キシラン誘導体前駆体、キシラン誘導体、キシラングラフトコポリマー、及びこれらの製造方法、並びに、ポリマー成形体
【課題】未利用バイオマスを有効利用でき、プラスチック材料として用いることができるキシラン誘導体及びその製造方法、該キシラン誘導体の前駆体及びその製造方法、キシラングラフトコポリマー及びその製造方法、並びに、ポリマー成形体の提供。
【解決手段】下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランにおける水酸基の水素原子の少なくともいずれかが、ハロゲン含有基又はアジド基を有する置換基に置換されているキシラン誘導体前駆体及びその製造方法、キシラングラフトコポリマー及びその製造方法、並びに、ポリマー成形体。
【解決手段】下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランにおける水酸基の水素原子の少なくともいずれかが、ハロゲン含有基又はアジド基を有する置換基に置換されているキシラン誘導体前駆体及びその製造方法、キシラングラフトコポリマー及びその製造方法、並びに、ポリマー成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キシラン誘導体前駆体、キシラン誘導体、キシラングラフトコポリマー、及びこれらの製造方法、並びに、ポリマー成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料の大半は、石油をベースとしているが、化石資源は限られていることや、焼却により温室効果を増すこと、石油ベースのプラスチック材料は一般に分解できないことなど、環境保護の観点からその代替材料が望まれている。
【0003】
セルロースは古くから工業材料として利用されており、エステル化あるいはエーテル化などにより熱可塑性プラスチックへと変換され、フィルムや繊維として利用されている。
一般に木材は、セルロース40質量%、ヘミセルロース30質量%、及びリグニン30質量%で構成されている。したがって、セルロースだけでなく、ヘミセルロースも生物由来の材料として有望な資源である。
【0004】
針葉樹や広葉樹等の木材、牧草等の草本類などにおけるヘミセルロースに最も多く含まれる成分であるキシランは、天然多糖類である。
しかしながら、キシランを含むヘミセルロースは、分子量が小さいため高分子材料としての利用が困難であること、分岐構造が多く数種類の糖が複雑に結合しており、植物によってもその組成が異なるため、誘導体化や均質な材料化が困難であることなどの理由により、これまでプラスチック等の材料として利用されないまま廃棄されてきた。
ヘミセルロースのアルキル基などによる誘導体化に関する数少ない研究は存在するが(非特許文献1及び2参照)、置換度が低いなど構造制御は不十分であり、プラスチック材料化には至っていない。
【0005】
したがって、その価値が認められてこなかった未利用バイオマスを有効利用でき、プラスチック材料として用いることができるキシラン誘導体の提供が強く望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Sun, R. C.; Fang, J. M.; Tomkinson, J.; Jones, G. L., Industrial Crops And Products, 1999, 10, 209−218.
【非特許文献2】Fang, J. M.; Sun, R. C.; Fowler, P.; Tomkinson, J.; Hill, C. A. S., Journal Of Applied Polymer Science, 1999, 74, 2301−2311.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、未利用バイオマスを有効利用でき、プラスチック材料として用いることができるキシラン誘導体及びその製造方法、該キシラン誘導体の前駆体及びその製造方法、キシラングラフトコポリマー及びその製造方法、並びに、ポリマー成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ヘミセルロースのプラスチック材料としての利用のためには、遊離水酸基を適切に置換基で保護し、汎用有機溶媒に可溶化する、あるいは熱可塑性を付与し、成型加工性を向上させる必要がある。また、未修飾の糖鎖を誘導体化する際、アルキル基等の低分子量置換基の場合は、反応は比較的容易に進行するが、ポリマー等の高分子量置換基の場合は、効率的に反応を進行させることは困難である。
【0009】
そこで、前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランにおける水酸基の水素原子の少なくともいずれかが、アジド基を有する置換基に置換されているキシラン誘導体が、未利用バイオマスを有効利用でき、プラスチック材料として用いることができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランにおける水酸基の水素原子の少なくともいずれかが、ハロゲン含有基に置換されていることを特徴とするキシラン誘導体前駆体である。
【化1】
ただし、前記構造式(1)において、nは重合度を表す。
<2> キシランのモノマー単位における水酸基の水素原子に対する置換度が2である前記<1>に記載のキシラン誘導体前駆体である。
<3> 下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランと、ハロゲン含有化合物と、を反応させてキシラン誘導体前駆体を製造することを特徴とするキシラン誘導体前駆体の製造方法である。
【化2】
ただし、前記構造式(1)において、nは重合度を表す。
<4> 下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランにおける水酸基の水素原子の少なくともいずれかが、アジド基を有する置換基に置換されていることを特徴とするキシラン誘導体である。
【化3】
ただし、前記構造式(1)において、nは重合度を表す。
<5> キシランのモノマー単位における水酸基の水素原子に対する置換度が2である前記<4>に記載のキシラン誘導体である。
<6> 前記<1>から<2>のいずれかに記載のキシラン誘導体前駆体と、ハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物と、を反応させてキシラン誘導体を製造することを特徴とするキシラン誘導体の製造方法である。
<7> 末端にアルキンを有する化合物と、前記<4>から<5>のいずれかに記載のキシラン誘導体と、を反応させることを特徴とするキシラングラフトコポリマーの製造方法である。
<8> 末端にアルキンを有する化合物が、プロパルギル基を有するポリマーである前記<7>に記載のキシラングラフトコポリマーの製造方法である。
<9> 前記<7>から<8>のいずれかに記載のキシラングラフトコポリマーの製造方法により得られ、キシラン誘導体を主鎖とし、ポリマーを側鎖として有することを特徴とするキシラングラフトコポリマーである。
<10> 前記<4>から<5>のいずれかに記載のキシラン誘導体、及び前記<9>に記載のキシラングラフトコポリマーの少なくともいずれかを含むことを特徴とするポリマー成形体である。
<11> フィルムである前記<10>に記載のポリマー成形体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、未利用バイオマスを有効利用でき、プラスチック材料として用いることができるキシラン誘導体及びその製造方法、該キシラン誘導体の前駆体及びその製造方法、キシラングラフトコポリマー及びその製造方法、並びに、ポリマー成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明のキシラン誘導体前駆体の一例である、ジ−O−(6−ブロモヘキサノイル)−キシランのプロトン核磁気共鳴スペクトルである。
【図2】図2は、本発明のキシラン誘導体前駆体の一例である、ジ−O−(6−ブロモヘキサノイル)−キシランのカーボン核磁気共鳴スペクトルである。
【図3】図3は、本発明のキシラン誘導体の一例である、ジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシランのプロトン核磁気共鳴スペクトルである。
【図4】図4は、本発明のキシラン誘導体の一例である、ジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシランのカーボン核磁気共鳴スペクトルである。
【図5】図5は、本発明のグラフトコポリマーの一例である、ジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシラン−グラフト−ポリL−ラクチドのプロトン核磁気共鳴スペクトルである。
【図6A】図6Aは、本発明のグラフトコポリマーの一例である、ジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシラン−グラフト−ポリL−ラクチドのカーボン核磁気共鳴スペクトルである。
【図6B】図6Bは、図6Aを拡大した図である。
【図6C】図6Cは、図6Bを拡大した図である。
【図7】図7は、本発明のグラフトコポリマーの製造方法に用いたアルキンを有する化合物の一例である、末端プロパルギル化ポリL−ラクチドのプロトン核磁気共鳴スペクトルである。
【図8】図8は、本発明のグラフトコポリマーの製造方法に用いたアルキンを有する化合物の一例である、末端プロパルギル化ポリL−ラクチドのカーボン核磁気共鳴スペクトルである。
【図9】図9は、実施例4で作製したフィルムの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(キシラン誘導体前駆体及びその製造方法)
本発明のキシラン誘導体前駆体は、下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランにおける水酸基の水素原子の少なくともいずれかが、ハロゲン含有基に置換された化合物である。
また、本発明のキシラン誘導体前駆体の製造方法は、下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランと、ハロゲン含有化合物と、を反応させて該キシラン誘導体前駆体を製造する方法である。
以下、キシラン誘導体前駆体の説明と併せて、該キシラン誘導体前駆体の製造方法について説明する。
【化4】
ただし、前記構造式(1)において、nは重合度を表す。前記nとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜500が好ましく、40〜500がより好ましい。
【0014】
<キシラン誘導体前駆体>
前記キシラン誘導体前駆体における、前記ハロゲン含有基としては、特に制限はなく、前記キシラン誘導体前駆体の製造方法において、キシランに反応させるハロゲン含有化合物の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基の末端にハロゲン基を有する置換基などが挙げられる。
前記アルキル基の炭素数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2〜20が好ましく、2〜6がより好ましい。
【0015】
前記ハロゲン含有基の具体例としては、6−ブロモヘキサノイル基、5−ブロモバレリル基、8−ブロモオクタノイル基、11−ブロモウンデカノイル基、16−ブロモヘキサデカノイル基、5−クロロバレリル基などが挙げられる。
【0016】
前記キシランの水酸基の水素原子における前記ハロゲン含有基の置換度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記キシラン誘導体前駆体が、クロロホルムやジメチルホルムアミド等の汎用有機溶媒に可溶な範囲で置換されていることが好ましく、キシランのモノマー単位における水酸基の水素原子に対して、置換度が、1〜2であることがより好ましく、2が特に好ましい。
また、前記キシラン誘導体前駆体は、前記キシランの重合体における少なくとも1つの構造単位の水酸基の水素原子が、ハロゲン含有基に置換していればよいが、2つ以上の構成単位における水酸基の水素原子が、ハロゲン含有基に置換していることが好ましい。
前記置換度を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、元素分析法、プロトン核磁気共鳴法、カーボン核磁気共鳴法、赤外分光法などが挙げられる。
【0017】
前記キシラン誘導体前駆体の数平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ポリスチレン(PS)換算で、5,000〜240,000が好ましく、20,000〜240,000がより好ましい。
前記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)、粘度法、末端基定量法、光散乱法などにより測定することができる。
【0018】
前記キシラン誘導体前駆体の具体例としては、ジ−O−(6−ブロモヘキサノイル)−キシラン、ジ−O−(5−ブロモバレリル)キシラン、ジ−O−(8−ブロモオクタノイル)キシラン、ジ−O−(11−ブロモウンデカノイル)キシラン、ジ−O−(16−ブロモヘキサデカノイル)キシラン、ジ−O−(5−クロロバレリル)キシランなどが挙げられる。
【0019】
これらの中でも、前記キシラン誘導体前駆体は、キシランにおける水酸基の水素原子が6−ブロモヘキサノイル基に置換された、下記構造式(2)で表される化合物が好ましい。
【化5】
ただし、前記構造式(2)において、xは重合度を表し、R1及びR2は、下記構造式(A)で表される置換基及び水素原子のいずれかを表す。ただし、前記構造式(2)で表される構造単位を有する重合体において、少なくとも1つの構造単位の前記R1及び前記R2の少なくとも一方は、下記構造式(A)で表される置換基である。
これらの中でも、前記R1及び前記R2が、全て下記構造式(A)で表される置換基であるジ−O−(6−ブロモヘキサノイル)−キシラン(以下、「XylC6Br」と称することがある。)が特に好ましい。
前記xとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜500が好ましく、40〜500がより好ましい。
【化6】
【0020】
前記XylC6Brの物理化学的性質としては、以下の通りである。なお、ここでは重合度xが44.0の、XylC6Brの物理化学的性質を一例として示すが、本発明のキシラン誘導体前駆体はこれに限られるものではない。
【0021】
−XylC6Brの物理化学的性質−
(1)性状:固体
(2)分子量:数平均分子量(Mn)は21,400、重量平均分子量(Mw)は37,600、Mw/Mnは1.76
(3)重クロロホルム中で500MHz、25℃の条件で測定したプロトン核磁気共鳴スペクトルは図1に示す通りであり、チャートは以下の通りである。
1H−NMR(CDCl3):δ1.44(m,2H,−CH2−CH2−CH2−Br),1.59(m,2H,−CO−CH2−CH2−),1.77(m,2H,−CH2−CH2−Br),2.26(s,2H,−CO−CH2−),3.23(C5−Ha),3.54(t,2H,J=6.5,−CH2−Br),3.76(C4−H),3.89(C5−He),4.43(C1−H),4.69(C2−H),5.00(C3−H).
(4)重クロロホルム中で500MHz、25℃の条件で測定したカーボン核磁気共鳴スペクトルは図2に示す通りであり、チャートは以下の通りである。
13C−NMR(CDCl3):δ24.0(−CO−CH2−CH2−),26.3(−CH2−CH2−CH2−Br),32.1(−CH2−CH2−Br),33.7(−CO−CH2−),44.8(−CH2−Br),62.5(C5),70.7(C2),71.7(C3),74.2(C4),99.9(C1),171.7,172.2(CO of C2 and C3,respectively).
