説明

ガラス光学素子の製造方法

【課題】ガラス光学素子の製造方法において、ガラス光学素子を高精度に製造する。
【解決手段】ガラス光学素子の製造方法は、ガラス素材を加熱する加熱工程と、加熱された上記ガラス素材を第1の成形型及び第2の成形型により加圧する加圧工程と、上記ガラス素材を上記第1の成形型及び上記第2の成形型により加圧した状態で冷却する冷却工程と、を含み、上記冷却工程の少なくとも一部は、上記第1の成形型及び上記第2の成形型によりガラス素材を加圧する圧力を加圧側(C11,C12,C13)及び減圧側(T11,T12,T13)のうち一方へ変化させた後に連続的に他方へ変化させる圧力変動を1セット以上行う離型促進工程からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス素材に加熱、加圧及び冷却を行うことによりガラス光学素子を製造するガラス光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス素材に加熱、加圧及び冷却を行うことによりガラス光学素子を製造するガラス光学素子の製造方法が用いられている(例えば、特許文献1〜6参照)。
【0003】
特許文献1及び2には、冷却工程中に再加圧を行う技術が記載されている。
特許文献3には、ガラス素材の温度がガラス転移点以下に降下した後に引張り荷重(負圧)をかけてガラス素材を強制離型させ、その後荷重なしで所定温度まで加熱し、加熱後再度加圧プレスし、所定量プレス後に荷重ゼロのまま冷却し、離型させる技術が記載されている。
【0004】
特許文献4には、ガラス素材の温度がガラス転移点以下に降下した後に引張り荷重を付与しつつ上下の型温に差を設けて冷却し、レンズの反り力を発生させて、離型性を向上させる技術が記載されている。
【0005】
特許文献5には、冷却工程中にガラス素材に回転荷重を付与して強制離型させる技術が記載されている。
特許文献6には、加圧工程中にガラス素材の押圧と開放とを繰り返す技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3241202号公報
【特許文献2】特許第3825978号公報
【特許文献3】特開平9−278454号公報
【特許文献4】特許第3939157号公報
【特許文献5】特開2002−338272号公報
【特許文献6】特開平8−301624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜6の技術のようにガラス素材を成形型から離型させると、成形型とガラス素材とが強い密着状態のときにガラス素材が離型するという理由で、ガラス光学素子にクラック、割れ等の不具合が発生しやすいという問題や、ガラス光学素子の面精度が悪化するという問題が生じる。
【0008】
本発明の目的は、ガラス光学素子を高精度に製造することができるガラス光学素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のガラス光学素子の製造方法は、ガラス素材を加熱する加熱工程と、加熱された上記ガラス素材を第1の成形型及び第2の成形型により加圧する加圧工程と、上記ガラス素材を上記第1の成形型及び上記第2の成形型により加圧した状態で冷却する冷却工程と、を含み、上記冷却工程の少なくとも一部は、上記第1の成形型及び上記第2の成形型により上記ガラス素材を加圧する圧力を加圧側及び減圧側のうち一方へ変化させた後に連続的に他方へ変化させる圧力変動を1セット以上行う離型促進工程からなる。
【0010】
また、上記ガラス光学素子の製造方法において、上記圧力変動は、連続して行われるようにしてもよい。
【0011】
また、上記ガラス光学素子の製造方法において、上記離型促進工程では、上記ガラス素材が上記第1の成形型及び上記第2の成形型のうち少なくとも一方から離型するまで、上記圧力変動を行うようにしてもよい。
【0012】
また、上記ガラス光学素子の製造方法において、上記離型促進工程では、上記ガラス素材を加圧する上記圧力を、まず加圧側へ変化させた後に減圧側へ変化させる、ようにしてもよい。
【0013】
また、上記ガラス光学素子の製造方法において、上記離型促進工程では、上記ガラス素材を加圧する上記圧力を、まず減圧側へ変化させた後に加圧側へ変化させるようにしてもよい。
【0014】
また、上記ガラス光学素子の製造方法において、上記離型促進工程の上記圧力変動を、上記冷却工程で上記ガラス素材の冷却を開始するのと同時に開始するようにしてもよい。
また、上記ガラス光学素子の製造方法において、上記離型促進工程の上記圧力変動を、上記冷却工程で上記ガラス素材の温度が軟化点になったとき以降から開始するようにしてもよい。
