説明

ガラス導波路及びその製造方法

【目的】多孔質ガラス焼結時に正司Sるコア導波路の変形を防止して、低損失で、良好な伝搬特性を得る。
【構成】コア導波路1の一側と他側とで、焼結時に多孔質ガラスの収縮量が大きく異なるようなコア導波路部1aの近傍に、コア導波路部1aの変形を防止するダミーコア導波路6を設ける。ダミーコア導波路6は、コア導波路部1aに対して対称に設け、その位置及び大きさはガラス導波路の目的とする伝搬特性に影響のないように配慮する。コア導波路部1aに異方的な力が働こうとしても、その力はダミーコア導波路6によって阻止され、コア導波路部1aへの影響を断つ。このためクラッド層形成時においてもコア導波路部1aは変形を受けない。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はガラス導波路及びその製造方法に係り、特にコア導波路に変形のないガラス導波路に関する。
【0002】
【従来の技術】図4は従来のガラス導波路の断面構造である。このガラス導波路を製造するには、ガラス基板3上に基板よりも屈折率の高いコアガラス膜を形成し、ホトリソグラフィ、反応性イオンエッチングによりコア導波路1を形成した後、多孔質ガラスを基板3上に堆積させ、焼結により透明なクラッドガラス層2を形成する。なお、コア導波路1は、通常8×8μm 又は6×6μm の矩形断面をもつように形成される。
【0003】ところで、ガラス導波路に形成されるコア導波路1は、直線状の単純パターンで構成されるよりも、むしろ複雑な回路パターンで構成され、その複雑な回路パターン上にクラッドガラスが形成されるものが多い。例えば、図5に示すパターンは、Y分岐構造をもった1×16分岐ガラス導波路パターン4であるが、このパターン上に約25μm のクラッドガラスが形成される。この厚さのクラッドガラスを形成するためには、厚さ約250〜350μm の多孔質ガラスを堆積させて焼結する必要がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上述したように多孔質ガラスを堆積させて焼結すると、多孔質ガラスの厚さが250〜350と厚いので、多孔質ガラスが基板の径方向(厚さと直交する方向)と軸方向(厚さ方向)とに大きく収縮することになる。このとき、特に図5R>5のa−a′線上にあるY分岐部の根本近くのコア導波路部5は、その断面を示すと図6のように変形することがあり、その大きさは内側へ約1°近くも傾斜する場合がある。その結果、一部の光がコアより漏れて損失増になったり、あるいは均等光分配されなかったりして各ポート間の光出力がバラツクという欠点があった。
【0005】また、このことは何も光分岐結合器だけの問題ではなく、マッハツェンダー形や図7に示すようなガラス導波路で構成される光合分波器にも当てはまる。すなわち、コア導波路1間の接近部(b−b′線上)が、光分岐結合器の場合と同様に図6のように変形することがある。この変形により、例えば波長1.3μm と1.55μm 光の合分波特性において、中心波長に±20nmと大きなズレが生じ、波長1.3μm の光出射側に波長1.55μm の光が大きく洩れ込むという問題があった。
【0006】このようにコア導波路間が接近している部分のコア導波路は、クラッドガラス形成時に変形を受けるため、クラッドガラス形成時においてもコア導波路が変形しない技術の開発が望まれていた。
【0007】本発明の目的は、前記した従来技術の欠点を解消し、低損失で、伝搬特性の良好なガラス導波路及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明のガラス導波路は、コア導波路とこれを覆うクラッド層とを基板上に形成したガラス導波路において、コア導波路の近傍に、クラッド層の形成時に該コア導波路の変形を防止するダミーコア導波路を有しているものである。
【0009】この場合において、ダミーコア導波路がコア導波路に対して対称に設けられていたり、基板が石英ガラス基板または表面に石英系ガラス膜を設けたシリコン基板であることが好ましい。
【0010】また、本発明のガラス導波路の製造方法は、基板上にコア導波路を形成すると共に、その近傍に多孔質ガラスの焼結時にコア導波路の変形を防止するダミーコア導波路を形成し、これらコア導波路及びダミーコア導波路を形成した基板上に多孔質ガラスを形成し、これを焼結して透明なクラッド層を形成するようにしたものである。
【0011】
【作用】コア導波路の形成後、クラッド層を形成するために多孔質ガラスをコア導波路上に堆積させて多孔質ガラスを焼結ガラス化させる場合、基板上に堆積するガラスの堆積量がコア導波路の一側と他側とで異なっていると、ガラス化による収縮量が異なり、コア導波路の堆積量の少ない側よりも堆積量の多い側の収縮量が大きくなって、コア導波路に異方的な力が働き、それによりコア導波路の変形が生じるものと推定される。
【0012】本発明では、ガラス化による収縮量が大きく異なるような、コア導波路間の間隔の狭い部分のコア導波路の近傍にダミーコア導波路を設けてあるので、コア導波路に異方的な力が働こうとしても、その力はダミーコア導波路によって阻止され、コア導波路への影響が断たれる。このためクラッド層形成時においてもコア導波路は変形を受けない。
【0013】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。図1はY分岐構造をもった1×16分岐ガラス導波路であり、図2は図1のc−c′線断面図である。このガラス導波路は、石英ガラス基板3上にコア導波路1が形成され、その上にコア導波路1を覆うクラッド層2をガラス焼結により形成してある。
【0014】この基板3上に形成されたコア導波路1のうち、Y分岐部の根本のコア導波路部1aにクラッド層のガラス焼結時にコア導波路部1aに働く力によりコア導波路部1aが変形するのを防止するダミーコア導波路6を設けている。