なお、1H−NMR及び13C−NMRにおける、ケミカルシフト(δ)及びカップリングコンスタント(J)は、「ppm」及び「Hz」を示す。
【0022】
<キシラン誘導体前駆体の製造方法>
本発明のキシラン誘導体前駆体の製造方法は、前記構造式(1)で表されるキシランと、ハロゲン含有化合物と、を反応させる工程を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
【0023】
<<キシラン>>
前記キシランの重量平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、8,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、12,000以上が特に好ましい。前記キシランは、高分子であるほど、これを用いて製造したキシラン誘導体が、プラスチック材料を形成しやすい点で好ましい。
【0024】
前記キシランの重量平均分子量を確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記キシランは、前記構造式(1)で表される多糖構造を有しており、有機溶媒に不溶であるため、直接測定することが困難である。そのため、例えば、前記キシラン誘導体の重量平均分子量を測定し、該キシラン誘導体の重量平均分子量から算出する方法などが挙げられる。
【0025】
前記キシラン誘導体の重量平均分子量の測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)、粘度法、末端基定量法、光散乱法、などが挙げられる。
【0026】
−キシランの抽出方法−
前記キシランの由来原料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、パルプ原料由来のキシランが、未利用バイオマスを有効利用できる点で好ましい。
前記キシランをパルプ原料から得る方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アルカリ抽出工程を含むことが好ましく、更に必要に応じて、pH調整工程、沈殿工程、洗浄工程、ろ過工程、乾燥工程等のその他の工程を含む。
ヘミセルロースであるキシランは、アルカリ水溶液により抽出可能な点で、セルロースと区別されるが、セルロースと同様に水は汎用の有機溶媒には不溶である。
【0027】
−−アルカリ抽出工程−−
前記パルプ原料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、バイオマス原料から抽出されたものを使用することが好ましく、木材、草本類、ワラ、竹等の原料から抽出されたものであることが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、木材が、前記キシランを多く含む点で好ましい。前記木材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、広葉樹原料、針葉樹原料などが挙げられる。
【0028】
前記パルプ原料は、予め裁断されていることが、効率よくキシランを抽出できる点で好ましい。前記パルプ原料を裁断する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウィレーミル、カッターミル、ハンマーミル、ピンミルなどが挙げられる。なお、前記パルプ原料としては、既に裁断されている市販品を用いてもよい。
【0029】
前記アルカリ溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記アルカリ溶液は、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0030】
前記アルカリ溶液の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5質量%以上が好ましく、16質量%以上がより好ましい。前記アルカリ溶液の濃度が、5質量%未満であると、キシランの回収率が悪くなることや、高分子のキシランを得ることができないことがある。一方、前記アルカリ溶液の濃度が16質量%以上であると、前記キシランの回収率が向上し、高分子のキシランを得ることができる点で好ましい。
前記アルカリ溶液の濃度の上限としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0031】
前記アルカリ抽出を行う時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10時間以上が好ましく、16時間以上が更に好ましい。前記アルカリ抽出の時間が、10時間未満であると、キシランの回収率が悪くなることがある。
前記アルカリ抽出時間の上限としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0032】
前記アルカリ溶液の使用量としては、用いるパルプ原料の量や処理容器の大きさなどにより、適宜選択することができるが、前記パルプ原料100質量部に対して、20質量部〜400質量部が好ましく、100質量部〜320質量部がより好ましい。前記アルカリ溶液の使用量が、20質量部未満であると、前記キシランの回収率が悪くなることがあり、400質量部を超えると、アルカリ濃度が濃すぎてコスト的に不利である。
【0033】
−−pH調整工程−−
前記pH調整工程は、前記アルカリ抽出後のキシランを含む反応液のpHを調整する工程である。
前記pHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5〜8が好ましく、6〜7がより好ましい。前記pHが前記好ましい範囲外であると、後述する沈殿工程において、キシランを含む沈殿を得ることができないことがある。
前記pH調整に用いる試薬としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、塩酸、酢酸、ギ酸等の酸が好ましい。
前記pHを測定する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができる。
【0034】
−−沈殿工程−−
前記沈殿工程は、前記アルカリ抽出後の反応液、更に必要に応じて、前記pH調整工程を経た反応液に含まれるキシランを沈殿させる方法である。前記キシランの製造方法が、前記沈殿工程を含むと、前記キシランの回収率が向上する点で好ましい。
前記沈殿工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、メタノール等の低級アルコールを添加して沈殿させる方法などが挙げられる。
前記低級アルコールの使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記アルカリ抽出物に対して、2倍容量〜10倍容量が好ましく、5倍容量〜10倍容量がより好ましい。前記低級アルコールの使用量が、2倍容量未満であると、キシランの沈殿効率が悪くなることがあり、10倍容量を超えると、コスト的に不利である。
前記沈殿させる温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、低温で行われることが好ましく、0℃〜25℃がより好ましい。
前記沈殿させる時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5時間〜24時間が好ましく、0.5時間〜6時間がより好ましい。
【0035】
−−洗浄工程−−
前記洗浄工程は、前記アルカリ抽出で得られたキシランを含む反応液、更に必要に応じて、前記pH調整工程、前記沈殿工程を経た前記反応液を洗浄する工程である。
前記洗浄に用いる溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、メタノールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記洗浄を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記反応液と前記洗浄用溶媒とを混合し、遠心分離する方法、カラムを用いる方法などが挙げられる。
洗浄回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0036】
−−ろ過工程−−
前記ろ過工程は、前記アルカリ抽出で得られたキシランを含む反応液、更に必要に応じて、前記pH調整工程、前記沈殿工程、前記洗浄工程を経た前記反応液をろ過し、不要物を除去する工程である。また、前記ろ過工程は、前記洗浄工程と同時に行われてもよい。
前記ろ過を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、遠心分離する方法、カラムを用いる方法、フィルターを用いる方法、公知のろ過装置を用いる方法などが挙げられる。これらの処理は、1種単独で行われてもよく、2種以上を組み合わせて行われてもよい。
前記ろ過工程は、前記アルカリ抽出後及び前記沈殿工程後の両方に行われることが、精製度の高いキシランを得ることができる点で好ましい。
【0037】
−−乾燥工程−−
前記乾燥工程は、前記アルカリ抽出で得られたキシランを含む反応液、更に必要に応じて、前記pH調整工程、前記沈殿工程、前記洗浄工程、前記ろ過工程を経た前記反応液を乾燥する工程である。
前記乾燥する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、凍結乾燥法、温風乾燥法、噴霧乾燥法、流動層乾燥法などが挙げられる。
【0038】
<<ハロゲン含有化合物>>
前記ハロゲン含有化合物としては、ハロゲン基を有していれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基の末端にハロゲン基を有する化合物などが挙げられる。
前記アルキル基の炭素数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2〜20が好ましく、2〜6がより好ましい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記ハロゲン含有化合物は、市販品を用いてもよく、公知の方法で合成したものを用いてもよい。
【0039】
前記ハロゲン含有化合物の具体例としては、6−ブロモヘキサノイルクロリド、5−ブロモバレリルクロリド、8−ブロモオクタノイルクロリド、11−ブロモウンデカノイルクロリド、16−ブロモヘキサデカノイルクロリド、5−クロロバレリルクロリドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
<<キシランとハロゲン含有化合物との反応>>
前記キシランと、前記ハロゲン含有化合物と、を反応させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。ここで、「反応」とは、キシランの水酸基の水素原子が、ハロゲン含有基に置換されることをいう。これにより、置換基の末端にハロゲンを有するキシラン誘導体前駆体を得ることができる。
【0041】
前記キシランは、前記ハロゲン含有化合物と反応させる前に溶媒に溶解させておくことが好ましい。
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
前記キシランを前記溶媒に溶解させる溶解温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、25℃〜120℃が好ましく、100℃〜120℃がより好ましい。前記溶解温度が120℃を超えると、溶液の着色などの変質が起こることがある。
【0043】
前記キシランを前記溶媒に溶解させる溶解時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5時間〜24時間が好ましく、0.5時間〜2時間がより好ましい。前記溶解時間が0.5時間未満であると、前記キシランが十分に溶解しないことがある。
【0044】
前記ハロゲン含有化合物の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、キシラン(無水)のモノマー単位に対して、2当量〜4当量が好ましく、3当量〜4当量がより好ましい。前記添加量が、2当量未満であると、キシランの水酸基の水素原子が、ハロゲン含有基に置換されないことや、置換度が不十分であることがあり、4質量部を超えても、それ以上反応率は上がらずコスト的に不利である。
【0045】
前記反応を行う反応温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20℃〜70℃が好ましく、50℃〜70℃がより好ましい。前記反応温度が、20℃未満であると、反応性が悪いことがあり、70℃を超えると、溶液の着色などの変質が起こることがある。
【0046】
前記反応を行う反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、6時間〜48時間が好ましく、18時間〜24時間がより好ましい。前記反応時間が6時間未満であると、反応が十分に進行しないことがあり、48時間を超えると、溶液の着色などの変質が起こることがある。
【0047】
(キシラン誘導体及びその製造方法)
本発明のキシラン誘導体は、下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランにおける水酸基の水素原子の少なくともいずれかが、アジド基を有する置換基に置換されている化合物である。
また、本発明のキシラン誘導体の製造方法は、本発明の前記キシラン誘導体前駆体と、該キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物と、を反応させてキシラン誘導体を製造する方法である。
以下、キシラン誘導体の説明と併せて、該キシラン誘導体の製造方法について説明する。
【化7】
ただし、前記構造式(1)において、nは重合度を表す。前記nとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜500が好ましく、40〜500がより好ましい。
【0048】
<キシラン誘導体>
前記キシラン誘導体における、前記アジド基を有する置換基としては、特に制限はなく、キシラン誘導体前駆体の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、置換基を有していてもよい直鎖のアルキル基の末端にアジド基を有する基などが挙げられる。
前記アルキル基の炭素数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2〜20が好ましく、2〜6がより好ましい。
【0049】
前記アジド基を有する置換基の具体例としては、6−アジドヘキサノイル基、5−アジドバレリル基、8−アジドオクタノイル基、11−アジドウンデカノイル基、16−アジドヘキサデカノイル基などが挙げられる。
【0050】
前記キシランの水酸基の水素原子における前記アジド基を有する置換基の置換度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記キシラン誘導体が、クロロホルムやジメチルホルムアミド等の汎用有機溶媒に可溶な範囲で置換されていることが好ましく、キシランのモノマー単位における水酸基の水素原子に対して、置換度が、1〜2であることがより好ましく、2が特に好ましい。
また、前記キシラン誘導体は、前記キシランの重合体における少なくとも1つの構造単位の水酸基の水素原子が、アジド基を有する置換基に置換していればよいが、2つ以上の構成単位における水酸基の水素原子が、アジド基を有する置換基に置換していることが好ましい。
前記置換度を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、元素分析法、プロトン核磁気共鳴法、カーボン核磁気共鳴法、赤外分光法などが挙げられる。
【0051】
前記キシラン誘導体の数平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ポリスチレン(PS)換算で、4,000〜200,000が好ましく、20,000〜200,000がより好ましい。
前記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)、粘度法、末端基定量法、光散乱法、により測定することができる。
【0052】
前記キシラン誘導体の熱分解温度(TG)としては、高いほど好ましい。
前記熱分解温度は、熱分析装置(例えば、Thermo Plus TG 8120(株式会社リガク製))により測定することができる。
【0053】
前記キシラン誘導体の具体例としては、ジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシラン、ジ−O−(5−アジドバレリル)キシラン、ジ−O−(8−アジドオクタノイル)キシラン、ジ−O−(11−アジドウンデカノイル)キシラン、ジ−O−(16−アジドヘキサデカノイル)キシランなどが挙げられる。
【0054】
これらの中でも、前記キシラン誘導体は、キシランにおける水酸基の水素原子が、6−アジドヘキサノイル基に置換された、下記構造式(3)で表される化合物が好ましい。
【化8】
ただし、前記構造式(3)において、yは重合度を表し、R3及びR4で表される置換基は、下記構造式(B)で表される置換基及び水素原子のいずれかを表す。ただし、前記構造式(3)表される構造単位を有する重合体において、少なくとも1つの構造単位の前記R3及び前記R4の少なくとも一方は、下記構造式(B)で表される置換基である。
これらの中でも、R3及びR4が、全て下記構造式(B)で表される置換基であるジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシラン(以下、「XylC6N3」と称することがある。)が特に好ましい。
前記yとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜500が好ましく、40〜500がより好ましい。
【化9】
【0055】
前記XylC6N3の物理化学的性質としては、以下の通りである。なお、ここでは重合度yが51.4の、XylC6N3の物理化学的性質を一例として示すが、本発明のキシラン誘導体はこれに限られるものではない。
【0056】
−XylC6N3の物理化学的性質−
(1)性状: 固体
(2)分子量:数平均分子量(Mn)は21,100、重量平均分子量(Mw)は37,000、Mw/Mnは1.75
(3)重クロロホルム中で500MHz、25℃の条件で測定したプロトン核磁気共鳴スペクトルは図3に示す通りであり、チャートは以下の通りである。
1H−NMR(CDCl3):δ1.37(m,2H,−CH2−CH2−CH2−N3),1.59(m,4H,−CO−CH2−CH2−,−CH2−CH2−N3),2.25(s,2H,−CO−CH2−),3.22(C5−Ha),3.28(t,2H,J=6.5,−CH2−N3),3.76(m,C4−H),3.90(C5−He),4.43(C1−H),4.69(C2−H),5.00(C3−H).
(4)重クロロホルム中で500MHz、25℃の条件で測定したカーボン核磁気共鳴スペクトルは図4に示す通りであり、チャートは以下の通りである。
13C−NMR(CDCl3):δ24.2(−CO−CH2−CH2−),26.1(−CH2−CH2−CH2−N3),28.5(−CH2−CH2−N3),33.7(−CO−CH2−),51.2(−CH2−N3),62.5(C5),70.7(C2),71.6(C3),74.1(C4),99.8(C1),171.7,172.1(CO of C2 and C3,respectively).
