するステップは、
混合物を選択するために使用されるモデル用の少なくとも1つの入力パラメータを確定するために、炭化水素供給流を処理した結果形成された沈殿物を分析するステップ、および、
混合物を選択するために使用される熱力学的モデル用の少なくとも1つの入力パラメータを確定するために、炭化水素流を分析するステップ、
のうちの少なくとも1つを含み、
前記の少なくとも1つの入力パラメータは、
汚染物の平均分子量、
API比重、
汚染物の堆積物測定値、
汚染物の水素対炭素原子比、
炭化水素流における汚染物の濃度、
供給流における堆積物濃度(汚染物の最大含有量を予測するために使用されるシェル高温度ろ過試験予測値)、
のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
判断された性質に基づいて、汚染物の少なくとも1つの特性を推定するステップをさらに含み、
前記の少なくとも1つの特性は、
汚染物の平均分子量、
汚染物の分子量分布、
汚染物の溶解パラメータ、
汚染物の堆積物計算値、
汚染物の芳香族性、
汚染物のオレフィン性、
のうちの少なくとも1つを含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記の選択するステップは、
少なくとも1つの入力特性、少なくとも1つの推定された特性、およびプロセス条件のうちの少なくとも1つに基づいて、汚染物の熱力学的特性を判断するステップ、
判断された熱力学的特性に基づいて、溶媒混合物の所望の熱力学的特性を判断するステップ、
1つ以上の判断された入力特性および1つ以上の推定された特性のうちの少なくとも1つに基づいて、1つ以上の溶媒の熱力学的特性を計算するステップ、
所望の熱力学的特性を有する溶媒または溶媒混合物を繰返し判断するステップ、
のうちの少なくとも1つを含む、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
ステップをさらに含む、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
溶媒混合物は、脂肪族溶媒、芳香族溶媒、ディーゼル油、中質循環油(MCO)、軽質循環油(LCO)、フラックスオイル、脱アスファルト化油(DAO)、および重質循環油(HCO)のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
溶媒混合物は、脂肪族溶媒、脂環式溶媒、芳香族溶媒、ディーゼル油、中質循環油(MCO)、軽質循環油(LCO)、フラックスオイル、脱アスファルト化油(DAO)、および重質循環油(HCO)のうちの少なくとも2つを含み、混合物の選択された成分は汚染物を分散させるために相乗的である、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
溶媒混合物は、汚染物の水素対炭素比よりも低い水素対炭素比を有する二芳香族化合物を含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
溶媒混合物は、炭化水素流の水素対炭素比よりも低い水素対炭素比を有する二芳香族化合物を含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項10】
溶媒混合物は、二芳香族化合物、三芳香族化合物、およびそれらの組合せのうちの1つ以上を含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項11】
前記の接触させるステップは、
選択された混合物を形成するために、2つ以上の溶媒を混合するステップ、
汚染物によって形成された沈殿物を含有する装置に選択された混合物を供給し、それにより汚染物の少なくとも一部を選択された混合物へと分散させ、沈殿物のサイズを減少させるステップ、および
選択された混合物を炭化水素流と混合し、それにより炭化水素流を処理する際の沈殿物形成の速度を減少させるステップ、
のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
接触させるステップによって結果的に生じる混合物からの炭化水素流および汚染物のうちの少なくとも1つから、選択された混合物を分離するステップ、および
選択された混合物の少なくとも一部を、接触させるステップに再利用するステップ、
のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
炭化水素流における汚染物の状態に影響を与えるためのプロセスであって、
a.炭化水素流を精製プロセスに供給するステップと、
b.炭化水素流における汚染物の性質を判断するステップと、
c.熱力学的モデル用の入力パラメータおよび入力成分を確定するステップであって、そのモデルの結果を用いて所望の態様で汚染物に影響を与えるのに好適な炭化水素の混合物を判断された性質に基づいて選択するステップと、
d.汚染物を選択された混合物と接触させるステップとを含む、プロセス。
【請求項14】
選択された混合物の水素対炭素比は、約1:1〜約2:1の範囲にある、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
選択された混合物の水素対炭素比は、汚染物の水素対炭素比よりも低い、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
選択された混合物の水素対炭素比は、炭化水素流の水素対炭素比よりも低い、請求項14に記載のプロセス。
【請求項17】
前記の接触させるステップは、ガソリン分留セクション、水クエンチシステム、製品回収セクション、エチレン生産ユニット、水素化分解プロセス、水素化処理プロセス、触媒による残留物改良セクション、水素化処理器、分留装置、常圧塔、真空塔、反応器列、熱交換器、それらの付随する配管、およびそれらの組合せのうちの少なくとも1つを含む精製プロセスで起こる、請求項13に記載のプロセス。
【請求項18】
前記の接触させるプロセスは、精製プロセスの動作中の汚染物の沈殿を軽減する、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
前記の接触させるステップは、精製プロセスにおける装置および配管のうちの少なくとも1つから、沈殿した汚染物の少なくとも一部を除去する、請求項17に記載のプロセス。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−505338(P2013−505338A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529989(P2012−529989)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【国際出願番号】PCT/US2011/030505
【国際公開番号】WO2011/126880
【国際公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(508055995)ルマス テクノロジー インコーポレイテッド (10)
【氏名又は名称原語表記】LUMMUS TECHNOLOGY INC.
【Fターム(参考)】