説明

ガラス成形体の製造方法、ガラス成形体の製造方法をコンピュータに実行させるための制御プログラムおよび記憶媒体

【課題】溶融ガラスを成形する時点で溶融ガラスの温度および粘度を調整することにより、失透、脈理等を抑えるガラス成形体の製造方法等を提供すること。
【解決手段】所定の幅を有する成形型の一端部に、溶融ガラスを流出口から連続的に流下しながら、成形型の他端から溶融ガラスを引き出すことによりガラスを連続的に成形するガラス成形体の製造方法において、一端部において、溶融ガラスの温度が失透消失温度以下であって、かつ、溶融ガラスの粘度の対数logηが2.0以下となる範囲の温度にし、他端において、溶融ガラスの温度を軟化点以上に保持することによって失透、脈理等を抑えてガラス成形体を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融ガラスの温度や粘度を調整することによって溶融ガラスを成形する板ガラス等のガラス成形体の製造方法、この製造方法をコンピュータに実行させるための制御プログラムおよび記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、溶融ガラスを板状或いは棒状に連続して成形する場合、溶融ガラスを成形ロール間に流してその周速度と同じ速度で成形ガラスを送り出す方法(複ロール法)や予め用意された成形型の一端に溶融ガラスを引き出し速度に合わせて成形ガラスを引き出す方法等が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、溶融ガラスをパイプで成形型の近くまで導いて、成形型の一端に溶融ガラス流出口と鋳込面との距離をできる限り近づけて溶融ガラスを流し込み、成形型は固定されたままガラスを連続的に引き出して成形する方法について記載されている。そして、成形型は、ガラスとの融着、成形されたガラスの肌の伸び、冷却によるひび割れ等を考慮して温度調整がなされるが、この温度調整は成形型全体を冷却するという一方的な冷却操作で行われる。
【0004】
また、特許文献2には、特許文献1に記載された方法において、成形型内の流出管の背部位置に堰を設け、堰に高周波振動を与え溶融ガラスを連続的に成形することについて記載されている。
【特許文献1】特公昭45−19987号公報
【特許文献2】特開昭50−51516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、成形型を利用したこれらの方法では、成形温度および成形時間の調整が困難であるため、溶融ガラスの表面と成形型の側面付近に位置する溶融ガラスの温度分布およびそれに伴う熱履歴を均一とすることが困難であった。結果として、失透や脈理等の不良を抑えつつ、成形型に要求された所望の形状に適切に成形することは困難であった。
【0006】
したがって、溶融ガラスを連続して成形型に流下しながら、ガラスを成形する方法において、熱履歴が均一化され、内部歪等が少なく、分相を生じず、所望の形状を容易に成形できるガラス成形体の製造方法が求められている。
【0007】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、溶融ガラスを成形する時点で溶融ガラスの温度を測定し、その結果に基づいて粘度を調整することによって、ガラスにかかる熱履歴の均一性を向上させ、失透、脈理等を抑えるガラス成形体の製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、成形型の溶融ガラスの流出部付近の一端部での急冷条件、並びに中央部および他端部での温度保持条件を厳密に規定することにより、ガラスに失透や脈理等の不良を生じず、かつ成形型の成形部の形状を十分に反映した所望の形状に成形できることを見出した。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) 所定の幅を有する成形型の一端部に、溶融ガラスを流出口から連続的に流下しながら、前記成形型の他端部から前記溶融ガラスを引き出すことによりガラスを連続的に成形するガラス成形体の製造方法において、前記一端部において、前記溶融ガラスの温度が失透消失温度以下であって、かつ、前記溶融ガラスの粘度η(dPa・s)の対数logηが2.0以下となる範囲の温度に冷却し、前記成形型上において、前記溶融ガラスの温度を軟化点以上に保持することを特徴とするガラス成形体の製造方法。
【0010】
(1)の発明におけるガラス成形体の製造方法によれば、流出された溶融ガラスを流出口から一端部に流下させ他端部から溶融ガラスを引き出す際、失透を生じさせることなく、容易に成形できる。
【0011】
