説明

キシロオリゴ糖の製造方法

【課題】 特定の構造を有するキシロオリゴ糖を容易に製造可能なキシロオリゴ糖の製造方法を提供する。
【解決手段】 キシロオリゴ糖の製造方法は、β1,4−キシランよりなる主鎖に側鎖が結合してなるキシラン誘導体をエキソ型キシラナーゼで分解する工程を備える。キシラナーゼは、アエロモナス・パンクタータME−1株由来のキシラナーゼX(XynX)であることが特に好ましい。図3(a)、(b)は、キシラナーゼXによりバーチウッドキシランを分解した際の加水分解産物を展開したTLCプレート、及び該加水分解産物を陰イオン交換樹脂で分離した後に展開したTLCプレートを示す。X2及びX4と同じ展開度のスポットはキシロビオース及び4−O−メチルグルクロン酸−α1,2−キシロトリオースである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有し、整腸作用や免疫賦活作用を発揮し得るキシロオリゴ糖を製造する方法に関する。例えば、キシランを主鎖とする多糖をキシラナーゼにて分解することにより、4−O−メチルグルクロン酸−α1,2−キシロトリオースのような特定の構造を有するキシロオリゴ糖を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題が注目される中、半永久的に生産され得る再生可能なバイオマス資源の有効利用に大きな期待が寄せられている。現在、木質系バイオマス資源は主に、食糧、燃料、繊維、建築材料等に利用されているが、その量は地球上のバイオマス年間生産量の僅かな量に過ぎない。バイオマス資源として木材を利用する場合、細胞壁の利用が多い。木材の細胞壁には、セルロースが45%程度、ヘミセルロースが30%程度、リグニンが25%程度含まれている。これらのうち、セルロースに次ぐ主要成分であるヘミセルロースに関しては、キシリトール等や一部のキシロオリゴ糖が食品素材として利用されている以外は、工業的な利用がほとんどなされていない。
【0003】
木材に含まれるヘミセルロースの主な成分としては、キシラン及びその誘導体からなる多糖が挙げられる。キシランは、D−キシロース残基をβ1,4結合にて直鎖状に結合させた直鎖状重合体である。天然のヘミセルロースには、前記キシランの他にも、キシランからなる直鎖状の主鎖に、L−アラビノフラノース残基、D−グルクロン酸残基、4−O−メチル−D−グルクロン酸残基等の側鎖を結合させたアラビノキシラン、グルクロノキシラン、アラビノグルクロノキシラン、メチルグルクロノキシラン(4−O−メチル−D−グルクロノキシラン)等のキシラン誘導体が存在する。
【0004】
キシロオリゴ糖は、2〜7個程度のキシロースをβ1,4→グリコシド結合にて結合させた構造を有するオリゴ糖である。キシロオリゴ糖は、ヒトの消化酵素では加水分解されないが、ビフィズス菌等の腸内有用菌の栄養源となり得るため、高い整腸作用を有することが知られている。特に、キシロオリゴ糖は、他のオリゴ糖よりも一桁程低い濃度で有効性を発揮するという報告もあるうえ、耐熱性に優れるとともに低いpH環境下でも安定であることから、食品添加物等として極めて有用である。キシロオリゴ糖は、トウモロコシ、コーンコブ、バガス、綿実せり等の植物の樹皮等から得られる天然物である。キシロオリゴ糖は、木材成分のキシランから得ることも可能である。現在、日本では年間5000万トンもの大量の木質廃材が排出されているため、環境問題や廃棄物問題の解決に向けて、このような廃材の工業的な有効利用に大きな期待がかけられている。
【0005】
一般に、キシラン主鎖をキシロオリゴ糖に分解する酵素をキシラナーゼという。キシラナーゼは、微生物界に広く認められている。多くのキシラナーゼは、広葉樹キシランに作用して、主としてキシロビオースからオリゴキシロースや、アルドビオウロン酸からアルドヘキサオウロン酸等を生成する。キシラナーゼは、キシランの主鎖をランダムに分解するエンド型と、キシランの主鎖を端から切断するエキソ型とに分類することが可能である。エキソ型キシラナーゼは、キシランの主鎖を特定の重合度のオリゴ糖単位で切断するため、分解産物として特定の構造を有するキシロオリゴ糖のみを特異的に生成させる。
【0006】
キシラナーゼを含むグリコシル加水分解酵素は、立体構造及びアミノ酸配列の疎水性クラスター解析に基づいて、97ファミリーに分類されている。キシラナーゼのほとんどは10種のファミリーに跨って分類され、そのほとんどはファミリー10及びファミリー11に分類されている。一般に、ファミリー10は、高い分子量(>30kDa)と低い等電点(pI)の酸性タンパク質とにより特徴づけられる。ファミリー10は、(β/α)バレル構造からなる基本構造を有するとともに、二次構造の約40%をαへリックスで占有されている。
【0007】
例えば非特許文献1〜3には、アエロモナス・パンクタータ(Aeromonas punctata、従来名;アエロモナス・カビエ)ME−1株由来のキシラナーゼであるキシラナーゼX(XynX)について報告されている。キシラナーゼXは、分子量38kDaの単量体からなり、50℃の至適温度、至適pH8.0のタンパク質である。これらの報告によれば、キシラナーゼXは、バーチウッドキシランから、キシロビオース(D−キシロースのダイマー)及びキシロテトラオース(D−キシロースのテトラマー)を生成させる。また、キシラナーゼXは、細胞内局在型キシラナーゼであるが、浸透圧の低下ショックにより細胞質内からペリプラズムへと放出されることも報告されている。さらに、キシラナーゼXは、X線結晶構造解析より、グリコシル加水分解酵素のファミリー10に属することも確認されている。
【非特許文献1】臼井、外3名、「アエロモナス・カビエME−1株のエキソ−キシラナーゼの有力候補であるキシラナーゼXが、キシランから専らキシロビオース及びキシロテトラオースを生成する( XynX, a possible exo-xylanase of Aeromonas caviae ME-1 that produces exclusively xylobiose and xylotetraose from xylan. )」、Biosci.Biotechnol.Biochem.,63(8)、1346−1352(1999)