【0015】
また、上記ガラス光学素子の製造方法において、上記圧力変動の開始は、上記ガラス素材の温度がガラス転移点になる前であるようにしてもよい。
【0016】
また、上記ガラス光学素子の製造方法において、上記離型促進工程では、上記ガラス素材を加圧する上記圧力を減圧側へ変化させた後に加圧側へ変化させる圧力変動を2セット以上行い、2セット以上の上記圧力変動における減圧側から加圧側への上記圧力の変化量を、上記セットごとに変動させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガラス光学素子を高精度に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】本発明の一実施の形態に係る光学素子の製造方法の加熱工程における光学素子の製造装置を示す部分断面図である。
【図1B】本発明の一実施の形態に係る光学素子の製造方法の加圧工程における光学素子の製造装置を示す部分断面図である。
【図1C】本発明の一実施の形態に係る光学素子の製造方法の冷却工程・離型促進工程における光学素子の製造装置を示す部分断面図である。
【図1D】本発明の一実施の形態に係る光学素子の製造方法の離型工程における光学素子の製造装置を示す部分断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態の第1実施例に係る荷重と温度との関係図である。
【図3】本発明の一実施の形態の第2実施例に係る荷重と温度との関係図である。
【図4】本発明の一実施の形態の第3実施例に係る荷重と温度との関係図である。
【図5】本発明の一実施の形態の第4実施例に係る荷重と温度との関係図である。
【図6】本発明の一実施の形態におけるガラス光学素子の離型状態を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係るガラス光学素子の製造方法について、図面を参照しながら説明する。
図1A〜図1Dは、本発明の一実施の形態に係るガラス光学素子の製造方法の加熱工程,加圧工程,冷却工程・離型促進工程,離型工程におけるガラス光学素子の製造装置1を示す部分断面図である。
【0020】
ガラス光学素子の製造装置1は、第1の成形型の一例である上型2と、第2の成形型の一例である下型3と、スリーブ4と、上型保持部5と、下型保持部6と、上超硬プレート7と、下超硬プレート8と、上ヒータプレート(加熱部,冷却部)9と、下ヒータプレート(加熱部,冷却部)10と、上断熱プレート11と、下断熱プレート12と、上冷却プレート13と、下冷却プレート14と、型駆動部の一例であるサーボモータ(加圧部)15と、ロッド16と、成形室17と、を備える。
【0021】
上型2と下型3とは、ガラス素材100を挟んで対向して配置されている。
上型2の下端中央には、ガラス素材100に凹形状を転写する凸形状の成形面2aが形成されている。上型2は、上端にフランジ部2bが形成された円柱形状を呈する。
【0022】
下型3の上端中央には、ガラス素材100に凹形状を転写する凸形状の成形面3aが形成されている。下型3は、下端にフランジ部3bが形成された円柱形状を呈する。
スリーブ4は、上型2及び下型3の外周に配置され、上型2と下型3との中心位置を一致させる。スリーブ4は、円筒形状を呈し、本実施の形態では例えば上型2に固定されている。
【0023】
上型保持部5は、上超硬プレート7に固定され、上型2をフランジ部2bにおいて保持することで上型2の上面と上超硬プレート7の底面とを面接触させている。
下型保持部6は、下超硬プレート8に固定され、下型3をフランジ部3bにおいて保持することで下型3の底面と下超硬プレート8の上面とを面接触させている。
【0024】
上ヒータプレート9及び下ヒータプレート10には、それぞれ例えば4本のヒータ9a,10aが挿入されている。
上断熱プレート11は、上ヒータプレート9の上部に固定され、この上ヒータプレート9の熱が上方に伝達するのを防ぐ。
【0025】
下断熱プレート12は、下ヒータプレート10の下部に固定され、この下ヒータプレート10の熱が下方に伝達するのを防ぐ。
上冷却プレート13には、水等の冷媒が配置され、上断熱プレート11が断熱しきれなかった熱を冷却する。
【0026】
下冷却プレート14には、水等の冷媒が配置され、下断熱プレート12が断熱しきれなかった熱を冷却する。
サーボモータ15は、上冷却プレート13に連結されたロッド16によって上型2を上下動させ、ガラス素材100を加圧する。詳しくは後述するが、サーボモータ15は、図示しない制御部の制御によって、上型2及び下型3によりガラス素材100を加圧する圧力を加圧側および減圧側のうち一方へ変化させた後に連続的に他方へ変化させる圧力変動を1セット以上行う。なお、「1セット以上」とは、nセット(nは自然数)に例えば半セットを加えた場合(例えば後述の第2実施例)を含んでいる。