本明細書中において「失透消失温度」とは、溶融状態にある溶融ガラスを0.1〜0.5℃/secで所定の温度まで冷却(急冷)し、次いで、その所定の温度にて30分間保持した場合に失透が生じる温度の下限を意味する。すなわち、「失透消失温度」より低い温度まで冷却(急冷)すれば、一定時間保持してもガラスには失透が生じない。なお、溶融される溶融ガラスによっては、いずれの温度まで冷却し、保持しても失透を生じない極めて安定なガラスもある。「失透消失温度」の本質的な意味は、ガラス成形工程において当該温度以下で成形しても失透を生じないことを保証する温度であるから、かかる安定なガラスに限っては、「失透消失温度」を規定する必要がない。したがって、説明の便宜上、このような場合は、任意の温度で成形しても「失透消失温度」以下で成形したことに含めるものとする。
【0012】
本明細書中において、「成形型の一端部」とは、成形型において溶融ガラスが流下される箇所を意味し、具体的には図1中の(A)付近を示す。また、本明細書において、「成形型の他端部」とは、成形型において一端部と逆側の端を意味し、具体的には図1中の(C)付近を示す。すなわち、溶融ガラスは、一端部にて流出され、他端部から引き出される。
【0013】
また、保持温度を「軟化点」以上としたのは、溶融ガラスが軟化点を下回ると、その成形が困難になり、成形型の成形部の形状を忠実に再現しにくくなるからである。
【0014】
(2) 前記溶融ガラスが流下する前記流出口から前記一端部において、前記成形型内に包含される冷却手段により前記溶融ガラスを急冷する(1)に記載のガラス成形体の製造方法。
【0015】
(2)の発明におけるガラス成形体の製造方法によれば、前記冷却手段により、成形型を介して流出直後の溶融ガラスを所望の温度および粘度まで効果的に冷却できる。
【0016】
(3) 前記成形型の中央部および他端部において、前記溶融ガラスは、軟化点以上失透析出温度以下の温度範囲に保持される(1)〜(2)のガラス成形体の製造方法。
【0017】
(3)の発明におけるガラス成形体の製造方法によれば、一端部以外(中央部および他端部)においても、ガラス成形体に失透が生じることを防止しつつ容易に成形をすることができる。
【0018】
なお、本明細書において、「成形型の中央部」とは、一端部と他端部との間の中間部分付近を示し、成形型をガラスの引き出し方向に見た場合に、前記一端部と他端部との略中間に位置する部位を意味し、具体的には図1中の(B)付近を示す。
【0019】
本明細書において、「失透析出温度」とは、常温のガラス片(3mm角程度)を、5.0×10−3〜40.0×10−3℃/secで所定の温度まで昇温させ、当該温度にて30分間保持した場合、失透が生じる温度の下限をいう。すなわち、固体のガラスを昇温および保温しても、「失透析出温度」以下である限り失透は生じない。なお、前述の失透消失温度と失透析出温度の冷却速度が異なるのは、実際の光学ガラスの成形における冷却速度の差異に対応させたものである。
【0020】
(4) 前記成形型の少なくとも一方の側面或いは底面を加熱することにより、前記溶融ガラスを軟化点以上失透析出温度以下の温度範囲に保持する(1)〜(3)のガラス成形体の製造方法。
【0021】
(4)の発明におけるガラス成形体の製造方法によれば、溶融ガラス成形時に比較的温度が低下しやすい側面或いは底面を加熱することにより、急激な温度低下を防止し、ガラス成形体を所望の範囲の温度に容易に保持することができる。
【0022】
(5) 前記成形型の一端部における前記溶融ガラスの冷却速度が0.1〜0.5℃/secであり、前記成形型の中央部から他端部において、前記溶融ガラスの冷却速度が5.0×10−3〜40.0×10−3℃/secである(1)から(4)のガラス成形体の製造方法。
【0023】
(5)の発明におけるガラス成形体の製造方法によれば、適切な冷却速度にて冷却するので、ガラス成形体の失透や脈理を防止しつつ、効果的にガラス成形体を製造することができる。
【0024】
(6) 前記溶融ガラスの温度を調整することで前記溶融ガラスの粘度η(dPa・s)の対数logηを調整する(1)から(5)のいずれかに記載のガラス成形体の製造方法。
【0025】
(7) 前記一端部および前記他端部の前記溶融ガラスの温度が、それぞれ予め設定された温度になるように前記成形型を冷却、加熱する(1)から(6)のガラス成形体の製造方法。
【0026】
(6)および(7)の発明におけるガラス成形体の製造方法によれば、溶融ガラスの粘度η(dPa・s)の対数logηを調整するために、溶融ガラスの温度を測定し、或いは成形型の温度を測定することにより間接的に溶融ガラスの温度を測定し、制御することにより、溶融ガラスを所望の粘度範囲に保持することが容易になる。
【0027】
(8) 前記成形型の側面に第一温度検出手段を設け、前記第一温度検出手段により前記溶融ガラス側面の温度を測定する(7)に記載のガラス成形体の製造方法。
【0028】
(9) さらに前記成形型の一端部の上方、背面、側面または底面に第二温度検出手段を設け、前記第二温度検出手段により前記溶融ガラスの一端部周囲の温度を測定する(7)のガラス成形体の製造方法。