【非特許文献2】臼井、外3名、「アエロモナス・カビエME−1株の細胞内局在型キシラナーゼ(キシラナーゼX)が、浸透圧の低下ショックにより細胞質内からペリプラズムへとリリースされる( A cytoplasmic xylanase ( XynX ) of Aeromonas caviae ME-1 is released from the cytoplasm to the periplasm by osmotic downshock. )」、J.Biosci.Bioeng.,95,488−495(2003)
【非特許文献3】藤本、外5名、「アエロモナス・パンクタータME−1株由来のファミリー10キシラナーゼであるキシラナーゼXの結晶化及び予備的なX線による結晶学的研究( Crystallization and preliminary X-ray crystallographic studies of XynX, a family 10 xylanase from Aeromonas punctata ME-1. )」、Acta Crystallographica Section F,61,255−256(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、非特許文献1において、キシラナーゼXが、バーチウッドキシランからキシロビオース及びキシロテトラオースを生成させたことを報告したが、その後の鋭意研究の結果、キシラナーゼXに特定の構造を有するキシロオリゴ糖を生成させる作用があることを見出した。そして、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。本発明の目的とするところは、特定の構造を有するキシロオリゴ糖を容易に製造することができるキシロオリゴ糖の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、キシロオリゴ糖を製造する方法であって、該方法は、キシラン誘導体をエキソ型キシラナーゼで分解する分解工程を備え、前記キシラン誘導体は、β1,4−キシランよりなる主鎖に側鎖が結合してなる構造を有することを要旨とする。
【0010】
請求項2に記載のキシロオリゴ糖の製造方法は、請求項1に記載の発明において、前記エキソ型キシラナーゼは、グリコシル加水分解酵素のファミリー10に属し、かつN末端から7番目のβシート−αへリックス間に13以上のアミノ酸残基よりなるループ構造を有する(β/α)バレル構造を形成していることを要旨とする。
【0011】
請求項3に記載のキシロオリゴ糖の製造方法は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記エキソ型キシラナーゼは、メチルグルクロノキシランを基質として反応させると、キシロビオース及び4−O−メチルグルクロン酸−α1,2−キシロトリオースを生成させる酵素活性を有することを要旨とする。
【0012】
請求項4に記載のキシロオリゴ糖の製造方法は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記エキソ型キシラナーゼは、アエロモナス・パンクタータME−1株(特許微生物寄託センター受領番号:NITE AP−127)由来のキシラナーゼXであることを要旨とする。
【0013】
請求項5に記載のキシロオリゴ糖の製造方法は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記キシラン誘導体は、メチルグルクロノキシランであることを要旨とする。
【0014】
請求項6に記載のキシロオリゴ糖の製造方法は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記キシラン誘導体は、4−O−メチルグルクロン酸を前記側鎖として備えることを要旨とする。
【0015】
請求項7に記載のキシロオリゴ糖の製造方法は、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の発明において、当該製造方法はさらに、前記分解工程を経て生成した前記キシロオリゴ糖を分離する工程を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特定の構造を有するキシロオリゴ糖を容易に製造することができるキシロオリゴ糖の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のキシロオリゴ糖の製造方法を具体化した一実施形態について説明する。
本実施形態のキシロオリゴ糖の製造方法は、β1,4−キシランよりなる主鎖に側鎖が結合してなるキシラン誘導体を、エキソ型キシラナーゼで分解する分解工程を備える。分解工程では、キシラン誘導体がエキソ型キシラナーゼによってオリゴ糖単位で端から順番に切り出される。このため、本実施形態のキシロオリゴ糖の製造方法では、前記側鎖の種類や結合位置等に依存した特定の構造を有するキシロオリゴ糖が製造される。
【0018】
本実施形態の製造方法で用いられるキシラン誘導体は、具体的には、D−キシロース残基の直鎖状重合体であるβ1,4−キシランからなる主鎖に、L−アラビノフラノース残基、D−グルクロン酸残基、4−O−メチルグルクロン酸残基等の側鎖を結合させた構造を有する。このようなキシラン誘導体としては、例えば、アラビノキシラン、グルクロノキシラン、アラビノグルクロノキシラン、メチルグルクロノキシラン等が挙げられる。なお、キシラン誘導体としては、上述した側鎖以外にも、フルクトース等を始めとしてあらゆる種類の側鎖を備えたものが使用可能である。
【0019】
例えば、本実施形態の製造方法において、メチルグルクロノキシランのような4−O−メチルグルクロン酸を側鎖として備えるキシラン誘導体を用いる場合、製造されるキシロオリゴ糖には、アルドトリオウロン酸(4−O−メチルグルクロニルキシロビオース)、アルドテトラオウロン酸(4−O−メチルグルクロニルキシロトリオース)、アルドヘキサオウロン酸(4−O−メチルグルクロニルキシロペントース)等のアルドオリゴオウロン酸が含まれる。このようなアルドオリゴオウロン酸を製造可能なキシラン誘導体としては、バーチウッドキシラン(白樺キシラン)が特に好適に使用される。
