ガラス成形体の製造方法、光学素子及び光学機器
【課題】失透が高度に抑制されたガラス成形体を連続して製造できる方法、並びに失透が高度に抑制された光学素子及び光学機器を提供すること。
【解決手段】溶融ガラスMGを成形型10に受け、流動させながら成形するガラス成形体の製造方法は、成形型10の上を流動する溶融ガラスMGの上面及び/又は下面を冷却する工程を有し、この冷却は、溶融ガラスMGの幅方向に関する中央部において、両端部よりも高度に行う。冷却は、溶融ガラスMGの幅方向の両端部を除いて行うことが好ましい。
【解決手段】溶融ガラスMGを成形型10に受け、流動させながら成形するガラス成形体の製造方法は、成形型10の上を流動する溶融ガラスMGの上面及び/又は下面を冷却する工程を有し、この冷却は、溶融ガラスMGの幅方向に関する中央部において、両端部よりも高度に行う。冷却は、溶融ガラスMGの幅方向の両端部を除いて行うことが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスの成形技術に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、溶融ガラスを板状或いは棒状に連続して成形する場合、溶融ガラスを成形ロール間に流し成形ロールの回転により成形ガラスを送り出す方法(複ロール法)や、成形型の一端から溶融ガラスを引き出す方法等が行われている。特許文献1及び2には、これらの方法における溶融ガラスの上面に冷却板を接触させ、冷却することで、ガラス成形体の製造効率を向上する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−292274号公報
【特許文献2】特開2002−265229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の方法では、固化過程のガラス内部における温度差が大きく、相対的に高温の柔らかい部分と、相対的に低温の硬い部分との間に失透が生じやすい。特許文献2は、溶融ガラスの幅方向に関する端部及び中央部の粘性化の速度が異なることに着目し、端部及び中央部を異なるタイミングで冷却することを提案しているが、失透が十分に抑制されているとは言い難い。失透は、光学素子等の用途に使用されるガラス成形体にとって致命的な問題であるため、更なる抑制が要請される。
【0005】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、失透が高度に抑制されたガラス成形体を連続して製造できる方法、並びに失透が高度に抑制された光学素子及び光学機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、溶融ガラスの幅方向に関する中央部において、両端部よりも高度に冷却を行うことで、失透が高度に抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0007】
(1) 溶融ガラスを成形型に受け、流動させながら成形するガラス成形体の製造方法であって、
前記成形型の上を流動する溶融ガラスの上面及び/又は下面を冷却する工程を有し、
前記冷却は、前記溶融ガラスの幅方向に関する中央部において、両端部よりも高度に行う製造方法。
【0008】
(2) 前記冷却は、前記溶融ガラスの幅方向の両端部を除いて行う(1)記載の製造方法。
【0009】
(3) 前記冷却は、前記溶融ガラスの幅の20%以上70%以下の部分に対して行う(2)記載の製造方法。
【0010】
(4) 前記冷却は、前記溶融ガラスの上面及び下面に対して行う(1)から(3)いずれか記載の製造方法。
【0011】
(5) 前記溶融ガラスの平均厚みを40mm以下にする(1)から(4)いずれか記載の製造方法。
【0012】
(6) ガラス成形体の平均幅に対する平均厚みの比を1/16以上1/3以下にする(1)から(5)いずれか記載の製造方法。
【0013】
(7) 前記冷却する溶融ガラスの長さを、前記溶融ガラスの幅方向に関する中央に進むにつれ大きくする(1)から(6)いずれか記載の製造方法。
【0014】
(8) 前記溶融ガラスの幅方向に関する両側の面を加熱する工程をさらに有する(1)から(7)いずれか記載の製造方法。