【0029】
(8)および(9)の発明におけるガラス成形体の製造方法よれば、成形型に温度検出手段を設けることにより、的確に溶融ガラスの温度を知ることができ、溶融ガラスの温度、粘度を適宜調整することができる。
【0030】
(10) 前記第一温度検出手段および前記第二温度検出手段により検出された前記溶融ガラス温度に基づき、前記溶融ガラスの引き出し速度、前記溶融ガラスが流下する前記一端部での冷却速度、前記成形型側面の加熱強度を連続的または断続的に変更可能に調整する(8)または(9)に記載のガラス成形体の製造方法。
【0031】
(10)の発明におけるガラス成形体の製造方法よれば、温度検出手段により検出した温度をフィードバックして、温度制御に反映させることで、脈理や失透を有する不良品の発生を最小限に抑えることが可能となる。
【0032】
(11) (1)から(10)のいずれかに記載のガラス成形体の製造方法をコンピュータに実行させるための制御プログラム。
【0033】
(11)の発明におけるコンピュータに実行させるための制御プログラムにおいて、予めプログラムしたコードを読み出して実行するようにしてもよい。
【0034】
(12) (1)から(10)のいずれかに記載のガラス成形体の製造方法をコンピュータに実行させるための制御プログラムを格納した記憶媒体。
【0035】
(12)の発明における制御プログラムを格納した記憶媒体において、予めプログラムしたコードを読み出して実行するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、成形型での溶融ガラスの温度および粘度η(dPa・s)の対数logηを調整することにより、ガラス成形体に失透が生じたり、脈理が生じることを防止することができ、所望の形状を有するガラス成形体を製造することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明は、所定の幅を有する成形型の一端部に、溶融ガラスを流出口から連続的に流下しながら、成形型の他端部から溶融ガラスを引き出すことによりガラスを連続的に成形するガラス成形体の製造方法において、一端部において、溶融ガラスの温度が失透消失温度以下であって、かつ、溶融ガラスの粘度η(dPa・s)の対数logηが2.0以下となる範囲の温度にし、他端部において、溶融ガラスの温度を軟化点以上に保持することを特徴とする。
【0038】
以下、本発明のガラス成形体の製造方法、ガラス成形体の製造方法をコンピュータに実行させるための制御プログラムおよび記憶媒体の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0039】
[ガラス成形体の製造方法に使用する装置の全体構成]
図1および図2は、本発明のガラス成形体の製造方法に使用する装置の概略を示す。この装置は、溶融ガラスGを成形する所定の幅を有する成形型2と、成形型2の上部に位置し、溶融ガラスGを成形型2上に流下させる流出口1とを有する。
【0040】
さらに、場合によっては溶融ガラスGを引き出した後に、アニール(徐冷)するためにアニール装置4を成形型2の他端部付近に接続させてもよい。
【0041】
また、成形型2の側部または底部にはヒーター3を備えてもよい。
【0042】
成形型2の中央部および他端部付近の側面および成形型2に溶融ガラスGが流下される付近(例えば一端部の背面)にそれぞれ第一温度検出手段21、第二温度検出手段22を有し、溶融ガラスGの温度を間接的に測定することができる。
【0043】
[ガラス成形体の製造方法]
まず、溶融ガラスGは、流出口1から成形型2の一端部へ連続的に流下される。
【0044】
成形型2の一端部付近に流下された溶融ガラスGは、溶融ガラスGの温度を失透消失温度以下であって、かつ、溶融ガラスGの粘度η(dPa・s)の対数logη(以下、「溶融ガラスGの粘度」とする)を2.0以下となる範囲内の温度に調整される。溶融ガラスGの粘度と温度は、通常、図3に示すような曲線の関係にあり、溶融ガラスGの温度を調整すれば、同時に粘度を調整したことになる。溶融ガラスGの温度を失透消失温度以下とすることにより、ガラス成形体が失透することが防止することができる。また、粘度を2.0以下とすることにより、溶融ガラスGを引き出す過程において、脈理等の不利益を引き起こすことなく容易に、そして成形型2の内面形状をより高く反映した形状に成形することができる。
【0045】
一端部付近の溶融ガラスGの温度および粘度を所望の範囲にするために、流出口1付近の成形型2の底部には、冷却手段(図示せず)が包含されており、流出口1から成形型2の一端部に流下した溶融ガラスGを急冷する。
【0046】
冷却手段による冷却方法(急冷方法)は、溶融ガラスGの組成等に応じて適宜変更することができるが、例えば、空冷、油冷、水冷等公知の種々の冷却方法が挙げられる。