【0020】
本実施形態の製造方法で用いられるエキソ型キシラナーゼは、グリコシル加水分解酵素のファミリー10に属し、かつN末端から7番目のβシート−αへリックス間に通常より長いループ構造(所謂、ループ7)を有する(β/α)バレル構造を形成しているという構造上の特徴を有する。また、同エキソ型キシラナーゼは、メチルグルクロノキシランを基質として反応させると、キシロビオース及び4−O−メチルグルクロン酸−α1,2−キシロトリオースを生成させる酵素活性を有するという機能上の特徴を有する。即ち、本実施形態のエキソ型キシラナーゼは、上述した構造上の特徴及び機能上の特徴のうちの少なくとも一方、好ましくは両方の特徴を有するものである。このようなキシラナーゼは、キシランの主鎖を特定の重合度のオリゴ糖単位で切断するエキソ型であるため、分解工程で特定の構造を有するキシロオリゴ糖のみを特異的に生成させる。
【0021】
このようなエキソ型キシラナーゼとしては、アエロモナス・パンクタータME−1株(特許微生物寄託センター受領番号:NITE AP−127)由来のキシラナーゼX(XynX)、ゲオバチルス・ステアロサーモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)由来の細胞内キシラナーゼ(1N82A)、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)由来のキシラナーゼT6(1HIZA)等が挙げられる。XynXは、配列番号1で表される塩基配列からなる遺伝子によってコードされ、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質であり、図2に模式的に示す立体構造を有している。なお、XynXについては、非特許文献1〜3に詳細な記載がなされている。1N82Aは、配列番号3で表される塩基配列からなる遺伝子によってコードされ、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。1HIZAは、配列番号5で表される塩基配列からなる遺伝子によってコードされ、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。
【0022】
エキソ型キシラナーゼの構造上の特徴において、前記(β/α)バレル構造は、図2に模式的に示すように、βシート−αへリックスからなる繰り返し構造を8個備えたバレル形状をなす立体構造である。このバレル構造は、糖加水分解酵素に多く見られるものであり、該酵素の触媒活性の中心を担う触媒ドメインを形成する。ループ7は、エキソ型キシラナーゼのN末端から7番目のβシートと、7番目のαへリックスとの間に存在するループ構造である。なお、前記通常より長いループ構造とは、ループ7の場合、13以上のアミノ酸残基よりなることを意味する。ちなみに、本実施形態のエキソ型キシラナーゼのループ7は、19〜20のアミノ酸残基よりなる(図1参照)。ちなみに、図1は、上記各エキソ型キシラナーゼのアミノ酸配列を容易に比較できるように並べて示した図であり、同図にはループ7に相当する位置も示されている。
【0023】
エキソ型キシラナーゼの機能上の特徴において、これらのエキソ型キシラナーゼはいずれも、メチルグルクロノキシランを基質として反応させると、キシロビオース及び4−O−メチルグルクロン酸−α1,2−キシロトリオースを生成させる酵素活性を有しており、場合によってはその他のキシロオリゴ糖を生成させることもある。ちなみに、XynXは、メチルグルクロノキシランを基質として反応させると、キシロビオース及び4−O−メチルグルクロン酸−α1,2−キシロトリオースのみを生成させる。
【0024】
本実施形態の製造方法により製造されるキシロオリゴ糖としては、2〜7個程度のキシロースをβ1,4−グリコシド結合にて直鎖状に結合させた主鎖のみからなるもの、又は該主鎖に側鎖が結合したものが挙げられる。主鎖のみからなるキシロオリゴ糖としては、キシロビオース(X2)、キシロトリオース(X3)、キシロテトラオース(X4)、キシロペントース(X5)、キシロヘキサオース(X6)又はキシロヘプタオース(X7)が挙げられる。側鎖を有するキシロオリゴ糖としては、前記X2〜X7を構成する糖にキシロース以外の単糖又はオリゴ糖が結合したものが挙げられる。前記側鎖は、キシラン誘導体に由来する側鎖であり、具体的には、L−アラビノフラノース残基、D−グルクロン酸残基、4−O−メチルグルクロン酸残基等である。
【0025】
これらのキシロオリゴ糖は、ビフィズス菌のような腸内有用菌(所謂善玉菌)の栄養源となり、所謂腸内悪玉菌の栄養源とはなり得ないため、善玉菌の増殖を選択的に高めて高い整腸作用を発揮する。また、これらのキシロオリゴ糖は、ミュータンス菌のような虫歯菌の栄養源にならないため、虫歯予防効果を有する甘味料としても利用可能である。さらに、これらのキシロオリゴ糖は、免疫賦活作用も発揮し得る。例えば、キシロオリゴ糖としてのX2は、ビフィズス菌に対する増殖作用を有することが報告されている。X2は、化1に示すように、2個のD−キシロース残基をβ1→4結合にて結合させた構造を有するが、ビフィズス菌等の腸内有用菌は、前記β1→4結合を切断する酵素を備えており、切断後のD−キシロースを分解して資化することができる。
【0026】
【化1】

また、キシロオリゴ糖としての4−O−メチルグルクロン酸1−α1,2−キシロトリオースは、化2に示すように、3個のD−キシロース残基をβ1→4結合にて直鎖状に結合させたキシロトリオース残基と、該キシロトリオース残基の端に位置するD−キシロース残基にα1→2結合にて結合した4−O−メチルグルクロン酸残基とよりなる。腸内有用菌の中には、D−キシロース残基間のβ1→4結合を切断する酵素と、D−キシロース残基及び4−O−メチルグルクロン酸残基間のα1→2結合を切断する酵素とを備えたものが知られている。