【0027】
成形室17には、ガラス光学素子の製造装置1のうちサーボモータ15及びロッド16以外の上述の部材が配置されている。また、成形室17には、例えば窒素である不活性ガスが充填されている。
【0028】
以下、本実施の形態に係るガラス光学素子の製造方法について、上述の説明と重複する点については適宜省略しながら説明する。
【0029】
まず、図1Aに示すように、ガラス素材100は、下型3の成形面3a上に載置された状態で、例えば上ヒータプレート9及び下ヒータプレート10からの熱伝導により、ガラス転移点Tg以上の温度になるまで加熱される(加熱工程)。
【0030】
図1Bに示すように、サーボモータ15が上型2に下方への圧力を付与することによって、加熱されたガラス素材100は、上型2及び下型3により加圧される(加圧工程)。
図1Cに示すように、ガラス素材100は、加圧工程の途中から又は加圧工程の終了後に、上型2及び下型3により加圧された状態で、例えば、上ヒータプレート9及び下ヒータプレート10の温度が下がることによって例えば離型するまで冷却される(冷却工程)。冷却工程の少なくとも一部(即ち一部または全部)は、圧力変動を行う離型促進工程からなる。離型促進工程における圧力変動については後述する。
【0031】
図1Dに示すように、冷却されたガラス素材100は、収縮することで或いは強制的に、上型2及び下型3のうち少なくとも一方である上型2から離型する。その後、上型2が上昇し、製造されたガラス光学素子が上型2と下型3との間から取り出される。
【0032】
なお、加熱、加圧及び冷却の3つのうち少なくとも1つを行う複数のステージに対し、ガラス素材100を収容する型セットを循環させることでガラス光学素子を製造するようにしてもよい。
【0033】
以下、図2〜図5に示す第1実施例〜第4実施例について、上述の説明と重複する点については適宜省略しながら、図1に基づいて説明する。
【0034】
<第1実施例>
第1実施例では、ガラス素材100にモールド用ランタン系ガラスを用い、光学素子として非球面形状を有する両凹レンズの成形を行った。両凹レンズの概略形状は、外径φ24mm、曲率半径40mmと60mm、中肉厚1mmである。上型2には曲率半径40mmからなる凸状成形面2aを有し、下型3には曲率半径60mmからなる凸状成形面3aを有した成形型を配して成形を行った。尚、成形型2,3は超硬材を研磨した後に貴金属系の膜を施したものを使用した。
【0035】
図2は、第1実施例に係る荷重と温度との関係図である。
図2において、ヒータ9a,10aにより型温(成形型2,3の温度)を軟化点(Ts)以上の610℃まで加熱してガラス素材100を加熱し(加熱工程)、サーボモータ15を作動させ、プレス荷重2000Nで上下の成形型2,3によりガラス素材100をプレスする(加圧工程)。
【0036】
その後、ガラス素材100が所望肉厚に到達した後にプレス荷重を解除し、型温を0.5℃/秒の速度で冷却する(冷却工程)。この冷却工程において、ガラス素材100の温度がガラス転移点(Tg)560℃を通過し、557℃である時にサーボモータ15を作動させて、再プレス荷重1500Nを1秒かけて付与する(C11)。
【0037】
プレス荷重到達後に引張り荷重800N(T11)を0.5秒(t11)かけて付与し、その後、図2に示されるように、上述の荷重変化(C11,T11)と同様の荷重変化を連続的(C12,T12,C13,T13)に2回行う(離型促進工程)。計3セットからなる離型促進工程により、最後の引張り荷重T13を付与した時点でガラス素材100が上型2から離型される。離型温度は555℃であった。
【0038】
なお、減圧側への圧力変化(T11,T12,T13)に要する時間(t11,t12,t13)は、衝撃力が増えることで密着力低減効果が大きく得られるため、1秒以内であることが望ましい。
【0039】
<離型促進効果の説明>
1セット目の加圧側への圧力変化(C11)の後の1セット目の減圧側への圧力変化(T11)では、図6(ガラス光学素子の離型状態を説明するための平面図)に示すように、ガラス素材100の上面である上型2(成形面2a)との密着面の密着力が低下する。これにより、例えば密着面の外周部分(100−1)の部分剥離が生じる。
【0040】
2セット目の加圧側への圧力変化(C12)では、部分剥離部分100−1に上型2の成形面2aからの形状転写が再度行われる。部分剥離が生じていない部分にも、ガラス素材100に弱い密着力で形状転写が再度行われる。