なお、1H−NMR及び13C−NMRにおける、ケミカルシフト(δ)及びカップリングコンスタント(J)は「ppm」及び「Hz」を示す。
【0057】
<キシラン誘導体の製造方法>
本発明の前記キシラン誘導体の製造方法は、前記キシラン誘導体前駆体と、該キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物と、を反応させる工程を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
【0058】
<<キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物>>
前記キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物としては、溶液中でアジ化物イオンを形成できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アジ化ナトリウムが好ましい。
前記キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物は、市販品を用いてもよく、公知の方法で合成したものを用いてもよい。
【0059】
<<キシラン誘導体前駆体と該キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物との反応>>
前記キシラン誘導体前駆体と、前記キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物とを反応させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。ここで、「反応」とは、キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基の末端のハロゲン基がアジド基に置換されることをいう。
【0060】
前記キシラン誘導体前駆体は、前記キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物と反応させる前に、溶媒に溶解させておくことが好ましい。
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性有機溶媒などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
前記キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、キシラン誘導体前駆体のモノマー単位に対して、2当量〜4当量が好ましく、3当量〜4当量がより好ましい。前記添加量が、2当量未満であると、キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基がアジド基に置換されないことや、置換度が不十分であることがあり、4質量部を超えても、それ以上反応率は上がらずコスト的に不利である。
【0062】
前記反応を行う反応温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、25℃〜60℃が好ましく、50℃〜60℃がより好ましい。前記反応温度が25℃未満であると、反応が遅くなることがある。
【0063】
前記反応を行う反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、12時間〜48時間が好ましく、12時間〜24時間がより好ましい。前記反応時間が12時間未満であると、反応が十分に進行しないことがある。
【0064】
セルロースは、6位に水酸基を有しているが、キシランは6位に水酸基を有さず、2位及び3位のみにしか水酸基を有さないため、該キシランのモノマー単位の他の水酸基の保護をすることなしにエステル化を行っても、該水酸基の水素原子の最大置換度が2である誘導体を得ることができる点で有利である。
【0065】
(キシラングラフトコポリマー及びその製造方法)
本発明のキシラングラフトコポリマーの製造方法は、末端にアルキンを有する化合物と、本発明の前記キシラン誘導体と、を反応させてキシラングラフトコポリマーを製造する方法である。
また、本発明のキシラングラフトコポリマーは、本発明の前記キシラングラフトコポリマーの製造方法により得られ、キシラン誘導体を主鎖とし、ポリマーを側鎖として有するキシラングラフトコポリマーである。
本発明のキシラングラフトコポリマーの製造方法は、クリックケミストリーと呼ばれる環化反応に基づき、簡便で効率よくキシラングラフトコポリマーを合成できる点で有利である。
以下、キシラングラフトコポリマーの製造方法の説明と併せて、キシラングラフトコポリマーについて説明する。
【0066】
<キシラングラフトコポリマーの製造方法>
本発明のキシラングラフトコポリマーの製造方法は、末端にアルキンを有する化合物と、本発明の前記キシラン誘導体と、を反応させる工程を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
【0067】
<<アルキンを有する化合物>>
前記末端にアルキンを有する化合物としては、末端にアルキンを有している限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、末端にアルキンを有するポリマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、プロパルギル基を有するポリマーが好ましく、末端にプロパルギル基を有し、生分解性を有するポリマーがより好ましい。また、前記ポリマーの種類としては、ポリエステルが好ましい。
前記末端にアルキンを有する化合物は、市販品を用いてもよく、公知の方法で合成したものを用いてもよい。
【0068】
前記生分解性を有するポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリ乳酸(ポリラクチド)、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
前記末端にアルキンを有する化合物の具体例としては、プロパルギル基を有するポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリε−カプロラクトン、ポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
これらの中でも、前記末端にアルキンを有する化合物としては、下記構造式(4)で表される末端アルキン化ポリL−ラクチドが好ましい。
【化10】
ただし、前記構造式(4)において、zは重合度を表す。前記zとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40〜75が好ましく、75がより好ましい。
【0071】
前記末端にアルキンを有する化合物の合成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記末端にアルキンを有する化合物が前記末端アルキン化ポリL−ラクチドの場合、その合成方法としては、オクチル酸スズ(II)を触媒として含む無水トルエン等の溶媒下で、開始剤としてのプロパルギルアルコールと、L−ラクチドと、を反応させる方法などが挙げられる。ラクチドと、プロパルギルアルコール(開始剤)と、オクチル酸スズ(II)(触媒)との仕込み比を変えることで、種々の重合度の末端アルキン化ポリL−ラクチドを合成することができる。
【0072】
前記末端にアルキンを有する化合物の添加量としては、特に制限はなく、末端にアルキンを有する化合物の種類などに応じて適宜選択することができるが、前記キシラン誘導体のモノマー単位に対して、0.1当量〜2当量が好ましく、0.1当量〜0.13当量がより好ましい。前記添加量が、0.1当量未満であると、キシラン誘導体の側鎖に該末端にアルキンを有する化合物の導入率が不十分になることがある。
【0073】
前記反応を行う反応温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10℃〜30℃が好ましく、15℃〜25℃がより好ましい。30℃を超えると、クロロホルムが揮発し、前記キシラン誘導体や前記末端にアルキンを有する化合物溶解性が低下し、反応効率が悪くなることがある。
【0074】
前記反応を行う反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、12時間〜24時間が好ましく、20時間〜24時間がより好ましい。24時間を超えると反応は完了するため、更なる撹拌はコスト的に不利となることがある。
【0075】
<キシラングラフトコポリマー>
本発明のキシラングラフトコポリマーは、本発明の前記グラフトポリマーの製造方法により好適に得ることができ、前記キシラン誘導体を主鎖とし、ポリマーを側鎖として有する。
【0076】
<<主鎖>>
前記キシラングラフトコポリマーにおける主鎖は、前記キシラン誘導体からなるものであり、その分子鎖長としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0077】
<<側鎖>>
前記キシラングラフトコポリマーにおける側鎖としては、ポリマーであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、生分解性を有するポリマーが好ましく、ポリエステルがより好ましい。
前記側鎖の導入率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、側鎖が1つでもポリマーを有していればよい。
前記キシラングラフトコポリマーにおける側鎖の数は、ポリスチレン(PS)換算の分子量により、下記式1で算出することができる。
N=(X−Y)/Z ・・・式1
前記式1において、Xは、キシラングラフトコポリマーの数平均分子量を表し、Yは、主鎖の数平均分子量を表し、Zは、側鎖の数平均分子量を表す。
【0078】
前記キシラングラフトコポリマーの数平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ポリスチレン(PS)換算で、20,000以上が好ましく、60,000〜300,000がより好ましい。
前記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)、粘度法、末端基定量法、光散乱法などにより測定することができる。
【0079】
前記キシラングラフトコポリマーの種類としては、反応させるキシラン誘導体やポリマーの種類などによって適宜選択することができるが、下記構造式(5)で表されるキシラン−グラフト−ポリL−ラクチド(以下、「XylC6N3−g−PLLA」と称することがある。)が好ましい。
【化11】
ただし、前記構造式(5)において、mは重合度を表し、R5及びR6で表される置換基は、下記構造式(C)で表されるポリマー及び下記構造式(B)で表される置換基のいずれかを表す。ただし、前記構造式(5)表される構造単位を有する重合体において、少なくとも1つの構造単位の前記R5及び前記R6の少なくとも一方は、下記構造式(C)で表されるポリマーである。
前記mとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜500が好ましく、50〜500がより好ましい。
【化12】
ただし、前記構造式(C)において、pは重合度を表す。前記pとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40〜75が好ましく、75がより好ましい。
【化13】
【0080】
前記XylC6N3−g−PLLAの物理化学的性質としては、以下の通りである。なお、ここでは重合度mが51.4のXylC6N3−g−PLLAの物理化学的性質を一例として示すが、本発明のキシラングラフトコポリマーはこれに限られるものではない。
【0081】
−XylC6N3−g−PLLAの物理化学的性質−
(1)性状:固体
(2)分子量:数平均分子量(Mn)は67,600、重量平均分子量(Mw)は106000、Mw/Mnは1.56である。
(3)重クロロホルム中で500MHz、25℃の条件で測定したプロトン核磁気共鳴スペクトルは図5に示す通りであり、チャートは以下の通りである。
1H−NMR(CDCl3):δ1.31(−CH2−CH2−CH2−N3),1.51(CH3(PLLA),−CO−CH2−CH2−,−CH2−CH2−N3),2.18(s,2H,−CO−CH2−),3.21(−CH2−N3,C5−Ha(overlapped)),3.65(C4−H),3.83(C5−He),4.28(C*H(end)),4.37(C1−H),4.62(C2−H),4.94(C3−H),5.09(C*H(PLLA))
(4)重クロロホルム中で500MHz、25℃の条件で測定したカーボン核磁気共鳴スペクトルは図6に示す通りであり、チャートは以下の通りである。
13C−NMR(CDCl3):δ16.6(CH3(PLLA)),20.5(CH3(PLLA,end)),24.2(−CO−CH2−CH2−),26.1(−CH2−CH2−CH2−N3),28.5(−CH2−CH2−N3),33.7(−CO−CH2−),51.2(−CH2−N3),62.5(C5),66.7(C*(PLLA,end)),69.0(C*(PLLA)),70.7(C2),71.7(C3),74.1(C4),99.8(C1),123.6(−N−C=C−),142.1(−N−C=C−),169.6(CO(PLLA)),171.6,172.1(CO of C2 and C3,respectively)
なお、1H−NMR及び13C−NMRにおける、ケミカルシフト(δ)及びカップリングコンスタント(J)は、「ppm」及び「Hz」を示す。
【0082】
(ポリマー成形体)
本発明のポリマー成形体は、少なくとも本発明の前記キシラン誘導体及び本発明の前記キシラングラフトコポリマーの少なくともいずれかを含み、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0083】
前記ポリマー成形体における前記キシラン誘導体及び前記キシラングラフトコポリマーの少なくともいずれかの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、前記ポリマー成形体は、前記キシラン誘導体そのものであってもよく、前記キシラングラフトコポリマーそのものであってもよい。
【0084】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の添加剤などが挙げられる。また、その他の樹脂を混合してもよい。
前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0085】
前記ポリマー成形体の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、フィルム又はファイバーであることが好ましい。
【0086】
<フィルム>
前記フィルムを製造する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記キシラン誘導体及び前記キシラングラフトコポリマーの少なくともいずれかを所望の溶媒に溶解し、所望の容器に入れた後、乾燥させ成形する方法、前記キシラン誘導体及び前記キシラングラフトコポリマーの少なくともいずれかを融点以上の温度で熱溶融させ成型する方法、前記キシラン誘導体及び前記キシラングラフトコポリマーの少なくともいずれかをガラス転移点以上の温度で変形させて成形する方法などが挙げられる。
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等の揮発性の高い有機溶媒などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記溶媒は、クロロホルムが好ましい。
【0087】
前記溶媒の使用量としては、前記キシラン誘導体を溶解することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記キシラン誘導体が溶解できないと、不均一なフィルムが形成されることがある。
【0088】
前記乾燥させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、凍結乾燥法、温風乾燥法、噴霧乾燥法、流動層乾燥法、風乾する方法などが挙げられる。
【0089】
前記フィルムの厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0090】
<用途>
前記ポリマー成形体は、前記キシラン誘導体を含むため石油の代替資源として用いることができ、二酸化炭素を増加させることのない環境に優しい材料として、包装材料、フィルター、不織布などに好適に利用可能である。
【実施例】
【0091】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0092】
(調製例1:広葉樹キシランの抽出)
広葉樹(ユーカリクラフトパルプ、日本製紙株式会社製)50gに10質量%水酸化ナトリウム水溶液1Lを添加し、25℃にて2時間攪拌しながらアルカリ抽出を行った。次いで、これをろ紙(No.1、アドバンテック東洋株式会社製)を用いてろ過し、更に水で洗浄した。次いで、抽出物を酢酸でpH7.0に調整し、これにエタノール(純度99%、和光純薬工業株式会社製)1Lを添加し、25℃にて12時間放置した。次いで、10,000rpmにて10分間遠心分離し、沈殿物としてキシランを回収した。該沈殿物に再度エタノールを添加し、同条件で遠心して沈殿物を洗浄した。この洗浄は合計2回行った。該沈殿物に再度蒸留水を添加し、同条件で遠心して沈殿物を洗浄した。この洗浄は合計3回行った。洗浄後の沈殿物を凍結乾燥により一晩乾燥させ、粉体状の広葉樹キシラン2.4gを得た。収率は4.8質量%であった。
【0093】
(実施例1:ジ−O−(6−ブロモヘキサノイル)−キシランの合成)
下記スキームで示すように、構造式(2)で表されるジ−O−(6−ブロモヘキサノイル)−キシラン(XylC6Br)を合成した。
調製例1で調製した広葉樹キシラン(数平均分子量:約10,000)1.13gをジメチルアセトアミド(DMAc)20mLに分散させ、120℃で2時間撹拌した。反応液の温度を100℃に下げた後、150℃で一晩乾燥させた塩化リチウム(LiCl)を加えた。温度を室温に戻し、反応液が透明になるまで撹拌した。1.5時間後、ジメチルアミノピリジン(DMAP;無水キシロース単位(AXU;anhydro xylose unit)に対して4当量)3.7gと、6−ブロモヘキサン酸クロリド(6−bromohexanoyl chloride;AXUに対して4当量)6.5mLと、を該反応液に加え、70℃で2日間撹拌した。反応終了後、反応液をメタノール800mL中に滴下し、沈殿物をろ過により回収し、メタノール、水による洗浄を行い、減圧乾燥後、下記構造式(2)で表される目的の化合物ジ−O−(6−ブロモヘキサノイル)−キシラン 3.16gを得た。収率は、76.0質量%であった。
【0094】
【化14】
前記構造式(1)及び前記構造式(2)において、n及びxは、それぞれ重合度を表す。
【0095】
<数平均分子量及び重量平均分子量の測定>
XylC6Brの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)により以下に示す測定条件で測定した。なお、Mn及びMwはポリスチレン(PS)換算とした。
その結果、XylC6Brにおける重合度xは44.0であり、数平均分子量(Mn)は21,400、重量平均分子量(Mw)は37,600、Mw/Mnは1.76であった。
[測定条件]
装置 :Shimadzu 10A(株式会社島津製作所製)
カラム :Shodex K−806M/K−802連結カラム(Shodex社製)
カラム温度:40℃
移動層 :クロロホルム
流速 :0.8mL/分間
アプライ :50μL
【0096】
<プロトン核磁気共鳴スペクトル及びカーボン核磁気共鳴スペクトルの測定>
XylC6Brのプロトン核磁気共鳴スペクトル及びカーボン核磁気共鳴スペクトルは、JEOL JNM−A500 FT−NMRにより、重クロロホルム中で500MHz、25℃の条件で測定した。内部標準物質としては、テトラメチルシラン(TMS)を用いた。
プロトン核磁気共鳴スペクトルを図1に、チャートを以下に示す。また、カーボン核磁気共鳴スペクトルを図2に、チャートを以下に示す。この結果、Brの置換度は2であった。なお、ケミカルシフト(δ)及びカップリングコンスタント(J)は「ppm」及び「Hz」を示す。
【0097】
1H−NMR(CDCl3):δ1.44(m,2H,−CH2−CH2−CH2−Br),1.59(m,2H,−CO−CH2−CH2−),1.77(m,2H,−CH2−CH2−Br),2.26(s,2H,−CO−CH2−),3.23(C5−Ha),3.54(t,2H,J=6.5,−CH2−Br),3.76(C4−H),3.89(C5−He),4.43(C1−H),4.69(C2−H),5.00(C3−H).