【0015】
(9) (1)から(8)いずれか記載の製造方法により製造されるガラス成形体から形成される光学素子。
【0016】
(10) (9)記載の光学素子を用いた光学機器。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、溶融ガラスを流動させながら、その幅方向に関する中央部において両端部より高度に冷却することで、失透が高度に抑制されたガラスを連続的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るガラス成形体の製造方法が行われている状態を示す図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るガラス成形体の製造方法が行われている状態を示す図であり、図2は図1のII−II線断面図である。本実施形態に係る方法では、溶融ガラスMGを成形型10に受け、流動させながら成形することで、ガラス成形体を連続的に製造する。
【0021】
成形型10は、供給管20の下方に位置する底面15を有し、この底面15に供給管20から溶融ガラスMGが供給される。溶融ガラスMGは、成形型10の一端側(図1の下側)に位置するローラ等(図示しない)によって引き出されることで、成形型の端部へと流動していく。なお、この技術自体は周知技術であるため、説明を省略する。
【0022】
ここで、底面15の他端にはストッパ17が設けられているため、溶融ガラスMGの逆流が防がれ、供給された溶融ガラスが円滑に所望方向へと流動する。また、底面15には側壁11,13が互いに間隔をあけて立設されており、側壁11,13の間隔によって溶融ガラスMGの幅Wが規定される。
【0023】
このように溶融ガラスMGは、供給管20から供給された後、底面15上で固化し、成形型10の一端側へと引き出されていくが、この工程に要する時間を短縮し、ガラス成形体の製造効率を向上するためには、溶融ガラスMGの固化を迅速化することが望ましい。そこで、本発明の方法は、底面15の上を流動する溶融ガラスMGの上面及び/又は下面を冷却する工程を有する。本実施形態では、上冷却板31が溶融ガラスMGの上面を冷却し、下冷却板33が溶融ガラスMGの下面を冷却し、溶融ガラスMGの上下面を冷却している。
【0024】
本発明における「冷却」は、溶融ガラスから冷媒へと能動的に熱エネルギを移行させることを指し、冷却には自然現象による受動的な放冷は包含されない。また、冷媒は固体、液体、気体等のいずれであってもよい。上冷却板31及び下冷却板33には、水等の液体を導入及び導出する手段(図示せず)が設けられているが、これに特に限定されない。
【0025】
従来、溶融ガラスMGの幅方向(図1の左右方向)に関する温度差を低減する目的で、溶融ガラスMGを幅方向に関して均等に冷却することが一般的であった。しかし、本発明者は、溶融ガラスの幅方向に関して均等に冷却すると、端部が中央部よりも早く低温化し、端部と中央部との温度差が生じることが失透の主原因であることを発見した。
【0026】
従って、本発明の方法では、溶融ガラスMGの幅方向に関する中央部において、両端部よりも高度に行う。これにより、結果的には中央部と両端部との温度差が縮小するため、失透を大幅に抑制できる。なお、本発明における「幅方向」とは溶融ガラスの流動方向に直交する方向を指し、溶融ガラスの中央部を両端部よりも高度に冷却するとは、中央部を冷却しつつ、成形工程全体において両端部の冷却を実質的に行わないことを指す。なお、「実質的に行わない」とは、完全に冷却を行わない態様のみならず、失透に影響を与えない程度に両端部を僅かに冷却する迂回態様も包含する。
【0027】
前述のように冷却の態様は特に限定されないが、冷却板のような定容積の物体を冷媒として用いることは、冷却範囲を正確に決定できる点で、本発明では特に有利である。本実施形態では、上冷却板31及び下冷却板33が溶融ガラスMGの中央部のみと対向し、端部とは対向していない。これにより、冷却が溶融ガラスMGの幅方向の両端部を除いて行われるため、両端部の低温化がより抑制され、失透をより抑制できる。
【0028】