【0027】
【化2】

本実施形態の製造方法はさらに、前記分解工程を経て生成した複数種類のキシロオリゴ糖を分離する分離工程を備えることが好ましい。分離工程では、構造の異なるキシロオリゴ糖をそれぞれ互いに分離可能な公知の分離法が利用される。即ち、この分離工程では、分解工程によって得られた複数種類のキシロオリゴ糖が各種のキシロオリゴ糖に区分(単離)されるのである。
【0028】
このような分離法としては、ゲルろ過クロマトグラフィー、陽イオン交換樹脂(Na型、Ca型、K型、H型等)又は陰イオン交換樹脂(Cl型、OH型等)を担体として用いたイオン交換クロマトグラフィー、レクチンや抗体等を担体に結合させてなるアフィニティークロマトグラフィー、活性炭、シリカゲル、オクタデシルシリル基(ODS)を備えた樹脂やゲル等を担体として用いたクロマトグラフィーが適宜選択して利用される。なお、上述したクロマトグラフィーの代わりに同様の担体を用いたバッチ式の分離方法も実施可能である。また、分離法としては、固定床方式(ワンパス方式)、連続方式(疑似移動床方式)又は半連続方式(固定床方式と連続方式の組み合わせ)による分離装置を用いる方法、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂、電気透析膜等を用いて脱塩する方法、限外ろ過、メンブランろ過、珪藻土(あるいはハイフロスーパーセル)ろ過、逆浸透膜ろ過等によるろ過、冷却結晶化法又は煎糖法による結晶化、公知のイースト処理、その他、活性炭又は陰イオン交換樹脂を用いた脱色等が適宜選択されて採用される。
【0029】
なお、X2〜X7のような電荷を有さないキシロオリゴ糖と、4−O−メチルグルクロン酸−α1,2−キシロトリオースのような正電荷を有するキシロオリゴ糖とを分離する場合には、陰イオン交換クロマトグラフィーを利用することが最も簡便かつ有効である。ちなみに、本実施形態の製造方法で製造されるキシロオリゴ糖とは、複数種類のキシロオリゴ糖の混合物、及び単一の種類のキシロオリゴ糖のいずれであってもよい。
【0030】
前記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1) 本実施形態のキシロオリゴ糖の製造方法では、エキソ型キシラナーゼが用いられる。エンド型のキシラナーゼは、一般に、キシロビオース、キシロトリオース、キシロテトラオースのような重合度の連続したキシロオリゴ糖を生成させる性質を有するが、本実施形態のエキソ型キシラナーゼは、不連続な重合度を有し、かつ特定の構造を有するキシロオリゴ糖を生成させるという極めてユニークな性質を有している。このため、本実施形態のエキソ型キシラナーゼを用いて、特定の構造を有するキシラン誘導体を加水分解することにより、該キシラン誘導体の側鎖の構造に依存した特定の構造を有するキシロオリゴ糖を容易に得ることができる。
【0031】
(2) 本実施形態のキシロオリゴ糖の製造方法では、グリコシル加水分解酵素のファミリー10に属し、かつ13以上のアミノ酸残基よりなるループ7を有する(β/α)バレル構造を形成するという構造上の特徴を備えたエキソ型キシラナーゼが用いられる。また、本実施形態のキシロオリゴ糖の製造方法では、メチルグルクロノキシランを基質として反応させると、キシロビオース及び4−O−メチルグルクロン酸−α1,2−キシロトリオースを生成させる酵素活性を有するという機能上の特徴を有するエキソ型キシラナーゼが用いられる。なお、本実施形態のエキソ型キシラナーゼは、前記構造上の特徴及び機能上の特徴のうちの少なくとも一方の特徴を有していればよい。即ち、本実施形態では、前記構造上の特徴を有さずに機能上の特徴のみを有するもの、又は前記機能上の特徴を有さずに構造上の特徴のみを有しているものであっても構わない。このようなキシラナーゼを用いる場合、上記(1)と同様に、特定の構造を有するキシロオリゴ糖を容易に得ることができる。特に、本実施形態の製造方法のように、4−O−メチルグルクロン酸−α1,2−キシロトリオースのような特異な構造を有するキシロオリゴ糖を大量かつ安価に製造することが可能な技術は重要である。
【0032】
(3) 本実施形態のキシロオリゴ糖の製造方法では、分解工程を経て生成した複数種類のキシロオリゴ糖を分離する分離工程を備えているため、特定の構造を有する有用なキシロオリゴ糖を容易に単離することができる。特に、分離工程で陰イオン交換クロマトグラフィーを用いる場合には、4−O−メチルグルクロン酸−α1,2−キシロトリオースのような特異な構造を有するキシロオリゴ糖を極めて容易に単離することができて便利である。
【0033】
(4) 本実施形態のエキソ型キシラナーゼは、キシラン誘導体を複数のキシロオリゴ糖に分解する。例えば、アエロモナス・パンクタータME−1株由来のキシラナーゼXは、白樺由来のキシランをキシロビオース及び4−O−メチルグルクロン酸−α1,2−キシロトリオースの二つのキシロオリゴ糖に分解する。この場合、本実施形態では、分解工程によって生成された前記複数のキシロオリゴ糖をイオン交換クロマトグラフィーで分離する分離工程をさらに実施することにより、キシロビオース及び4−O−メチルグルクロン酸−α1,2−キシロトリオースにそれぞれ区分することが可能である。これにより、キシロビオース及び4−O−メチルグルクロン酸−α1,2−キシロトリオースをそれぞれ高純度で大量に製造することが可能となる。ちなみに、本実施形態のキシロオリゴ糖の製造方法は、キシロビオースのみを製造する場合に適用することが可能であるうえ、4−O−メチルグルクロン酸−α1,2−キシロトリオースのみを製造する場合に適用することも可能である。
【実施例1】
【0034】
<XynXの粗酵素溶液の調製>