【0098】
13C−NMR(CDCl3):δ24.0(−CO−CH2−CH2−),26.3(−CH2−CH2−CH2−Br),32.1(−CH2−CH2−Br),33.7(−CO−CH2−),44.8(−CH2−Br),62.5(C5),70.7(C2),71.7(C3),74.2(C4),99.9(C1),171.7,172.2(CO of C2 and C3,respectively).
【0099】
(実施例2:ジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシランの合成)
下記スキームで示すように、構造式(3)で表されるジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシラン(XylC6N3)を合成した。
実施例1で合成したXylC6Brを3.16g含むジメチルホルムアミド溶液(DMF)20mLにアジ化ナトリウム(NaN3;AXUに対して4当量)1.69gを加え、60℃で7日間撹拌した。反応液を室温に戻した後、クロロホルム及び水で抽出を行い、クロロホルム層を濃縮して、下記構造式(3)で表される目的の化合物ジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシラン 1.44gを固体で得た。収率は、54.1質量%であった。
【0100】
【化15】
前記構造式(2)及び前記構造式(3)において、x及びyは、それぞれ重合度を表す。
【0101】
実施例1と同様の方法で、数平均分子量及び重量平均分子量を測定した結果、XylC6N3における重合度yは51.4であり、数平均分子量(Mn)は21,100、重量平均分子量(Mw)は37,000、Mw/Mnは1.75であった。
また、実施例1と同様の方法で、プロトン核磁気共鳴スペクトル及びカーボン核磁気共鳴スペクトルの測定を行った。
プロトン核磁気共鳴スペクトルを図3に、チャートを以下に示す。また、カーボン核磁気共鳴スペクトルを図4に、チャートを以下に示す。この結果、N3の置換度は2であった。なお、ケミカルシフト(δ)及びカップリングコンスタント(J)は「ppm」及び「Hz」を示す。
【0102】
1H−NMR(CDCl3):δ1.37(m,2H,−CH2−CH2−CH2−N3),1.59(m,4H,−CO−CH2−CH2−,−CH2−CH2−N3),2.25(s,2H,−CO−CH2−),3.22(C5−Ha),3.28(t,2H,J=6.5,−CH2−N3),3.76(m,C4−H),3.90(C5−He),4.43(C1−H),4.69(C2−H),5.00(C3−H).
【0103】
13C−NMR(CDCl3):δ24.2(−CO−CH2−CH2−),26.1(−CH2−CH2−CH2−N3),28.5(−CH2−CH2−N3),33.7(−CO−CH2−),51.2(−CH2−N3),62.5(C5),70.7(C2),71.6(C3),74.1(C4),99.8(C1),171.7,172.1(CO of C2 and C3,respectively).
【0104】
実施例1及び実施例2の結果をまとめて下記表1に示す。
【0105】
【表1】
なお、表1において、「DPn」は、数平均分子量(Mn)を繰り返し単位の質量(R)で除した数(Mn/R)を表す。
【0106】
(合成例1:末端プロパルギル化ポリL−ラクチドの合成)
下記スキームで示すように、以下の方法で、下記構造式(4)で表される末端アルキン化ポリL−ラクチド(末端プロパルギル化ポリL−ラクチド)を合成した。
51.8μLのプロパルギルアルコール(1当量)と、3mLのオクチル酸スズ(II)(Sn(Oct)2;1当量)とを含む無水トルエン(4mL)溶液を90℃で撹拌したところへ、開始剤(プロパルギルアルコール)に対しL−ラクチド(2.0g,15当量、株式会社武蔵野化学研究所製)の無水トルエン(6mL)溶液を滴下し、24時間撹拌した。反応液をメタノール500mLへ再沈殿した後、10,000rpmにて4分間遠心分離して沈殿を回収した。この沈殿に再度メタノールを添加し、同条件で遠心して沈殿物を洗浄した。この洗浄は合計2回行った。これにより、下記構造式(4)で表される目的の末端プロパルギル化ポリL−ラクチド(以下、「プロパルギル−PLLA4」と称することがある。)1.43gを得た。収率は71.7質量%であった。
【0107】
【化16】
前記構造式(4)において、zは、重合度を表す。
【0108】
前記プロパルギル−PLLA4の合成において、ラクチドと開始剤(プロパルギルアルコール)の仕込み比を下記表2に示す値に変えたこと以外は、前記プロパルギル−PLLA4と同様の方法で、プロパルギル−PLLA1〜3及びプロパルギル−PLLA5〜6を作製した。
【0109】
実施例1と同様の方法で、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を測定した。結果を下記表2に示す。
【0110】
【表2】
なお、表2において、「DPn」は、数平均分子量(Mn)を繰り返し単位の質量(R)で除した数(Mn/R)を表し、DPは、NMR分析における末端アルキンC−Hに対するPLLA鎖のC*Hの比率([C*H]/[C≡C−H])を表す。分子鎖長は、DPnから算出した。
【0111】
実施例1と同様の方法で、プロパルギル−PLLA4のプロトン核磁気共鳴スペクトル及びカーボン核磁気共鳴スペクトルの測定を行った。
プロトン核磁気共鳴スペクトルを図7に、チャートを以下に示す。また、カーボン核磁気共鳴スペクトルを図8に、チャートを以下に示す。なお、ケミカルシフト(δ)及びカップリングコンスタント(J)は「ppm」及び「Hz」を示す。
【0112】
1H−NMR(CDCl3):δ1.48,1.49(d,3H,CH3(end)),1.58,1.59(CH3),2.51(t,1H,C≡C−H),4.36(q,1H,C*H(end)),4.73(dd,2H,−CH2−C≡CH),5.17(C*H).
【0113】
13C−NMR(CDCl3):δ16.6(CH3),20.5(CH3(end)),52.9(−CH2−C≡CH),66.7(C*(end)),69.0(C*),75.6(−C≡CH),77.0(overlapped,−C≡CH),169.6(CO).
【0114】
プロトンNMRスペクトル中のアルキン末端のプロトンC≡CHとPLLA鎖のC*Hのプロトンのピーク面積比から算出した重合度と数平均重合度がほぼ一致したことから、PLLA末端にプロパルギル基が開始点として定量的に結合しており、末端にアルキンを有さないポリマーがほぼ混在しないことがわかった。
【0115】
(実施例3:ジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシラン−グラフト−ポリL−ラクチドの合成)
下記スキームで示すように、下記構造式(3)で表されるXylC6N3と、下記構造式(4)で表されるプロパルギル−PLLAと、を以下の方法でクリックケミストリーと呼ばれる環化反応に供し、PLLA鎖をキシラン誘導体の主鎖にグラフトさせた下記構造式(5)で表されるジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシラン−グラフト−ポリL−ラクチドを合成した。
実施例2で合成したXylC6N3を20.0mgと、合成例1で合成したプロパルギル−PLLA4を32.3mg(AXUに対して約0.125当量)と、N,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)を10.6mg(PLAに対して10当量)と、を含むクロロホルム/ジメチルホルムアミド(1/1(v/v))2.4mLの溶液を凍結脱気後、Cu(I)Br(PLAのモノマーに対して2当量)8.7mgを加え、減圧下で24時間撹拌し、減圧濃縮後、DMF溶液中の化合物をエタノール100mlに再沈殿させろ過した後、下記構造式(5)で表される目的の化合物ジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシラン−グラフト−ポリL−ラクチド(以下、「XylC6N3−g−PLLA4」と称することがある。)42.0mgを得た。収率は80.3質量%であった。
【0116】
【化17】
前記構造式(3)、前記構造式(4)、及び前記構造式(5)において、y、z、m、及びpは、それぞれ重合度を表す。
【0117】
実施例1と同様の方法で、プロトン核磁気共鳴スペクトル及びカーボン核磁気共鳴スペクトルの測定を行った結果。
プロトン核磁気共鳴スペクトルを図5に、チャートを以下に示す。また、カーボン核磁気共鳴スペクトルを図6A、図6B、及び図6Cに、チャートを以下に示す。この結果、N3の置換度は2であった。なお、ケミカルシフト(δ)及びカップリングコンスタント(J)は「ppm」及び「Hz」を示す。
また、実施例1及び合成例1においてGPC法で測定した分子量の値から算出したXylC6N3−g−PLLAにおける重合度mは51.4であり、重合度pは74.7であった。
【0118】
1H−NMR(CDCl3):δ1.31(−CH2−CH2−CH2−N3),1.51(CH3(PLLA),−CO−CH2−CH2−,−CH2−CH2−N3),2.18(s,2H,−CO−CH2−),3.21(−CH2−N3,C5−Ha(overlapped)),3.65(C4−H),3.83(C5−He),4.28(C*H(end)),4.37(C1−H),4.62(C2−H),4.94(C3−H),5.09(C*H(PLLA),).
【0119】
13C−NMR(CDCl3):δ16.6(CH3(PLLA)),20.5(CH3(PLLA,end)),24.2(−CO−CH2−CH2−),26.1(−CH2−CH2−CH2−N3),28.5(−CH2−CH2−N3),33.7(−CO−CH2−),51.2(−CH2−N3),62.5(C5),66.7(C*(PLLA,end)),69.0(C*(PLLA)),70.7(C2),71.7(C3),74.1(C4),99.8(C1),123.6(−N−C=C−),142.1(−N−C=C−),169.6(CO(PLLA)),171.6,172.1(CO of C2 and C3,respectively).
【0120】
NMRの結果、キシランとPLLA鎖に由来するピークが観察された。特にカーボン核磁気共鳴スペクトルでは1,2,3−トリアゾール環に由来するピークが123.6(−N−C=C−),142.1(−N−C=C−)に見られ、クリックケミストリーによる環化反応が起こったことを示していた。
【0121】
XylC6N3−g−PLLA4のGPC測定の結果を表3に示す。XylC6N3−g−PLLA4は単一の溶出ピークを示し、原料のXylC6N3やPLLAのピークは観察されなかったことから、PLLA鎖がキシラン主鎖に定量的にグラフトしたことが示唆された。
【0122】
PS換算の分子量からは、キシラン主鎖(XylC6N3)1本に対するプロパルギル−PLLA4側鎖の数Nは、下記式1で算出され、8.8であった。
N=(X−Y)/Z ・・・式1
前記式1において、Xは、XylC6N3−g−PLLA4の数平均分子量を表し、Yは、XylC6N3の数平均分子量を表し、Zは、PLLA鎖の数平均分子量を表す。
【0123】
また、XylC6N3−g−PLLA4の1分子中のPLLA鎖の重量比(%)は下記式2で算出され、68.8であった。
PLLAの重量比(%)=(X−Y)/X
前記式2において、Xは、XylC6N3−g−PLLA4の数平均分子量を表し、Yは、XylC6N3の数平均分子量を表す。
【0124】
【表3】
【0125】
(実施例4:フィルムの製造)
実施例3で合成したXylC6N3−g−PLLAを20mg用い、クロロホルム 10mLに溶解し、シャーレ(直径5cm)に流し込み、ドラフト内(25℃)にて24時間乾燥させた。
乾燥後の写真を図9に示す。これにより、キシラングラフトコポリマーからフィルムを製造することができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明のキシラン誘導体及びその製造方法、該キシラン誘導体の前駆体及びその製造方法、キシラングラフトコポリマー及びその製造方法、並びに、ポリマー成形体によれば、未利用バイオマスを有効利用でき、例えば、包装材料、フィルター、不織布等に応用できるプラスチック材料、結晶核剤、架橋剤などを提供することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、キシラン誘導体前駆体、キシラン誘導体、キシラングラフトコポリマー、及びこれらの製造方法、並びに、ポリマー成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料の大半は、石油をベースとしているが、化石資源は限られていることや、焼却により温室効果を増すこと、石油ベースのプラスチック材料は一般に分解できないことなど、環境保護の観点からその代替材料が望まれている。
【0003】
セルロースは古くから工業材料として利用されており、エステル化あるいはエーテル化などにより熱可塑性プラスチックへと変換され、フィルムや繊維として利用されている。
一般に木材は、セルロース40質量%、ヘミセルロース30質量%、及びリグニン30質量%で構成されている。したがって、セルロースだけでなく、ヘミセルロースも生物由来の材料として有望な資源である。
【0004】
針葉樹や広葉樹等の木材、牧草等の草本類などにおけるヘミセルロースに最も多く含まれる成分であるキシランは、天然多糖類である。
しかしながら、キシランを含むヘミセルロースは、分子量が小さいため高分子材料としての利用が困難であること、分岐構造が多く数種類の糖が複雑に結合しており、植物によってもその組成が異なるため、誘導体化や均質な材料化が困難であることなどの理由により、これまでプラスチック等の材料として利用されないまま廃棄されてきた。
ヘミセルロースのアルキル基などによる誘導体化に関する数少ない研究は存在するが(非特許文献1及び2参照)、置換度が低いなど構造制御は不十分であり、プラスチック材料化には至っていない。
【0005】
したがって、その価値が認められてこなかった未利用バイオマスを有効利用でき、プラスチック材料として用いることができるキシラン誘導体の提供が強く望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Sun, R. C.; Fang, J. M.; Tomkinson, J.; Jones, G. L., Industrial Crops And Products, 1999, 10, 209−218.