なお、図2では、上冷却板31が溶融ガラスMGの上面に接触して冷却し、下冷却板33は底面15を介して溶融ガラスMGの下面を間接的に冷却しているが、具体的な冷却方式は特に限定されるものではない。例えば、上冷却板31は溶融ガラスMGの上面を被覆する被覆板の上に載置され、被覆板を介して間接的に溶融ガラスMGを冷却してもよく、下冷却板33は溶融ガラスMGの下面に接触するよう底面15に埋め込まれていてもよい。
【0029】
溶融ガラスMGの冷却される部分は、幅方向に関して広すぎると、外側に過剰に低温化する部分が現れ、得られる成形体の形状が不良になるおそれがある一方、狭すぎると、溶融ガラスの固化が遅延し、ガラス成形体の製造効率を十分に向上できないおそれがある。そこで、冷却は、溶融ガラスMGの幅Wの20%以上70%以下の部分に対して行うことが好ましい。この下限は、より好ましくは30%であり、最も好ましくは40%である。上限は、より好ましくは60%であり、最も好ましくは50%である。
【0030】
なお、上記比率は、流動方向に関し、冷却を行っている部分の平均値である。例えば上冷却板31の幅が一定でない本実施形態のように、冷却する部分の幅が流動方向に関して一定でない場合、上記比率はα/W(式中、αは上冷却板31の幅平均値を指す)で表されることになる。
【0031】
本発明において、冷却される溶融ガラスMGの長さを、溶融ガラスMGの幅方向に関する中央に進むにつれ大きくすることもできる。これにより、溶融ガラス内の温度をより均質化することができる。本実施形態では、上冷却板31が拡幅部313を有し、これにより本体311に接触する溶融ガラスMGの長さLが中央部の外側より中央の方が大きい。ただし、これに限られず、例えば、上冷却板31内部に複数の流路を形成し、中央の流路には相対的に低温の冷媒、外側の流路には相対的に高温の冷媒を供給したり、冷媒の流通量を中央が外側より大きくしたりしてもよい。
【0032】
本実施形態のように、溶融ガラスMGの中央部を両側部よりも高度に行う冷却は、上面及び下面の一方のみに行ってもよく、また冷却自体を上面及び下面の一方のみに行ってもよい。ただし、上面及び下面の双方について行うことが、溶融ガラスMG内部の厚み方向に関する温度差も抑制され、失透をより抑制できる点で好ましい。これにより、溶融ガラスMGの厚みの許容範囲が広がり、片方のみの冷却では高品質の成形ガラスを製造することが困難な厚み、例えば35mm以上の厚みを有する溶融ガラスから高品質の成形ガラスを製造することもできる。なお、溶融ガラスの上面及び下面の双方について、溶融ガラスMGの中央部を両側部よりも高度に冷却を行う場合にも、上面及び下面の冷却の程度は互いに同様でも異なってもよく、例えば上冷却板31及び下冷却板33の形状及び配置が一致しても異なっていてもよい。
【0033】
本発明の方法によれば、溶融ガラス内部の温度差のうち、失透に最も影響する幅方向に関する温度差が抑制されるが、溶融ガラスの厚みが過大であると、厚み方向に関する中央の低温化が遅延し、厚み方向に関する温度差が生じやすい。そこで、溶融ガラスの平均厚みを40mm以下にすることが好ましく、より好ましくは35mm以下、最も好ましくは30mm以下である。
【0034】
また、本発明の方法によれば、溶融ガラスの幅方向に関する両端部と中央部との温度差が縮小されるが、幅及び厚みのバランスが悪いと、厚み方向の中央が固化するのに時間を要し失透が生じたり、幅方向の両側部が過剰に冷却されてガラス成形体にクラックが生じたりするおそれがある。そこで、ガラス成形体の平均幅に対する平均厚みの比が1/16以上1/3以下になるように成形を行うことが好ましい。この下限は、より好ましくは1/10であり、最も好ましくは1/8以下である。上限は、より好ましくは1/6であり、最も好ましくは1/7以下である。
【0035】
溶融ガラスの幅方向に関する両端部の過剰冷却を抑制する点で、本発明に係る方法は、溶融ガラスMGの幅方向に関する両側の面を加熱する工程をさらに有することが好ましい。これにより、ガラス成形体におけるクラックを抑制でき、許容されるガラス成形体形状の自由度を広げることができる。
【0036】
本実施形態では、側壁11,13の側方にバーナ41,43が設けられており、バーナ41,43で側壁11,13を昇温させることで、溶融ガラスMGの幅方向に関する両側の面を間接的に加熱している。ただし、具体的な構成はこれに特に限定されない。また、加熱を行う範囲は、ガラス成形体の形状、溶融ガラスの組成等を考慮して、クラックを効率的に抑制できるよう適宜設定されてよい。