【0047】
冷却手段により一端部付近の溶融ガラスGを急冷する冷却速度は、溶融ガラスGの成分等に応じて適宜変更することができるが、0.1〜0.5℃/secとすることが好ましい。この範囲で一端部付近の溶融ガラスGを急冷することが効率的であり、ガラス成形体が失透することを防止することができる。冷却速度が小さすぎると、一端部付近の溶融ガラスGに失透が生じてしまうことがある。一方、冷却速度が大きすぎると、ガラス成形体に外観不良や脈理等が発生してしまう場合がある。
【0048】
したがって、一端部付近の冷却速度は、好ましくは0.1℃/sec、より好ましくは0.12℃/sec、最も好ましくは0.14℃/secを下限とし、好ましくは0.5℃/sec、より好ましくは0.48℃/sec、最も好ましくは0.46℃/secを上限とする。
【0049】
一端部付近にて所望の温度および粘度に調整された溶融ガラスGは、中央部および他端部において溶融ガラスGの温度を軟化点以上失透析出温度以下となるように温度範囲を調整する。このような温度範囲を調整することにより、ガラス成形体に失透や脈理が発生することを防止することができる。
【0050】
ここで、溶融ガラスGの温度が軟化点未満であると、溶融ガラスGが硬すぎて成形型2による成形が困難となりやすく、成形型2の内面形状をより高く反映した形状に成形しにくくなる。また、溶融ガラスGの成形が困難となり、成形型2の内面形状を忠実に再現しにくくなる。一方、溶融ガラスGの温度が失透析出温度を超えると、ガラス成形体の成形中に失透が発生する場合がある。
【0051】
一端部付近にて溶融ガラスGの温度を失透消失温度以下、溶融ガラスGの粘度η(dPa・s)の対数logηを2.0以下と調整された溶融ガラスGは、他端部において溶融ガラスGの温度を軟化点以上失透析出温度以下となるように温度範囲を調整する。溶融ガラスGの温度を軟化点以上失透析出温度以下となるように温度範囲を調整することにより、ガラス成形体に失透が発生したり脈理が発生することを防止することができる。溶融ガラスGの温度が軟化点未満であると、溶融ガラスGの成形が困難となり、成形型2の成形部の形状を忠実に再現しにくくなる。一方、溶融ガラスGの温度が失透析出温度を超えると、ガラス成形体に失透が発生する場合がある。
【0052】
他端部の溶融ガラスGの温度を軟化点以上失透析出温度以下となるように温度を調整するために、成形型2の少なくとも一方の側面或いは底面にヒーター3を備えてもよい。なお、ヒーター3は、図1および図2では、両側面に図示しているが、一方の側面に有していてもよく、成形型2の底面に備えるようにしてもよい。また、必要に応じてヒーター3は省略してもよい。ヒーター3はガスバーナー、電熱器、高周波加熱器等の公知の加熱手段が使用できる。
【0053】
ヒーター3により、溶融ガラスGを適宜加熱することにより、中央部および他端部における溶融ガラスGの冷却速度を5.0×10−3〜40.0×10−3℃/secとすることが好ましい。冷却速度をこのような範囲内にすることにより、成形型2上で失透を生じさせずに容易に成形型2の内面形状をより高く反映した形状に成形することができる。溶融ガラスGの冷却速度が前記範囲外になると、ガラスの温度を所望の範囲に維持することが難しい。
【0054】
したがって、前記中央部および/または他端部における溶融ガラスGの冷却速度は、好ましくは5.0×10−3℃/sec、より好ましくは6.0×10−3℃/sec、最も好ましくは7.0×10−3℃/secを下限とし、好ましくは40.0×10−3℃/sec、より好ましくは38.0×10−3℃/sec、最も好ましくは36.0×10−3℃/secを上限とする。
【0055】
成形型2の中央部および他端部付近の側面には、第一温度検出手段21を設けられている。第一温度検出手段21により測定された他端部付近の溶融ガラスGの温度に基づき、溶融ガラスGの引き出し速度、ヒーター3による加熱強度等を適宜調整することができる。これにより、他端部付近の溶融ガラスGの温度が軟化点以上失透析出温度以下に調整することができる。なお、溶融ガラスGの引き出し速度、ヒーター3による加熱強度等は、連続的に変化させてもよく、断続的に変化させてもよい。
【0056】
本発明の方法において、溶融ガラスGの温度情報を取得する方法は特に制限されるものではなく、放射温度計等の非接触式および熱伝対等の接触式のいずれも使用できる。
【0057】
また、必要に応じて、成形型2の中央部および他端部付近の側面に第一温度検出手段21および溶融ガラスGが流出される一端部付近の上方、背面、側面または底面に第二温度検出手段22を設置してもよい(図1および図2では、一端部の背面付近に第二温度検出手段22を有している。)。第一温度検出手段21および第二温度検出手段22は、成形型2に接続された熱伝対であることが好ましい。これらの温度検出手段を用いて成形型2の温度を測ることにより、間接的に溶融ガラスGの温度情報を取得することができる。