【非特許文献2】Fang, J. M.; Sun, R. C.; Fowler, P.; Tomkinson, J.; Hill, C. A. S., Journal Of Applied Polymer Science, 1999, 74, 2301−2311.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、未利用バイオマスを有効利用でき、プラスチック材料として用いることができるキシラン誘導体及びその製造方法、該キシラン誘導体の前駆体及びその製造方法、キシラングラフトコポリマー及びその製造方法、並びに、ポリマー成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ヘミセルロースのプラスチック材料としての利用のためには、遊離水酸基を適切に置換基で保護し、汎用有機溶媒に可溶化する、あるいは熱可塑性を付与し、成型加工性を向上させる必要がある。また、未修飾の糖鎖を誘導体化する際、アルキル基等の低分子量置換基の場合は、反応は比較的容易に進行するが、ポリマー等の高分子量置換基の場合は、効率的に反応を進行させることは困難である。
【0009】
そこで、前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランにおける水酸基の水素原子の少なくともいずれかが、アジド基を有する置換基に置換されているキシラン誘導体が、未利用バイオマスを有効利用でき、プラスチック材料として用いることができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランにおける水酸基の水素原子の少なくともいずれかが、ハロゲン含有基に置換されていることを特徴とするキシラン誘導体前駆体である。
【化1】
ただし、前記構造式(1)において、nは重合度を表す。
<2> キシランのモノマー単位における水酸基の水素原子に対する置換度が2である前記<1>に記載のキシラン誘導体前駆体である。
<3> 下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランと、ハロゲン含有化合物と、を反応させてキシラン誘導体前駆体を製造することを特徴とするキシラン誘導体前駆体の製造方法である。
【化2】
ただし、前記構造式(1)において、nは重合度を表す。
<4> 下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランにおける水酸基の水素原子の少なくともいずれかが、アジド基を有する置換基に置換されていることを特徴とするキシラン誘導体である。
【化3】
ただし、前記構造式(1)において、nは重合度を表す。
<5> キシランのモノマー単位における水酸基の水素原子に対する置換度が2である前記<4>に記載のキシラン誘導体である。
<6> 前記<1>から<2>のいずれかに記載のキシラン誘導体前駆体と、ハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物と、を反応させてキシラン誘導体を製造することを特徴とするキシラン誘導体の製造方法である。
<7> 末端にアルキンを有する化合物と、前記<4>から<5>のいずれかに記載のキシラン誘導体と、を反応させることを特徴とするキシラングラフトコポリマーの製造方法である。
<8> 末端にアルキンを有する化合物が、プロパルギル基を有するポリマーである前記<7>に記載のキシラングラフトコポリマーの製造方法である。
<9> 前記<7>から<8>のいずれかに記載のキシラングラフトコポリマーの製造方法により得られ、キシラン誘導体を主鎖とし、ポリマーを側鎖として有することを特徴とするキシラングラフトコポリマーである。
<10> 前記<4>から<5>のいずれかに記載のキシラン誘導体、及び前記<9>に記載のキシラングラフトコポリマーの少なくともいずれかを含むことを特徴とするポリマー成形体である。
<11> フィルムである前記<10>に記載のポリマー成形体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、未利用バイオマスを有効利用でき、プラスチック材料として用いることができるキシラン誘導体及びその製造方法、該キシラン誘導体の前駆体及びその製造方法、キシラングラフトコポリマー及びその製造方法、並びに、ポリマー成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明のキシラン誘導体前駆体の一例である、ジ−O−(6−ブロモヘキサノイル)−キシランのプロトン核磁気共鳴スペクトルである。
【図2】図2は、本発明のキシラン誘導体前駆体の一例である、ジ−O−(6−ブロモヘキサノイル)−キシランのカーボン核磁気共鳴スペクトルである。
【図3】図3は、本発明のキシラン誘導体の一例である、ジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシランのプロトン核磁気共鳴スペクトルである。
【図4】図4は、本発明のキシラン誘導体の一例である、ジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシランのカーボン核磁気共鳴スペクトルである。
【図5】図5は、本発明のグラフトコポリマーの一例である、ジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシラン−グラフト−ポリL−ラクチドのプロトン核磁気共鳴スペクトルである。
【図6A】図6Aは、本発明のグラフトコポリマーの一例である、ジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシラン−グラフト−ポリL−ラクチドのカーボン核磁気共鳴スペクトルである。
【図6B】図6Bは、図6Aを拡大した図である。
【図6C】図6Cは、図6Bを拡大した図である。
【図7】図7は、本発明のグラフトコポリマーの製造方法に用いたアルキンを有する化合物の一例である、末端プロパルギル化ポリL−ラクチドのプロトン核磁気共鳴スペクトルである。
【図8】図8は、本発明のグラフトコポリマーの製造方法に用いたアルキンを有する化合物の一例である、末端プロパルギル化ポリL−ラクチドのカーボン核磁気共鳴スペクトルである。
【図9】図9は、実施例4で作製したフィルムの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(キシラン誘導体前駆体及びその製造方法)
本発明のキシラン誘導体前駆体は、下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランにおける水酸基の水素原子の少なくともいずれかが、ハロゲン含有基に置換された化合物である。
また、本発明のキシラン誘導体前駆体の製造方法は、下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランと、ハロゲン含有化合物と、を反応させて該キシラン誘導体前駆体を製造する方法である。
以下、キシラン誘導体前駆体の説明と併せて、該キシラン誘導体前駆体の製造方法について説明する。
【化4】
ただし、前記構造式(1)において、nは重合度を表す。前記nとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜500が好ましく、40〜500がより好ましい。
【0014】
<キシラン誘導体前駆体>
前記キシラン誘導体前駆体における、前記ハロゲン含有基としては、特に制限はなく、前記キシラン誘導体前駆体の製造方法において、キシランに反応させるハロゲン含有化合物の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基の末端にハロゲン基を有する置換基などが挙げられる。
前記アルキル基の炭素数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2〜20が好ましく、2〜6がより好ましい。
【0015】
前記ハロゲン含有基の具体例としては、6−ブロモヘキサノイル基、5−ブロモバレリル基、8−ブロモオクタノイル基、11−ブロモウンデカノイル基、16−ブロモヘキサデカノイル基、5−クロロバレリル基などが挙げられる。
【0016】
前記キシランの水酸基の水素原子における前記ハロゲン含有基の置換度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記キシラン誘導体前駆体が、クロロホルムやジメチルホルムアミド等の汎用有機溶媒に可溶な範囲で置換されていることが好ましく、キシランのモノマー単位における水酸基の水素原子に対して、置換度が、1〜2であることがより好ましく、2が特に好ましい。
また、前記キシラン誘導体前駆体は、前記キシランの重合体における少なくとも1つの構造単位の水酸基の水素原子が、ハロゲン含有基に置換していればよいが、2つ以上の構成単位における水酸基の水素原子が、ハロゲン含有基に置換していることが好ましい。
前記置換度を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、元素分析法、プロトン核磁気共鳴法、カーボン核磁気共鳴法、赤外分光法などが挙げられる。
【0017】
前記キシラン誘導体前駆体の数平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ポリスチレン(PS)換算で、5,000〜240,000が好ましく、20,000〜240,000がより好ましい。
前記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)、粘度法、末端基定量法、光散乱法などにより測定することができる。
【0018】
前記キシラン誘導体前駆体の具体例としては、ジ−O−(6−ブロモヘキサノイル)−キシラン、ジ−O−(5−ブロモバレリル)キシラン、ジ−O−(8−ブロモオクタノイル)キシラン、ジ−O−(11−ブロモウンデカノイル)キシラン、ジ−O−(16−ブロモヘキサデカノイル)キシラン、ジ−O−(5−クロロバレリル)キシランなどが挙げられる。
【0019】
これらの中でも、前記キシラン誘導体前駆体は、キシランにおける水酸基の水素原子が6−ブロモヘキサノイル基に置換された、下記構造式(2)で表される化合物が好ましい。
【化5】
ただし、前記構造式(2)において、xは重合度を表し、R1及びR2は、下記構造式(A)で表される置換基及び水素原子のいずれかを表す。ただし、前記構造式(2)で表される構造単位を有する重合体において、少なくとも1つの構造単位の前記R1及び前記R2の少なくとも一方は、下記構造式(A)で表される置換基である。
これらの中でも、前記R1及び前記R2が、全て下記構造式(A)で表される置換基であるジ−O−(6−ブロモヘキサノイル)−キシラン(以下、「XylC6Br」と称することがある。)が特に好ましい。
前記xとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜500が好ましく、40〜500がより好ましい。
【化6】
【0020】
前記XylC6Brの物理化学的性質としては、以下の通りである。なお、ここでは重合度xが44.0の、XylC6Brの物理化学的性質を一例として示すが、本発明のキシラン誘導体前駆体はこれに限られるものではない。
【0021】
−XylC6Brの物理化学的性質−
(1)性状:固体
(2)分子量:数平均分子量(Mn)は21,400、重量平均分子量(Mw)は37,600、Mw/Mnは1.76
(3)重クロロホルム中で500MHz、25℃の条件で測定したプロトン核磁気共鳴スペクトルは図1に示す通りであり、チャートは以下の通りである。
1H−NMR(CDCl3):δ1.44(m,2H,−CH2−CH2−CH2−Br),1.59(m,2H,−CO−CH2−CH2−),1.77(m,2H,−CH2−CH2−Br),2.26(s,2H,−CO−CH2−),3.23(C5−Ha),3.54(t,2H,J=6.5,−CH2−Br),3.76(C4−H),3.89(C5−He),4.43(C1−H),4.69(C2−H),5.00(C3−H).
(4)重クロロホルム中で500MHz、25℃の条件で測定したカーボン核磁気共鳴スペクトルは図2に示す通りであり、チャートは以下の通りである。
13C−NMR(CDCl3):δ24.0(−CO−CH2−CH2−),26.3(−CH2−CH2−CH2−Br),32.1(−CH2−CH2−Br),33.7(−CO−CH2−),44.8(−CH2−Br),62.5(C5),70.7(C2),71.7(C3),74.2(C4),99.9(C1),171.7,172.2(CO of C2 and C3,respectively).