【0037】
このようにして成形型10の他端から引き出されたガラス成形体は、切削及び研磨等を行って、レンズやプリズム等の光学素子にすることができる。本発明は、上記方法で製造されるガラス成形体から形成される光学素子を包含する。ガラス成形体が失透を抑制されているため、光学素子は高品質を有する。また、この光学素子を用いたカメラやプロジェクタ等の光学機器も本発明に包含される。
【実施例】
【0038】
<実施例1>
図1に示される装置を用い、La2O3を主成分とする溶融ガラスからガラス成形体の製造を行った。なお、本実施例において、上冷却板31及び下冷却板33の双方ともαは70mm、Wは160mmであり(α/Wは43.75%)、上冷却板31の長さLは60mm〜80mm、溶融ガラスの平均厚みは20mmであり、ガラス成形体の平均幅に対する平均厚みの比が8:1になるように溶融ガラスを供給した。また、上冷却板31及び下冷却板33には30℃の水を3L/分の量で供給し、バーナ41,43から側壁11,13の加熱を行った。
【0039】
<実施例2>
溶融ガラスの平均厚みは45mmであり、ガラス成形体の平均幅に対する平均厚みの比が3.5:1になるように溶融ガラスを供給した点を除き、実施例1と同様の手順でガラス成形体を製造した。
【0040】
(比較例1)
上冷却板及び下冷却板の幅をWと一致させ、溶融ガラスの幅方向全体を冷却した点を除き、実施例1と同様の手順でガラス成形体の製造を行った。
【0041】
(比較例2)
上冷却板及び下冷却板の幅をWと一致させ、溶融ガラスの幅方向全体を冷却した点を除き、実施例2と同様の手順でガラス成形体の製造を行った。
【0042】
[評価]
実施例及び比較例で製造したガラス成形体100個ずつについて、スライド投光器(照度の強いランプ)と実体顕微鏡により失透の有無を観察し、外観上を目視確認し判定によりクラックの有無を観察した。その結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示されるように、実施例では比較例に比べ、失透及びクラックの双方が少なく、歩留まりが高かった。また、失透、クラック及び歩留まりの各々は、実施例1及び2の間では大きく異ならないのに対し、比較例1及び2の間では大きく異なっていた。これにより、本実施例の方法によれば、高品質のガラス成形体を広い自由度で製造できることが分かった。
【符号の説明】
【0045】
10 成形型
11,13 側壁
15 底面
17 ストッパ
20 供給管
30 冷却装置
31 上冷却板
311 本体
313 拡幅部
33 下冷却板
40 加熱装置
41,43 バーナ
MG 溶融ガラス
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスの成形技術に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、溶融ガラスを板状或いは棒状に連続して成形する場合、溶融ガラスを成形ロール間に流し成形ロールの回転により成形ガラスを送り出す方法(複ロール法)や、成形型の一端から溶融ガラスを引き出す方法等が行われている。特許文献1及び2には、これらの方法における溶融ガラスの上面に冷却板を接触させ、冷却することで、ガラス成形体の製造効率を向上する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−292274号公報
【特許文献2】特開2002−265229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の方法では、固化過程のガラス内部における温度差が大きく、相対的に高温の柔らかい部分と、相対的に低温の硬い部分との間に失透が生じやすい。特許文献2は、溶融ガラスの幅方向に関する端部及び中央部の粘性化の速度が異なることに着目し、端部及び中央部を異なるタイミングで冷却することを提案しているが、失透が十分に抑制されているとは言い難い。失透は、光学素子等の用途に使用されるガラス成形体にとって致命的な問題であるため、更なる抑制が要請される。