【0058】
第一温度検出手段21および第二温度検出手段22により間接的に溶融ガラスGの温度を管理することにより、溶融ガラスGの温度が、予め設定された温度になるように成形型2を加熱・冷却するように制御することができる。また、第一温度検出手段21および第二温度検出手段22により間接的に溶融ガラスGの温度を管理することにより、溶融ガラスGの引き出し速度、冷却手段による溶融ガラスGの冷却速度、ヒーター3による加熱(加熱強度)を連続的、断続的に変更することもできる。
【0059】
[ガラス成形体の製造方法をコンピュータに実行させるための制御プログラムおよび記憶媒体]
上述した実施形態を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体を、システム或いは装置に供給し、そのシステム或いはガラス成形体の製造装置のコンピュータやCPU等が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読出し実行するようにしてもよい。
【0060】
この場合、記憶媒体から読出されたプログラムコード自体が上述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明のガラス成形体の製造方法を構成することになる。
【0061】
プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等公知の種々の記憶媒体を用いることができる。
【0062】
また、コンピュータが読出したプログラムコードを実行することにより、上述した実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼働しているOS(オペレーティングシステム)等が実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって上述した実施形態の機能が実現されるようにしてもよい。
【0063】
さらに、記憶媒体から読出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって上述した実施形態の機能が実現されるようにしてもよい。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の実施例を説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0065】
およびBiを主成分とする溶融ガラスG(以下、光学ガラスaとする)を溶解し、図1および図2に示す装置にて板状ガラス(ガラス成形体)を成形した。
【0066】
光学ガラスaの軟化点570℃、失透析出温度は690℃であるが、失透消失温度は測定できなかった。すなわち光学ガラスaは溶融時の安定性に優れるため、冷却した際の失透傾向が小さく、いかなる温度まで冷却し、かつ、30分間保持しても失透は生じなかった。
光学ガラスaを流出口1から成形型2の一端部に流下させた。なお、流出時の光学ガラスaの温度は945℃であり、その際の粘度は1.0であった。光学ガラスaは前記一端部にて、成形型2に包含された冷却手段により冷却した。そして成形型2の他端部より引き出されることにより板状ガラスとして成形した。
【0067】
板状ガラスの引き出しの過程において、前記成形型2の中央部および他端部付近の温度が軟化点以上、失透析出温度以下となるように、ヒーター3を用いて成形型2側面を連続的に加熱し、溶融ガラスGの温度を調整した。
【0068】
なお、前記冷却手段の冷却強度およびヒーター3の加熱強度は、成形型2内に接続された第一温度検出装置および第二温度検出装置の検出温度に基づき、適宜調節された。
【0069】
成形型2上(A)〜(C)点における溶融ガラスの温度を表1に示す。表中測定箇所(A)は一端部、(B)は中央部、および(C)は他端部に位置する。なお、下記(A)〜(C)の温度は第一温度検出手段21および第二温度検出手段22とは別の放射温度計により光学ガラスa自体を直接測定した結果である。
【0070】
【表1】

【0071】
表1より、測定箇所(A)での測定温度は945℃であり、前述のとおり粘度は2.0以下であった。また中央部(B)および他端部(C)における光学ガラスaの温度は軟化点以上で失透析出温度以下に調節することができた。このような条件で製造された光学ガラスaの板状成形品は、脈理や失透等の不良は全く発生していなかった。
【0072】
[比較例]
比較例では、他端部において、ヒーター3により成形型2を連続的に加熱せず、溶融ガラスGの温度を軟化点以上失透析出温度以下となるように調整しなかった以外は、実施例と同様に行った。結果を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