【0041】
2セット目の減圧側への圧力変化(T12)では、1セット目の減圧側への圧力変化(T11)のときよりも密着力が低下する。これにより、例えば、上述の外周部分(100−1)よりも内側(100−2)に部分剥離が生じる。
【0042】
3セット目の加圧側への圧力変化(C13)では、部分剥離部分100−1,100−2に上型2の成形面2aからの形状転写が再度行われる。部分剥離が生じていない部分にも、ガラス素材100に弱い密着力で形状転写が再度行われる。
【0043】
3セット目の減圧側への圧力変化(T13)では、2セット目の減圧側への圧力変化(T12)よりも密着力が低下する。これにより、例えば、更に内側の部分(100−3)に部分剥離が生じるが、本実施例では、この段階でガラス素材100が上型2から完全に離型する。
【0044】
なお、ガラス素材100は、凸形状の成形面2a,3aを有する上型2及び下型3により両凹形状を転写されるため、部分剥離が外周から中央の凹部分に向かって生じやすくなっている。
【0045】
上述のように加圧側への圧力変化(C11,C12,C13)と減圧側への圧力変化(T11,T12,T13)とを繰り返すことにより、密着力が低下していく。
減圧時の引張り荷重によって、ガラス素材100には、密着面外周部に微小の界面剥れ箇所が形成され部分剥離部(微小離型部)となる。そのままガラス素材100に引張り荷重をかけ続けると、ガラス素材100は型形状が転写される前に完全に離型してしまうため不適となる。
【0046】
一方で、部分剥離部を形成した後すぐに再加圧すると成形型2,3によってガラス素材100の部分剥離部は空気層を間に有しながら成形型2,3と再密着する。結果、ガラス素材100は初期加圧時に比べて上型2と弱い力で密接することになる(ガラス素材100の内部が柔らかく追従層となり、ガラス素材100の表面形状は減圧前に戻っているが、外周部の密着力だけ下がった状態が得られる)。任意に減圧回数(及び加圧回数)と減圧値とを設定することで、密着力低減領域が徐々に広がり、成形面2a全体としての密着力は下がることになる。このように離型が促進されることにより、離型温度も上がる。
【0047】
また、減圧と加圧の圧力変動をセットとする事で部分剥離部が変動し、一定の部分剥離状態が長時間維持されることが無いため、光学素子の光学機能面に不連続な境界線が形成されるのを抑え、光学機能に優れた光学素子を得ることができる。
【0048】
なお、冷却工程においてガラス素材100の温度が降下しているときに、ガラス素材100への加圧量が大きければ密着力が強くなり、加圧量が小さければガラス素材100が自由収縮し成形型(上型2)との拘束が解かれて面形状が悪くなる。そこで、圧力変動を行うようにしている。
【0049】
以上説明した第1実施例の離型促進工程では、上型(第1の成形型)2及び下型(第2の成形型)3によりガラス素材100を加圧する圧力を加圧側及び減圧側のうち一方(加圧側C11,C12,C13)へ変化させた後に連続的に他方(減圧側T11,T12,T13)へ変化させる圧力変動が1セット以上行われる。
【0050】
そのため、ガラス素材100の面精度を維持しながらガラス素材100と上型2の成形面2aとの間の密着力を低下させることができる。これにより、離型時に、ガラス素材100にクラック、割れ等の不具合が発生したり面精度が悪化したりするのを抑えることができる。
【0051】
よって、本実施例によれば、ガラス光学素子を高精度に製造することができる。
【0052】
更には、密着力を低下させることで、離型温度を高めることも可能となる。離型温度が高まると、ガラス素材100にクラック、割れ等の不具合が発生するのをより確実に抑え、ガラス光学素子をより一層高精度に製造することができる。
【0053】
更には、ガラス素材100を強制離型させる離型手段(例えば、突き出し機構や入れ子(型)の分割)を必要としないため、ガラス光学素子の製造装置1の構成を簡単にすることができる。
【0054】
また、第1実施例の離型促進工程では、圧力変動が連続して行われる。これにより、ガラス素材100の形状精度をより確実に維持しながらガラス素材100と上型2との密着力を弱め、ガラス素材100の上型2からの離型を促進することができる。
【0055】
また、第1実施例の離型促進工程では、ガラス素材100が上型2及び下型3から離型するまで圧力変動が行われる。そのため、ガラス素材100の形状精度をより確実に維持しながらガラス素材100と上型2との密着力を弱めることができる。
【0056】