【0005】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、失透が高度に抑制されたガラス成形体を連続して製造できる方法、並びに失透が高度に抑制された光学素子及び光学機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、溶融ガラスの幅方向に関する中央部において、両端部よりも高度に冷却を行うことで、失透が高度に抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0007】
(1) 溶融ガラスを成形型に受け、流動させながら成形するガラス成形体の製造方法であって、
前記成形型の上を流動する溶融ガラスの上面及び/又は下面を冷却する工程を有し、
前記冷却は、前記溶融ガラスの幅方向に関する中央部において、両端部よりも高度に行う製造方法。
【0008】
(2) 前記冷却は、前記溶融ガラスの幅方向の両端部を除いて行う(1)記載の製造方法。
【0009】
(3) 前記冷却は、前記溶融ガラスの幅の20%以上70%以下の部分に対して行う(2)記載の製造方法。
【0010】
(4) 前記冷却は、前記溶融ガラスの上面及び下面に対して行う(1)から(3)いずれか記載の製造方法。
【0011】
(5) 前記溶融ガラスの平均厚みを40mm以下にする(1)から(4)いずれか記載の製造方法。
【0012】
(6) ガラス成形体の平均幅に対する平均厚みの比を1/16以上1/3以下にする(1)から(5)いずれか記載の製造方法。
【0013】
(7) 前記冷却する溶融ガラスの長さを、前記溶融ガラスの幅方向に関する中央に進むにつれ大きくする(1)から(6)いずれか記載の製造方法。
【0014】
(8) 前記溶融ガラスの幅方向に関する両側の面を加熱する工程をさらに有する(1)から(7)いずれか記載の製造方法。
【0015】
(9) (1)から(8)いずれか記載の製造方法により製造されるガラス成形体から形成される光学素子。
【0016】
(10) (9)記載の光学素子を用いた光学機器。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、溶融ガラスを流動させながら、その幅方向に関する中央部において両端部より高度に冷却することで、失透が高度に抑制されたガラスを連続的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るガラス成形体の製造方法が行われている状態を示す図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るガラス成形体の製造方法が行われている状態を示す図であり、図2は図1のII−II線断面図である。本実施形態に係る方法では、溶融ガラスMGを成形型10に受け、流動させながら成形することで、ガラス成形体を連続的に製造する。
【0021】
成形型10は、供給管20の下方に位置する底面15を有し、この底面15に供給管20から溶融ガラスMGが供給される。溶融ガラスMGは、成形型10の一端側(図1の下側)に位置するローラ等(図示しない)によって引き出されることで、成形型の端部へと流動していく。なお、この技術自体は周知技術であるため、説明を省略する。
【0022】
ここで、底面15の他端にはストッパ17が設けられているため、溶融ガラスMGの逆流が防がれ、供給された溶融ガラスが円滑に所望方向へと流動する。また、底面15には側壁11,13が互いに間隔をあけて立設されており、側壁11,13の間隔によって溶融ガラスMGの幅Wが規定される。
【0023】
このように溶融ガラスMGは、供給管20から供給された後、底面15上で固化し、成形型10の一端側へと引き出されていくが、この工程に要する時間を短縮し、ガラス成形体の製造効率を向上するためには、溶融ガラスMGの固化を迅速化することが望ましい。そこで、本発明の方法は、底面15の上を流動する溶融ガラスMGの上面及び/又は下面を冷却する工程を有する。本実施形態では、上冷却板31が溶融ガラスMGの上面を冷却し、下冷却板33が溶融ガラスMGの下面を冷却し、溶融ガラスMGの上下面を冷却している。
【0024】