非特許文献1の方法にて、配列番号1で表される塩基配列からなるxynX遺伝子がインサートされてなるプラスミドpXOL1(3.7kbp)を作製した後、大腸菌組換え体JM109/pXOL1を非特許文献1の方法で作製した。なお、pXOL1は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに受領番号:NITE AP−126にて寄託されている。次に、該組換え体を非特許文献1の方法で前培養(100μg/mlアンピシリン含有LB培地5ml、37℃、12時間、120rpmの振盪培養)及び本培養(100μg/mlアンピシリン、0.1mMのIPTG含有LB培地100ml、37℃、5時間、120rpmの振盪培養)した。続いて、本培養後の培養液を6000×gで10分間遠心することにより、組換え体を集菌した。集菌後の組換え体を水100mlで洗浄した後、フレンチプレス(大岳製作所)で超音波破砕することにより、XynXの粗酵素溶液を得た。
【0035】
<バーチウッドキシランの加水分解産物の検討1>
XynXの粗酵素溶液によるキシランの加水分解産物を調べるために、0.5%バーチウッドキシラン(SIGMA)及び0.02%ナトリウムアザイド含有50mMリン酸緩衝液(pH6.8)に、XynXの粗酵素溶液を等量加えて37℃で12時間又は24時間反応させた。反応終了後、100℃で5分間煮沸して酵素を失活させた後、未分解キシランなどの不要物を取り除くため、12000rpmで5分間遠心した。遠心後の上清を回収し、遠心エバポレーターで凍結乾燥させた。乾燥後の加水分解産物をメタノール40μlに溶解させた後、再度不要物を取り除くために12000rpmで5分間遠心した。遠心後の各上清を用いて薄層クロマトグラフィー(TLC)を行った。
【0036】
TLCの実施は、まず、TLCプレート(TLC aluminium sheets Silica gel 60F(MERCK))に上清10μlずつをスポットした後、クロロホルム:酢酸:水=5:7:1の展開溶媒1にて展開させた。展開後のTLCプレートを十分に乾燥させた後、硫酸:メタノール=1:1の発色試薬1をTLCプレートに噴霧し、ホットプレート上で加熱することにより、展開後の加水分解産物を可視化させた。結果を図3(a)に示す。
【0037】
図3(a)のレーン1にはX1、X2、X3及びX4を混合したスタンダードキシロオリゴ糖マーカーが展開され、レーン2には12時間反応させたときの加水分解産物が展開され、レーン3には24時間反応させたときの加水分解産物が展開されている。図3(a)より、XynXは、バーチウッドキシランからキシロビオース(以下、プロダクトAと記載する)及びキシロテトラオース(以下、プロダクトBと記載する)のみを特異的に生成させることが確認された。通常、エンド型のキシラナーゼは、キシロビオース、キシロトリオース、キシロテトラオースのような重合度の連続したキシロオリゴ糖を生成させるため、XynXのキシラナーゼ活性は非常にユニークである。
【実施例2】
【0038】
<XynX分離標品(精製標品)の調製>
上記プラスミドpXOL1にインサートされているxynX遺伝子をXbaI及びHindIIIにて切り出した後、pTTQ18ベクターにサブクローニングすることにより、tacプロモーター及びlacIqの制御下で発現するプラスミドpXLIQ1(5.6kbp)を構築した。なお、pXLIQ1は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに受領番号:NITE AP−128にて寄託されている。プラスミドpXLIQ1を大腸菌BL21(DE3)に導入して形質転換することにより、大腸菌組換え体BL21(DE3)/pXLIQ1を作製した(非特許文献3参照)。
【0039】
次に、該組換え体を非特許文献3の方法にて前培養(100μg/mlアンピシリン含有LB培地5ml、37℃、12時間、120rpmの振盪培養)及び本培養(100μg/mlアンピシリン、0.1mMのIPTG含有LB培地100ml、37℃、120rpmの振盪培養)した。続いて、非特許文献2に記載の浸透圧ショック法を用いて、本培養にて得られた組換え体のペリプラズムからXynXタンパク質を含む粗酵素溶液を回収した。
【0040】
得られた粗酵素溶液を非特許文献3の方法(Hi TrapQ陰イオン交換クロマトグラフィー→(HiPrep Sephacryl HRゲルろ過→POROS HQ陰イオン交換高速液体クロマトグラフィー)により分離した。分離時のキシラナーゼ活性はジニトロサリチル酸(DNS)法にて還元糖を生成させることにより測定し、タンパク質の存在はSDS−PAGEにて確認した。分離条件を以下に示す。
【0041】
[Hi Trap Q]
カラム ;Q Sepharose Fast Flow陰イオン交換カラム(Amersham Biosciences)
溶出液 ;緩衝液A=20mMトリス塩酸(pH8.0)
緩衝液B=20mMトリス塩酸(pH8.0)/1M NaCl
グラジエント;緩衝液B濃度 0%→100%(0分→30分)
流速 ;5ml/分
検出波長 ;280nm
カラム温度 ;4℃
分画容量 ;5ml
[Hi Prep26/60]
カラム ;Hi Prep26/60ゲル濾過カラム(Amersham Biosciences)
溶出液 ;20mMトリス塩酸(pH8.0)
流速 ;1ml/分
検出波長 ;280nm
カラム温度 ;4℃
分画容量 ;5ml
[POROS HQ]
カラム ;POROS HQ陰イオン交換カラム(PerSeptive Biosystems)
溶出液 ;緩衝液a=20mMトリス塩酸(pH8.0)
緩衝液b=20mMトリス塩酸(pH8.0)/1M NaCl
グラジエント;緩衝液b濃度 0% ( 0分→ 5分)
0%→ 30%( 5分→15分)
30%→100%(15分→20分)
流速 ;4ml/分
検出波長 ;280nm
カラム温度 ;室温
分画容量 ;1ml
<XynX分離標品のキャラクタライゼーション>
分離後の活性画分を20mMトリス塩酸(pH8.0)に対して透析した。透析後のXynX(以下、XynX分離標品と記載する)は、分子量38kDaの単量体として存在し、50℃の至適温度及び8.0の至適pHを有し、かつ40℃以下の温度で安定なタンパク質であった。また、基質特異性は、バーチウッドキシランに対するキシラナーゼ活性を100%とすると、オートスペルトキシランに対して195%、カルボキシメチルセルロース及び可溶性デンプンに対してはいずれも0%のキシラナーゼ活性を有していた。