【0015】このダミーコア導波路6は、図示例では入力段の1×2分岐部のコア導波路部1aでは、その両外側にコア導波路部1aに対して対称に設けてある。また、その後段の1×4分岐部では、これを構成する各1×2分岐部の片外側に設けている。なお、片外側に設けたダミーコア導波路6は、各1×2分岐部のコア導波路部1aに対しては非対称に設けられることになるが、1×4分岐部全体からみれば対称に設けられていることになる。
【0016】これらのダミーコア導波路6は、ガラス導波路の目的とする伝搬特性に影響のない場所、大きさに設ける。すなわち、ダミーコア導波路の設置場所は、コア導波路の一側と他側とでガラス堆積量が大きく異なって変形を受けやすいY分岐部の根本のコア導波路部1aの近傍が最適である。また、ダミーコア導波路の大きさは、コア導波路部1aの矩形断面8×8μm 又は6×6μm と同じ大きさでもよいが、好ましくは幅、高さ共にコア導波路部1aよりは大きな断面で構成して、それ自体で変形に耐えられるようにする。特に、幅をコア導波路部1aの幅の1.5倍以上とすることにより変形をほぼ完全に抑えることができる。
【0017】このようなダミーコア導波路6を持つY分岐ガラス導波路のc−c′線断面を図2に示す。ダミーコア導波路6を近傍に有すると、コア導波路部1aに異方的な力が働こうとしても、その力はダミーコア導波路6によって阻止され、コア導波路1への影響が断たれる。このためクラッド層2の形成時においてもコア導波路は変形を受けず、クラッド2層の形成後でもコア導波路1aの形状は保たれる。
【0018】次に、上述したダミーコア導波路6を設けたガラス導波路の製造方法を具体的に説明する。3インチ径で1mm厚の石英ガラス基板の上に、電子ビーム蒸着法でTiO2 −SiO2 コアガラス膜を8μm 形成した。ホトリソグラフィ、反応性イオンエッチングで8×8μm 断面を持ち、かつ図1に示すような1×16分岐をもつコア導波路パターンを形成した。この時、併せてダミーコア導波路6も形成した。ダミーコア導波路6は16×8μm 断面を持ち、各コア導波路部1aから20μm 離した。その後、火炎堆積法で多孔質ガラスを300μm 形成し、1300℃で焼結し、24μm 厚のP2 5 −B2 3 −SiO2 クラッドガラスを形成して、1×16分岐ガラス導波路を試作した。比較のため、上記と同じ条件でダミーコア導波路のないガラス導波路も製作した。
【0019】作った両1×16分岐ガラス導波路において、ダミーコア導波路のあるものは、1入力ポートから16出力ポートへの伝送損失は13.5dB±0.3dBと良好であった。これに対してダミーコア導波路のないものは、14.5dB±1.0dBと損失値及びバラツキともに大きかった。
【0020】また、図3に示す双方向用光合分波器においても、コア導波路1が接近しているコア導波路部1aの両側近傍にダミーコア導波路6を設けるようにした。このようにすると、ガラス焼結時、接近部分のコア導波路部1aは図2と同様に変形しなかった。この光合分波器の中心波長は±5nm以内で設計値と一致した。その結果、波長1.3μm と1.55μm 光の合分波特性において、波長1.3μmの光出射側に波長1.55μm の光が洩れ込むのを有効に防止できた。
【0021】
【発明の効果】
(1)請求項1または3に記載の発明によれば、ダミーコア導波路をコア導波路の近傍に有するので、低損失で、良好な伝搬特性が得られる。
【0022】(2)請求項2に記載の発明によれば、ダミーコア導波路を対称に設けるようにしたので、集積化したガラス導波路素子の安定化が図れる。
【0023】(3)請求項4に記載の発明によれば、ダミーコア導波路をコア導波路の近傍に形成することにより、クラッド層形成時においてもコア導波路は変形を受けず、低損失でしかも光回路のもつ機能を十分に満足するガラス導波路を再現性よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のガラス導波路の実施例を示す1×16分岐ガラス導波路の平面図である。
【図2】図1のc−c′断面図である。
【図3】本発明ガラス導波路の他の実施例を示す光合分波ガラス導波路の平面図である。
【図4】コア導波路に変形のないガラス導波路の断面図である。
【図5】従来の1×16分岐ガラス導波路の平面図である。
【図6】図5のa−a′断面図である。
【図7】従来の合分波ガラス導波路の平面図である。
【符号の説明】
1 コア導波路
1a コア導波路部
2 クラッド層
3 石英ガラス基板
4 コア導波路パターン
5 変形したコア導波路部
6 ダミーコア導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】コア導波路とこれを覆うクラッド層とを基板上に形成したガラス導波路において、上記コア導波路の近傍に、クラッド層の形成時に該コア導波路の変形を防止するダミーコア導波路を有していることを特徴とするガラス導波路。
【請求項2】上記ダミーコア導波路がコア導波路に対して対称に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のガラス導波路。
【請求項3】上記基板が石英ガラス基板または表面に石英系ガラス膜を設けたシリコン基板であることを特徴とする請求項1または2に記載のガラス導波路。
【請求項4】基板上にコア導波路を形成すると共に、その近傍に該コア導波路の変形を防止するダミーコア導波路を形成し、これらコア導波路及びダミーコア導波路を形成した基板上に多孔質ガラスを形成し、これを焼結して透明なクラッド層を形成することを特徴とするガラス導波路の製造方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図6】
image rotate


【図7】
image rotate


【公開番号】特開平7−56032
【公開日】平成7年(1995)3月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−200590
【出願日】平成5年(1993)8月12日
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)