表2より、他端部である測定箇所(B)および(C)は、光学ガラスAの温度が軟化点を下回ってしまった。この結果、ガラス成形体は、板状ガラスの角が丸くなってしまい、成形型2の内面形状を適切に反映した板状ガラスが成形できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明のガラス成形体の製造方法の製造装置を上から見た図である。
【図2】本発明のガラス成形体の製造方法の製造装置の立体図である。
【図3】溶融ガラスの温度と粘度η(dPa・s)の対数logηとの関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0076】
1 流出口
2 成形型
21 第一温度計測手段
22 第二温度計測手段
3 ヒーター
4 アニール装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の幅を有する成形型の一端部に、溶融ガラスを流出口から連続的に流下しながら、前記成形型の他端部から前記溶融ガラスを引き出すことによりガラスを連続的に成形するガラス成形体の製造方法において、
前記一端部において、前記溶融ガラスの温度が失透消失温度以下であって、かつ、前記溶融ガラスの粘度η(dPa・s)の対数logηが2.0以下となる範囲の温度に冷却し、
前記成形型上において、前記溶融ガラスの温度を軟化点以上に保持することを特徴とするガラス成形体の製造方法。
【請求項2】
前記溶融ガラスが流下する前記流出口から前記一端部において、前記成形型内に包含される冷却手段により前記溶融ガラスを急冷する請求項1に記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項3】
前記成形型の中央部および前記他端部において、前記溶融ガラスは、軟化点以上失透析出温度以下の温度範囲に保持される請求項1または2に記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項4】
前記成形型の少なくとも一方の側面あるいは底面を加熱することにより、前記溶融ガラスを軟化点以上失透析出温度以下の温度範囲に保持する請求項1から3のいずれかに記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項5】
前記成形型の一端部における前記溶融ガラスの冷却速度が0.1〜0.5℃/secであり、前記成形型の中央部から他端部において、ガラスの冷却速度が5.0×10−3〜40.0×10−3℃/secである請求項1から4のいずれかに記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項6】
前記溶融ガラスの温度を調整することで前記溶融ガラスの粘度η(dPa・s)の対数logηを調整する請求項1から5のいずれかに記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項7】
前記一端部および前記他端部の前記溶融ガラスの温度が、それぞれ予め設定された温度になるように前記成形型を冷却、加熱する請求項1から6のいずれかに記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項8】
前記成形型の側面に第一温度検出手段を設け、前記第一温度検出手段により前記溶融ガラス側面の温度を測定する請求項7に記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項9】
さらに前記成形型の一端部の上方、背面、側面または底面に第二温度検出手段を設け、前記第二温度検出手段により前記溶融ガラスの一端部周囲の温度を測定する請求項7に記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項10】
前記第一温度検出手段および前記第二温度検出手段により検出された前記溶融ガラスの温度に基づき、前記溶融ガラスの引き出し速度、前記溶融ガラスが流下する前記一端部での冷却速度、前記成形型側面の加熱強度を連続的または断続的に変更可能に調整する請求項8または9に記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載のガラス成形体の製造方法をコンピュータに実行させるための制御プログラム。
【請求項12】
請求項1から10のいずれかに記載のガラス成形体の製造方法をコンピュータに実行させるための制御プログラムを格納した記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−105876(P2008−105876A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288618(P2006−288618)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)