【0042】
XynX分離標品を用いて、プロテインシーケンサーによるアミノ酸配列の決定を行ったところ、配列番号2における2〜333番目のアミノ酸配列からなるタンパク質であることが確認された。また、XynXは、図1に示すように、既知構造のファミリー10エンド型キシラナーゼとの相同性が高く、かつ活性部位のアミノ酸が高い割合で保存されていたことも判明した。
【0043】
次に、得られたアミノ酸配列を利用してホモロジーモデリング法で立体構造予測を行ったところ、(β/α)バレル構造を形成し得ることが示唆されるとともに、通常より長いアミノ酸残基よりなるループ7の存在が示唆された。続いて、X線結晶回析にて立体構造解析を行ったところ、図2に模式的に示す立体構造を形成していることが判明した。なお、図2に示す符号20は、XynXを示す。このXynXにおいて、濃く色付けした螺旋状リボン21はαへリックス、薄く色付けした帯状リボン22はβシート、ハッチングで示す帯状領域はループ7を表している。
【0044】
次に、XynXの活性中心の求核触媒残基及び酸塩基触媒残基を決定するために、E133A及びE240A(配列番号2で表されるアミノ酸配列においては、134番目及び241番目のEをそれぞれAに置換したもの)の2種類のアミノ酸置換変異体についてアザイド試験を行った。その結果、E240が求核触媒残基、E133が酸塩基触媒残基であることが判明した(図2参照)。
【0045】
<バーチウッドキシランの加水分解産物の検討2>
XynX分離標品によるキシランの加水分解産物を詳細に調べた。まず、0.5%バーチウッドキシラン含有20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)に、XynX分離標品を10μg/mlとなるように加え、37℃で12時間反応させた。反応終了後、100℃で5分間煮沸して酵素を失活させた後、未分解キシランなどの不要物を取り除くため、12000rpmで5分間遠心した。遠心後の上清を回収し、遠心エバポレーターで凍結乾燥させた。乾燥後の加水分解産物をメタノールに溶解させた後、再度不要物を取り除くために12000rpmで5分間遠心した。遠心後の上清を回収し、遠心エバポレーターで凍結乾燥させた。
【0046】
次に、凍結乾燥後の加水分解産物の一部を用いて、糖の酸加水分解を行った。まず、加水分解産物5mgに0.5M硫酸500mlを加え、105℃で2時間インキュベートし、水酸化ナトリウムで中和した後、凍結乾燥を行った。乾燥後の酸加水分解物をメタノールに溶解させた。
【0047】
上記凍結乾燥後の加水分解産物の残りと、前記酸加水分解物とを用いて、TLCを行った。TLCの実施は、まず、4枚のTLCプレートに加水分解産物及び酸加水分解物の各サンプル液10μlずつをそれぞれスポットした。2枚のTLCプレートは上記展開溶媒1にて展開し、残り2枚のTLCプレートは1−ブタノール:酢酸:水=2:1:1の展開溶媒2にて展開した。展開後の各TLCプレートを十分に乾燥させた後、展開溶媒1で展開したTLCプレートの1枚、及び展開溶媒2で展開したTLCプレートの1枚に対してそれぞれ発色試薬1を噴霧し、ホットプレート上で加熱した。また、残りのTLCプレートに対して、ジフェニルアミン−アニリン試薬(ジフェニルアミン1g、アニリン1ml、アセトン50ml及び80%リン酸)からなる発色試薬2を噴霧し、ホットプレート上で加熱した。結果を図4及び図5に示す。
【0048】
図4(a)、(b)は、いずれもクロロホルム系の展開溶媒1で展開されたTLCプレートであって、図4(a)は硫酸/メタノールの発色試薬1で可視化させたものであり、図4(b)はジフェニルアミン−アニリン試薬からなる発色試薬2で可視化させたものである。図4(a)、(b)のレーン1には、スタンダードキシロオリゴ糖マーカーが展開され、レーン2には加水分解産物が展開され、レーン3には酸加水分解物が展開され、レーン4〜7にはグルクロン酸、グルコース、フルクトース及びアラビノースがそれぞれ展開されている。図5(a)、(b)は、いずれもブタノール系の展開溶媒2で展開されたTLCプレートであって、図5(a)は発色試薬1で可視化させたものであり、図5(b)は発色試薬2で可視化させたものである。図5(a)、(b)の各レーン1に展開されているサンプルは、図4の場合と同じである。
【0049】
その結果、図4(a)のレーン2においてX4とほぼ同じ位置に検出されたスポット(プロダクトB)は、図5(a)のレーン2ではマーカーのX4と異なる位置に検出された。さらに、図4(a)及び図5(a)のレーン3には、いずれもX1以外にX2の位置にもスポットが検出された。バーチウッドキシランからX2及びX4のみを特異的に生成させる場合、それらの加水分解産物を酸加水分解すれば、X1しか検出されないはずである。よって、XynXによりバーチウッドキシランを加水分解したときの加水分解産物、即ちプロダクトA及びBは、X2及びX4ではないことが示唆された。
【0050】
一方、TLCプレートをジフェニルアミン−アニリン試薬からなる発色試薬2で可視化させる場合、アルドヘキソースを青紫色、ペントースを褐紫色、ケトヘキソースを黄赤色、ウロン酸を紫褐色に発色させることが知られている。図4(b)及び図5(b)のレーン2に示すX2のスポット(プロダクトA)及びX4付近のスポット(プロダクトB)は、いずれも異なる色に発色されており、プロダクトAはキシロースの褐紫色に似ており、プロダクトBはグルクロン酸の紫褐色に似ていた。また、図4(b)及び図5(b)のレーン3(酸加水分解物)に示すX1のスポット及びX2付近のスポットは、いずれも異なる色に発色されており、X1のスポットはキシロースの褐紫色に似ており、X2付近のスポットはグルクロン酸の紫褐色に似ていた。よって、図4(b)及び図5(b)のレーン3に示すX2付近のスポットは、不完全酸加水分解物ではなく、ウロン酸物質であることが示唆された。従って、XynXによりバーチウッドキシランを加水分解すると、X2からなるプロダクトAと、ウロン酸を含む物質からなるプロダクトBとを特異的に生成させることが強く示唆される。
【0051】