また、第1実施例の離型促進工程では、ガラス素材100を加圧する圧力は、まず加圧側(C11,C12,C13)へ変化した後に減圧側(T11,T12,T13)へ変化する。そのため、減圧量(離型促進するための圧力差)が多くなることで密着力をより確実に低下させることができる。更には、離型温度を高くすることができる。
【0057】
また、第1実施例では、離型促進工程の圧力変動は、冷却工程でガラス素材100の温度が軟化点Tsになったとき以降から開始される。そのため、ガラス素材100の形状精度をより確実に維持しながらガラス素材100と上型2との密着力を弱め、ガラス素材100の上型2からの離型を促進することができる。
【0058】
<第2実施例>
第2実施例では、ガラス素材100にモールド用クラウン系ガラスを用い、光学素子として非球面形状を有する両凸レンズの成形を行った。両凸レンズの概略形状は、外径φ18mm、曲率半径28mmと41mm、中肉厚4mmである。ガラス光学素子の製造装置1の構成は、成形する光学素子の形状(上型2及び下型3の成形面2a,3aの形状)を除いて、第1の実施形態のものと同様である。
【0059】
図3は、第2実施例に係る荷重と温度との関係図である。
図3において、ヒータ9a,10aにより型温を軟化点(Ts)以上の580℃まで加熱し(加熱工程)、サーボモータ15を作動させ、プレス荷重1200Nで上下の成形型2,3によりガラス素材100をプレスする(加圧工程)。
【0060】
その後、ガラス素材100が所望肉厚に到達した後にプレス荷重を維持したまま型温を1.0℃/秒の速度で冷却する(冷却工程)。この冷却工程において、ガラス素材100の温度がガラス転移点(Tg)528℃に降下する前の550℃である時にサーボモータ15により引張り荷重400N(T21)を0.2秒(t21)かけて付与し、その後、再プレス荷重1000Nを10秒かけて付与する(C21)。
【0061】
その後、図3に示されるように、上述の荷重変化(T21,C21)と同様の荷重変化を連続的(T22,C22)に行い、その後荷重を解除し(T23)、荷重ゼロとなる(離型促進工程)。計2セット半からなる離型促進工程により、荷重ゼロの状態でガラス素材100が上型2から離型温度528℃で離型した。
【0062】
本実施例においても、減圧側への圧力変化(T21,T22,T23)に要する時間(t21,t22,t23)は、1秒以内であることが望ましい。
【0063】
以上説明した第2実施例においても、第1実施例と同様の部分については、第1実施例と同様の効果、例えば、ガラス光学素子を高精度に製造することができるなどの効果を得ることができる。
【0064】
また、第2実施例の離型促進工程では、ガラス素材100を加圧する圧力は、まず減圧側(T21,T22,T23)へ変化した後に連続的に加圧側(C21,C22)へ変化する。そのため、肉厚制御を容易にすると共に離型温度を高くすることができる。更には、圧力変動の最初から密着力を弱める動作を行うことができる。
【0065】
また、第2実施例では、離型促進工程の圧力変動は、冷却工程でガラス素材100の温度が軟化点Tsになったとき以降、軟化点Tsになる前に開始される。そのため、ガラス素材100の形状精度をより確実に維持しながらガラス素材100と上型2との密着力を弱め、ガラス素材100の上型2からの離型を促進することができる。
【0066】
<第3実施例>
第3実施例では、ガラス素材100にモールド用のフッ化物系ガラスを用い、光学素子として非球面形状を有する両凹レンズの成形を行った。両凹レンズの概略形状は、外径φ24mm、曲率半径45mmと200mm、中肉厚1.2mmである。ガラス光学素子の製造装置1の構成は、成形する形状(上型2及び下型3の成形面2a,3aの形状)を除いて、第1の実施形態のものと同様である。
【0067】
図4は、第3実施例に係る荷重と温度との関係図である。
図4において、ヒータ9a,10aにより型温を軟化点(Ts)以上の510℃まで加熱し(加熱工程)、サーボモータ15を作動させ、プレス荷重1000Nで上下の成形型2,3によりガラス素材100をプレスする(加圧工程)。
【0068】
加圧工程が終了するのと同時で且つ冷却工程で型温を1.0℃/秒の速度で開始するのと同時に、サーボモータ15により引張り荷重200N(T31)を0.2秒(t31)かけて付与し引張り荷重を1秒間かけ続け(S1)、その後、再プレス荷重1000N(C31)を10秒かけて付与し再プレス荷重を1秒間かけ続ける(S2)。
【0069】
その後、図4に示されるように、上述の荷重変化(T31,C31)と同様の荷重変化を連続的(T32,C32,T33,C33,T34,C34,T35)に行い、その後荷重ゼロのまま保持する(離型促進工程)。計4セット半からなる離型促進工程により、荷重ゼロの状態でガラス素材100が上型2から離型温度450℃で離型した。
