説明

ガラス光学素子およびガラス光学素子の製造方法

【課題】高い機械的強度と高い気密性を有するガラス光学素子等を提供する。
【解決手段】環状の枠体11と、枠体11内にてガラス素子母材を加熱軟化させモールド成形されるガラス素子15と、枠体11の内周に接して設けられ、ガラス素子15の軟化温度において融解する接着層12とを備えたガラス光学素子であり、接着層12は、厚さが1μm以下のAl、Zn、Al−Zn合金のいずれか1つであり、スパッタ法により形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス光学素子等に係り、特に、モールド成形により製造される枠体付きレンズからなるガラス光学素子等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばデジタルカメラや携帯電話機、医療用機器、光通信機器、DVDのピックアップヘッドなど、光学素子を用いた各種デバイスにて、その小型化が急速に進んでいる。これらのデバイスに用いられる光学素子としては、高屈折率、低複屈折、低色収差および耐高温性の観点から、ガラスレンズが広く用いられている。また、このガラスレンズの表面を非球面とすることで、単一のレンズで収差を無くすこともでき、デバイスの軽量化が可能である。
【0003】
この非球面ガラスレンズの製造方法には、従来の研磨方法では加工精度および量産性に劣ることから、ガラスモールド方法が用いられる。このガラスモールド方法は、プリフォーム(ガラス光学素子)を加熱軟化させ、所望の精度に仕上げられた非球面成形表面を有する金型でプレスすることで、金型の形状をプリフォームに転写する成形法である。
そして、その取付けに際して高い精度と気密性、並びに強度が要求されるため、環状の枠体の内側にレンズ素材を配置して加熱により軟化させ、軟化したレンズ素材を金型によりプレス成形することによりレンズを成形し、レンズを枠体に圧着させて一体化する製造方法が考えられている。しかしながらこの製造方法では、レンズを枠体に安定して固着させることが困難である。
【0004】
公報記載の従来技術では、これを解決する方法として、レンズホルダの内側にレンズ素材を固着し、その後加熱によりレンズ素材を軟化させ、軟化したレンズ素材を加圧成形することによりレンズを成形する製造方法が示されている(例えば、特許文献1参照。)。レンズホルダの内側に予めレンズ素材を固着させることにより、レンズをレンズホルダ内面に安定して成形しようとするものである。
【0005】
【特許文献1】特公平1−29129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レンズ素材を予めレンズホルダの内面に接着により固着するなどの作業は非常に猥雑である。
また光学素子には用途によって様々なレンズ素材が用いられ、それらのレンズ素材の軟化温度は高範囲に及ぶ。そのため、成形時の温度も様々であり、例えばある種のガラスレンズ成形では600℃程度の高い温度での成形も要求される。そこでレンズを枠体に固着する方法も、広い成形温度範囲で有効に機能することが求められる。しかし、上記のような方法では、成形温度によっては、接着の強度と気密性が不十分になるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、高い機械的強度と高い気密性を有するガラス光学素子を提供することを目的とする。
また本発明の他の目的は、高い機械的強度と高い気密性を有するガラス光学素子を、広い成形温度範囲で簡便かつ安定して製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的のもと、本発明のガラス光学素子は、環状の枠体と、枠体内にてガラス素子母材を加熱軟化させモールド成形されるガラス素子と、枠体の内周に接して設けられ、ガラス素子の軟化温度において融解する接着層とを備えたことを特徴とする。
【0009】
ここで、接着層は、金属または合金からなることが好ましく、金属は、AlまたはZnであり、合金は、Al−Zn合金であることが更に好ましい。
また、接着層は、厚さが1μm以下であることが好ましく、接着層は、スパッタ法により形成されることが更に好ましい。
【0010】
また、本発明のガラス光学素子の製造方法は、環状の枠体と枠体の内部にガラス素子が備えられるガラス光学素子の製造方法であって、ガラスモールド用の上型と下型との付き合わせ面の周囲にガラス素子の軟化温度において融解する接着層が内周に接して備えられた枠体を配置し、上型と下型との間にガラス素子母材を配置し、ガラス素子母材を加熱軟化させ、上型と下型とによりプレスし、ガラス素子の縁を接着層を介して枠体に接着させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、本構成を採用しない場合に比較して、高い機械的強度と高い気密性を有する枠体付きレンズ等を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本実施の形態が適用されるガラス光学素子10の全体構成を示した斜視図であり、図2は図1のA−A断面図である。このガラス光学素子10は、環状に形成される枠体11と、この枠体11の内側にて、枠体11の内周に接して設けられる接着層12とを備えている。そして、接着層12の内側には、ガラス素子母材を加熱軟化させモールド成形されるガラス素子(レンズ)15を備えている。
【0013】