バーチウッドキシランは、β1,4結合したキシロース主鎖(Xn)と、該主鎖を構成するキシロース残基に対してα1,2結合した4−O−メチル−D−グルクロン酸からなる側鎖とを備えたキシラン誘導体を高い割合で含有していることが知られている。さらに、前記側鎖は、主鎖を構成するキシロース残基10個に対して1個程度の割合でランダムに分布しているものと考えられている。このようなキシラン誘導体をXynXが加水分解する場合を仮定すると、図4及び図5の各レーン2のX4付近に検出されたスポット(プロダクトB)は、Xnに4−O−メチル−D−グルクロン酸残基を結合させた構造を有していると推定される。
【実施例3】
【0052】
<プロダクトA,Bの単離>
実施例1で調製したXynXの粗酵素溶液100mlに、1.0%バーチウッドキシラン溶液100mlを加え、37℃で12時間反応させた後、プロダクトA,Bを含む加水分解産物をメタノール抽出した。次に、加水分解産物を含むメタノール抽出液に陰イオン交換樹脂Dowex(Cl)(ムロマチテクノス)を加えて一晩攪拌した後、1.5cm×15cmのエコノカラム(Bio−Rad)に充填し、300mlの水でカラム内を洗浄することにより、非吸着画分を溶出させた。次に、該カラム内に0.5M塩化ナトリウム100mlを流すことにより、吸着画分を溶出させた。非吸着画分はエバポレートした後に次の試験に供した。吸着画分は、エバポレートした後にゲル濾過樹脂Sephadex G−10(Amersham Biosciences)を充填したエコノカラム内で脱塩処理し、溶媒を水に置換した後に次の試験に供した。
【0053】
最終的に、非吸着画分25mgと、吸着画分12mgとが得られた。また、陰イオン交換樹脂に供される前の加水分解産物、非吸着画分及び吸着画分をTLCプレートにスポットし、上記実施例1と同じ条件でTLCを行った。結果を図3(b)に示す。図3(b)のレーン1にはスタンダードキシロオリゴ糖マーカーが展開され、レーン2には加水分解産物が展開され、レーン3には非吸着画分が展開され、レーン4には吸着画分が展開されている。同図に示すように、陰イオン交換樹脂を用いた分離方法により、プロダクトA,Bを単離することができた。
【実施例4】
【0054】
<プロダクトA,Bの同定>
非吸着画分(プロダクトA)及び吸着画分(プロダクトB)について、それぞれH−NMRを測定した。その結果、プロダクトAはX2であると同定された。一方、プロダクトBは、複雑な化合物であるうえ、測定時に多くのノイズが検出されたために同定に至るような解析を行うことができなかった。
【0055】
次に、プロダクトBについて、MALDI−TOF MSによる質量分析を行った。その結果、プロダクトBの分子量は約627であることが判明した。この分子量は、X3に4−O−メチル−D−グルクロン酸及びナトリウム塩を加えた分子量と一致した。よって、プロダクトBは、4−O−メチル−D−グルクロニルキシロトリオース(アルドヘキサオウロン酸)であることが判明した。
【0056】
次に、4−O−メチル−D−グルクロン酸残基がX3のどの位置に結合しているかを調べるために、プロダクトBについてメチル化分析を行った。メチル化分析では、まず、プロダクトBをメチル化した後、酸加水分解し、続いてアセチル化した後、ガスクロマトグラフィー(GC)に供した。その結果、4−O−メチル−D−グルクロン酸残基の結合位置において検出予測されるアルジトールアセテートとGCとの結果は、非還元末端側の位置に4−O−メチル−D−グルクロン酸残基が結合している場合のパターンと一致した。
【0057】
これを確認するために、プロダクトBを還元化した後、メチル化、酸加水分解及びアセチル化を行った後にGCに供したところ、検出されたアルジトールアセテートは、4−O−メチル−D−グルクロニルキシロトリオースを還元した場合に推測されるアルジトールアセテートと一致した。さらに、プロダクトBを還元化した後、メチル化、酸加水分解及びアセチル化を行った後にGC−MS分析にて解析したところ、4−O−メチル−D−グルクロニルキシロトリオースを還元した場合に推測されるアルジトールアセテートと一致した。従って、プロダクトBは、X3の非還元末端側のキシロピラノースの2位に4−O−メチル−D−グルクロン酸残基が結合した構造、即ち上記化2に示す構造を有していると結論づけられた。そして、本実施例のキシロオリゴ糖の製造方法によれば、キシロビオース及び4−O−メチルグルクロン酸−α1,2−キシロトリオースを高純度で大量に製造可能であることが示された。
【実施例5】
【0058】
<オートスペルトキシランの加水分解>
実施例2で調製したXynX分離標品を10μg/mlの濃度で含有する20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)に、基質としての0.5%オートスペルトキシラン溶液500μlを加え、37℃で6時間又は12時間反応させることにより加水分解産物を得た。また、得られた各加水分解産物を上記実施例2と同様に酸加水分解することにより、酸加水分解物を得た。これらの加水分解産物及び酸加水分解物について、上記実施例2と同じ条件でTLCを行った。
【0059】
その結果、6時間及び12時間反応させたときの加水分解産物では、互いにほぼ同じ位置、大きさ及び濃さのスポットが確認された。ちなみに、確認されたスポットには、X1,X2,X3,X4,X5付近に位置するものが含まれていた。即ち、これらオートスペルトキシラン(アラビノグルクロノキシラン)を基質として生成されたスポットのパターンは、上記各実施例のバーチウッドキシランを基質とした場合のパターンとは異なっていた。従って、XynXは、キシラン誘導体の側鎖の構造に応じて、異なるキシロオリゴ糖を生成させるものであることが確認された。
【実施例6】
【0060】
<ループ7のキシラナーゼ活性への影響>