【0070】
なお、減圧側への圧力変化(T31,T32,T33,T34)の後、加圧側への圧力変化(C31,C32,C33,C34)まで圧力一定の時間(S1,S3,S5,S7)があるが、この時間は例えば1秒以内とすることで減圧側から加圧側へは連続的に圧力を変化させるとよい。これにより、ガラス素材100の面精度を維持しながら、圧力変動のセット数を増やすことができる。
【0071】
また、圧力変動の間(T31,C31と、T32,C32と、T33,C33と、T34,C34と、T35との間)に時間(S2,S4,S6,S8)があるが、この時間も例えば1秒以内とすることで連続して圧力変動を行うようにするとよい。これによっても、ガラス素材100の面精度を維持しながら、圧力変動のセット数を増やすことができる。
【0072】
本実施例においても、減圧側への圧力変化(T31,T32,T33,T34,T35)に要する時間(t31,t32,t33,t34,t35)は、1秒以内であることが望ましい。
【0073】
以上説明した第3実施例においても、第1実施例及び第2実施例と同様の部分については、第1実施例及び第2実施例と同様の効果、例えば、ガラス光学素子を高精度に製造することができるなどの効果を得ることができる。
【0074】
また、第3実施例では、離型促進工程の圧力変動が、冷却工程でガラス素材100の冷却を開始するのと同時に開始される。そのため、圧力変動の時間を多くとることができる。また、離型温度を高めることも可能となる。
【0075】
<第4実施例>
第4実施例では、ガラス素材100にモールド用のフリント系ガラスを用い、光学素子として非球面形状を有する凸メニスカスレンズの成形を行った。凸メニスカスレンズの概略形状は、外径φ32mm、曲率半径50mmと170mm、中肉厚3mmである。ガラス光学素子の製造装置1の構成は、成形する光学素子の形状(上型2及び下型3の成形面2a,3aの形状)を除いて、第1の実施形態のものと同様である。
【0076】
図5は、第4実施例に係る荷重と温度との関係図である。
図5において、ヒータ9a,10aにより型温を軟化点(Ts)以上の610℃まで加熱し(加熱工程)、サーボモータ15を作動させ、プレス荷重2000Nで上下の成形型2,3によりガラス素材100をプレスする(加圧工程)。
【0077】
その後、ガラス素材100が所望肉厚に到達した後にプレス荷重を解除し型温を0.2℃/秒の速度で冷却する(冷却工程)。この冷却工程において、ガラス素材100の温度がガラス転移点(Tg)560℃を通過し、557℃である時にサーボモータ15により再プレス荷重1200Nを3秒かけて付与する(C41)。荷重到達後に荷重解除(T41)を0.2秒(t41)かけて付与し、その後、図5に示すように、ガラス素材100を加圧する圧力をまず加圧側へ変化させ、その後に連続的に減圧側へ変化させる。
【0078】
加圧側への変化のさせ方は、2.5秒かけてプレス荷1000N(C42)、2秒かけてプレス荷重800N(C43)、1.5秒かけてプレス荷重600N(C44)、1秒かけてプレス荷重400N(C45)、0.5秒かけてプレス荷重200N(C46)とし、減圧側への変化のさせ方は、いずれも荷重解除(T42,T43,T44,T45,T46)で、全て0.2秒で変化させる(離型促進工程)。計6セットからなる離型促進工程により、最後の荷重解除T46を付与した時点でガラス素材100が上型2から離型される。離型温度は555℃であった。
【0079】
なお、本実施例の減圧側への圧力変化(T41,T42,T43,T44、T45、T46)では、圧力が引張り荷重側に加えられるのではなく、プレス荷重解除(圧力=0)されることにより行われる。このように圧力が解除されることでも、ガラス素材100の収縮中の成形動作によって密着力の低下を生じさせることは可能である。
【0080】
また、本実施例の離型促進工程では、6セットの圧力変動における減圧側から加圧側への圧力の変化量(本実施例では減圧側が圧力=0のため、加圧量)が、例えば徐々に小さくなるように変動する。なお、変動するセット数は1セット以上であればよく、変化量が徐々に大きくなるように変動するようにしてもよい。
【0081】
また、本実施例においても、減圧側への圧力変化(T41,T42,T43,T44,T45,T46)に要する時間(t41,t42,t43,t44,t45,t46)は、1秒以内であることが望ましい。
【0082】
以上説明した第4実施例においても、第1実施例〜第3実施例と同様の部分については、第1実施例〜第3実施例と同様の効果、例えば、ガラス光学素子を高精度に製造することができるなどの効果を得ることができる。
【0083】
