説明

キャビネット

【課題】 本発明の課題は、車椅子使用者が旋回できるスペースを確保しながら、大掛かりな設置工事を必要としないキャビネットを提供する。
【解決手段】 本発明では、トイレルームの壁面に設置されるトイレルーム用キャビネットにおいて、前記キャビネットの後面は壁面に固定されており、前記キャビネットの底面の任意の範囲を移動可能な支持脚を垂下して設けることを特徴とするトイレルーム用キャビネットが提供される

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁に取り付けられるキャビネットに係り、特に車椅子使用者が使用する際に好適なキャビネットに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来、車椅子使用者が使用する洗面器キャビネットの例を図7に示す。多目的トイレにおいては、車椅子使用者7の導線の自由度を高めるには極力広く空間を確保したいが、全体の建築計画の中で余裕を生み出すことは非常に困難であった。従って、車椅子のフットレスト部6が下に入り込める壁掛洗面器9を設置されるのが一般的であり、その空間を利用して回転できる最小空間計画が行われてきた。
【0003】
このような場合、壁掛洗面器9は壁への設置面の高さが小さく、固定用金具を露出させないために、通常上側はバックハンガー10などの引っ掛け部材で保持し、下端をビスで躯体に固定する構造が取られている、一方、手洗いボール面は前方にせり出しており、その先端部分に荷重が掛ると、かなり大きなトルクとして、バックハンガー10固定部に掛ることになる。車椅子使用者が、壁掛洗面器9の先端部分で体を支えて立ち上がるような動作において、壁掛洗面器9の固定強度が弱いと破損に繋がるため、通常建築設計において、壁裏の壁掛洗面器9固定部分に高強度の鉄骨部材11をスラブ間に配置することを行っている。
ただし、既存の建築物に多目的トイレを設置する場合、後から補強用の鉄骨を入れることは困難な作業であり、既存建築物そのものを改修する大掛かりな工事となってしまい、大幅なコストや工期が掛かるという課題が存在していた。
【0004】
図8に示すように、カウンター上に設置した洗面器1を支えるためにキャビネット2を設けることも行われている。このような構造では、洗面器1の固定強度を床のキャビネット2で負担することができるため、壁裏に強固な補強材を設ける必要がなくなる。
その一方で、車椅子フットレスト部6がキャビネット2に当るところまでしか接近できず、正面アプローチでの使用勝手が悪化、斜めに寄せるようなアプローチを強いることになる。
【0005】
また、図9に示すように、車椅子5などに座ったままでも利用しやすいキャビネット2として、床面から一定距離離間させたキャビネットが知られている。(例えば、特許文献1参照。)。
このような場合もキャビネット2を壁面に固定する必要があり、壁強度の必要性が施工工事の制約となっていた。
【0006】
このような課題を解決するために、壁面に固定されたキャビネットに支持脚を設けて、壁面への負荷を低減する技術が提案されている。(例えば、特許文献2参照)
このようなキャビネットをトイレルーム内に設置しようとした場合、支持脚が車椅子と干渉し、車椅子使用者の使用勝手を悪化させる恐れがある。また、トイレルームはその寸法、構成がさまざまであり、車椅子使用者と干渉しない支持脚設置位置を一義的に決定することが不可能である、という課題が存在していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−87517号公報
【特許文献2】特開平08−228863号皇后
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、車椅子使用者が旋回できるスペースを確保しながら、大掛かりな設置工事を必要としないキャビネットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明によれば、トイレルームの壁面に設置されるトイレルーム用キャビネットにおいて、前記キャビネットの後面は壁面に固定されており、前記キャビネットの底面の任意の範囲を移動可能な支持脚を垂下して設けることを特徴とするトイレルーム用キャビネットが提供される。
これによれば、キャビネットの荷重を支持脚を通じて分散させることが可能となり、キャビネットを取り付ける壁面に要求される強度を減らすことが可能となると同時に、設置場所に応じて適宜支持脚の位置を変更可能なため、車椅子使用者が旋回できるスペースを確実に確保することが可能となる。
【0010】