本発明における「冷却」は、溶融ガラスから冷媒へと能動的に熱エネルギを移行させることを指し、冷却には自然現象による受動的な放冷は包含されない。また、冷媒は固体、液体、気体等のいずれであってもよい。上冷却板31及び下冷却板33には、水等の液体を導入及び導出する手段(図示せず)が設けられているが、これに特に限定されない。
【0025】
従来、溶融ガラスMGの幅方向(図1の左右方向)に関する温度差を低減する目的で、溶融ガラスMGを幅方向に関して均等に冷却することが一般的であった。しかし、本発明者は、溶融ガラスの幅方向に関して均等に冷却すると、端部が中央部よりも早く低温化し、端部と中央部との温度差が生じることが失透の主原因であることを発見した。
【0026】
従って、本発明の方法では、溶融ガラスMGの幅方向に関する中央部において、両端部よりも高度に行う。これにより、結果的には中央部と両端部との温度差が縮小するため、失透を大幅に抑制できる。なお、本発明における「幅方向」とは溶融ガラスの流動方向に直交する方向を指し、溶融ガラスの中央部を両端部よりも高度に冷却するとは、中央部を冷却しつつ、成形工程全体において両端部の冷却を実質的に行わないことを指す。なお、「実質的に行わない」とは、完全に冷却を行わない態様のみならず、失透に影響を与えない程度に両端部を僅かに冷却する迂回態様も包含する。
【0027】
前述のように冷却の態様は特に限定されないが、冷却板のような定容積の物体を冷媒として用いることは、冷却範囲を正確に決定できる点で、本発明では特に有利である。本実施形態では、上冷却板31及び下冷却板33が溶融ガラスMGの中央部のみと対向し、端部とは対向していない。これにより、冷却が溶融ガラスMGの幅方向の両端部を除いて行われるため、両端部の低温化がより抑制され、失透をより抑制できる。
【0028】
なお、図2では、上冷却板31が溶融ガラスMGの上面に接触して冷却し、下冷却板33は底面15を介して溶融ガラスMGの下面を間接的に冷却しているが、具体的な冷却方式は特に限定されるものではない。例えば、上冷却板31は溶融ガラスMGの上面を被覆する被覆板の上に載置され、被覆板を介して間接的に溶融ガラスMGを冷却してもよく、下冷却板33は溶融ガラスMGの下面に接触するよう底面15に埋め込まれていてもよい。
【0029】
溶融ガラスMGの冷却される部分は、幅方向に関して広すぎると、外側に過剰に低温化する部分が現れ、得られる成形体の形状が不良になるおそれがある一方、狭すぎると、溶融ガラスの固化が遅延し、ガラス成形体の製造効率を十分に向上できないおそれがある。そこで、冷却は、溶融ガラスMGの幅Wの20%以上70%以下の部分に対して行うことが好ましい。この下限は、より好ましくは30%であり、最も好ましくは40%である。上限は、より好ましくは60%であり、最も好ましくは50%である。
【0030】
なお、上記比率は、流動方向に関し、冷却を行っている部分の平均値である。例えば上冷却板31の幅が一定でない本実施形態のように、冷却する部分の幅が流動方向に関して一定でない場合、上記比率はα/W(式中、αは上冷却板31の幅平均値を指す)で表されることになる。
【0031】
本発明において、冷却される溶融ガラスMGの長さを、溶融ガラスMGの幅方向に関する中央に進むにつれ大きくすることもできる。これにより、溶融ガラス内の温度をより均質化することができる。本実施形態では、上冷却板31が拡幅部313を有し、これにより本体311に接触する溶融ガラスMGの長さLが中央部の外側より中央の方が大きい。ただし、これに限られず、例えば、上冷却板31内部に複数の流路を形成し、中央の流路には相対的に低温の冷媒、外側の流路には相対的に高温の冷媒を供給したり、冷媒の流通量を中央が外側より大きくしたりしてもよい。
【0032】
本実施形態のように、溶融ガラスMGの中央部を両側部よりも高度に行う冷却は、上面及び下面の一方のみに行ってもよく、また冷却自体を上面及び下面の一方のみに行ってもよい。ただし、上面及び下面の双方について行うことが、溶融ガラスMG内部の厚み方向に関する温度差も抑制され、失透をより抑制できる点で好ましい。これにより、溶融ガラスMGの厚みの許容範囲が広がり、片方のみの冷却では高品質の成形ガラスを製造することが困難な厚み、例えば35mm以上の厚みを有する溶融ガラスから高品質の成形ガラスを製造することもできる。なお、溶融ガラスの上面及び下面の双方について、溶融ガラスMGの中央部を両側部よりも高度に冷却を行う場合にも、上面及び下面の冷却の程度は互いに同様でも異なってもよく、例えば上冷却板31及び下冷却板33の形状及び配置が一致しても異なっていてもよい。