なお、1H−NMR及び13C−NMRにおける、ケミカルシフト(δ)及びカップリングコンスタント(J)は、「ppm」及び「Hz」を示す。
【0022】
<キシラン誘導体前駆体の製造方法>
本発明のキシラン誘導体前駆体の製造方法は、前記構造式(1)で表されるキシランと、ハロゲン含有化合物と、を反応させる工程を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
【0023】
<<キシラン>>
前記キシランの重量平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、8,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、12,000以上が特に好ましい。前記キシランは、高分子であるほど、これを用いて製造したキシラン誘導体が、プラスチック材料を形成しやすい点で好ましい。
【0024】
前記キシランの重量平均分子量を確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記キシランは、前記構造式(1)で表される多糖構造を有しており、有機溶媒に不溶であるため、直接測定することが困難である。そのため、例えば、前記キシラン誘導体の重量平均分子量を測定し、該キシラン誘導体の重量平均分子量から算出する方法などが挙げられる。
【0025】
前記キシラン誘導体の重量平均分子量の測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)、粘度法、末端基定量法、光散乱法、などが挙げられる。
【0026】
−キシランの抽出方法−
前記キシランの由来原料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、パルプ原料由来のキシランが、未利用バイオマスを有効利用できる点で好ましい。
前記キシランをパルプ原料から得る方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アルカリ抽出工程を含むことが好ましく、更に必要に応じて、pH調整工程、沈殿工程、洗浄工程、ろ過工程、乾燥工程等のその他の工程を含む。
ヘミセルロースであるキシランは、アルカリ水溶液により抽出可能な点で、セルロースと区別されるが、セルロースと同様に水は汎用の有機溶媒には不溶である。
【0027】
−−アルカリ抽出工程−−
前記パルプ原料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、バイオマス原料から抽出されたものを使用することが好ましく、木材、草本類、ワラ、竹等の原料から抽出されたものであることが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、木材が、前記キシランを多く含む点で好ましい。前記木材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、広葉樹原料、針葉樹原料などが挙げられる。
【0028】
前記パルプ原料は、予め裁断されていることが、効率よくキシランを抽出できる点で好ましい。前記パルプ原料を裁断する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウィレーミル、カッターミル、ハンマーミル、ピンミルなどが挙げられる。なお、前記パルプ原料としては、既に裁断されている市販品を用いてもよい。
【0029】
前記アルカリ溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記アルカリ溶液は、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0030】
前記アルカリ溶液の濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5質量%以上が好ましく、16質量%以上がより好ましい。前記アルカリ溶液の濃度が、5質量%未満であると、キシランの回収率が悪くなることや、高分子のキシランを得ることができないことがある。一方、前記アルカリ溶液の濃度が16質量%以上であると、前記キシランの回収率が向上し、高分子のキシランを得ることができる点で好ましい。
前記アルカリ溶液の濃度の上限としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0031】
前記アルカリ抽出を行う時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10時間以上が好ましく、16時間以上が更に好ましい。前記アルカリ抽出の時間が、10時間未満であると、キシランの回収率が悪くなることがある。
前記アルカリ抽出時間の上限としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0032】
前記アルカリ溶液の使用量としては、用いるパルプ原料の量や処理容器の大きさなどにより、適宜選択することができるが、前記パルプ原料100質量部に対して、20質量部〜400質量部が好ましく、100質量部〜320質量部がより好ましい。前記アルカリ溶液の使用量が、20質量部未満であると、前記キシランの回収率が悪くなることがあり、400質量部を超えると、アルカリ濃度が濃すぎてコスト的に不利である。
【0033】
−−pH調整工程−−
前記pH調整工程は、前記アルカリ抽出後のキシランを含む反応液のpHを調整する工程である。
前記pHとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5〜8が好ましく、6〜7がより好ましい。前記pHが前記好ましい範囲外であると、後述する沈殿工程において、キシランを含む沈殿を得ることができないことがある。
前記pH調整に用いる試薬としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、塩酸、酢酸、ギ酸等の酸が好ましい。
前記pHを測定する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができる。
【0034】
−−沈殿工程−−
前記沈殿工程は、前記アルカリ抽出後の反応液、更に必要に応じて、前記pH調整工程を経た反応液に含まれるキシランを沈殿させる方法である。前記キシランの製造方法が、前記沈殿工程を含むと、前記キシランの回収率が向上する点で好ましい。
前記沈殿工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、メタノール等の低級アルコールを添加して沈殿させる方法などが挙げられる。
前記低級アルコールの使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記アルカリ抽出物に対して、2倍容量〜10倍容量が好ましく、5倍容量〜10倍容量がより好ましい。前記低級アルコールの使用量が、2倍容量未満であると、キシランの沈殿効率が悪くなることがあり、10倍容量を超えると、コスト的に不利である。
前記沈殿させる温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、低温で行われることが好ましく、0℃〜25℃がより好ましい。
前記沈殿させる時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5時間〜24時間が好ましく、0.5時間〜6時間がより好ましい。
【0035】
−−洗浄工程−−
前記洗浄工程は、前記アルカリ抽出で得られたキシランを含む反応液、更に必要に応じて、前記pH調整工程、前記沈殿工程を経た前記反応液を洗浄する工程である。
前記洗浄に用いる溶液としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール、メタノールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記洗浄を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記反応液と前記洗浄用溶媒とを混合し、遠心分離する方法、カラムを用いる方法などが挙げられる。
洗浄回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0036】
−−ろ過工程−−
前記ろ過工程は、前記アルカリ抽出で得られたキシランを含む反応液、更に必要に応じて、前記pH調整工程、前記沈殿工程、前記洗浄工程を経た前記反応液をろ過し、不要物を除去する工程である。また、前記ろ過工程は、前記洗浄工程と同時に行われてもよい。
前記ろ過を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、遠心分離する方法、カラムを用いる方法、フィルターを用いる方法、公知のろ過装置を用いる方法などが挙げられる。これらの処理は、1種単独で行われてもよく、2種以上を組み合わせて行われてもよい。
前記ろ過工程は、前記アルカリ抽出後及び前記沈殿工程後の両方に行われることが、精製度の高いキシランを得ることができる点で好ましい。
【0037】
−−乾燥工程−−
前記乾燥工程は、前記アルカリ抽出で得られたキシランを含む反応液、更に必要に応じて、前記pH調整工程、前記沈殿工程、前記洗浄工程、前記ろ過工程を経た前記反応液を乾燥する工程である。
前記乾燥する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、凍結乾燥法、温風乾燥法、噴霧乾燥法、流動層乾燥法などが挙げられる。
【0038】
<<ハロゲン含有化合物>>
前記ハロゲン含有化合物としては、ハロゲン基を有していれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基の末端にハロゲン基を有する化合物などが挙げられる。
前記アルキル基の炭素数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2〜20が好ましく、2〜6がより好ましい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記ハロゲン含有化合物は、市販品を用いてもよく、公知の方法で合成したものを用いてもよい。
【0039】
前記ハロゲン含有化合物の具体例としては、6−ブロモヘキサノイルクロリド、5−ブロモバレリルクロリド、8−ブロモオクタノイルクロリド、11−ブロモウンデカノイルクロリド、16−ブロモヘキサデカノイルクロリド、5−クロロバレリルクロリドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
<<キシランとハロゲン含有化合物との反応>>
前記キシランと、前記ハロゲン含有化合物と、を反応させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。ここで、「反応」とは、キシランの水酸基の水素原子が、ハロゲン含有基に置換されることをいう。これにより、置換基の末端にハロゲンを有するキシラン誘導体前駆体を得ることができる。
【0041】
前記キシランは、前記ハロゲン含有化合物と反応させる前に溶媒に溶解させておくことが好ましい。
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
前記キシランを前記溶媒に溶解させる溶解温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、25℃〜120℃が好ましく、100℃〜120℃がより好ましい。前記溶解温度が120℃を超えると、溶液の着色などの変質が起こることがある。
【0043】
前記キシランを前記溶媒に溶解させる溶解時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5時間〜24時間が好ましく、0.5時間〜2時間がより好ましい。前記溶解時間が0.5時間未満であると、前記キシランが十分に溶解しないことがある。
【0044】
前記ハロゲン含有化合物の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、キシラン(無水)のモノマー単位に対して、2当量〜4当量が好ましく、3当量〜4当量がより好ましい。前記添加量が、2当量未満であると、キシランの水酸基の水素原子が、ハロゲン含有基に置換されないことや、置換度が不十分であることがあり、4質量部を超えても、それ以上反応率は上がらずコスト的に不利である。
【0045】
前記反応を行う反応温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20℃〜70℃が好ましく、50℃〜70℃がより好ましい。前記反応温度が、20℃未満であると、反応性が悪いことがあり、70℃を超えると、溶液の着色などの変質が起こることがある。
【0046】
前記反応を行う反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、6時間〜48時間が好ましく、18時間〜24時間がより好ましい。前記反応時間が6時間未満であると、反応が十分に進行しないことがあり、48時間を超えると、溶液の着色などの変質が起こることがある。
【0047】
(キシラン誘導体及びその製造方法)
本発明のキシラン誘導体は、下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランにおける水酸基の水素原子の少なくともいずれかが、アジド基を有する置換基に置換されている化合物である。
また、本発明のキシラン誘導体の製造方法は、本発明の前記キシラン誘導体前駆体と、該キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物と、を反応させてキシラン誘導体を製造する方法である。
以下、キシラン誘導体の説明と併せて、該キシラン誘導体の製造方法について説明する。
【化7】
ただし、前記構造式(1)において、nは重合度を表す。前記nとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜500が好ましく、40〜500がより好ましい。
【0048】
<キシラン誘導体>
前記キシラン誘導体における、前記アジド基を有する置換基としては、特に制限はなく、キシラン誘導体前駆体の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、置換基を有していてもよい直鎖のアルキル基の末端にアジド基を有する基などが挙げられる。
前記アルキル基の炭素数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2〜20が好ましく、2〜6がより好ましい。
【0049】
前記アジド基を有する置換基の具体例としては、6−アジドヘキサノイル基、5−アジドバレリル基、8−アジドオクタノイル基、11−アジドウンデカノイル基、16−アジドヘキサデカノイル基などが挙げられる。
【0050】
前記キシランの水酸基の水素原子における前記アジド基を有する置換基の置換度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記キシラン誘導体が、クロロホルムやジメチルホルムアミド等の汎用有機溶媒に可溶な範囲で置換されていることが好ましく、キシランのモノマー単位における水酸基の水素原子に対して、置換度が、1〜2であることがより好ましく、2が特に好ましい。
また、前記キシラン誘導体は、前記キシランの重合体における少なくとも1つの構造単位の水酸基の水素原子が、アジド基を有する置換基に置換していればよいが、2つ以上の構成単位における水酸基の水素原子が、アジド基を有する置換基に置換していることが好ましい。
前記置換度を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、元素分析法、プロトン核磁気共鳴法、カーボン核磁気共鳴法、赤外分光法などが挙げられる。
【0051】
前記キシラン誘導体の数平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ポリスチレン(PS)換算で、4,000〜200,000が好ましく、20,000〜200,000がより好ましい。
前記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)、粘度法、末端基定量法、光散乱法、により測定することができる。
【0052】
前記キシラン誘導体の熱分解温度(TG)としては、高いほど好ましい。
前記熱分解温度は、熱分析装置(例えば、Thermo Plus TG 8120(株式会社リガク製))により測定することができる。
【0053】
前記キシラン誘導体の具体例としては、ジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシラン、ジ−O−(5−アジドバレリル)キシラン、ジ−O−(8−アジドオクタノイル)キシラン、ジ−O−(11−アジドウンデカノイル)キシラン、ジ−O−(16−アジドヘキサデカノイル)キシランなどが挙げられる。
【0054】
これらの中でも、前記キシラン誘導体は、キシランにおける水酸基の水素原子が、6−アジドヘキサノイル基に置換された、下記構造式(3)で表される化合物が好ましい。
【化8】
ただし、前記構造式(3)において、yは重合度を表し、R3及びR4で表される置換基は、下記構造式(B)で表される置換基及び水素原子のいずれかを表す。ただし、前記構造式(3)表される構造単位を有する重合体において、少なくとも1つの構造単位の前記R3及び前記R4の少なくとも一方は、下記構造式(B)で表される置換基である。
これらの中でも、R3及びR4が、全て下記構造式(B)で表される置換基であるジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシラン(以下、「XylC6N3」と称することがある。)が特に好ましい。
前記yとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜500が好ましく、40〜500がより好ましい。
【化9】
【0055】
前記XylC6N3の物理化学的性質としては、以下の通りである。なお、ここでは重合度yが51.4の、XylC6N3の物理化学的性質を一例として示すが、本発明のキシラン誘導体はこれに限られるものではない。
【0056】
−XylC6N3の物理化学的性質−
(1)性状: 固体
(2)分子量:数平均分子量(Mn)は21,100、重量平均分子量(Mw)は37,000、Mw/Mnは1.75
(3)重クロロホルム中で500MHz、25℃の条件で測定したプロトン核磁気共鳴スペクトルは図3に示す通りであり、チャートは以下の通りである。
1H−NMR(CDCl3):δ1.37(m,2H,−CH2−CH2−CH2−N3),1.59(m,4H,−CO−CH2−CH2−,−CH2−CH2−N3),2.25(s,2H,−CO−CH2−),3.22(C5−Ha),3.28(t,2H,J=6.5,−CH2−N3),3.76(m,C4−H),3.90(C5−He),4.43(C1−H),4.69(C2−H),5.00(C3−H).
(4)重クロロホルム中で500MHz、25℃の条件で測定したカーボン核磁気共鳴スペクトルは図4に示す通りであり、チャートは以下の通りである。
13C−NMR(CDCl3):δ24.2(−CO−CH2−CH2−),26.1(−CH2−CH2−CH2−N3),28.5(−CH2−CH2−N3),33.7(−CO−CH2−),51.2(−CH2−N3),62.5(C5),70.7(C2),71.6(C3),74.1(C4),99.8(C1),171.7,172.1(CO of C2 and C3,respectively).