配列番号1で表される塩基配列の919〜975番目のヌクレオチドを取り除いたxynXのループ7欠失遺伝子(mL7)を作製した。次に、mL7をpT7ベクターにTAクローニングした後、pTTQ18ベクターにサブクローニングすることにより、tacプロモーター及びlacIqの制御下で発現するプラスミドpXLIQ1(mL7)(5.6kbp)を構築した。プラスミドpXLIQ1(mL7)を大腸菌BL21(DE3)に導入して形質転換することにより、大腸菌組換え体BL21(DE3)/pXLIQ1(mL7)を作製した後、実施例1と同様に前培養及び本培養した。続いて、本培養後の培養液を実施例1と同様に超音波破砕することにより、XynXのループ7欠失タンパク質(XynX mL7)を含む粗酵素溶液を得た。
【0061】
得られた粗酵素溶液を、反応温度を40℃、反応時間を2時間とした以外は、実施例1と同様にバーチウッドキシランと反応させた後、TLCにて分析した。なお、実施例1で得られた野生型のXynXの粗酵素溶液についても同様に反応させた後、TLCにて分析した。その結果、野生型のXynXでは、TLCプレート上でX2(プロダクトA)及び4−O−メチルグルクロニルキシロトリオース(プロダクトB)が明確に検出されたのに対し、XynX mL7では、TLCプレート上でキシロオリゴ糖が全く検出されなかった。
【0062】
よって、XynXによるユニークなキシラナーゼ活性(バーチウッドキシランからプロダクトA,Bを生成させる活性)の発現には、13以上のアミノ酸残基よりなるループ7の存在が重要であることが予想され得る。さらに、立体構造より推測すると、XynXに見られる通常より長いループ7は、キシラン誘導体の主鎖の末端を覆い被せるように保持することで、該キシラン誘導体をオリゴ糖単位で端から順番に切り出すエキソ型の酵素活性に直接的に寄与していることが示唆され得る。従って、グリコシル加水分解酵素のファミリー10に属し、かつ13以上のアミノ酸残基よりなるループ7を有する(β/α)バレル構造を形成しているエキソ型キシラナーゼを用いて、キシランを主鎖とする多糖を分解することにより、特定の構造を有するキシロオリゴ糖の製造が可能であることが強く示唆され得る。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】複数のキシラナーゼのアミノ酸配列を比較した図。
【図2】キシラナーゼXの立体構造を模式的に示す図。
【図3】(a)は実施例1においてバーチウッドキシランをXynXで加水分解した加水分解産物を展開したTLCプレートを示し、(b)は実施例3において加水分解産物をイオン交換樹脂で分離した後に展開したTLCプレートを示す。
【図4】実施例2において、加水分解産物をクロロホルム系の展開溶媒で展開したTLCプレートであって、(a)は硫酸/メタノールで可視化させたものであり、(b)はジフェニルアミン−アニリン試薬で可視化させたものである。
【図5】実施例2において、加水分解産物をブタノール系の展開溶媒で展開したTLCプレートであって、(a)は硫酸/メタノールで可視化させたものであり、(b)はジフェニルアミン−アニリン試薬で可視化させたものである。
【符号の説明】
【0064】
20…キシラナーゼX。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシロオリゴ糖を製造する方法であって、
該方法は、キシラン誘導体をエキソ型キシラナーゼで分解する分解工程を備え、
前記キシラン誘導体は、β1,4−キシランよりなる主鎖に側鎖が結合してなる構造を有することを特徴とするキシロオリゴ糖の製造方法。
【請求項2】
前記エキソ型キシラナーゼは、グリコシル加水分解酵素のファミリー10に属し、かつN末端から7番目のβシート−αへリックス間に13以上のアミノ酸残基よりなるループ構造を有する(β/α)バレル構造を形成していることを特徴とする請求項1に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
【請求項3】
前記エキソ型キシラナーゼは、メチルグルクロノキシランを基質として反応させると、キシロビオース及び4−O−メチルグルクロン酸−α1,2−キシロトリオースを生成させる酵素活性を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
【請求項4】
前記エキソ型キシラナーゼは、アエロモナス・パンクタータME−1株(特許微生物寄託センター受領番号:NITE AP−127)由来のキシラナーゼXであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
【請求項5】
前記キシラン誘導体は、メチルグルクロノキシランである請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
【請求項6】
前記キシラン誘導体は、4−O−メチルグルクロン酸を前記側鎖として備える請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。
【請求項7】
当該製造方法はさらに、前記分解工程を経て生成した前記キシロオリゴ糖を分離する工程を備えることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のキシロオリゴ糖の製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−49914(P2007−49914A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236157(P2005−236157)
【出願日】平成17年8月16日(2005.8.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年2月17日から2月18日 国立大学法人岐阜大学主催の「平成16年度 修士論文発表会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年3月5日 社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会 2005年度(平成17年度)大会講演要旨集」に発表
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【Fターム(参考)】