【0033】
本発明の方法によれば、溶融ガラス内部の温度差のうち、失透に最も影響する幅方向に関する温度差が抑制されるが、溶融ガラスの厚みが過大であると、厚み方向に関する中央の低温化が遅延し、厚み方向に関する温度差が生じやすい。そこで、溶融ガラスの平均厚みを40mm以下にすることが好ましく、より好ましくは35mm以下、最も好ましくは30mm以下である。
【0034】
また、本発明の方法によれば、溶融ガラスの幅方向に関する両端部と中央部との温度差が縮小されるが、幅及び厚みのバランスが悪いと、厚み方向の中央が固化するのに時間を要し失透が生じたり、幅方向の両側部が過剰に冷却されてガラス成形体にクラックが生じたりするおそれがある。そこで、ガラス成形体の平均幅に対する平均厚みの比が1/16以上1/3以下になるように成形を行うことが好ましい。この下限は、より好ましくは1/10であり、最も好ましくは1/8以下である。上限は、より好ましくは1/6であり、最も好ましくは1/7以下である。
【0035】
溶融ガラスの幅方向に関する両端部の過剰冷却を抑制する点で、本発明に係る方法は、溶融ガラスMGの幅方向に関する両側の面を加熱する工程をさらに有することが好ましい。これにより、ガラス成形体におけるクラックを抑制でき、許容されるガラス成形体形状の自由度を広げることができる。
【0036】
本実施形態では、側壁11,13の側方にバーナ41,43が設けられており、バーナ41,43で側壁11,13を昇温させることで、溶融ガラスMGの幅方向に関する両側の面を間接的に加熱している。ただし、具体的な構成はこれに特に限定されない。また、加熱を行う範囲は、ガラス成形体の形状、溶融ガラスの組成等を考慮して、クラックを効率的に抑制できるよう適宜設定されてよい。
【0037】
このようにして成形型10の他端から引き出されたガラス成形体は、切削及び研磨等を行って、レンズやプリズム等の光学素子にすることができる。本発明は、上記方法で製造されるガラス成形体から形成される光学素子を包含する。ガラス成形体が失透を抑制されているため、光学素子は高品質を有する。また、この光学素子を用いたカメラやプロジェクタ等の光学機器も本発明に包含される。
【実施例】
【0038】
<実施例1>
図1に示される装置を用い、La2O3を主成分とする溶融ガラスからガラス成形体の製造を行った。なお、本実施例において、上冷却板31及び下冷却板33の双方ともαは70mm、Wは160mmであり(α/Wは43.75%)、上冷却板31の長さLは60mm〜80mm、溶融ガラスの平均厚みは20mmであり、ガラス成形体の平均幅に対する平均厚みの比が8:1になるように溶融ガラスを供給した。また、上冷却板31及び下冷却板33には30℃の水を3L/分の量で供給し、バーナ41,43から側壁11,13の加熱を行った。
【0039】
<実施例2>
溶融ガラスの平均厚みは45mmであり、ガラス成形体の平均幅に対する平均厚みの比が3.5:1になるように溶融ガラスを供給した点を除き、実施例1と同様の手順でガラス成形体を製造した。
【0040】
(比較例1)
上冷却板及び下冷却板の幅をWと一致させ、溶融ガラスの幅方向全体を冷却した点を除き、実施例1と同様の手順でガラス成形体の製造を行った。
【0041】
(比較例2)
上冷却板及び下冷却板の幅をWと一致させ、溶融ガラスの幅方向全体を冷却した点を除き、実施例2と同様の手順でガラス成形体の製造を行った。
【0042】
[評価]
実施例及び比較例で製造したガラス成形体100個ずつについて、スライド投光器(照度の強いランプ)と実体顕微鏡により失透の有無を観察し、外観上を目視確認し判定によりクラックの有無を観察した。その結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示されるように、実施例では比較例に比べ、失透及びクラックの双方が少なく、歩留まりが高かった。また、失透、クラック及び歩留まりの各々は、実施例1及び2の間では大きく異ならないのに対し、比較例1及び2の間では大きく異なっていた。これにより、本実施例の方法によれば、高品質のガラス成形体を広い自由度で製造できることが分かった。