なお、1H−NMR及び13C−NMRにおける、ケミカルシフト(δ)及びカップリングコンスタント(J)は「ppm」及び「Hz」を示す。
【0057】
<キシラン誘導体の製造方法>
本発明の前記キシラン誘導体の製造方法は、前記キシラン誘導体前駆体と、該キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物と、を反応させる工程を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
【0058】
<<キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物>>
前記キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物としては、溶液中でアジ化物イオンを形成できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アジ化ナトリウムが好ましい。
前記キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物は、市販品を用いてもよく、公知の方法で合成したものを用いてもよい。
【0059】
<<キシラン誘導体前駆体と該キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物との反応>>
前記キシラン誘導体前駆体と、前記キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物とを反応させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。ここで、「反応」とは、キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基の末端のハロゲン基がアジド基に置換されることをいう。
【0060】
前記キシラン誘導体前駆体は、前記キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物と反応させる前に、溶媒に溶解させておくことが好ましい。
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性有機溶媒などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
前記キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物の添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、キシラン誘導体前駆体のモノマー単位に対して、2当量〜4当量が好ましく、3当量〜4当量がより好ましい。前記添加量が、2当量未満であると、キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基がアジド基に置換されないことや、置換度が不十分であることがあり、4質量部を超えても、それ以上反応率は上がらずコスト的に不利である。
【0062】
前記反応を行う反応温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、25℃〜60℃が好ましく、50℃〜60℃がより好ましい。前記反応温度が25℃未満であると、反応が遅くなることがある。
【0063】
前記反応を行う反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、12時間〜48時間が好ましく、12時間〜24時間がより好ましい。前記反応時間が12時間未満であると、反応が十分に進行しないことがある。
【0064】
セルロースは、6位に水酸基を有しているが、キシランは6位に水酸基を有さず、2位及び3位のみにしか水酸基を有さないため、該キシランのモノマー単位の他の水酸基の保護をすることなしにエステル化を行っても、該水酸基の水素原子の最大置換度が2である誘導体を得ることができる点で有利である。
【0065】
(キシラングラフトコポリマー及びその製造方法)
本発明のキシラングラフトコポリマーの製造方法は、末端にアルキンを有する化合物と、本発明の前記キシラン誘導体と、を反応させてキシラングラフトコポリマーを製造する方法である。
また、本発明のキシラングラフトコポリマーは、本発明の前記キシラングラフトコポリマーの製造方法により得られ、キシラン誘導体を主鎖とし、ポリマーを側鎖として有するキシラングラフトコポリマーである。
本発明のキシラングラフトコポリマーの製造方法は、クリックケミストリーと呼ばれる環化反応に基づき、簡便で効率よくキシラングラフトコポリマーを合成できる点で有利である。
以下、キシラングラフトコポリマーの製造方法の説明と併せて、キシラングラフトコポリマーについて説明する。
【0066】
<キシラングラフトコポリマーの製造方法>
本発明のキシラングラフトコポリマーの製造方法は、末端にアルキンを有する化合物と、本発明の前記キシラン誘導体と、を反応させる工程を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
【0067】
<<アルキンを有する化合物>>
前記末端にアルキンを有する化合物としては、末端にアルキンを有している限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、末端にアルキンを有するポリマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、プロパルギル基を有するポリマーが好ましく、末端にプロパルギル基を有し、生分解性を有するポリマーがより好ましい。また、前記ポリマーの種類としては、ポリエステルが好ましい。
前記末端にアルキンを有する化合物は、市販品を用いてもよく、公知の方法で合成したものを用いてもよい。
【0068】
前記生分解性を有するポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリ乳酸(ポリラクチド)、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
前記末端にアルキンを有する化合物の具体例としては、プロパルギル基を有するポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリε−カプロラクトン、ポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
これらの中でも、前記末端にアルキンを有する化合物としては、下記構造式(4)で表される末端アルキン化ポリL−ラクチドが好ましい。
【化10】
ただし、前記構造式(4)において、zは重合度を表す。前記zとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40〜75が好ましく、75がより好ましい。
【0071】
前記末端にアルキンを有する化合物の合成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記末端にアルキンを有する化合物が前記末端アルキン化ポリL−ラクチドの場合、その合成方法としては、オクチル酸スズ(II)を触媒として含む無水トルエン等の溶媒下で、開始剤としてのプロパルギルアルコールと、L−ラクチドと、を反応させる方法などが挙げられる。ラクチドと、プロパルギルアルコール(開始剤)と、オクチル酸スズ(II)(触媒)との仕込み比を変えることで、種々の重合度の末端アルキン化ポリL−ラクチドを合成することができる。
【0072】
前記末端にアルキンを有する化合物の添加量としては、特に制限はなく、末端にアルキンを有する化合物の種類などに応じて適宜選択することができるが、前記キシラン誘導体のモノマー単位に対して、0.1当量〜2当量が好ましく、0.1当量〜0.13当量がより好ましい。前記添加量が、0.1当量未満であると、キシラン誘導体の側鎖に該末端にアルキンを有する化合物の導入率が不十分になることがある。
【0073】
前記反応を行う反応温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10℃〜30℃が好ましく、15℃〜25℃がより好ましい。30℃を超えると、クロロホルムが揮発し、前記キシラン誘導体や前記末端にアルキンを有する化合物溶解性が低下し、反応効率が悪くなることがある。
【0074】
前記反応を行う反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、12時間〜24時間が好ましく、20時間〜24時間がより好ましい。24時間を超えると反応は完了するため、更なる撹拌はコスト的に不利となることがある。
【0075】
<キシラングラフトコポリマー>
本発明のキシラングラフトコポリマーは、本発明の前記グラフトポリマーの製造方法により好適に得ることができ、前記キシラン誘導体を主鎖とし、ポリマーを側鎖として有する。
【0076】
<<主鎖>>
前記キシラングラフトコポリマーにおける主鎖は、前記キシラン誘導体からなるものであり、その分子鎖長としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0077】
<<側鎖>>
前記キシラングラフトコポリマーにおける側鎖としては、ポリマーであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、生分解性を有するポリマーが好ましく、ポリエステルがより好ましい。
前記側鎖の導入率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、側鎖が1つでもポリマーを有していればよい。
前記キシラングラフトコポリマーにおける側鎖の数は、ポリスチレン(PS)換算の分子量により、下記式1で算出することができる。
N=(X−Y)/Z ・・・式1
前記式1において、Xは、キシラングラフトコポリマーの数平均分子量を表し、Yは、主鎖の数平均分子量を表し、Zは、側鎖の数平均分子量を表す。
【0078】
前記キシラングラフトコポリマーの数平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ポリスチレン(PS)換算で、20,000以上が好ましく、60,000〜300,000がより好ましい。
前記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)、粘度法、末端基定量法、光散乱法などにより測定することができる。
【0079】
前記キシラングラフトコポリマーの種類としては、反応させるキシラン誘導体やポリマーの種類などによって適宜選択することができるが、下記構造式(5)で表されるキシラン−グラフト−ポリL−ラクチド(以下、「XylC6N3−g−PLLA」と称することがある。)が好ましい。
【化11】
ただし、前記構造式(5)において、mは重合度を表し、R5及びR6で表される置換基は、下記構造式(C)で表されるポリマー及び下記構造式(B)で表される置換基のいずれかを表す。ただし、前記構造式(5)表される構造単位を有する重合体において、少なくとも1つの構造単位の前記R5及び前記R6の少なくとも一方は、下記構造式(C)で表されるポリマーである。
前記mとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10〜500が好ましく、50〜500がより好ましい。
【化12】
ただし、前記構造式(C)において、pは重合度を表す。前記pとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、40〜75が好ましく、75がより好ましい。
【化13】
【0080】
前記XylC6N3−g−PLLAの物理化学的性質としては、以下の通りである。なお、ここでは重合度mが51.4のXylC6N3−g−PLLAの物理化学的性質を一例として示すが、本発明のキシラングラフトコポリマーはこれに限られるものではない。
【0081】
−XylC6N3−g−PLLAの物理化学的性質−
(1)性状:固体
(2)分子量:数平均分子量(Mn)は67,600、重量平均分子量(Mw)は106000、Mw/Mnは1.56である。
(3)重クロロホルム中で500MHz、25℃の条件で測定したプロトン核磁気共鳴スペクトルは図5に示す通りであり、チャートは以下の通りである。
1H−NMR(CDCl3):δ1.31(−CH2−CH2−CH2−N3),1.51(CH3(PLLA),−CO−CH2−CH2−,−CH2−CH2−N3),2.18(s,2H,−CO−CH2−),3.21(−CH2−N3,C5−Ha(overlapped)),3.65(C4−H),3.83(C5−He),4.28(C*H(end)),4.37(C1−H),4.62(C2−H),4.94(C3−H),5.09(C*H(PLLA))
(4)重クロロホルム中で500MHz、25℃の条件で測定したカーボン核磁気共鳴スペクトルは図6に示す通りであり、チャートは以下の通りである。
13C−NMR(CDCl3):δ16.6(CH3(PLLA)),20.5(CH3(PLLA,end)),24.2(−CO−CH2−CH2−),26.1(−CH2−CH2−CH2−N3),28.5(−CH2−CH2−N3),33.7(−CO−CH2−),51.2(−CH2−N3),62.5(C5),66.7(C*(PLLA,end)),69.0(C*(PLLA)),70.7(C2),71.7(C3),74.1(C4),99.8(C1),123.6(−N−C=C−),142.1(−N−C=C−),169.6(CO(PLLA)),171.6,172.1(CO of C2 and C3,respectively)
なお、1H−NMR及び13C−NMRにおける、ケミカルシフト(δ)及びカップリングコンスタント(J)は、「ppm」及び「Hz」を示す。
【0082】
(ポリマー成形体)
本発明のポリマー成形体は、少なくとも本発明の前記キシラン誘導体及び本発明の前記キシラングラフトコポリマーの少なくともいずれかを含み、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。
【0083】
前記ポリマー成形体における前記キシラン誘導体及び前記キシラングラフトコポリマーの少なくともいずれかの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、前記ポリマー成形体は、前記キシラン誘導体そのものであってもよく、前記キシラングラフトコポリマーそのものであってもよい。
【0084】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の添加剤などが挙げられる。また、その他の樹脂を混合してもよい。
前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0085】
前記ポリマー成形体の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、フィルム又はファイバーであることが好ましい。
【0086】
<フィルム>
前記フィルムを製造する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記キシラン誘導体及び前記キシラングラフトコポリマーの少なくともいずれかを所望の溶媒に溶解し、所望の容器に入れた後、乾燥させ成形する方法、前記キシラン誘導体及び前記キシラングラフトコポリマーの少なくともいずれかを融点以上の温度で熱溶融させ成型する方法、前記キシラン誘導体及び前記キシラングラフトコポリマーの少なくともいずれかをガラス転移点以上の温度で変形させて成形する方法などが挙げられる。
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等の揮発性の高い有機溶媒などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記溶媒は、クロロホルムが好ましい。
【0087】
前記溶媒の使用量としては、前記キシラン誘導体を溶解することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記キシラン誘導体が溶解できないと、不均一なフィルムが形成されることがある。
【0088】
前記乾燥させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、凍結乾燥法、温風乾燥法、噴霧乾燥法、流動層乾燥法、風乾する方法などが挙げられる。
【0089】
前記フィルムの厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0090】
<用途>
前記ポリマー成形体は、前記キシラン誘導体を含むため石油の代替資源として用いることができ、二酸化炭素を増加させることのない環境に優しい材料として、包装材料、フィルター、不織布などに好適に利用可能である。
【実施例】
【0091】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0092】
(調製例1:広葉樹キシランの抽出)
広葉樹(ユーカリクラフトパルプ、日本製紙株式会社製)50gに10質量%水酸化ナトリウム水溶液1Lを添加し、25℃にて2時間攪拌しながらアルカリ抽出を行った。次いで、これをろ紙(No.1、アドバンテック東洋株式会社製)を用いてろ過し、更に水で洗浄した。次いで、抽出物を酢酸でpH7.0に調整し、これにエタノール(純度99%、和光純薬工業株式会社製)1Lを添加し、25℃にて12時間放置した。次いで、10,000rpmにて10分間遠心分離し、沈殿物としてキシランを回収した。該沈殿物に再度エタノールを添加し、同条件で遠心して沈殿物を洗浄した。この洗浄は合計2回行った。該沈殿物に再度蒸留水を添加し、同条件で遠心して沈殿物を洗浄した。この洗浄は合計3回行った。洗浄後の沈殿物を凍結乾燥により一晩乾燥させ、粉体状の広葉樹キシラン2.4gを得た。収率は4.8質量%であった。
【0093】
(実施例1:ジ−O−(6−ブロモヘキサノイル)−キシランの合成)
下記スキームで示すように、構造式(2)で表されるジ−O−(6−ブロモヘキサノイル)−キシラン(XylC6Br)を合成した。
調製例1で調製した広葉樹キシラン(数平均分子量:約10,000)1.13gをジメチルアセトアミド(DMAc)20mLに分散させ、120℃で2時間撹拌した。反応液の温度を100℃に下げた後、150℃で一晩乾燥させた塩化リチウム(LiCl)を加えた。温度を室温に戻し、反応液が透明になるまで撹拌した。1.5時間後、ジメチルアミノピリジン(DMAP;無水キシロース単位(AXU;anhydro xylose unit)に対して4当量)3.7gと、6−ブロモヘキサン酸クロリド(6−bromohexanoyl chloride;AXUに対して4当量)6.5mLと、を該反応液に加え、70℃で2日間撹拌した。反応終了後、反応液をメタノール800mL中に滴下し、沈殿物をろ過により回収し、メタノール、水による洗浄を行い、減圧乾燥後、下記構造式(2)で表される目的の化合物ジ−O−(6−ブロモヘキサノイル)−キシラン 3.16gを得た。収率は、76.0質量%であった。
【0094】
【化14】
前記構造式(1)及び前記構造式(2)において、n及びxは、それぞれ重合度を表す。
【0095】
<数平均分子量及び重量平均分子量の測定>
XylC6Brの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC法)により以下に示す測定条件で測定した。なお、Mn及びMwはポリスチレン(PS)換算とした。
その結果、XylC6Brにおける重合度xは44.0であり、数平均分子量(Mn)は21,400、重量平均分子量(Mw)は37,600、Mw/Mnは1.76であった。
[測定条件]
装置 :Shimadzu 10A(株式会社島津製作所製)
カラム :Shodex K−806M/K−802連結カラム(Shodex社製)
カラム温度:40℃
移動層 :クロロホルム
流速 :0.8mL/分間
アプライ :50μL
【0096】
<プロトン核磁気共鳴スペクトル及びカーボン核磁気共鳴スペクトルの測定>
XylC6Brのプロトン核磁気共鳴スペクトル及びカーボン核磁気共鳴スペクトルは、JEOL JNM−A500 FT−NMRにより、重クロロホルム中で500MHz、25℃の条件で測定した。内部標準物質としては、テトラメチルシラン(TMS)を用いた。
プロトン核磁気共鳴スペクトルを図1に、チャートを以下に示す。また、カーボン核磁気共鳴スペクトルを図2に、チャートを以下に示す。この結果、Brの置換度は2であった。なお、ケミカルシフト(δ)及びカップリングコンスタント(J)は「ppm」及び「Hz」を示す。
【0097】
1H−NMR(CDCl3):δ1.44(m,2H,−CH2−CH2−CH2−Br),1.59(m,2H,−CO−CH2−CH2−),1.77(m,2H,−CH2−CH2−Br),2.26(s,2H,−CO−CH2−),3.23(C5−Ha),3.54(t,2H,J=6.5,−CH2−Br),3.76(C4−H),3.89(C5−He),4.43(C1−H),4.69(C2−H),5.00(C3−H).
【0098】
13C−NMR(CDCl3):δ24.0(−CO−CH2−CH2−),26.3(−CH2−CH2−CH2−Br),32.1(−CH2−CH2−Br),33.7(−CO−CH2−),44.8(−CH2−Br),62.5(C5),70.7(C2),71.7(C3),74.2(C4),99.9(C1),171.7,172.2(CO of C2 and C3,respectively).
【0099】
(実施例2:ジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシランの合成)
下記スキームで示すように、構造式(3)で表されるジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシラン(XylC6N3)を合成した。
実施例1で合成したXylC6Brを3.16g含むジメチルホルムアミド溶液(DMF)20mLにアジ化ナトリウム(NaN3;AXUに対して4当量)1.69gを加え、60℃で7日間撹拌した。反応液を室温に戻した後、クロロホルム及び水で抽出を行い、クロロホルム層を濃縮して、下記構造式(3)で表される目的の化合物ジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシラン 1.44gを固体で得た。収率は、54.1質量%であった。
【0100】
【化15】
前記構造式(2)及び前記構造式(3)において、x及びyは、それぞれ重合度を表す。
【0101】
実施例1と同様の方法で、数平均分子量及び重量平均分子量を測定した結果、XylC6N3における重合度yは51.4であり、数平均分子量(Mn)は21,100、重量平均分子量(Mw)は37,000、Mw/Mnは1.75であった。
また、実施例1と同様の方法で、プロトン核磁気共鳴スペクトル及びカーボン核磁気共鳴スペクトルの測定を行った。
プロトン核磁気共鳴スペクトルを図3に、チャートを以下に示す。また、カーボン核磁気共鳴スペクトルを図4に、チャートを以下に示す。この結果、N3の置換度は2であった。なお、ケミカルシフト(δ)及びカップリングコンスタント(J)は「ppm」及び「Hz」を示す。
【0102】
1H−NMR(CDCl3):δ1.37(m,2H,−CH2−CH2−CH2−N3),1.59(m,4H,−CO−CH2−CH2−,−CH2−CH2−N3),2.25(s,2H,−CO−CH2−),3.22(C5−Ha),3.28(t,2H,J=6.5,−CH2−N3),3.76(m,C4−H),3.90(C5−He),4.43(C1−H),4.69(C2−H),5.00(C3−H).