枠体11は、ガラス素子15の材料より線膨張係数が同等か大きい材料であることが好ましい。例えば、ステンレスやコバール等が挙げられる。枠体11の線膨張係数がガラス素子15の線膨張係数に比べて大きいと、モールド成形によりガラス光学素子10を製造する工程中で、冷却時に枠体11がガラス素子15よりも大きく収縮する。その結果、枠体11が接着層12を通してガラス素子15を締め付け、枠体11とガラス素子15との保持力(取付け強度)を高めることができる。
【0014】
接着層12は、詳しくは後述するが、ガラス素子15と枠体11とを強固に接着させることにより、ガラス素子15と枠体11との間に高い気密性を生じさせるものである。そしてこれと共にガラス素子15と枠体11との間に高い機械的強度を付与するものである。
【0015】
ガラス素子15は、例えば、シリカを主成分とし、例えば、アルミナ、ナトリウム、フッ化ランタン等が添加された低融点ガラスにより構成される。ガラス素子15は、例えば、軟化温度が約600℃以下の低融点ガラスで構成されても、軟化温度が約400℃以下の超低融点ガラスで構成されてもよい。
【0016】
次に、接着層12について、更に詳しく説明する。
図3は、ガラス素子15を形成する前の接着層12が設けられた枠体11を示した概略図である。
接着層12は、前述の通り枠体11の内周に接して設けられる。材料としては、金属または合金であることが好ましく、Al、Zn、またはこれらの合金(Al−Zn合金)であることが更に好ましい。即ち、Alは融点が約660℃であり、Znは融点が約420℃であることから、AlとZnの組成比を調整することによって、融点を約420℃から約660℃までの広い温度範囲で設定することができる。このためガラス素子15を成形する際に様々な成形温度に対応することができる。例えばガラス素子15の軟化温度が600℃程度であれば、接着層12の融点も約600℃となるように、Al80%−Zn20%(at%)の組成とした合金を使用することができる。
なお接着層12の融点は、ガラス素子15の成形温度と同じか、または少し低く設定するのが好ましい。接着層12の融点が成形温度より過度に高いと接着層12が融解せず、ガラス素子15と枠体11との接着が十分行われない可能性がある。また、接着層12の融点が成形温度より過度に低いとガラス素子15の成形前に接着層12が融解して液体となり枠体11から脱落するおそれがある。
【0017】
接着層12を形成する方法としては、スパッタ法が適している。スパッタ法では、ターゲットの原子をArイオンで物理的に叩き出して膜を形成するので、どのような組成比のAl−Zn膜でも形成可能である。したがって成形に用いるガラス素子15の軟化温度にあわせて、接着層12の融点を高範囲で精度良く調整できる。組成の調整は、AlターゲットとZnターゲットを使用した同時コスパッタ法や、Al−Znの合金ターゲットを使用してスパッタする方法などにより行える。
【0018】
なお接着層12としては、上述のものに限られるわけではなく、ガラス素子15の軟化温度において融解するものであれば、他の金属や合金でもよく、またはガラス材のような金属、合金以外の材料により形成してもよい。ここで他の金属や合金を用いるときの接着層12の形成法としては、上述したスパッタ法が有効である。スパッタ法であれば、ほとんどの金属膜や合金膜を、望みの組成に制御しながら形成することが可能である。
【0019】
接着層12は枠体11の内周面の全面に形成してもよいし、枠体11のうちガラス素子15の外端部と接着される部分だけに形成してもよい。ガラス素子15の外端部と接着される部分だけに接着層12を形成したい場合には、接着層12の形成時に、ガラス素子15と接着される部分以外の枠体11の内周面に防着マスクを装着することによって接着層12の形成を防止できる。
また、接着層12の厚さは、1μm以下であることが好ましい。この範囲を超えるとガラス光学素子10に要求される位置合わせ精度を確保できないおそれがある。
【0020】
次に、ガラス光学素子10を製造する装置およびガラス光学素子10の製造方法について説明する。
図4は、ガラス光学素子10をモールド成形により製造するガラス素子成形装置100を示す構成図である。
ガラス素子成形装置100は、ガラス素子15をモールド成形する下金型(下型)110及び上金型(上型)112と、下金型110及び上金型112を所定の温度に維持する下均熱プレート114及び上均熱プレート116と、下金型110及び上金型112を昇温する下加熱ヒーター118及び上加熱ヒーター120とを有して構成される。また、ガラス素子成形装置100は、上金型112を可動させる加圧シリンダー124と、ガラスレンズの成形環境を制御する窒素導入口126及び窒素排気口128と、下金型110及び上金型112等を収容するガラスレンズ成形器130と、上金型112の動作を規制するスリーブ132とを有して構成される。
【0021】
下金型110と上金型112とが、載置され軟化されたガラス素子母材15aをモールドプレス法により成形してガラス素子15とし、ガラス光学素子10を製作する。下金型110、上金型112は、WC、SiCなどの耐熱性に優れた材料から構成される。また、下金型110、上金型112とガラス素子母材15aとが接触する面には、離型性を確保するために、白金、イリジウム、パラジウム等の貴金属またはその合金や、DLC(Diamond like Carbon)などからなる離型膜111、113がそれぞれ成膜されている。
【0022】
下均熱プレート114と上均熱プレート116は、それぞれ下加熱ヒーター118と上加熱ヒーター120に搭載される。下均熱プレート114と上均熱プレート116は、サーマルバッファ(熱的緩衝体)の役割を果たし、下加熱ヒーター118と上加熱ヒーター120から受ける熱を、ガラスレンズの製作に支障がない程度に均一な状態にして下金型110と上金型112とに伝える。図示しない制御手段は、下金型110の表面と上金型112の表面とがモールド成形に適した温度になるように、下加熱ヒーター118と上加熱ヒーター120とを制御する。