【符号の説明】
【0045】
10 成形型
11,13 側壁
15 底面
17 ストッパ
20 供給管
30 冷却装置
31 上冷却板
311 本体
313 拡幅部
33 下冷却板
40 加熱装置
41,43 バーナ
MG 溶融ガラス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスを成形型に受け、流動させながら成形するガラス成形体の製造方法であって、
前記成形型の上を流動する溶融ガラスの上面及び/又は下面を冷却する工程を有し、
前記冷却は、前記溶融ガラスの幅方向に関する中央部において、両端部よりも高度に行う製造方法。
【請求項2】
前記冷却は、前記溶融ガラスの幅方向の両端部を除いて行う請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記冷却は、前記溶融ガラスの幅の20%以上70%以下の部分に対して行う請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記冷却は、前記溶融ガラスの上面及び下面に対して行う請求項1から3いずれか記載の製造方法。
【請求項5】
前記溶融ガラスの平均厚みを40mm以下にする請求項1から4いずれか記載の製造方法。
【請求項6】
ガラス成形体の平均幅に対する平均厚みの比を1/16以上1/3以下にする請求項1から5いずれか記載の製造方法。
【請求項7】
前記冷却する溶融ガラスの長さを、前記溶融ガラスの幅方向に関する中央に進むにつれ大きくする請求項1から6いずれか記載の製造方法。
【請求項8】
前記溶融ガラスの幅方向に関する両側の面を加熱する工程をさらに有する請求項1から7いずれか記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8いずれか記載の製造方法により製造されるガラス成形体から形成される光学素子。
【請求項10】
請求項9記載の光学素子を用いた光学機器。
【請求項1】
溶融ガラスを成形型に受け、流動させながら成形するガラス成形体の製造方法であって、
前記成形型の上を流動する溶融ガラスの上面及び/又は下面を冷却する工程を有し、
前記冷却は、前記溶融ガラスの幅方向に関する中央部において、両端部よりも高度に行う製造方法。
【請求項2】
前記冷却は、前記溶融ガラスの幅方向の両端部を除いて行う請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記冷却は、前記溶融ガラスの幅の20%以上70%以下の部分に対して行う請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記冷却は、前記溶融ガラスの上面及び下面に対して行う請求項1から3いずれか記載の製造方法。
【請求項5】
前記溶融ガラスの平均厚みを40mm以下にする請求項1から4いずれか記載の製造方法。
【請求項6】
ガラス成形体の平均幅に対する平均厚みの比を1/16以上1/3以下にする請求項1から5いずれか記載の製造方法。
【請求項7】
前記冷却する溶融ガラスの長さを、前記溶融ガラスの幅方向に関する中央に進むにつれ大きくする請求項1から6いずれか記載の製造方法。
【請求項8】
前記溶融ガラスの幅方向に関する両側の面を加熱する工程をさらに有する請求項1から7いずれか記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8いずれか記載の製造方法により製造されるガラス成形体から形成される光学素子。
【請求項10】
請求項9記載の光学素子を用いた光学機器。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2012−25643(P2012−25643A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168262(P2010−168262)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
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