また、本実施例の離型促進工程では、ガラス素材100を再加圧する圧力を変化させている。それに伴い減圧側への変化量も変化している。この動作によって部分離型する面積を変化させることができる。そのため、非球面量が多い場合や口径が大きい場合などのガラス光学素子の形状においても本実施例の離型促進工程を好適に用いることができる。
【0084】
なお、以上説明した第1実施例〜第4実施例では、圧力変動(加圧側及び減圧側の一方の圧力変化、その後の他方の圧力変化)が2セット半〜6セットである場合を例に説明したが、圧力変動は、1セット以上であれば、数10セット以上行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 ガラス光学素子の製造装置
2 上型(第1の成形型)
2a 成形面
3 下型(第2の成形型)
3a 成形面
4 スリーブ
5 上型保持部
6 下型保持部
7 上超硬プレート
8 下超硬プレート
9 上ヒータプレート
9a ヒータ
10 下ヒータプレート
10a ヒータ
11 上断熱プレート
12 下断熱プレート
13 上冷却プレート
14 下冷却プレート
15 サーボモータ
16 ロッド
17 成形室
100 ガラス素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス素材を加熱する加熱工程と、
加熱された前記ガラス素材を第1の成形型及び第2の成形型により加圧する加圧工程と、
前記ガラス素材を前記第1の成形型及び前記第2の成形型により加圧した状態で冷却する冷却工程と、を含み、
前記冷却工程の少なくとも一部は、前記第1の成形型及び前記第2の成形型により前記ガラス素材を加圧する圧力を加圧側及び減圧側のうち一方へ変化させた後に連続的に他方へ変化させる圧力変動を1セット以上行う離型促進工程からなる、ガラス光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記離型促進工程では、前記圧力変動を2セット以上行う、請求項1記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項3】
前記圧力変動は、連続して行われる、請求項2記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項4】
前記離型促進工程では、前記ガラス素材が前記第1の成形型及び前記第2の成形型のうち少なくとも一方から離型するまで、前記圧力変動を行う、請求項1から請求項3のいずれか1項記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項5】
前記離型促進工程では、前記ガラス素材を加圧する前記圧力を、まず加圧側へ変化させた後に減圧側へ変化させる、請求項1から請求項4のいずれか1項記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記離型促進工程では、前記ガラス素材を加圧する前記圧力を、まず減圧側へ変化させた後に加圧側へ変化させる、請求項1から請求項4のいずれか1項記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項7】
前記離型促進工程の前記圧力変動を、前記冷却工程で前記ガラス素材の冷却を開始するのと同時に開始する、請求項1から請求項6のいずれか1項記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項8】
前記離型促進工程の前記圧力変動を、前記冷却工程で前記ガラス素材の温度が軟化点になったとき以降から開始する、請求項1から請求項6のいずれか1項記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記圧力変動の開始は、前記ガラス素材の温度がガラス転移点になる前である、請求項8記載のガラス光学素子の製造方法。
【請求項10】
前記離型促進工程では、前記ガラス素材を加圧する前記圧力を減圧側へ変化させた後に加圧側へ変化させる圧力変動を2セット以上行い、
2セット以上の前記圧力変動における減圧側から加圧側への前記圧力の変化量を、前記セットごとに変動させる、請求項1から請求項9のいずれか1項記載のガラス光学素子の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−201518(P2012−201518A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64981(P2011−64981)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)