また、請求項2記載の発明によれば、前記キャビネットの底面には溝が設けられており、前記支持脚は前記溝と嵌合していることを特徴とする請求項1に記載のトイレルーム用キャビネットが提供される。
これによれば、支持脚はキャビネット底面に設けられた溝と嵌合することにより、溝の中を自由に移動することが可能となる。
【0011】
また、請求項3記載の発明によれば、前記支持脚の移動を操作するリモートコントローラーを備えていることを特徴とする請求項1乃至2の何れか一項に記載のキャビネットが提供される。
これによれば、トイレルーム内の床仕上面と接触している支持脚に直接触れることなく、好みの位置まで支持脚を移動させることが可能となる。
【0012】
また、請求項4記載の発明によれば、使用者、あるいは車椅子の接近を感知するセンサを備え、前記センサが使用者、あるいは車椅子の接近を感知出来ない場合、一定時間経過後に支持脚を所定の位置に移動させることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のキャビネットが提供される。
これによれば、非使用時に支持脚をもっとも荷重が分散される位置に移動させることが可能となり、壁面に掛かる荷重を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、車椅子使用者が旋回できるスペースを確保しながら、大掛かりな設置工事を必要としないキャビネットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明におけるキャビネット2を設置したトイレルーム全体の側面図である。
【図2】本発明におけるキャビネット2の底面図である。
【図3】本発明におけるキャビネット2の加担近傍の側面図である。
【図4】本発明におけるキャビネット2を設置したトイレルーム全体の正面図である。
【図5】本発明におけるキャビネット2を設置したトイレルーム全体の上面図である。
【図6】本発明におけるキャビネット2の利用の様子を示した模式図である。
【図7】従来の手洗い器設置構造を示した模式図である。
【図8】従来のキャビネット設置構造を示した模式図である。
【図9】従来の壁掛け式キャビネット設置構造を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施例について図を用いて説明する。
図1は本発明におけるキャビネット2を含めた多目的トイレルーム全体の側面概略図である。
キャビネット2は床仕上面から離間し、図示していないトイレルームの壁面に固定されている。このとき、キャビネット2の上部には洗面器1が載置されている。また、キャビネット2と床仕上面の間には支持脚4が複数配置されている。この支持脚4により、キャビネット2に掛かる荷重の一部が支持脚4を通じて床仕上面に掛かることとなり、壁面に要求される強度を軽減することが可能となる。
【0016】
図2に示すように、キャビネット2の下端外周フレームには支持脚4を保持するための溝12が設けられており、それに沿った範囲で支持脚4が移動可能に構成されている。
このとき、溝12はトイレルームの壁面と並行となるように、キャビネット2の前端部に設けられているが、キャビネット2に掛かる荷重を適切に分散できる位置であれば、垂直方向や斜め方向に設けられていても問題ない。例えば、図2に示したキャビネット2では、コーナー部の支持脚4に限り、壁面と垂直方向で移動可能な溝を形成している。
【0017】
図3(a)にキャビネット2の下端付近側面図を示す。図3(b)は図3(a)におけるA付近の拡大図である。
支持脚4の上端には車輪13が設けられており、この車輪13が溝12に嵌合することによって、支持脚4がキャビネット2と嵌合し、移動できる構造となっている。
【0018】
支持脚4の設置位置を確認したのち、図示していないレバーを操作することによってロック板15をキャビネット2の底面に当接させることにより、車輪13の回転が抑制されるとともに、キャビネット2に掛かる荷重を確実に支持脚4を通じて床仕上げ面に掛けることが可能となる。
【0019】
また、支持脚4を伸縮自在に形成し、支持脚4を収縮させることでキャビネット2と床仕上面の間を移動できるように構成してもよい。このとき、移動した後に支持脚4を伸長することにより、キャビネット2と床仕上面の間で固定される。
【0020】
このような構成とすることによって、キャビネット2を設置するトイレルームの間取りや設置する機器の構成に応じて、適宜支持脚4の設置位置を変更することが可能となる。これにより、車椅子使用者7が、洗面器1に正面アプローチでき、フットレスト6とキャビネット2との干渉を気にすることなく、回転できるため、省スペースで器具配置を可能とする。さらに、洗面器1の先端に荷重を掛けられても、キャビネット2下に設けられた幾つかの支持脚4によって荷重を保持することができるため、キャビネット2固定のために壁裏に強固な補強鉄骨11を配置する必要もなくなる。