【0103】
13C−NMR(CDCl3):δ24.2(−CO−CH2−CH2−),26.1(−CH2−CH2−CH2−N3),28.5(−CH2−CH2−N3),33.7(−CO−CH2−),51.2(−CH2−N3),62.5(C5),70.7(C2),71.6(C3),74.1(C4),99.8(C1),171.7,172.1(CO of C2 and C3,respectively).
【0104】
実施例1及び実施例2の結果をまとめて下記表1に示す。
【0105】
【表1】
なお、表1において、「DPn」は、数平均分子量(Mn)を繰り返し単位の質量(R)で除した数(Mn/R)を表す。
【0106】
(合成例1:末端プロパルギル化ポリL−ラクチドの合成)
下記スキームで示すように、以下の方法で、下記構造式(4)で表される末端アルキン化ポリL−ラクチド(末端プロパルギル化ポリL−ラクチド)を合成した。
51.8μLのプロパルギルアルコール(1当量)と、3mLのオクチル酸スズ(II)(Sn(Oct)2;1当量)とを含む無水トルエン(4mL)溶液を90℃で撹拌したところへ、開始剤(プロパルギルアルコール)に対しL−ラクチド(2.0g,15当量、株式会社武蔵野化学研究所製)の無水トルエン(6mL)溶液を滴下し、24時間撹拌した。反応液をメタノール500mLへ再沈殿した後、10,000rpmにて4分間遠心分離して沈殿を回収した。この沈殿に再度メタノールを添加し、同条件で遠心して沈殿物を洗浄した。この洗浄は合計2回行った。これにより、下記構造式(4)で表される目的の末端プロパルギル化ポリL−ラクチド(以下、「プロパルギル−PLLA4」と称することがある。)1.43gを得た。収率は71.7質量%であった。
【0107】
【化16】
前記構造式(4)において、zは、重合度を表す。
【0108】
前記プロパルギル−PLLA4の合成において、ラクチドと開始剤(プロパルギルアルコール)の仕込み比を下記表2に示す値に変えたこと以外は、前記プロパルギル−PLLA4と同様の方法で、プロパルギル−PLLA1〜3及びプロパルギル−PLLA5〜6を作製した。
【0109】
実施例1と同様の方法で、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を測定した。結果を下記表2に示す。
【0110】
【表2】
なお、表2において、「DPn」は、数平均分子量(Mn)を繰り返し単位の質量(R)で除した数(Mn/R)を表し、DPは、NMR分析における末端アルキンC−Hに対するPLLA鎖のC*Hの比率([C*H]/[C≡C−H])を表す。分子鎖長は、DPnから算出した。
【0111】
実施例1と同様の方法で、プロパルギル−PLLA4のプロトン核磁気共鳴スペクトル及びカーボン核磁気共鳴スペクトルの測定を行った。
プロトン核磁気共鳴スペクトルを図7に、チャートを以下に示す。また、カーボン核磁気共鳴スペクトルを図8に、チャートを以下に示す。なお、ケミカルシフト(δ)及びカップリングコンスタント(J)は「ppm」及び「Hz」を示す。
【0112】
1H−NMR(CDCl3):δ1.48,1.49(d,3H,CH3(end)),1.58,1.59(CH3),2.51(t,1H,C≡C−H),4.36(q,1H,C*H(end)),4.73(dd,2H,−CH2−C≡CH),5.17(C*H).
【0113】
13C−NMR(CDCl3):δ16.6(CH3),20.5(CH3(end)),52.9(−CH2−C≡CH),66.7(C*(end)),69.0(C*),75.6(−C≡CH),77.0(overlapped,−C≡CH),169.6(CO).
【0114】
プロトンNMRスペクトル中のアルキン末端のプロトンC≡CHとPLLA鎖のC*Hのプロトンのピーク面積比から算出した重合度と数平均重合度がほぼ一致したことから、PLLA末端にプロパルギル基が開始点として定量的に結合しており、末端にアルキンを有さないポリマーがほぼ混在しないことがわかった。
【0115】
(実施例3:ジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシラン−グラフト−ポリL−ラクチドの合成)
下記スキームで示すように、下記構造式(3)で表されるXylC6N3と、下記構造式(4)で表されるプロパルギル−PLLAと、を以下の方法でクリックケミストリーと呼ばれる環化反応に供し、PLLA鎖をキシラン誘導体の主鎖にグラフトさせた下記構造式(5)で表されるジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシラン−グラフト−ポリL−ラクチドを合成した。
実施例2で合成したXylC6N3を20.0mgと、合成例1で合成したプロパルギル−PLLA4を32.3mg(AXUに対して約0.125当量)と、N,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)を10.6mg(PLAに対して10当量)と、を含むクロロホルム/ジメチルホルムアミド(1/1(v/v))2.4mLの溶液を凍結脱気後、Cu(I)Br(PLAのモノマーに対して2当量)8.7mgを加え、減圧下で24時間撹拌し、減圧濃縮後、DMF溶液中の化合物をエタノール100mlに再沈殿させろ過した後、下記構造式(5)で表される目的の化合物ジ−O−(6−アジドヘキサノイル)−キシラン−グラフト−ポリL−ラクチド(以下、「XylC6N3−g−PLLA4」と称することがある。)42.0mgを得た。収率は80.3質量%であった。
【0116】
【化17】
前記構造式(3)、前記構造式(4)、及び前記構造式(5)において、y、z、m、及びpは、それぞれ重合度を表す。
【0117】
実施例1と同様の方法で、プロトン核磁気共鳴スペクトル及びカーボン核磁気共鳴スペクトルの測定を行った結果。
プロトン核磁気共鳴スペクトルを図5に、チャートを以下に示す。また、カーボン核磁気共鳴スペクトルを図6A、図6B、及び図6Cに、チャートを以下に示す。この結果、N3の置換度は2であった。なお、ケミカルシフト(δ)及びカップリングコンスタント(J)は「ppm」及び「Hz」を示す。
また、実施例1及び合成例1においてGPC法で測定した分子量の値から算出したXylC6N3−g−PLLAにおける重合度mは51.4であり、重合度pは74.7であった。
【0118】
1H−NMR(CDCl3):δ1.31(−CH2−CH2−CH2−N3),1.51(CH3(PLLA),−CO−CH2−CH2−,−CH2−CH2−N3),2.18(s,2H,−CO−CH2−),3.21(−CH2−N3,C5−Ha(overlapped)),3.65(C4−H),3.83(C5−He),4.28(C*H(end)),4.37(C1−H),4.62(C2−H),4.94(C3−H),5.09(C*H(PLLA),).
【0119】
13C−NMR(CDCl3):δ16.6(CH3(PLLA)),20.5(CH3(PLLA,end)),24.2(−CO−CH2−CH2−),26.1(−CH2−CH2−CH2−N3),28.5(−CH2−CH2−N3),33.7(−CO−CH2−),51.2(−CH2−N3),62.5(C5),66.7(C*(PLLA,end)),69.0(C*(PLLA)),70.7(C2),71.7(C3),74.1(C4),99.8(C1),123.6(−N−C=C−),142.1(−N−C=C−),169.6(CO(PLLA)),171.6,172.1(CO of C2 and C3,respectively).
【0120】
NMRの結果、キシランとPLLA鎖に由来するピークが観察された。特にカーボン核磁気共鳴スペクトルでは1,2,3−トリアゾール環に由来するピークが123.6(−N−C=C−),142.1(−N−C=C−)に見られ、クリックケミストリーによる環化反応が起こったことを示していた。
【0121】
XylC6N3−g−PLLA4のGPC測定の結果を表3に示す。XylC6N3−g−PLLA4は単一の溶出ピークを示し、原料のXylC6N3やPLLAのピークは観察されなかったことから、PLLA鎖がキシラン主鎖に定量的にグラフトしたことが示唆された。
【0122】
PS換算の分子量からは、キシラン主鎖(XylC6N3)1本に対するプロパルギル−PLLA4側鎖の数Nは、下記式1で算出され、8.8であった。
N=(X−Y)/Z ・・・式1
前記式1において、Xは、XylC6N3−g−PLLA4の数平均分子量を表し、Yは、XylC6N3の数平均分子量を表し、Zは、PLLA鎖の数平均分子量を表す。
【0123】
また、XylC6N3−g−PLLA4の1分子中のPLLA鎖の重量比(%)は下記式2で算出され、68.8であった。
PLLAの重量比(%)=(X−Y)/X
前記式2において、Xは、XylC6N3−g−PLLA4の数平均分子量を表し、Yは、XylC6N3の数平均分子量を表す。
【0124】
【表3】
【0125】
(実施例4:フィルムの製造)
実施例3で合成したXylC6N3−g−PLLAを20mg用い、クロロホルム 10mLに溶解し、シャーレ(直径5cm)に流し込み、ドラフト内(25℃)にて24時間乾燥させた。
乾燥後の写真を図9に示す。これにより、キシラングラフトコポリマーからフィルムを製造することができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明のキシラン誘導体及びその製造方法、該キシラン誘導体の前駆体及びその製造方法、キシラングラフトコポリマー及びその製造方法、並びに、ポリマー成形体によれば、未利用バイオマスを有効利用でき、例えば、包装材料、フィルター、不織布等に応用できるプラスチック材料、結晶核剤、架橋剤などを提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランにおける水酸基の水素原子の少なくともいずれかが、ハロゲン含有基に置換されていることを特徴とするキシラン誘導体前駆体。
【化1】
ただし、前記構造式(1)において、nは重合度を表す。
【請求項2】
キシランのモノマー単位における水酸基の水素原子に対する置換度が2である請求項1に記載のキシラン誘導体前駆体。
【請求項3】
下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランと、ハロゲン含有化合物と、を反応させてキシラン誘導体前駆体を製造することを特徴とするキシラン誘導体前駆体の製造方法。
【化2】
ただし、前記構造式(1)において、nは重合度を表す。
【請求項4】
下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランにおける水酸基の水素原子の少なくともいずれかが、アジド基を有する置換基に置換されていることを特徴とするキシラン誘導体。
【化3】
ただし、前記構造式(1)において、nは重合度を表す。
【請求項5】
キシランのモノマー単位における水酸基の水素原子に対する置換度が2である請求項4に記載のキシラン誘導体。
【請求項6】
請求項1から2のいずれかに記載のキシラン誘導体前駆体と、該キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物と、を反応させてキシラン誘導体を製造することを特徴とするキシラン誘導体の製造方法。
【請求項7】
末端にアルキンを有する化合物と、請求項4から5のいずれかに記載のキシラン誘導体と、を反応させることを特徴とするキシラングラフトコポリマーの製造方法。
【請求項8】
末端にアルキンを有する化合物が、プロパルギル基を有するポリマーである請求項7に記載のキシラングラフトコポリマーの製造方法。
【請求項9】
請求項7から8のいずれかに記載のキシラングラフトコポリマーの製造方法により得られ、キシラン誘導体を主鎖とし、ポリマーを側鎖として有することを特徴とするキシラングラフトコポリマー。
【請求項10】
請求項4から5のいずれかに記載のキシラン誘導体、及び請求項9に記載のキシラングラフトコポリマーの少なくともいずれかを含むことを特徴とするポリマー成形体。
【請求項11】
フィルムである請求項10に記載のポリマー成形体。
【請求項1】
下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランにおける水酸基の水素原子の少なくともいずれかが、ハロゲン含有基に置換されていることを特徴とするキシラン誘導体前駆体。
【化1】
ただし、前記構造式(1)において、nは重合度を表す。
【請求項2】
キシランのモノマー単位における水酸基の水素原子に対する置換度が2である請求項1に記載のキシラン誘導体前駆体。
【請求項3】
下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランと、ハロゲン含有化合物と、を反応させてキシラン誘導体前駆体を製造することを特徴とするキシラン誘導体前駆体の製造方法。
【化2】
ただし、前記構造式(1)において、nは重合度を表す。
【請求項4】
下記構造式(1)で表される構造単位を有するキシランにおける水酸基の水素原子の少なくともいずれかが、アジド基を有する置換基に置換されていることを特徴とするキシラン誘導体。
【化3】
ただし、前記構造式(1)において、nは重合度を表す。
【請求項5】
キシランのモノマー単位における水酸基の水素原子に対する置換度が2である請求項4に記載のキシラン誘導体。
【請求項6】
請求項1から2のいずれかに記載のキシラン誘導体前駆体と、該キシラン誘導体前駆体のハロゲン含有基のハロゲン基をアジド基に置換する化合物と、を反応させてキシラン誘導体を製造することを特徴とするキシラン誘導体の製造方法。
【請求項7】
末端にアルキンを有する化合物と、請求項4から5のいずれかに記載のキシラン誘導体と、を反応させることを特徴とするキシラングラフトコポリマーの製造方法。
【請求項8】
末端にアルキンを有する化合物が、プロパルギル基を有するポリマーである請求項7に記載のキシラングラフトコポリマーの製造方法。
【請求項9】
請求項7から8のいずれかに記載のキシラングラフトコポリマーの製造方法により得られ、キシラン誘導体を主鎖とし、ポリマーを側鎖として有することを特徴とするキシラングラフトコポリマー。
【請求項10】
請求項4から5のいずれかに記載のキシラン誘導体、及び請求項9に記載のキシラングラフトコポリマーの少なくともいずれかを含むことを特徴とするポリマー成形体。
【請求項11】
フィルムである請求項10に記載のポリマー成形体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−180424(P2012−180424A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43168(P2011−43168)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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