【0023】
加圧シリンダー124は、上加熱ヒーター120及び上均熱プレート116に固定された上金型112を上下動させる駆動系である。図示しない制御手段により動作が制御される。
また、窒素導入口126及び窒素排気口128は、成形時の金型の雰囲気を窒素として、高温下での酸化を防止している。
【0024】
以上の構成を有するガラス素子成形装置100がガラス素子母材15aをモールド成形してガラス素子15とし、ガラス光学素子10を製造する製造工程を以下に説明する。
まず、図3に示した接着層12が内周に形成された枠体11をガラス素子成形装置100の下金型110と上金型112との付き合わせ面の周囲に配置する。そして、離型膜111が形成された下金型110と離型膜113が形成された上金型112との間にガラス素子母材15aを投入し、ガラス素子母材15aをガラス素子成形装置100に配置する。
【0025】
次に、図示しない排気ポンプ及び処理ガス導入ポンプを使って、窒素導入口126から窒素を導入し、ガラス素子成形装置100内部の空気を窒素ガスに置換する。そして、下加熱ヒーター118及び上加熱ヒーター120を昇温し、窒素雰囲気下でガラス素子母材15aを軟化温度まで昇温してガラス素子母材15aを軟化させる。
なおここで、スリーブ132は、接着層12の融点よりもやや低い温度に保つことが好ましい。これは、枠体11の内周に形成された接着層12がモールド成形前に融けだすことを防止するためである。
そして、ガラス素子母材15aが十分に加熱された後に、加圧シリンダー124により上金型112を可動させ、下金型110と上金型112とによりプレスしてガラス素子母材15aをモールド成形する。
【0026】
図5は、モールド成形時のガラス素子母材15aの状態を示した図である。
ガラス素子母材15aは、プレスの際に下金型110及び上金型112により加えられる圧力により外側に広がり、離型膜111、113を介し、下金型110と上金型112との間にできる空隙に収容される。この際に、ガラス素子母材15aは枠体11の内周面に設けられた接着層12まで達する。そして軟化温度まで加熱されたガラス素子母材15aの熱によって、接着層12が融解して軟化し、ガラス素子母材15aの外周端部と枠体11との間で表面張力の作用により全周にわたって均一に広がる。こうしてガラス素子母材15aが加圧成形された後に、図示しない冷却機構によって、下金型110、上金型112、スリーブ132が冷却され、それに伴い成形されたガラス素子母材15aと枠体11が冷却される。そしてこの冷却中に接着層12は固化する。その後、上金型112の圧力を開放し、例えば常温まで冷却して、ガラス光学素子10を取り出す。固化した接着層12は、ガラス素子15の縁が枠体11と強固に接着する。このようにして、ガラス素子15と枠体11との接着部に高い機械的強度と気密性が確保されたガラス光学素子10を広い成形温度範囲で簡便かつ安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施の形態が適用されるガラス光学素子の全体構成を示した斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】ガラス素子を形成する前の接着層が設けられた枠体を示した概略図である。
【図4】ガラス光学素子をモールド成形により製造するガラス素子成形装置を示す構成図である。
【図5】モールド成形時のガラス素子母材の状態を示した図である。
【符号の説明】
【0028】
10…ガラス光学素子、11…枠体、12…接着層、15…ガラス素子、15a…ガラス素子母材、100…ガラス素子成形装置、110…下金型、112…上金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の枠体と、
前記枠体内にてガラス素子母材を加熱軟化させモールド成形されるガラス素子と、
前記枠体の内周に接して設けられ、前記ガラス素子の軟化温度において融解する接着層と
を備えたことを特徴とするガラス光学素子。
【請求項2】
前記接着層は、金属または合金からなること
を特徴とする請求項1に記載のガラス光学素子。
【請求項3】
前記金属は、AlまたはZnであり、前記合金は、Al−Zn合金であること
を特徴とする請求項2に記載のガラス光学素子。
【請求項4】
前記接着層は、厚さが1μm以下であること
を特徴とする請求項1に記載のガラス光学素子。
【請求項5】
前記接着層は、スパッタ法により形成されること
を特徴とする請求項1に記載のガラス光学素子。
【請求項6】
環状の枠体と当該枠体の内部にガラス素子が備えられるガラス光学素子の製造方法であって、
ガラスモールド用の上型と下型との付き合わせ面の周囲に前記ガラス素子の軟化温度において融解する接着層が内周に接して備えられた前記枠体を配置し、
前記上型と前記下型との間にガラス素子母材を配置し、
前記ガラス素子母材を加熱軟化させ、前記上型と前記下型とによりプレスし、前記ガラス素子の縁を前記接着層を介して前記枠体に接着させる
ことを特徴とするガラス光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−63816(P2009−63816A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231363(P2007−231363)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)