【0021】
図4は図1のキャビネット2を正面からみた図である。
コーナー部の支持脚4は図2に示したようにトイレルームの壁面と垂直方向に移動可能となっている。これにより、キャビネット2のコーナー部近傍に洗面器1などを設置した場合でも、車椅子使用者7がキャビネットに接近できる位置に支持脚4を設置することが可能となる。
【0022】
図5は、多目的トイレルーム8に必要な器具を納めた状態で、車椅子が回転できる最小空間を示す。この図より、洗面器1下にフットレスト部6が入ることで空間の有効利用が可能であることが分かる。
【0023】
図6にコーナー部の支持脚4を壁側へ移動させて設置した状態を示す。。このように、フットレスト6がキャビネット2の下部に進入可能となることによって、従来の構造よりも車椅子使用者7がキャビネット2、洗面器1へ接近することが可能となり、使い勝手が向上する。
【0024】
また、使用者に応じて最適な位置に移動できるように、設置後も支持脚4を移動できるように構成してもよい。この場合、介助者などがロック機構を解除して車椅子使用者7に最適な位置に支持脚4を移動させることが可能となる。公共施設などの場合、様々な車椅子使用者7がトイレルームを使用することが考えられるが、このような構成とすることで様々な車椅子使用者7がキャビネット2を不自由なく使用することが可能となる。
【0025】
また、図1に示すように、支持脚4を移動させるリモートコントローラ14を備えていてもよい。これによれば、トイレルーム内の床仕上面と接触している支持脚4に直接触れることなく、支持脚4を移動させることが可能となり、使用者の心理的抵抗を軽減することができる。また、衛生面からみても好ましい。さらに、車椅子使用者であっても、気軽に支持脚4を移動させることが可能となる。
なお、このリモートコントローラ14は温水洗浄便座やトイレ本体などのリモートコントローラと兼用することができる。これにより、使用者はひとつのリモートコントローラによって、トイレ室内のさまざまな機器を使用することが可能となる。
【0026】
また、設置後に支持脚4を移動できるように構成する場合、トイレルーム内に人体検知センサを設け、一定時間人体を検知できなかった場合には、支持脚4を指定の位置に移動させる構造とすることが好ましい。これにより、もっとも壁面への負荷が小さい位置へ支持脚4を移動させることで、非使用時に壁面へ掛かる負荷を低減することが可能となる。
【0027】
本発明は上記の実施例に限られるものではなく、発明を逸脱しない範囲において適宜自由に設計することが可能である。例えば、支持脚4は複数設けることが好ましいが、その設置本数は適宜設計することができる。また、そのうちの一部のみを移動可能と設計してもよい。
【符号の説明】
【0028】
1…洗面器
2…キャビネット
3…カウンター
4…支持脚
5…車椅子
6…フットレスト
7…車椅子使用者
8…多目的トイレルーム
9…壁掛洗面器
10…バックハンガー
11…補強フレーム
12…溝
13…車輪
14…リモートコントローラ
15…ロック板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トイレルームの壁面に設置されるトイレルーム用キャビネットにおいて、
前記キャビネットの後面は壁面に固定されており、
前記キャビネットの底面の任意の範囲を移動可能な支持脚を垂下して設けることを特徴とするトイレルーム用キャビネット。
【請求項2】
前記キャビネットの底面には溝が設けられており、
前記支持脚は前記溝と嵌合していることを特徴とする請求項1に記載のトイレルーム用キャビネット
【請求項3】
前記支持脚の移動を操作するリモートコントローラーを備えていることを特徴とする請求項1乃至2の何れか一項に記載のキャビネット。
【請求項4】
使用者、あるいは車椅子の接近を感知するセンサを備え、前記センサが使用者、あるいは車椅子の接近を感知出来ない場合、一定時間経過後に支持脚を所定の位置に移動させることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のキャビネット

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−72447(P2011−72447A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225696(P2009−225696)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】